著者
和気 早苗 加藤 博一 才脇 直樹 井口 征士
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.1469-1481, 1994-07-15
被引用文献数
23

人間と機械による合奏において、人間の即興演奏に合わせて出力が適宜変化する、協調型自動演奏システム"JASPER"(Jam Session Partner)について述ぺる。本研究では合奏での人間・機械間のコミュニケーションを実現するために、計算機内に<聴く→感じる・考える→演奏する>という人間の即興演奏過程を模倣した演奏家モデルを構築した。また、テンション・パラメータという感覚量を定義し、それを用いることで、演奏に現れる感性情報を抽出し処理することを試みた。システムヘの入カはMIDI楽器からの即興演奏である。その演奏から人間の演奏者のテンション値を計算する。これは人間の演奏における緊張感を表すものである。演奏者のテンション値を考慮し、システムの持つさまざまなルールによってシステムのテンション値が計算される。出力はドラムとべ一スの演奏であり、システムのテンション値に適合するパターンが複数の侯補より選択される。実際こシステムとの合奏を行った演奏者からは'とても楽しく演奏できる''計算機が自分の演奏に応答することは非常に興昧深い'といった評価が得られた。本研究は演奏に含まれる感性惰報を計算機で扱おうとする試みの一つである。合奏という形でのコミュニケーションを研究しシステムを構築することで、人間・機械間における協調作業、そして感性情報を合むコミュニケーションの可能性を見いだすことができた。
著者
岡田 龍太郎 中西 崇文 本間 秀典 北川 高嗣
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.1341-1354, 2016-05-15

本稿では,メディアコンテンツを対象とした統計的一般化逆作用素の構成方式を示す.これは,与えられた印象を表す単語とその重みで表される印象メタデータからメディアコンテンツを生成する機構を実現するものである.本方式は,従来,我々が提案してきた手法であるメディアコンテンツから印象を表す言葉をメタデータとして抽出する,メディアコンテンツを対象としたメタデータ自動抽出方式手法の逆演算として構成される.しかしながら,本逆演算においては一般的に,不良設定問題が発生する.この不良設定問題を解決するために,制約条件としてそのメディアの種類に応じた統計情報やそのメディアを対象とした研究成果・理論を用いる.これにより,メディアコンテンツと言葉の間の相互変換を可能とする.さらに,本方式を楽曲メディアコンテンツに適用し,印象語で表現された印象メタデータから楽曲メディアコンテンツを生成するシステムを実装する.これを用いて実験を行い,提案方式が実現されていることを示す.
著者
佐々木 康仁 伊藤 潔 鈴木 誠道
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.699-708, 1989-06-15
被引用文献数
12 13

三面図が表す三次元物体を求める手段として 単純に各面図の頂点や線分について各面図間で対応をとり 三次元空間上の頂点と稜線から成るウイヤフレームモデルを作成し それらの稜線で囲まれた領域を面として認識したサーフィスモデルを作成する方法が考えられる.この方法をとると 偽の物体要素を含むサーフイスモデルを作成してしまう場合がある.この偽の物体要素を含むサーフィスモデル(真と偽が混在する候補物体要素群)から所望の物体を見出すためのこれまでの多くの方法では 試行錯誤的な探索プロセスのアルゴリズムを提案している.我々は探索アルゴリズムの提案ではなく 連立の非線形の擬似ブール代数等式・不等式を用いた定式化による手法を提案する.そこでは 候補物体要素の真偽を適切に見極めるための真偽決定規則として 物体要素群が多面体を構成するための条件および三面図に合致するための条件を挙げる.それらの条件を非線形項による模似ブール連立式で定式化する.この定式化に基づいて候補物体要素群を連立式として立式する.この連立式の解を基に 多面体を構成し かつ三面図に合致する物体要素群を求める.この手法を確立し 種々の例題に適用し この手法の有効性を明らかにした.我々がすで提案した手法(線形擬似ブール代数による定式化)とは 定式化の際 非線形項を導入したという点で異なり このため擬似プール代数解法の適用範囲が拡張できた.
著者
小林 健人 稲村 勝樹 金田 北洋 岩村 惠市
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.172-183, 2016-01-15

近年,個人情報やプライバシについて取り上げられる場面が増加している.特に,監視カメラ映像に関するプライバシの問題が取り上げられることが多く,映像を取り扱うガイドラインも存在している.しかし,近年のプライバシ保護の概念である自身の情報のコントロールという観点から考えると,被撮影者自身によって匿名で顔情報が制御できることが望ましい.しかし,既存のシステムではそれを実現する技術的な仕組みを持たない.一方で,監視カメラは犯罪防止に利用されているため,被撮影者が犯罪者となる可能性を考慮すると,被撮影者によってのみ制御されることは好ましくない.そこで,我々は被撮影者がグループ署名と可逆モザイク技術を組み合わせ,さらに秘匿した顔を復元するために必要なモザイク鍵を犯罪捜査時のみ生成できる鍵管理法によって,プライバシ保護と犯罪時での監視カメラの有効利用を同時に実現するシステムを提案する.これによって,被撮影者は自身の顔情報を匿名で制御することができ,かつ,犯罪捜査時には,制御された顔情報を警察などに提供可能で,さらに顔が秘匿されていた被撮影者の特定が容易となる.
著者
池畑 望 伊藤 毅志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.3817-3827, 2011-12-15

2007年よりIEEEのCIGシンポジウムの中でMs. Pac-Manの自動操作を競う大会が開かれている.この大会以来,Ms. Pac-Manは,デジタルゲームAIの研究対象として注目を集めつつある.これまでの大会では,知識ベースを用いた古典的な手法によるAIが最も良い成績を収めているが,その性能には限界が見え始めており,知識ベースに代わる新しいアプローチが求められている.そこで,本稿では囲碁で成功したモンテカルロ木探索によるMs. Pac-Manの自動操作システムを実現し,その有効性を検証した.モンテカルロ木探索は乱数によって生成された未来局面についてのシミュレーションを繰り返すことで,専門的知識に頼らずに期待値の高い次の手を求めることができる.性能評価実験ではモンテカルロ木探索による自動操作システムは過去にMs. Pac-Man Competitionに参加したすべてのプログラムよりも優秀な成績を示し,Ms. Pac-Manにおけるコンピュータの世界記録を上回る結果を得た.
著者
高嶋 和毅 石原 のぞみ 伊藤 雄一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.1217-1226, 2016-04-15

人が魅力的と感じる画像は利用価値が高いが,魅力の程度は人の主観に左右されるため,その定義・抽出が困難である.そこで,人が画像に対して感じる魅力の程度(魅力値)を算出する研究が活発になされてきた.このような研究では,画像の色などの低レベル特徴や画像共有サイトのメタ情報が使われてきたが,主観評価との相関が十分議論されていなかった.そこで本研究では,Web上の主観評価およびメタ情報を用い,主観評価とメタ情報の関係を解析することで,メタ情報に基づく新たな魅力値算出手法を提案する.メタ情報には,画像共有サイト上のメタ情報と,メタ情報の平均値との差を用い,人の感じる魅力である主観評価には,独自に作成したWebアンケートサイトにより大量に収集した評価値を用いた.生成した魅力値算出式による魅力値と主観評価との間には強い正の相関が見られ,魅力値算出式の有効性が示された.
著者
赤間 清
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.446-454, 1987-05-15

本論文では 知識の構造化 仮説生成 一般化などの情報処理を人間の日常的な情報処理に必須の基礎とみなし それらを中心に据えた人間の情報処理の全体の理論(帰納的学習システムの理論)を構築する研究の重要性を指摘する.またその研究を推進するために システムがそれにとって未知の言語を用いた質問応答を繰り返しながら学習しなければならない設定を準備し そのもとで動作する帰納的学習システムLS/1を置換不変 構成的アプローチによって作成する.LS/1はその質問応答から知識を構成的に組み立て よりよく応答できるようになる.LS/1の情報処理のうち知識の構造化 仮説生成 一般化などを扱うのは 有用な関係を次々に作り出す過程である.これは非常に高い自由度をもたらす可能性があるので その制御には特別の対策が必要である.LS/1はそのために 獲得した知識を利用して知識の構造化の組み合わせ爆発を抑制している.
著者
Kazuhiko Yamamoto Takeo Igarashi
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, 2016-04-15

We propose a novel user interface that enables control of a singing voice synthesizer at a live improvisational performance. The user first registers the lyrics of a song with the system before performance, and the system builds a probabilistic model that models the possible jumps within the lyrics. During performance, the user simultaneously inputs the lyrics of a song with the left hand using a vowel keyboard and the melodies with the right hand using a standard musical keyboard. Our system searches for a portion of the registered lyrics whose vowel sequence matches the current user input using the probabilistic model, and sends the matched lyrics to the singing voice synthesizer. The vowel input keys are mapped onto a standard musical keyboard, enabling experienced keyboard players to learn the system from a standard musical score. We examine the feasibility of the system through a series of evaluations and user studies.\n------------------------------This is a preprint of an article intended for publication Journal ofInformation Processing(JIP). This preprint should not be cited. Thisarticle should be cited as: Journal of Information Processing Vol.24(2016) No.3 (online)------------------------------
著者
新里 圭司 益子 宗 関根 聡
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.1305-1316, 2015-04-15

本稿では商品の使用感を記述した文を商品レビューから抽出する手法について述べる.オンラインショッピングサイトでは,実店舗で買い物するときのように商品に触れたり,試したりしてから購入することができない.そのため,ユーザがいだく商品のイメージと実際に届く商品の間に,質感や食感などの使用感に関して不一致が生じることがあり,顧客満足度低下の原因となっている.購入前のユーザに対して,商品の使用感に関する情報を提供することはオンラインショッピングサイトの普及のために重要である.提案手法は,「オノマトペを含む文に出現しやすい表現は商品の使用感を記述する際に用いられやすい」という仮説に従い,単語とオノマトペのレビュー文中での共起の強さを計算し,得られた語の共起の強さを用いてレビュー中の文が使用感を記述しているかどうか判定する.実験の結果,F1値で65.9ポイントの精度で使用感を記述した文を抽出できることが分かった.This paper describes an automatic methodology for extracting sentences that contain product impressions (the description about "how a purchased product was after obtaining and using it") from review data in an e-commerce site. E-commerce users cannot grasp such information before purchasing the product. This can be regarded as one of the shortcomings of e-commerce. It is important to convey this information to the users in order to prevent them from having a bad shopping experience. First, we investigate product review sentences that contain onomatopoeias, and reveal that these sentences tend to contain product impressions. Through this finding we assume that words frequently co-occurring with onomatopoeias are likely to be used for describing product impressions. According to this assumption, the proposed method calculates scores for given sentences using co-occurrence strength between words and onomatopoeias, and extracts the sentences that exceed a threshold value. The co-occurrence strength for each word is calculated from sentences in product reviews beforehand. The experimental results show that the performance of our method achieves an average F1 score of 65.9 points and that the method outperforms its alternatives.
著者
田中 翼 古川 聖
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1308-1318, 2013-04-15

本稿では,多声音楽の自動作曲において新しい旋律スタイルを自動生成する手法を提案する.本手法において旋律スタイルは,書き換え規則の集合からなる文法として表され,その文法規則は遺伝的機械学習システムであるクラシファイアシステムを用いて生成される.これまでの文法的なアプローチの自動作曲研究においては,多声音楽をいかに文法的に扱うかという問題や,オリジナルな旋律スタイル自体を自動生成する問題はあまり重点的に研究されてこなかった.そこで本稿では,多声音楽の生成過程を,各旋律が互いに参照し合いながら,声部間での書き換え規則の非同期的な適用によって成長していくプロセスとしてモデル化を行う.そしてモデルの要素としての文法規則をクラシファイアシステムを用いて自動生成することで,新しい旋律スタイルを創発させる手法を提案する.生成楽曲の評価実験の結果,文法ルール数を小さく設定することが複数の観点からの高評価につながることや,各声部が別々のルールに基づく「複数スタイル」の楽曲が「旋律の動きの豊かさ」において高評価を得ることが明らかになった.In this paper, we propose a method to generate new melodic styles in automatic composition of polyphonic music. In the proposed method, a melodic style is represented as a grammar that consists of rewriting rules, and the rewriting rules are generated by a classifier system, which is a genetics-based machine learning system. In the previous studies of grammatical approaches, the problem of how to treat polyphony and that of generating new melodic styles automatically haven't been studied very intensively. Therefore, we have chosen to tackle those problems. We modeled generative process of polyphonic music as asynchronous growth by applying rewriting rules in each voice separately. In addition, we developed a method to automatically generate grammar rules, which are the elements of the polyphony model. The evaluation experiment revealed that setting the number of grammar rules to a small number leads to high evaluations and that "multi-style" pieces, which have different melodic styles in respective voices, have higher scores than "single-style" pieces from the standpoint of "diversity of melodic movement."
著者
石井 茂如 滝沢 穂高
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.412-420, 2012-01-15

本研究の目的は胸部X線CT画像から肺結節(肺がんの候補)を検出するための計算機診断支援(CAD)システムを開発することである.我々のCADシステムの最も重要な構成要素の1つとして,結節と血管の3次元物体モデルを用いた結節認識手法であるモデルマッチング法を提案している.この手法は高い精度で結節を認識可能だが,いまだ十分ではない.そこで,本論文ではモデルマッチング法に以下の3つの改良を加える.第1に,肺野内血管の位置とサイズとの関係を表す統計的な分布モデルを構築する.これを事前知識として利用することによって,より信頼性の高い血管モデルを生成し,認識率を向上させる.第2に,血管に隣接する結節を認識するために結節モデルと血管モデルを組み合わせた新たなモデルを導入する.第3に,単円筒モデルを用いた新たなアルゴリズムを用いることで最適モデルの探索を高速化する.これらの改良を8mmスライス間隔のCT画像98例に適用したところ,TP率90%でのFP数を従来法の15.5[個/症例]から9.2[個/症例]に削減することができ,本手法の有効性が確認された.The purpose of this work is to build a computer-aided diagnosis (CAD) system for detection of pulmonary nodules on thoracic X-ray computed tomography (CT) scans. As a core component of our CAD system, nodule recognition method based on three-dimensional nodule and blood vessel models was proposed. The method achieved high accuracy in recognition, but is not sufficient yet. Therefore, in this paper, we improve the model-based method as follows. First, the distribution of blood vessel sizes in lungs is modeled to represent the relationship between their sizes and positions in lungs. The distribution model is used as a priori knowledge for generating more reliable blood vessel models. Second, the nodule models are combined with the blood vessel models for recognizing nodules adjacent to blood vessels. Third, the model optimization is made faster by use of the improved algorithm based on simplified blood vessel models. The improved model-based recognition method is applied to actual 98 CT scans that include total 98 nodules. The number of false positives is successfully reduced from 15.5 per case by our previous method to 9.2 per case by the improved method at the 90% sensitivity.
著者
岩田 泰士 鈴木 育男 山本 雅人 古川 正志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.2752-2759, 2009-11-15

ネットワーク可視化技術は,ネットワークを大域的に俯瞰することで,その構造的特徴をとらえ,ノード間のリンク関係だけでは見えにくい新たな情報を見つけ出すうえで有用な技術である.本研究ではネットワークの可視化に対して,自己組織化マップ(SOM)の学習機構を利用した可視化方法を適用する.従来のSOMに基づくグラフレイアウト方法であるISOM(Inverted Self-Organizing Map)は,従来の力学的手法に比べ非常に高速であり,隣接ノードどうしが近い位置に配置されるという利点により,ある程度の意味を持つ結果が出力可能である.しかし,一方で可視化結果が信号領域で歪められる現象が起こる問題点を持つ.本研究ではこの問題点を解決する方法としてDSSOM(Dynamically-Signaling Self-Organizing Map)を提案し,その有用性を検証する.
著者
脇坂 洋祐 柴田 直樹 北道 淳司 安本 慶一 伊藤 実
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.657-668, 2016-02-15

マルチコアプロセッサを搭載した計算機が広く利用されるようになり,また様々なタスクスケジューリング手法が利用されている.マルチコアプロセッサの処理性能を向上させるため,ターボブーストおよびハイパースレッディングと呼ばれる処理高速化および並列処理技術が開発され,搭載されるようになった.これらはそれぞれ一部のコアが使用されていないときに使用されているコアの動作周波数を向上させる技術と,1つの物理コアを複数の論理プロセッサに見せかける技術である.既存のタスクスケジューリング手法は,これらの最新技術を考慮しておらず,多数のタスクを1つのプロセッサに集中させる傾向がある.本研究では,ターボブーストおよびハイパースレッディングによる実効動作周波数の動的変更とネットワークコンテンションを考慮し,より計算機資源を有効に活用するためのタスクスケジューリングアルゴリズムを提案する.実機実験を通してターボブーストおよびハイパースレッディングによる動作周波数モデルを作成し,タスクの処理時間を正確に推定することで両技術を考慮したタスクのスケジュールを行う.シミュレーションと実機実験による評価の結果,提案手法は全体の処理時間をシミュレーションで最大43%,実機実験では最大で36%短縮できることを確認した.
著者
早川 智一 疋田 輝雄
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.573-582, 2016-02-15

本論文では,HTML5とJavaScript関連技術とを用いた仮想Webブラウザ(以下,仮想ブラウザ)の提案を行う.仮想ブラウザの目的は,悪意のあるコンテンツを含むWebページ(以下,悪意のあるWebページ)から閲覧者を保護することにある.仮想ブラウザは,閲覧者が要求したWebページを外見が等価な画像に透過的に変換することで,悪意のあるWebページの脅威を低減させる.仮想ブラウザのネットワーク転送量や応答時間の評価結果は,仮想ブラウザが閲覧者の利便性を大幅に低下させることなく悪意のあるWebページの脅威を低減できることを示した.我々は,この評価結果から,仮想ブラウザが悪意のあるWebページから閲覧者を保護する有用な手段たりうるという結論を得た.
著者
立石 孝彰
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.669-669, 2016-02-15
著者
榎原 博之 中山 弘基 飯田 修平 長辻 亮太
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.331-342, 2016-01-15

近年,メタヒューリスティクスは組合せ最適化問題を解く手法として多くの研究が行われている.最近の研究では,コンサルタント誘導型探索(CGS)と呼ばれる新しいメタヒューリスティクスが提案されている.本研究では,CGSを用いた巡回セールスマン問題(TSP)に対する並列アルゴリズムを提案する.アルゴリズムの並列化では,CGSにおける仮想人間をそれぞれの計算機の各プロ セッサコアに割り当てることで効率良く解の探索を行う.また,仮想人間の集団を複数のサブ集団に分割し,各サブ集団どうしで仮想人間の移住を行う島モデルをCGSに取り入れる.10台の計算機を用いた性能評価実験を行い,都市数が5,000のTSPLIBのベンチマーク問題例に対して5%未満の誤差率を達成することを示す.
著者
出口 幸子 白井 克彦
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.642-649, 2001-03-15
被引用文献数
4 4

筆者らは箏曲の楽譜データベースを実現するために,箏曲の旋律分析を行っており,その基礎として必要な音律と音階を規定することができたので報告する.箏曲の音律と音階を規定する文書は存在しないが,中国雅楽,中国俗楽,日本雅楽を経て箏曲に至っている.本研究では,箏曲譜から作成した楽譜情報ファイルの分析から箏曲の音律と音階を規定できることを示し,かつ中国雅楽の理論を適用できることを示した.本研究の目的は情報処理における対象領域の構造の規定であるので,明確に定義されている中国雅楽の理論を用いて検討した.音律については,楽譜情報から連続する2音の音程を抽出し,半音と全音が出現する音高が限定していることから,半音が生じる2音間の音程を $x$,生じない音程を $y$,および全音の音程を $xy$ として1オクターブ中の各音間の音程を決定した.これより,1オクターブ中の12音の具体的な周波数比を求めた.また,このように規定した音律が,中国雅楽の音律である十二律の理論に適合することを確認した.音階については,中国雅楽の音階である七音音階,および十二律と七音音階を対応付ける均の概念を用いて,箏曲の音階と均を理論的に定義した.一方,楽譜情報ファイルを調弦の変化する点で分割し,各音高の出現頻度より,均の存在を確認して,調弦と均との対応を考察し,また,七音音階であることを確認した.This paper describes a study on the temperament and the scale of koto music,toward a research of melody analysis and score database.The temperament and the scale of koto music are not described on any document,while they are based on Japanese court music,Chinese traditional music and Chinese court music.This paper shows that they can be defined by analyzing score data files to satisfy the theory of Chinese court music.We extract intervals between two notes sequentially from score data files,and show that semitones and whole tones are used limitedly.We define semitone as ``$x$'',define the interval not used for semitone as ``$y$'',and define whole tone as ``$xy$''.Therefore the intervals between twelve tones in one octave are defined.We also calculate the frequency ratios of tones.Next, the temperament of koto music is certified by the theory of Chinese 12-tone temperament.The scale of koto music is defined by the theory of Chinese 7-tone scale,and the dependency of scale on temperament is also determined.We extract notes from score data files, and verify the scale and the dependency of scale on temperament.
著者
森岡 澄夫 佐藤 証
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.1321-1328, 2003-05-15
被引用文献数
21 8

次期米国標準の128ビット共通鍵ブロック暗号AESにおいて,論理設計の工夫によって回路の消費電力を減らす方法を検討した.今回筆者らが行った調査では,AESの消費電力の大半をS-Boxと呼ばれる非線形変換を行う組合せ回路が占めており,S-Boxの消費電力は回路中を伝播するダイナミックハザードの量で決まる.本稿では,消費電力の少ないS-Boxの論理回路構成法(multi-stage PPRM)を提案する.その方法では,合成体上で演算を行うことによって回路規模を減らすとともに,二段論理を何ステージか直列につなげることによって,各ゲートへの信号到達時間を揃えハザード発生を減らす.この結果,これまで知られているS-Box回路と比べて半分から3分の1以下の消費電力を達成した.本手法は,S-Boxにガロア体の逆元演算を用いたその他多くの共通鍵暗号回路にも有効である.Reducing the power consumption of AES circuits is a critical problem when the circuits are used in low power embedded systems.We found the S-Boxes consume much of the total AES circuit power and the power for an S-Box is mostly determined by the number of dynamic hazards.In this paper,we propose a low-power S-Box circuit architecture: a multi-stage PPRM architecture.In this S-Box, (i) arithmetic operations are peformed over a composite field in order to reduce the total circuit size,and (ii) each arithmetic operation over sub-fields of the composite field is implemented as PPRM logic (AND-XOR logic) in order to reduce the generation and propagation of dynamic hazards.Low power consumptions of 29uW at 10\,MHz using 0.13um 1.5V CMOS technology were achieved,while the consumptions of the conventional S-Boxes are two or more times larger.The proposed method is effective in the other common-key ciphers whose S-Boxes use Galois field inversion.
著者
吉本 明平 下道 高志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.2253-2264, 2015-12-15

プライバシにかかわる情報と個人の関係性を数学の集合論的記法を用いて表記する手法を提案する.これによってプライバシに関する客観的かつ合理的な議論を可能とする.「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」の施行や「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」の公表など,日本国内におけるプライバシの取扱いについての議論が活発化している.そこでは個人に関する情報と個人との関係性や情報の共有範囲の検討が不可欠である.しかし,これらの検討において情報の関連範囲を明確に記述し論理的,具体的な議論を行う方法論が未整備であった.本稿では集合論的記法を応用し,プライバシにかかわる情報と個人の関係性を具体的に表記し,明確に議論する方法論を提案する.さらに,この記法を用いて情報の共有範囲の表記,情報とコンテクストの関係表記,プライバシの状態遷移の表記を行い,この記法の効果を確認した.また,実際に課題としてプライバシに関する議論がなされた実例への適用を行いこの記法の有効性の検証を行った.
著者
桑原教彰 野間 春生 鉄谷信二 萩田 紀博 小暮 潔 伊関 洋
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.2638-2648, 2003-11-15
被引用文献数
15 17

医療事故に結び付く可能性のある看護業務の作業環境を改善していくことが求められている.医療事故の原因分析には,事故に関係した医療従事者の行動履歴の情報が重要である.本論文は,看護行為を妨げないウエアラブルセンサにより,看護師の1日の行動を自動計測して,看護履歴を作成するために必要なデータを自動的に収集する手法を提案する.まず看護行動の自動計測方法の基本方針を述べる.次にこの方針に基づいて,音声入力,歩数,姿勢の傾斜角,に着目したウエアラブルセンサを試作し,実際の医療現場で本手法の有効性を示す.具体的には,歩数,上半身の傾斜角だけから日常的に頻繁に実施される看護業務がいくつかに大きく分類できることを示し,その結果と音声認識を組み合わせることで,実際の医療現場で収集したサンプルデータに対して,音声認識単独の場合より高い識別率で看護業務を識別できたこと,および,記録されたデータを看護師の実際の看護記録と比較して,この自動計測法では従来の看護記録には記録されない予定外の行動を含む履歴が残されたことを示す.In order to improve the quality of medical service, we propose a method for auto-event-recording of nursing operations with little disturbance of their moves. We've developed the wearable sensors to allow recording the type of job units by recognizing their voices, the number of foot steps and their physical postures. Several experiments are made by using these sensors at a hospital. Experimental results show that we can categorize the nursing jobs most frequently operated by the nurses, by analyzing data of their foot steps and physical postures. Then, by utilizing this result with the speech recognition, the nursing record is reconstructed, better than that by using only the speech recognition. Finally, by comparing the reconstructed nursing records with the actual ones, we show that our sensors can record the nurse's jobs that are missed on the actual nursing records.