著者
岩田 健太郎 野口 善令 土井 朝子 西本 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.289-302, 2013 (Released:2014-02-28)
参考文献数
64
被引用文献数
1 1

迅速診断検査(RIDT)とノイラミニダーゼ阻害薬(NI)が開発され,インフルエンザ診療の様相は激変した。しかし,RIDT の感度の低さ,副作用や薬剤耐性など NI の問題もあり,その診療は未だ最適とは言えない。そこで,インフルエンザをウイルスという「モノ」ではなく「現象」として認識し,漢方薬を治療選択に加えた診療意思決定モデルを開発した。まず患者の重症度を吟味し,重症・ハイリスク患者では RIDT に関係なく NI 点滴を基本とする。重症でもハイリスクでもない場合は,NI か漢方薬を患者に選択させ,前者の場合は検査前確率が50%未満で RIDT を用い,それ以上では事後確率への影響の低さから RIDT を行わない。漢方薬では「現象」を対象としているため,原則として RIDT は行わないものとした。本モデルでは RIDT を選択的に行うことで検査属性を活かし,かつ検査の乱用や誤解釈を回避することが可能になる。
著者
萬谷 直樹 岡 洋志 佐橋 佳郎 鈴木 理央 綾部 原子 鈴木 まゆみ 神山 博史 長田 潤 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.197-202, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
27
被引用文献数
17 14

甘草による偽アルドステロン症の頻度については十分にわかっていない。われわれは甘草の1日量と偽アルドステロン症の頻度の関係について,過去の臨床研究を調査した。甘草を1日1g 使用した患者での偽アルドステロン症の頻度は1.0%(平均)であった。1日2g,4g,6g での頻度はそれぞれ1.7%(平均),3.3%,11.1%(平均)であった。過去の文献において,偽アルドステロン症発症頻度の用量依存的な傾向が示唆された。
著者
伊藤 隆 木村 容子 大田 静香 山本 昇伯 須田 憲男 中澤 一弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.244-249, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
15
被引用文献数
4 4

こむら返りに対する芍薬甘草湯の効果は知られているが,近年,偽アルドステロン症の副作用が多く報告されている。こむら返りに用いることのできる漢方製剤で,甘草を含まないものが期待されている。今回,こむら返り患者26例(平均年齢70.7 ± 12.1歳)に対して,甘草を含まない漢方製剤である四物湯エキスを投与したところ,改善18例(69%),不変8例(31%)であり,前者の腹力は後者よりも推計学的に有意に低い結果であった。また,特に今回の有効例のうち,代表的な4例について詳述した。四物湯は貧血様症状に用いられてきたが,こむら返りには用いられて来なかった。四物湯は,芍薬甘草湯と同等の有効率であり,実証ではない高齢者で緊急性が求められない場合にはより用いられてよい方剤と考えられる。
著者
今津 嘉宏 金 成俊 小田口 浩 柳澤 紘 崎山 武志
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.121-130, 2012 (Released:2012-10-04)
参考文献数
17
被引用文献数
3 13

背景:モデル・コア・カリキュラムに「和漢薬を概説できる」の一項目が追加され,漢方医学教育が採用された。目的:2007年から漢方医学教育は全国80の医学部全てで行われている。その現状を把握し,大学における漢方医学教育の問題点や,今後漢方専門医等学会に課せられた問題のヒントを得ることを目的に,アンケート調査を行なった。方法:日本東洋医学会渉外委員会は,全国80大学の漢方教育に関するアンケート調査を郵送で実施した。結果:80施設中67施設から回答(回収率83.8%)を得た。漢方医学が医療にとって必要(91%),教育成果の評価のために試験実施(77%),教員養成を行っている(46%)などの結果を得た。結論:卒前の漢方医学教育カリキュラムの充実と,標準化,臨床実習の整備が必要である。今後は卒後教育の確立が必要と考えられた。
著者
山下 仁 丹野 恭夫 一幡 良利 西條 一止 高橋 昌巳
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.599-608, 1998-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

灸が末梢血の白血球動態に与える影響を明らかにするため, ウサギに4点各10壮, ヒトに8点各10壮の米粒大透熱灸を行い, 白血球数, 白血球分画の経時的変化を観察した。ヒトにおいてはフローサイトメトリーによるリンパ球サブポピュレーションの解析も行った。ウサギの平均白血球数は施灸群・対照群とも施灸後一過性に増加したが, 施灸群の方が平均増加量は大きかった。ヒト施灸群の白血球数と分画は変化しなかったが, 施灸後24時間の平均T細胞百分率が減少した。また施灸群のCD4/CD8比の平均は施灸後2時間で増加し24時間後に減少し, その変化は有意であった。一方, 対照群のCD4/CD8比に有意な変化は認められなかった。4週間連続施灸は白血球数, 分画, リンパ球サブポピュレーションに影響を与えなかった。このことから灸により生体の免疫機構は少なくとも一過性に影響を受けることが示唆された。
著者
守屋 純二 竹内 健二 上西 博章 赤澤 純代 元雄 良治 橋本 英樹 金嶋 光男 小林 淳二 山川 淳一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.87-93, 2014 (Released:2014-10-17)
参考文献数
25
被引用文献数
1

慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome : CFS)は6ヵ月以上持続する,休息後も改善しない強い疲労感を主症状とする。発熱,睡眠障害,頭痛などの症状を呈し,著しく生活の質が損なわれる。原因として,ウイルスによる先行感染,免疫学的な変調,中枢神経系の,特に海馬における形態的・機能的変化などが報告されている。しかし,明らかな原因は不明で,診断マーカーや治療法は確立していない。今回報告する症例は16歳男子高校生で,インフルエンザ罹患後の持続する発熱と強度の倦怠感などを主訴とした。既に複数の医療機関において約1年間の精査・加療を受けるも原因は不明で,CFSと診断された。当科紹介時に再度CFSの診断基準を満たすことを確認し,三黄瀉心湯エキス7.5g/分3とデュロキセチンを併用したところ,4週後には疲労・倦怠感は軽減した。しかし,熱型は不変,食欲低下を認めたため,補中益気湯エキス7.5g/分3を追加したところ,劇的に症状が改善した。西洋医学的に治療に難渋するCFS のような疾患に対して,漢方治療が有効な治療方法として使用できると考え報告する。
著者
土方 康世 山崎 武俊 二宮 文乃
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.7-14, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
18

目的:電磁波過敏症合併化学物質過敏症が疑われた患者に有効漢方処方の検討。方法:症状を中医学的に血瘀,陽虚,脾虚と弁証し,中国で半身不随に処方されてきた補気・活血・通絡作用のある補陽還五湯と補陽作用のある肉桂・炮附子を加えた補陽還五湯加肉桂,附子を投与。残存する下痢などの脾虚症状に,補脾作用のある黄耆建中湯を追加投与した。結果:長期にわたる頭痛,脱力発作,不眠などの QOL 低下が速やかに改善した。考察:補陽還五湯加肉桂,炮附子で補気・活血・通絡・補陽して先瀉し,黄蓍建中湯で後補して,化学物質過敏症および電磁波過敏症による諸症状改善に対し,有効である可能性が示唆された。
著者
永井 愛子 小川 恵子 三浦 淳也 小林 健
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.108-114, 2014 (Released:2014-10-17)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

放射線治療装置や技術の発展にも関わらず有害事象である腸炎や口内炎は存在する。半夏瀉心湯は腸炎や口内炎に対する効果が報告されている。放射線による腸炎や口内炎に対する半夏瀉心湯の有効例を経験したので報告する。腸炎3例,口内炎5例の計8例に対して症状出現後1-35日に半夏瀉心湯7.5g/日または18錠/日(適宜漸減)を投与した。腸炎と口内炎の重症度は内服前後でCommon Terminology Criteria for Adverse Events と Numerical Rating Scale で評価した。口内炎5例中,改善,不変,増悪は各々3例,1例,1例,腸炎3例中では各々2例,1例,0例であり,増悪はなかった。放射線治療中の腸炎や口内炎などの早期有害事象を制御することは患者の負担軽減のみならず腫瘍制御率改善にもつながる。今後より多くの患者に対するランダム化比較試験の報告が望まれる。
著者
伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.184-190, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3 8

一般用漢方製剤の副作用について,厚生労働省のホームページの副作用情報より,2005年度から2014年度の10年間の件数,内容と変化について検討した。一般用漢方製剤の件数は合計367件であるが,2014年度43件は2005年度16件に比較して3倍弱であり,全体としても増加傾向がある。内容としては,肝機能異常151件,薬疹・過敏症54件,肺障害51件が多い。原因製剤としては,防風通聖散110件,葛根湯45件,八味地黄丸15件,大柴胡湯14件が多く,防風通聖散と葛根湯による副作用事例は増えている。副作用の内容としては,防風通聖散には肝機能異常65件,肺障害23件であり,葛根湯には薬疹・過敏症が21件みられる。一般用漢方製剤により肝機能障害,肺障害などの医療対応を要する副作用が増えている現状は問題である。防風通聖散と葛根湯は副作用の半数弱を占めており,今後の販売等に適切な改善を期待したい。
著者
波平 恵美子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.17-23, 2008 (Released:2008-07-23)

現代医学は極めて体系的に発達し普遍性の高い医療体系である。しかし,それは数十万年の間種を絶やすことなく生き抜いた人類が発達させた無数で多様な医療のひとつでしかない。このような立場を採る医療人類学は,様々な伝統的医療が具体的にどのように人々に採用され支持されているかを研究し,世界を席捲しつつある現代医療を相対化する。
著者
若山 育郎 形井 秀一 山口 智 篠原 昭二 山下 仁 小松 秀人
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.321-333, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
26
被引用文献数
5 4

鍼灸は我が国の医療のなかで有効に活用されていない。鍼灸を本当の意味で国民のための医療とするにはどうすれば良いかについては,いくつか選択肢はあると思われるが,最も重要なのは現在の医療制度の中に鍼灸を取り入れ,鍼灸師が病院で活躍できる制度にすることである。病院で鍼灸を取り入れることにより,西洋医学が不得意としている疾患・症状に対して患者に対応することができる。また,医師との共同研究も可能となる。しかし,そのためには鍼灸師教育の質の向上が必須である。病院における鍼灸導入のメリットもきちんとデータで示していかねばならない。1981年,Acupuncture and Moxibution Therapist 制度(AMT 制度)という病院内で鍼灸師が活躍できる制度が提言されたことがあった。現在の我が国で,そのような制度を整備することはかなり困難と思われるが,国民の健康維持の方法の一つとして鍼灸を取り戻し,日本の医療をさらに発展させるには必要な制度であると考えている。
著者
岡 孝和 小宮山 博朗 中川 哲也 松浦 達雄 岡 佳恵
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.439-446, 1993-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22

六君子湯および補中益気湯の血清コルチゾル値および心電図R-R間隔変動係数 (CVR-R) に及ぼす影響を検討した。両剤をそれぞれ23例の Non-ulcer dyspepsia 患者および18例の不定愁訴患者に, 一日7.5g, 4週投与した。1) 六君子湯投与群では, 午前9時血清コルチゾル値は, 高値だった7例では有意に低下し (p<0.05), 低値の2例では逆に増加したが, 正常範囲内であった14例は不変であった。補中益気湯投与群では, 低値の3例, 正常範囲内の12例では増加した (p<0.05) が, 高値の3例では低下した。2) 副交感神経機能を表わすCVR-Rは六君子湯投与群では不変であったが, 補中益気湯投与群では, 投与前, 年齢に比して低値であったが, 投与後増加した (p<0.05)。以上の結果は, これらの漢方薬は副腎皮質および自律神経機能に対して調整的に作用し, この作用はストレス性疾患に対しては有用な作用と考えられた。
著者
秋葉 哲生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.881-888, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
5 7

1944年に東亜治療研究所長板倉武は,漢方エキス剤による比較臨床研究を実施したが敗戦のために中断した。1961年に国民皆保険が実現し,漢方治療の保険給付が開始された。1967年にはじめて6種類の医療用漢方製剤が薬価収載され,1976年には42処方,60品目が一挙に導入された。2000年現在では,148処方,848品目に至っている。医療用製剤の薬剤としての承認基準は『一般用漢方処方の手引き』と題されて1975年に第1版が,2008年に改訂版が刊行された。1996年の小柴胡湯副作用問題が契機となり,2001年に日本東洋医学会にEBM委員会が設立された。委員会は漢方治療の臨床研究の収集と評価とを行い,2005年に最初の報告書を公表した。2001年になって,医学教育に和漢薬の知識が必修とされるにいたった。2009年に実施された漢方薬の保険適応除外に反対する署名活動の結果,国民の多くが漢方薬を医師による処方によって服用することを希望していることが判明した。
著者
伊関 千書 鈴木 雅雄 古田 大河 佐橋 佳郎 鈴木 朋子 金子 明代 上野 孝治 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.131-139, 2015

症例は45歳女性で,X-2年4月より全身性疼痛,発熱,倦怠感,冷え,下痢,食欲不振,めまい,頭痛,不眠などを発症し,X-1年5月に当センターにて線維筋痛症と診断された。X 年5月に入院時,慢性疲労症候群も合併していると診断された。手の少陰経と太陽経に発汗と血管攣縮を伴う疼痛発作が毎日出現しており,複合局所疼痛症候群(CRPS)と診断された。通脈四逆湯(乾姜9g,甘草4g,烏頭6g)を処方後,ほとんどの症状の軽減がみられ,CRPS 発作には大烏頭煎(烏頭1g,蜂蜜10g)の頓服が有効であった。鍼灸治療では,心気血両虚証と心庳証に対し,神門,内関,三陰交,太衝,足三里,陰陵泉,心兪,肩中兪,風池へ配穴し低周波鍼通電治療(1~4Hz)を併用し,手の少陰経と少陽経へは子午流注経絡弁証も用いたところCRPS 発作頻度が減少した。湯液と鍼灸の併用は,難治性の疼痛症候群合併症例に有効であった。
著者
山下 仁
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.251-261, 2020 (Released:2021-09-28)
参考文献数
51

茨城県内原の満蒙開拓青少年義勇軍訓練所(1938~1945年)に設置されていた「一気寮」は国家プロジェクトの一部に組み込まれた灸療所であり日本の近代医史学的に稀有な存在であるため,設置の背景や活動の実態などについて,文献収集,インタビュー,現地訪問などにより情報を集約した。加藤完治所長の理解の下で代田文誌と田中恭平の提案により設置された一気寮は,灸療の臨床と訓練を担っていた。現存する臨床データや記録から,訓練生の健康増進と一部の疾病治療(夜尿症および結核疑い者ほか)において良好な臨床成果を挙げていたことが窺われる。一方,収集した情報からは位置的・組織的・心理的に増健部の他部署と一定の距離があることが推察された。灸療に期待される役割は時代とともに変容したが,医療手段の多様性,汎用性,補完性,持続可能性などを考える上で一気寮の発想と活動内容は今日においても示唆に富んでいる。
著者
塩谷 雄二 嶋田 豊 松田 治巳 高橋 宏三 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.823-831, 1995-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

駆〓血生薬であるサフランの薬理学的作用を明らかにする目的で, まず投与前に性成熟期の12人の健常女性の月経期, 卵胞期, 黄体期で11-dehydro TXB2, 血小板凝集能, 血液粘度, 血液生化学の検査を行った。月経期では卵胞期または黄体期に比べ, 血液粘度, 血小板凝集能, 11-dehydro TXB2 の上昇と平均赤血球容積 (MCV) の増加を認めた。このことから血液粘度を昇させる要因としてMCVの増加による赤血球変形能の低下が考えられた。月経期では子宮内膜の PGE2 が最高値を示すことから, MCVの増加に PGE2 が関与していることが推測された。次いで6例の対照群には白湯を投与し (約4週間), 他の6例にはサフラン振り出し液を投与し (約4週間), これらの指標の変化を比較検討した。サフランは月経期においてMCVと血液粘度を明らかに低下させたことから, 血液粘度の低下の要因にはMCVの減少による赤血球変形能の改善が関与しているものと考えられた。また血中エストロゲンが低値の卵胞期において11-dehydro TXB2を低下させた。〓血病態においては全血粘度が上昇していること, 血小板のトロンボキサン合成が亢進していることが報告されているが, サフランはこれらの指標に対し明らかな作用を持つことから, 駆〓血作用を有することが健常の性成熟女性で示された。
著者
井上 雅 横山 光彦 石井 亜矢乃 渡辺 豊彦 大和 豊子 公文 裕巳
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.359-362, 2011 (Released:2011-09-15)
参考文献数
11

尿管結石の疝痛発作に対して芍薬甘草湯を投与し,その臨床的有用性を非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)と比較検討した。対象は尿管結石患者25名で,11名に対し芍薬甘草湯5.0gを内服させ,コントロール群として,14名にNSAIDsを内服させた。内服時,内服後15分,30分,60分にNRS(numerical rating scale)を用いて比較検討した。NRSは0点を全く痛みなし,10点を最も強い痛みとした。結果は芍薬甘草湯内服群では内服時NRSは6.7 ± 2.3点で,内服後15分で3.4 ± 3.5点と有意に軽減した。NSAIDs内服群では内服時8.3 ± 1.8点で,内服後15分では7.0 ± 1.9点と有意な鎮痛効果は認めたが,鎮痛効果は芍薬甘草湯の方が有意に優れていた。その他の時点においても同様の結果で,芍薬甘草湯は尿管結石の疝痛発作に対して即効性があり,NSAIDsよりも有意に鎮痛効果を認めた。
著者
小暮 敏明 巽 武司 佐藤 浩子 伊藤 克彦 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年 田村 遵一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.61-68, 2007-01-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

和漢薬が奏効した線維筋痛症 (FMS) の二例を提示し, FMSの臨床像と甘草附子湯証との類似点を考察した。症例1は52歳, 女性で2001年左手関節痛を自覚, その後両側の肘, 肩, 足関節痛とその周囲の筋痛が出現。近医リウマチ科で精査を受けたが異常はなくFMSと診断された。NSAIDsが無効のため, 04年当科を紹介受診した。桂枝二越婢一湯加苓朮加防已黄耆湯葛根を投与, 内服2ヵ月で疼痛は半減。06年3月VASは20%となりNSAIDsは不要となった。症例2は58歳, 女性で10年前から左肘痛を自覚。2004年から項頸部痛や両側上肢, 肩の疼痛が出現し, 近医整形外科を受診。頸部X-rayや神経学的に異常がなかったためNSAIDsで経過観察となった。05年3月症状が不変のため4月に当科を紹介受診。炎症反応が陰性でACRのFMS分類基準に適合した。甘草附子湯の3ヵ月の服用でVASは30%となりADLは向上した。
著者
木村 容子 杵渕 彰 黒川 貴代 清水 輝記 棚田 里江 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.499-505, 2008 (Released:2008-11-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

介護者が抱える諸症状に抑肝散およびその加味方が有効であった8症例について報告した。症例1はのぼせ,ほてり,集中できないなどの多彩な症状に抑肝散加芍薬,症例2は不眠および背中の痛みに抑肝散加味方,症例3は不眠に抑肝散合芍薬甘草湯,症例4はイライラや動悸に抑肝散,症例5は不安,不眠に抑肝散,症例6は手掌の湿疹に抑肝散加味方,症例7は目の奥の痛みと頭痛に抑肝散加陳皮半夏合芍薬甘草湯,そして,症例8は頸・肩こり,下痢,動悸,不眠,倦怠感などの症状が抑肝散加陳皮半夏(合芍薬甘草湯)を処方して症状が軽快した。愁訴は多岐に渡るが,その背景には,介護による慢性的かつ持続的なストレスが共通し,情緒系,筋,眼などと関係が深い肝の機能が障害されていると考えられた。また,症例5,6,7,8では,介護される者と介護者の双方に抑肝散を同時に服用させたところ,両方に効果がみられた。原典では「子母同服」とある。介護には,精神的・身体的健康状態が互いに影響を及ぼし合うような濃厚な人間関係があり,母子関係に通じるのではないかと思われた。本来の親子関係とは逆転するが,日常生活の面倒を看てもらう観点から介護される側を「子」,面倒を看る側を「母」ととらえ,「子母同服」の考え方が応用できると考えられた。