著者
貴志 真也 鳥居 久展 畑山 大輔
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1291-CbPI1291, 2011

【目的】<BR> アキレス腱断裂後3ヶ月で剣道競技に復帰した女子高校剣道選手の症例を経験した。そこで今回、早期競技復帰に向けて当院で開発したアキレス腱断裂縫合術後の剣道用装具とアキレス腱縫合術後のリハビリテーションプログラムを紹介し、今後の課題について検討する。<BR>【方法】<BR> 1)手術内容とリハビリテーションプログラムの紹介と検討:術後術式はTriple-Tsuge法+cross-stitch法で、リハビリテーションプログラムは、術後3日目:短下肢装具装着にて歩行開始(状態に合わせて部分荷重から全荷重)、患部外トレーニング、足関節背屈自動運動、足関節底屈以外の足関節筋力トレーニング(isometric)開始。術後2週間目:足関節底屈以外の足関節筋力トレーニング(isotonic)、タオルギャザー、足関節底屈自動運動、術後3週目:足関節底屈筋力トレーニング、術後4週目:エルゴメーター、術後5週目:裸足歩行、術後6週:両脚カーフレイズ、術後8週目:片脚カーフレイズ、剣道の摺り足と引き技練習。術後9~10週目:ジョギング、縄跳び、剣道の基本練習。つま先跳び20回出来ればスポーツ復帰。また、剣道の練習は当院で開発した装具を装着する。<BR>装具は両側(内側・外側)にバネ支柱と底屈誘導バンド(ゴム製)を装着している。ズレを防止するため皮膚接触面はラバー素材である。<BR>2)アンケート調査:(1)競技復帰から1年までの剣道競技の回復レベルについて。(2)アキレス腱用装具とテーピングとの比較(フィット感、安定感、安心感、動きやすさの4項目)。<BR>3)MRIによるアキレス腱修復状況の確認(術後3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月)。<BR>【説明と同意】<BR> 剣道の練習中、左アキレス腱断裂にて当院でアキレス腱縫合術を行った年齢17歳の女子高校剣道選手3名である。対象者には事前に発表の趣旨を十分説明し同意を得ている。<BR>【結果】<BR> 対象者3名とも上記リハビリテーションプログラムに沿って、術後3ヶ月以内で競技復帰を果たし、県総合体育大会に出場し好成績を収めた。<BR>回復レベルのアンケートについては、3~4ヶ月で60%、4~5ヶ月で70~80%、6ヶ月で90%、10~12ヶ月で100%であった。<BR>装着感は、装具装着初期~5ヶ月までは全例とも安定性良く、蹴り出しをサポートするので装具が良いとの回答。ただし、5ヶ月以上になるとテーピングのほうが動きやすいとのことであった。<BR>MRI のT2強調画像でのアキレス腱修復状況は、3ヶ月ではアキレス腱縫合部に高信号があり、周辺組織も腫れている状態で修復は十分とはいえないが連続性は得られていた。6ヶ月では高信号も消失し、周辺組織の状態も安定していた。<BR>【考察】<BR> 剣道競技への早期復帰の要因は、断裂部の固定を強固にする術式と、剣道の練習開始に向けたアキレス腱用装具の開発により、早期リハビリテーションプログラムに沿ったリハビリテーションが行えたことである。したがって、当院で行っているアキレス腱縫合術後のリハビリテーションプログラムは、早期スポーツ復帰に有効であり妥当であったと考えられる。また、当院で開発したアキレス腱用装具は、術後5ヶ月までは底屈誘導バンドにより剣道の踏み込み動作における蹴りだしに有効であると思われた。さらに、アキレス腱が十分修復されたと思われる術後6ヶ月目はテーピングのほうが良いとのアンケート結果とMRIでのアキレス腱修復状況から装具除去の時期は6ヶ月と考える。今後の課題は、スポーツパフォーマンスにおける長期成績について検討する必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> スポーツ傷害のリハビリテーションにおいて、スポーツ現場への早期復帰は重要な課題の一つである。今回の報告は、スポーツ選手のアキレス腱修復術後における早期スポーツ復帰へのリハビリテーション指標や今後の課題を考える上において有効であると考える。
著者
中村 睦美 水上 昌文
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2287-CbPI2287, 2011

【目的】固有感覚は身体の空間での位置や運動に関連している。この受容器は筋や腱、皮膚、関節包、靭帯など関節および関節周囲に多く分布し、身体の運動を制御し、関節を安定させ筋を協調的に働かせるために重要である。この固有感覚の代表的なものの1つである関節位置覚には筋紡錘が最も重要な機能を果たしているとされているが、関節周囲筋の伸張状態を変化させた際、関節構成体の内側と外側では筋の伸張状態は不均衡となり、筋紡錘からの情報に混乱を生ずることで関節位置覚の低下を来すのではないかと推測される。しかし、実際に関節周囲筋の伸張状態の違いが関節位置覚に及ぼす影響については明らかになっていない。そこで今回、関節周囲筋の伸張状態を変化させた際の関節位置覚への影響について検討した。他動的な操作を加えることによる触圧覚の影響を最小限にするため、自動運動による前腕回内外運動が可能な肘関節にて屈曲伸展方向の位置覚について検討した。本研究の目的は関節周囲筋の伸張状態の違いが関節位置覚に及ぼす影響を、前腕肢位を変化させた際の肘関節屈曲伸展方向への位置覚模倣能力から検討し明らかにすることである。<BR>【方法】対象は健常成人9名(平均年齢31.6±6.7歳)であり、肘関節疾患の既往のない17肘を対象とした。対象者は全員右が利き手であった。測定肢位は椅子坐位で両上腕はテーブル上に肩関節90度屈曲位、内外転中間位、内外旋中間位とした。関節位置覚の測定は田崎らの方法を用いた。検査側の前腕の肢位は90度回内位、回内外中間位、90度回外位の3条件として肘関節屈曲60度で固定し、その関節位置覚を認知させた。次に反対側上肢は前腕90度回外位で肘関節屈曲角度を検査側に応じて模倣させた。測定中は閉眼とし、検者は肘関節屈曲時に肩関節の運動が伴っていないことを確認した。対象者の模倣した角度は、デジタルカメラで橈骨茎状突起のマーカーの動きを記録し紙面上にて分度器を用い1度単位で読み取った。各肢位における測定は3回施行し、設定角度(60度)から計測値を除した絶対値(絶対誤差値)を算出し平均値と標準偏差で表した。統計学的検定はPASW.ver18.0にて、3肢位の比較にFriedman検定及び Wilcoxonの符号付き順位検定を用い有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】各肢位における絶対誤差値の平均値±標準偏差は回内位4.7±3.8度、中間位5.3±3.7度、回外位4.4±3.4度であり有意差はみられなかった。<BR>【考察】関節周囲筋の伸張状態を変化させた際の関節位置覚への影響を明らかにするために、前腕の肢位を変化させて肘関節屈曲伸展方向への位置覚の測定を行った。前腕回内位では、肘関節外側構成体が伸張され回内位を保持するために円回内筋や方形回内筋の活動を要し、回外位では内側構成体が伸張され回外位を保持するために上腕二頭筋や回外筋の活動を要すことから、回内外中間位と比較して多くの情報を得ることができるため、回内位と回外位では中間位と比較して関節位置覚の感度が高くなると考えた。結果は、ある程度そのような傾向が示されたが、有意差を認めるには至らなかった。今回は健常肘を対象としており、前腕の回内、回外、回内外中間位は日常生活で頻繁にとる肢位であるため、どの肢位においても肘関節位置覚の感度は保たれ、前腕肢位の違いは肘関節位置覚に大きく関与しない可能性が示唆された。木山らは、関節位置覚の模倣角度が±10度以上の誤差でないと異常とは言い難いと報告しているため、今回の肘関節位置覚の模倣角度は正常範囲内であると考えられる。今後は、さらに対象者を増やし、関節位置覚の感度に影響を与えるとされている模倣速度の設定や、他動での模倣などを考慮に入れ、再度本研究結果の妥当性を検証するとともに、肘関節以外の関節ではどのような結果が得られるのか検討していくことが、関節位置覚への臨床アプローチ上、重要な課題と考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】健常肘を対象とした場合、肘関節位置覚に前腕回内外の肢位の違いは大きく影響を及ぼさない可能性が示された。関節位置覚の特性を理解することは、臨床での関節位置覚の客観的評価を可能とする上で有益な基礎的情報になると考える。
著者
山下 誠 木野田 典保 角谷 一徳 八木 朋代 石濱 裕規 都丸 哲也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EcOF2097-EcOF2097, 2011

【目的】<BR> 当院では、医師をはじめ、義肢装具士、理学療法士、作業療法士が一同に介して、装具に関する診察(以下:装具診)を週2回行っている。入院中に作成した装具が、退院後の環境の異なる在宅生活において、うまく適合しているのか、また、どのように活用されているかについて、不明確な点が多い。そこで、適切な装具の処方が行われているかを確かめる目的で、入院中に下肢装具を作製し在宅退院された障害者に対して、満足度及び装具使用状況に関する追跡調査を実施した。<BR><BR><BR>【方法】<BR> 対象は、2008年4月から2010年3月までに当院入院されていた脳血管障害者のうち短下肢装具を作製し、自宅退院となった29名であった。調査方法は、アンケート用紙郵送形式とした。内容は、満足度及び装具使用状況調査からなるものであった。満足度の評価には、福祉用具満足度評価を使用した。これは、福祉用具使用者の満足度を評価するためにLouise Demersらにより、開発された効果測定の指標であり、満足度を8項目の福祉用具特性と4項目の関連サービスの観点から評価するものである。福祉用具の下位項目は、1大きさ2重さ3調節しやすさ4安全性5耐久性6使い心地7期待した効果8着脱しやすさであり、サービスの下位項目は、1作製の時期や手続き2修理とメンテナンス3専門家の指導・助言4アフターサービスである。これら各項目を1「非常に不満」から5「非常に満足」の5段階で評定する。装具使用状況調査の質問項目は、選択・記入方式とした。内容は、1使用期間2装着自立度3転倒回数4着用時転倒回数5使用頻度と使用場所6修理の必要性7修理の有無8修理の認知度9相談相手の有無10退院後の身体的変化であった。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には当院入院時に担当療法士から、電話にて調査目的の説明を行い同意を得た方にのみ、アンケート用紙を郵送した。<BR><BR>【結果】<BR> 回収率は、29件中20件(68.9%)であり、有効回答19件を分析対象とした。対象者は、男性13名、女性6名、平均年齢58.15歳。疾患は、脳出血9名、脳梗塞8名、その他2名。装具の種類はオルトップ2名、プラスチック製短下肢装具12名、金属支柱付短下肢装具5名であった。また、FIM平均点は、入院時総得点58.22点、退院時総得点87.77点、退院時の移動項目平均点は、歩行6.00点(6名)車いす5.5点(14名)、階段昇降3.6点(19名)であった。満足度評価の算出方法は、福祉用具、サービス共に無効回答の項目以外の得点を加算して、有効回答数で除したものとした。そして、これら2つの合計を総合点とした。総合点平均13.4点であった。内訳として福祉用具平均3.4点、サービス平均3.4点であった。さらに、装具処方における不満足の要因となる項目を検討するために、総合点により、高満足群(n=10平均17.2点)と低満足群(n=9平均9.2点)で2群化(中央値13.7)し比較した。その結果、福祉用具特性では、「重さ」「調節しやすさ」「使い心地」サービスについては、「修理とメンテナンス」「専門家の指導・助言」「アフターサービス」の項目で差がみられ、高満足群が低満足群に比べ優位に得点が高かった(Mann-WhitneyのU検定p<0.05)。使用状況調査の各項目に関しても、高満足群、低満足群間で比較した結果、有意差はみられなかったものの、「使用頻度」「修理の必要性」の2項目で、高満足群が低満足群より使用頻度が高く、修理の必要性も高い傾向がみられた。自宅退院後の転倒者数は10名(52.6%)おり、「使用頻度」ではいつも使用者9名(47.3%)、時々使用している者7名(36.8%)、使用していない者3名(17.7%)であった。「修理の必要性」の有無では、あり12名(63.1%)なし6名(31.5%)であった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の研究では、福祉用具満足度評価に基づいて、不満足の要因を検討し、さらに高満足群と低満足群の間で、使用状況調査にどのような違いがあるのか検討した。その結果、装具処方時に、退院後においても高い満足度を得る装具を処方するには、福祉用具特性では「大きさ」「調節しやすさ」「使い心地」に配慮し、サービス面では「修理とメンテナンス」「専門家の指導・助言」「アフターサービス」に配慮する必要がある。使用状況調査において低満足群では、使用頻度が低い傾向がみられたことから、「重さ」「調節しやすさ」「使い心地」への不満が示唆された。<BR>修理の必要性ありと回答した方の方が、より満足している傾向から、定期的なフォローアップがなされる装具処方に満足していると考察する。<BR><BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>満足できる装具処方をするための着目点が示された。「使われる装具」を処方するためには我々が伝えねばならないものは、機能面に限られないことが本調査から示唆された。今後も家族や利用サービスなどの視点も含め、追跡調査として継続・発展させていきたいと思う。
著者
平澤 有里 笠原 酉介 大森 圭貢 渡辺 敏 武者 春樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D1202-D1202, 2005

【目的】慢性心不全患者は,急性憎悪期に安静臥床や活動の制限を受けることが多い.そのため,入院を契機に歩行能力が低下する症例が少なくなく,その傾向は高齢であるほど顕著である.高齢患者の歩行能力を規定する因子としては下肢筋力があるが,高齢心不全患者の下肢筋力は健常高齢者に比べて低値であることがすでに報告されている.そこで本研究では,後期高齢心不全患者を対象に,歩行能力と心機能,下肢筋力の関係を検討したので報告する.<BR>【対象】対象は,75歳以上の後期高齢心不全患者計28名(男性9名 女性19名,平均年齢82±17歳,基礎疾患は陳旧性心筋梗塞10名,拡張型心筋症6名,その他12名)であった.いずれも心不全の急性期を脱しリハビリテーションが施行可能となった症例であり,重度の痴呆や運動器疾患を呈する症例は除外した.<BR>【方法】検討項目は,心機能として脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下BNP)と左室駆出分画(以下EF),入院日数,下肢筋力,歩行能力とした.下肢筋力は,アニマ社製μ-TasMT-01を使用し,等尺性膝伸展筋力体重比を測定した.歩行能力は院内歩行の可否,可能な連続歩行距離とその制限因子を調査した.分析はSPSS12.0Jを使用し,χ<SUP>2</SUP>検定,Mann-WhitneyのU検定,Spearmanの相関係数を用いて検討した.<BR>【結果】平均値と標準偏差はそれぞれ,BNP1315±1095pg/ml,EF47.7±17.7%,入院日数41±24日間,下肢筋力29.3±9.1kg/kgであった.院内歩行可能が12名,不可能が16名であり,内4名は歩行不能であった.歩行の可否で有意差が認められたものは性別(p<0.05)下肢筋力(p<0.01)であり,性別では男性の方が歩行可能な症例が多かった.また,連続歩行距離(平均277±264m)と有意な相関が認められたものは年齢(r=0.555,p<0.05)と下肢筋力(r=0.686,p<0.01)であり,心機能(BNP,EF)と歩行能力は相関がなかった.連続歩行の制限因子は下肢疲労が14名(50%),息切れが10名(36%),異常心拍血圧反応が2名(7%),その他2名(7%)であった.<BR>【考察】今回の結果より,後期高齢心不全患者の歩行能力には下肢筋力が大きく関係していることが示唆された.連続歩行の制限因子が下肢疲労である症例が多く存在することは,同程度の心機能でも下肢筋力増強によりさらに歩行能力が向上する可能性があることを表している.後期高齢心不全患者のリハビリテーションは下肢筋力トレーニングが非常に重要であることが改めて考えられた.
著者
黒澤 幸弘 高橋 かおり 伊藤 廉 河辺 信秀
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100682-48100682, 2013

【目的】医療系養成校における臨床実習は,もっとも心理的ストレスが加わるカリキュラムである.先行研究では,看護師の臨床実習中の新版State Trait Anxiety Inventory(以下STAI)の状態不安が高いことが報告されている.理学療法士の臨床実習では,実習中のストレス強度と短い睡眠時間に関連がみられたとする報告がある.このような心理的不安は実習自体の中断につながりかねない.一方で,心理的不安を軽減させる方法に有酸素運動がある.竹中らは, 心理的不安の高い学生に対する有酸素運動がProfile of Mood States(以下POMSとする)の緊張および鬱の得点を減少させたとしている.これらを踏まえ,本研究では臨床実習前の不安が高い理学療法学科学生に対して有酸素運動を行い,臨床実習に対する不安の軽減が可能であるか明確にするために研究を行った.【方法】対象は本学第4学年第3期臨床実習(7週間)前の14名であった.全例精神科への通院歴がなかった.2週間の有酸素運動への参加意志を確認し,積極的に同意した7名をAE群に,同意なしや消極的であった7名をNA群とした.AE群,NA群共に男性6名,女性1名であり,年齢は24.3±4.1歳,22.3±2.6歳であった.実習開始2週間前に全例でSTAIとPOMSを実施した.STAIは特性不安と状態不安における不安存在項目,不安不在項目,合計を得点化した.POMSは「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」「活気 」「疲労」「混乱」の各尺度を測定した.AE群の運動内容はベンチステップエクササイズ,縄跳び,反復横跳びを各5分とし15分間行った.これを2セット30分間実施した.運動強度はV(dot)O<sub>2</sub>max60%とし,脈拍数とBorg scale を用いて管理した.運動は実習開始2週間前からの2週間で,週3回,計6回実施した.NA群は運動介入なしとした.介入終了後,実習開始2日前,実習開始21日目,実習終了2日後にSTAIとPOMSを測定した.統計解析は2群間の比較では対応のないt検定,各時期の比較ではScheffeの多重比較を用いた. 【説明と同意】研究目的,方法,個人情報保護に関して口頭にて説明し同意を得た.【結果】2群間の比較において,実習開始2週間前ではすべての項目に差がなかった.実習開始21日目には,STAI特性不安および状態不安の不安不在項目得点,合計点でNA群よりAE群で有意に不安が軽減していた(28.9±4.4 vs 19.4±6.9, 29.1±2.1 vs 19.1±6.3, 49.0±6.6 vs 39.4±8.5;P<0.05).AE群における各時期の比較では,STAI特性不安および状態不安の不安不在項目得点で実習開始2日前と比べて実習開始21日目に有意な不安の軽減がみられた(28.3±4.9 vs 19.4±6.9, 27.7±4.6 vs 19.1±6.3;P<0.05).STAI状態不安の不安存在項目で実習開始2週間前および実習開始21日目と比較して実習終了2日後に有意な不安の軽減がみられた(20.0±2.7 vs 15.9±4.3,20.3±6.3 vs 15.9±4.3;P<0.05).POMSの緊張-不安得点では実習開始21日目と比較して実習終了2日後に有意な不安の軽減がみられた(15.7±8.1 vs 9.4±8.3;P<0.05).NA群の各時期の比較では差がなかった.【考察】本研究では,心理的ストレスが高いと予測される実習開始21日目に,NA群と比較してAE群で不安の軽減がみられた.AE群では実習開始2日前と比較して実習開始21日目に不安不在項目得点が減少し,実習終了後にも不安の軽減がみられた.NA群では心理的不安の変化がみられなかったことから,臨床実習前の有酸素運動によって臨床実習に対する心理的不安が軽減したと推測できる.NA群と比較してAE群は,ポジティブな情動の変化を捉えるSTAIの不安不在項目得点が低下していたことから,臨床実習を前向きに捉えることができていたといえる.このように有酸素運動が臨床実習での心理的不安を減少させるならば,積極的に臨床実習に望む学生にストレスマネージメントとして有酸素運動を実施すべきであろう.今後は,臨床実習中の運動実施による不安軽減効果の確認が必要であろう.【理学療法学研究としての意義】本研究では,有酸素運動が臨床実習中の心理的不安を軽減する可能性が示唆された.理学療法教育における臨床実習の課題である学生のストレスマネージメントの構築に寄与する研究であると考えられる.
著者
黒原 正人
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P1252-E3P1252, 2009

【はじめに】<BR> 「食べる」ことは生命活動の根幹であり、生きていくために不可欠な行動として日常生活の中で行われている.しかし、高齢者は様々な理由で、咀嚼能力の低下や嚥下障害を起こすことが多い.そのため、咀嚼に問題がある場合は軟らかい素材の選択や、すりつぶして噛まずに飲み込めるような工夫を行う.このように、質の高い食生活を送るには、安全で適切な食形態を選択することが必要となる.食形態は噛むことを包括した口腔機能を反映するとされる.従来、口腔機能と全身状態との関係には何らかの関連があることが指摘され、全身状態の低下に伴い食形態が変化することは臨床でもよく経験する.そこで本研究は、全身状態の指標としてADL能力に着目し、食形態とADL能力の関係を調べる目的で行った.<BR><BR>【対象・方法】<BR> 対象は、2006年4月から2008年4月までに当院の回復期リハビリテーション病棟から退棟した症例のうち、再発症例や状態悪化等で転院・転科した症例及び嚥下障害の認められる症例を除いた129例を対象とした.方法は、食形態の評価は摂食機能と食形態に応じて3区分(並食群・軟食群・粥食群)に分類、ADL能力についてはFIMを用いた.統計処理は、食形態とFIM得点の関係にSteel-Dwass検定を用いた.統計解析にはR Ver2.7.0を用い、統計学的有意水準は5%未満及び1%未満とした.なお、本研究は当院倫理委員会での承認を得て行った.<BR><BR>【結果】<BR> 食形態とFIM得点(合計点)の関係において、並食群と粥食群の間に有意差(p<0.05)が認められた.なお、食形態別のFIM得点(合計点)の中央値は、並食群=106.5点、軟食群=96.5点、粥食群=93.0点であった.<BR><BR>【考察】<BR> 食形態が軟らかくなるにしたがって、ADL能力が低下する傾向が認められた.したがって、食形態とADL能力には何らかの因果関係があり、食形態はADL能力に影響を与える可能性があると考えた.しかし、臨床場面において口腔機能とADL能力との関連性を検討する場合には、口腔機能がADL能力へ影響を与えるのか、逆にADL能力が口腔機能へ影響を与えるのか、さらには他の要因なのかを患者個々に考察する必要がある.したがって、食形態だけで全てが決定されるわけではなく、種々の周辺症状に影響されることにも注意が必要である.多くの高齢者は、食事は一番の楽しみであり、より快適により安全なものにする必要がある.しかし、食形態の選択は、口腔機能を考慮しない安易な選択が多いのが現状で、食べさせてみた結果から判断しているのが大部分であると思われる.しかしながら、本研究で食形態はADL能力に影響を与える可能性があると考えたように、食形態の適切な選択は非常に責任あることであり、患者一人ひとりの特徴と状態を理解し、それぞれに合った選択が必要である.
著者
今久保 伸二 中土 保 大橋 弘嗣
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.249-249, 2003

【はじめに】股関節外転筋力は歩容に大きく影響する。この度、人工股関節全置換術(THA)の前後において筋力が同等であるが、術後早期に歩容改善を認めた症例を経験した。そこで力学的な側面から検討を加え、歩容の安定化に影響した要因を調査した。【対象】57歳女性、身長148cm、体重50kgで左右とも進行期変形性股関節症であった。【経過】平成2年から左股関節の疼痛を自覚し、他院受診し変股症の診断を受け保存療法を継続していた。疼痛増悪にて平成13年2月当院整形外科を受診、当部において荷重下での運動療法を開始する。経過良好であったが、平成14年7月ごろより再度疼痛増悪し、平成14年10月に左THA施行にいたる。【方法】三次元動作解析装置(バイコン512)を使用し、術前と術後14日目の静止立位・片脚立位および歩行時における股関節内転角、モーメントおよび反対側骨盤挙上角度を求め、術前後の値を比較した。歩行速度は自由歩行とした。なおキンコム500Hを用い術前後に股外転筋力測定を行い、側臥位にて股関節中間位より最大等尺性収縮を5秒間記録し、その中の3秒間の値を平均し実測値とした。【結果】(1)実測値は術前67Nm、術後60Nm。(2)片脚立位時の最大内転角は、基準となる立位と比較して術前3.5度外転位、術後2.7度内転位で、その際反対側骨盤挙上は3.6度と1.1度であった。(3)片脚立位時の最大内転モーメントは術前15.3Nm、術後13.9Nmで、それぞれ最大内転後0.2秒後と0.17秒後であった。(4)歩行立脚期における股関節最大内転角は、術前13.5度、術後8.4度で、それぞれ踵接地から0.16秒後と0.19秒後であった。また同時期の反対側骨盤の下制は6.2度と2.8度であった。(5)歩行立脚期の股関節最大内転モーメントは術前23.8Nm、術後33.1Nmで、それぞれ最大内転後0.08秒後と0.07秒後であった。【考察】術前後ともに実測の股関節外転トルク値は、歩行および片脚立位時内転モーメントを大きく上回り、筋力的には十分と考えられる。その中で術前は股関節外転位・骨盤挙上にて片脚立位を安定化させる代償性の姿勢を取り、歩行立脚期には過度の骨盤下制を認めた。しかし術後は14日目という早期でありながら、股関節内転位で片脚立位が可能となり、より正常に近い姿勢が保てるようになった。その際モーメントの立ち上がり時間に遅延を認めたが、これは予測しにくい片足立ちという動作の特性が影響したと考える。また一般に変股症患者の歩行では、筋収縮タイミングの遅延が認められる。本症例においては術前において歩行中アライメントの崩れを認めたものの、モーメントの立ち上がりに関する遅延は認めなかった。荷重時のモーメントの立ち上がりが術前で失われなかったことが、早期の歩容改善をもたらした要因ではないかと考える。
著者
高尾 哲也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P2231-E3P2231, 2009

【初めに】車椅子を駆動している障害者(車椅子駆動者)にとって、バスやタクシーなどの輸送機関を利用して外出することは必ずしも容易なことではない.しかし、介助者の付き添いにより、輸送機関を利用しての外出が比較的、容易に行われる.また、外出が容易になるか否かは、車椅子駆動者の認識力のレベルにより左右される.今回、日常生活において標準型車椅子を利用し、両手駆動が可能である車椅子駆動者を対象に、障害者の生活状況評価法の1つであるFunctional Assessment Measure(FAM)を使用し、FAMの運動的側面(mFAM)の小項目の1つである輸送機関利用のレベルから、mFAMの小項目の1つである車椅子駆動およびFAMの認知的側面(cFAM)の大項目の1つである認識機能、という2項目のレベルを把握し、車椅子駆動者の外出、認識力について考察した.<BR>【対象】障害者施設に入所中の車椅子駆動者19名である.<BR>【方法】対象を輸送機関利用のレベルにより、最大介助や全介助を要する方々から構成される群(完全介助群)と、完全自立や修正自立の方々や監視、最小介助、中等度介助を要する方々から構成される群(非完全介助群)の、2群に分類し、各群の車椅子駆動と認識機能の各々の中央値を算出し、2群間での有意差の有無を検証した.尚、対象者に今回の調査目的および方法について説明を行い、対象者からの同意を得ている.<BR>【結果】輸送機関利用のレベルによる対象分類では、完全介助群は13名となり、非完全介助群は6名となった.車椅子駆動の中央値は、完全介助群で4点、非完全介助群で5点となったが、有意差は得られなかった.認識機能の中央値は、完全介助群で20点、非完全介助群で29点となり、有意差が得られた.<BR>【考察】mFAMの輸送機関利用とは、バスやタクシーなどを利用して外出する際、目的地までの道程、所要時間、運賃、安全性を認識することであり、車椅子駆動や輸送機関への移乗のレベルを問わない.cFAMの認識機能とは、問題解決、記憶、見当識、注意、安全確認から成り、輸送機関利用の際の基本的な認識力である.よって、車椅子駆動者が基本的な認識力を備えていれば、輸送機関利用は自立レベルに成り得る.車椅子駆動者の基本的な認識力が不十分であれば、介助者が車椅子駆動者に対し基本的な認識力を促し、共有することにより、輸送機関利用が部分介助レベルに成り得る.車椅子駆動者が基本的な認識力を備えていなければ、外出は介助者の完全管理下で行われるため、輸送機関利用は完全介助レベルになる.したがって、完全介助群と非完全介助群との比較で、認識機能で有意差が得られたと思われる.つまり、車椅子駆動技術に比べ、認識力は輸送機関を利用しての外出にとって重要なものである.今後、車椅子駆動者の外出を促していくために、車椅子駆動技術の習得のみならず、認識力に対する適切なアプローチも行っていく必要があると思われる.
著者
隅 優子 山下 小百合 後藤 剛 渡利 一生
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0606-Eb0606, 2012

【はじめに、目的】 当院では、他の診療機関にて筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)の確定診断を受けた長期療養患者を受け入れており、ALS患者の在宅生活を支援すべく、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、介護支援室を開設し、その一環として訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)を開始した。今回、訪問リハ開設から現在までの利用者の動向を調査した。また、現在利用中のALS患者の問題点と訪問リハの内容を、担当理学療法士(以下、担当PT)及び家族へアンケートにて調査し、各々に相違がみられるか比較検討した。【方法】 利用者の動向調査は、平成12年1月~平成23年10月の期間に当院の訪問リハを利用したALS患者21名(男性11名、女性10名)を対象とし、過去の診療録をもとに調査した。調査内容は、訪問リハ開設から現在までの利用者数、利用期間および訪問リハ開始時と終了時もしくは現在の寝たきり度、使用していた医療機器、福祉機器、利用していたサービスである。また、現在利用中のALS患者のアンケート調査は、平成23年10月現在の利用者8名(男性5名、女性3名、平均年齢69.3±13.8歳)を対象とし、担当PTに対しては「現在の問題点」と「リハビリの内容」、家族に対しては「家族が考える問題点」と「利用者に必要と思うリハビリの内容」を調査した。これらはあらかじめ各々10項目ずつ選択肢を挙げておき、優先順に5つ選択する形式をとった。「現在の問題点」及び「家族が考える問題点」の選択肢は、関節可動域(以下、ROM)制限、筋力低下、痛み、坐位・立位保持困難、移乗困難、移動困難、コミュニケーション困難、排痰困難、外出困難、日常生活動作(以下、ADL)困難の10項目を挙げ、「リハビリの内容」及び「利用者に必要と思うリハビリの内容」の選択肢は、ROM訓練、筋力訓練、疼痛に対する徒手療法、坐位・立位訓練、移動訓練、コミュニケーション訓練、排痰訓練、外出支援、ADL訓練の10項目を挙げた。【倫理的配慮、説明と同意】 第47回日本理学療法学術大会で発表するにあたり、ご家族の同意を得ており、個人情報の管理には十分配慮した。【結果】 平成12年1月に訪問リハのサービス提供を開始し、その年の利用者は3名、翌年は4名と徐々に増え、平成20年、21年、22年は11名と最も多かった。現在の利用者は8名で、これまでの利用者総数は21名である。平均利用期間は36.3±36.8カ月で、最も長い利用者は11年9カ月であった。訪問開始時の寝たきり度はA-1が1名、A-2が4名、B-1が7名、B-2が1名、C-1が2名、C-2が6名であったが、現在または終了時になるとB-2が2名、C-2が19名であった。使用している医療機器では、NIPPV使用が2名から0名、在宅酸素は4名から6名、気管カニューレは10名から18名、人工呼吸器は10名から16名、胃ろうによる栄養注入は9名から16名へと変化していた。福祉機器では、ベッドの使用が19名から20名、車いすの使用は開始時、終了時ともに16名、杖・歩行器は5名から0名、ポータブルトイレは5名から3名、移動用リフトは0名から2名、伝の心等のコミュニケーション機器は0名から1名へと変化していた。他のサービスでは、全員が開始時、終了時ともに訪問看護、ヘルパーを利用しており、過半数の方がレスパイト、訪問入浴を利用していた。現在、8名の訪問リハを行っており、寝たきり度は全員C-2で人工呼吸器を装着している。家族へのアンケート結果から利用者の問題点として「コミュニケーション困難」と答えた方が100%、「ROM制限」が87.5%、「ADL困難」が75.0%であった。担当PTでは「ROM制限」が100%、「筋力低下」が87.5%、「排痰困難」が75%であった。家族が利用者に必要と思うリハビリの内容は、「ROM訓練」が100%、「排痰訓練」が75%、「筋力訓練」が75%であった。担当PTでは「ROM訓練」が100%、「疼痛に対する徒手療法」が87.5%、「排痰訓練」が75%であった。【考察】 動向調査から、利用者は徐々に増加しているが、その中に占めるランクB・Cの割合も増え介護負担の大きい家族も多いのではないかと考える。アンケートでは、家族はROM制限以外にコミュニケーションやADLを問題と考えていたが、担当PTでは低い結果となった。また、ROM訓練や排痰訓練は家族・担当PTとも必要と考えていたが、筋力訓練に関しては担当PTでは低い結果となった。今後は家族が問題と感じている点を調査し、リハビリの内容だけでなく福祉用具の検討などアプローチに繋げると共に、家族に対し訪問リハの実施計画を十分説明し、お互いが共通認識を持ったうえでサービスを提供することが必要と考えた。【理学療法学研究としての意義】 ALS患者は進行に伴いADLや意思疎通が困難になるにつれ、家族の負担も大きくなる。その中で訪問リハの担当PTと家族の意見を一致させることは重要であり、今回の取り組みは意義があったと考える。
著者
笹谷 香織 倉山 太一 村神 瑠美 大高 洋平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100195-48100195, 2013

【はじめに、目的】小型加速度計は、歩行周期時間や歩幅などの客観的な指標を精度良く算出することが可能であると報告されており、非拘束で測定場所を選ばない点や、測定の簡便さから、臨床応用の容易な歩行解析機器として着目されている。現在、加速度計はiPhone(Apple社)などの汎用電子機器にも標準的に内蔵されており、これを利用した加速度計測用のソフトウェアも複数存在する。iPhoneによる歩行解析については、加速度のピーク時間より同定される歩行周期時間をはじめとした、時間因子に関わる評価について報告が複数あるものの、重心変位幅など加速度値そのものを利用した歩行評価については十分に検討されていない。そこで本研究では、iPhoneによって計測された加速度値、またこれを利用した重心変位量の妥当性を検討することを目的に、異なる歩行速度における重心位置の加速度と、これを利用し算出した重心変位量について、三次元動作解析装置ならびに、研究用小型加速度計との比較を行った。【方法】対象は健常成人9 名(男性5 名、女性4 名、平均年齢23.3 ± 1.1 歳)とした。第3 腰椎棘突起部を重心位置としてiPhoneをベルトで固定し、同じ箇所に研究用加速度計(DELSYS社)を重ねて貼付し、課題中の加速度を垂直・前後・左右方向で計測した。iPhoneの加速度取得にはiPhoneのアプリケーションである「加速度ロガー(アイム有限会社)」を使用した。また光学式三次元動作解析装置(NDI社製、以下、動作解析装置)の光学マーカーを同じ場所に貼付し、位置情報の計測により各方向における変位量、及び加速度の基準値(実測値)を算出した。サンプリング周波数は100Hzで統一した。測定課題はトレッドミル上での歩行とし、歩行速度[m/min]は20、40、60、80、100 の5 条件とした。解析は、静止立位時の加速度が全方向で0 となるように重力の影響を校正した後、iPhone及び加速度計で取得された40 歩分の加速度データについて、速度別に、研究用加速度計、並びに動作解析装置から得た基準加速度値との相関検定を行った。またiPhoneと研究用加速度計で得られた加速度を積分して各軸における変位量を算出し、動作解析装置の実測値との相関について検定した。データ解析および統計解析にはMatlab 2012aを用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は病院倫理委員会の承認を得ており、対象者に研究内容を十分に説明し、同意を得て行った。【結果】iPhoneで計測された加速度は、全方向、全速度条件で動作解析装置の基準値と有意に相関した。相関係数の平均値は、垂直方向では、0.95 ± 0.03、前後方向では0.93 ± 0.07、横方向では0.85 ± 0.07 であった。また同じく研究用加速度計とも有意な高い相関を示した。iPhoneのデータを元に算出された重心変位量については実測値との比較では全方向で相関係数は最大で0.06 であり相関は認められなかった。一方、研究用加速度計とiPhoneの重心変位量については相関係数が0.35 〜0.63と全ての速度で有意に相関した。【考察】iPhoneで取得された加速度は、動作解析装置ならびに研究用加速度計における加速度と高い相関を示した。このことから歩行速度が20 〜100[m/min]の範囲でiPhoneを加速度計として歩行解析に用いることは妥当性があることが示唆された。一方、加速度から計算された重心変位量については、研究用加速度計から算出された重心変位量との相関は高かったが、実測値である動作解析装置の値とは相関が低く、重心変位量の計測に於いてはiPhoneの妥当性は低い可能性が示された。結論としてiPhoneは加速度計の性能としては研究用加速度計と同等であるといえるが、同時に、加速度計が持つ特性である重力加速度の影響を受けることから、重心変位量の計測においては誤差が大きくなることが示唆された。歩行解析に於いて加速度計は体幹や下肢に装着して使用するため、それらの周期的運動による重力方向の変化が、計測される加速度に影響を与える。今後はこれらの性質や特徴を明らかにし、何らかの補正方法を考案することで重心変位量の誤差を低下させる取り組みなど、追加検討を実施したい。【理学療法学研究としての意義】加速度計はiPhone以外にも多くの汎用電子機器に内蔵されており、その普及率は高い。本研究はこれらの機器を利用した歩行評価の可能性を一部示した点において意義があると考えている。
著者
上野 貴大 荻野 雅史 高橋 幸司 強瀬 敏正 森田 直明 戸塚 寛之 高木 優一 嶋 悠也 佐々木 和人 鈴木 英二 原 和彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1306-CbPI1306, 2011

【目的】運動器疾患の早期退院を目指した術後歩行練習介入の主な目標は、円滑な歩行獲得を目指した歩容改善と、適切な荷重制御歩行の獲得である。そこで、歩容改善を意識した歩行練習をより円滑に施行するための治療用Ankle Foot Orthosis(以下AFO)を用いた歩行練習を考案した。治療用AFOの有用性は、主に脳卒中に対する理学療法介入検証で報告されている。近年の機能的AFOは、装具が生み出す足関節底背屈の制御モーメントが歩行時の足関節機能を代償するように考案されており、装具を用いた正しい姿勢、関節アライメント下での歩行練習により、正しい筋活動を促す効果が期待される。しかし、運動器疾患の歩容改善に対して、これら治療用AFOによる効果の有用性を示す報告は少ない。当院にて、歩行不安定要素を有する股関節機能障害を呈した術後患者に対して、試行的にAFOを用いた歩行練習を行ったところ、膝への関連痛軽減や歩容改善につながった臨床適応例を数例認めた。そこで本研究はAFO装着が歩行機能に及ぼす影響や治療用装具としての適応の可能性について検証を行ったので報告する。<BR>【方法】対象は、運動器疾患により当院に入院し、股関節及び膝関節内固定術、人工骨頭及び人工膝関節置換術を施行された例の中で、平成22年8月14日から平成22年10月30日までに、監視下で6分間の連続歩行が可能となった10例(男性2例、女性8例、平均年齢76.4±14.5歳)とした。対象に対し、装具なし、ありでの歩行について、それぞれ10メートル歩行、6分間歩行距離の測定を行った。装具は、パシフィックサプライ株式会社製GAITSOLUTION Designを使用し、油圧ダンパーの強さ設定を一律1.5とした。10メートル歩行は直線歩行路を用い3回施行し、歩数、歩行時間を測定した。6分間歩行距離は円形歩行路を用い1回測定した。測定は、装具なしでの歩行、装具ありでの歩行の順に行い装具使用下での歩行による運動学習効果の回避に努めた。また、各測定の間にはバイタルチェックを行いながら十分な休息時間を取った。得られたそれぞれの測定結果について、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い、比較検討を行った。その際、10メートル歩行については3回中1番良い結果を採用した。加えて装具を用いた歩行の前後で感想を聴取した。各測定結果の統計的検討にはSPSS for windows10.0Jを用い、有意水準5%とした。<BR>【説明と同意】対象またはその家族に対し研究の趣旨を説明し、同意を得た上で検討を行った。<BR>【結果】対象の疾患内訳は、大腿骨頚部骨折3例、大腿骨転子部骨折2例、大腿骨基部骨折2例、脛骨高原骨折2例、慢性関節リウマチ1例であった。手術方式の内訳は、股関節内固定術6例、人工骨頭置換術1例、膝関節内固定術2例、人工膝関節置換術1例であった。測定結果について、中央値と四分位数偏差を用い以下に示す。10メートル歩行結果は、装具なしでは歩数19.5±4.1歩、歩行時間13.8±5.6秒、装具ありでは歩数17.5±4.4歩、歩行時間11.7±5.4秒であった。6分間歩行距離は、装具なしでは214.0±68.0m、装具ありでは247.5±73.8mであった。それぞれの測定結果の比較検討については全てにおいて有意差を認め、装具使用により各測定値の向上を認める結果となった。装具使用前後の感想については、使用前は抵抗感や疑問を訴える例が多かったが、使用後は楽に歩けた、痛みが消えた、足がしっかりした、速く歩けた等の前向きな感想が多かった。<BR>【考察】今回の測定結果では、疾患、手術部位、発症から測定までの時期が異なる中、ほぼ全例でAFO装着下での10メートル歩行速度、6分間歩行距離が、AFOなしでの歩行に比べて大きく、有意差を認めた。結果から、歩行に装具を用いたことで、踵接地後の衝撃吸収と適度な足部踏み返しを代償するAFOの油圧制御機能が歩容改善を促し、より歩幅が大きく、術側下肢から健側下肢へのスムーズな体重移動のある歩行が可能となったと考察された。装具使用後の感想からも、歩容改善について実感を得られたと思われる例が多く、装具装着に対する患者満足度が高いことから、装具適応の可能性を示していた。<BR>【理学療法学研究としての意義】過去に報告のない運動器疾患術後患者に対する治療用AFOを用いた歩行練習の可能性について示唆を得たことは、今後の運動器疾患分野での理学療法において意義があると考える。今後は、更なる可能性の提示、適応等についての示唆を得るため症例数を増やし検討していくべきと考える。<BR>
著者
吉本 陽二 長野 聖 井上 悟 柴田 政彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0906-C0906, 2004

【はじめに】<BR> 我々、理学療法士は疼痛の軽減を治療の目的として運動療法、物理療法を施行する。しかし、疼痛を主症状とした症例に対して疼痛軽減のみを目標に理学療法を行った場合に治療が難渋する場合が多くある。<BR> そこで今回、我々は、ペインクリニック外来を受診した患者に対してアンケートを行い、日常生活の動作能力や心理面に対する疼痛の影響について調査した。これらの結果より、疼痛を主症状とした症例に対する理学療法の目標について検討を行った。<BR>【対象】<BR> 大阪府・兵庫県の9施設のペインクリニック外来を受診し、筋骨格系疾患の診断を受けた606名を対象とした。対象者は男性284名、女性322名であり、平均年齢は56.2 ± 16.4 歳であった。<BR>【調査の方法と内容】<BR> 調査は、ペインクリニック外来初診日に以下の内容について調査を行った。疼痛の程度の評価としてvisual analog scale (VAS )と疼痛発症頻度の調査を行った。日常生活動作の障害の有無は、Pain Disability Assessment Scaleにて行い、抑うつ、不安はHospital Anxiety and Depression Scaleにて行った。<BR>【統計学的解析】<BR> VASは平均値よりも高値であった群と低値であった群の2群に分け、疼痛頻度は3群に分け、能力障害、抑うつ、不安は「ある」「なし」の2群に分けた。それらの群の関連性について年齢、性別にて調整し、多重ロジテック回帰分析を用いて統計学的解析行った。<BR>【結果】<BR> VAS と日常生活動作の能力障害の間には、関連性は認められなかった。また、疼痛頻度と能力障害の間にも有意な関連性は認められなかった。疼痛頻度と抑うつ、不安の間には有意な関連性が認められなかったが、VAS と抑うつ(オッズ比2.25、95%CI:1.25-4.07)、不安(オッズ比2.12、95%CI:1.17-4.14)の間には、有意な関連性が認められた。また、能力障害と抑うつ(オッズ比3.54、95%CI:1.95-6.41)、不安(オッズ比7.06、95%CI:3.21-15.51)の間には、有意な関連性が認められた。<BR>【考察】<BR> 今回の調査によるVAS および疼痛発生頻度と能力障害の有無に関連性が無かった結果の解釈は、VAS と抑うつ、不安と関連性がある結果からも疼痛軽減を目的とした理学療法を否定するものではない。疼痛症例の能力障害は、疼痛の程度や発生頻度に影響を受けるのではなく、活動の必要性や本人の意欲によって左右される症例像を示すものと考えられる。二次的障害の予防や能力障害と抑うつ、不安に有意な関連性があることからも疼痛症例に対する理学療法は、疼痛に対するアプローチのみを行うのではなく、早期に能力障害改善のアプローチを行うことが重要であることが示唆された。
著者
吉本 陽二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0963-C0963, 2007

【目的】<BR>我々、理学療法士は痛みを主症状とする患者を担当し治療を行う。しかし、治療効果が明確に現れず、治療が難渋する場合が多くある。そこで今回、我々は、ペインクリニック外来を受診した患者に対してアンケートを行い、疼痛を主症状とする患者の痛みに関する要因を調査した。これらの結果より、痛みを主症状とした症例に対する理学療法について検討を行った。【対象】<BR>大阪府下のペインクリニック外来を受診した251名を対象とした。対象者は男性113名、女性138名であり、平均年齢は55.7 ± 17.3歳であった。疾患は腰椎椎間板ヘルニアが81名、椎間関節症、60名、筋々膜性腰痛、19名、脊椎狭窄症、20名、その他が67名であった。<BR>【方法】<BR>アンケート調査は、ペインクリニック外来初診日に以下の内容について調査を行った。痛みはvisual analog scale (VAS )と痛みの頻度と罹病期間について質問を行った。日常生活動作の障害は、Pain Disability Assessment Scaleにて調査を行い、抑うつ、不安はHospital Anxiety and Depression Scaleにて調査を行った。加えて、睡眠障害の程度についても調査を行った。統計学的解析は、Pearsonの相関係数にて相関を確認し、年齢、性別にて調整し、強制投入法による多重ロジテック回帰分析を用いて行った。<BR>【結果】<BR>Pearsonの相関係数にて罹病期間は全ての項目と相関が認められなかったが、その他の項目間では相関が認められた。特に抑うつと不安の間には強い相関(r=0.71)が認められた。次に多重ロジテック回帰分析を用いて能力障害との関連性を認めた項目は、抑うつ(オッズ比1.13、95%CI:1.04-1.22)と不安(オッズ比1.24、95%CI:1.12-1.37)であった。<BR>【考察】<BR>日常生活の能力障害に関連していた項目は抑うつ・不安であった。痛みの代表的な心理的反応である不安と抑うつは、身体活動意欲の低下につながり、日常生活動作の能力障害<BR>を増悪する可能性がある。また、能力障害は身体の活動性を低下させ、廃用性症候群を助長し痛みの増悪につながると考えられる。理学療法士として対応できる項目としては、痛みに対するアプローチの他に日常生活動作の改善を行う必要があると考えられる。<BR>【まとめ】<BR>1、ペインクリニック外来受診患者に対してアンケート調査を行い、痛みに関する要因について検討を行った。<BR>2、日常生活動作の能力障害は、抑うつ、不安と関連性があった。<BR>3、痛みを主症状とする患者の能力障害に対しては不安・抑うつへの対応が重要である。
著者
福山 勝彦 小山内 正博 関口 由佳 二瓶 隆一 矢作 毅
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0282-C0282, 2004

【はじめに】骨折や変形性関節症術後などの骨関節疾患において、部分荷重が増加すると両松葉杖から片松葉杖に移行させる。通常、片松葉杖は健側上肢に持たせるが、時として健側上肢機能が低下していることで患側上肢に松葉杖を持たせることを余儀なくされる場合がある。今回の研究は、健側に片松葉杖を持ったときと、患側に片松葉杖を持ったときの歩行時筋活動量を比較しその特徴を調べ、早期にどの筋を優先的にトレーニングしなければならないかを検討することを目的とした。<BR>【対象・方法】健常成人女性15名(20~27歳、平均21.5歳)を対象とした。右側を患側と設定し、全荷重歩行(自由歩行)、左手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Lt松葉杖)、右手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Rt松葉杖)をメトロノームを用い、同じ歩行スピードで歩行させた。片松葉杖歩行の前に部分荷重2/3の練習を行わせ、十分歩行練習をさせた後に測定を行った。 筋電計(Mega electronics社製ME-3000P)を用い、右側大殿筋(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿四頭筋(Quad)、外側ハムストリングス(L-ham)、内側ハムストリングス(M-ham)、下腿三頭筋(Gastro)、前脛骨筋(TA)、股関節内転筋群(Add)を導出筋とし、電極を運動点中心に20mm幅で貼付した。立脚相における各筋活動量の積分値を求め、全荷重歩行を100%として正規化し、Lt松葉杖、Rt松葉杖における筋活動量について比較検討した。<BR>【結果】全荷重歩行とLt松葉杖歩行の比較において、Quad、L-ham、M-ham以外の筋で有意に筋活動量の低下がみられた。(p<0.01) Lt松葉杖歩行とRt松葉杖歩行の比較においては、G-max、G-med、Gastroの筋活動量が有意に増加し、全荷重歩行時以上の筋活動がみられた。(p<0.01) その他の筋において有意差はみられなかった。<BR>【考察】Pauwelsの式を応用すれば、患側に松葉杖を持ったときの中殿筋は、健側に持ったときよりも3倍以上の筋力が必要であると考えられる。しかし実際には、骨盤を患側に傾斜し体幹を側屈した、いわゆるDuchenne-Trendelenburg徴候様の歩行となり、重心の患側移動が起こることでいくらかは軽減される。今回の実験では、約1.5倍程度の増加であった。<BR>股関節伸展モーメントは、床反力による上体の崩れ防止と支持機能のために作用する。患側に松葉杖を持つことは、支持基底面を減少させ、バランスが崩れやすい状態となっている。これをコントロールするために、大殿筋の筋活動が増加したものと推察する。<BR> これらのことから患側に松葉杖を持った場合、立脚相後期において、より強い推進力と足関節制御機構が必要となり、下腿三頭筋の筋活動が増加したものと思われる。<BR> 以上の結果から、患側上肢に片松葉杖を持つことを余儀なくされる場合には、早期より中殿筋、大殿筋、下腿三頭筋を中心とした筋力トレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
佐々木 嘉光 井場木 祐治 植松 俊太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G1282-G1282, 2008

【目的】当院では診療参加型臨床実習(クリニカル・クラークシップ:クリクラ)を導入し他の2施設も同じ方式で臨床実習を行っている。今回、当院の臨床実習形態の効果を検討するため学生に対するアンケート調査を行ったので報告する。<BR>【十全式臨床実習の内容】患者担当制を含むクリクラを臨床実習指導体制として選択し当院を含む3施設で導入した。学生は指導者の監視下で評価・訓練を行い、担当チームの仕事を常に手伝う形で実習に参加した。患者担当制については症例報告を行う症例を1例とし、初期・最終評価レポート・発表用のレジュメ作成を課題とした。その他の担当症例は学生の能力に合わせて徐々に増やし、約2ヶ月の実習で4~5症例の担当を目標とした。<BR>【方法】静岡県内にある3年制専門学校の3年生60名を対象としアンケート調査を行った。患者担当制とクリクラについては理学療法白書(1997年)に記載してある内容を用いて説明した。アンケートは各期の臨床実習終了後(2ヶ月を3期実施、延べ180施設)に行い、実習の判定が不可であった13施設を除く167施設を調査対象とした。アンケートの内容は1.臨床実習の満足度、2.患者担当制の満足度、3.臨床体験の充実度、4.1日の平均見学時間、5.1日の平均睡眠時間、6.精神的苦痛について調査を実施した。調査対象の167施設のうち十全式臨床実習を行った14施設(実施群)と他の153施設(他施設群)について、各アンケート項目の比較と検討を行った。また、アンケートの実施にあたり調査の内容について口頭および紙面で説明し同意を得た。<BR>【結果】1.臨床実習の満足度について「満足」と回答したものは実施群64%、他施設群38%であった。2.患者担当制の満足度について「満足」と回答したものは実施群71%、他施設群38%であった。3.臨床体験の充実度について「充実していた」と回答したものは実施群64%、他施設群41%であった。4.1日の平均見学時間について「2時間以内」と回答したものは実施群86%、他施設群28%であった。5.1日の平均睡眠時間について「4時間以上」と回答したものは実施群86%、非実施群57%であった。6.精神的苦痛について「全く苦痛でない」「苦痛でない」と回答したものは実施群60%、非実施群45%であった。<BR>【考察】今回の調査では、十全式臨床実習の実施群において実習及び患者担当制の満足度が高く、臨床体験が充実し、見学時間が非常に少ない結果となった。また、睡眠時間が長く、精神的苦痛が少ない傾向を示した。今回の結果から、患者担当制を含むクリクラの有用性が示唆されたが、調査を行った養成校と当院が関連施設であるためアンケートの結果に影響を及ぼしている可能性があり、今後さらに実施施設数を増やして検討していく必要があると考えられる。また、睡眠時間の改善が今後の課題と考えており、患者担当制のレポート作成について実施内容を検討する必要があると考えられる。
著者
坂川 昌隆
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EdPF1055-EdPF1055, 2011

【目的】<BR>施設入所者において, 転倒・転落は骨折などといった重篤な障害を引き起こす要因となり, 身体機能の低下など日常生活に多大な影響を及ぼす. 転倒・転落に影響を及ぼす因子として身体機能や, 注意機能などといった高次脳機能などが挙げられている. しかしこれまで施設入所者を対象とし, 転倒・転落と身体機能との関係は検討されているものの, 注意機能などといった高次脳機能との検討はあまり行われていない. しかし施設入所者を対象に注意機能の検査を行う場合, 認知機能の低下をきたした利用者が多く, 机上の注意機能の検査が実施できないことが多く存在する. そこで, 本研究ではリハビリテーション時の行動から注意機能が評価できるBehavioral Assessment of Attentional Disturbance (以下, BAAD)によって注意機能を評価し, BAADの転倒・転落の評価指標としての予測妥当性を検討することを目的とする.<BR>【方法】<BR>対象は当介護老人保健施設に平成22年6月から平成22年9月の間に継続して入所されていた要介護高齢者124名(男性40名, 女性84名, 年齢85.5±7.6歳, 要介護度3.0±1.2). 方法として, まずBAADの評価を, 担当セラフィストにBAADの評価方法の説明後に行った. BAADの行動観察の内容は6項目(1. 活気がなくボーっとしている2. 訓練中じっとしていられない, 多動で落ち着きがない3. 訓練(動作)に集中できず, 容易に他のものに注意がそれる4. 動作のスピードが遅い5. 同じことを2回以上指摘, 同じ誤りを2回以上犯す6. 動作の安全性への配慮が不足,安全確保ができていないのに動作を開始する)からなる. この6項目についてそれぞれ出現頻度で重みづけした点数(0点:全く見られない~3点:常にみられる)を合計してBAADの点数とした. BAAD評価後, 転倒・転落の件数の前向きな調査を行った. 調査期間は平成22年度6月から平成22年度9月までの4ヶ月間とし, 事故報告書をもとに調査した. この転倒・転落件数をもとに対象者を, 4ヶ月間に1回以上転倒したもの(以下, 転倒群)と転倒しなかったもの(以下, 非転倒群)の2群に対象者を群分けした. 統計学的検討として, 転倒群と非転倒群の, BAADの成績の差をMann WhitneyのU検定を用いて分析した. <BR>【説明と同意】<BR>対象者の家族に対して, 入所時にデータを使用することを説明し, 同意をいただいている. <BR>【結果】<BR>全対象者のBAADの点数の中央値は7点であった. また調査期間中の転倒件数は68件であった. 全対象者124名のうち, 転倒群は37名(年齢86.7±7.2歳, 要介護度3.1±1.2), 非転倒群は87名(年齢85.3±7.6歳, 要介護度3.0±1.2)であった. BAADの点数の中央値は転倒群において10点, 非転倒群において5点であり, 転倒群と非転倒群のBAADの点数の間には有意な差が認められた(p<0.05). <BR>【考察】<BR>本研究の結果から, 施設入所者において, 注意機能が転倒・転落に関係することが明らかとなった. またリハビリテーション時の行動から注意機能を評価するBAADの, 転倒・転落への予測妥当性が明らかとなった. 本研究の対象は既存の介護老人保健施設の入所者である. しかし, 今後は新規の入所者を対象とした検討が必要と考える. また転倒・転落は注意機能などといった高次脳機能以外に, 身体機能などとの関係もあることが多数報告されている. このことから, BAADと注意機能以外の身体機能などといった他の要素と, 転倒との関連についての検討も必要と考える. <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究は施設入所者を対象として, 注意機能の評価法であるBAADの転倒・転落の予測妥当性を明らかとするものであり, 転倒・転落の要因を明らかとし, 転倒・転落を防止していくうえで意義のあることと考える.
著者
卜部 吉文 杉澤 秀博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101615-48101615, 2013

【はじめに】 2000年の介護保険制度の導入を契機に,在宅を基盤とした訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の充実が図られるようになった.しかし,少なくない利用者が訪問リハを長期に継続して利用するという実態がみられる.そのことは,利用者が固定化し新規利用者の受け入れが困難となることや,介護保険給付費の増加に繋がるなどの問題を生じさせかねない.この長期継続利用の要因についてはほとんど実証的な研究が行なわれていない.本研究の目的は,質的研究法を用いて,利用者の認識に基づき訪問リハの長期継続利用に至るプロセスを明らかにすることにある.【方法】 対象者は介護保険による訪問リハを1年以上継続利用しており,神経筋疾患などの進行性疾患や認知症患者以外の要支援または要介護1の高齢者9人を調査対象とした.調査は半構造的インタビューとし,インタビュー項目は,1.訪問リハを受けた目的,きっかけ,2.訪問リハを利用する前後における自分自身の変化,家族との関係の変化,3.現時点における訪問リハの利用意向であった.分析方法は,分析する現象のプロセスを質的にとらえることに優れている木下による修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ法(以下:M-GTA)とした.今回M-GTAを採用したのは,①訪問リハの長期継続利用には利用者とその家族,訪問リハ担当者の間の相互作用が影響していること,②訪問リハというヒューマンサービス領域に関連した研究領域であること,③訪問リハ利用者は多様な問題を抱えており,家族や訪問リハ担当者等との関わりは複雑でプロセス的な性格を持っていること,などの理由からである.【倫理的配慮】 研究対象の自由意思で調査への協力の承諾を書面にて得た.インタビューの中に含まれる個人情報は匿名化し,公表に際しては対象が特定できないようにした.本研究に伴う倫理的な事項は,桜美林大学倫理委員会の審査を受け承認された.【結果】 分析の結果(「 」は概念,〔 〕はサブカテゴリー,【 】はカテゴリー),以下の関係からなる3つのカテゴリーが生成された.訪問リハ開始前では,訪問リハに対する異なる2つの【取り組む姿勢】がみられた(「以前の身体に戻りたい想い」という積極的態度と「身体の回復の諦め」という消極的態度).利用に際しては,積極的な態度は〔訪問リハの特性を考え自分で利用を決定〕,消極的な態度は〔他者が訪問リハを希望し利用を決定〕という2つの異なる【訪問リハの選択理由】から利用に至っていた.〔他者が訪問リハを希望し利用を決定〕においては,「家族からの強い希望」「医療・福祉の専門家からの誘い」という2つの概念,〔訪問リハの特性を考え自分で利用を決定〕においては「自宅まで決まった時間に訪問してもらえる」「一対一のリハビリがしてもらえる」「長い時間リハビリを受けられる」「人目を気にしないで受けられる」「人との関わりを避けれる」という5つの概念が生成された.訪問リハ利用後においては,いずれの場合も【訪問リハへの評価と利用希望】(〔満足感からくる利用希望〕と〔不満足感からくる利用希望〕で構成)につながり,それが継続利用の動機となっていた.〔満足感からくる利用希望〕においては,「リハ専門家との個人的つながりの形成」「リハのきめ細かさの自覚」「現状維持・回復の喜び」の3つの概念,〔不満足感からくる利用希望〕においては「後退への不安」「自分の動作に自信が持てない」の2つの概念から生成された.【考察】 1)達成目標を明確していないことが長期利用の要因とされているが,本研究においては,機能回復以外の理由で利用者は訪問リハを選択し,利用を継続している場合も少なくないことが明らかにされた.すなわち,機能回復という点のみでの目標を明確にしたとしても,長期利用を中止する可能性が低いことが示唆された.2)利用者や家族が利用の中止を了承しないことも要因として指摘されているが,それは一般的な指摘にとどまっている.本研究では,中止を了承しないのは,個人の希望にあったサービスを受けられる,自宅で受けることができるため人目を気にしたり,他の利用者のことを気にしたりする必要がない,またリハ専門家との個人的つながりが形成され,リハのきめ細かさを自覚している,といった要因が働いていることが示唆された.3)他サービス機関との連携不足も,長期利用の要因として指摘されている.しかし,上記で言及した長期利用の要因を考えたならば,連携を強めることで対応できる部分が少ないことが示唆されている.【理学療法学研究としての意義】 訪問リハを提供される利用者側の認知に着目し,長期継続利用のプロセスや背景を明確にすることは,限られた資源である訪問リハを効率的に活用するための介入策を考える際の一助となる.
著者
西上 智彦 榎 勇人 中尾 聡志 芥川 知彰 石田 健司 谷 俊一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0866-C0866, 2007

【はじめに】内側型変形性膝関節症(膝OA)における歩行時lateral thrustは膝OA発症の原因・結果ともに関与が認められることから,lateral thrustの改善は膝OAの進行予防に寄与すると考えられる.膝OAに対して臨床で大腿四頭筋を標的とした運動療法が実施されているが,lateral thrustに対する大腿四頭筋の影響は明らかでない.本研究の目的はlateral thrustと大腿四頭筋筋力及び歩行時の内側広筋(VM),外側広筋(VL)の筋活動動態との関係を明らかにし,大腿四頭筋に対する運動療法を再考することである.<BR>【対象】膝OAと診断された15名(平均年齢69.6±7.5歳)とした.病期はKellgren & Lawrenceの分類にてGrade1が4名,Grade2が3名,Grade3が5名,Grade4が3名であった.また,大腿脛骨角(FTA)は178.4±4.0°,膝関節伸展角度は-3.9±5.2°であった.<BR>【方法】(1)hand held dynamometerを用いて,最大等尺性膝伸展筋力を測定し,体重で除した値を大腿四頭筋筋力として採用した.(2)測定は自由歩行とし,連続する3歩行周期を解析対象とした.3軸加速度計を腓骨頭直下,足関節外果直上に貼付し,加速度波形を導出した.まず,足関節外果部の鉛直成分よりHeel contact(HC)を同定し,1歩行周期を100%とした.解析はlateral thrustの指標であるHCから側方成分のピーク値に達するまでの時間(ピーク時間),ピーク値を含む加速度波形の峰数とした.同時に,評価筋をVM,VLとし,歩行時における表面筋電図をそれぞれ導出した.得られた筋電波形より遊脚期における筋活動開始時間(Onset time),立脚期における筋活動終了時間(Offset time)を求めた.また,筋活動開始からHC(Onset-HC),筋活動開始から筋活動終了(Onset-Offset)までの積分値(IEMG)を求めた.それぞれのIEMGに時間正規化・振幅正規化を行い,%IEMGを求めた.<BR>【統計処理】ピーク時間,峰数を目的変数とし,FTA,膝関節伸展角度,大腿四頭筋筋力及びVM,VLのOnset time,Offset time,%IEMG(Onset-HC),%IEMG(Onset-Offset)を説明変数として,Stepwise法による重回帰分析を行った.なお,有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】重回帰分析によりピーク時間に影響を与える因子は認めなかった.峰数に影響を与える因子はVMのOnset timeで標準化係数βは0.621であった(R<SUP>*2</SUP>=0.338,p<0.05). <BR>【考察】lateral thrustに関与する因子として,大腿四頭筋筋力ではなくVMのOnset timeが認められた.本研究結果より,遊脚期におけるVMのOnset timeの遅延を改善させる運動療法の必要性が示唆された.<BR>
著者
勝井 洋 町 貴仁 長面川 友也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1252-CbPI1252, 2011

【目的】<BR>頚椎深層屈筋群の抑制と頚部痛との関連性が、Boydら(2001)により報告されている。頸椎深層屈筋群の評価は、Jullらによって報告されている頭頚部屈曲テストがあるが、この評価を行うためにはStabilizer(米国Chattanooga社製)というプレッシャーバイオフィードバック器具が必要となる。我々は器具を使用しない頸椎深層屈筋群評価法を開発することを目的に、胸椎の代償を制御しながら頚椎の最大伸展から正中位への屈曲運動を評価する、頚椎伸展―屈曲テストを考案した。我々が行った先行研究(2010:ACPT)では、頚椎伸展―屈曲テストで正中位に戻すことが不可能な健常女性12名に3週間の頚椎深層屈筋トレーニングを行った結果6名が可能となり、頚椎深層屈筋群との関連があると考えた。しかし頸椎運動は頭部重量とそれを支える頚椎により行われる運動であり、頭部重量や頸部長など骨格的な影響を検討する必要があると考えた。作田ら(1990)は頭重負荷指数評価(頭部周径R、頚部周径r、頚部長Lとし公式index=R<SUP>3</SUP>・L/r<SUP>2</SUP>/1000に当てはめる)を開発した。槻本ら(2006)の研究では頭重負荷指数において頭痛あり・なしの群間,また頚部痛あり・なしの群間で有意差を認め身体的特徴が頭痛・頚部痛の原因となりうると示唆している。頭部重量とそれを支える頚椎の関係性を考える上でこの頭重負荷指数は有用であると考えた。そこで本研究の目的は頸椎伸展―屈曲テストの結果と頭重負荷指数との関連を調べ、胸椎代償運動を除いた頚椎運動と頭頚部形態の影響を検討することとした。<BR>【方法】<BR>対象者は頚椎疾患の既往の無い健常女性で、30名(平均年齢32±10歳)であった。頚椎伸展―屈曲テストは、検者による肩甲骨内転強制により胸椎屈曲運動を制限しながら、被験者に頚椎を最大伸展位から屈曲させ正中位に戻せるかを評価した。頭頚部形態測定肢位は座位で頚椎屈曲20度位とした。各形態項目は、頭部周径は眉間の位置、頚部長は大後頭隆起から第7頸椎間、頚部周径は第7頸椎を指標に計測した。測定はすべて同一検者が行なった。頚椎伸展―屈曲テストの結果から可能群・不可能群に分け頭重負荷指数を群間比較した。統計にはt検定を用い、有意水準を危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>この研究は対象者にヘルシンキ宣言に基づき説明し、文書にて承諾を受けた上で行った。<BR>【結果】<BR>頚椎伸展―屈曲テストの結果、正中位まで屈曲可能だった群(可能群)は17名(平均年齢35±11歳)、不可能だった群(不可能群)は13名(平均年齢27±8歳)であった。頭重負荷指数の平均は可能群1.6±0.3、不可能群1.7±0.3で有意差はみられなかった。<BR>【考察】<BR>今回の結果では頚椎伸展―屈曲テストによる可能・不可能の群間に頭重負荷指数の差はみられず、頭頚部形態の与える影響は無かったと考えられた。計測した形態測定項目のうち頭部周径、頚部長は骨形態であり理学療法アプローチで変化させることは出来ない要素である。これらと頚椎伸展―屈曲テストに関係がみられなかったことで、今後理学療法アプローチ可能な筋力や関節可動域、姿勢アライメント等の関連を中心に検討することが出来ると考えた。頚椎伸展位からの屈曲運動は、頚椎深層屈筋群と胸鎖乳突筋の活動がみられたとFallaらにより報告されている。Vasavada(1998)らは、頸椎伸展につれて胸鎖乳突筋と前斜角筋のモーメントアームは短縮し伸展最終域では正中位に比べ25%以下となり、頭頚部に対する屈曲モーメントは働かないと述べている。今回用いた頚椎伸展―屈曲テストでは、頸椎最大伸展位からの屈曲では頸椎深部屈筋群の作用、軽度伸展位からの屈曲では胸鎖乳突筋と頚椎深層屈筋群の作用が重要となると考えた。今後はさらに頚椎伸展―屈曲テストの頸椎伸展時の動きの評価や、各頸椎屈筋の個別の作用の評価、姿勢アライメントとの関連についても検討したいと考えた。現在健常者において研究を行っているが、健常者においても正中位まで屈曲不可能なケースがあることは興味深く、むちうち損傷等の傷害予防の視点も含め今後臨床応用を検討したいと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>頸椎のアプローチにおいて重要とされている頸椎深部屈筋群の簡便な評価の開発は臨床において有益と考える。頚椎伸展―屈曲テストを利用し健常者においても差がみられたことは頸椎疾患の予防の為の評価としても利用できる可能性があると考える。
著者
小西 勇亮
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3279-B3P3279, 2009

【はじめに】運動を制御するためには,環境に対する空間座標系の情報のみならず自己の身体との関係を計算する空間座標の情報が不可欠である(乾 2001).今回,自己中心座標の形成により姿勢制御可能となった症例を担当する機会を得たのでここに報告する.尚,発表に際し症例並びに親族に同意を得ている.<BR>【症例紹介】33歳男性,平成20年5月1日事故による外傷性脳挫傷.広範な両前大脳動脈出血により両前頭葉・右頭頂葉領域の損傷が認められた.V-Pシャント術施行.6月3日より当院で治療開始.8月6日の評価にて,Brunnstrom Recovery Stage左上肢3左下肢4左手指4.端座位では体幹屈曲0°以上で保持ができず,頸部・体幹伸展筋群,腹筋群の筋緊張の亢進がみられ,右上肢の支持がないと後方への転倒傾向があった.自己身体の傾きに関する認識は良好も,どの程度傾いたかといった距離に関する認識が困難であり,正中位であるにも関わらず「前に倒れる」といった言語記述がみられた.開眼時と比較すると閉眼時では頸部・体幹伸展筋群,腹筋群の過度な筋緊張が軽減し,後方への転倒傾向も減少した.<BR>【治療仮説・経過】自己中心的な空間座標系における身体図式の形成には頭頂連合野が関与している(Sakata 1992.1995).この形成のためには体性感覚情報と背側経路からの視覚情報の統合が重要となる(森岡 2005).本症例においても,視覚・体性感覚の統合に問題をきたし,自己中心的な空間座標の変質により,端座位保持が困難だと考えられた.よって8月15日より体幹の運動に伴う対象物との距離の認識課題を実施した.<BR>【結果】対象物と頭部の距離の認識が可能となり,「前」「後ろ」といった言語記述から「遠い」「近い」といった言語記述に変化がみられた.端座位での頸部・体幹伸展筋群,腹筋群の過度な筋緊張は軽減し,体幹屈曲10°での保持が可能となった.約1週間経過後,ポータブルトイレでの座位保持獲得といったADLの向上も認められた.<BR>【考察】体性感覚情報と視覚情報の統合により,身体の運動方向に対して対象物との距離が変化するといった自己と対象物の距離を認識する事ができ,自己中心的な空間の処理が可能となった.その為,頸部と体幹の位置が定位出来るようになり,端座位保持に至ったと考えられた.姿勢制御に関与する自己中心座標の形成には,視覚情報と体性感覚の統合が重要であると考えられる.