著者
和久 紀子
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.72-80, 2016 (Released:2018-10-06)
参考文献数
16

本研究目的は,広汎子宮全摘出手術ならびに準広汎子宮全摘出手術後の患者が排尿訓練において体験していることを,ありのまま明示することである。本研究では参加観察法と非構造化面接法にて収集した研究参加者3 名のデータをThomas らの現象学的研究方法に基づき分析した。結果として8 つのテーマが導かれた。また,広汎子宮全摘出手術ならびに準広汎子宮全摘出手術後の患者の排尿訓練における気持ちや捉え方の揺れ動きが示されるとともに,このような患者の揺れ動きはそれまで意識する必要もなく働いていた身体の在り方が突然変化したことで生じたと考えられた。患者は排尿訓練を通じて日常生活の前提として自然な形で営まれる排尿の在り方を取り戻そうとしていることから,医療者は排尿に関する測定値とともに患者がその身で実感する排尿の変化にも深い関心を寄せ,患者の実感に基づく排尿の回復に寄り添うことが必要と考えられた。
著者
米村 法子 福井 里美 勝野 とわ子
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.167-175, 2017 (Released:2019-10-14)
参考文献数
25

目的:本研究は,熟練した精神科看護師による統合失調症者の術後疼痛の判断を明らかにすることを目的とした. 方法:精神科経験3 年目以上で外科系病棟での勤務経験もある看護師9 名を対象に半構造的面接を行い,質的帰納的に分析した.結果:熟練した精神科看護師による統合失調症者の術後疼痛の判断として【手術侵襲の影響と回復状態からの判断】,【幻覚・妄想からの判断】,【疼痛時・不穏時・不眠時指示薬からの選択の判断】,【言語的表現と客観的情報の整合性からの判断】,【複数の立場からの判断】の5 カテゴリーが明らかとなった.考察:【幻覚・妄想からの判断】,【疼痛時・不穏時・不眠時指示薬からの選択の判断】は術後疼痛のある統合失調症患者への特有の判断と考えられた.これらの判断には難しさを伴い,看護師が 仮説的に判断してケアを行うことや,熟練した精神科看護師が中心となって振り返る機会がより求められる.
著者
國方 弘子 中嶋 和夫 沼本 健二
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.249-255, 2008-03-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
29
被引用文献数
2

本研究の目的は,統合失調症者,精神障害者家族会会員,一般住民のQOL値を比較検討することである。対象は,在宅生活をしながら病院のデイケアに通所している124名の統合失調症者,315名の精神障害者家族会会員,中小企業に勤務する172名の一般住民であった。QOLの測定は,WHOQOL-BREFの日本語版(WHOQOL-26尺度)で行った。分析は,まず,WHOQOL-26尺度の本対象における構成概念妥当性を検討し,次いで3つの群のQOL値を分散分析を用いて比較した。結果,身体的領域と社会的関係のQOL値に有意差があり,統合失調症者が最も低かった。統合失調症者が有意に高い項目は,「健康と社会的ケア:利用のしやすさと質」であった。逆に,低い項目は「医薬品と医療への依存」と「性的活動」であった。この結果は,ノーマライゼーションの視点を加味した上で,考察された。
著者
楠本 泰士 松田 雅弘 高木 健志 新田 收
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.82-88, 2018 (Released:2019-03-25)
参考文献数
20

【目的】青年期軽度発達障害児と健常児の静的・動的バランスの特徴を明らかにすることとした。 【方法】対象は軽度発達障害児24 名(15 ~ 16 歳),健常児29 名(15 ~ 16 歳)とし,膝伸展トルクと重心動揺検査を対応の無いt 検定,線上歩行の失敗の有無をχ2 検定にて検討した。また,発達障害児における線上歩行の踏み外しの有無で2 群にわけ,各パラメータを対応の無いt 検定にて検討した。 【結果】発達障害児は健常児と比べて,重心動揺が多くの項目で開眼・閉眼ともに発達障害児の値が大きく,ロンベルグ率に差はなかった。線上歩行の踏み外しは発達障害児が多かった。線上歩行を踏み外した発達障害児は,閉眼での左右軌跡長が長かった。 【結論】青年期軽度発達障害児は健常児と比べ下肢筋力や静的・動的バランスが低下していた。線上歩行を踏み外した発達障害児は,踏み外さなかった発達障害児と比べて静的バランスが低下している可能性が示唆された。
著者
岩上 さやか 杉原 素子
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.151-158, 2014-12-25 (Released:2017-10-27)

本研究は,回復期リハビリテーション病棟に入院した脳血管障害患者がその入院生活時に何をきっかけに自身の生活に再び目を向けることができたのかを探ることを目的とした。入院生活時に自身の病前生活に目を向けていたと判断され,現在地域生活を行っている3名に対し,半構造化面接を行い得られた資料の分析を行った。資料の内容分析を通して5つの共通項目が得られた。それらは「病前生活での自身の役割の明確な再認識の機会」と「作業療法場面での家事活動」が,生活に目を向けるきっかけとして,「病前の具体的な役割の存在」「前向きな考え方」「病気の体験を今後の生活にプラスに活かす姿勢」が,きっかけを導く背景の項目として挙げられた。このことから,患者一人ひとりの病前の役割や習慣的な活動を訓練に活かす事が,生活に目を向けるきっかけとなる可能性が示唆された。今後,患者の病前生活の情報を得る技能が必要になると思われた。
著者
多田羅 光美 國方 弘子
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.5-13, 2013-06-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
19

研究目的は,精神障がい者の希望を引き出す精神科看護職の看護活動の構造(希望を引き出す看護活動)について,構造方程式モデリングを用いて,その構成概念を概念上の一次元性ならびに外的基準との関連から明らかにすることである。方法は,単科精神科病院に勤務する看護職95名を対象に,属性と希望を引き出す看護活動調査票を用いた。希望を引き出す看護活動は3下位概念をもち,3下位概念を反映する80項目からなる調査票を作成した。80項目の項目削減をした後,残った項目を用いて,3下位概念を一次因子,希望を引き出す看護活動を二次因子とする二次因子モデルを仮定し,モデルのデータへの適合度を確証的因子分析で検討した。また,経験年数と希望を引き出す看護活動との関連を検討した結果,精神科看護職経験年数と希望を引き出す看護活動は低い正の関連を示した。
著者
森田 牧子 渡辺 多恵子 山村 礎 習田 明裕
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.14-22, 2018 (Released:2018-11-25)
参考文献数
17

本研究は在宅精神障害者を支援する訪問看護師が,虐待まで至らない不適切な介護に対応する中で生じる困難感について,その実態を明らかにすることを目的とした。全国訪問看護事業協会に登録している訪問看護ステーションの訪問看護師を対象に自由記載質問紙調査を実施した。136 名の看護師から回答が得られ,質的帰納法を用い分析を行った。その結果,不適切な介護を認識した看護師に生じる困難感として,看護師は【問題とする事実を表面化する難しさ】【虐待者と被虐待者に同時にケアする難しさ】を感じ,家族と関係構築が出来ているために生じる【虐待者に感情移入してしまう】困難を覚えながら訪問を行い,【介入することのためらい】【多職種と認識を共有できないジレンマ】を感じていた。虐待のグレーゾーンという状況に介入する上で重要となる客観的な判断力と連携力を向上させる教育体制,そして看護師の心的負担を軽減する環境の整備の必要性が示唆された。
著者
山口 徹 竹井 仁 安彦 鉄平
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.191-198, 2012-03-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
16

本研究では健常成人男性10名を対象に,超音波診断装置を用いて,座位における骨盤肢位の違いや股関節屈曲運動の有無による大腰筋の形態変化を検討した。骨盤前傾位・中間位・後傾位において,超音波診断装置を用いた大腰筋の測定では各腰椎部における検者内信頼性はほぼ良好であり,骨盤肢位の違いによる測定の信頼性が示された。骨盤前傾位・中間位・後傾位と各肢位から股関節屈曲運動を行う計6肢位において,大腰筋の筋厚の測定を行い,検討した。全腰椎において,大腰筋は骨盤前傾位及び前傾位から股関節屈曲運動時が骨盤中間位・後傾位に比べ有意に厚くなり,骨盤中間位・後傾位から股関節屈曲運動時が骨盤後傾位に比べ有意に厚くなった。これは大腰筋が骨盤肢位や股関節屈曲運動によって筋形態の変化が生じることを示した。この結果を踏まえ,臨床における様々な活動時の大腰筋の筋形態を超音波診断装置を用いて定量的に解析できる可能性が示唆された。
著者
相原 彩⾹ ⾕村 厚⼦
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.24, 2018

【⽬的】回復期病院に⼊院中の脳卒中患者を対象に⾯接を実施し,退院後⽣活に関する認識の要因を検討した1 事例を取り上げ報告する.【⽅法】回復期病院に⼊院し,⾃宅退院予定の50 歳代男性の初発脳卒中患者に対し,退院後⽣活の認識について半構造化⾯接を3 回実施した.データ分析には複線経路等⾄性モデル(Trajectory Equifinality model:以下TEM)を⽤い、退院後⽣活の認識を等⾄点として描いた.得られたデータを試作的なTEM 図として描き可視化し,2 回⽬以降の⾯接で対象者に呈⽰した.筆頭筆者の解釈に誤りがないか,不明確な内容や疑問点を対象者と確認・修正することでデータの信頼性を担保し,TEM 図を完成させた.【結果】対象者の語りから,Ⅰ期「社会と距離を置く」Ⅱ期「⼀度は改善を実感するが復職への不安が募る」Ⅲ期「外泊により退院後⽣活のイメージが具体的に湧く」Ⅳ期「障害を受け⼊れ付き合っていく」のⅠ〜Ⅳに区分されたTEM図が描けた.【考察】脳卒中患者の退院後⽣活の認識に関わる要因をTEM図で描くことで,⼼⾝機能の回復だけを⽬的とした⽀援を提案するのではなく,その⼈の社会との関わりや思いの変化の時期を理解し捉えた上で⽀援を提供する重要性,さらにその⼈が経験する出来事の気持ちの変化や受け⽌め⽅を捉え働きかけることが,退院後⽣活の認識を促進し,障害と向き合うことに繋がると考えられた.
著者
清水 洋治 須永 遼司 宇佐 英幸 市川 和奈 小川 大輔 畠 昌史 松村 将司 竹井 仁
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.200-209, 2016 (Released:2018-09-26)
参考文献数
18

本研究の目的は,条件の異なるスクワット動作遂行中における下肢関節角度の関係と下肢関節間の運動比率の存在,筋活動量の特性を明らかにすることとした。対象は,健常成人男性8 名とした。運動課題は,足圧中心の3 つの異なる条件(1:中間位,2:前方位,3:後方位)での両脚スクワット動作とした。結果,3 条件とも股関節角度に対する膝・足関節角度の関係は,直線回帰式で示せた。股関節角度を基準とした膝・足関節角度の運動比率(膝/股比,足/股比)は,3 条件とも一定に推移したがその値は条件間で異なり,条件1・2 ではそれぞれ1.1,0.4,条件3 では0.9,0.2 となった。筋活動量は3 条件とも,大腿直筋,内側広筋,外側広筋,前脛骨筋の活動が動作開始から終了にかけて有 意に増加した。前脛骨筋のみ動作間の違いがあり,条件2,1,3 の順で有意に活動量が多かった。本研究より,スクワット動作では下肢関節間に一定の運動比率が存在したが,その値は足圧中心位置により異なり中間・前方位より後方位で小さいことが示された。
著者
梅森 拓磨 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.201-207, 2019 (Released:2019-10-05)
参考文献数
18

目的:前方リーチ動作における下部体幹の運動は,姿勢制御のために肩関節屈曲運動に先行して,運動を行う反対側に体幹側屈運動が起こると言われている.一方で,運動を行なっていない側の鎖骨,肩甲骨からなる肩甲帯を含む上部体幹の動きについての報告は渉猟した限り認めない.今回,健常成人男性の前方リーチ動作ではリーチ動作を行なっていない側の肩甲帯がどのように動いているかを解析し,その結果をもとに,運動を行なっていない側の肩甲帯の動きについて,体幹運動の影響の違い,および利き手と非利き手による違いを姿勢制御の観点から検討することである. 方法:右利き健常男性6 名(年齢平均27.8 ± 2.5 歳)の前方リーチ動作時の非運動肢肩甲帯挙上角度を三次元動作解析装置にて測定した.各組み合わせ(利き手・近位条件,非利き手・近位条件,利き手・遠位条件,非利き手・遠位条件)について,フリードマン検定を用いて統計解析を行った. 結果:到達時では,非利き手・遠位条件群に,最大角度では利き手・遠位条件群にそれぞれ有意差を認めた. 考察:非運動肢肩甲帯を用いて姿勢評価定量的に行える可能性があること,また,損傷側や運動麻痺側が利き手か非利き手かによって,到達する上肢機能のレベルが異なることが示唆された.
著者
長谷 龍太郎 山田 孝
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.256-267, 2007-03-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
83
被引用文献数
1

作業療法は治療における推論を重視し,クリニカルリーズニングとして教育している。この概念の実践場面における利用についての文献研究を行った。我が国における1983年から2005年までの検索では,クリニカルリーズニングに言及した論文は4篇あり,精神障害と発達障害の症例に対する介入変更をリーズニングの類型から分析したものと教育方法の影響に関する調査研究であった。欧米における1956年から2005年までの検索の結果,該当した論文数70編であった。 93年までの論文はクリニカルリーズニングの概念や類型を議論するものであって,それ以降は新たなクリニカルリーズニング概念の概念枠組みは提示されておらず,従来のものが継続して用いられていた。論文は,作業療法の教育と臨床に関するものが過半数をしめており,クリニカルリーズニングが作業療法教育と臨床に関連していることが示されていた。特にPBLやEBPにおいてクリニカルリーズニングが重要であると考えられていた。一方で作業療法の教育および臨床に関連する論文を領域別に比較すると,精神障害領域の論文が少なかった。
著者
岩佐 由美
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.181-191, 2019 (Released:2019-10-05)
参考文献数
22

目的 国内の女性の健康課題に関する研究パラダイムの変化を知り今後に示唆を得ることを目的とした。 方法 「女」「婦」「母」をキーワードに医学中央雑誌で検索した1980 ─ 2014 年の論文タイトルの語を分類する分野と対象者の2 系統のコードを作成し,テキストマイニング法で分析した。コードを健康課題解決のための研究パラダイムと捉え5 年ごとに分析した。 結果 29,082 論文がコーディングされた。対象者コードのうち妊産婦に分類された論文が全体の30.9%だった。1990 ─ 94 年は40.0%,2005 ─ 09 年は24.2%だった。分野コードのうち周産期が最多だった。1994 年以前は感染症,薬物,周産期が多く,1995 年から運動器,月経が多かった。2000 年以降は心理,育児,睡眠疲労が有意に増加した(P < 0.05)。 考察 産み育てる性である女性の健康が研究パラダイムの中核であったが減少し,1990年代から2000 年代に広範なライフサイクルの女性の身体や生活習慣へ,2010 年頃に向けて介護,育児等の役割の困難さへ,シフトしたと考えられた。
著者
宇佐 英幸 竹井 仁 畠 昌史 小川 大輔 市川 和奈 松村 将司 妹尾 淳史 渡邉 修
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.155-164, 2011-12-25

健常者24名(男女各12名)を対象に(平均年齢:男性21.3歳女性20.6歳),大腿・骨盤の動きと仙腸関節・腰仙関節・腰椎椎間関節の動きを,腹臥位と腹臥位・膝関節伸展位での股関節5・10・15°伸展位,15°伸展位から10・20N・mの伸展方向への加重を大腿遠位部に加えた肢位の6肢位で撮像したMRI(Magnetic Resonance Imaging: 磁気共鳴画像)を用いて解析した。結果,男女とも,股関節伸展角度の増加に伴って,大腿は骨盤に対して伸展し,骨盤は前傾した。股関節非伸展側の仙腸関節では前屈,第3/4・4/5腰椎椎間関節と腰仙関節では伸展の動きが生じた。しかし,第3/4腰椎椎間関節を除く各部位の動きは,10N・m加重時と20N・m加重時の間では女性だけにみられた。これらの結果から,他動的一側股関節伸展時の腰椎骨盤-股関節複合体を構成する関節の正常な動きが明らかになった。
著者
立山 清美 山田 孝 清水 寿代
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.231-239, 2013
参考文献数
16

本研究は,日本版の青年・成人前期向けの感覚調整障害を評価する質問紙の開発を最終的な目的とし,その質問項目の選定への示唆を得るために,JSI-Rを大学生および専門学校生120名に実施した。その結果,前庭感覚・触覚・固有受容感覚では,幼児期よりも大学生および専門学校生の方が出現率の低い項目が多く,聴覚・視覚・嗅覚・味覚では,大学生および専門学校生の方が出現率の高い項目が多かった。その要因として,前者では年齢や成長により楽しめる活動や感覚探求の行動が変化していること,聴覚・視覚・嗅覚・味覚は回答者が自覚しやすく,チェックがつきやすいことが考えられ,日常生活に支障をきたすくらいになど,基準を示す必要性が示唆された。
著者
渡邊 淳子 恵美須 文枝 勝野 とわ子
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.21-30, 2010
参考文献数
26

目的:本研究の目的は,熟練助産師の分娩第1期におけるケアの特徴を明らかにすることである。本研究においての熟練助産師とは,助産師として20年以上の経験をもち,さらに分娩介助の経験が1,000件以上ある助産師をいう。研究参加者は4名の助産師であり,それぞれの助産師が関わった9例の分娩を参加観察し,援助場面を中心に半構成的インタビューを実施した。分析の結果,<経過における特徴的な反応を生かしたケア><からだのバランスを調えるケア><自然な流れを尊重したケア><家族の出産を演出するケア><産婦自身の力を引き出すケア>の5カテゴリーとそれに含まれる12のサブカテゴリーが抽出された。熟練助産師は,自然分娩に対する自己の信念を持ち,経験から導かれた感覚を用いて判断し,それに基づいたケアを行っていた。
著者
吉澤 寿
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.116-121, 2007-09-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
19

神経性食思不振症(AN)を基礎疾患に有する18歳の女性の症例において,比較的稀な消化管壁内に多発性の気腫を示した腸管気腫性嚢胞症(PCI)の症例を経験したので報告する。ANに伴う自己誘発性嘔吐,無月経,甲状腺機能低下を示し,慢性的な便秘も有していた。腹部膨満感が出現したため,某院救急外来を受診した。腹部単純X線写真,腹部CT検査にて,腹腔内遊離ガスと上行結腸から脾彎曲部に線状の腸管壁内ガス像を認め,PCIと診断され,高圧酸素療法(HBO)目的で当院紹介入院となった。安静,絶飲食とし,1日170分,週5日間のHBOを開始した。自覚症状の軽減を認め,第6病日より飲食を再開した。腹部単純X線写真にて腸管壁内ガス像の改善を認めたため第17病日退院とし,外来にて1日85分,週5日間のHBOを実施した。HBO開始1ヵ月後の腹部単純X線写真にて病変は消失し,HBOを終了した。本例は,高度の便秘症と自己誘発性嘔吐から腸管内圧上昇をきたし,PCIを発症したと推察された。
著者
山崎 幸子 藺牟田 洋美 橋本 美芽 繁田 雅弘 芳賀 博 安村 誠司
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.20-27, 2008-06-25

本研究では,都市部在住高齢者における閉じこもりと家族関係,社会関係の特徴を検討し,閉じこもり予防・支援のための基礎資料を得ることを目的とした。東京都A区在住の65歳以上の住民に対する郵送調査の有効回答者3,592名から,要介護者等を除き,訪問許可のあった閉じこもり95名,性別と年齢,移動能力をマッチングさせた非閉じこもり95名を対象とした。調査完了者は閉じこもり69名,非閉じこもり73名であった。分析の結果,閉じこもりは,1.同居家族との会話が少なく,同居している他世代との家計が一緒である傾向が示され,2.同居家族がいる場合には家庭内における役割が少なく,3.居宅から30分以上の距離圈における交流人数や,情報的サポート,外出援助に非閉じこもりと差異があることが確認された。以上から、閉じこもりの同居家族に対する情緒的依存傾向や,周囲との関係性が非閉じこもりと異なっていることが推察された。
著者
山内 寿恵 山田 孝
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.98-104, 2005-09-25
被引用文献数
1

クライアント中心の作業療法である「カナダ作業遂行モデル」に基づく「作業遂行プロセスモデル」による介入を試みた。これはクライアントが問題の優先順位を決め, 行動計画を立て実践し評価するために作業療法士と協業することを目指している。しかし筆者は, 彼らの掲げる問題を解決しても彼らの生活になんら益することがない, あるいは明らかに実現不能な問題に固執するケースも経験し, 協業のあり方について確信が持てずにいる。クライアントの問題が持つ意味を知ることの重要性を認めるが, 評価ツール「カナダ作業遂行測定」ではそれを理解し難いことが多かった。そこで「作業遂行歴面接第2版」を導入したところ, 生活歴叙述がクライアントの人生観や彼らが作業に与える意味を共感する一助となり, 協業のあり方について考察を得たので報告する。