著者
山本 亮 佐々木 直美 中島 由美 橋本 康子 伊勢 昌弘 吉尾 雅春
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0277-B0277, 2005

【はじめに】<BR> 今回,脳梗塞による注意障害は徐々に改善し,院内生活では問題とならなくなったが,自動車運転において障害が表面化し,結果的には運転を断念した症例を担当した.その注意障害を,テスト上や院内生活時と自動車運転時との差について検討し報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 46歳女性,右中大脳動脈領域の広範な梗塞により,左片麻痺・半側空間無視を呈した.発症後約2ヶ月で当院へ転院,理学療法を開始した(以下,初期評価時).発症後4ヶ月頃より1ヵ月半かけて自動車学校にて教習を4回行った.教習終了時では,Brunnstrom stage左上肢2・下肢3,感覚障害は中等度鈍麻であり,日常生活自立度はFIMにて101点で,清拭動作と階段昇降で3~4点,その他は6~7点と自立レベルであった.<BR>【注意障害の変化について】<BR> 半側空間無視:初期評価時は,線分抹消テストでの消し忘れは無かったが,院内生活において左側の部屋や人・物を見落とす場面を認めた.教習終了時には院内生活での空間の障害はみられなくなった.しかし自動車運転時は,左折時に左折した先の左車線を見落とし,大きく膨らんで反対車線に侵入する等を認めた.<BR> 選択性の障害:初期評価時は,日常動作が会話等で容易に中断される場面が多く認められたが,教習終了時の院内生活では行動の一貫性は保たれ特に問題は見られなくなった.自動車運転時では,車の発車時に周囲の確認ばかりを行い,自分でなかなか動き出せない等を認めた.<BR> 分配性の障害:Trail Making Testでは,初期評価時Part A 1分45秒,Part B 4分30秒,教習終了時Part A 1分18秒,Part B 3分5秒と改善を認めた.院内生活では,調理場面にて複数の動作を並行して行えるようになった.自動車運転時では,ハンドル操作に集中すると足でのペダル操作がおろそかになる等の場面を認めた.<BR> また,4回の教習にて運転動作の向上は認められたが,注意障害の改善はほとんど認められずに同じ失敗を何度も繰り返し,最終的に教官の判断にて運転を断念した.<BR>【考察】<BR> 方向性注意については,院内生活には身体動作や時間の余裕があり,意識付けにより代償しているが,自動車運転時では動作が重複することや時間の経過が速いことから,その代償が十分に行えないのではないかと考えた.<BR> 全般性注意については,自動車運転時は院内生活に比べ,対象とする「空間の広さ」や必要となる「情報量の増加」と,その「情報処理の速さ」が同時に要求されるために,注意障害があたかも増悪したような結果になったと思われる.<BR> これらのことより,院内だけで評価やアプローチを行うには注意機能面だけにおいても限界があり,自動車運転などのように,より実際的な場面での評価の重要性を認識させられた.
著者
佐々木 紗映 平栗 優子 岩井 一正 松崎 恭子 皆川 邦朋 畦地 良平 平川 淳一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O2120-C3O2120, 2010

【目的】当院は、身体障害を合併した症例を対象としたリハビリテーション科を併設している精神科病院である。身体・精神の各々の専門スタッフがチームとして患者の治療にあたっている。そのための情報共有を目的として、ドイツ語圏で編み出された精神科の記録と評価のシステムであるAMDPシステムの運用を開始している。AMDPとは、全140項目からなり、各項目を「なし」「軽度」「中等度」「重度」「不明」の5つの段階で評価を行いその結果について分析する手法である。当院では、Berlinグループの方法を採用しており、140項目を「妄想幻覚症候群」「うつ症候群」「躁症候群」「器質症候群」「敵意症候群」「自律神経症候群」「無力症候群」「強迫症候群」の8群に分類し、グラフなどで可視化できるようにしている。<BR>我々は、これまで精神症状が身体リハの進度やアウトカムに影響を及ぼすことを経験してきた。原因については、様々な理由が考えられるものの、精神・身体両方の治療効果について評価を続けてきたことで、それらの関連について多少の知見を見出すことができた。そこで、本研究は、精神機能向上に伴う身体機能への影響のうち、"できるADL"と"しているADL"の相違について考察することを目的とした。<BR><BR><BR>【方法】2008年3月から2009月5月末までに評価した32名について、BerlinグループのAMDPシステム各症候群(妄想幻覚・うつ・躁・器質・敵意・自律神経・無力・強迫症候群)の獲得点数と、ADL指標であるBarthel Index(以下、BI):訓練でできるADL("できるADL")と、functional independence measure(以下、FIM):実際に病棟で行っているADL("しているADL")との関係について解析を行った。解析は統計ソフトSPSSを使用し、Peasonの相関係数にて算出した。<BR><BR>【説明と同意】本研究は当院倫理委員会の審査を受けている。<BR><BR>【結果】AMDP 症候群(以下、S)とBI、FIMとの間に負の相関が認められた。特にFIMとの相関が強く、強迫を除いたAMDP症候群(幻覚妄想、うつ、器質、躁、敵意、自律神経、無力)でそれぞれ改善がみられるとFIMの点数が有意に向上していた。BIについては、BI食事とAMDP器質Sに強い相関、BI排便自制・排尿自制とAMDPうつS、器質Sが中等度の相関を示していた。FIMについては、FIM歩行車椅子とAMDP無力S、FIM理解とAMDP躁S、FIM表出とAMDPうつS、FIM社会的交流とAMDP妄想幻覚・無力S、FIM記憶とAMDP無力Sに中等度の相関、FIM更衣(上)とAMDP妄想幻覚S・無力S、FIM更衣(下)とAMDP敵意S、FIMベッド移乗とAMDP無力S、FIM歩行車椅子とAMDP妄想幻覚・うつ・敵意S、FIM理解とAMDP自律神経S、FIM表出とAMDP妄想幻覚S、FIM社会的交流とAMDPうつ・器質・躁・敵意S、FIM記憶とAMDP器質Sに中等度の相関が見られた。<BR><BR>【考察】今回の結果から、精神機能の回復に伴って身体機能も向上しているが、精神症状は特にFIM、すなわち"しているADL"動作の自立度・能力へ強く影響していることがわかった。これは、精神症状の影響を受ける量について、BIとFIMとの間に相違があることを示していると思われ、訓練室で獲得された動作が病棟ADLに反映しにくい理由であるとも考えられる。また、FIMに関しては、13項目の運動項目とAMDPとの間に9つの項目に相関関係が見られたことに留まったが、5項目の認知項目とAMDPとの相関関係は12項目に見られ、認知項目と精神症状の関係性の深さが示唆された。しかしながら、その相関関係を示す理由については今後考察・検討を重ねていく必要があり、症例数を重ねながら原因追求をしていきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】精神症状精神症状と身体症状との関連性については先行研究が存在するものの、既存の評価及び汎用性の高い評価方法を用いて行った今回の調査は、精神科病院内だけでなく、一般的なリハ場面においても汎化しうる可能性を示唆している。
著者
上原 隆浩 泉尾 佳苗
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2138-B4P2138, 2010

【目的】重症心身障害児/者の中でGMFCSレベル5を示す児/者は姿勢コントロールが困難で姿勢変換に介助を必要とし、1日を通して取れる姿勢が限られ、背臥位で過ごす時間が多くなる。背臥位で長期間過ごすことにより脊柱側弯、胸郭変形、風に吹かれた股関節などの変形が起こり、非対称姿勢を呈するようになる。非対称姿勢は重力の影響を多く受けており、非対称姿勢の改善には重力を考慮したポジショニングの提供が必要であると考えられる。背臥位での下腿下垂法は下肢の重量を軽減させることで、変形予防、体圧不均等軽減等が可能であるが、重症心身障害児施設入所者の場合、介助者は複数で多職種となり、ポジショニングの統一が難しい場合が多く、また下腿を下垂させる為の設定も必要となり、日常生活への導入が難しい。今回、当園入園の男性に対し24時間姿勢ケアの一つとして背臥位での下腿下垂法を実施。重力の影響を考慮したポジショニングを円滑に日常生活へ導入する一手段となることを目的とし、病棟職員との協動により24時間を考えたポジショニングが定着した症例の取り組みの内容について報告する。<BR>【方法】症例は37歳男性、小頭症。平成13年10月当園入園。捻れを伴った脊柱左凸側彎あり。GMFCSレベル5。頚部の軽度随意回旋はみられるが、その他の自発運動は乏しい。声かけにより笑顔を見せ、発声することもある。食事は胃瘻より摂取。日常的に取る姿勢は背臥位が多く、その他に食事時は右背側臥位、午後より1時間程度腹臥位にて過ごす。平成20年11月、評価項目として背臥位での体圧分布、回旋モーメントの評価。1時間ごとの24時間の写真による姿勢の評価を行った。評価後理学療法時間を利用し、下腿下垂法を実施。病棟内プレイルーム、ベッド上で実施する為に、牛乳パック、すのこを使用した台を作成。その上で背臥位をとるようにした。日中過ごすプレイルーム内、移動、活動場面で使用する車椅子上、夜間ベッド上で下腿下垂法を取れるようにし、病棟看護師長、担当看護師に方法、効果を説明、理解を得た後、平成21年1月、病棟職員へ伝達。統一したポジショニングを提供した。<BR>【説明と同意】今回の発表にあたり、症例の保護者への内容の説明を口頭及び文章で行い、同意を得ている。<BR>【結果】数回の病棟職員への伝達後、24時間を通してのポジショニングが統一して出来るようになった。体圧の不均等が軽減し、下肢の脱力や持続的は脊柱の伸張が可能になった。下腿下垂法実施前は左大転子部に褥瘡があったが、実施後約2ヶ月で治癒となった。また保護者から「外泊時同様のポジショニングを行ったが以前と比べ、力が抜けやすくなり夜間もよく眠るようになった」との意見もあった。<BR>【考察】下腿を下垂させることで不安定な下肢を安定させることが出来、下肢の重量による骨盤、脊柱へのねじれ、体圧分布不均等が軽減出来た。また頭部に使用していた枕を低くすることで、頭部の床への押しつけも軽減し、全身的に脱力することが可能になったと考えられる。統一したポジショニングの実施については、まず病棟看護師長、担当看護師といったキーパーソンに方法や効果を説明し、十分な理解を得た上で病棟に伝達したことで、理学療法士が確認できない時間のポジショニングの確認が徹底出来。またプレイルーム、車椅子上、ベッド上で行うポジショニングのクッションを統一することで、ポジショニング内容及び実施が定着しやすかったと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】重症心身障害児/者の変形を進行させる要因である重力や支持接触面の影響はあらゆる姿勢、場面で常時受けているものであり、生活を支援する上で重要な要因である。その中でポジショニングは変形予防や自発活動の促通を行うことが可能であり、24時間を通して支援する必要があると考えられる。今回の報告により多職種、複数の職員へ24時間を考えたポジショニングを伝達し、また使用物品を安価で手に入れやすいものを使用したことは介助者の知識、技術や場所に関係なくポジショニングを提供する方法が提示できると考えられる。今回の24時間のポジショニングについて、今後その経過を追うことで下腿下垂法及び24時間姿勢ケアの効果,問題点を検証できるのではないかと考える。
著者
平林 弦大 真塩 紀人 白石 和也 田口 祐介 神山 真美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ga0191-Ga0191, 2012

【はじめに、目的】 社会構造の変化に伴い,リハビリテーションの果たす役割は大きくなり,疾病対策・健康増進・介護予防など多分野での活動が求められている.それらに伴いセラピスト養成校も比例的に増加し,現状は需給バランスを欠く状況へと変化しつつある.今後の就業状況は多様化し求人が減少傾向に向くことが予測され,養成施設においても就職活動の方略を見直す必要性がある.そこで今回は,セラピストを目指す学生が現状の就職状況をどのように考え,就職先には何を望んでいるか,就職選定要因を把握するため調査を行ったので報告する.【方法】 3年制専門学校にて,臨床実習を含めたすべての学事が終了した理学療法学科3年生35名,作業療法学科3年生21名,合計56名を対象とした.学生へは今後の就職の見通しと、就職先へ望むものについて質問紙法によるアンケート調査を行った。就職の見通しについては「今後セラピストの就職は厳しくなるか」という問に対し,「かなり厳しくなる」から「かなりしやすくなる」の4段階で回答を求めた。就職先に求めるものについては,就業志向尺度(若林ら,25項目)を用い実施した。この尺度は,仕事に求めるものや結果,期待に関する項目に対し,「普通以下でよい」から「非常に沢山あってほしい」まで5段階で回答するものである.統計処理にはSPSS(Ver.16)を使用し,見通しについてはχ<sup>2</sup>検定,就業志向尺度については因子分析を用い学生が就職先に望む要因について検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 対象となる学生へは学内承認のもと,今回の研究について目的・方法・倫理的配慮など口頭および文書にて十分説明を行い,同意を得た上で実施した.【結果】 アンケートの回収率は100%(56名),有効回答率100%であった.1)今後の就職の見通しについて「今後セラピストの就職は厳しくなるか」という問に対し,「かなり厳しくなる」.「どちらかといえば難しくなる」と回答した学生が51名であり,有意に多い結果となった.(p<0.01)2)職業志向尺度因子分析には,一般化した最小2乗法を用いて,因子の回転にはバリマックス回転を用い,因子数は第6因子まで有効であった.なお、抽出された中には単独の変数かつ他の項目との関連性が低い因子があり,24項目の変数から再解析を行った。抽出された因子の命名は過去の研究を参考に行った.第1因子は,「自分の能力が試される,専門性,独創性・創造性」などの因子負荷量が高く,「職務挑戦」と命名した.第2因子は「職場の雰囲気,環境の快適さ」などの因子負荷量が高く,「職場環境」と命名した.第3因子は「福利厚生・昇進の可能性」などから構成され,「労働条件」と命名した。第4因子は単独となり,「高い給与やボーナス」が抽出された.第5因子には「社会の役に立つ,安定した会社」から構成され,「社会貢献」と命名した.第6因子は「仕事の自由度」が抽出され,「自由度」と命名した.なお,上位3因子の累積寄与率は52.8%であった。【考察】 今回の研究から,卒業を控えた学生は就職に対し今後厳しくなると考えており、就職先には因子負荷量から「職務挑戦」「職場環境」「労働条件」を特に重視している結果となった.大多数の学生が今後の就職が厳しくなると感じていることについては,実習や就職活動から現状の需給バランスを欠く状況を認知していることが理由であると考えられた.先行研究と比較し学生が就職先に望むものは,抽出された因子に変化は無いものの,「労働条件」などの外発的報酬よりも「職務挑戦」という内発的報酬に重きを置いている結果となった.このことは,学生は就職に関する現況を正しく理解し,セラピストという職業に対して自己実現や社会貢献という「やりがい」を中心とした職業観を持つためであろう.諸氏らの先行研究では,就職先を決めるにあたり給与や通勤などの労働条件や職場環境に重きが置かれていると報告されている.しかし,今回の研究結果から学生は内発的な要因であるキャリア形成に重きを置いており,近年は現状を反映し選定要因が変化していると考えられた.これら学生が求めているものについては,求人票や施設見学,ホームページから把握することが困難であり,リアリティショックや早期離職が危惧される.養成施設としては他業種同様,より早期からの働きかけを行い,キャリア形成のための専門的人材配置など就職方略を修正することが必要である.【理学療法学研究としての意義】 理学療法士の質の低下が論議される中、現状は需給バランスを欠く状況へと変化し求人が減少傾向に向いている.本研究は近年の学生の職場に対するニーズから,新たな就職指導を検討するために意義のあることと考えられる.
著者
山口 裕之 脊戸 英臣 岸本 崇
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.851-851, 2003

【はじめに】高齢者は加齢により筋力やバランス機能などの低下が起こるため、転倒の発生率が高くなる。転倒により、身体的、心理的、環境的に変化が起こり生活での活動が減少してしまうことも少なくない。このことに対して、自治体・病院等では介護予防の観点から転倒予防教室などの取り組みが行われている。しかし、要介護や要支援状態にある通所リハビリテーション(以下デイケア)利用者に対して転倒予防教室を行っているという報告は少ない。今回、デイケアでの体操を主とした集団的な転倒予防教室(以下「ころばん塾」)の取り組みとその効果について報告する。【「ころばん塾」の対象と内容】当介護老人保健施設デイケア利用者のうち、歩行で屋内移動をしている方で、希望された81名に対し、自主的な運動習慣をつけるための転倒予防体操・転倒に対する講義等を行った。参加者の利用日に一回30分程度、2ヶ月のうち各曜日4回ずつ行った。内容は一週目:自宅でできる自主体操の練習、二週目:自主体操の復習と日常生活での留意点の講義、三週目・四週目:バランスを取り入れた踊り、とした。【研究の目的】利用者の転倒状況、転倒予防に対する意識を調査、バランス機能の検査などから、デイケアでの転倒予防教室の位置付けや効果を検討する【研究対象と方法】日常生活の状況を調べるためのアンケートと機能の変化をみるためのバランス検査を行った。実施前後にアンケートは実施前と終了2ヵ月後にデイケア利用者全員に対して過去2ヶ月間の転倒の既往と転倒状況・日常での運動習慣の有無などについて質問した。なお、ころばん塾参加者には実施直後にもアンケートを行った。ころばん塾参加者のうち30名に対しては、バランス検査としてBerg Balance Scale(以下、BBS)と歩行能力検査として10m歩行時間測定をころばん塾前後と終了3ヶ月後に行った。【結果】BBS平均総得点は実施前45.7点、実施直後48.3点であり、実施後に有意に改善し、3ヶ月後もほぼ維持されていた。10m歩行時間は平均で実施前13.5秒、実施直後12.7秒と短縮傾向を示し、10m歩行の平均歩数も実施前25.2歩、実施後23.9歩と減少傾向を示した。転倒回数は実施後アンケートで減少していた。【考察:デイケアでの転倒予防教室のあり方】集団的な転倒予防教室は、実施直後においては運動習慣をつけるきっかけになっており、今回、BBSの改善がみられたことにより、効果が見られたといえる。一方、自主体操を継続するためには期間をおいて複数回教室を実施するなどの工夫が必要と思われた。また、個々人の転倒危険因子への対策については個別的な評価と取り組みが必要であり、今後は個別リハビリとの組み合わせ方や小グループでの対応、在宅生活の評価について工夫していきたい。
著者
西村 純 市橋 則明 日下部 虎夫 奥田 良樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0297-C0297, 2006

【目的】ラグビーは短距離走を繰り返す競技であり、ハムストリングスに大きな負荷が生じるため、肉離れの発生頻度は高い。その主原因は膝屈曲筋力低下、膝屈伸筋力のバランス不良、すなわち伸展筋力に対して屈曲筋力が低い、あるいは膝屈曲筋力の左右差が大きくなると発生率が高くなるとされている。本研究の目的は、肉離れを生じたラグビー選手の運動能力・膝関節屈伸筋力・下肢柔軟性に他の選手との違いがあるかを明らかにすることである。<BR>【対象および方法】対象はラグビー部(関西大学Bリーグ)に所属する男子学生22名(平均年齢20.2±1.1歳、身長171.9±5.3cm、体重72.8±7.7kg)とした。体力測定として筋力測定、運動能力テスト、長坐体前屈テストを行い、さらに測定後の1年間での肉離れの発生の有無を追跡調査した。筋力測定には等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、角速度60、180、300deg/secでの等速性膝屈伸筋力を測定した。3回の膝屈伸動作の最高値をピークトルクとし、さらにトルク体重比(ピークトルク/体重)および屈曲筋力と伸展筋力の比(H/Q比)を求めた。運動能力テストは片脚垂直跳び、片脚幅跳び、片脚三段跳びの3種目とした。また、長坐体前屈を下肢柔軟性の尺度として用いた。また、アンケート調査により体力測定後の1年間で、ハムストリングスの肉離れを生じた群(St群)と生じなかった群(Con群)に分類し、膝関節屈伸筋力(ピークトルク、トルク体重比、H/Q比)、運動能力テストおよび長坐体前屈の結果を比較した。統計処理にはt検定を用い、有意水準は5%とした。<BR>【結果および考察】肉離れを生じたのは22名中6名で、ポジションはバックスが5名、フォワードが1名であった。生じなかったのは16名で、バックスが8名、フォワードが8名であった。両群間で年齢、身長、体重に差は無かった。膝屈伸筋力では、ピークトルクには有意差は認められなかったものの、60 deg/secでの屈曲トルク体重比は、St群(1.50±0.37 Nm/kg)はCon群(1.86±0.34Nm/kg)より有意に低い値を示した。また、180 deg/secでのH/Q比は、St群(0.71±0.08)はCon群(0.82±0.15)より有意に低い値を示した。St群で屈曲筋力の左右差を比較すると、受傷側と反対側との間には全ての角速度において有意差は無かった。運動能力テストでは3種目とも両群間で有意な差は認められなかった。長坐位体前屈は有意な差は認められなかったものの、St群(28.3±4.6cm)はCon群(33.5±6.5cm)に比べ低い傾向を示した。今回の結果から、肉離れを生じる選手は運動能力に大きな差はないが、膝関節屈曲筋力のトルク体重比の低下とH/Q比の低下を認めることが示唆された。
著者
近藤 崇史 福井 勉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100264-48100264, 2013

【はじめに、目的】我々は,昨年の第47 回日本理学療法学術大会において健常者の歩行踵離地(以下:HL)のタイミングが遅れるほど,歩行時の立脚中期から立脚後期にかけての足関節底屈モーメントの活動が高まり,股関節屈曲モーメントの活動は低くなるといった足関節と股関節が相互に代償している可能性について報告した.その際,足部内の力学負担に関しては足部を1 つの剛体として捉えたため,その詳細は明らかにできなかった.アキレス腱炎,足底筋膜炎に代表される足部に関するスポーツ障害ではアキレス腱炎では足関節底屈モーメント,足底筋膜炎では中足趾節関節(以下:MP関節)屈曲モーメントが高まり,繰り返しのメカニカルストレスが障害に結びつくと予想される.従来の光学式手法による運動解析では,足部を1 つのセグメントとして捉えるもの,または複数のセグメントからなる足部モデルにおいても関節角度のみを算出しているものが多く,足部内の力学作用に関する検討は少ない.そこで今回は,剛体リンクモデルではなく,矢状面内での足関節およびMP関節の関節モーメントを算出し,HLのタイミングとの関係性を検討することを本研究の目的とする.【方法】対象は健常成人21 名(男性:17 名,女性:4 名,年齢:28.9 ± 2.5 歳)とした.測定には3 次元動作解析装置(VICON Motion system社)と床反力計(AMTI社)を用いた.標点はVicon Plug-In-Gait full body modelに準じて反射マーカー35点を全身に添付した.動作課題は自由歩行を7 回行った.得られた下肢の力学データは左右分けることなく採用し,解析に用いた.計測にて歩行速度,歩幅および矢状面上の足関節・MP関節の関節モーメントを算出するため,足関節中心,第2 中足骨頭背側マーカー,床反力作用点の位置座標,床反力データを得た.矢状面内での足関節およびMP関節の関節モーメントは,宮崎ら(1994)の先行研究の方法を参考に算出した.解析項目として1 歩行周期中の算出した足関節底屈モーメントおよびMP関節屈曲モーメントの最大値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析した.統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を使用した.統計手法には偏相関分析を用い(制御変数;歩行速度,歩幅),有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認を得たうえで,対象者には測定前に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面にて得た.【結果】全対象の自由歩行から立脚期の力学データを抽出した左下肢68 肢,右下肢79 肢であった.HLのタイミングが遅れるほど立脚中期から後期にかけての足関節底屈モーメントは大きく(r=0.54,p<0.01),MP関節屈曲モーメントも大きかった(r=0.36,p<0.01).【考察】健常者の歩行動作では,HLのタイミングが遅れるほど足関節底屈筋,足趾屈曲筋(特にMP関節屈曲作用の筋群)による力学的負担がともに大きくなることが確認された.このような力学的負担はアキレス腱炎,足底筋膜炎につながるメカニカルストレスとなり得ることが示唆された.Wearing(2004)らによるfluoroscopyを用いた運動解析によれば足底筋膜炎の症例では歩行立脚後期の第1 中足趾節関節伸展角度が低下していたとされる.よって,本研究の結果とWearingらの先行研究を踏まえて考えるならば,MP関節伸展制限および踵離地のタイミングが遅れることによるMP関節屈曲モーメント増加といった力学的負担が足底筋膜炎へとつながる可能性が推察された.上記の理由から臨床場面でのアキレス腱炎,足底筋膜炎の症例においての評価・介入の指標として歩行時のHLのタイミングを考慮にいれた解釈を行うことの重要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より歩行観察時にHLのタイミングを指標とすることにより,立脚中期から後期にかけての足関節底屈モーメントおよびMP関節屈曲モーメントによる力学的負担(メカニカルストレス)を解釈できることが明らかとなり,アキレス腱炎,足底筋膜炎の症例に対しての理学療法評価および介入の効果判定などの臨床推論に活用できることが本研究の意義であると考える.
著者
田中 幸子 平岩 和美 武本 秀徳 岡崎 満樹 大塚 和宏 霜井 哲美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.G0556-G0556, 2005

【はじめに】理学療法士を目指し胸膨らませて入学して初めに学ぶことは,理学療法士教育の第1ページとなる重要な意味を持つ。しかし,実際には1年前期のカリキュラムは専門分野が少なく,基礎分野がほとんどの時間を占める。本校ではできるだけ早い時期に専門分野に触れられるよう,生活環境論を1年生で教えてきた。今回アンケートをもとに,1年生で取り組む利点と今後の課題を紹介したい。<BR>【経過】生活環境論は1年生前期に行われた。その内容は講義形式とグループ発表形式で構成した。グループは,日本社会が抱える生活環境・居住環境・子供の生活環境・障害者の生活環境・女性の生活環境・高齢者の生活環境・介護保険・生活習慣病と生活環境,の中から希望を募りグループ割をした。発表は1時限(90分)に2グループとし,その中に質疑応答も含めた。発表終了時には各グループの発表に対して無記名にてアンケートを取り,グループへのコメントを記入させた。コメント部分は切り取って発表者に渡し,フィードバックし,最後に発表者の感想を提出させまとめとした。<BR>【対象と方法】対象は本校理学療法学科1年生全員。アンケート調査を生活環境論の授業終了後に無記名で行った。回収率は100%であった。調査は2年間,同様に行われた。アンケートの内容は授業開始前にどれくらいキーワードを知っていたか,グループ活動に費やした時間と場所,積極的に参加できたか、についてであった。<BR>【結果と今後の課題】1年生で授業を受ける前に知っていた言葉は,バリアフリー(99%),QOL(47%),ADL(27%),ユニバーサルデザイン(27%)の順であった。このことより1年生から生活環境論に対する学習レディネスはあると言えよう。授業に積極的に参加できましたか,との問いには,「はい(55%),いいえ(5%),どちらでもない(35%)」,と半数以上が積極的に参加できたと答えた。1回のグループ学習の準備に要した時間は11時間以上38%,6-10時間29%,1-5時間33%であった。<BR> 1年生から生活環境論を学ぶ意義としては,以下のことがあげられる。日常生活(活動)に制限が生ずるとき,患者に原因があるとする医学モデルの考え方と生活環境に原因があるとする社会モデルの考え方があるが,理学療法の講義はほとんどが,医学モデルとなっている。早い時期に社会モデルの考え方を知ることは幅広い視野にたった理学療法士育成に役立つ。1年生で教えることの課題としては疾患についての知識が乏しく,各論が理解しにくいことがあげられるが,これは後に「日常生活活動」(3年次)を教える教師が1年次の生活環境論も担当することによって,卒業までに理解できるように設定し,解決している。<BR> 今後さらに学生が積極的に学習に取り組める授業を模索していきたい。
著者
齊藤 雄大 佐藤 文雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G3O1222-G3O1222, 2010

【目的】理学療法・作業療法学生の臨床実習では様々なストレスを受ける機会が多く、指導者は学生の心身の健康状態を把握し、過度なストレスにならないよう管理すべきである。しかし、これまでストレス管理は指導者の経験と、実習生とのコミュニケーションに依存されることが多く、経験の浅い指導者や、指導者・学生間の人間関係が構築されていない場合、適切になされていないことが多くあったものと思われる。そこで客観的な数値を示すことができる検査法を用いてのストレス管理について、その有用性、利用方法などを検討することを本研究の目的とした。<BR>【方法】対象は2008年4月から2009年10月までに当院での臨床実習を修了した学生12名(23.5±3.1歳)、このうち理学療法学生10名、作業療法学生2名、男性7名、女性5名であった。方法は、被験者のおかれた条件により変化する一時的な気分・感情の状態を測定できるという特徴を有するProfile of Mood Stats検査(以下:POMS)を、実習開始日、毎週末、及び実習終了1週後に行い、感覚尺度(緊張・不安:以下TA、抑うつ・落ち込み:以下D、怒り・敵意:以下AH、活気:以下V、疲労:以下F、混乱:以下C)毎に標準化得点に換算した。当院では実習期間によらず3週目に初期発表、4週目に中間成績評価、最終週に最終発表を行っている。被験者の実習期間は7週~9週とばらつきがあったため、6週目以降は最終発表の日程を基準とし、開始時、1週目、2週目、初期発表、中間評価、5週目、最終発表前週、最終発表、終了後としてデータを扱い、一元配置分散分析及び多重比較検定を行った。有位確率は<U>p</U><0.05とした。<BR>【説明と同意】参加する学生に対し、本研究の目的と方法、個人情報の守秘義務に関して十分な説明を行い、参加・不参加の選択権を与えた。また途中で不利益なく参加の取りやめが可能であることを伝えた上で同意を得た。なお結果を本研究及びストレス管理にのみ利用し実習の成績に影響することはないこと伝えた。<BR>【結果】一元配置分散分析の結果、TA、D、V、F、Cにて有意差が認められた。多重比較検定の結果は、TAは終了後が最低値で開始時・1週目・2週目・初期発表・5週目・最終発表前週との間に有意差が認められた。Dは終了後が最低値で1週目・2週目・初期発表・5週目・最終発表前週との間に有意差が認められた。Vは最終発表前週が最低値で1週目との間に有意差が認められた。Fは最終発表前週が最高値で開始時・最終発表・終了後の間に、また2週目が2番目に高値で終了後との間に有意差が認められた。Cは終了後が最低値で1週目・2週目・初期発表・中間評価・5週目・最終発表前週との間に有意差が認められた。AHは常に低く変化の傾向は認められなかった。<BR>【考察】POMSの感覚尺度のうち、TA、D、AH、F、CはNegativeな尺度で、高値を示すほどストレスが高いものと捉えられる。このうちTA、D、F、Cでは終了後がもっとも低値を示し、実習中との有意差が認められることが多かった。このことから実習中の学生は常に何らかのストレスを抱えていることが予測できる。このなかでD、Cは標準化得点の平均値にて初期及び最終発表前週に向け漸増し、その後落ち着く傾向が認められているため、発表に向けての評価及びそのまとめ作業を行う過程で、抑うつ・落ち込み・混乱が伴うことが窺える。またTAは開始時が最も高く、その後はD、Cと同様の傾向が認められているため、実習開始に対して緊張・不安が強いことが予測される。TA・Dに関しては終了後と5週目に有意差が認められず、Cにおいても標準化得点の平均値が低下していることから、他の時期との有意差が認められているわけではないが、初期発表を終えた安堵感や、指導者からの中間評価によるストレスの緩和が窺える。Fに関しても初期及び最終発表前週と他の時期との有意差が認められており、精神的・身体的に疲労・ストレスが高まっていることが予測される。一方Positiveな尺度であるVに関しては、1週目が最も高く、最終発表前週に向け徐々に低下していく傾向が見られ、1週目と最終発表前週との間に有意差が認められている。緊張とともに活気を持って実習に望むが、ストレスの蓄積とともに活気が低下していく様子が窺える。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回の結果から実習中を通して常に高いストレスを受けていて、その中でも初期及び最終発表の準備の負担が強いことが窺えた。あわせて実習終了後に、実習中のストレスとなった要因・ストレスの緩和に役立った要因に関してのアンケートを行ったが、その結果や上記の中間評価後にストレスが緩和している傾向から指導者の指導の重要性が窺えた。今後はどの時期にストレスが強いかを明確にしていくこと、どの時期にPOMSを実施していくべきかを検討すること、POMSの結果からどう指導に結び付けていくかを検討することが必要と考える。
著者
山本 洋史 河島 猛 岩田 裕美子 森下 直美 宗重 絵美 西薗 博章 平賀 通 好村 研二 前倉 亮治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DcOF1083-DcOF1083, 2011

【目的】<BR>胸部CTで上肺優位の気腫化と末梢肺底部優位の線維化所見を認めるCPFEは、肺機能上軽微な混合性障害と著明なガス交換障害を示す。重症化すると肺高血圧症が進行し、生命予後を悪化させる(Cottinら 2005、2010年)。そのため労作時の低酸素血症と息切れによりADLは制限されるため、PTやOTの介入が必要と考えられるが、その臨床像や治療実施とその効果に関する報告は少ない。そこで本研究では、retrospectiveであるがCPFE患者の肺機能や運動負荷心肺機能検査(Cardiopulmonary exercise testing ;CPET)、PT実施前後の6分間歩行検査(6MWT)の結果を、運動耐容能を一致させたCOPD患者と特発性肺線維症(IPF)患者とで比較することにより、CPFEの運動生理学的特徴を理解し、今後のPT治療の方針を考案することを目的とする。<BR>【方法】<BR>全身状態が安定したCPFE患者で、PT前に肺機能検査とCPETをおこない、PTとその前後で6MWTを実施した10例を対象とした。肺機能検査の項目はVC、FEV<SUB>1</SUB>、FEV<SUB>1</SUB>/FVC、%DL<SUB>CO</SUB>を選択した。CPETはTreadmillを用いた3分毎漸増負荷を症候限界まで実施し、呼気ガス分析、A-Line留置での動脈血ガス分析、Brog Scale(BS)を各ステージで記録した。6MWTはPT実施前後の2回、日常歩行でのSpO<SUB>2</SUB>、脈拍数、BSを把握するためマイペースとし、1分毎に各々記録した。PTはCPETの結果を基に酸素吸入の有無とその吸入量、安全に運動ができるSpO<SUB>2</SUB>と脈拍数を示したSafe rangeを症例毎に医師から処方され、それを遵守しながら呼吸練習、運動トレーニング、ADLトレーニングなどを計20回以上実施した。また同条件で検査をおこなったCOPD患者とIPF患者で、CPFE患者のCPETでpeak VO<SUB>2</SUB>を合致させた各々14例と9例を抽出し比較した。各検査結果について3群間の比較を、TukeyのHSD検定をおこなった。なお、有意水準を5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>CPET実施前に全症例に対して検査方法と研究のためのデータ使用に関する説明と同意を書面にておこなった。<BR>【結果】<BR>CPETにおける運動継続時間とpeakVO<SUB>2</SUB>は3群間で差はなかった(CPFE/COPD/IPF:493/410/354秒、15.2/13.9/14.7 ml/min/kg)。年齢とMRC scaleも差はなく(72.7/72.5/73.2歳、2.7/2.9/3.0)、BMIはCPFEが他2群より高値であった(23.1/19.8/18.4 kg/m<SUP>2</SUP>)。肺機能検査では、%VCはIPFが他2群より低値(102/98/60%)、%FEV<SUB>1</SUB>はCOPDがCPFEより低値(76/42/58%)、FEV<SUB>1</SUB>/FVCはIPF、CPFE、COPDの順で高値であり(63/40/92%)、%DL<SUB>CO</SUB>はCOPDよりもCPFEが低値であった(40/66/48%)。運動終了時のV<SUB>E</SUB>はCPFEが他2群よりも高値で(47.9/31.2/31.1 ml)、換気制限を示す指標であるV<SUB>E</SUB>/MVVはCOPDが高値であった(74.4/93.1/67.1)。最大運動時の心拍数は差を認めなかったが、CPFEが高値である傾向を示した(140/126/117 bpm)。さらに運動終了時のPaO<SUB>2</SUB>はCPFEとIPFで低酸素血症を示した(49.8/63.2/58.7 mmHg)。PT前のマイペース6MWTでは、歩行距離に3群間で差はなく(286/253/258 m)、歩行終了時のSpO<SUB>2</SUB>、脈拍数、BSにも差は認めなかったが(88/91/91%、108/104/105 bpm、2.3/1.7/3.3)、歩行開始から終了時のSpO<SUB>2</SUB>低下はCPFEが大きかった(-8.4/-5.0/-6.1%)。PT実施前後でのマイペース6MWTの距離はCPFEで短縮したが(-39/41/8m)、歩行終了時のSpO<SUB>2</SUB>は88%から90%に改善した。<BR>【考察】<BR>CPFEの運動制限因子として、COPDやIPFと比較して、換気に余力を残すが、ガス交換障害に起因する低酸素血症が大きいと考えられた。またマイペース歩行検査から日常生活でも低酸素血症をきたしながらも、換気制限が著明でないため息切れを強く感じずに歩行していた。長期にこの状態が続くと肺高血圧症の進行に悪影響を及ぼすことが示唆された。したがって、PTにおいては低酸素血症をきたさないように、動作速度や方法を指導する必要があると考えた。PT後の歩行距離の短縮はその結果である。これらの結果から、CPFEはCOPDよりもIPFに近い病態を示していると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>CPFEの運動生理学を理解することは、EBMに基づいたPTプログラムの立案が可能となる。
著者
内山 恵典 森上 亜城洋 西田 裕介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0042-A0042, 2008

【はじめに】理学療法の対象となる高齢者の栄養問題の1つに蛋白質・エネルギー低栄養状態(PEM)が挙げられる。PEMは創傷治癒の遅延を招くだけでなく、入院期間の延長や死亡率にまで関係するとされている。これまでの研究で、日常生活動作(ADL)と血清データやBody Mass Index(BMI)との間に関係性は確認されている。一方、高齢者は脊柱の変形などの身体特性から身長を正確に測定することが困難であることが多い。また、ADL状況による栄養状態の変化は、対象者の生活の質にも大きく関わってくると考えられる。そこで本研究では、身長の予測式を用いてBMIと血清アルブミン値との関係性について、ADLの指標であるBarthel Index (BI)を用いて重症群と軽症群に分類し、比較検討した。<BR><BR>【対象と方法】対象は、65歳以上の磐田市立総合病院および公立森町病院における入院患者24名(男性10名・女性14名、平均年齢80.7±6.6歳)とした。対象者(家族含む)には本研究の同意を文書及び口頭で得た。また、本研究は、それぞれの病院に設けられた倫理委員会により承認を得て実施した。主な測定項目は、栄養状態の把握に血清アルブミン値(Alb)をカルテより調査した。また、栄養状態を反映する身体組成の評価として予測身長を用いたBMIを算出した。予測身長は、久保らによる回帰式「身長=2.1×(前腕長+下腿長)+37.0」を用いた。前腕長は、肘90度屈曲位で肘頭部近位部から尺骨茎状突起遠位部を計測し、下腿長は、腓骨頭近位部から外果遠位部までを測定した。データの比較には、対象者をADLの状態からBIが60点未満の者を重症群、60点以上の者を軽症群の2群に分類し、それぞれの群においてAlb、BMIの関係性をピアソンの積率相関を用いて分析した。また、各測定項目の群間の比較には、対応のないt検定を用いて比較した。有意水準はともに5%未満とした。<BR><BR>【結果とまとめ】BIの平均は、全体で60.6±33.4点、重症群で27.0±19.0点、軽症群で84.6±15.4点であった。Alb値の平均値と標準偏差は、全体で3.3±0.53g/dl、重症群で3.09±0.50g/dl、軽症群で3.57±0.47g/dlであった。BMIの平均値と標準偏差は、全体で20.8±3.4、重症群で20.1±3.0、軽症群で21.2±3.6であった。群間の比較では、BIが重症群で有意に低くなった以外は、全ての項目で有意差は認められなかった。一方、AlbとBMIとの関係性ついては、軽症群で、r=0.47と有意な関係性が認められ(p<0.05)、全体と重症群での関係性は、それぞれr=0.2、r=0.36と有意性は認められなかった。以上のことから、栄養状態を評価する際、予測身長を用いたBMIは軽症例に対して応用することが可能であると考えられる。
著者
奥田 邦晴 樋口 由美 増田 基嘉 林 義孝 南野 博紀 山西 新 川邊 貴子 灰方 淑恵 喜多 あゆみ 田中 美紀 高橋 明 小西 努
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0786-E0786, 2005

<B>【目的】</B><BR> 近年、競技やレクリエーションとして積極的にスポーツ活動に参加する重度の障害者が増加してきている。理学療法の目標の一つに障害者の生活支援がある。この生活支援に焦点を当て、重度の障害者の生活遂行過程においてスポーツが果たす機能ならびに理学療法学との接点を明らかにすべくインタビューによる調査を行った。<BR><B>【対象と方法】</B><BR> 本調査の主旨に同意を得ることができたスポーツを行っている重度障害者76名(A群)およびスポーツを行っていない重度障害者24名(B群)の計100名とした。スポーツ群の障害内訳はC5・6頸髄損傷39名、脳性麻痺(CP)30名、筋ジス他7名、スポーツ選手群はC5・6頸髄損傷11名、CP12名、他1名であった。上記対象者に面接による聞き取り調査を実施した。面接時間は平均約1時間、ボイスレコーダーでの録音および口述筆記を行った。<BR><B>【結果】</B><BR> 医療機関の受診状況はA群76%、B群95.8%であった。特にリハ科の受診率はA群の11.8%に比べB群では39.1%と高率であり、内容も理学療法目的がほとんどで日常的なリハ医療への依存性が高い傾向が見られた。スポーツを始めたきっかけは友人・知人の紹介が多く(43.4%)、医療従事者からの情報提供は極めて少なかった(3.9%)。リハセンター等のスポーツ施設を併設する医療機関に入院できるかどうか或いは障害者のスポーツに精通している指導者に出会えるかどうかが後のスポーツ活動に大きな影響を与えていた。スポーツを行う目的について71.1%が競技であり、レクリエーション、リハは各々11.8%であった。楽しみである、生き甲斐であると答えた者が約半数あった。スポーツ開始時期について、CP者では養護学校での体育の授業が45.2%、残りの41.9%の人は早い人で19歳、遅い人では54歳(平均29.8歳)であった。有職率はA群46.1%、B群16.7%であった。A群は給与、年金等すべての収入を合わせた年収について回答を得た70名は54.3%が200万円未満であったが、14.3%は年収400万円以上を得ていた。B群の20名は約8割が年収200万円に満たない状態であり、低所得層であることが伺えた。<BR><B>【考察】</B><BR> スポーツをするかしないかは本人の選択であるが、せめてスポーツに関する情報提供は早期から行われるべきであり、理学療法士は社会参加の一手段としてのスポーツの機能について認識を深めることが重要である。スポーツ場面において、選手同士は新たな自己を再発見・再認識することができるだけでなく、自己および他者の存在や役割を客観的に理解し合うことができ得る。また、スポーツはセルフヘルプグループに類似する機能、エンパワーメント機能等、重度障害者が充実した自立生活を送ることや自己実現を可能にする一手段として、また社会に踏み出す一歩としての重要な役割を有していることが明らかになった。
著者
浦野 幸子 増田 友美 小松原 衣代 今村 雄二 鹿内 晶子 北村 祥子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0952-G0952, 2006

【はじめに】近年介護保険導入以降、介護サービス事業所が増え続けている。当社は平成13年に訪問リハ、平成15年には通所サービスの提供を始めた。過去4年間に渡る経験の中で賠償責任保険の対象となった事例は3件である。その反省点等を踏まえ、在宅サービス提供現場における事故後対応マニュアルの第一報として述べる。<BR>【事例紹介】事例1:平成14年9月、訪問リハビリ中RAの女性、腹臥位にてリラクゼーション開始後肋骨に疼痛出現。翌日受診し肋骨骨折と診断される。示談まで1ヶ月。事例2:平成15年11月、訪問リハビリ中、脳梗塞左片麻痺の女性、SHB使用し独歩可能。裸足歩行を希望され、試行したところ内反出現し内外果骨折。翌日受診し安静加療で2~3週間の自宅療養となる。示談まで半年。事例3:平成17年5月、通所介護施設内、脳腫瘍摘出後両不全片麻痺の女性、右T字杖監視歩行レベル。監視下において起立し歩行開始直後、右側へバランスを崩し転倒。殿部・後頭部打撲。脳外科は異常なし。翌日、整形外科受診し坐骨骨折と診断。示談まで3ヶ月。<BR>【対応マニュアル】(1)事故の処置後、担当者は、家族・管理者へ連絡。事故状況の客観的な事実確認をし謝罪。(2)当日戻り次第、ケアマネジャー・主治医へ連絡。また本人へ身体状態の確認や謝罪の為、再度電話連絡。(3)翌日は管理者が訪問し、謝罪・事故状況の事実確認・受診結果と治療方針の確認・補償の説明など行う。担当者は身体の経過確認、見舞い目的で電話連絡。(4)1週間以内には、再度管理者が訪問し謝罪・治療経過・費用の確認・保険会社、所轄保健福祉事務所、事業所所在地の市町村福祉課、当事者在住の市町村福祉課へ事故報告書の提出をする。(5)月1回管理者は、訪問し身体の見舞いや費用の支払い等を行う。(6)それ以外は担当者と連携をとり7日以上期間を経過することなく電話や訪問にて接点を持つことが望ましい。(7)完治の状況確認をし、示談書を交わし終了。<BR>【考察】振り返ると日頃の利用者との信頼関係は大きな影響があると考えられる。事例2においては、示談までに6ヶ月の期間を要した。これは、担当者と管理者との連絡ミスによる利用者との関係が損なわれた結果である。事故防止に努めることはもちろんであるが、その後の対処によっては事業所への信頼に大きく影響する。これらの経験を通して事故状況はもちろん、訪問日時、電話日時、それらの内容、第3者の反応、訴えの変化等を記録に残しておくのは必須であると痛感した。<BR>【まとめ】通常表面上には出てこないが、非常に重要な課題である事故後の対処法によって報告した。訪問や通所では利用者と距離感が近いだけに、これまでのサービス姿勢を貫き、スムーズな誠意ある対応ができるよう一助になれば幸いである。
著者
出口 仁 松永 好孝 青井 健 中島 英彦 竹井 義隆
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1377-C3P1377, 2009

【目的】医療従事者には腰痛症の有病率が高く、業務遂行の補助的手段として軟性コルセットが使用されることが多い.今回我々は、腹部締め付け型コルセット(以下、腹部型)と二重構造による腹部・背部同時締め付け型コルセット(以下、腹・背部型)の2種類を比較し、腰部への締め付けが腰痛および動きやすさに及ぼす影響について検討したので報告する.<BR>【方法】平成20年9月~10月に腰痛により軟性コルセットを着用して業務を行ったことのある職員9名(男性3名、女性6名、平均年齢は44.0±15.4歳)を対象とした.対象者の任意の日に腰痛QOL尺度をRoland-Morris Disability Questionnaire(以下、RDQ)での自己評価後、業務時間内に、コルセットなし(条件A)、腹部型装着(条件B)、腹・背部型装着(条件C)の3条件下で偏りのない業務を実施してもらい、各条件下での腰痛の程度および動きやすさをVisual Analogue Scale(以下、VAS)において回答を得た.RDQの得点から対象者を無得点群と得点群に分けて比較検討した.<BR>尚、本研究はヘルシンキ宣言に沿い行われ、対象者全員に本研究の目的を説明し、同意を得た.<BR>【結果】RDQ0点の無得点群は4名、1点以上の得点群は5名であった.平均年齢は無得点群51.3±19.6歳、得点群38.2±9.4歳で有意差は見られなかった.無得点群では腰痛の程度は条件A:27.0±5.9、B:18.0±10.9、C:4.5±3.1で条件Aと条件Cとの間に有意差がみられた.動きやすさは条件A:12.5±8.6、B:6.3±2.5、C:6.0±3.6で有意差は見られなかった.得点群では腰痛の程度はA:63.0±19.6、B:49.2±23.6、C:38.0±12.2で条件Aと条件C、および条件Aと条件Bとの間に有意差が見られた.動きやすさは条件A:75.2±25.8、B:64.4±19.5、C:41.6±16.6で条件Bと条件Cとの間に有意差が見られた.<BR>【考察とまとめ】腰痛については両群とも条件Aと条件Cとの間に有意差が見られたことからコルセットによる腰部への締め付けが腰痛軽減に有効であったことが明らかになった.さらに得点群にのみ条件Aと条件Bとの間に有意差が見られたことから、業務以外の日常生活にも支障を及ぼすような腰痛については腹部型でも有効であることが示唆された.これは腹圧による腰椎安定機構に加え、腹横筋が付着するlateral rapheを介して胸腰筋膜機構が引っ張られ上下の腰椎を安定させる機構に起因すると考えられる.<BR>動きやすさについては無得点群では3条件下で有意差を認めなかったが、得点群では条件Bと条件Cとの間に有意差が見られた.腰椎の制動効果よりも腰痛の軽減により諸動作の改善に寄与したと考える.<BR>腰痛発生時の業務実施にコルセットを装着することは手っ取り早い手段ではあるが、どの腰椎安定性機構が欠如しているかが評価され、それに基づき適切なコルセットが選択される必要性を感じた.また、腰椎安定性機構を補うための運動療法や教育も含めた効果についても検討する必要があると考える.
著者
増田 基嘉 奥田 邦晴 林 義孝 西島 吉典 生田 泰志
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0956-G0956, 2006

【目的】<BR>多くの種類の障害者が参加するスポーツの一つに水泳競技がある。それ故にその指導や競技力向上のためには、競技特性と選手の持つ障害特性を考慮して運動特性の共通性と独自性を明らかにする必要性がある。我々は第40回学術大会において、定常状態となったストローク動作中の下肢麻痺者の泳速度増加に伴う三角筋前部や大胸筋などの特徴的筋活動量の変化について報告した。今回、脊髄損傷などの下肢麻痺者がスタート時に飛び込みやプール壁を蹴り出すことができないことに注目し、下肢による推進力がなく上肢のみで加速しなければならない下肢麻痺者を想定して、スタート直後のストローク動作中の肩周囲筋活動の検討を行った。<BR>【対象と方法】<BR>大学体育会水泳部に所属する選手10名を対象とした。被験者には、口頭および文書にて実験の主旨を説明し、同意を得た。運動課題は自由形泳法にてATレベルと全力の運動強度にて泳ぎ、スタートから3ストローク間の三角筋前部、大胸筋、上腕二頭筋、三角筋後部、上腕三頭筋、広背筋、僧帽筋上部の筋活動を表面筋電図法にて測定した。さらに下肢麻痺者の想定として、壁蹴り動作を行わないことと下肢が屈曲位となる特徴的姿勢を再現するためにベルトを用いて下肢屈曲位に保持させた。スタートはいずれも水中スタートとし、通常の泳ぎではスタート時の壁蹴りとキックによる推進を行い、下肢麻痺者の想定においては、下肢による推進を行わないようにした。各条件において3回測定し、記録した筋電図よりストロークごとの各筋の平均RMS値を求め比較した。<BR>【結果】<BR>大胸筋において、泳速度に関係なく1ストローク目の筋活動量が、下肢による推進がある場合より下肢屈曲位保持で有意に大きかった。また上腕三頭筋のATレベルの1ストローク目において、下肢屈曲位保持が下肢による推進がある場合よりも筋活動量が有意に大きかった。<BR>【考察】<BR>今回、スタート直後の下肢による推進の有無が上肢の筋活動に与える影響を検討した。Pinkらは、プル動作中の肩伸展筋として大胸筋と広背筋があるとし、その前半に大胸筋、後半には広背筋が働くとしている。今回の測定結果から下肢による推進がない場合、スタート直後の推進には大胸筋の貢献度が高いことが明らかとなった。スタート直後においてプル動作の前半で主に機能する大胸筋の筋活動量が増大することから、実際の下肢麻痺者のスタートまたはターン動作は上肢への負荷が大きいことが考えられる。またそのため短水路での練習ではより肩関節への負担が増大することが予測される。このように理学療法士の立場から、健常者と共通性の多いスポーツ動作においても障害特性による運動の違いを評価することで、スポーツ指導における固有の指導理論の確立や競技能力の向上、さらにリスク管理につながる情報提供ができると考えた。<BR><BR>
著者
石井 博之 金子 純一朗
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0172-C0172, 2004

【目的】<BR>青年海外協力隊隊員としてマレイシアで2年間、青年海外協力隊調整員としてアフリカのマラウイで2年間の活動の中から発展途上国で活動するためにはより現地に適応した技術(適正技術)をさらに見出していく必要がある。特に医療の行き届かない農村部において、ポリオ発症後の下垂足や脳卒中や脳性麻痺による軽度の尖足が日常生活の歩行を妨げている障害者を多く目にした。その為強い強制力は必要としない短下肢装具の必要性を感じた。また装具作製にあたっては加えて現地で容易かつ安価に素材が入手でき、また作られたものが現地の気候の中でも快適な素材で作られていること、更に作製に高度な技術を必要とせず、かつ現地に既にある技術を活用できる必要性を鑑み、途上国の多くで利用されている腰巻き(サロン)の素材である綿の布を使用し、また、途上国でよく見かける縫製職人の技術で作製可能かつ安価に作製可能な短下肢装具の開発をした。また、この装具の強制力を把握するため、他の装具及び裸足との矯正力の比較をおこなった。<BR>【方法】<BR>日本の足袋を参考に基本モデルを作製し、既存の軟性装具を参考に縦方向と8の字にストラップを取り付けた(自作装具)。装具の背屈方向への矯正力を天秤ばかりを応用して実験装置を作製し、計測した。被検者は健常成人12名(平均年齢25.3±2.1才・男性6名・女性6名)。足を実験装置に載せて後方の錘で釣り合いを取り、500gの錘を前方に載せて底屈角度を裸足、自作装具、プロフッター装着にて10回測定した。<BR>統計処理は、装具を要因とした一元配置分散分析および多重比較検討(Fisher's PLSD)にて検討した。なお、有意水準は1%未満とした。<BR>【結果】<BR>装具を要因とした一元配置分散分析及び多重比較検定により、「自作装具」と「裸足」、「プロフッター」と「裸足」間で有意な主効果が得られた。また「自作装具」と「プロフッター」間では有意差は認められなかった。<BR>【考察】<BR>今回作製した装具は一般の軟性装具とほぼ同程度の矯正力があることが示唆された。しかし今回は静的場面での矯正力の検討のみであり、今後は動的場面での矯正力の把握が必要不可欠である。また、ストラップの取り回しや素材の違いによって矯正力や矯正の方向が変わると思われ、今後の研究課題としたい。<BR>【まとめ】<BR>今回、途上国農村部においても作製可能な装具を開発し、その矯正力も確認することができた。今後はさらに耐久性に着眼し、改良を重ねていきたいと考えている。また、完成したものは足のサイズに合わせた型紙を作製し、現地の言葉で書かれた説明文を添えることによりどこでも現地の縫製職人などが作製可能にする予定である。<BR>また、私が国際協力に携わる中で必要と感じた理学療法分野の適正技術は装具だけではなく、今後は車椅子や義肢、座位保持装置などに加え、理学療法手技においても考えていきたい。
著者
坪田 朋子 黒木 薫 菊地 伸 渡邉 好孝
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0599-Eb0599, 2012

【はじめに、目的】 東日本大震災発生から約8ヶ月間,宮城県理学療法士会(以下,県士会)では災害対策本部を立ち上げ,被災住民および会員の支援活動を展開している.誰もが初めて経験する甚大な被害に対して,理学療法士として何を求められ何をすべきか,試行錯誤を繰り返している.行政機関や県士会会員の多くが被災し混乱する中で,全国からの理学療法士ボランティアを受け入れ,関係各団体と調整を行いつつ被災住民のニーズに合った活動をコーディネートすることは困難を極めた.また今回は日常的な医療・保健福祉の連携の充実度が災害時の支援体制構築に大きく影響した.そこで災害対策本部の活動を報告するとともに,今我々がすべきことについて考察する.【方法】 平成23年3月15日 災害対策本部設置.本部長・副本部長任命.会員の安否確認を開始.3月17日 県士会ホームページによる情報発信開始.3月20日 宮城県健康推進課からの支援要請受託.3月23日 県士会ボランティア募集開始.3月24日 理事会・災害対策委員会開催.災害対策本部内に事務局・住民支援班・会員支援班を設置.3月25日 県内各地の保健福祉事務所所属理学療法士からの情報収集開始.避難所巡回開始.4月1日 会員支援情報発信ツールとして「G!MPニュース」発行.4月4日 県士会ボランティア派遣開始(気仙沼市・南三陸町・石巻市・多賀城市).4月16日 県士会ボランティア研修会開催.4月27日 宮城県・日本理学療法士協会(以下,協会)・宮城県作業療法士会との支援検討会議開催.5月6日 協会ボランティア派遣開始.5月12日 災害対策本部内に活動支援班設置.5月26日 大崎市・栗原市への県士会ボランティア派遣開始.5月31日 多賀城市への県士会ボランティア派遣終了.7月1日 石巻市渡波地域包括支援センターからの支援要請受託.7月2日 大崎市・栗原市への県士会ボランティア派遣終了. 9月2日 気仙沼市・南三陸町への県士会ボランティア派遣終了.9月10日 協会ボランティア派遣終了. 10月1日 活動報告会開催. 11月1日現在石巻市において支援活動継続中.【倫理的配慮、説明と同意】 本報告はヘルシンキ宣言に基づいて作成し,支援活動状況の撮影および画像の使用,学会などでの発表については本人に十分な説明を行い,同意を得ている.【結果】 平成23年11月1日現在,県士会登録ボランティア154名.多賀城市のべ41人,石巻市のべ205人,気仙沼市・南三陸町のべ231人,大崎市・栗原市のべ18人を派遣.【考察】 今回,県士会災害対策本部として本部長・副本部長以下,事務局・住民支援班・会員支援班・活動支援班を設置したが,独立した渉外および広報の部門が必要であったと思われる.災害時には多くの支援団体が次々と現地入りされるため,渉外がそれらの連絡・調整と現地コーディネーターからの情報収集に専従することで,効率の良いボランティアの人員配置や各団体の専門性を活かした分業・協業の策定などを行うことができたと考えられる.広報については今回活動支援班が担当したが,独立して現地コーディネーターや災害対策本部各班からの情報を収集し,刻々と変化する被災地の状況とそれらに対して県士会がどう活動しどれだけのボランティアを必要としているのかを,インターネットを最大限に活用してリアルタイムに発信する必要があった.これらにより,各都道府県士会において有事の際の対策本部組織編成と業務分掌について明らかにしておく必要があると思われる.また,住民支援活動においては現地コーディネーターの存在が非常に重要であった.コーディネーターは日常的に中核病院・保健師・ケアマネージャー・介護保険サービス事業所などと協業し,地域特性を熟知していることが必要不可欠であるが,今回はコーディネーターを担える理学療法士は少なかった.平時の医療・保健福祉の連携の充実度が災害時の支援体制構築に大きく影響するため,それぞれの分野に関わることのできる我々がつなぎ役となり,日常的にリハビリテーションを通じて地域作りに貢献することが必要である.また,今回はコーディネーターが被災状況の把握・リハビリテーションニーズの調査・他職種との連携・派遣ボランティアの応接など多岐に渡る業務をほぼ1人で行わなければならなかった.今後は各地域に調整員の配置が望まれる.【理学療法学研究としての意義】 有事における対策本部組織編成を綿密に検討する必要性と地域において理学療法士が中心となってネットワークを構築することの重要性が示唆された.
著者
梅原 肖美 脇元 幸一 岡田 亨 斉藤 仁 佐々木 紗英
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.H1046-H1046, 2004

【目的】<BR>我々は、2002年6月よりN高校アメリカンフットボール部に対して、医科学的サポートを実施している。今回、傷害調査とフィジカルチェックを通して、オフェンス(以下OF)・ディフェンス(以下DF)別の受傷機転と身体能力の関連性について以下に報告する。<BR>【対象】<BR>2002年6月~2003年11月にN高校アメリカンフットボール部に在籍し、ライン以外のポジションの選手、延べ29名、平均年齢16.4歳を対象とした。<BR>【方法】<BR>傷害調査は、2003年1月から10月の期間、聞き取り調査を実施した。調査結果より、傷害で1日以上練習を制限、または試合を欠場した選手の受傷機転を調べた。受傷機転は1対1のコンタクト時を単数群、密集や、1対複数の受傷を密集群とし発生傾向を調査した。<BR>フィジカルチェックは、年に2回6、10月に実施した。項目は、以下のとおりとした。身体計測「体重・体脂肪・筋力量」、柔軟性測定「指床間距離;Finger-Floor-Distance以下FFD、下肢伸展挙上;Straight-Leg-Raising以下SLR、踵殿間距離;Heel-Buttock-Distance以下HBD」、筋力テスト「等尺性膝伸展筋力、等速性膝伸展筋力;以下60deg/sec(peak-Torque/Body-Weight)」。結果は,Wilkcoxonの符号順位和検定を用いた。<BR>【結果】<BR>傷害調査結果、対象は31件だった。その中でポジション別、受傷機転別での傷害発生は、OFは単数群7件、密集群5件、DFは単数群12件、密集群5件であった。フィジカルチェックの結果によるOFとDF間の違いは、体重OF:62kg、DF:61kg、体脂肪率はOF:13.7%、DF:13.9%、SLR:はOF:84°、DF:86°、HBDはOF:8.6cm、DF:8.9cm、等尺性膝伸展筋はOF:111.0kg/kg、DF:102.9kg/kg、60deg/secは、OF:99%、DF:101%、と有意差は認められなかった。<BR>【考察】<BR>傷害調査より、OFはDFより1対複数のコンタクトによる受傷が多い傾向にあった。これは、OF選手がタックルの対象になるため、多数の選手より大きな外力を受ける結果と考えられる。また、フィジカルチェックでは、OF・DF間に有意差はなく、身体特性と受傷機転には関連性が認められなかった。これには、競技年数が浅く初心者が多いことから各ポジションにおける身体能力の確立が十分でないことが原因として考えられる。このため、選手の身体能力の状況とポジション別の障害発生の傾向を十分理解し、現場のリスクマネージメントと競技力向上に協力していくことが重要と考える。
著者
時本 清己 北村 俊英 有吉 智一 高野 絵美 赤江 由之 竹下 美紀 山地 悦子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1570-G3P1570, 2009

【はじめに】当院の臨床実習においてこれまで系統立てたリスク管理教育を行ってきたとは言い難い経過があった.実習生は経験が乏しい故に、患者が有しているさまざまな問題点から起こりえるリスクを自ら予測した行動をとれないことが多い.臨床実習の現場において、患者と実習生の双方のためにも事故はあってはならないことである.しかし、すべてにおいて未熟な学生にさまざまな経験を積ませていかなければならない現状がある.臨床実習指導者(以下、指導者)として事故が起こらないよう患者と実習生双方の能力を的確に把握し、指導者としてもリスク管理を行わなければならない.<BR>実習生に経験を積ませる過程で指導者の関わり方は、ひとつひとつのリスクを解説して理解の程度を確認しながら進めていくという作業であった.<BR>今回、実習生が現場に潜んでいるリスクを察知して、未然に事故防止のための行動が自らとれるように準備するためのトレーニング方法として危険予知トレーニング(以下、KYT)を実践したので報告する.<BR>【KYTとは】KYTは、労働災害防止対策として高度成長期の建設業界で開発された短時間危険予知訓練である.職場内の小グループで短時間での問題解決能力もしくは危険予想能力の向上を目的に実施されてきたものである.基本的には、「自分を守ること」を想定している.近年、このKYTが「医療従事者である自分を守るため」と「対象者である患者を守るため」にリスクマネジメント教育として医療用に応用され、徐々に導入されつつある.<BR>【目的】リスクに対する感受性を高め、さらに集中力や問題解決能力を高めつつ実践への意欲をも高めるKYTという手法を用いて、実習生自身が事故の可能性を察知し事前に防止するための手だてを講じる能力を身につけさせることを目指す.<BR>【方法】医療現場のさまざまなイラスト等を使い、実習生がその場面に相対する当事者となって、その状況の中に潜んでいるリスク要因とそれが引き起こす事態を想起する.実習生が取り上げたリスク要因を指導者は決して否定することなく、そのリスク要因を取り上げた根拠をともに確認しあう.そして、そこに起こりえる事態に対してどのような対策をとるのかを話し合い、理解を深めるという作業を行う.<BR>【考察】実際に用いたイラスト等から経験の乏しい実習生でも予見し、リスク要因を挙げることができた.目の前で見えているレベルのリスク要因から陰に潜んでいるレベルのリスク要因までさまざまなことに気付き、回数を重ねることで取り上げることのできるリスク要因は増した.ただ、このKYTの効果を判定するツールが不充分なため、この整備が今後の課題になると考えている.しかしながら、実習生が患者という対象者の行動を予測し、自らリスク要因を排除する行動がとれるようにするトレーニング方法として今後も工夫を重ねていきたい.
著者
藤川 純朗 横井 輝夫 米中 幸代 高田 聖歩
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B0720-B0720, 2008

【目的】脳血管障害後遺症者や認知症高齢者などでは,体幹や頚部が側屈した状態で食事をしている場面をみることがある。なかでも脳血管障害後遺症者では,体幹の側屈時に頚部の立ち直りがみられる場合とみられない場合がある。臨床経験として頚部の立ち直りがみられる場合には,誤嚥を疑う重要な症状であるむせや咳き込みが少ないと感じていた。そこで本研究では,誤嚥に深く関与する嚥下に要する時間に,体幹と頚部の側屈が与える影響について表面筋電図を用いて検討した。<BR>【方法】被験者は研究の目的と方法を説明し,同意が得られた学生12名(男性5名,女性7名,平均年齢21歳)である。測定の対象筋は,嚥下に伴う随意運動の開始の指標として口輪筋,嚥下反射の開始の指標として舌骨上筋群である。測定したパラメータは嚥下時の口輪筋と舌骨上筋群の活動持続時間,及び口輪筋活動開始から舌骨上筋群活動開始までの間隔である。測定条件は,安楽な椅子座位と体幹30度側屈で頚部の立ち直り有りと無しの3通りである。全ての姿勢で頚部は軽度屈曲位である。体幹側屈・頚部の立ち直り無し条件では,頭部を側屈した体幹の延長線上に保持した。体幹側屈・頚部の立ち直り有り条件では,被験者は前方に置かれた鏡をみて頭部を垂直に戻した。体幹の側屈角度である30度の設定は,ある介護老人保健施設での昼食時,最も側屈が著明であった者の角度である。実際の食事中の体幹の側屈には骨盤傾斜を伴うため,側屈角度の測定は,日本整形外科学会の基準を参考にして,軸心は第5腰椎棘突起,基本軸は第5腰椎棘突起を通る垂線,移動軸は第5腰椎棘突起と第1胸椎棘突起とを結ぶ線とした。被験食品は,中スプーン1杯量である計量された10gの市販のおかゆとした。測定手順は,測定者がディスプレイ上の筋電図の軌跡が安定することを確認した後,静かな声で"はい"の合図を出し,喉頭の挙上で嚥下を確認してディスプレイ上の軌跡が再び安定するまで記録した。測定は5回行い,その平均値を被験者の代表値とした。統計処理は,反復測定による1元配置の分散分析を行い,有意差が認められた場合は,下位検定としてDunnett法を用いた。<BR>【結果】椅子座位条件と体幹側屈・頚部の立ち直り有り条件の間では,3パラメータにおいて有意差は認められなかった。また体幹側屈・頚部の立ち直り無し条件は,椅子座位条件に比べ,口輪筋と舌骨上筋群の活動持続時間に有意な延長が認められ,2筋の活動開始間隔には有意な差は認められなかった。<BR>【考察】嚥下に要する時間は体幹の側屈のみでは延長せず,頚部の立ち直りの有無が深く関連していた。その機序は十分な検討が必要だが,体幹や頚部の側屈がみられる脳血管障害後遺症者などでは,摂食姿勢を整える際,特に頭部の正中位保持に留意する必要がある。