著者
渥美 郁男 矢崎 純子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.32, pp.5, 2010

天然のピンクガイを母貝とするコンク・パールは通常の真珠層を持つ真珠と違い交差板構造を持つことが知られている。コンク・パールの生産量が少なく珍重されているためかピンクガイ(コンク・パールの母貝)貝殻を研磨して天然のコンク・パールのような外観に仕上げたフェイクと呼ばれる摸造真珠も存在している。今回は拡大検査を駆使してコンク・パールやピンクガイの表面観察から天然のコンク・パールと摸造真珠との相違点を考察した。そして更にピンクガイを実際に切断し貝殻部位の違いによってどのような模造真珠が製造できるか検証した。<BR>また2009年11月に「コンク・パールの養殖に成功」の報告もあり、軟X線透過検査がコンク・パールの検査に重要な役割を持つようになった。今回はその検査に際し考慮すべき点も指摘し加えて発表する。
著者
林 政彦 安藤 康行 安井 万奈 山崎 淳司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

ブルー・オパールは大変綺麗な色調であり,人気のある宝石の一つである。その中に変色するものがあったので、その原因について報告する。<br>この変色は、標本ケースに入れた状態で生じており、ケース内部が青色になってしまっていることから、オパールから染み出てきたことによることは明らかである。そこで、変色した標本について、X線粉末回析実験とエルギー分散型EPMA により化学組成の分析を試みたので、それらの結果を報告する。<br>(1)X線粉末回折実験<br>装 置<br>・リガク製X線ディフラクトメータ RINT ULTIMA3<br>条 件<br>・X線源:Cu Kα<br>・電圧/電流:40kV / 20mA<br>結 果<br>非晶質のシリカの回折パターンを示す。いわゆるOpal-CTである.<br>(2)エルギー分散型EPMA<br>装 置<br>・日本電子製JSM-6360 + OXFORD製INCA EDS<br>条 件<br>・加速電圧:15 kV<br>・測定範囲:20 mm<br>・積算時間:60 sec<br>結 果<br>銅と塩素が検出された.<br>以上の結果から,青緑色を呈する塩化銅(Ⅱ)のニ水和物によって着色されたオパールと思われる。 なお、無水の塩化銅(Ⅱ)は黄褐色である。<bR>流通しているブルー・オパールのネックレスで、身に着けている間に黄色に変色した報告もある。これは,塩化銅(Ⅱ)のニ水和物が脱水して無水になったためと考えられる。塩化銅が人為的に含浸させたものかどうかは不明であるが、流通しているブルー・オパールの取扱いには注意が必要である。
著者
シュワルツ ディートマー
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1, 2004

エメラルドはベリル族の一種で、主に豊富な元素であるシリコン(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)で構成されている。4番目の主要な構成元素ベリリウム(Be)は地球の地殻上部では希少であるため、ベリルはあまり一般的な鉱物ではない。<BR> ベリル族の中で最も価値が高いとされるエメラルドについていえば、生成の条件はかなり特殊である。エメラルドに明るい緑色をもたらしている元素(クロムCrとバナジウムV)は、地球の地殻上部ではなく上部マントルの岩石中に凝集されている。そのため、エメラルドに必要なこれらの元素を全て集めるためには、特別な地質学的及び地質化学的条件が必要となる。通常この条件はプレート・テクトニクスの作用を通して生じる。<BR> 必要な元素が一旦集まると、エメラルドは様々な地質学的環境下で結晶化することができるが、こうした環境は一般的に非常に不安定である。他のベリル(アクワマリンなど)が極度の不安定性無く継続して成長可能な比較的穏やかな環境下で発達するのに対し、エメラルドは急激な変化や力学的応力などに象徴されるような地質環境で形成される。エメラルドの結晶が一般的に小さく(ベリル族の他の変種に比べて)、そしてひび割れや固形の異種鉱物インクルージョンなどの内部欠陥を伴うのはそのためである。エメラルドの結晶は力学的耐久性が低く、河川の運搬による衝撃には耐えられない。したがって、エメラルドは第二次鉱床で発見されることはほとんど無く、経済性のあるエメラルド鉱床は全て第一次的な岩石中に見られる。<BR> エメラルドの鉱床には様々な起源のタイプがあるが、大きく分けて二つに分類される。(1)ペグマタイトに関連したエメラルドの結晶化と、(2)ペグマタイトに関係しないエメラルドの結晶化、である。ナイジェリア中央部のエメラルド/ベリルの形成にはペグマタイトが関係している。こうしたペグマタイトには片岩シームは見られず、エメラルドは花崗岩のがまやペグマタイトのがまの中から見つかる。ウラル山脈(及びアフリカやブラジルの一部の鉱床)では、片岩シームのあるペグマタイト(及びグライゼン)が見られ、エメラルドはペグマタイトや金雲母の片岩(特に接触部分)から見つかる。<BR> 二つ目のタイプのエメラルド鉱床は、変成岩質片岩(例えばオーストリアのHabachtalや、パキスタンのSwat渓谷、ブラジルのSanta Terezinha de Goias、アフガニスタンのPanjshir渓谷など)や、鉱脈や角礫岩を伴う黒色頁岩(コロンビア)に関係している。<BR> エメラルドの鉱床は五大陸にあることが知られており、中でも南アメリカは長年にわたり最も重要なエメラルドの産地とされている。エメラルドはほとんど全ての地質年代において生成されてきた。エメラルドの生成は大陸衝突時に最も頻繁となる。このとき大きな山脈や幅広い断層帯、局地的な変成作用の再現などが発生し、ひいては隆起や浸食につながる。こうした全ての出来事はエメラルド鉱床の形成に有利に働く。したがって、エメラルドは地球の地殻の最も古い宝石の一つとなりえるのである。エメラルドの最古の鉱床は南アフリカのトランスバールにある始生代の岩石にある(およそ30億年前)。地球で最も新しいエメラルド鉱床は、パキスタンで見つかっており、Swat渓谷(2300万年前)とKhaltaro(900万年前)である。<BR> 今回の講演では、世界中にある重要なエメラルドの鉱床における状況(経済基盤や、採掘状況、生産状況など)について詳細に見ていく。例えば、南アメリカ(コロンビアとブラジル)、アジア(ウラル山脈、パキスタン、アフガニスタン)、アフリカ(エジプト、ザンビア、ジンバブエ、マダガスカル)など。<BR> エメラルドの特定の鉱物学的宝石学的特性に関しては以下の点について論じる。<BR> (1)インクルージョンの特徴、<BR> (2)化学的な詳細情報、<BR> (3)吸収スペクトル、<BR> (4)光学的データ。<BR> こうした特性に基づいた、エメラルドの起源決定における目標、基準、限界についても取り扱う。
著者
江森 健太郎
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.27, pp.5, 2005

<br> 最近市場でペリステライト、ハイアロフェン等の長石が見かけられるようになった。それらの長石についての特徴と鑑別に際する注意点について、通常見られる長石類と比較しつつ述べる。<br> ペリステライトは約2~19mol%のアノーサイト成分を持つ低温型斜長石でありイリデッセンスを放つラブラドーライトと同じように100nmオーダーのラメラ構造を呈している鉱物である。ムーンストーンと非常によく似た外観を持ち、屈折率、比重だけでは区別することが難しい。また、ムーンストーンと類似した外観をもつラブラドーライトについても述べる。<br> ハイアロフェンはバリウム長石であるセルシアン(celsian;BaAl<sub>2</sub>Si<sub>2</sub>O<sub>8</sub>)と正長石(orthoclase;KAlSi<sub>3</sub>O<sub>8</sub>)の中間組成を持つ長石である。屈折率が斜長石系列の中間程度を示し、誤鑑別を生む原因となる。<br> これらの長石は赤外分光法(FT-IR)で簡易的に鑑別することが可能であるが、正確な鑑別には蛍光X線分析装置(EDS)を用いて組成を直接分析することが望ましい。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.41, pp.14, 2019

<p>ベトナムは地理的にアジアの宝石が豊な国々に囲まれているにもかかわらず、1980 年代まで商業的な宝石採掘は行われていなかった。1983 年にハノイから北東 150 km の Yen Bai 地区 Luc Yen で地質学者がルビーとスピネルを発見し、系統的な調査が開始された。そして、1987 年にベトナムの地質調査所が同地区にルビー鉱床を発見、1990 年にハノイ南西 300 km の Qui Chaw でも上質のルビーが発見され、話題となった。</p><p>ベトナム産ルビーは品質の良いものはミャンマー産に匹敵しており、正確な原産地鑑別は鑑別機関にとって重要な課題である。また他の色のサファイアは市場性が低く、その宝石学的特性はあまり知られていない。そこで今回は、これらのベトナム Luc Yen 産のルビー、サファイアを新たに入手し、調査を行ったので、その結果を報告する。</p><p>本研究には 2016 年~2017 年にかけてベトナム Luc Yen のマーケットで入手したコランダム 64 個(0.16 ~ 1.70 ct)を用いた。入手時には Luc Yen、An Phu、Chau Binh と区別されていたが、本研究では広義に Luc Yen と一括した。これらについて一般的な宝石鑑別手法に加え、FTIR、紫外可視分光光度計による分光検査、LA-ICP-MS による微量元素測定を行った。特に筆者らが 2015 年宝石学会(日本)で行った微量元素測定と三次元プロットの手法についてアップデートを試みた。</p><p>先行研究では、ベトナム産を含むマーブル起源のルビー(ベトナム、ミャンマー、タンザニア)の識別には Mg-V-Fe の三次元プロットが有効であるとしていたが、今回分析を行ったサンプルには、ミャンマー産のルビーとオーバーラップするサンプルが多く存在した。そのため本研究においては新たに V-Cr-Fe の三次元プロットやオーバーラップする部分に対するロジスティック回帰分析を駆使することでミャンマー産ルビーとのオーバーラップを解消し、原産地鑑別の精度を向上させることができた。また、ブルー系のサファイアについても、V-Fe-Ga の三次元プロットを新たに使用することでベトナム Luc Yen 産のサファイアを他産地と明確に分離することができ、同様に産地鑑別の精度上昇に寄与できることがわかった。</p>
著者
小川 日出丸
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.40, pp.14, 2018

<p>宝石質ブルーサファイアの産地はいくつかあるが、もっとも重要な産地のひとつとしてインドシナ地域がある。</p><p>タイ、カンボジアそしてベトナムでは 12~6Ma と 3~0.5Ma をピークに玄武岩活動が活発化したとされている。前期には多量のソレアイト玄武岩の噴出が広域でおこり、溶岩台地が形成された。後期ではアルカリ玄武岩の噴出が限定的小規模な地域でみられた。重要なことに、このアルカリ玄武岩によってルビーサファイアが地表に運ばれたことである。</p><p>その後、長年にわたって玄武岩の風化・漂流作用により、山地、平野部や河川に玄武岩に包まれていたルビーサファイアが残留・漂砂・体積されていった。現在、インドシナ各地にルビーサファイアの宝石鉱床の存在が報告されている。</p><p>カンボジアではルビーサファイアの宝石産地として首都プノンペン西方のチャムノップ、北方のパムテメイ、プノンチョンなどがあるが、最も著名な産地としてパイリンがあげられる。</p><p>パイリンは、プノンペンの北西約 400kmほどの距離にあるタイ国境の地域である。街中心からタイ国境までは 10kmあまりで、国境地帯は山地地帯となっている。</p><p>20 世紀末の内戦時は、宝石という財源をおさえるため、ポルポト派が最後まで存在していた地域のひとつである。そして国境をまたいで、タイの宝石産地であるチャンタブリ~トラートに隣接している。パイリンでは宝石の採掘場として以下の形態がみられた。</p><p>①国境地帯の山地</p><p>②火山岩が露頭する独立丘陵</p><p>③平野部の田園地帯</p><p>④南部の山地より流れ出る大小の河川</p><p>一部の鉱区では動力機器を使用した採掘も存在するが、多くはスコップや棒を使用した人力に頼った小規模なものが多い。手工業採掘は深度5m以浅の採掘のみ許可という規則があるため、深い縦穴は見られなかった。</p><p>パイリン産ブルーサファイアの濃色石には通常、加熱処理による色の改善(明るい色調へ)がおこなわれている。そこで今回、現地で入手した試料に加熱処理を施して色の変化と、紫外可視、赤外部の分光スペクトルの変化について観察した。</p><p>青色は Fe<sup>2+</sup>-Ti<sup>4+</sup>によるが、パイリン産は Fe-rich のため Fe<sup>3+</sup>、 Fe<sup>2+</sup>-Fe<sup>3+</sup>、 Fe<sup>3+</sup>-Fe<sup>3+</sup>による吸収が大きく、これらが暗色の原因といえる。また通常光と異常光方向の色調の差が大きいのが特徴である。加熱処理による淡色化に伴い、透過率や吸収ピークに変化がみられた。赤外領域では、 OH 吸収がほぼ消失した。</p><p>それらの結果と、パイリンの採掘状況について報告する。</p>
著者
山崎 淳司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1, 2005

<Br> コランダム(corundum)は、α-Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>の主化学組成と構造型をもつ鉱物種名であり、微量のクロム、チタン、鉄が固溶することによって発色したルビー、サファイアなどは変種名である。コランダムが宝石として用いられるには、透明性とある程度の大きさが求められる。しかし、生成条件の関係から乳白色で産出するいわゆる「ギウダ」や、生成過程で混入した不純物種によって色の質が落ちるコランダムを加熱処理して、透明度や色調を向上させたものが、一部で流通している様である。この加熱処理は、宝石としてのコランダムの流通量が増えるなどの利点はあるが、加熱処理物と非加熱処理物とが流通過程で混在していることが問題にもなっている。<Br> 今回の講演では、コランダム型構造を有する物質の結晶化学的特徴を紹介し、コランダムに各種遷移金属元素をドープし、加熱処理した場合の発色機構について、主に顕微ラマン分光、カソードルミネッセンス スペクトルなど分光学的測定法を用いて得られる知見について紹介する。
著者
橘 省吾
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.38, 2016

太陽系は今から 45 億 6700 万年前に誕生 した.太陽系のもととなった元素は,ビッ グバンで誕生した水素,ヘリウムを除いて, 恒星内部の核融合反応でつくられる.恒星 内部でつくられた金属元素は,進化末期の 恒星からの質量放出風の中で塵として凝縮 し,星間空間へと放出される.このような 塵が次世代の恒星や惑星の材料となる. <br>進化末期の恒星が放出するガスの中や, 誕生直後の恒星の周囲の原始惑星系円盤 (惑星を産む母胎となる)に存在する塵の 正体は赤外線天文観測で調べられている. <br>塵による特定波長の赤外線の放射や吸収 の特徴から,かんらん石や輝石,コランダ ムといった鉱物,非晶質ケイ酸塩,非晶質 炭素,芳香族炭化水素などの存在が報告さ れている.ペリドットやルビー,サファイ アが宇宙には塵として存在する. <br>このような塵が宇宙を旅し,太陽系に持 ち込まれた証拠が隕石のなかに見つかって いる.隕石の中には,太陽系の平均的同位 体組成とは大きく異なる微粒子が存在する. 同位体組成の大きな違いは太陽系での物理 化学反応では説明できないため,これらの 粒子は太陽系ができる前に銀河系内の恒星 の放出するガスの中でつくられ,その恒星 での元素合成(核融合)を反映した同位体 組成を保っているものと考えられている.<br>これらの微粒子は先太陽系(プレソーラー) 粒子とよばれ,太陽系の材料そのものだと 考えられている.最大でも 100 ppm 程度の 量ではあるが,ケイ酸塩,酸化物,炭化物, 窒化物,ダイアモンドなどのプレソーラー 粒子が見つかっている(プレソーラーコラ ンダム粒子(約 1 マイクロメートル)の電 子顕微鏡写真を以下に示す). <br>また,隕石には誕生直後の太陽系で高温 のガスからつくられた塵やその集合体も含 まれる.難揮発性包有物とよばれる太陽系 最古の固体物質はカルシウムやアルミニウ ムといった難揮発性元素に富む鉱物の集合 体である.また,鉄に乏しいかんらん石の集合体も存在する. <br>我々の研究室では宇宙での塵の形成を実 験室で再現し,塵をつくりだす実験をおこ なっている.進化末期の恒星の周囲や誕生 直後の太陽系の高温・低圧環境を実験室に つくりだし,鉱物の晶出過程を調べている. 実験室でおこなう天文学である.以下に真 空赤外炉の写真およびガスから凝縮したフォルステライト微粒子(スケールバーは 1 マイクロメートル)の電子顕微鏡写真を示 す. <br> プレソーラー粒子は太陽系の材料の形成 プロセスを,難揮発性包有物やかんらん石 集合体は太陽系初期の高温鉱物形成プロセ スを知る手がかりとなる.これらの固体物 質は前述のとおり,隕石に含まれる.隕石 は宇宙から来た石であるが,実は隕石が本 当にどこから来たのかについてははっきり とはわかっていなかった.それに決着を付 けたのは,2010 年に小惑星イトカワの表面 粒子を回収し,帰還した探査機「はやぶさ」であった.地球に豊富に存在する普通コン ドライトとよばれる隕石が小惑星を起源と するということが証明されたのだ. <br>しかし,炭素質コンドライトとよばれ, 鉱物だけでなく,水(含水鉱物として)や 有機物を含み,海や生命の材料を地球にも たらした可能性のある隕石がどこから来た のかについてはわかっていない.また,水 や有機物が鉱物を主とする天体でどのよう に進化したのかについてもはっきりとした 結論は出ていない.これらの問題は炭素質コンドライトのもととなったと考えられる 天体に行けば,解決の糸口がつかめるはず である.太陽系の起源と進化,海や生命材 料の進化の場をさぐることを目的に,2014 年 12 月に探査機「はやぶさ 2」が小惑星リュウグウへと旅立った.リュウグウは C 型 小惑星に分類され,炭素質コンドライトの 母天体である可能性が高い.2020 年末から 始まるリュウグウサンプルの分析で私たち がなにを解き明かそうとするのかについて もお話ししたい.
著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.39, pp.11, 2017

<p>予測手法としての多変量解析は「重回帰分析」「判別分析」「ロジスティック回帰分析」「数量化 I 類」「数量化 II 類」が一般的に知られている。中でも、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」は「量的変数(質量濃度等の量を持った変数)」である説明変数から「質的変数(合成、天然といった量を伴わない変数)」である目的変数を予測する手法なため、宝石鑑別に有効な手段であることが期待される。</p><p>判別分析は事前に与えられているデータが異なるグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準を得るための正規分布を前提とした分類の手法である。宝石分野ではルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、 HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)やネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)の他、筆者らによる 2016 年宝石学会(日本)一般講演による「判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」といった研究例がある。</p><p>ロジスティック回帰分析はベルヌーイ分布に従う変数の統計的回帰モデルの一種であり、連結関数としてロジットを使用する一般化線形モデル(GLM)の一種でもある。確率の回帰であり、統計学の分類に用いられることが多い。ロジスティック回帰分析を用いると、事前に与えられたデータが A,B 異なる 2 種のグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に A である確率を求めることができる。</p><p>本研究では、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」を用いて「アメシストの天然・合成の鑑別」「ルビーの天然・合成の鑑別」「パライバトルマリンの産地鑑別」について研究、検討を行った。</p><p>アメシストの天然・合成の鑑別、ルビーの天然・合成の鑑別は、 LA-ICP-MS 分析結果を使用した。両者とも、判別分析よりロジスティック回帰分析の誤判別率が低く、有効であるという結論を得た。</p><p>パライバトルマリンは、ブラジル産、ナイジェリア産、モザンビーク産の 3 つの産地について、 LA-ICP-MS 分析結果、蛍光 X 線分析結果の 2 種類を用いて判別分析を行った。 LA-ICP-MS、蛍光 X 線ともに誤判別率が 0.2 を超えるため、判別機としての精度は低いが、ブラジル産を判別する精度が高く、 ブラジル産か否かを決める判別としては有効であることが判明した。</p><p>多変量解析による予測手法は、ブラックボックスを扱うことに非常に近いため、それだけで結果を出すということは危険であるが、鑑別の補助としては非常に有効である。</p>
著者
山田 篤美
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.39, pp.6, 2017

<p>今日、宝石の王者はダイヤモンドである。しかし、人類 5000 年の歴史を俯瞰すると、長い間、宝石の世界に君臨してきたのはダイヤモンドではなく、真珠であったことが明らかになる。本講演では最上の宝石だった真珠の歴史をダイヤモンドと比較しながら解説する。</p><p>正確を期すると真珠は鉱物ではなく、有機物の一種である。しかし、真珠は伝統的に宝石と見なされてきた。たとえば、 古代ローマのプリニウスは『博物誌』の中で真珠を最高位の宝石のひとつと位置づけている。一方、プリニウスはキュウリの種ほどのダイヤモンドも貴重視していたが、それらは工具としての実用性が評価されたもので、「宝石」としての評価ではなかった。</p><p>古代ローマ人憧れの真珠であったが、その産地は多くはなかった。自然界では海産真珠貝、淡水産真珠貝が多種多様の真珠を生み出してきたが、丸く美しく光沢のある真珠を生み出す貝は、海産のピンクターダ属(genus <i>Pinctada</i>)の真珠貝などに限られていた。ピンクターダ属の真珠貝の中でも、真珠採取産業を成立させるアコヤ系真珠貝(<i>Pinctada fucata/martensii/radiata/imbricata</i> species complex)の生息地は、古代・中世においては、ペルシア湾、インド・スリランカの海域、西日本の海域ぐらいしか知られていなかった。つまり、ヨーロッパ人にとってアコヤ系真珠は、コショウ同様、オリエント世界でしか採れない貴重な特産品だった。</p><p>その状況が一変したのが 16 世紀の大航海時代である。 1492 年、コロンブスはカリブ海諸島に到達し、その 6 年後、南米ベネズエラ沿岸で真珠を発見する。実はベネズエラ沖はもうひとつのアコヤ系真珠貝の産地であった。オリエントに代わる真珠の産地となったベネズエラには征服者、航海者が押し寄せ、略奪と虐殺が繰り広げられた。 16 世紀のヨーロッパは真珠の時代であり、南米の真珠がヨーロッパ王侯貴族のジュエリー、ドレスを飾ったが、その真珠はブラッド・ダイヤモンドならぬブラッド・パールであったのである。</p><p>一方、ダイヤモンドについても、大航海時代になると、インドの王侯の独占が崩れ、流通が増加。 17 世紀以降のヨーロッパではブリリアント・カットが発明され、ダイヤモンドと真珠が二大宝石となっていく。しかし、 19 世紀の南アフリカのダイヤモンドの発見でダイヤの値段が暴落、真珠は再びダイヤモンドよりも希少になった……。 真珠の歴史をダイヤモンドとの関係性の中で考察すると、小さな真珠がもたらした壮大で壮絶な歴史が浮かび上がるのである。</p>
著者
森 孝仁 奥田 薫
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.27, pp.12, 2005

<br> 日本市場でも大変人気のあるルビーであるが、中でもミャンマー産は高く評価されている。<br> ミャンマーのルビーは、mong-hsu(シャン州)、mogok(マンダレー区)、nam-ya(カチン州)の3つの鉱区から産出する。日本の市場では、鉱区まで明記して販売することは稀であるが、最近では、鑑別書に表記改定に伴い、加熱処理の有無を明確にさせることからも、しばしば鉱区を特定する必要性が生じるようになってきた。一般にmogokとnam-yaのルビーは良質で、加熱処理の必要のないものがあり、mong-hsuのルビーは加熱することにより、鮮やかな赤色に変化するといわれている。<br> 今回、株式会社モリスはミャンマーの協力を得て、3つの鉱区からの未処理のルビー原石および母岩を入手することができた。それぞれの母岩をもとに、鉱区の成り立ちを検証するとともに、未処理のルビー原石について、内包物の拡大検査、可視分光吸収特性および含有微量元素について調査を行なった。<br> ミャンマーの3つの鉱区におけるルビーの特徴について、今回得られた結果を報告する。
著者
小林 泰介 北脇 裕士 阿依 アヒマディ 岡野 誠 川野 潤
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.32, pp.11, 2010

最近、アフリカのモザンビーク産と称されるルビーを検査する機会が増えている。GAAJ-ZENHOKYOラボでも、実際の鑑別ルーティンで、2009年3月頃からこのようなモザンビークの新鉱山産であると考えられるルビーを見かけるようになった。今回はこれまで検査したモザンビーク産と思われるルビーの鑑別特徴について報告する。<BR>拡大検査では、タンザニアWinza産のルビーに見られるような顕著な双晶面や、液体-液膜インクルージョン、ネガティブ・クリスタル、透明および黒色不透明な結晶インクルージョン、および微小インクルージョンなどが見られた。表面近くに存在していた結晶インクルージョンをラマン分光分析および蛍光X線組成分析により同定した結果、最も一般的に見られる結晶は角閃石(パーガサイト)であることがわかったほか、アパタイトも確認された。<BR>赤外分光スペクトルには、3081cm-1と3309cm-1の吸収がペアになったブロードな吸収バンドが現れる。これらの吸収は、フラクチャー中に存在するベーマイトに起因する可能性があり、高温で加熱されたルビーにはこのような吸収バンドは現れない。顕著な3161cm-1の吸収ピークがタンザニア Winza産のルビーの赤外吸収スペクトルに特徴的に現れるように、このようなペアになった赤外吸収スペクトルは非加熱のモザンビーク産ルビーの識別に役立つと思われる。さらに、ベーマイトに起因すると考えられる2074cm-1と1980cm-1の弱い吸収が付随する場合もある。<BR>蛍光X線分析により化学組成を分析した結果、主元素であるAl2O3のほか、酸化物として0.3~0.8 wt%程度のCrと0.2~0.5 wt%程度のFeが検出された。このようなFeの含有量は、ミャンマー産やマダガスカル産などの非玄武岩起源のものよりも高く、タイ産のような玄武岩起源のものよりは低い。LA-ICP-MSによる微量元素の分析結果では、タンザニア Winza産のルビーの場合に比べ、Ti,V,Cr,Gaの含有量が高く、Feの含有量が低い事がわかった。<BR>モザンビーク産ルビーは、地理的地域が近接していることもあり、タンザニアのWinza産ルビーと類似した宝石学的特徴を有しているが、分光スペクトル及び微量元素分布を詳細に比べることによって両者の識別が可能であることがわかった。今回はこれに加えて、非加熱のモザンビーク産ならびにタンザニア産ルビーの原石を用いた加熱実験を試み、処理に伴う外観、内部特徴および分光スペクトルの変化などについても検証した。
著者
嶽本 あゆみ 田邊 俊朗
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.41, pp.18, 2019

<p>【緒言】 液体原料からシリカガラスを合成するゾル-ゲル法は、加熱を経ず室温で実施できる簡易な実験である。試薬計量ならびに混合という単純な操作、触媒による生成物の比較、加水分解反応と脱水縮合反応の理解、遊色効果の観察に基づく光の干渉の理解、最終的な生成物からの収率計算と、一つの実験系を用いて学生の到達目標毎の課題を与えることができる。合成したシリカガラスが沈殿し確認できるまでにはやくとも二週間程度を要するが、連続した実験授業の中で長期休暇の前後に組み込む等、計画的な授業構成により対応可能である。</p><p>今回は高専本科一年の実験授業において触媒による生成物の比較を試みながら、宝石オパールの遊色効果や昆虫の翅の構造色などの解説を行った。</p><p>【方法】 沖縄工業高等専門学校生物資源工学科本科一年生の専門必修科目である「バイオテクノロジー基礎実験」において、オルトケイ酸エチル. エタノール, 精製水の混合[1]における加水分解反応(式1)の触媒として、アルカリ試薬(アンモニア、水酸化ナトリウム)ならびに酸試薬(酢酸、リン酸、塩酸)の中から班ごとに 1 種類を選び、混合操作を実施した。6 週後の同授業において、生成物の観察ならびに収率計算を行った。なお、本実験の反応式は下記の通りである。</p><p>(式 1) Si(C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>O)<sub>4</sub>+4H<sub>2</sub>O→Si(OH)<sub>4</sub>+4C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH</p><p>(式 2) Si(OH)<sub>4</sub>→SiO<sub>2</sub>+2H<sub>2</sub>O</p><p>【結果ならびに考察】 アンモニア触媒では生成物から遊色効果が確認されたがゲル化は進んでいなかった。水酸化ナトリウム触媒では透明なゲルが生成され沈殿していた。酸触媒は 3 種類ともに 6 週後時点ではゲルが生成されていなかったが、17 週後に酢酸触媒を用いた 2 班の片方の液全体がゲル化していることが確認された。アルカリ条件下ではコロイダルなゾルが、酸性条件下ではポリメリックなゾルが生成され、これらは加水分解時の水の量にも影響を受ける[2]。今回の結果に基づき、アルカリ触媒と酸触媒とで混合比が異なるプロトコルの準備、酸触媒での触媒量と合成期間について、今後検討が必要である。</p>
著者
藤田 直也 Milisenda Claudio
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.24, pp.12, 2002

&ldquo;パライバ&rdquo;トルマリンと同様に銅/マンガンを含むトルマリンがナイジェリアでも産出されるようになった。この新産地のトルマリンも&ldquo;パライバ&rdquo;トルマリンと同様&ldquo;ネオンブルー&rdquo;や&ldquo;エレクトリックブルー&rdquo;といった色調のものが産出されている。このナイジェリア産、ブラジルのパライバ産及びリオグランデ&middot;ド&middot;ノルテ産のサンプルをエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置(EDXRF)とフーリエ交換型赤外分光光度計(FT-IR)を使って得たデータの比較を行ない産地同定の可能性を見出すことが出来た。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.37, 2015

近年、ファセットカットされたビーズがジュエリーのチェーンの代わりに使われ始めているが、それに伴い新しい問題も起きている。下の写真のブラックスピネルのビーズでは、ペンダントのバチカンに当たる部分が摩耗されて他の部分に比べて明らかに輝きが弱くなっている。このような地金とビーズの摩耗の特徴と対策を調べるため、各種摩耗に関する実験を行った。<br> 実験にはブラックダイアモンド、ブラックスピネル、ブラックカルセドニーのビーズを用意した。1)まず、地金側の傷を調べるため、Pt900(割金Pd10%)、K18金(割金Ag15%, Cu10%)、K18ホワイトゴールド(割金Ag11%, Pd8%,Cu4%,Zn2%)および銀(SV925, 割金Cu7.5%)の板と擦り合わせた。続いて石側の傷を調べるため、2)金、および銀で出来た半円形の棒と擦り合わせを行った。3)また共擦りを調べるためビーズの連を平行に束ねた状態と編み込んだ状態で擦り合わせを行った。同じ条件下で比較するため、電動サンダー(毎分13000回転)を用い、機械の自重(約1kg)で決まった時間擦り合わせた。<br> 1)の地金の板との擦り合わせ実験では、地金側にダイアモンド>スピネルの順に深い傷がつき、カルセドニーではほぼ傷はつかなかった。地金はSV925≒Pt900 >K18ホワイト>K18の順に傷がついた。石側はカルセドニーを含め、あまり傷は生じなかった。<br> 2)の地金の棒との擦り合わせ実験では、金、銀ともにダイアモンドには目立った傷が見られず、ブラックスピネルではエッジの摩耗が見られ、カルセドニーではわずかな面傷が見られた。硬度の高いものは傷はつきにくいのだが、スピネルは地金より硬度は高いにもかかわらず、当たり傷としてエッジの摩耗が生じたためと解釈される。また、エッジの摩耗は硬度の低いカルセドニーでは目立たなかったが、これは使用したサンプルが元よりあまりエッジを立てないカットが行われていたため、目立たなかったものと考えられる。<br> 3)の共擦りを調べる実験では編み込んだものでスピネルは激しいエッジの摩耗、面傷が見られ、カルセドニーでは面傷が見られ、ダイアモンドではあまり傷は目立たなかった。また、平行にしたものではどれも比較的傷は少なかった。これも先のものと同じ理由と考えられるが、スピネルの摩耗が特に激しかった。<br> これらの対策としては、地金とビーズがあまり当たらないデザインにすること、ビーズ同士に力がかからないデザインにすること、エッジをあまり立てないカットを用いることなどが考えられる。<br>謝辞:株式会社八紘商会(地金試料提供)
著者
岡野 誠 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.31, pp.18, 2009

黒色不透明石の鑑別は、一般の透明宝石に比べて困難なことが多い。内部特徴の観察が不可能なことが主な要因であるが、単結晶鉱物や岩石あるいは模造石など黒色不透明な素材の範囲が広いことも一因である。<BR> かつてブラック・カルセドニーは、黒色不透明石の中で最もポピュラーなもののひとつであった。スピネル、オージャイト、テクタイト、オブシディアン、黒色ガラス(模造石)などの多くの黒色石はその代用品とされていた。<BR> 1990年代後半からは"ブラック・ダイヤモンド"がジュエリー素材として使用され始め、小粒石が多数個セッティングされたデザインが流行した。この "ブラック・ダイヤモンド"には_丸1_ナチュラル・カラー、_丸2_照射処理されたもの、_丸3_高温で加熱処理されたものが含まれているが、現在流行の主流は_丸3_の高温加熱処理されたものである。<BR> また、"ブラック・ダイヤモンド"のジュエリーにはブラック・キュービックジルコニア(CZ)やモアッサナイトなどの類似石が混入していることもあり、鑑別をより困難なものにしている。さらに最近になって、ブラック・スピネルにコーティング処理が施され、ブラック・ダイヤモンド様の金属光沢を呈するものや青色金属光沢を有するものを見かけるようになった。<BR> 標準的な鑑別検査<BR> 黒色不透明石の鑑別には、屈折率測定や拡大検査が有効である。しかしながら、セッティングの状況によっては屈折率測定が不可能となり、ブラック系の宝石は不透明なため内包物の観察が困難である。したがって、強いファイバー光源を使用した丹念な検査が不可欠である。"ブラック・ダイヤモンド"は金剛光沢とシャープなファセットエッジが特徴で、針状の黒色内包物や微細なグラファイトの密集等が認められる。<BR> レントゲン検査<BR> ダイヤモンドと類似石の識別にはX線透過性(レントゲン)検査が有効である。特に多数個がセッティングされているジュエリーにはまとめて検査できる上に写真撮影を行うことで、ジュエリーのどの石が類似石かを記録することが可能である。<BR> 蛍光X線分析<BR> 元素分析は素材の同定を行う上で極めて有用である。黒色ガラスにおいても組成の違いでテクタイト、オブシディアン、模造石(人工ガラス)の識別も可能である。<BR> 顕微ラマン分光分析<BR> ラマン分光分析はラマン効果を利用して物質の同定や分子構造を解析する手法で、数ミクロン程度の試料や局所分析にきわめて有効である。ジュエリーにセッティングされたものでも個々の分析を短時間で行うことができ、ダイヤモンド、モアッサナイト、CZ等を明確に同定することが可能である。
著者
上原 誠一郎
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1, 2008

九州の地質は大きく3つに区別されます。(a) 主に北部九州に分布する基盤岩類(三郡変成岩および白亜紀花崗岩類),(b) 南部九州に分布する付加体,(c) 新生代後期の火山岩類。新生代後期の火山岩類が広く分布するのが特徴です。今回は九州の代表的な鉱物および九州大学の鉱物標本,特に高壮吉鉱物標本を紹介します。<BR>1.九州の鉱物産地<BR>九州産の鉱物は明治初期の鉱物学黎明期から文献に登場します。古典的産地を産状ごとにまとめると次のようになります。<BR>1-1. 接触交代鉱床:福岡県三ノ岳(灰重石),大分県尾平鉱山(斧石),大分県木浦鉱山(スコロド石,亜砒藍鉄鉱 1954年 伊藤貞市ほか),宮崎県土呂久鉱山(ダンブリ石)。岩佐巌(1885)は三ノ岳の黒色タングステン鉱物を三ノ岳鉱(トリモンタイト)と発表するが,後に灰重石であることが判明する。<BR>1-2. ペグマタイト:福岡県長垂(紅雲母),福岡県小峠・真崎(閃ウラン鉱,モナズ石),佐賀県杉山(緑柱石),宮崎県鹿川(水晶)。高壮吉は1933年に長垂のペグマタイトについて初めて鉱物学的報告をした。翌年,「長垂の含紅雲母ペグマタイト岩脈」として、国の天然記念物に指定される。<BR>1-3. 変成岩・蛇紋岩:長崎県鳥加(磁鉄鉱),熊本県豊福(コランダム),福岡県篠栗(ブルース石),大分県若山鉱山(針ニッケル鉱),大分県鷲谷鉱山(菫泥石,灰クローム石榴石)。岩佐巌(1877)は鷲谷鉱山の紫色と緑色鉱物の化学分析を行い日本で初めての新鉱物として発表した。これは紅礬土鉱(ブンゴナイト)と緑礬土鉱(ジャパナイト)であるが,再検討され菫泥石,灰クローム石榴石となる。<BR>1-4. 新生代後期の火山岩類:佐賀県西ヶ岳(普通輝石),佐賀県肥前町(木村石1986年 長島弘三ら),熊本県石神山(鱗珪石),熊本県人吉(芋子石,1962年 吉永永則・青峰重範),鹿児島県咲花平(大隅石,1956年 都城秋穂)。<BR>2.九州大学の鉱物標本<BR>現在,「高壮吉標本」は総合研究博物館第一分館の自然科学資料室に展示されています。高壮吉は1912年から1929年まで工学部採鉱学教室応用地質学講座の教授を勤め,また,1890年代から1930年代にかけて数多くの鉱物結晶の標本を収集しました。本標本は1939年に理学部が開設された際,収集標本の中から学問的に貴重なものが選ばれ,理学部地質学教室(現在の地球惑星科学教室)に寄贈されたものです。その他に工学部のクランツ標本を中心とする鉱物標本,理学部の岡本要八郎標本,吉村豊文標本,1958年制作の「日本新名鉱物一覧標本(1958)」などがあります。これら鉱物標本のデータベースは総合研究博物館のホームページ中に制作中で,一部を公開しています(http://database.museum.kyushu-u.ac.jp/search/mine/)。
著者
三浦 保範 高木 亜沙子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.26, pp.12-12, 2004

1.はじめに:ラブラドライト斜長石は、離溶ラメラ組織の光の干渉により様々な色を示して、ラブラドレッセンスといわれて宝石鉱物として広く知られている(Miura et al., 1975)。そのラメラ組織を示す斜長石の形成は、地球外の試料の研究が進むにつれて、ある問題点が浮上してきた。これまで市場に出回っているイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石ラメラ組織の形成は、高温マグマからの均一溶液からの固体状態の離溶反応(スピノーダル分解)で理解されている。問題点は、a)高温マグマが関係した古期岩石は広く分布するがラメラ組織を示す斜長石鉱物の産出が限られている、b)マグマからの直接固体晶出であるが不均質な組織をしている、c)その不均質さが宝石のカット面などの作成に影響している、d)鉄の鉱物が組織内を広く充填している、d)月は高温マグマが形成初期に関与したが衝突で形成された古い月の試料(30億~45億年前の形成)にはラブラドライト斜長石が形成されていない、e)大気がありかって海水のあった火星の石からは探査機画像には発見されていないが、火星起源の隕石からは衝突ガラス(マスケリナイト)が発見されている。これらの問題点を、対比的に解明する糸口を筆者らが考察してみる。<BR> 2.地球上の試料の産出場所の特徴:地球上でイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石は、一定の古期岩石の分布する地域(カナダが有名な産地、最近はマダガスカル産・フィンランド産、赤色透明の試料のある米国産など)に産出している。カナダとマダカスカルは、20億から30億年前の岩石から産出している。ほとんどのラブラドライト斜長石でラメラ組織を示すものは、鉄に含む暗黒色の岩石が多い。この岩石の特徴(古期岩石中・黒色・組織の不均質さなど)が問題点を解明する糸口になっている。これまで、これらの岩石の特徴は大陸地殻として形成された後に岩石が地殻変動を受けたためだけであると考えられていた。<BR> 3.対比試料の特徴:古い記憶は地球では消失しているので、地球外の月か火星・隕石で対比してみる。アポロ月面・月隕石試料は灰長石鉱物が多く、中間型斜長石組成の鉱物が形成されていない。月面形成後衝突以外にマグマ火成活動が続かず、ラブラドライト斜長石は産出していないと考えられる。火星には、火星起源隕石中にマスケリナイト(中間型斜長石鉱物)といわれる衝突で不均質にガラス化している斜長石があるが、ラメラ構造は火星の隕石からは発見されていない。火星隕石は2回以上の衝突で形成されて地球に飛来し高温状態での持続時間が短いため、ラメラ組織が形成されなかったと考えられる。しかし、破砕斜長石が高温状態での持続時間が長い今場所(火山構造のオリンポス火山など)周辺に、中間型斜長石鉱物が既存していればラメラ組織が形成されている可能性がある。小惑星起源の隕石中には、衝突分裂・破壊の後高温状態で長い保存される場所がないので、ラメラ組織が形成されていない。<BR> 4.新しい解釈:これら問題点を説明する考えとして、ラメラ組織を持つラブラドライト斜長石の形成を衝突形成岩石の高温マグマ状態からの形成と考える。最初に巨大衝突で地球が破壊されて高地と海の地形が形成されているので衝突に関係して形成されている。また、古期の大陸を復元すると大陸の分裂割れ目に相当する場所と同心円状の大陸地殻地域にラメラ組織を持つラブラドライト斜長石が多く産出するので、衝突形成後地下の高温マグマが発生して長く持続できる場所で既存組織からスピノーダル固体分解反応が進んだと考えられる。<BR> 5.まとめ:次のようにまとめられる。地球が形成された後、十数億年から二十数億年の間に中間型斜長石組成の衝突破砕ガラス形成記録が消失して固体晶出後ラメラ組織が形成されたと考えられる。破砕時の既存の組織がそのまま保存されているので、均質な岩石ではなく、衝突時にできた不均質な破砕組織となったと考えられる。高温のため既存の衝突組織は消失しているが、鉄などの鉱物が再結晶して多く含まれているのが形成を示す特徴である。したがって、市場の宝石試料に不均質な組織が多い。火星には、破砕斜長石が高温状態での持続できる場所周辺に、中間型斜長石鉱物ラメラ組織が形成されている可能性がある。<BR> 最後に、この議論には、米国でのラメラ組織の研究者Dr.G.Nordにも昨年と今年に渡米中に参加して頂き関連データの確認ができたので付記する。
著者
古屋 正司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.16, 2006

2005年10月28日から11月13日までの17日間、ブラジルの宝石鉱山を訪問することができた。日本で根強い人気のあるパライバgルマリンの3箇所の鉱山を訪れ、それらの産状を視察すると共に、ミナス・ジェライス州の宝石取り引きのメッカ ゴベナドール・バラダレス(Govenador Valadares)を訪問し、最近アフリカのモザンビークで産出されている同じ様な色をした銅含有のトルマリンの流通の状況をしっかり自分の目で確かめることができた。さらに世界一変色性が良いとされているHematita鉱山のアレキサンドライトの産出状況、エメラルドの産地として有名なBelmont鉱山、Piteiras鉱山、そして発見されたばかりとの情報が入りコースを変更して訪れたRocha鉱山、通過したSanta Maria de Itabira やNova Eraの様子などを写真を使って報告したい。飛行機で約8000キロ、車で2000キロの宝石調査となり、想像していた以上の収穫を得る事ができた。
著者
大江 昌子 武 聖子 山内 常代 畠 健一
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.37, 2015

宝石市場は高額なハイジュエリー、一般的なジュエリー、ファッション性を重視したジュエリー、そしてお守り的な色彩を強く打ち出したパワーストーンが市場を賑わしている。<br> ジュエリー市場はステータス性、資産性、ファッション性、そして信仰的なお守りとしてのジュエリーが混とんとした状態の中にある。<br> 一方、世界視野に立ち、日本の宝石市場を見た時、日本の宝石市場は黎明期、発展期を経て、まさに成熟期を迎えている。<br> 一番に成熟期を迎えたのはヨーロッパ、そしてアメリカ、東洋では日本が最初である。世界の宝石を集めた日本は、鑑別技術を著しく向上し、鑑別技術についてはトップレベルにある。<br> しかし、残念乍ら、日本における宝飾文化の研究、そして普及は、ヨーロッパ、アメリカに遠く及ばない。<br> 日本の宝飾市場において、確かな宝飾文化の普及は、成熟期を迎えた今、大切な課題である。<br> ハイジュエリー、ジュエリー、ジュエリーアクセサリー、パワーストーンはすべて大地、地球の美しい創造物である。違いは一つ、品質の良し悪しによる商品価値の違いである。背景にある歴史的な宝の石、宝石の存在価値は同じである。<br> 歴史の流れとともに時代が求めるニーズとして、宝石はお守り、信仰、ステータス、財産、おしゃれそしてパワーストーンとして身を飾ってきた。しかし、精神文化における宝石の本質はお守りである。お守りとしての歴史の変遷を年表としてまとめたので報告する。