著者
斎藤 元 阿保 七三郎 北村 道彦 橋本 正治 泉 啓一 天満 和男 三毛 牧夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.1819-1823, 1995-08-01
参考文献数
12
被引用文献数
4

胸部食道癌術後, 後縦隔経路再建胃管-右主気管支瘻が発生した症例に対し, 有茎大胸筋弁による瘻孔閉鎖術を施行し治癒しえた症例を報告する.患者は63歳の男性, 胸部中部食道癌に対し1993年7月14日, 胸腹部食道全摘, 3領域リンパ節郭清, 後縦隔経路食道胃管吻合術を施行した.第13病日, 術後透視にて異常なく経口摂取開始となったが, 咳嗽が激しく経口摂取困難, また誤嚥性肺炎を合併.その後, 絶食, 中心静脈栄養, 経腸栄養を実施していたが, 第120病日, 食道造影にて胃管気管支瘻を確認, 12月21日, 有茎第3肋間筋弁を用いた瘻孔閉鎖術を施行したが, 術後膿胸を合併, 第40病日に胃管気管支瘻の再発を確認.当科に転院後, 1994年3月14日, 有茎大胸筋弁による瘻孔再閉鎖術を施行.術後経過良好, 気管支内視鏡, 食道内視鏡にて治癒を確認, 現在外来加療中である.本症では, 術後経過, 内視鏡所見, 術中所見より胃管自動縫合器縫合線部循環障害が瘻孔形成の原因と考えられた.
著者
高木 融 佐藤 滋 黒田 直樹 逢坂 由昭 高木 眞人 林 幹也 村田 和彦 岡田 了祐 青木 達哉 小柳 泰久
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.888-891, 1999-03-01
参考文献数
8
被引用文献数
10

従来より食道気管支瘻に対して, 保存的治療, 内視鏡治療, 手術などが行われてきた. 今回, 我々は生体接着剤であるEthyl-2-cyanoacrylate(以下, ECAと略す)を用いた内視鏡的瘻孔閉鎖術を試み, 良好な結果を得たので報告する. 症例は73歳の男性. 平成9年6月初めより胸部不快感出現し, 6月6日内視鏡検査にて上切歯列より32cm, 3時方向に憩室があり, 憩室内に2mmの瘻孔を認めた. 7月2日瘻孔造影にて右B6がら造影剤の流出を認めた. 7月10日散布チューブよりECA1mlを瘻孔開口部に散布し, 造影にて瘻孔が閉鎖しているのを確認した. 散布後4日目の造影で一部造影剤の流出を認めたため, 再度ECA1mlを散布した.翌日より食事を開始し退院となった. ECAによる内視鏡的瘻孔閉鎖術は, 比較的簡単な手技で安全に繰り返し施行できるため, 手術を考慮する前や, 全身状態の悪い症例に有効な方法と思われた.
著者
森野 茂行 重政 有 羽田野 和彦 碇 秀樹 清水 輝久 菅村 洋治 國崎 忠臣 米満 伸久
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.11, pp.1693-1697, 2002-11-01
参考文献数
11
被引用文献数
9

症例は23歳の女性.平成13年7月4日より腹痛嘔吐が出現し7月7日当院を受診した.触診上,左下腹部に圧痛を伴った鶏卵大腫瘤を触知した.腹部エコー,CT検査において左下腹部にターゲットサインを認め,また上部小腸の拡張を認めた.小腸重積症の診断で高圧注腸を試みたが,整復が困難であったため緊急手術を行った.回腸末端部より90cm口側の回腸が約15cmにわたって重積を起こしており,約40cmの回腸を切除した.重積回腸先進部の粘膜面に径約3cmの腫瘍を認めた.病理組織学的には,粘膜下組織と筋層内に平滑筋組織と混在する導管構造を認め,迷入膵Heinrich分類III型と診断した.迷入膵は胃,十二指腸,空腸などの膵の近傍に好発する疾患で,回腸に発生することは比較的まれである.回腸迷入膵は腸重積を引き起こし発症することが多く,高圧注腸による整復が困難で腸切除を余儀なくされることが多い.発生部位は回腸末端部より100cmまでの下部回腸に好発する.
著者
大城 望史 八幡 浩 春田 直樹 丹治 英裕 篠崎 勝則 内田 一徳 杉野 圭三 丸林 誠二 浅原 利正 土肥 雪彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.2350-2354, 1999-10-01
参考文献数
16
被引用文献数
7

症例は56歳の男性, 嚥下困難を主訴に前医を受診し, 食道癌と診断され当科に入院した. 入院時白血球数は19,400/mm^3と高値であったが, ほかに炎症所見は認めなかった. 1998年6月9日に食道亜全摘術を施行, 病理組織学的診断はいわゆる癌肉腫であり, mp, n(-), Pl_0, M_0, stage Iであった. 術後白血球数はすみやかに低下し, 血中G-CSF値は術前109pg/mlと高値であったが, 術後は21pg/ml, 11pg/mlと低下し, 抗G-CSF抗体を用いた免疫染色でも陽性であり, G-CSF産生腫瘍と診断した. G-CSF産生食道癌肉腫は本邦2例目と極めてまれである. G-CSF産生腫瘍は予後不良であるが, 自験例は8か月経過した現在も再発の兆候を認めていない.
著者
野村 昌哉 宗田 滋夫 井上 善文 吉川 幸伸 文元 雄一 横谷 仁彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.217-222, 2004-02-01
被引用文献数
1

症例は53歳の女性で,下痢,下腹部痛を主訴に当科受診.下行結腸カルチノイドに対し,1995年8月4日に左結腸切除術(D_2郭清)を施行した.病理組織学的には混合型カルチノイド,銀反応陰性型で壁深達度mp,リンパ節転移n_1(+)であった.術後7年目の2002年3月19日,上行結腸カルチノイドに対し,右結腸切除術(D_2郭清)を施行した.病理組織学的には混合型カルチノイド,銀好性細胞型で壁深達度ss,リンパ節転移n(-)であった.本邦では虫垂および直腸を除く大腸原発のカルチノイドは比較的まれで,うち多発例は自験例を含め3例であった.結腸カルチノイド根治術後の異時性発生例は自験例のみであった.さらに,腫瘍組織における癌遺伝子Wilms' tumor gene (WT1)のmRNAレベルは,正常組織に比べ約200倍過剰発現していたことから,WT1遺伝子が大腸カルチノイドの発生に関わっている可能性が示唆された.
著者
小田原 良治 西 満正 小玉 徳信 野村 秀洋 愛甲 孝 金子 洋一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.12, no.11, pp.844-852, 1979-11-01
被引用文献数
1

雑種成犬18頭および臨床例67例を対象として負荷試験によるセクレチン放出を検討した.その結果,0.3M Glycine,各濃度Etylalcoholには直接的セクレチン放出作用はなく,稀塩酸のみ有意のセクレチン放出作用を認めた.ヒトにおけるアルコールのセクレチン放出作用は,アルコール投与により惹起された胃酸分泌の亢進が原因と考えられる.臨床例の空腹時セクレチン値は,胃全剔で低値を示す傾向にあり,セクレチン値と健常な胃の存在が密接な関係にあることがうかがわれた.塩酸負荷後のセクレチン放出は,胃全剔例では,Roux-YよりDouble Tractが良好であり,噴門側胃切除例ではN字吻合が良好であった.
著者
吉田 卓弘 梅本 淳 山井 礼道 清家 純一 本田 純子 丹黒 章 島田 光生 米田 亜樹子
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.1576-1581, 2007-09-01
参考文献数
37
被引用文献数
5

非常にまれな胃異所性膵から発生した腺癌の1例を報告する.症例は64歳の男性で,胸膜炎の経過観察中に,胸部CTにて胃幽門部大彎側に径3.0cmの腫瘤を偶然に指摘された.上部消化管内視鏡検査,超音波内視鏡検査を施行したところ,幽門前底部になだらかな隆起性病変を認め,筋層を主座とする粘膜下腫瘍を認めた.Retrospectiveには2年前のCTでも存在しており,腫瘍径にほとんど変化を認めなかった.しかし,幽門狭窄症状を来したため,胃sastrointestinal stromal tumorの術前診断のもと腹腔鏡下幽門部分切除術を施行した.腫瘍の一部を術中迅速診断に提出したところ,胃異所性膵と考えられた.永久標本では粘膜下層から漿膜下にかけて腫瘍が存在し,一部に腺癌への移行像を認め,異所性膵から発生した高分化型腺癌と診断された.粘膜下腫瘍の治療においては,悪性腫瘍が併存する可能性も念頭におく必要がある.
著者
門野 潤 浜田 信男 海江田 衛 石崎 直樹 中村 登 福枝 幹雄 大井 恭代 生駒 明 坂田 隆造
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.605-609, 2001-06-01
被引用文献数
6

症例は69歳の女性. 主訴は右季肋部痛, 発熱. US, CT, MRIで胆嚢底部を中心とした嚢胞状病変を伴った壁肥厚と体部の隆起性病変が認められた. ERCPでは総胆管結石と胆嚢管の途絶が認められた. 血管造影で胆嚢底部の濃染が認められたが, 胆嚢動脈のencasementなどは認められなかった. 以上より, 胆嚢壁肥厚は黄色肉芽腫性胆嚢炎と診断されたが, 胆嚢癌の併存も考えられた. 全層胆嚢摘出術を行い, 迅速組織診て胆嚢壁肥厚部は黄色肉芽腫性胆嚢炎, 乳頭状腫瘍は深達度mpの胆嚢癌と診断された. 胆嚢, 総胆管内に色素石が認められ, 黄色肉芽腫性胆嚢炎の誘因と考えられた. 永久標本の組織診でも同様の所見で, 黄色肉芽腫性胆嚢炎は癌腫に波及しておらず, おのおの独立して発生していた. 黄色肉芽腫性胆嚢炎の術前診断に腹部US, CT, MRIが有効であったが, 胆嚢癌との鑑別は困難であった. 黄色肉芽腫性胆嚢炎では常に胆嚢癌を念頭に置いた慎重な術式の選択が望まれる.
著者
徳原 克治 山中 英治 伊東 大輔 小柴 孝友 佐藤 正人 小切 匡史
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.11, pp.1690-1694, 2001-11-01
被引用文献数
15

患者は69歳の男性.1995年頃より, 肛門周囲の皮膚からの排膿, 出血を繰り返し, 1999年3月頃には大豆大の腫瘤が出現した.2000年初めより排膿, 出血が頻回となり腫瘤が増大してきたため, 同年5月当科を受診した.肛門3〜5時方向にかけて表面に潰瘍を有する38×27mm大の腫瘤が存在, その一部を生検したところ中分化腺癌と判明した.また大腸内視鏡で, 肛門縁より20cm口側のS状結腸に2'型進行癌を認め, 生検の結果は中分化腺癌であった.両病巣の組織像が一致したことより, S状結腸癌とその管腔内転移による転移性痔瘻癌と考え, 腹仙骨式直腸切断術を施行した.痔瘻は日常診療においてしばしば遭遇する疾患であるが, 痔瘻に癌が発生した場合は転移性痔瘻癌も念頭に置き大腸検査を施行する必要がある.また大腸癌患者で痔瘻を有する場合は, 痔瘻への転移も考慮にいれた厳重な経過観察が必要であると考えられた.
著者
大川 卓也 仁瓶 善郎 山下 俊樹 林 哲二 杉原 健一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.73-77, 2004-01-01
被引用文献数
14

腸開腹デスモイド腫瘍はまれな疾患で,家族性大腸腺腫症,手術,外傷,妊娠などの既往を有する症例に発生することが多い.今回我々は,小腸間膜原発デスモイド腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は58歳の男性で,56歳時に食道癌の手術を受けた.腹部腫瘤触知・腹痛を主訴に近医受診,腹部腫瘤と診断され当科紹介となった.腹部超音波・CT・MRI・血管造影検査にて小腸間膜に境界比較的明瞭な腫瘤を認め,小腸間膜充実性腫瘍と診断し,腫瘤摘出術を施行した.腫瘤は110×65×58mmで,組織学的には分化した線維芽細胞と豊富な膠原線維からなり,核分裂像は認めず,Masson染色で青染,Vimentin染色陽性にてデスモイド腫瘍と診断した.腸開腹腫瘍の術前質的診断は困難なことが多いが,本症例のように画像上腫瘍血管像を認めない充実性腫瘍の場合,デスモイド腫瘍も念頭において手術に臨むべきである.
著者
溝井 賢幸 大内 明夫 椎葉 健一 松野 正紀
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.2584-2588, 1991-10-01
被引用文献数
13

脾臓にのみ孤立性転移を認めた結腸癌の1例を経験した.症例は60歳,男性.上行結腸癌と脾腫瘍の診断で入院となったが,術前の画像診断では原発性か転移性かの鑑別は困難であった.開腹時の術中迅速病理診断で粘液癌と診断し,上行結腸癌の脾転移と考え,右半結腸切除術と脾摘術を施行した.術後9か月より血清CEA値の再上昇がみられるが,画像診断上再発は確認されていない.大腸癌の脾転移は頻度が低く,特に肝臓など他臓器に転移せず,脾臓にのみ転移した症例は極めてまれであり,文献上本症例も含め6例のみであった.脾転移の経路に関しては不明の場合が多いが,血行性転移が主であるとする意見もあり,本症例も血行性転移の可能性が高いと考えられた.文献上孤立性脾転移の切除予後は比較的良好であり,早期診断と積極的切除が重要と考えられた.
著者
小竹 優範 森田 克哉 中田 浩一 俵矢 香苗 藤森 英希 吉野 裕司 小泉 博志 伴登 宏行 村上 望 山田 哲司
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.441-446, 2005-04-01
被引用文献数
13 10

症例は73歳の男性で, 2000年9月に上行結腸癌にて右側結腸切除の既往あり.2003年10月胆嚢炎疑いにて当科紹介となり, CTで膵頭部に濃染不良の3.6cm大の腫瘤を認め, MRCPで下部胆管・膵管が閉塞し総胆管・主膵管の拡張を認めた.血管造影で下膵十二指腸動脈の強い屈曲・蛇行と濃染像を認め, FDG-PETで膵頭部の腫瘤に強いFDGの集積を認めた.以上より, 転移性膵頭部腫瘤の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本は十二指腸乳頭部, 膵頭部に5.5×4cm大, 2型の腫瘍を認め, 病理組織学的所見では中分化型腺癌で, 大腸・膵臓ともにCK7で陰性, CK20で陽性を示し, 大腸癌の膵頭部転移と診断した.術後経過は良好で, 術後26日目に退院した.大腸癌の膵転移切除例の本邦報告例は自験例を含め12例であったので報告する.
著者
辻 孝 澤井 照光 林 洋子 山田 義久 松本 博文 宮崎 拓郎 稲村 幸雄 長嵜 寿矢 中越 亨 綾部 公懿
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.24-29, 2002
被引用文献数
5

はじめに:手術後の肺塞栓症(pulmonary embolism:以下, PE)は致死率の高い重大な合併症であり, 塞栓子の多くは深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:以下, DVT)に由来する.本邦では術後の発生率が低いために, 予防法に関しても広く普及しているとは言い難い.我々は独自のリスクスコアを用いてDVT・PEの術前リスク評価を行うとともに, 1998年12月より全手術症例に対してintermittent pneumatic compression(以下, IPC)による予防を行っている.方法:今回, IPC導入以前の1997年8月〜1998年11月までの全身麻酔下手術症例109例とIPC導入後の1998年12月〜2001年3月までの216例を対象としてDVT・PE発生率を比較した.結果:IPC非使用群では4例にDVT・PEの発生を認めたが(3.7%), IPC使用群216例では1例のみにPEの合併を認めた(0.5%, p=0.045).ロジスチック解析ではIPC使用によりDVT・PEのリスクが10分の1に減少した.IPC使用による副損傷は経験していない.術前リスクスコアが平均値もしくはそれ以下の2例でもDVT・PEの発生を認めており, 発症の予測は困難である.考察:IPCは簡便で有用な周術期DVT・PE予防措置であり, 全手術症例に対して施行する必要があると考える.
著者
金丸 仁 横山 日出太郎 白川 元昭 橋本 治光 吉野 吾朗 高津 光 杉山 高 秋山 敏一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.1369-1376, 2002-08-01
被引用文献数
34

門脈ガス血症(以下,本症と略記)は予後不良で緊急開腹術が必要と考えられてきたが,最近自然軽快する例の報告も多く,手術適応の判断が難しい.われわれの12例の経験と文献報告例から本症の手術適応につき考察した.方法:腸管壊死があり開腹術の適応であった5例(A群)と,腸管壊死が無く経過観察可能であった7例(B群)を比較した.結果:A群は全身状態不良で,5例全例に腹膜刺激徴候を認めた.B群では全身状態は良好で,2例を除き腹膜刺激徴候を認めなかった.A群では全例熱発を認めたがB群では4例で熱発を認めなかった.白血球数はA群5例,B群5例で10,000/mm^3以上であった。CRPは,不明例以外で,A群では4.3mg/dlと7.0mg/dlの2例のほか2例が20mg/dl以上であったがB群では全例20mg/dl以下でうち5例は1.1mg/dl以下であった.考察:本症の成因には,腸管壊死からの感染として,E.coliなどのガス産生菌が関与する場合と,非絞扼性腸閉塞の場合など,単に腸管内圧の上昇によって発生する場合があるが,後者の成因の場合は経過観察が可能と考えられる.手術適応は腸管壊死の有無にかかっているが,その判断は,全身状態,腹部所見,熱発の有無など,理学所見の正確な把握が重要で,一般の急性腹症の場合となんら変わるところはない.検査値としては白血球数よりもCRPが手術適応の参考になる.