著者
水野 崇志 高 済峯 小林 豊樹 鹿子 木英毅 中島 祥介
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.161-165, 2002-02-01
参考文献数
10
被引用文献数
2

症例は78歳の女性.昭和61年よりB型慢性肝炎で経過観察されており, 平成8年8月頃より, 200μg//dl前後の高アンモニア血症を伴う肝性昏睡が頻回に出現.精査の結果, 上腸間膜静脈瘤の形成と, 下大静脈への短絡を認めた.脳症は内科的治療に抵抗性で, 平成11年4月22日, 短絡路遮断目的に手術を施行.上腸間膜静脈は門脈本管流入部付近より径2cm大の静脈瘤を形成, 末梢側は右卵巣静脈を介して下大静脈へと短絡していた.短絡路の試験的クランプによる門脈圧の上昇が160mmH@S22@E2Oから240mmH@S22@E2Oに留まることを確認した後, 短絡路の遮断および静脈瘤の切除を施行した.ドップラーUSにて門脈血流量は術前に比較して著明に改善し, 術後に血中アンモニア値は50μg/dl以下に低下, 肝性脳症も完全に消失した.肝血流量の増加によると思われる肝予備能の改善も見られ, 現在元気に日常生活を送っている.
著者
徳丸 勝悟 長谷川 洋 坂本 英至 小松 俊一郎 河合 清貴 田畑 智丈 深見 保之 秋田 昌利 都築 豊徳
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.521-526, 2005-05-01
被引用文献数
7

症例は61歳の男性で, 上腹部痛, 発熱を主訴に近医を受診し, 肝左葉に腫瘤を指摘され紹介となった.当院のダイナミックCTで肝外側区と一部内側区におよぶlow density tumorを認め, その辺縁部は徐々に不均一に造影された.腫瘍マーカーは正常範囲であった.胆管細胞癌を第1に疑い, 平成15年4月7日にリンパ節郭清を伴う肝左葉切除術を行った.病理組織像では腫瘍のほとんどが肉腫様構造を呈し, ごく一部に腺管様構造を認めた.また, その境界には移行部を認めた.肉腫様変化を伴う胆管細胞癌と診断した.術後経過は良好であったが, 外来通院中に残存肝へ転移が出現した.化学療法, 放射線療法にて一定の効果を得たが徐々に状態が悪化, 平成16年1月15日に永眠された.肉腫様変化を伴う胆管細胞癌の報告は極めて少なく, 本邦では我々が検索しえたかぎり13例を認めるのみであった.その臨床的特徴をまとめたので報告する.
著者
河野 修三 羽野 寛 笹屋 一人 大森 秀一郎 山崎 洋次
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.865-869, 1999-03-01
被引用文献数
2

画像診断で肝嚢胞腺癌と同様の形態を呈した巨大肝嚢胞形成性肝内胆管癌を経験したので報告する. 症例は81歳の男性で有痛性腹部腫瘤を主訴に平成9年3月10日に入院した. 腹部CT検査で肝左葉に大きなlow density massを認めた. 造影CT検査では肝嚢胞性病変内の充実性部分と嚢胞壁が不整にenhanceされた. 肝嚢胞腺癌の診断で手術を施行した. 被膜を有する腫瘍は82×78×72mmで, 肝左葉切除により完全に切除した. 組織学的に腫瘍は壊死により大きな嚢胞を形成した肝内胆管癌と診断した. この症例は, 画像診断上も発育形式も, 肝内胆管癌としては非常にまれで, 肝嚢胞腺癌の所見と類似した所見を呈した. このような症例では組織型によって予後や治療方針が規定されるのか, 発育様式によって規定されるのかが不明であり, 今後の臨床的検討が必要である.
著者
小出 圭 加藤 良隆 清光 六郎 三浦 義夫 岡本 太郎 則行 敏生 岩本 俊之
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.2828-2832, 1990-12-01
被引用文献数
2

原発性小腸癌は, 比較的まれな疾患であるが, われわれは最近2手術症例を経験したので報告する. 症例1は59歳男性, イレウス症状で発症, CA19-9 の高値および, 小腸造影で Tretz 靱帯より 10cm 肛側で全周性の狭窄を認めた. 腫瘍は同部の空腸にあり, 空腸および回腸の腸間膜付着部側に動脈血行性転移と思われる小病巣を多発性に認めた. 原発巣を含む空腸部分切除を行いえた. 術後1年5ヶ月で死亡した. 症例2は53歳女性, 約6ヶ月間心窩部痛, 悪心, 嘔気が続き, イレウス症状が出現, 小腸造影で空腸末端付近で閉塞を認めた. 腫瘍は Tretz 靱帯より 30cm 肛側の空腸にあり, napkin ring constriction を認め, 腹膜播種もあった. 空腸部分切除を行った. 術後1年11ヶ月で死亡した.
著者
伊藤 寛 堀内 格 成瀬 博昭 坂上 充志 本多 英邦 長村 洋一 西田 圭志 石黒 伊三雄 山崎 雅彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, 1988-08-01

N-acetylneuraminic acid(以下NANA)はαおよびβ-globulin分画の糖蛋白質に含まれ,急性炎症,悪性腫瘍などで上昇するといわれている.その上昇に関与する蛋白質の性状は異なることが推測されることから大腸癌症例における詳細な糖蛋白質の動態の追跡を目的として,糖鎖末端にgalactose(以下GP)およびNANA-galactose(以下NGP)を有する糖蛋白質の定量を試みたので報告する.
著者
横井 公良 恩田 昌彦 山下 精彦 森山 雄吉 田中 宣威 古川 清憲 京野 昭二 高崎 秀明 瀬谷 知子 横山 滋彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.27, no.8, pp.1940-1948, 1994-08-01
被引用文献数
30

過去19年間に当教室で経験した成人(15歳以上)の腸重積症は11例あり,著者らは発生部位別に小腸型(4例),回盲部型(4例),大腸型(3例)の3つに分類し,さらに回盲部型を小腸由来の回腸結腸型(1例),大腸由来の盲腸結腸型(3例)に亜分類し,臨床病理学的検討を行った.小腸型,回盲部型,大腸型の平均年齢は31.0歳,46.6歳,69.3歳,平均病悩期間は59.3週,33.3週,1.1週,診断率は25%,50%,100%,原因疾患が悪性腫瘍であった頻度は0%,50%,100%であった.小腸由来か大腸曲来かの観点から悪性腫瘍の頻度をみると,小腸由来は0%(0/5),大腸由来は83%(5/6)であった.それぞれの部位に臨床病理学的特徴があり,この分類方法は有用と思われた.また術前,術中の愛護的な整復を試みて腸重積が環納されれば,発生部位の同定が可能となり,より的確な術式が選択できるものと考えられた.
著者
上原 圭介 長谷川 洋 小木曽 清二 塩見 正哉 籾山 正人 伊神 剛 太平 周作 高橋 祐 雨宮 剛 宮崎 晋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.1643-1647, 2000-09-01
被引用文献数
4

症例は48歳の女性.23年前より慢性腎不全のため長期血液透析を施行中であった.平成11年1月19日の透析中に左下腹痛, 左下腹部腫瘤が出現したため当院を受診, 腹部CT・MRI検査より非外傷性腹直筋血腫と診断した.外来にて経過観察中, 5月7日に吐血, 前胸部痛を主訴に当院を受診した.緊急上部消化管内視鏡検査にて上部食道から胃噴門部にかけて青紫色の血腫を認めたため, 食道壁内血腫と診断し, 保存的治療を開始した.第5病日には自覚症状は消失した.第13病日の食道内視鏡検査では血腫は完全に消失し, 一部粘膜脱落による腫瘍形成を認めたが, 第21病日には潰瘍瘢痕を残すのみとなり, 他に異常所見を認めなかった.食道壁内血腫はまれな疾患で、保存的治療で治癒する予後良好な疾患である.また, 腹直筋血腫経過中に合併した症例の報告はなく, 若干の文献的考察を加え報告する.
著者
岩瀬 弘敬 柄松 章司 呉山 泰進 桐山 昌伸 伊藤 由加志 葛島 達也 岩田 広治
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.95-98, 1990-01-01
被引用文献数
1

慢性膵炎に起因する膵性腹水の1例を報告した.患者は20年来アルコールを多飲していた39歳の男性で,急激な腹部膨満と上腹部激痛で受診した.臨床所見と諸検査によって,多量の膵性腹水とともに肝硬変と慢性膵炎が存在すると診断された.全身的療法の効果が乏しいことから,発症16日目より腹膜灌流を開始した.メシル酸ガベキサート200mg,アミカシン100mgおよびヘパリン2,000単位を含む21の等張腹膜灌流液を腹腔内に60分で注入し,引き続き120分で自然流出させた.この持続的腹膜灌流は3時間ごとに5日間連続しておこなった.この治療によって臨床症状,血清アミラーゼをはじめとする検査結果は著しく改善した.すなわち,蛋白分解酵素阻害剤を添加した等張の腹膜灌流液による連続的腹膜灌流が有用であった.しかし,腹膜灌流の時期と継続期間,蛋白分解酵素阻害剤の種類と量,などなお考慮すべき点が残されている.
著者
大滝 修司 山川 達郎 三芳 端 飯泉 成司 岸 いずみ 稲葉 午朗
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.1100-1104, 1992-04-01
被引用文献数
4

胆汁性仮性嚢胞(biloma)は,肝あるいは胆道系の外傷や手術後合併症として,また経皮経肝胆道造影やドレナージなどによって,胆汁が肝被膜下などに被覆された状態で流出し形成された2次的嚢胞であり,1979年にGouldらにより初めて記載された.しかしながら,このような既往なしに発症することもまれながら報告されている.われわれは胆嚢炎の穿通が原因となったbilomaを3例経験した.1例は手術までの比較的短期間にbilomaが消失した興味ある症例であり,また他の1例は手術前にbilomaをドレナージしたが,症状は軽快せず手術にて完治した症例であった.残る1例は原因となった胆嚢を穿刺ドレナージすることでbilomaが消失した症例である.これら3例の経験から,胆嚢炎の消退により流出した胆汁(biloma)は,胆嚢に還流することで自然消失することが示唆され,胆嚢炎が原因となったbilomaは,まず胆嚢炎に対する何らかのアプローチが大切であると考えられた.
著者
岡田 禎人 鈴木 勝一 中山 隆 渡辺 治
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.1930-1933, 2004-12-01
被引用文献数
3

症例は54歳の女性で,下腹部痛を主訴に来院した.下腹部に腫瘤を認め皮膚が一部自壊し便汁が流出していた.また尿中にも便が混じっていた.腹部CTでは骨盤内の腫瘤と前腹壁に膿瘍腔を認めた.注腸ではS状結腸からガストログラフィンが腹腔内に流出していた.また膀胱鏡では膀院内に便汁を認めた.患者は20年以上子宮内避妊具(intrauterine contraceotivedevice;以下,IUD)を装着していた.IUDを除去する際に行った子宮内スメアでは放線菌塊を認めたため,IUDの長期装着に伴い子宮骨盤放線菌症を来たし,これがS状結腸,膀胱,腹壁に進展し瘻孔を形成したものと診断した.絶食,抗生剤投与を行ったが改善が見られなかったため,手術により痩孔の切除と膿瘍のドレナージを行った.術後経過は良好で,腹壁の膿瘍は消失した.術後7か月の現在再発を認めていない.
著者
冨田 隆 田矢 功司 島村 栄員 岡田 喜克 岩崎 誠 五嶋 博道 吉田 洋一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.17, no.8, pp.1574-1578, 1984-08-01
被引用文献数
20

大腸癌治癒切除例のうち手術時隣接臓器への浸潤が認められ他臓器合併切除を施行したものは 17.2% (10/58) で, 長期生存は3年10ヶ月, 2年6ヶ月の2症例であるが, 局所再発や播種性腹膜炎による死亡は2例のみで, 合併切除の有効性を示すものと思われた. 肉眼的他臓器浸潤例のうち組織学的に癌浸潤は 57.1% にみられ, 他の42.9%は結合織や膿瘍形成による炎症性癒着であった. 特に膿瘍形成例でその内腔に癌細胞が浮遊し, 相手臓器まで膿瘍腔が連続進展していることから癌浸潤が考えられた. したがって炎症性癒着といえども癌直接浸潤を考慮すべきである.
著者
近藤 哲 蜂須賀 喜多男 山口 晃弘 堀 明洋 広瀬 省吾 深田 伸二 宮地 正彦 碓氷 章彦 渡辺 英世 石橋 宏之 加藤 純爾 神田 裕 松下 昌裕 中野 哲 武田 功 小沢 洋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.17, no.11, pp.1987-1995, 1984-11-01
被引用文献数
23

原発性十二指腸癌7切除例を対象として臨床的検討を行った. 5例は UGI, 内視鏡, 生検の3者で診断可能であったが, 2例は膵癌の十二指腸浸潤との鑑別が困難であった. しかし US と CT で膵癌を否定しえた. 血管造影では4例中2例が十二指腸原発と確認しえた. さらに切除可能性, 根治性を推定するのに有用であった. リンパ節転移は全例に認められ, 非治癒切除4例中3例の非治癒因子, 治癒切除後再発2例中1例の再発因子となっていたした. したがって, 乳頭上部癌では膵頭部癌第1群リンパ節郭清をともなう膵頭十二指腸切除を原則とし, 乳頭下部癌では腸間膜根部リンパ節をより徹底郭清し状況によっては血管合併切除再建が必要と思われた.
著者
中山 恒明
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.11, no.8, pp.595-599, 1978-08-01

私は,こういう権威があると申しますか,本当の専門家だけの集りで,しかも将来を背負って立つ人達の前で,私の経験を話す機会を作って下さった佐藤本会会長に心から感謝致します.佐藤会長のご演説の様に私のこれからお話し致しますことは,学問的基礎というようなものはございません.どういう考えで,どういうふうにしてきて,将来この食道癌治療がどういう形で,将来,将来と言っても百年先はわかりませんけれど,10年ぐらいの間は進んでゆくであろうという考えをお話ししてみたいと思うのです.私,5日ばかり前に,丁度日本の裏側のドミニカ・リパブリック,サント・ドミンゴに行ってたんです.そこで,食道の手術をやらされました.その前にポルトガルに行っておりました.それで大部昼と夜が逆になっちゃいましたので,話もいろいろになると思いますが.これが瀬尾先生の時に私が全世界の文献から調べた症例報告なんです.
著者
浅利 靖 島津 盛一 西村 博行 新井 伸康 中 英男 大和田 隆 比企 能樹 柿田 章
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.2461-2465, 1991-09-01
被引用文献数
9

中年の男性に発生した巨大な膵のsolid and cystic tumor(SCT)を経験し,その臨床経過よりdoubling timeを算出した.また本邦報告例139例について検討した.症例は58歳男性.腹部腫瘤を主訴に入院.開腹したところ,膵体部に被膜におおわれ充実性かつ弾性軟の,24×19×8cmの腫瘤が存在し,膵体尾部脾合併切除施行.病理組織学的に,充実性で髄様増殖パターンを呈し,免疫染色では上皮系マーカーに陽性でありSCTの診断を得た.4年前の初診時の腫瘍径と今回術前の精査時の腫瘍径とからdoubling timeを算出したところ,240日とslow growingな腫瘍に分類されることを証明しえた.本邦報告例139例について検討したところ,本例は男性例としては最年長かつ最大の腫瘍径を持つものであった.術後1年経過した現在,患者は健在であり,再発も認められていない.