著者
宮崎 滋 石田 美恵子 久保 善明 中川 高志 川村 光信 松島 照彦 林 洋 片岡 亮平 内藤 周幸
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.803-812, 1983

両側副腎皮質結節性過形成によるCushing症候群に,左副腎褐色細胞腫を合併した症例を経験した.この2疾患の合併の報告はこれまで見られていない.症例は46才,女性.主訴は皮疹,高血圧で,満月様顔貌,中心性肥満を認めた.内分泌学的検査では, ACTHは測定感度以下, cortisolは高値で, cortisol,尿中17OHCSはdexamethasone大量にて抑制されず, metyrapone, ACTHには過剰反応を示した.副腎シンチで両側とも描出され,副腎静脈撮影で円形の血管圧排像が見られた. CTで左副腎の腫大を認め, 1979年10月左副腎を摘出し,皮質結節性過形成に褐色細胞腫の合併が判明した. ACTHとcortisolとの間には逆相関がみられ,術後一旦cortisolが低下するとACTHは増加し,それに従つてcortisolが上昇するとACTHは低下した.このことは下垂体と副腎との間に二元支配の存在を疑わせるもので,相互に刺激・抑制を繰り返しながら徐々にnegative feedbackの作動点が上昇し,結節性過形成を生じるのではないかと考えられたが,視床下部・下垂体だけではなく副腎自体にも何らかの異常が存する可能性もあると思われた. ACTH分泌抑制の目的でbromocriptineを投与し, ACTH・cortisolは一旦低下し臨床症状も改善したが, 1年後には悪化した. Cushing症候群と副腎褐色細胞腫の関係は,術後ACTHの上昇を認めたので異所性ACTH症候群ではないと思われ,多発性内分泌腺腺腫症としての2疾患の合併の可能性も考えられず,現在までのところ明らかではない.
著者
中田 邦也 早川 みち子 横野 浩一 内海 正文 吉田 泰昭 老籾 宗忠 馬場 茂明
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.528-532, 1986
被引用文献数
1

症例は38才,主婦.身長156cm,体重65kg.満月様顔貌,中心性肥満,高血圧を示し, Cushing症候群が疑われ当科へ入院した.尿中170HCS高値,尿中17KS正常で,血漿cortisolは常時高値で日内リズムは消失し,血漿ACTHは常時測定感度以下であつた. dexamethasone 2mgおよび8mg負荷で共に血漿cortisol,尿中170HCSの抑制はみられず, metyrapone 3g負荷でも尿中170HCSは増加反応を示さなかつた.また, CTscan,副腎シンチ,血管造影等各種画像診断にて両側副腎腫瘍が疑われた.手術にて右副腎に25×21mm,左副腎に18×14mmの腫瘍を摘出し,組織学的に共に腺腫と診断された.
著者
柳澤 信夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.440-445, 1990-04-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

意識障害患者の診断には,状態と原因それぞれの診断のための検査を必要とする。まずおこなうべき検査は病態の増悪を防ぐためのものであり, vital signをチェックし,救急処置と並行して血算,電解質,血糖,血液ガスを調べる.また原因の見当付けには年令,経過,呼吸パターンなどが有用である.さらに全身疾患か脳の一次的病変の確認のために検査をすすめるが,脳疾患の意識障害の診断には脳CT,脳波,髄液検査が重要である.
著者
犬飼 敏彦 萩原 修 今 陽一 藤原 隆 吉江 康正 冨澤 貴 柁原 昭夫 小林 節雄 森松 光紀
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.423-429, 1983
被引用文献数
5 2

我々は, Adie症候群,分節性無汗症,起立性低血圧を伴つた皮膚筋炎の1例を経験し,類推例を見ない極めて希な症例と思われたので報告する.症例. 30才,女性.主訴:発熱,咳嗽.現病歴: 1979年8月上旬より両側下肢に関節痛,筋肉痛および筋力低下を自覚, 9月15日より約38°Cの発熱,咳嗽をきたし, 17日当科受診.四肢近位筋の萎縮およびGOT, GPT, LDH, CPKなどの高値と間質性肺炎像が認められ26日入院.筋電図,皮膚および筋生検組織より皮膚筋炎と確診. steroidの投与により皮膚筋炎に基づく臨床症状および検査所見は改善した.一方,初診時より両側性瞳孔緊張,深部反射消失を認め,またmecholyl点眼により両側に著明な縮瞳を確認し,両側性Adie症候群の完全型であると診断.また自律神経機能検査より分節姓無汗症,起立性低血圧の存在も明らかとなつた. Adie症候群と自律神経異常との合併はよく知られており, acute pandysautonomiaの概念で把えられ病態生理学的な検討がなされている.特に無汗症との因果関係については,報告者により見解の不一致を見るが,本例においてはその臨床所見より交感神経節性障害,あるいは広範な節後障害が推測される.一方,他の疾患に伴う"症候性Adie症候群"の報告は蓄積されているが,本例の如く皮膚筋炎との合併例は,我々の検索した範囲では報告されておらず,貴重な症例と考えられ,その病態解明には今後の慎重な経過観察が必要であろう.
著者
小原 孝雄 中川 光二 慶松 元興 伊藤 宜人 国田 晴彦 嘉手納 成之 畑 俊一 大滝 幸哉 鈴木 邦治 中川 昌一 深津 亮 松浦 侯夫 大橋 晃
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.65, no.9, pp.906-912, 1976

"Periodic hormonogenesis"を示し,ヒステリー発作を契機に寛解したGushing病,およびreserpine投与下でのmetyrapone試験直後より,急性副腎不全症状を呈し,寛解に到つたCushing病の2症例を報告する.症例1. 16才,女性.軽度の肥満・頬部紅潮・〓瘡・皮膚線条を認めた.尿中17-OHCSは, 4~46mg/日の間を約10日間の周期で変動し,血中corticosteroidsもこれに並行. ACTHには明らかな過剩反応を示したが,他の負荷試験は変動のため判定困難.副腎シンチグラムでは両側過形成像,頭部X線検査でトルコ鞍正常,他臓器に異常なく, periodic hormonogenesisを示すCushing病と診断した.この周期性変動はdexamethasone 8mg/日18日間投与で抑制された.経過中ヒステリー発作を生じ,その直後から尿中17-OHCSは3~8mg/日となり,周期性も消失.その後はACTHには過剰反応を示したが,抑制試験・metyrapone試験は正常となつた.症例2. 21才,女性.無月経で,中心性肥満・満月様顔貌・〓瘡・皮膚線条・高血圧を認めた.尿中17-OHCSは20~40mg/日で血中corticosteridsも高値.抑制試験は少量では非抑制, 8mg/日4日間投与で抑制された. metyraponeには過剩反応,副腎シンチグラムでは両側過形成像. reserpine投与下でのmetyrapone試験直後より副腎不全症状を呈し,尿中17-OHCSは1~5mg/日となり, Cushing病の諸症状改善.寛解後は, ACTHに過剩反応, metyraponeには無反応であつたが,他のホルモン系には障害はなかつた.
著者
小田桐 恵美 出村 博 出村 黎子 野村 馨 肥塚 直美 成瀬 光栄 鎮目 和夫 田中 芳雄 大内 広子
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.1573-1580, 1981
被引用文献数
3

妊娠により臨床症状の著明な悪化をみ,妊娠中絶により臨床症状の改善をみたCushing症候群の1例を経験した.さらに本例について妊娠に伴うCushing症候群の増悪因子についても,若干の検討を加えたので合わせて報告する.症例は満月様顔貌,全身倦怠感を主訴として来院した28才,主婦.昭和47年尿路結石.昭和49年重症妊娠中毒症にて第1子妊娠中絶.昭和51年第2回妊娠中に主訴が増悪したため入院精査.血漿cortisoi (以下F),尿中遊離Fは共に高く日内変動が無く, dexamethasone大量にても抑制の認められない腺腫型の反応を示した.本例の臨床経過は妊娠2カ月頃より徐々に増悪したと考えられ,妊娠中毒症状も高度のため妊娠5カ月にて中絶術施行.中絶後は血漿,尿中遊離F共に急速に下降し,変動していた血圧も140/100mmHg前後に安定.中絶後cushing症候群の妊娠による増悪因子について検討した.まずHCGは血中hormone動態に変化をきたさなかつたが, estrogenでは血圧の上昇,血漿,尿中遊離Fの軽度上昇が認められた.さらに娩出時の胎盤をPayne法にて抽出したところACTH活性が証明された.本例はACTH反応型腺腫であつたが, estrogenとACTHの同時投与による血漿および尿中遊離Fの相乗的増加は明らかではなかつた.以上より本例の妊娠によるCushlng症候群の増悪因子の一つはestrogenであり,その他胎盤性ACTHや妊娠時の種々のfactorが本例の臨床症状をmodifyしたものと推測された.
著者
村瀬 弘 中嶋 正敏 伊藤 幸郎 島本 達夫 小川 小夜 前沢 秀憲
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.765-769, 1973
被引用文献数
2

膵十二指腸動脈瘤を術前に診断し,摘出に成功した1例を報告する.膵十二指腸動脈瘤の報告は,今日までに18例にすぎず,希な疾患とされている.手術成功例は9例,術前診断例は2例である.本邦ではまだ報告がなく,本症例が第1例である.患者は48才の主婦.生来健康であったが,昭和47年5月頃から腰痛が続く.近医で第3腰推右側の直径約3cmの半円形石灰化像より腹部大動脈瘤を疑われ,8月31日に当科受診した.胸部,腹部に異常所見はなく,血圧142/84.検査では,血清アミラーゼ値の一過性異常, PS試験で膵外分泌能低下,糖負荷試験で糖尿病型を示すほか,とくに異常はなかつた.動脈撮影で,前下および前上膵十二指腸動脈におのおの1個の動脈瘤を認めた.前下膵十二指腸動脈瘤壁は,前記石灰化像と一致した. 11月30日開腹し, 2個の動脈瘤を摘出した.ともに動脈硬化性であつた.術後は一過性に膵液のうつ帯をきたしたが,以後の経過は良好で,昭和48年2月13日に退院した.
著者
岡本 和彦 梅野 守男 高木 宏治 永野 修司 武田 誉久
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.727-729, 1998-04-10
参考文献数
8
被引用文献数
1

症例は69歳の女性患者. 55歳よりうつ病と診断され,トリプタノール<sup>®</sup>(amitryptyline) 20mg/day,アモキサン<sup>®</sup>(amoxapine) 25~75mg/dayを内服していた.平成8年8月6日,起床時から意識障害,発熱,筋強直,頻拍,発汗が出現したため,当院に入院となった.入院時の血液検査では白血球増加, CPKの上昇を認め,抗うつ薬の服用歴と臨床症状および検査成績より悪性症候群を疑い,抗うつ薬投与を中止した.しかし,第2病日目より呼吸不全,血小板減少, FDP上昇を呈し, DICの併発を考えた.これらに対して,ソルメドロール<sup>®</sup>(methylprednisolone sodium succinate)とFOY<sup>®</sup>(gabexate mesilate)の投与を行い経過は良好であった.我々は,長期にわたり少量の抗うつ薬の内服中に,明らかな誘因もなく悪性症候群を発症し呼吸不全, DICを併発し救命しえた稀な症例を経験したので報告した.
著者
都田 梅司 谷川 久一 奥田 邦雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.547-550, 1971-06-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
10

47才の男性.狩猟にて捕獲した野兎を生食し, 2日後に発熱,頚部リンパ節の腫大を来たし,野兎病の疑いで入院.理学的所見では,両側頚部リンパ節腫大,口蓋扁桃軽度腫大を認め,他に著変なく,検査で白血球増多を認めた他は著変がなかつた.リンパ節の組織所見は好中球の浸潤強く,小膿瘍形成を示した.血清凝集反応で, Francisella turalensis陰性, Brucella陰性,Pasteurella multocida陽性で,凝集価は経日的に上昇した.また患者の長男も同様に生肉を食したが,臨床症状の発現はなく,血清凝集反応のみが陽性で,不顕性感染と思われる. a. b. penicillin投与により約1週間で発熱下降,約2日でリンパ節は縮小し,白血球増多も消失した.ヒトにおけるPasteurella multocida感染の報告は外国では今日まで138例あるが,本邦では最初と考えられる.

1 0 0 0 OA 1.内視鏡診断

著者
門馬 久美子 吉田 操 榊 信廣
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.28-35, 2000-01-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
10

胃・食道逆流症(gastroesophageal reflux diseases: GERD)とは,食道内酸逆流により引き起こされる病態すべての総称であり,自覚症状あるいは,他覚所見を有するものである.食道粘膜への過剰な刺激は,食道粘膜の炎症性変化を起こすが,有症状者でも内視鏡有所見者は半数程度であり,自覚症状と粘膜所見の間には乖離がある.内視鏡にて観察される食道炎の大半は,上皮の欠損によるびらん・潰瘍性の変化であり,食道・胃接合部から口側へ,連続的あるいは非連続的に広がり,食道・胃接合部に近い下部食道に最も変化が強い.内視鏡所見を分類するには,ロサンゼルス分類,あるいは,食道疾患研究会の新分類案が使用されている.
著者
下条 文武 成田 一衛
出版者
日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.1310-1315, 2006-07-10
被引用文献数
1

平成16年9月中旬以後, 新潟県北部の血液透析患者に原因不明の急性脳症が多発し, 死亡例も発生した. 私どもは, 関連病院の透析担当主治医から, 発症者のなかにスギヒラタケ摂取後に発症した症例があるとの情報を得たので, この事実に注目し, スギヒラタケ摂取との関連性について全国の日本腎臓学会員に情報提供を呼びかけた. その結果, スギヒラタケ摂取と急性脳症の発症に強い関連がある32症例の情報を得, 致死率が約30%に及ぶ重篤な臨床経過をとる脳症であることがわかった.
著者
川並 透
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.1323-1327, 2006-07-10
被引用文献数
1 1

スギヒラタケの関与が疑われる脳症の神経画像は, 両側島皮質下白質がT2強調MR画像で高信号, CT画像で低吸収域を呈する特徴を示す. 同様の画像変化は大脳皮髄境界部に散在したり, 両側基底核に出現することがある. 神経病理学的報告は, 髄鞘崩壊とグリオーシスを特徴とする2例とマクロファージの出現を伴う壊死巣を認めた2例がある. 4例とも炎症性病変は否定的で, 橋-橋外髄鞘崩壊症に類似した病態が推定される.
著者
鳥本 悦宏 高後 裕
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.10, pp.2005-2009, 2006-10-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
5

鉄欠乏性貧血は最も頻度の高い貧血で, 我が国は欧米と比べてその頻度は高い. 日本人の鉄摂取量は年々減少傾向にあり, 30歳代から40歳代女性の4人に1人が貧血で3人に1人は鉄欠乏状態にある. 小球性貧血によって本症を疑い, 血清フェリチン値, 総鉄結合能により診断する. 血清鉄は本症に特異性が低い. 本症とピロリ菌の関与が注目されている. 治療の基本は経口鉄剤投与で, 非経口的鉄剤投与の場合過剰投与に気をつける.
著者
田辺 晃久 本間 康彦 兼本 成斌 日野原 茂雄 五島 雄一郎
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.323-331, 1984
被引用文献数
2 1

試作体位センサーによる体位情報とホルター心電図との同時記録から,虚血ST-T変化と体位ST-T変化との鑑別を試みた.対象は陳旧性心筋梗塞(OMI) 16名,狭心症(AP) 16名,健常例11名の計43名であつた.虚血ST変化はOMIで3/21件(14%), APで29/35 (83%)とAPに多く,体位ST変化はOMIで13/21 (62%), APで5/35 (14%)とOMIに多かつた.最大ST変化に至る時間は体位ST変化では10秒以内が18/25 (72%)と大多数を占めたのに対し,虚血ST変化では1分以上が28/32 (88%)と大多数を占めた.体位T変化についても10秒以内が15/18 (83%)と大多数を占めたのに対し,虚血T変化では10秒以内はわずか2/13 (15%)ときわめて少なかつた. CM<sub>5</sub>誘導における体位ST変化の20/22 (91%), T変化の19/21 (90%)は体位変換前後で標準12誘導心電図のV<sub>4</sub>, V<sub>5</sub>, V<sub>6</sub>のいずれかに対応して変化した.すなわち,これらの変化の原因は心軸回転で説明可能であつた.しかし,体位ST-T変化のうちST変化で2/22 (9%), T変化で2/21 (10%)は心軸回転で説明不能であつた. ST-T変化前に対する変化後の心拍数増加率(HR比)は虚血ST-T変化では高値例が多く,体位ST-T変化では少なかつた.とくにT変化でHR比1.3以上は虚血T変化の12/16 (75%)に対し,体位T変化では3/21 (14%)ときわめて少なかつた.以上より,ホルター心電図法の体位ST-T変化の虚血ST-T変化に対する鑑別点として, (1)ST-T丁変化の最大に至る時間, (2)標準12誘導心電図との比較, (3)心拍数増加の有無などの検討が重要と考えられた.
著者
細谷 泰久 西田 修 原田 秀樹 日下 輝年 波田 重英 坂 洋一 堀井 充 大野 辰治 杉山 建生 井上 文彦 中井 妙子 水本 孝 古川 裕夫
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.298-300, 1995-02-10
被引用文献数
3

症例は生来健康な32歳男性.平成5年1月30日早朝より右上腹部痛を自覚し当院受診.血液,尿検査にて白血球11100/μl,逸脱膵酵素の上昇(血中アミラーゼ3128U,尿中アミラーゼ65000U)を認め,腹部USおよびCT検査で膵頭部の腫大,上腸間膜静脈から門脈本幹に拡がる血栓を認めた.急性膵炎及びそれに伴う門脈血栓症と診断し,膵炎の治療と並行してヘパリンの投与を行い門脈血栓の消失を確認した.急姓膵炎の経過観察において腹部USおよびCT検査が有用であるが,その実施に当たっては,門脈血栓の合併の可能性をも考慮する必要があると思われた.
著者
若田 宣雄 里吉 営二郎 木下 真男 高沢 靖紀
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.1399-1404, 1975

症例: 19才女子,会社員. 17才頃,ソフトボールの試合中,休んでいたら右上下肢の脱力が出現,約1日で回復したが,その後,運動後休息中によく脱力発作が起きるようになり,また,スイカを食べて少ししても起きるようになつた.父親も同じようにスイカを食べると脱力発作が生じるという.入院時,四肢近位筋のごく軽度の脱力と,わずかな叩打後筋不随意収縮を認めた. KCI5g経口投与により,血清カリウムは最高7.5mEq/<i>l</i>に達し,腰がふちつき,歩行困難となつた.また, 30分間,自転車をこいだのち休息していると,血清カリウムは3.7から4.7までしか上昇しなかつたが,やはり脱力発作が出現した.一方,ブドウ糖およびインスリン負荷試験では,血清カリウムは4.7から3.6まで変化したが,脱力発作は見られなかつた. acetazolamide 1g/日連続投与でも麻痺は起こらず,これらの結果から,家族性高カリウム血性四肢麻痺と診断した.しかし,麻痺は高カリウム血の時にのみ起きるとは限らず,過去にも,正カリウム血性として報告されたものが,のちに高カリウム血性として再報告されたこともあり,両者の区別は必ずしも本質的ではないと考えた.また, acetazolamideに対する態度などから,低カリウム性のものとも一部には共通点を有する面もあり,血清カリウム濃度の相違からのみ,周期性四肢麻痺の発現機序を論じることは正しくないのではないかと考えた.
著者
松村 潔 阿部 功
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.73-78, 2007 (Released:2009-12-01)
参考文献数
5

脳血管障害急性期には,著しい高血圧が持続する場合や血栓溶解療法を予定している場合を除いて,原則として積極的な降圧治療は行わない.一方,慢性期では,脳血流自動調節能の下限域が右側偏位するとともに脳血流の全般的な低下を伴っているので,臨床症状に注意しながら慎重な降圧治療が必要であるが,PROGRESS試験により降圧治療が脳卒中再発抑制に有用であることが示されている.降圧薬の種類により脳血管障害の再発抑制効果に差があるかどうか,脳卒中発症後の至適血圧値がどのレベルにあるかは今後の課題である.
著者
西川 政勝 渡辺 泰行 市岡 希典
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.1054-1061, 2000-06-10
被引用文献数
2 1

止血血栓と異なり,病的血栓である動脈血栓症は,粥腫プラークのびらんまたは破壊とそれに伴う血栓形成により動脈閉塞や狭窄をきたす疾患で,その初期病変は速い流れの中で生ずる血小板血栓である.内皮細胞が傷害されると内皮下組織に血小板がずり速度依存性に粘着・凝集し,種々の生理活性物質を放出し,血管内腔に向かう壁在血栓が形成される.これらの反応にはvon Willebrand因子が重要な役割を演じていると考えられる.血小板は,動脈血栓形成初期に中心的役割を演じているばかりでなく,動脈硬化の進展にも密接に関係している.各種の抗血小板剤が開発され動脈血栓症の再発予防ばかりでなく急性期の虚血性疾患の治療にも用いられている.深部静脈血栓症では,血流のうっ帯などがトリガーとなり血液凝固の活性化に伴うフィブリン血栓が主体であるが,血小板も関与すると考えられる.