著者
腰塚 浩三 西田 広一郎 武藤 俊治 中込 博 高野 邦夫 多田 祐輔 三俣 昌子
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.775-779, 1996-03-01
参考文献数
19
被引用文献数
3

我々は上行結腸のT細胞由来の悪性リンパ腫を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.症例は84歳の女性.主訴は右下腹部痛,発熱.現病歴は平成3年9月主訴出現し,近医にて,右下腹部腫瘤を指摘され当科紹介入院となる.入院時現症:右下腹部に4×5cm大の弾性硬,可動性不良,表面やや不整の腫瘤を触知した.表在リンパ節は触知しなかった.注腸造影X線検査,腹部CTにて上行結腸癌と診断し,平成3年10月18日手術を施行した.手術所見は上行結腸に手拳大の腫瘍を認め,右半結腸切除術と大腸癌のD_2に準じたリンパ節郭清を行った.切除標本では腫瘍は5.0×5.5cm大で,病理組織所見では,腫瘍細胞は,UCHL-1(T)陽性,L26(B)陰性で,T細胞性悪性リンパ腫と考えた.大腸原発の悪性リンパ腫はまれで,ほとんどがB細胞由来とされておりT細胞由来のものは極めて少なく,予後も不良とされ,本例も2年後に再発死した.
著者
杉本 琢哉 近藤 哲矢 仁田 豊生 山本 淳史 尾関 豊 関戸 康友
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.183-188, 2006-02-01
参考文献数
24
被引用文献数
6

症例は76歳の男性で, 2001年10月に検診で胃の異常陰影を指摘され, 精査加療目的で当科を紹介された.血液検査では腫瘍マーカーは正常であったが可溶性IL-2レセプターは926U/mlと高値であった.上部消化管造影, 内視鏡検査では前庭部に2型の腫瘍を認めた.生検では悪性リンパ腫が疑われた.以上から, 胃悪性リンパ腫を疑い2001年12月胃全摘, 脾摘術を施行した.病理組織学的, 免疫組織学的検査で胃小細胞癌と診断した.術後CPT-11による化学療法を施行した.2003年8月の腹部CTで肝S7に22mm大の腫瘍を認め肝転移が疑われた.その他全身に異常を認めなかったため2003年11月, 肝S7S8部分切除術を施行した.病理組織学的に肝腫瘍は胃切除組織と同様であり胃小細胞癌の肝転移と診断した.肺転移の疑いがありVP-16による化学療法を施行中であるが胃切除から3年, 肝切除から1年1か月の現在生存中である.
著者
水本 龍二
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.9, pp.2175-2184, 1990-09-01
被引用文献数
6

私がChildのcriteriaを用いて硬変肝ではその切除限界に大きな制約があることを示して以来,既に約20年を経ているが,今回三重大学着任後約13年間に経験した肝臓外科症例469例の臨床成績に基づいて肝臓外科における手術危険度の判定法や手術適応の拡大について検討して報告した.1)肝切除限界:肝機能面からは教室の総合的risk 4,残存肝Rmax 0.2〜0.4が限界であった.この他,活動性肝炎の所見やHBV感染,凝固線溶系機能異常,栄養状態,肝循環動態や心肺腎機能の変化なども考慮する必要がある.2)risk不良例の対策と切除成績:(1)高度凝固線溶系機能異常に対する部分的脾動脈塞栓術,(2)術前術後の積極的栄養管理とBCAAの投与,(3)PGE_1の投与による肝血流の維持などとともに術前術後に亘る慎重な集中管理を行うことによってcritical levelの症例であっても良好な長期予後を得ることができる.さらに手術適応の拡大に関する新しい試みについても紹介した.
著者
土居 幸司 荻原 菜緒 永縄 俊博 高田 英輝 中塩 達明 佐藤 榮作 山内 晶司
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.369-372, 2003-05-01
参考文献数
17
被引用文献数
3

Nissenのfundoplicationは,逆流性食道炎を伴う食道裂孔ヘルニアなどに対し広く行われてきた手術法であるが,その後に胃破裂を来したという報告は少ない.今回我々はNissenのfundoplication術後に胃破裂を来した症例を経験したので報告する.症例は60歳の男性,約3年前に食道裂孔ヘルニアに対しNissenのfundoplicationを受けている.腹痛と腹部膨満感にて当院受診.来院時の腹部X線検査にて胃の著明な拡張を認めたが,処置中に突然,腹部の激痛を訴え,再度のX線検査にて多量のfree airを認めたため胃破裂と診断.緊急開腹手術を行ったところ,胃小彎側が破裂しており,腹腔内には食物残渣とともに可燃性のガスが貯留していた.何らかの原因により胃腸の通過障害が起こり,停滞した食物残渣からガスが発生したが,fundoplicationの逆流防止機構により内圧が上昇し,胃破裂に至ったと考えられた.
著者
西脇 巨記 本多 弓[ジ] 岸川 博隆 田中 宏紀 谷脇 聡 成瀬 博昭 伊藤 和子 梶 政洋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.789-793, 1997-03-01
被引用文献数
19 29

症例1は75歳の男性で, 粘血下痢便を主訴として他院に入院, 潰瘍性大腸炎の診断にて諸検査施行し, 大腸に穿孔を認め緊急手術を施行した. 摘出標本よりアメーバ虫体を認め当院転院となった. 症例2は28歳の男性で, 粘血下痢便を主訴とし他院通院し潰瘍性大腸炎の診断にて投薬を受けていたが改善しなかったため, 当院を紹介され便培養にてアメーバを認め入院となった. 入院後2日目に腹痛増強し, 腹部単純写真にてfree-airを認め緊急手術を施行した. アメーバ赤痢は男性間の同性愛行為により伝播し近年増加傾向にある疾患である. いったん穿孔すると非常に予後の悪い疾患となるため粘血下痢便を主訴として来院する患者に対しては本疾患を念頭にいれる必要があると考え報告した.
著者
小玉 正太 平井 孝 加藤 知行 巻渕 弘治 藤光 康信 紀藤 毅
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.1706-1710, 1996-07-01
参考文献数
10
被引用文献数
11

症例は47歳の男性.肛門出血および腫瘍の肛門からの脱出を主訴として,平成6年8月1日近医を受診.平成6年8月18日,経肛門的腫瘍摘出術を施行された.平成6年9月12日当科入院.摘出標本上,高分化腺癌(mp)から,肛門粘膜上皮内にpagetoid spreadを認めたため,肛門周囲の皮膚生検を系統的に施行し,浸潤範囲を同定した.腹会陰式直腸切断術施行後1年4か月が経過したが,再発徴候なく外来通院中である.肛門管癌に合併した肛門周囲Paget病変は極めてまれで,文献上著者が検索しえた限りでは,自験例を含めて9例の報告のみである.また根治術施行前に肛門周囲の浸潤範囲を同定しえた報告は,検索しえた限り自験例のみであり,文献的考察を加え報告した.
著者
伝野 隆一 平田 公一 八十島 孝博 宍戸 隆之 浦 英樹 山口 浩司 水口 徹 佐藤 文彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.974-978, 1998-04-01
参考文献数
11

胃癌の転移・浸潤機序を解明するためにヒト胃癌細胞株AZ521からヌードマウスの肝臓に高率に転移するAZ-H5cを作製し, 両者を比較することにより転移・浸潤の各ステップについて検討した.(1)E-カドヘリン, αカテニン, βカテニンについて, (2)MMP2, MMP9について, (3)インテグリン, CD44について検討した.AZ-H5cはAZ521に比べ, 高い運動能をもち, MMP-9, インテグリンα1, α2, α3, α4, α5, インテグリンβ1, CD44v3の発現量が増強していた.胃癌の臨床材料での検討ではインテグリンα2の発現とリンパ節転移が関係し, インテグリンα3の発現と肝転移が関係していた.MMP-9に関してはこれまでの病理学的因子と関係はみられなかった.今後胃癌の転移・浸潤に関する機序が解明されることにより機能を温存した縮小手術の適応を拡大できるものと考えられる.
著者
毛受 松寿 仙誉 軍一 吉野 邦英 平出 星男 村上 忠重
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.281-289, 1978-04-01
被引用文献数
2

胸部食道癌切除後の食道再建には胃や結腸が利用されることが多く, 空腸による再建術は実施されることが少ない. われわれは新しい観点から空腸による食道再建術を検討してきたが, 臨床例が38例に到達したので, われわれの行っている空腸による再建型式, 拳上空腸脚作製上の問題点, 胸骨柄切除胸骨後再建経路の作製法, さらに胸骨縦切による胸骨後経路, 吻合法ならびにその補強法, 術後管理の問題点について述べるとともに, 胸骨柄切除胸骨後経路による空腸利用の食道再建術は優秀な術式であるとの確信を得たのでその大要を報告した.
著者
澤田 傑 上坂 克彦 加藤 知行 森本 剛史 小寺 泰弘 鳥井 彰人 平井 孝 安井 健三 山村 義孝 紀藤 毅
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.11, pp.2190-2194, 1996-11-01
参考文献数
17
被引用文献数
4

症例は52歳の女性.1981年7月,S状結腸癌を伴う大腸腺腫症の診断で結腸全摘および直腸低位前方切除術を施行した.1985年8月,CTで腹腔内デスモイド腫瘍が疑われタモキシフェン,スリンダクの内服治療を行い臨床上縮小した.1995年7月,内視鏡にて十二指腸多発性腺腫,および十二指腸下行部のVater乳頭対側に3個の腺腫内癌を診断した.9月7日全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除の予定で開腹したが,小腸間膜を広範に巻き込むデスモイド腫瘍のため再建不能と判断し十二指腸壁を切開し主だった腫瘍を摘出,小ポリープは可能な限り焼灼した.大腸腺腫症に十二指腸病変は高頻度に合併するが,傍乳頭部領域以外の部位から発生した多発性十二指腸癌の報告例はまれである.また,この際腸間膜のデスモイド腫瘍を併発すると外科的治療に制約が加えられることが有りえるので治療法の選択上注意が必要である.
著者
土居 幸司 吉田 誠 中村 誠昌 松村 光誉司 打波 大 田中 國義 今村 好章
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.202-207, 2005-02-01
参考文献数
40
被引用文献数
7

脾原発血管肉腫はまれな疾患で極めて予後不良である.今回,われわれは脾原発血管肉腫の切除後に転移巣に対しrecombinant interleukin-2(rIL-2)を投与したところ,肝転移巣および転移リンパ節において奏功を認めることができ. rIL-2の有用性が伺われた.症例は52歳の女性で.2002年9月,巨大な脾腫瘍に対し脾摘術を行い血管肉腫の診断を得た.術中多発肝転移を認めたため,これに対しrIL-2の肝動注を行ったところ転移巣は著明に縮小した.2003年3月,肝十二指腸間膜リンパ節に転移を認め,IL-2の持続静注療法を行ったところ転移巣は著明に縮小した.2003年5月,脳転移と思われる病巣が出現し脳外科にて摘出手術を行ったが切除標本からは血管肉腫の所見は得られず転移とは断定できなかった.術後,肝転移巣と副腎転移巣が増大したが,副作用のためrIL-2療法が続けられず,2003年9月死亡した.
著者
福本 晃久 渡辺 明彦 山田 高嗣 澤田 秀智 山田 行重 中野 博重 高濱 誠 北村 惣一郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.1756-1760, 1997-07-01
参考文献数
12
被引用文献数
8

症例は74歳の男性. 1986年に胸部食道癌にて食道亜全摘術, 胸骨後経路による胃管再建術を施行した. 1994年5月に挙上胃管に消化性潰瘍を認めたため抗潰瘍剤を経口投与していた. 同年8月13日, 突然, 前胸部痛が出現, 改善しないため, 8月14日当科を受診した. 胸部単純X線検査, 胸部CTにて心嚢内に gas像を認め, 上部消化管造影検査にて心嚢内への造影剤の流出を認めた. その後, 胸痛の増強, 血圧低下, 不整脈が出現したため, 心タンポナーデと診断し, 緊急手術を行った. 胸骨後経路による胃管再建であったため, 左開胸下に心嚢ドレナージ術を施行した. 術後, 血圧は安定, 不整脈も軽減した。潰瘍に対しては経鼻胃管を留置し, ファモチジンを静脈投与した. 食道癌術後, 再建胃管潰瘍の心嚢内穿孔により心タンポナーデを来す症例はごくまれであり, 本邦では救命例の報告は無い (〜1995年12月) ので, 若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
小林 昭彦 小関 廣明 増子 毅 大和田 康夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.634-638, 2000-05-01
参考文献数
11
被引用文献数
9

術前診断に小腸造影検査が有効であった内ヘルニアを2例経験したので報告する.症例1は44歳の女性.腹痛・嘔吐を訴え, 腹部単純X線でイレウスと診断した.保存的治療が奏効せず, 33日目に開腹したところ大網裂孔ヘルニアを認め, 陥入した空腸は小網と癒着し, 絞扼性変化をきたしていた.空腸部分切除とヘルニア孔閉鎖を施行した.症例2は57歳の男性.腹痛を訴え, 腹部単純X線でイレウスと診断した.保存的治療が奏効せず, 21日目に開腹したところS状結腸間膜内ヘルニアを認め, 陥入した回腸は後腹膜と癒着していた.腸管切除は行わず, 癒着剥離とヘルニア孔閉鎖を施行した.2症例とも開腹歴はなく, イレウス症状をきたし, 小腸造影では狭窄部位で腸管の先細り像を認めたが, 血管造影, CTなどの検査では異常を認めなかった.このような症例においては, イレウスの原因として内ヘルニアを念頭に置く必要があると考えられた.
著者
谷 直樹 野口 明則 竹下 宏樹 山本 有祐 伊藤 忠雄 中西 正芳 菅沼 泰 山口 正秀 岡野 晋治 山根 哲郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.1536-1541, 2007-08-01
被引用文献数
11

今回,我々は直腸癌術後の膵および肝転移に対する1切除例を経験したので報告する.症例は78歳の男性で,1993年に直腸癌に対して直腸切断術,肝S7の同時性転移に対する肝部分切除を施行した.術後は無再発に経過していたが,11年目の2004年10月腫瘍マーカーの高値を指摘され,腹部遺影CTを施行したところ膵体部および肝S4に腫瘍を認めた.ERCPで膵管の途絶を認め膵体部癌および肝転移を疑い膵体尾部脾合併切除および肝部分切除を施行したが,病理組織学的検査の結果はともに11年前の直腸癌からの転移であった.大腸癌の膵転移はまれな病態であるが,初回手術から長期間を経てから生じること,経過中に肺,脳,肝臓など多臓器に血行性転移を生じる例が多いこと,予後不良であるなどの特徴を有するので治療上の注意が必要である.本邦報告例の検討から,初回手術後長期経過して発見された膵転移は切除後の予後が比較的期待できる可能性があると考えられた.
著者
堀 公行 西村 和夫 光野 孝雄
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.11, no.8, pp.636-642, 1978-08-01

脳疾患時,とくに脳外科手術後に生ずる出血性ストレス潰瘍例は,ほとんど意識障害を有し,その原病の重篤さとともに止血対策に苦慮することが多い.私どもは過去に経験した19例につき,開腹手術への適応時期を検討し,さらにその胃手術法につき述べる.開腹手術の適応として,潰瘍出血による脳病変の悪化を防ぐことに重点をおき,そのため意識障害を指標として,たとえ輸血量が1000ml/日以下でも,出血によって意識障害が遅くとも半昏睡に陥いる前に開腹手術を行うべきである.この際手術法として潰瘍病変の広がりと,胃切後もまだなおつづくとみられるストレスによる残胃十二指腸の再出血を抑制することなどから,小弯を多く切除する亜全摘に近い広範胃切除術に幹迷切術を併施することが最良であると強調した.