著者
松澤 克典 笹本 信幸 松澤 信五 関根 智久 板橋 浩一 柿田 章
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.417-421, 2003-05-01
被引用文献数
10

癒着や腸回転異常などに起因しない原発性小腸軸捻転症は,本邦では極めてまれである.今回85歳以上の超高齢者原発性小腸軸捻転症の2例を経験した.【症例1】85歳の男性.突然の腹部激痛が出現し,腹部超音波で著明な腹水と動脈血液ガスで強度の代謝性アシドーシスを認め緊急手術を施行した.SMA根部付近で小腸が時計回りに360°捻転しており,壊死腸管を切除し経過は良好だった.【症例2】92歳の女性で完全内臓逆位あり,血液データではアシドーシスなど異常を認めず,腹部も柔らかだったが,腹部超音波,CTで腹水と拡張腸管を認め,また腹痛の訴えも強く緊急手術を施行した.トライツ靱帯から1m80cmの部分より小腸が時計回りに360°捻転しており,壊死腸管を切除し現在全身状態は良好である.高齢者では小腸軸捻転症でも,臨床症状や検査所見が軽度であることが珍しくなく本症も念頭におくべきである.
著者
福田 淑一 月岡 一馬 川崎 史寛 松尾 吉郎 吉村 高尚
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.1697-1701, 1996-07-01
参考文献数
16
被引用文献数
37

門脈ガス血症(以下,本症)は予後不良の徴候である.我々は腹部CT像で本症が明瞭にとらえられた4例を経験し緊急開腹手術ですべて救命しえたので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は20歳から75歳の4例(男性1例,女性3例).そのうち2例は来院時重篤なショック状態であった.原疾患は壊死性腸炎,閉塞性大腸炎,絞扼性イレウスおよび非閉塞性腸管梗塞でいずれも腸管の壊死を伴っていた.2例が肝内門脈に,他の2例は腸間膜静脈内に本症が認められた.なお1例はpneumatosis cystoides intestinalisも伴っていた.いずれも緊急開腹で壊死腸管を全切除して救命しえた.本症は重篤な腸管壊死の存在を示唆しているゆえ,時期を逸せず開腹するべきである.また,本症の診断に腹部CT検査が極めて有用で,腸管壊死が疑われる急性腹症では本症の存在を念頭においてCTのウインドウ幅を調節し門脈内ガス像の描出に努力するべきである.
著者
天野 実 森 英昭 松川 俊一 前田 潤平 宮田 昭海 林田 政義 入江 準二 冨岡 勉
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.2452-2456, 1991-09-01
被引用文献数
5

膵外に発育した非機能性膵島腫瘍の1例を経験した.症例は56歳男性で,定期原爆検診で左上腹部腫瘤を指摘され,著者らの病院に入院した.膵内分泌ホルモン過剰分泌による症状は認められなかった.腫瘤は膵尾部より膵外に発育しており,膵の一部を含めて腫瘤を摘出した.大きさは13.6×11.8×9.4cm,900gで,病理組織診断は疑悪性の非機能性膵島腫瘍であった.術後3年半後の現在,再発の所見もみられず健在であるが,なお経過観察中である.
著者
高橋 日出雄 穴沢 貞夫 東郷 実元 石田 秀世 片山 隆市 桜井 健司 石原 歳久
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.20, no.12, pp.2741-2745, 1987-12-01
被引用文献数
13

消化管原発悪性リンパ腫24例を臨床病理学的に検討し,予後因子についても分析した.平均年齢は43.8歳で,男性に3倍多かった.回盲部が全体の60%を占めた.腸重積17%穿孔11%で急性腹症で来院する症例が多く目立った.Naqviの進行度分類では,I度1例,II度8例,III度10例,IV度5例と進行した症例が多かった.累積生存率による予後は術後5年生存率がわずか7%であった.非治癒切除例は2年以内にすべて死亡しているのに対し,治癒切除例の5生率は32%であった.予後の向上には早期症例の発見に努め,根治的広範囲切除が重要と考えられた.消化管の発生部位,進行度分類,治癒・非治癒切除などの因子が重要であった.
著者
山本 雅一 吉田 操 村田 洋子 室井 正彦 小川 利久 門馬 久美子 榊 信廣
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.2723-2727, 1990-12-01
被引用文献数
20

1975年から1989年7月までに経験した421例の食道癌を対象とし, 食道癌症例における重複癌について検討を加えた. 重複癌は51例 (12.1%) で, 同時性26例 (6.2%), 異時性25例 (5.9%) であった. 重複部位の検討では胃癌が25例 (全体の 5.9% ;重複癌の 49%) と多く, 同時性15例, 異時性10例であった. また, 早期胃癌は19例(76%)であった. 次に多い重複部位は, 口腔, 咽頭, 喉頭などの頭頸部領域の16例 (同時性5例, 異時性11例) (ぜんたいの 3.8% ;重複癌の 31%) であり, うち10例 (62.5%) は食道癌診断以前にそれらの癌が診断されていた. 3重複以上の多重複癌は5例 (重複癌の 9.8%) であり, いずれも初癌から5年以上の生存例であった. 食道癌切除後の経過年数との検討では, 術後5年以上7年未満経過症例の重複癌発生率 (23.1%) は, 3年以内の症例の発生率 (1.1%) と比較すると有意に高かった. 近年, 食道癌における重複癌症例は増加しており, 現況を踏まえた日常診療が需要と考えられた.
著者
原田 和則 三隅 厚信 三隅 克毅 馬場 憲一郎 跡部 安則 近藤 浩幸 前野 正伸 本明 宜彦 金光 徹二 赤木 正信
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.965-969, 1987-04-01
被引用文献数
11 13

胃上部癌の外科的治療における噴門側胃切除 (噴切) か胃全摘 (全摘) かの術式の選択について, 両術式間の術後機能障害の比較検討を目的として, 術後の満足度, 術後愁訴, 脂肪消化吸収試験, 消化管ホルモンの成績などから考察を加えた. 脂肪消化吸収試験, 術後の栄養障害, 消化管ホルモンの面からは噴切が全摘に比べ, また全摘では間置術が Roux-Y 術に比べて良好であった. 胃上部癌の外科治療においては, 十分に根治性が得られる範囲内で切除線を決定することが前提条件であり, 根治性を第一義的に考えて術式の選択をすべきである. その際, 根治性が保たれ残胃を大きく残すことが出来る場合には噴切適応の意義があると考えられた.
著者
池永 誠 大島 行彦 清水 正夫 後藤 紀夫 渡辺 龍彦 吉田 勝明 宮内 邦浩 中村 秀夫 朝永 哲弥 比企 能樹
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.1116-1120, 1990-05-01
被引用文献数
15

大腸穿孔21例を対象とし, 穿孔部位, 原因, 臨床症状, 手術時期, 手術術式, 術後経過より検討した. これは虫垂炎を除く消化管穿孔例97例の 21.6%, 大腸手術例173例の 12.1% にあたった. 大腸穿孔の確定診断は, 遊離ガス像の出現率が 33.3% と低い事もあり必ずしも容易ではないが, われわれは発症6時間以内に11例 (52.4%) と早期に手術を施行し全例救命しえた. 大腸癌穿孔は8例にみられ大腸癌手術の 6.1% にあたり, 全例に治癒切除を施行した. 累積生存率は Kaplan-Meier 法にて2年生存率 100%, 5年生存率 75.0% であった. 同期間の全大腸癌例の5年生存率は 65.1%, 治癒切除例の5年生存率は 79.8% であり, 穿孔例, 非穿孔例の間に差異は認められなかった. 穿孔例といえども癌に対する積極的な治療を行うべきと考えられた.
著者
安井 仁 清水 正啓 山田 明 前田 知行 小林 義典
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.148-152, 1991-01-01
被引用文献数
14

過去18年間に上行結腸癌, 早期胃癌, 直腸癌および残胃癌の消化管領域に限局した異時性4重複癌が発生し, そのおのおのに右半結腸切除術, 幽門側胃切除術, 腹会陰式直腸切断および残胃全摘除術の根治手術を施行しえた75歳, 男性の症例を経験した. 患者はおのおのの手術後, 再発なく社会復帰を果たすことができた. 本症例は当院において長期に経過観察する過程で比較的早期に発見され, すべて根治手術が可能であった. 重複癌発生の特殊要因は認めなかった. 4・5重複癌は臨床例, 剖検例をあわせて本邦で107例報告されているが, このうち消化器に限局したものは15例である. 本邦における剖検重複癌の統計的検討を行った. 重複癌の悪性腫瘍に占める頻度は10年間で倍増しており, かつ4重複以上の高次重複癌が増加する傾向があるので, 術前・術後の他臓器原発癌に対する配慮が重要である.
著者
安東 俊明 恩田 昌彦 森山 雄吉 田中 宣威 京野 昭二 小林 匡
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.889-893, 1990-04-01
被引用文献数
88

誤嚥魚骨による消化管穿孔・穿通は比較的まれであり,さらにその診断は非常に困難とされている.最近,誤嚥魚骨による小腸穿孔2例,および肛門穿通1例を経験し,2例を術前に診断しえた.小腸穿孔の1例は急性虫垂炎穿孔の診断にて開腹したが,他1例は術前腹部CTにて魚骨を確認した.また肛門穿通例は直腸指診にて魚骨を確認した.本邦報告例は自験例3例を加え240例であり,穿孔・穿通部位は肛門が最も多く,次いで回腸,横行結腸,S状結腸,食道の順で,胃,十二指腸には少なかった.ほとんどの例で何らかの外科的処置がなされているが,術前に診断されている例は少なかった.特に腹腔内消化管穿孔・穿通の術前診断は極めて困難であるが,自験例を含め腹部CTで診断された報告があり有用な検査と考えられた.ただし報告例は炎症性肉芽腫などの慢性炎症に限られており,自験例のごとく汎発性腹膜炎症例を術前に診断しえた報告例はなかった.
著者
吉岡 和彦 早田 和訓 松井 陽一 山田 修 坂口 道倫 高田 秀穂 日置 紘士郎 山本 政勝
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.2379-2384, 1991-09-01
被引用文献数
12

前方切除術およびS状結腸切除術後の排便機能の客観的な評価を試みた.手術を施行された18例において,術前と術後2か月,6か月および12か月に臨床的,生理学的および解剖学的評価を行った.術後2か月の排便回数が1日4回以上のものを不良群,3回以下のものを良好群とすると,肛門縁と吻合部の距離は不良群が良好群より有意に短かった(良好群:10(6〜25)cm,不良群:6(2〜14)cm(中間値と範囲),p<0.025).不良群では安静時肛門内圧,直腸最大耐容量および直腸コンプライアンスは有意に低下した.Pelvic floor descentは不良群では有意に増大した(術前:2.5(1.2〜6.9)cm,術後2か月:4.0(2.7〜5.6)cm,p<0.025).以上のことから術後の排便機能は,肛門縁から吻合部までの距離,肛門内圧,直腸最大耐容量,直腸コンプライアンスおよびpelvic floor descentに関係していると思われた.
著者
軽部 友明 阿部 恭久 西郷 健一 青山 博道 平澤 博之 落合 武徳 奥山 和明
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1549-1553, 2000-08-01

長時間の砕石位によりcrush syndromeとなった1例を経験した.症例は66歳の男性, 1995年, 直腸癌に対し低位前方切除術施行, 1998年8月3日直腸癌骨盤内再発により腹会陰式直腸切断術を施行.手術開始より砕石位とし, 会陰部操作の際下肢の屈曲を強化, その1時間後より血庄低下, 脈拍上昇をきたした.手術時間は14時間33分(出血量4,390g).手術終了より数時間後に下肢の変色に気づき乏尿を認め血清Cre, K値は上昇し続けた為, 持続的血液濾過透析を開始, 第22病日に透析を離脱, 全身状態が改善した.腓骨神経麻痺が残り現在は杖歩行可能である.文献的検索では砕石位によるcompartment syndromeのうち筋膜切開施行29例中, 腎不全発症率は0〜20%と低率であるが, 神経麻痺は75%以上に認めた.砕石位手術の際は, crush syndromeを念頭にいれ, 砕石位は必要時のみに留め, 予防に努めることが重要であると思われた.
著者
稲垣 均 松井 隆則 小島 宏 加藤 潤二 小島 泰樹 藤光 康信 黒川 剛 坂本 純一 野浪 敏明
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.692-696, 2004-06-01
参考文献数
17
被引用文献数
17

症例は62歳の女性で,2000年1月直腸癌にて低位前方直腸切除術の既往がある.2000年11月より血清CEAの上昇傾向を認めていたが,画像診断上再発所見を認めず,経過観察されていた.その後も血清CEAは上昇を認め,2001年8月CTにて膵体部に腫瘤を認めた.2001年10月当科を紹介された.孤立性膵腫瘍であり,他に転移を認めないことから,膵体尾部脾合併切除術を施行した.腫瘍は7×4cm大で,組織学的に中分化腺癌の像を呈し,直腸癌の転移と診断した.術後,5-FUとisovorinの化学療法を開始し,2003年7月現在,血清CEAの軽度上昇を認めるが,画像上明らかな再発所見を認めず,外来通院中である.大腸癌膵転移は極めてまれであり,その切除の報告例は検索しえた範囲内で,自験例を含めて14例に過ぎない.長期生存例の報告もあり,孤立性で他に転移巣を認めない場合には,積極的に手術を行うべきと考えられた.
著者
眞次 康弘 中塚 博文 豊田 和広 小川 尚之 大城 久司
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.1452-1456, 2001-09-01
被引用文献数
26

原発性虫垂癌5例を経験した.当院における虫垂癌の頻度は切除虫垂の2.02%(247例中)切除大腸癌の1.39%(361例中)であった.(1986年7月〜2000年3月)内訳は男性3例, 女性2例, 平均年齢59.2歳.術前診断は虫垂炎4例, 虫垂粘液瘤1例, 組織診断は通常型腺癌3例, 嚢胞型腺癌2例であった.術式は回盲部切除3例, 結腸右半切除2例, 虫垂切除後2期的手術が3例であった.虫垂癌の早期発見には虫垂炎症例に対し術前画像検査, 術中の注意深い検索, 術後の病理組織学的検索を行うことが重要である.術式では浸潤癌にリンパ節郭清を伴う根治手術を, 術前診断の困難な早期虫垂癌に対して虫垂切除を行うことは矛盾はないと考えられた.追加手術としてsm癌は浸潤癌に準ずる手術を, m癌は断端陰性かつ断端処理が可能であれば虫垂切除術でよいと考えられたが, まだ症例数が少なく今後さらなる症例の蓄積と予後調査が必要である.