著者
盛 克己 中村 謙介 太田 東吾 貝田 豊郷 富田 寛 村山 和子 村山 照之 佐橋 佳郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.27-32, 1989-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

傷寒論には, 誤治によって病態が崩れてしまった「壊病」という状態があることが記載されている。同じように「合病」や「併病」の記載もある。後者については, 多くの先輩たちによりその病態や治療についての研究がなされ,「合病」については1つの処方で対処し,「併病」については先表後裏・合法・先外後内・先急後緩で対処することが明かになっている。しかし,「壊病」についてはその病態や治療についての報告はあまりみられない。しかし, 誤治などによって病状がはっきりしなくなることは臨床的にはよくみられ, その中には「壊病」と考えられる症例があると思われる。今回, 臨床経験を通じて,「壊病」の病態の解明及び治療の一助として, 1つの考えを示唆してみた。
著者
森 裕紀子 早崎 知幸 伊藤 剛 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.79-86, 2014 (Released:2014-10-17)
参考文献数
57

漢方治療中の予期せぬ好転反応を瞑眩という。瞑眩と有害事象の鑑別は重要である。しかし,これまで瞑眩の頻度や内容についての全体像は明らかになっていない。そこで過去の症例報告から瞑眩の特徴を1)発症時期,2)持続日数,3)症状に関して検討した。対象は,1945年から2009年までの64年間に報告された瞑眩事例報告のうち,その症状の発症時期の記述がある70症例とした。症状の発現は,症例の42%が服用当日に,79%は3日以内に生じた。持続日数は35%が服用当日のみで,63%が3日以内だった。これらの症状の39%は瞑眩と判断しにくい症状であった。また2010年5月から2011年11月までに受診した143例の初診患者(自験例)において,初診時処方(煎じ薬)で瞑眩事例と判断した症例は11例(7.7%)であった。
著者
岩田 健太郎 野口 善令 土井 朝子 西本 隆
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.289-302, 2013
被引用文献数
1

迅速診断検査(RIDT)とノイラミニダーゼ阻害薬(NI)が開発され,インフルエンザ診療の様相は激変した。しかし,RIDT の感度の低さ,副作用や薬剤耐性など NI の問題もあり,その診療は未だ最適とは言えない。そこで,インフルエンザをウイルスという「モノ」ではなく「現象」として認識し,漢方薬を治療選択に加えた診療意思決定モデルを開発した。まず患者の重症度を吟味し,重症・ハイリスク患者では RIDT に関係なく NI 点滴を基本とする。重症でもハイリスクでもない場合は,NI か漢方薬を患者に選択させ,前者の場合は検査前確率が50%未満で RIDT を用い,それ以上では事後確率への影響の低さから RIDT を行わない。漢方薬では「現象」を対象としているため,原則として RIDT は行わないものとした。本モデルでは RIDT を選択的に行うことで検査属性を活かし,かつ検査の乱用や誤解釈を回避することが可能になる。
著者
小路 哲生 高橋 道也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.347-353, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

腎硬化症による慢性腎臓病は,徐々に悪化し,高齢で透析に至る症例が増え,透析導入原因3位となっている。 その対策として真武湯を中心にした漢方薬の可能性が報告されている。今回腎硬化症と思われる慢性腎臓病を対象に,真武湯と防已黄耆湯のエキス剤を併用投与し,腎不全進行抑制効果について検討した。対象は,香川県済生会病院腎臓内科に通院中の腎硬化症患者20例(男性12例,女性8例,平均年齢76.2歳)。真武湯エキス顆粒5g と防已黄耆湯エキス顆粒5g を分2朝夕食前で併用処方した。投与前,投与後3ヵ月,6ヵ月で臨床検査値を検討した。 血清クレアチニン値は,2.04,1.72,1.59mg/dL と低下,eGFR は26.8,32.2,35.3mL/minと改善を認めた(p <0.01)。他の検査値には特に変化を認めなかった。これらより腎硬化症と思われる慢性腎臓病に対して真武湯と防已黄耆湯の併用に腎機能改善効果があると考えられた。
著者
中江 啓晴 熊谷 由紀絵 小菅 孝明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-4, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
16

【緒言】眼瞼痙攣(眼瞼攣縮)は眼輪筋,皺眉筋など眼瞼運動に関与する筋肉の不随意の収縮により開瞼が困難となる状態で,局所性ジストニアに分類される。【症例】患者は61歳女性,半年前から出現した眼の違和感を主訴に当科受診。眼瞼痙攣と診断,柴胡加竜骨牡蠣湯の内服を開始したところ改善傾向となり,少量の芍薬甘草湯を追加したところ更なる改善が得られた。患者の希望により芍薬甘草湯を増量し芍薬甘草湯単剤投与に変更したところ症状が悪化,以前の処方に戻したところ改善が得られた。【考察】眼瞼痙攣を含む頭部ジストニアの発症機序として中枢神経系にある基底核運動ループの障害が提唱されている。柴胡加竜骨牡蠣湯は中枢神経系に作用すると推測されることから眼瞼痙攣を改善した可能性がある。【結語】柴胡加竜骨牡蠣湯の眼瞼痙攣に対する有効性が示唆された。
著者
寺澤 捷年 土佐 寛順 平崎 能郎 小林 亨 地野 充時
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.309-312, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
27

宿便という用語は単に便秘によって消化管内に内容物が停留していることを意味するのではなく,通常の排便では排泄できない消化管内の貯留物を想定したものである。しかし,その実態は不明であった。筆者らは硫酸バリウムによる上部消化管検査を受けた過敏性腸症候群の一患者において,検査後に下痢がみられたにも拘わらず3日後の腹部単純X 線撮影よって,下部消化管壁に附着した硫酸バリウムを確認し,これが宿便の一つの形態であることを示唆するものと考えた。また,宿便という用語が何時から用いられたかについて過去の文献検索を行い,尾台榕堂の方伎雑誌が初出であり,この用語が宿食から派生したものであると考察した。
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
伊藤 隆 菅生 昌高 千々岩 武陽 仙田 晶子 王子 剛 海老澤 茂 大川原 健
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.299-307, 2010 (Released:2010-09-07)
参考文献数
14
被引用文献数
9 10

患者2530例に対する随証漢方治療の副作用を調査した。503例に569件の味の苦情を含む副作用がみられた。甘草含有方剤は2139例に投与され64例(3.0%)に副作用を認めた。年齢は63.4±13.8歳で全体の54.9±18.1歳より高かった。診断の契機となった症候は,血圧上昇45例,浮腫16例であり,低カリウム血症は5例と少なかった。甘草投与量は,34例にはエキスで2.0±1.0(Mean±SD)g/日,29例には煎薬で2.2±1.1g/日であった。両群の投与期間と回復期間に差はなかった。黄芩含有方剤は1328例に投与され13例(1.0%)で肝機能障害を認めた。黄芩は7例にはエキスで2.3±0.5g/日,6例には煎薬で2.8±0.8g/日が投与されていた。投与期間に有意差はなかったが,回復期間はエキス群69.0±52.5日が,煎薬群22.7±16.0日より長かった。副作用例の大部分で初診時の症状の改善は得ており,当初は証に合っていたと思われる。随証治療においても注意する必要がある。
著者
王 元武 赤堀 幸男
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.241-262, 1991-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
51

本邦における薬酒の由来は中国よりの渡来に源を発するものであり,中世以降には単味・多味いずれの場合にも日本独自のものに変えた薬酒の出現が認められる。この日本薬酒の発展過程では, 比較的高水準の中医学理論に基づく正統的流れから種々の変方が派生し, 時代と共に変化してきた事実が方義解析を用いて立証できる。特に近代に至ると, 漢方医学真髄の伝承には極めて困難な情況となり, 理論的根拠の脆弱化を招き方組成の乱れが増して来た。ここには, 日本薬酒の効能が「滋養強壮」に限定され, しかもその定義が明確でなかった経緯がある。この問題点を解決するために,「滋養強壮」の定義を中医学理論に基づく厳密な考察により確定し,「滋養強壮剤」としての薬酒の意義と基本構成を論じ, 薬酒方剤の組方原則と薬物配合量を考察した。この基本路線の上に, 今後の日本薬酒の在るべき姿を展望し, 薬酒方剤の正しい発展と適正な利用を提言した。
著者
盛岡 頼子 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.371-378, 2009 (Released:2009-08-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

成人の虚弱者の症状について,問診表より調査を行なった。対象は筆者の外来を受診した患者のうち,「虚弱」と判断した39人(男性3人,女性36人,24歳から67歳)である。疲労感を伴う疾患を除外し,疲れやすく,通常の人では影響を受けないような外界の変化やストレスによって体調を崩しやすい人を「虚弱」とした。虚弱者の症状で,疲れやすいこと以外に最も多かったのは冷えに関する症状で6割以上に見られた。その他,肩こり,首のこり,腰痛など筋肉のこりや痛みを有するもの,食べ過ぎると調子を崩すもの,良好な睡眠が取れていないもの,頭痛,目の疲れ,めまいなど頭頸部の症状を持つものが多かった。問診表により虚弱者が多く有する症状の傾向については把握できたが,一方,主訴に関しては非常に多彩であることがわかった。これらの結果を虚弱者の診断,治療に役立てたい。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.177-183, 2013 (Released:2013-11-18)
参考文献数
22
被引用文献数
2

熱中症により有痛性筋痙攣をきたした5例に対して芍薬甘草湯を用いたところ,著明な改善をみたので報告する。熱中症の重症度はI 度が4例,III 度が1例であった。I 度の4例は来院時速やかに芍薬甘草湯を頓用することで症状の改善をみた。III 度の1例は芍薬甘草湯の頓服だけでは改善せず,定時の服用も追加し,完治まで4日間を要した。3例は横紋筋融解を合併していたが,芍薬甘草湯服用による有害事象はみられなかった。熱中症による有痛性筋痙攣では横紋筋融解から急性腎障害への進展を防止するためには筋痙攣を早急に抑制することが重要である。その治療として芍薬甘草湯は有用な治療になると考えられた。
著者
山崎 翼 佐藤 万代 矢野 忠 櫻田 久美 丹羽 文俊 今西 二郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.229-237, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

高齢社会に伴い,認知症予防が重要になってきている。本研究では,鍼治療および生活習慣改善指導による介入が認知機能を向上させるかどうか検討した。物忘れが気になる者を対象に,生活習慣の改善指導を行う生活習慣改善群(20名)と,それに鍼治療・経皮的経穴通電刺激(TEAS)を併用する鍼治療併用群(20名)に分け,12週間の介入を行った。その結果,生活習慣改善群と鍼治療併用群を合わせた全体の介入前後の結果では,Mini Mental State Examination (MMSE),ウェクスラー記憶力テスト(WMS-R)のいくつかの項目,睡眠時間,アクティグラフィによる測定での睡眠効率で有意な上昇がみられた。2群を分けて解析すると,MMSE および睡眠効率では,鍼治療併用群でのみ有意差がみられた。また,T 細胞系とくにヘルパーT 細胞の減少,B 細胞の増加,NK 細胞の増加,NK 活性の増強が認められた。以上の結果から,生活習慣の改善に鍼治療を併用することで,認知機能の向上を促し,認知症の予防に資する可能性が示唆された。
著者
今中 政支 峯 尚志 山崎 武俊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.611-616, 2009 (Released:2010-03-03)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

スギ花粉症の薬物療法の治療成績を向上させるために即効性を期待できる漢方薬を西洋薬に併用し臨床効果を検討した。アレルギー性鼻炎に対する漢方薬として第一選択とされている小青竜湯例(20名)の有効率は45%と芳しくない成績であった。一方,越婢加朮湯例(24名)では有効率64%と良好な成績であった。重症例に処方される麻黄湯,越婢加朮湯併用(大青竜湯の簡便方)例(7名)は有効率72%であった。麻黄と石膏の消炎作用の増強目的に小青竜湯と五虎湯を併用した症例(16名)では有効率87%とさらに良好な結果であった。経口ステロイド薬の使用を余儀なくされた症例は皆無であった。副作用は胃もたれを訴えた1名のみであった。11種類の漢方薬を使用した全体の治療成績は有効率83%と極めて良好な結果であった。漢方薬を併用することにより,薬物療法の臨床効果の向上を図ることができた。
著者
村井 政史 伊林 由美子 堀 雄 森 康明 古明地 克英 八重樫 稔 今井 純生 大塚 吉則 本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.227-230, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
12

症例は31歳の女性で,出産後に上下の口唇に黄白色の痂皮ができ,剥けるようになった。剥脱性口唇炎と診断し,陰証および虚証で,出産後で気血ともに虚した状態と考え帰耆建中湯で治療を開始したが無効で,同じく気血両虚の十全大補湯に転方したが改善せず,胃の調子が悪化した。胃腸への負担が少ない虚証の方剤がよいと考え補中益気湯に転方したところ,口唇の痂皮は著明に改善しほとんど目立たなくなった。剥脱性口唇炎は慢性に持続した炎症性疾患であることから少なくとも口唇の局所は陽証と考えられ,少陽病をもカバーしうる補中益気湯が奏効したものと思われた。また,剥脱性口唇炎には何らかの精神医学的要因が関与している可能性があり,柴胡の解鬱・抗ストレス作用や陳皮の理気・鎮静作用もまた,本症例で補中益気湯が奏効した一因であると思われた。
著者
森 裕紀子 五野 由佳理 及川 哲郎 小田口 浩 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.274-279, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

群発頭痛の発作軽減に選奇湯の頓用が奏効した症例を経験した。症例は46歳女性で,30歳頃より季節の変わり目に群発頭痛の発作があり,症状は3日間持続した。発作時トリプタンや消炎解熱鎮痛剤は無効で,その発作の持続時間が長く頻回となったため漢方治療を希望し来院した。瘀血と気鬱より随証治療で通導散料を処方して頭痛の頻度と程度は軽減したが,鎮痛剤が無効な頭痛発作は生じた。そこで眉稜骨(眼窩上縁)内側の圧痛を認め,痛みの範囲が眉稜骨周囲のため頭痛時に選奇湯を頓用としたところ,最近1∼2週間持続した発作が30分で消失した。一般に構成生薬が少ない漢方薬ほど切れ味がよいとされる。選奇湯は黄芩を含む5味と構成生薬が少なく,頓用での効果が期待できる。眉稜骨周囲の痛みに対して,特に眉稜骨内側の圧痛を認める場合は選奇湯の頓用は試みるべき処方の1つである。
著者
松崎 茂
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.261-266, 1999-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
6
被引用文献数
1

高度の腹水と下肢浮腫を伴う重症アルコール性肝障害患者を漢方エキス剤で随証治療をし, 著効を得た。下肢の浮腫が治療に抵抗したが,「気鬱傾向」と「腓腹筋の握痛」を主たる目標として, 九味檳榔湯を主体とした治療をしたところ下肢の浮腫は速やかに消失した。また, 心理状態と肝機能, 特に蛋白合成能も改善した。肝硬変で, 水毒兆候と気鬱傾向を示す患者では, 九味檳榔湯の適応があると思われた。
著者
花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.833-845, 2007-09-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

いわゆる「気剤」の特質を解明する一連の研究の概要を述べる。ヒトによる検証は, 電子瞳孔計による評価, 酸素飽和度, 心拍変動による評価, PWV (Pulse Wave Velocity・脈波伝播速度) による評価, 腹部超音波法による評価, 遺伝子解析による評価の5項目について行なった。動物実験による検証は, 抗鬱モデルマウスによる評価, 抗不安モデルマウスによる評価をした。代表的な気剤である香蘇散と半夏厚朴湯の作用機序の相違点は電子瞳孔計による評価によれば, 半夏厚朴湯は交感神経優位群について, 有意に交感神経の緊張を取る方向に働いていることが判った。一方, 香蘇散は副交感神経優位群において交感神経系を刺激する形でバランスを正常に近づけるように作用した。酸素飽和度による検討では香蘇散によって, 精神活動の活性化や抑鬱傾向の改善は, 脳の組織酸素飽和度の上昇と関連しているのではないかということが示唆された。PWV (Pulse Wave Velocity・脈波伝播速度) による評価では半夏厚朴湯は, 主として交感神経の緊張を取ることによって, 血管の弾力が軟らかくなることが示唆された。腹部超音波法による評価では半夏厚朴湯は健常者では変化がないのに対して, FD患者では胃の排出能の回復, 下部消化管の腸管ガスの減少が判り, 半夏厚朴湯が腹満を治すことの一端を解明した。遺伝子解析による評価では香蘇散証で服用前に発現が多く, 服用後に減る遺伝子として, 知覚関係や神経伝達物質関係, 神経筋シナプス形成, 特にアレルギー関係などは非常に強く出た。また, 香蘇散証で服用前に発現が少なく, 服用後に増える遺伝子として, ウイルスの感染や好中球のバクテリア貪食作用 (phagocytosis) ということで, ウイルスや細菌感染などに対する防御作用が香蘇散証にはあることが示唆された。動物実験ではマイルドストレス負荷による鬱病モデルマウスを用いた結果として, 視床下部―下垂体―副腎系の機能がストレスによって異常亢進している場合に, 香蘇散はそれを抑制する。一方, ガラス玉隠し行動の評価により, 香蘇散が不安・強迫性障害に有効であることが判ったが, 鬱状態と不安に対して異なる作用機序を持つ可能性が示唆された。
著者
犬飼 賢也 須永 隆夫 関 義信
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.17-22, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
33
被引用文献数
1

耳鳴は西洋医学的な治療ではうまくいかないことが多い。症例1は65歳女性。初診5年前に突発性難聴になり,耳鳴が持続し当院を受診した。耳鳴日常生活支障度(Tinnitus Handicap Inventory ; THI)は66点であった。両側の翳風(TE17)に円皮鍼を貼った。THI は1ヵ月後に14 点,2ヵ月後に0点となり終診とした。症例2は69歳男性。初診の40年前頃,左耳の近くで鉄砲が発砲され,左耳鳴が出現し,寛解増悪していた。初診8年前より持続するようになり,当院を受診した。THI は18点であった。左側の翳風に円皮鍼を貼った。3ヵ月後THI は2点となった。症例3は31歳女性。初診15日前より両側の耳鳴が出現し当院を受診した。THI は34点であった。両側の翳風に円皮鍼を貼った。4ヵ月後THI は8点となった。翳風への円皮鍼は簡単に貼れ,目立たず試みる価値のある方法と思われる。
著者
鍋島 茂樹 増井 信太 坂本 篤彦 埜田 千里 菅沼 明彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.204-207, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は24歳女性。第1病日より咽頭痛が出現。第2病日より38℃台の悪寒・発熱がみられたため第3病日に発熱外来を受診し,感冒と診断された。鼻咽頭スワブより PCR にて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子を検出したためホテルへ移動,しかしその後も連日高熱および嘔気が続いていた。第5病日の昼に主治医の指示により麻黄湯の内服を開始。内服後に発汗して解熱し,その後も発熱をみていない。しかし嘔気が増強したため,麻黄湯は1日のみで中止した。第7病日の PCR は陽性であったが,Ct 値ではウイルス量の低下が示唆された。麻黄湯はインフルエンザに有効であると報告されているが,本症例のように,インフルエンザ様症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても有効である可能性が示唆された。また,副作用として嘔気を助長する可能性があるため,柴胡剤など他の方剤との組み合わせも考慮されるべきである。