著者
南角 学 西川 徹 秋山 治彦 柿木 良介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100545-48100545, 2013

【目的】人工股関節置換術(以下,THA)術後早期の理学療法では,術後の合併症の予防に取り組みながら,より効率的に股関節機能や運動機能の向上に図ることが重要となる.近年,股関節の深部外旋筋群は股関節の安定性に関与することが報告されており,股関節外旋筋に対するトレーニングが注目されている.しかし,股関節外旋筋のトレーニングがTHA術後早期の股関節外転筋および歩行能力の回復に与える影響を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,股関節外旋筋の筋力トレーニングがTHA術後早期における股関節機能および歩行能力の向上に有用であるかどうかを検討することである.【方法】対象は片側変形性股関節症で初回THAを施行された28 名とした.さらに,当院のプロトコール通りに術後の理学療法を行った14 名(以下,Control群)と,通常の理学療法に加えて股関節外旋筋に対するトレーニングを実施した14 名(以下,Ex群)に無作為に分類した.股関節外旋筋のトレーニングは,腹臥位で股関節屈曲0°・膝関節屈曲90°での股関節外旋運動,仰臥位と側臥位での股関節軽度屈曲位からの股関節外旋運動とし,術後1 週間は自動介助,術後2 週目からは自動運動,術後3 〜4 週間は低負荷でのトレーニングを行った.評価時期は術前と術後4 週とし,測定項目は術側の股関節痛,術側の股関節屈曲と外転の関節可動域,術側の下肢筋力(股関節外転筋力,股関節外旋筋力,膝関節伸展筋力),Timed up and go test(以下,TUG)とした.股関節痛は,日本整形外科学会の股関節判定基準の股関節痛の点数を用いた.股関節外転筋力と股関節外旋筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,股関節外転筋と膝関節伸展筋の筋力値はトルク体重比(Nm/kg),股関節外旋筋力は体重比(N/kg)にて算出した.統計処理は,各測定項目の術前と術後の比較には,対応のあるt検定とMann-WhitneyのU検定を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果】年齢(Ex群60.5±6.4歳,Control群60.8±7.5歳)と身体特性(Ex群:身長154.8±5.5cm,体重55.9±6.4kg,Control群:身長153.7 ± 9.4cm,体重52.2 ± 9.9kg)および術前の運動機能に関しては,両群間で有意差を認めなかった.Ex群の股関節外転筋力は術前0.63 ± 0.15 Nm/kg,術後0.72 ± 0.12 Nm/kgで術後に有意に高い値を示した.一方, Control群の股関節外転筋力は,術前0.60 ± 0.14 Nm/kg,術後0.58 ± 0.14 Nm/kgであり,術前と術後で有意差を認めなかった.股関節外旋筋力については,Ex群が術前1.05 ± 0.27 N/kg,術後1.05 ± 0.25 N/kgで有意差を認めなかったのに対して, Control群では術前0.97 ± 0.35 N/kgよりも術後0.78 ± 0.39 N/kgに有意に低下していた.また,TUGに関しては,Ex群のTUGは術前8.50 ± 1.67 秒,術後7.62 ± 1.08 秒で術前と比較して術後に有意に低い値を示したが,Control群で術前8.25 ± 2.07 秒,術後8.61 ± 1.46 秒で術前と術後で有意差を認めなかった.股関節痛および股関節屈曲と外転の関節可動域は,両群ともに術前と比較して術後で有意に改善していた.【考察】股関節深部外旋筋は,臼蓋に対して大腿骨頭を求心位に保持することから股関節の安定性に関与すると考えられている.本研究においては,股関節外旋筋に対するトレーニングを実施したことにより,臼蓋と大腿骨頭の安定性が得られ,より効率に股関節外転筋群による筋力発揮が可能となったために股関節外転筋力が術前よりも14.3%向上したと考えられた.さらに,股関節外旋筋のトレーニングを行うことで股関節外転筋力が術前よりも向上したことから,THA術後早期での歩行能力も同時に改善したと考えられた.今後の課題として,THA術後早期の運動機能の向上が術後中期および長期的な運動機能の回復過程に及ぼす影響を検討していく必要性があると考えられた.【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,THA術後早期における運動機能の向上に対して股関節外旋筋のトレーニングが有用であることが示され,理学療法研究として意義があると考えられる.
著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1060-Ab1060, 2012

【はじめに、目的】 アロマテラピーは芳香療法とも呼ばれ、代替療法として取り入れられるようになってきた。アロマテラピーは、リラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマテラピーが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。本研究では鎮静作用や、抗けいれん作用があると言われているラベンダーの刺激が筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて、上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響を検討した。【方法】 対象は嗅覚に障害がなく、アロマの経験のない右利きの健常者10名(男性7名、女性3名)、平均年齢25.9±6.0歳とした。方法は以下のとおり行った。気温24.4±0.8℃と相対湿度64.3±7.1%RHの室内で、被験者を背臥位で酸素マスク(コネクターをはずしマスクのみの状態)を装着し安静をとらせた。その後、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼とした。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3滴、滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。香りの強度が70.7±7.7のビニール袋をマスクに装着し2分間自然呼吸をおこない、F波測定を吸入開始時、吸入1分後、ビニール袋をはずし吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、kolmogorov-Smirnov検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討し、安静時試行と各条件下の比較をwilcoxonの符号付順位検定でおこなった。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 出現頻度においては、安静時と比較して吸入開始時、吸入1分後ともに増加傾向を示した。安静時と比較して吸入10分後は有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加した(p<0.05)。吸入終了直後からは安静時と比較して低下する傾向にあった。立ち上がり潜時は、ラベンダー吸入前後での変化を認めなかった。【考察】 本研究より、ラベンダー吸入中は出現頻度、振幅F/M比が促通され、吸入後は抑制された。出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性の指標といわれている。そのため、本研究結果から、吸入開始時、吸入1分後には脊髄神経機能の興奮性が増大し、吸入後には抑制されたと考えることができる。吸入開始時、吸入1分後の脊髄神経機能の興奮性増大に関しては以下のように考えている。小長井らによると、ラベンダーの香りの存在下では事象関連電位P300の振幅がコントロール群と比較して増加したとの報告されている。事象関連電位P300は認知文脈更新の過程を反映するとされており、振幅の増大は課題の遂行能力が高いことを示している。感覚が入力され、脳内で知覚、認知、判断され、行動を実行するという能力が高いということであると考える。行動を実行するには運動の準備状態が保たれていることが推測され、脊髄神経機能の興奮性が高まっていることが考えられた。この報告と本研究結果から、ラベンダーの吸入時には大脳レベルの興奮性の増加が促され、その結果、脊髄神経機能の興奮性が増大したと考えることができた。脊髄神経機能の興奮性が吸入後から抑制されたことについては、ラベンダーが体性感覚誘発電位(SEP)に及ぼす影響を検討した研究で、ラベンダー刺激中から刺激後に長潜時成分の振幅が持続的に低下したと報告されている。これは、ラベンダーの匂い刺激が嗅覚系を介して脳幹部、視床、大脳辺縁系および大脳にそれぞれ作用し、GABA系を介して大脳を抑制したものと考えられた。今回の被験者は、アロマ未経験者を対象にしたが、アロマ経験者での結果と異なることも想定できる。また、アロマの種類によっても、効果の違いがあることが考えられる。今後、研究を行うことで、運動療法に適したアロマを取り入れ、新しい形の理学療法を展開したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 アロマ未経験者を対象とした筋緊張に対するラベンダーを用いたアプローチは以下のように考えることができる。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。
著者
長谷場 純仁 中尾 周平 池田 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O2175-D3O2175, 2010

【目的】<BR> 近年、心不全や呼吸器疾患の患者に対するEMS (electrical muscle stimulation)による効果が海外を中心に報告されており、これらの疾患で積極的な運動が困難な症例に対してEMSが理学療法の選択肢のひとつとなると予測される。従来、EMSとして低周波を両下肢の主要な筋に対し施行する場合、装着する導子の数も多く、場合によっては複数の機器が必要とされることもあり、周波数や強度の調整も煩雑であった。最近、ポータブルで操作の容易な低周波治療器(ホーマーイオン研究所製 AUTO Tens PRO)と両下肢の主要筋に同時に通電できる、取り扱いも簡便な下肢専用導子が臨床応用された。そこで今回我々は、これらを用い低周波の短期間の施行における筋力増強効果と両下肢の同時刺激による血圧や心拍数などの循環動態への影響を調査した。<BR>【方法】<BR>(実験1) 筋力増強効果について<BR> 対象は健常成人8名(男性7名、女性1名、年齢28.3±4.2歳:平均±標準偏差)。低周波を被験者の左下肢の前脛骨筋(以下TA)に施行した。機器の使用方法は説明書に沿って導子を装着し、部位とモード設定を行えば簡単に施行可能なTHERAPY PATTERN SELLECTIONで部位は下肢、モードは廃用を選択した。これにより施行時間15分と周波数(3-20Hz)は自動で設定された。刺激の強度は被験者が耐えうる最大の強さとして被験者自身が調整し、施行頻度と期間は1日1回、週4日以上の連続3週間とした。TAの筋力測定はBIODEX SYSTEM 3を用い、被験者は仰臥位にて足関節の背屈0度で等尺性収縮による足背屈を5回行い、その最大トルク値の平均から体重比(以下トルク体重比:単位N・m/kg)を求めた。測定は左右両側を実験開始日とその3週間後に行い、それぞれの値について対応のあるt検定を行った(p<0.05 )。<BR>(実験2) 循環動態への影響について<BR> 対象は健常成人13名(男性11名、女性2名、年齢26.1±4.4歳)。低周波は下肢専用導子を使用し、両下肢の大腿四頭筋、ハムストリングス、TA、下腿三等筋に同時施行することとし、機器の設定は実験1と同様で、刺激の強度も被験者が耐えうる最大の強さとした。循環動態の指標として血圧、心拍数、SpO<SUB>2</SUB>、不整脈の有無を施行前、施行開始5分後、同10分後、終了直後に電子血圧計、ECGモニター、パルスオキシメータにより測定した。それぞれの値の比較についてscheffe法による多重比較を行った(p<0.05 )。また、主観的運動強度についてBorg scaleを施行前後に問診し、翌日以降の筋疲労や筋痛についても問診を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には実験に関する目的、方法、リスクについて十分に説明し同意を得た上で実験を行った。<BR>【結果】<BR>(実験1)低周波を3週間施行前後のトルク体重比は、低周波未実施の右TAで施行前0.27±0.09、施行後は0.32±0.12となった(p>0.05)。低周波を施行した左TAは施行前が0.26±0.12で施行後が0.36±0.10となり有意差が認められた(p<0.01)。<BR>(実験2) 両下肢への低周波の同時施行における血圧、心拍数、SpO<SUB>2</SUB>はいずれも施行前、施行開始5分後、同10分後、終了直後において有意差は認められなかった(p>0.05)。Borg scaleは施行後に4が3名、3が1名、2が2名、1が3名、0が4名であった。翌日の問診では10名について筋痛が生じ、その多くが下腿三頭筋に生じていた。<BR>【考察】<BR> 実験1より同機器の低周波によるEMSによって3週間という期間でも筋力増強効果があることが示唆された。しかし、未実施の右TAでも有意差は認められないもののトルク体重比は大きくなっており、これは、他の筋力増強運動に関する多くの研究よっても未施行側も増強されることが認められていることからそれらと同様の結果が示されたと考えられる。また、実験2の結果から、両下肢への主要筋への同時刺激を行っても全身的な循環動態には影響しないことが示された。これは低周波による筋収縮の特性として1回の収縮が極めて短時間であることが理由のひとつであると考える。Borg scaleについは0から4とバラツキが認められたが、刺激の強度について被験者が耐えうる最大の強さとしたことで筋の疲労感に主観的な差が生じたのではないかと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究から低周波によるEMSは全身的な循環動態に影響することなく両下肢筋に施行でき、かつ筋力増強効果が示されたことから、重度の心不全や呼吸器疾患の患者に対する理学療法の選択肢となりうる。さらに効率的に行うための刺激の強度、回数などについて調査する必要がある。<BR><BR>
著者
田鹿 慎二 島内 卓
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100201-48100201, 2013

【目的】体幹の動的安定性を保つ為には、運動の方向や外的な荷重に対処する表層筋と、個々の脊椎間の安定性に関与する深層筋が、適切なタイミングおよび適切な活動量で機能しなければならない。Kaderらは腰痛患者の80%に多裂筋の萎縮があることをMRIにて報告し、多裂筋の機能不全と腰痛には有意な相関があることを報告している。そこで今回、慢性腰痛症患者が外的な荷重に対処した際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用いて検証した。【方法】現在著名な神経症状を有さず、3ヶ月以上腰痛が継続している慢性腰痛症患者10名(男性10名、平均年齢36.8±9.2歳)と腰痛を有さない健常群12名(男性11名女性1名、平均年齢26.7±2.2歳)を対象とした。尚、事前に研究の目的と方法を説明し同意を得た上で測定を実施した。測定肢位は被験者を安楽な立位姿勢に保たせ、次に肩関節屈曲30°、外転0°、肘関節屈曲70°位にて前腕を90°回外させた状態と定めた。被験筋は多裂筋(L5/S1棘突起外側)および脊柱起立筋(L1棘突起外側)とした。また、荷重負荷の瞬間がデータ上に記録されるように圧力センサー(FRS402)を被験者の両手掌面の第2中手骨頭部に固定した。その後重さ3Kgのメディシンボールを被験者の手掌より45cm高位より落下させ、両手にて捕球した際の多裂筋、脊柱起立筋の活動量と反応開始時間を計測した。尚圧力センサーからのアナログ信号をサンプリング周波数1KHzにてパーソナルコンピューターに取り込み解析を行った。計測は5回行い、その平均値を代表値として算出し測定には表面筋電図(Megawin バイオモニターME6000)を用いて動作により得られたデータを全波整流した後、正規化(100%MVC)し各筋のピークトルク値を求めた。また反応開始時間については、圧力センサーが反応した時点を基準の0秒とし、安静立位時における基線の最大振幅±2SDを超えた時点を反応開始時間として算出し比較検討を行った。統計処理には対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】メディシンボールを捕球した直後の脊柱起立筋の筋活動は腰痛群85.6%に対し健常群68.1%と腰痛群が有意に高い値を示し(p<0.05)多裂筋の筋活動は腰痛群49.4%に対し健常群50.3%と有意差は認められなかった。外的荷重に対する多裂筋の反応開始時間に関しては、腰痛群がボールを捕球し圧力センサーが反応する0.19秒前に先行して活動するのに対し、健常群は0.14秒前に先行して活動する結果となり、2群間に有意差は認められなかった。【考察】慢性腰痛症患者に外乱負荷や外的荷重が生じた際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用い客観的に評価し、機能不全の原因を明確にする目的で今回の研究を行った。しかし多裂筋において、負荷発生時の反応開始時間の差は両群間で認められず、Newmanらの慢性腰痛症患者は多裂筋の萎縮により、活動開始時間が遅延し機能不全が生じるとする報告とは異なる結果となった。一方で慢性腰痛症患者の脊柱起立筋の活動量が健常群よりも高いことが確認された。この結果について、両群間において多裂筋のピークトルク値に有意差は認められないものの、慢性腰痛症患者の多裂筋にはMRIにて筋萎縮が認められるとした報告から、外的荷重が発生した際に生じる体幹の前方モーメントに抗する多裂筋の収縮力では腰部の安定化が不十分となり、代償として脊柱起立筋の筋活動が過剰になったと推測した。今回の結果から腰痛が慢性化する背景には、筋バランスの不均整による脊柱起立筋の慢性的な疲労の蓄積が強く関与していることが考えられる。
著者
小玉 美津子 篠宮 光子 島田 蕗 鶴見 隆正
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101205-48101205, 2013

【はじめに、目的】神奈川県立麻生養護学校では、自立活動教諭として2008年6月より、理学療法士(以下PT) 、作業療法士が配属となった。業務内容は主に校内、校外における児童・生徒の実態把握や、教科・領域(自立活動)に関するアドバイス、ケース会の開催や教員、保護者からの相談対応、研修会講師などである。PTへの相談内容としては、呼吸介助、排痰介助方法、体の動かし方、姿勢、ポジショニング、歩行・階段の援助方法、運動量の調整に関する相談が多い。学校生活では車椅子で過ごす時間が多い中、目的に応じて、色々な姿勢を取り入れている。本発表では、本校2012年に在籍している肢体不自由教育部門の児童生徒の各ポジショニングの実態を紹介するとともに、PTが介入後の変化について考察を加え報告する。【方法】肢体不自由教育部門全生徒のうち大島の分類区分1,2の生徒30名のうち、日中活動のそれぞれの姿勢をポジション別に、1.医療ケアの有無、2.変形の有無、3.異常呼吸の有無との関連性で、PTが介入することで実施可能になったポジションをまとめた。今までとれなかった姿勢をとる事で、生活上何が変わったか、担任がどのように実感できたか振り返りを行った。【倫理的配慮、説明と同意】本発表にあたり、学校長ならびに神奈川県教育委員会で発表主旨、内容について承諾を得た。【結果】小学部11名のうち胃ろうを含む児童6名中3名、中学部12名のうち胃ろうを含む生徒5名中3名PTが介入することで腹臥位が可能になった。高等部は7名のうち胃ろう、気管切開を含む生徒がいなく、バルーンなどの訓練具を使用すれば、全員腹臥位が可能だった。又担任の聞き取りからは、腹臥位をとることにより、排痰姿勢がとれ呼吸が楽そうだった。背中側への心地よい刺激を受けいれる機会を得た。担任だけでなくPTが介入することによって、安心して腹臥位をとることが出来たなどの意見を聞くことが出来た。【考察】学校生活で色々な姿勢がとれるように指導することも多いが、気管切開や胃ろうなどの医療ケアの関係、成長期における変形・拘縮の進行等の影響で困難なことも多い。学校に配置されたPTとして、校内で教員が安心して実施できる方法を提示することは、児童・生徒の主体的な学習を考えた場合、その意義は大きいと考える。国際生活機能分類(ICF)では、「できる活動=能力」と「している活動=実行状況」に分けて考えることが重要であると明記されている。特別支援学校においても、PTがハンドリングや補助具を工夫することで「できる」ことを教員の誰でもが日常的に「できる」ようにすることが大切になる。「できる活動は」すぐには「している活動」となりにくいが、特別支援学校内にPTが配置されたことにより、日常的に教員と協働し、学校生活の中で関わることで、「している活動」に展開していくことが出来る。対象児童・生徒30名中19名が呼吸状態に何らかの課題がある中で、家庭では困難な姿勢であっても、学校生活上、日常的にとれることは、特別支援教育のチーム力として評価したい。【理学療法学研究としての意義】2007年特別支援教育のための教育法の改正や2009年特別支援学校の学習指導要領の改訂により、教育現場においても専門家としてPTが関与することが多くなっている。障害の重度・重複傾向の中、医療、福祉側でのPTが関わる限界もあり、一人ひとりの子どもに理学療法を長期展開することは難しい。むしろ生活支援という視点で子ども達を取り巻く支援者に適切な関わりを理解してもらうことも重要であり、その意味からも、特別支援学校内でPTが配置された意義は大きい。
著者
佐久間 敏 宮下 有紀子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0768-A0768, 2004

【はじめに】第38回学術大会にて,片麻痺患者の立ち上がり動作は,動作前の坐位姿勢における坐骨と軟部組織のアライメントが重要であるという報告をした。坐骨が軟部組織上を麻痺側へスライドしている時は立ち上がりにくく,健側へスライドしている時は立ち上がりやすいという結果を得た。そこで今回は,坐骨が麻痺側へスライドしている片麻痺患者(以下崩れ群)と健側へスライドしている片麻痺患者(以下修正群)の比較を,立ち上がり動作時の下肢機能に着目し,床反力データを分析したので報告する。<BR>【対象】片麻痺患者16名。端坐位保持が可能。健側膝伸展筋力MMT4以上。麻痺側下肢Br.Stage2~4。また痴呆を伴わない測定内容が理解可能なものを選出した。<BR>【方法】坐面にはガラス板を用い,ガラス越しに支持面の状態測定を行った。そして坐骨と軟部組織のアライメントを第38回学術大会にて我々が報告した方法により計測し,崩れ群と修正群に分類した。次に足部の位置を中足骨が膝蓋骨の真下になる位置かつ肩幅位置になるようにセットし,健側前方に位置させた横手すりで,立ち上がり動作を行わせた。測定機器は床反力計3枚(アニマ社製MG-100)を用い,サンプリング周波数60Hzで,右下肢・左下肢・坐面の情報が得られるようにセットした。分析するパラメータは,殿部から足部への重心移動の制動機能に着目するため,離殿する瞬間の床反力Fy(前後方向)成分のデータを抽出した。そして崩れ群と修正群の2群間において,Fyの平均値の差をt検定によって比較した。<BR>【結果】崩れ群と修正群の分類結果は,崩れ群が6名,修正群が10名だった。立ち上がり動作時の床反力Fy成分のデータは以下のような結果となった。健側下肢のFy成分は,崩れ群の平均値が62.4N(SD=10.1),修正群の平均値が50.3N(SD=25.6)で有意差は得られなかった。一方,麻痺側下肢のFy成分は,崩れ群の平均値が23.9N(SD=11.4),修正群の平均値が0.17N(SD=11.3)で,崩れ群と修正群の間に有意差が認められた(p<0.005)。<BR>【考察】健側下肢は,崩れ群・修正群ともに床反力が前方へ傾き,重心を足部へ移動させるための推進機能として働く。麻痺側下肢は,修正群では床反力が真上を向き,麻痺側半身を支える機能として働く。すなわち坐骨を健側へスライドさせている姿勢は,麻痺側下肢を支持機能として使える状態にある。一方,崩れ群の麻痺側下肢は床反力が前方へ傾く。しかしこの現象は,麻痺の機能低下を考慮すると,健側下肢が演じている推進機能とは異なり,前のめりにさせる力と解釈すべきである。すなわち坐骨が麻痺側へスライドしてしまっている姿勢は,麻痺側下肢を支持機能として使えない状態にある。以上のことから片麻痺患者に対する坐骨と軟部組織のアライメントの調整は,麻痺側下肢を「使えない足」から「支持するための足」に機能回復させるという結果を得るための重要な過程であると考える。
著者
大西 珠枝 熊井 初穂 大矢 寧 秋山 純一 中嶋 正明 祢屋 俊昭
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.F0625-F0625, 2005

【はじめに】<BR>筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy:MyD)患者は疼痛を主訴とする者が多い.そして当院のMyD患者の約半数は腰痛を訴える.当院では,疼痛に対する治療手段として徒手療法(筋膜リリース)を適用することが多い.徒手療法はMyD患者の腰痛に対して効果的であり疼痛を緩和する.しかし,その効果の持続性に乏しくその日のうちに疼痛が再発しADLに支障をきたす症例がほとんどである.一方,我々はこれまで人工炭酸泉を物理療法領域で活用すべく研究を進めてきた.人工炭酸泉浴は浴水に溶解する二酸化炭素の経皮侵入により血管拡張や酸素飽和度の上昇をもたらす.第38回日本理学療法学術大会において人工炭酸泉浴は浸漬部だけでなく非浸漬部においても酸素飽和度を上昇させる等の効果を有することを報告した.今回,腰痛を訴えるMyD患者に対し人工炭酸泉下肢局所浴を適用し,その腰痛緩和効果を評価した.対照としてホットパック,徒手療法を実施し,これらの療法の腰痛緩和効果を評価した.<BR><BR>【対象と方法】<BR>対象は,腰痛を訴える運動機能障害度:stage4のMyD患者3名(53歳男性,48歳女性,61歳女性)とした.痛みの程度はvisual analogue scale (VAS)を指標に評価した.その他,視診・触診を行った.評価は,治療直前・治療直後・夜の計3回行い,疼痛の日内変動,効果の持続性についても観察した.各療法は1回20分間,5日間ずつ施行した.<BR><BR>【結果】<BR>VASは治療直前・治療直後・夜の順にホットパックでは5.7±2.1,5.3±0.6,5.0±0.0,徒手療法では6.0±1.0,5.0±1.0,5.7±1.5,人工炭酸泉下肢局所浴では6.7±1.2,3.0±0.0,3.3±0.6となった.ホットパックは腰痛緩和効果を有するものの「病棟に帰る間までに冷めて,腰が痛くなる」などの感想が聞かれ持続性は低かった.徒手療法は腰部の皮膚の可動性が増した.人工炭酸泉下肢局所浴は他の療法に比べより高い腰痛緩和効果が認められた.そして「足のほうから温かく よく眠れた」,「長くぽかぽかする」などの感想が聞かれ 治療効果の持続性に優れた.<BR><BR>【考察】<BR>本実験から人工炭酸泉浴下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対してその有効性を持つことが示唆された.その機序として全身的な自律神経系の緊張緩和,血流促進による物質交換の正常化を伴う浮腫の吸収,および疼痛性物質の分解による痛覚消失が考えられる.徒手療法(筋膜リリース)はMyD患者の腰痛に対して効果的であるが持続性が低い.しかしセラピストから治療を受けたと実感でき満足度が高い.人工炭酸泉下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対して効果的で持続性が高い.MyD患者の腰痛に対する理学療法として徒手療法に加え人工炭酸泉下肢局所浴を併用すればさらに効果的であると考えられ,これらを併用した際の効果は今後の課題である.
著者
中谷 知生 田口 潤智 笹岡 保典 堤 万佐子 谷内 太 土屋 浩一 藤本 康浩 佐川 明 天竺 俊太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0228-Ca0228, 2012

【はじめに、目的】 通常歩行においてプレスイングは体重が反対側へ移動する時期であり、この時の足関節底屈トルク(以下セカンドピーク)は遊脚期に必要な振り出しの初速を形成するとされている。そのため、プレスイングにおけるセカンドピークの減少は歩行速度の低下を引き起こすと考えられており、脳損傷後片麻痺者では強いセカンドピークを得られる者ほど速い歩行速度を得られるという報告がある。一方で、大腿骨近位部骨折術後患者におけるセカンドピークが歩行能力にどういった影響を与えるかについては明らかにされていない。本研究の目的は、大腿骨近位部骨折術後患者におけるセカンドピークの有無が歩行能力、特に歩行スピードに与える影響を明らかにすることである。【方法】 対象は、当院に入院中の大腿骨近位部骨折術後患者12名(平均年齢77.3±6.0歳、男性2名、女性10名)とした。術式の内訳は観血的骨接合術6名・人工骨頭置換術5名・人工股関節全置換術1名であった。術後の炎症やそれに起因する疼痛による歩行能力への影響を避けるため、疼痛の訴え無く10m以上介助なしで歩行可能な者を対象とした。計測時の術後経過日数は平均81.6±25.5日であった。効果判定の指標は川村義肢社製Gait Judge System(以下GJ)を使用した。GJは短下肢装具Gait solitionの油圧ユニットに発生する足関節底屈方向の制動力を計測する機器であり、これによりセカンドピークの定量的な評価が可能となる。今回の調査では対象者の術側下肢にGJを装着し、快適速度歩行および最大速度歩行を測定した。その結果、最大速度歩行においてセカンドピークを発揮している群と発揮していない群の2群に分割し、快適速度および最大速度で歩行した際の歩行速度・ケイデンス・歩数の差をt検定で比較した。さらにセカンドピークのトルク値と歩行速度との関連をSpearmanの順位相関係数を用い算出した。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属施設長の承認を得て、対象者に口頭にて説明し同意を得た。【結果】 対象者12名中、最大速度歩行時にセカンドピークを発揮した者が5名、発揮していない者が7名であった。セカンドピークを発揮した5名の術式は、観血的骨接合術2名・人工骨頭置換術3名、セカンドピークを発揮していない7名の術式は、観血的骨接合術4名・人工骨頭置換術2名・人工股関節全置換術1名であった。両群ともに快適速度に比較して最大速度では有意に歩行速度・ケイデンスが増大し、歩数は有意な変化は見られなかった。両群間を比較すると、セカンドピークを発揮している群は比較していない群よりも最大速度が有意に高かった。セカンドピークのトルク値と最大速度の間には-0.6と有意な負の相関関係が認められた。【考察】 大腿骨近位部骨折術後患者においても、セカンドピークを発揮できる群では発揮できない群に比べ歩行速度を向上させることが可能であるという特徴が明らかとなった。一方で、セカンドピークのトルク値と最大速度の間には負の相関関係が認められた。脳損傷後片麻痺者ではセカンドピークの減少は歩行速度の低下を引き起こすため、セカンドピークのトルク値と歩行速度に正の相関関係が認められている。しかし、変形性股関節症に対して人工股関節置換術を施行した患者におけるプッシュオフに関する先行研究では、立脚中期から後期にかけての強い足関節底屈運動は股関節伸展運動の不足を補うための代償的手段として用いられるという報告がある。よって今回の研究結果から、大腿骨近位部骨折術後患者においてもセカンドピークは遊脚期に必要な振り出しの初速を形成するという意味で歩行速度向上に貢献する一方で、トルク値の増大は股関節の機能低下を補うための代償動作という意味も含んでいるという可能性が推察された。今後は更にデータ数を増やし、大腿骨近位部骨折術後患者における最適なセカンドピークのトルク値、またそれを発揮させるためのトレーニング法を明らかにすることを目的に、特に股関節伸展運動の可動域、下肢筋力などの指標を用いた多角的な評価を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、歩行時の足関節運動が大腿骨近位部骨折術後患者の歩行速度を決定する要因の一つであることを示すものである。また従来、主に脳損傷後片麻痺者の評価で用いられることの多かったGJによる足関節底屈トルクの計測が大腿骨近位部骨折術後患者の歩行能力を評価する上でも有用であることを明らかにしている。以上2点において、本研究は大腿骨近位部骨折術後患者の理学療法の発展において重要な示唆を与えるものと考える。
著者
笠井 千夏 海部 忍 柿本 直子 畳谷 一 田村 靖明 田村 英司 土橋 孝之 高田 信二郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100973-48100973, 2013

【目的】当院は地域医療に貢献することを病院理念として掲げ,リハビリテーション部においても21年間継続し行政委託事業を実施している。当院では,平成18年度行政委託事業の一つとして「阿波踊り体操リハビリ編」を制作した。その後,対象者の症状や状態に合わせて選択できるよう「ロコモ編」,「寝たまま編」を制作するに至った。近年,運動器障害のために要介護状態となる危険の高い状態はロコモティブシンドローム(以下ロコモ)と呼ばれ,認知度が高まっている。本体操の構成は,徳島県の伝統文化である阿波踊りをアレンジし,阿波踊りの音源を基にした創作音楽に,当院セラピストが考案した5分間のリハビリ体操を組み合わせたものである。本体操は阿波踊りのイメージを残しつつ下肢運動機能向上と障害予防を目的としたストレッチ,筋力強化等を中心とした運動に焦点を当てた体操となっている。今回,「阿波踊り体操ロコモ編」を6ヵ月実施した結果を報告する。【対象及び方法】対象は当院が在所する吉野川市にて行政委託事業として実施されている介護予防教室に参加した106名(男性11名,女性95名:平均年齢74±14歳)である。対象者には阿波踊り体操ロコモ編を実施した前後において身体機能評価とアンケートを実施した。方法は阿波踊り体操ロコモ編を実施前と6ヵ月実施後に身体機能評価としてTimed Up &Go(以下TUG),Functional Reach Test(以下FRT),握力,膝伸展筋力(ANIMA Corporation社製μTas F-1)を理学療法士が測定した。その結果を統計学的分析にて,t検定(p<0.05)を用いて行った。また,実施前後に紙面でのアンケート調査を対象者に実施した。【説明と同意】対象者には研究の目的,内容,および個人情報の取り扱い関して十分に説明を行った上で同意を得て行った。【結果】介護予防教室実施前後を通して身体機能評価が可能であったのは69名であった。阿波踊り体操ロコモ編実施前後においてFRT,膝伸展筋力では若干の向上が認められたが,統計学的分析では有意な差は認められなかった。しかしながら,阿波踊り体操ロコモ編に対するアンケート調査では体操に対する感想にて「楽しかった」との回答が全体の86%,「楽しくなかった」が0%「どちらでもない」が13%,「無回答」1%と体操に対する印象は良かった。また,6ヶ月間の介護予防教室終了後『ロコモ編を継続したいですか』との質問に対しては「はい」が73%,「いいえ」が0%,「どちらでもない」が17%,「無回答」10%と体操の継続に対する意識の高さが認められた。【考察】阿波踊り体操ロコモ編における今回のアンケート調査で,本体操は満足度が高く,継続性が高いという前向きな回答を得られた。健康体操を継続するためには,それが楽しくなければ継続できない。阿波踊り体操ロコモ編は地元伝統文化の特性を活かした結果,親しみやすく,楽しんで行える体操であったと推測される。今後の課題として, 身体機能面での効果や実施回数の更なる検証が必要であると考える。また,本体操は日本運動器科学会学術プロジェクトの承認を受け,平成24・25年度事業として指導者の育成,更なる地域への普及活動に努める予定である。【理学療法学研究としての意義】本体操は地元伝統文化の特性を活かし,県下への普及を目的に考案され,実施した体操である。これらの働きかけは地域リハビリテーションを展開していく上で,有意義であると考える。
著者
香川 真二 村上 仁之 前田 真依子 眞渕 敏 川上 寿一 道免 和久
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.B0148-B0148, 2007

【目的】本研究の目的は、動作の熟練した頚髄損傷(頚損)者の身体感についての語りから、理学療法について再考することである。<BR><BR>【方法】サイドトランスファーが獲得されているC6完全麻痺患者に自らの身体についての半構造化インタビューを行い、得られた患者の主観的側面を解釈し、考察した。尚、対象者には本研究の趣旨を説明し、学会発表への同意が得られている。<BR><BR>【結果】インタビュー結果の一部を示す。<BR>Th:「怪我した直後の身体ってどんな感じ?」Pt:「頚から下の感覚が急に鈍くなったから、足の位置とか手の位置がよくわからんようになったり、自分の体をどう認識していいかわからへんようになってました。初めて車椅子に座った時は、座ってる感覚なかったかな。車椅子にこう、くくりつけられているような感じ。今は、この感覚のない身体でも、微妙に感じがわかるんですよ。だから、この感じが座ってるっていう感じって。だから体で覚えるとかじゃなくて頭で覚えんとしゃーないっすね」<BR>Th:「リハビリして動作が上手になっていく時ってコツみたいなのがあるの?」Pt:「突然じゃなくって、間違えたり正解したりとかを繰り返すのも必要なんかなって。成功ばっかりじゃダメで失敗したからそこに何かをみつけていくみたいな。そんな風にして自分たちが頚髄損傷になってから今の状態があるんかなーって」<BR><BR>【考察】「自分はこうである」といった確信は、個人としての主体が現実の秩序を疑ったり、確かめたりしながら築きあげたものであり、自分自身の「客観」や「真理」を保障するものである。今回の結果から、頚損者では受傷直後に自己の「身体状況」における確信が破綻していることが明らかとなった。さらに、「車椅子にくくりつけられているような感じ」といった「知覚」も変貌していた。つまり、受傷前までほぼ一致してきた「身体状況」と「知覚」が一致しない状態に変化している。この不一致が動作獲得の阻害因子の一つになっていると考えられた。そして、動作が獲得されるためには失敗と成功の中に表れる「身体状況」と「知覚」の関係性から、何らかの秩序を見つけていく必要がある。理学療法においては、まず「身体状況」と「知覚」の一致を目的に運動療法を行わなければならない。そのためには、「身体状況」と「知覚」をひとつずつ確かめながら体験的に認識することが必要となる。具体的には、セラピストが言語により動作の内省を「問い」、患者は自己の身体で知覚されたことを言語で「表象」する。セラピストの支援で構造化されていく語りの中で、患者自身の体験が意味づけられ、「身体状況」と「知覚」の関係性を学習し、新たな身体における確信が再構築されると考えられる。<BR>
著者
河合 麻美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1468-GbPI1468, 2011

【目的】<BR>平成22年度に行われた理学療法士実態調査(PT白書)によると、会員の75%が社会生活においてストレスを感じていると回答しており、会員に対し職場や家庭など日常的なストレスにどう対応していくかの策が必要になると考えられる。今回、私は対人関係のストレス対策の一つとしてセルフコーチングを用いて自分の感情をコントロールし問題解決する方法を提案し、社団法人千葉県理学療法士会ワークライフバランス部、社団法人神奈川県理学療法士会会員ライフサポート部において理学療法士を対象とした研修会を開催しアンケート調査を行ったので、内容と共にアンケート結果を報告する。<BR><BR>【方法】<BR>平成22年1月社団法人千葉県理学療法士会ワークライフバランス部、6月社団法人神奈川県理学療法士会ライフサポート部においてセルフコーチング研修会「テーマ:自分らしく働こう」を開催した。時間はいずれも講義30分、参加者同士で行うワークを60分の全90分で行った。研修会終了後、参加者全39名を対象に無記名選択式及び記入式アンケートを行った。内容は研修会の満足度、セルフコーチングでの難しいと感じる点(複数回答可)、参加しての気付き(自由記載)、感想の4項目とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>アンケート調査施行の際、本研究の趣旨と本学会への発表の説明を行い、対象者全てに同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>研修会の講義内容はセルフコーチングで大切な自分の内側のコミュニケーション、A.感情を受け止める方法、B.感情の捉え方・解釈の仕方、C.信念(ビリーフ)の書き換え方、D.自分への質問の選択法、E.相手へ伝える方法に分けて行い、ワークでは自分自身のコミュニケーションを発見するタイプ分けを行った後、参加者とのシェアや自分らしさを見つけるためのワークをディスカッション形式で行った。アンケートの回収率は100%で、結果は研修会に対する満足度ではとても満足27名(69%)、まあまあ満足9名(23%)、どちらともいえない1名で、セルフコーチングで難しいと感じる点は講義内容よりA.13名(17%)B.13名(17%)、C.11名(14%)、D.28名(36%)であった。また参加しての気付きは、自分を見つめ直すことが出来たが25名と最も多く、多様性・人との違いを感じることが出来た8名、職場で使える5名、その他、考え方を変えていけそう、自分にOKが出せた、自分の目標が見つかったなどの回答があった。 <BR><BR>【考察】<BR>今回、理学療法士を対象としたセルフコーチング研修会を開催し、参加者からは概ね満足との結果が得られた。これまで理学療法士対象の研修会では参加者同士のディスカッションの場などはあまりみれらず、参加者も初めは戸惑い気味であったが、終了時には笑顔で参加者同士が会話する姿が多く見られた。ワークを通じて自分のコミュニケーションをを見つめ直すと共に、他人との違いを知ることで人の多様性を実感することが出来たものと思われる。また、アンケート結果から参加者は少なからずコミュニケーションの困難を感じている場面があることが分かり、ただ苦手意識を感じるだけでなく、その方法を提示することでまた明日からの職場や家庭のコミュニケーションで実践していけるのではないかと考える。平成22年度のPT白書によると、現在自分のことを「幸せでない~どちらとも言えない」と感じている会員は全体の28.7%となっている。幸せであるかどうを感じるのは自分自身であることから考えると、自分の内側のコミュニケーションを良くすることで「幸せ」に関する感じ方や受け止め方も変わってくるのではないかと思われる。また厚生労働省が2008年に発表した「平成19年労働者健康状況調査結果の概要」によると仕事での最大のストレスの原因は「職場の人間関係」であり、仕事の質や量を上回る結果となっていた。理学療法士は職業柄、職場において人とのコミュニケーションは欠かすことが出来ず、職場スタッフだけでなく、患者さんや利用者さん、ご家族、他職種などその対人関係も多岐に渡っている。このことから、理学療法士自身が日常のストレスをコントロールし問題解決することで、仕事や家庭の充実や就業継続に繋がると考えれ、理学療法士を対象としたセルフコーチングなどコミュニケーション研修会の必要性が示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>理学療法施行上様々な場面でコミュニケーションは不可欠であり、且つ仕事上の最大のストレス原因は対人関係であることから、我々理学療法士一人ひとりがストレスコントロールやコミュニケーション法を学び、生活することで仕事の充実に繋がり、理学療法の質に貢献出来ると考える。
著者
吉川 昌利 岡田 直之 吉岡 豊城
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0343-Ea0343, 2012

【目的】 厚生労働省の調査によると、ICD-10に基づく死因分類のうち、建築物内または周辺での日常行動に関連すると考えられる死因の中で、公共的建築空間及び街路等の公共的空間を発生場所とする死因は、「転倒・転落」が圧倒的であった。また、H.Luukinenら(2000)によると転倒によって死亡に至らなくても約1割は骨折や重篤な障害を引き起こし、日常生活を制限されることになるとしている。また、河野(2007)は転倒・転落による死者数の将来予測として2015年には年間4000人を超えると予測しており、急速化する高齢化に伴って拡大するリスク因子について検証することの意義は大きいと考える。その上で、鈴木(2006)は転倒の原因は男女ともに「つまずいた」が圧倒的に多く、次いで「滑った」あるいは「段差に気付かなかった」が続いているとしており、Saidら(2005)や齊藤ら(2010)をはじめ障害物のまたぎ動作に関する様々な研究や報告がなされてきた。しかし、それらは地域高齢者や脳卒中片麻痺患者を対象としたものが多く、疾患特性で検討した報告は少ない。今回我々は当院入院中の患者を対象に、対象物のまたぎ課題を行い、自己身体認知への影響やその傾向と対策を検証することとした。【方法】 当院回復期病棟入院患者で機能的自立度評価法(Functional Independence Measure以下FIM)の移動(歩行に限る)項目が5点以上の患者21名(男性8名、女性13名 平均年齢73.0±10.77歳)を1.下肢整形外科疾患群(以下整形群)、2.中枢神経疾患群(下肢疾患群以外の整形外科疾患を含む:以下中枢群)と大別し、バーの跨ぎ課題を実施した。実施手順は次の通りである。まず被験者が立位の状態で7m先にあるバーの高さを、自分が跨ぐことができると思われる最大の高さに設定する。設定はバーの高さを検者が操作し、被験者はそれを見て目的の高さになったら申告するという方法で行った。その後申告したバーの高さを変えずに、バーを被験者の50cm前方に移動した。7m前方で申告した高さを修正する場合は、7m前方での高さ設定と同様の方法でバーの高さを変更した。バーの高さが決定された後、実際に跨ぎ動作を実施し、その高さを跨ぐことができた場合はさらにバーを上げ、失敗した場合はバーを下げるという手順を2回繰り返し、実際の跨ぎ動作能力の最大値(以下、最大値)を測定した。【倫理的配慮、説明と同意】 臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)、個人情報保護法、ヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には本研究趣旨を十分に説明、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 跨ぎ動作1回目での成功率は、整形群30%(3/10人)、中枢群81.8%(9/11人)と整形群において有意に失敗する傾向がみられた(p<0.01)。最大値と距離別予測値との相関を比較した結果、両群ともに距離に関係なく最大値と相関を認めた。また、距離別予測値と最大値との誤差は、7m予測値・50cm予測値ともに整形群で有意に誤差が大きく(p<0.05)、距離間に有意差は無いが50cm予測値との誤差がより大きい傾向を示した。【考察】 整形群では、またぎ動作1回目において失敗する傾向がみられ(p<0.01)、その際の値と最大値は負の誤差、つまり自己を過大評価する傾向にあった。岡田ら(2008)はリーチ距離と見積もり誤差の関係で負の誤差と転倒群の関連を示しており、本研究のtaskとは異なるが転倒予防の一助となる可能性を示唆している。上述のSaidら(2005)は脳卒中患者の障害物またぎ動作は健常者に比べ、障害物-足部間クリアランスの増大など、代償的ストラテジーにて行われると報告されている。つまり、中枢群では代償的ストラテジーの選択によりまたぎ動作をより安全に遂行した結果、初回での成功率が高値を示した可能性がある。また、距離別予測値と最大値の誤差は整形群で有意に大きく(p<0.05)、50cm予測値でその傾向は大きかったことからも、整形群では疾患による下肢の身体認知の誤差を代償するストラテジーの選択や指標の選択が乏しいと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、整形群で有意に自己身体認知に誤差が生じる可能性が示唆された。その上で、生活環境に限局した動作練習たけでなく最大能力を認識させる課題の提供や評価、または身体や環境を指標とした課題の提供を行いフィードバックすることで新たな自己身体認知を確立する必要がある。今後、またぎ動作の方法をより細かく評価し代償パターンの検証や、指標の選択に何を用いたかを明らかにすることで加速的介入を図れると考える。
著者
関屋 幸平 山本 響子 江上 健 川内 撞恵
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.314-314, 2003

[はじめに]脳血管障害に下肢切断を伴う症例は少なくない。今回、脳血管障害に伴い閉塞性動脈硬化症(ASO)にて非麻痺側下肢大腿切断によりADL能力が低下した患者の、寝返り・起き上がり動作に対する理学療法アプローチについて報告する。[症例紹介]78歳女性で、平成12年12月心原性脳塞栓症にて左片麻痺。平成14年7月に右側下肢ASOと診断され同月に右側下肢大腿切断術を施行した。B/S上肢II,下肢IVであり、MMTで右側上肢筋力はG、体幹筋力はFレベル。身辺ADL能力は、切断前において寝返り・起き上がり動作ともに監視から軽介助レベルであったが、切断後では寝返り・起き上がり動作とも全介助レベルに低下した。[アプローチとその経過]寝返り動作に対しては右側上肢にてベッド柵を握り肘関節の屈曲動作により体幹を右側へと回旋させる方法を指導した。訓練開始当初は肩甲帯の回旋後、骨盤の回旋が難しくベッド柵から手を離すと背臥位に戻ってしまい半側臥位までしか寝返りを行えなかった。そこで、開始肢位をベッド30度ギャッジアップし体幹を軽度屈曲位とすることで骨盤の回旋に続く麻痺側下肢の回旋が行いやすいのではと考え実施した。その結果介助を必要とせず寝返る事が可能となった。その後も1・2週間ギャッジアップを利用して徐々に角度を低くすることで、背臥位からの寝返り動作を獲得できた。また、寝返り動作訓練と並行して起き上がり動作訓練も実施してきた。起き上がり動作は切断前動作の再獲得を目指した。訓練開始当初では、起き上がる際断端部への荷重痛が強いこと、体幹筋の筋力低下のため介助なしでは頭部の挙上しか行えなかった。そのため、体幹筋の筋力強化訓練を追加し反復訓練を実施した結果、軽介助にて起き上がることが可能となった。[今後の課題]現在、リハ室内でベッド柵使用にて寝返り動作は自立、起き上がり動作は監視から軽介助レベルである。しかし、病棟においては患者の依存心が強く、獲得した動作を活用できていない。今後の課題としては獲得した動作の実用化にあるのではと考える。そのためにも患者への指導だけでなく、病棟スタッフとの連携が重要と考えている。 [まとめ]非麻痺側下肢の機能を失ったことで、残された機能を生かし寝返り・起き上がり動作の獲得を目標にアプローチを実施してきた。ベッド柵使用であるが、ADL能力は向上してきたといえる。
著者
坂本 雄 小諸 信宏 山崎 真也 吉田 智貴
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100327-48100327, 2013

【はじめに、目的】 2007年に策定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス:WLB)憲章」および「WLB推進のための行動指針」は、政労使トップにより2010年に見直しがなされ、実現に向けてより積極的に取り組む姿勢が示されている。医療機関においてもWLB実現に向けた取り組みの輪が広がりつつあるが、推進の障壁となる問題として長時間労働がある。労働時間、特に残業時間を減らすことはWLBを推進する上で、組織にとっても働く個人にとっても重要課題であり、リハビリテーション(リハ)部門においても例外ではない。今回我々は長時間労働抑制の一助とすべく、リハ部門に所属するスタッフの退勤時間に影響を及ぼす因子を明らかにすることを目的とし、個人の性格特性に着目して検討した。【方法】 対象は当院リハ部に2011年度1年間在籍した管理職と訪問リハ専従者を除くスタッフ36名(理学療法士24名、作業療法士9名、言語聴覚士3名)とした。性別は男性17名、女性19名、平均年齢27.0±3.4歳、平均経験年数3.6±2.1年であった。退勤時間には、1日勤務時(半日勤務時を除く)のICカード打刻システムによる退勤打刻時間を採用し、各スタッフの2011年度年間平均値を用いた。また、性格特性の測定には、自我状態を客観的に評価するために開発された質問紙法の新版東大式エゴグラムII(TEG2)を用い、2011年度末月に留置調査法にて実施した。退勤時間への影響因子としての検討項目は全8項目で、年齢、経験年数、スタッフ1人1日あたりの2011年度年間平均実施単位数(単位数)、TEG2の5つの自我状態尺度(批判的親:CP、養育的親:NP、大人:A、自由な子ども:FC、従順な子ども:AC)とした。なお、2011年度は、リハ部の年間目標の1つに退勤時間の短縮を掲げて取り組んだ。分析方法は、退勤時間と各検討項目との関連性についてピアソンの相関係数を用いた。さらに、退勤時間を従属変数、各検討項目を独立変数とした重回帰分析のステップワイズ法を用いて退勤時間に影響を及ぼす因子を抽出し、因子の影響度合について確認した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 19を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には研究の趣旨および目的、研究への参加の任意性とプライバシーの保護について十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 ピアソンの相関係数より、退勤時間と有意な相関が認められたのは、影響因子として検討した全8項目のうち3項目で、単位数(r=0.43,p<0.01)、CP(r=-0.56,p<0.01)、A(r=-0.61,p<0.01)であった。重回帰分析の結果、分散分析表は有意(p<0.01)で、決定係数0.56、自由度調整済み決定係数0.52、ダービン・ワトソン比2.08であった。抽出された因子は単位数(標準偏回帰係数(b)=0.26,p<0.05)、CP(b=-0.33,p<0.05)、A(b=-0.43,p<0.01)で、退勤時間への影響力はA、CP、単位数の順に強かった。【考察】 結果より、今回検討した8項目のうち退勤時間に影響を及ぼす因子は、単位数、CP、Aであることが分かった。さらに、本来、実働時間に直結すると考えられる単位数よりも、CP、Aといった自我状態尺度(個人の性格特性)の方が退勤時間への影響力が強いことが明らかとなった。TEG2では、CPが高い場合「自分に厳しい」「責任感が強い」「目標意識が高い」などの特徴が、また、Aが高い場合「効率的に行動する」「計画的に行動する」などの特徴が見られるとされている。このようなことから、スタッフ個人の仕事に関する自律性、すなわち仕事内容やペース、時間管理などに関する統制力も、退勤時間に強く影響を及ぼすものと考えられた。退勤時間短縮・残業時間削減には、組織として付加価値の高い仕事に傾注できる環境を整えることや、早く帰れない雰囲気を払拭するなど、組織文化を醸成することが重要であることは無論である。しかし、ゴールに向けて最短距離で進む仕事の仕方を意識させ、意味のない長時間労働をしなくても成果を上げる方法を身に付けさせるなど、個別的にスタッフ教育を行っていく必要性があるといえるであろう。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が所属するリハ部門でもWLBの推進は大きな課題である。本研究にてリハ部門スタッフの退勤時間に影響を及ぼす因子が見出せることは、WLBの前提となる長時間労働抑制すなわち残業時間短縮に向けた対策を講じることが可能となる。
著者
中村 豪志 樋口 博之 萩原 純一 新町 景充 宮崎 真由美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1404-EbPI1404, 2011

【目的】<BR> 麻痺側上肢が実用的に使用できない脳血管障害片麻痺者にとって、洋式便座での排泄動作(以下、トイレ動作)は自立が難しいADLのひとつであり、手すりの利用が重要である。従来、トイレ動作における標準的なトイレの手すりとしては、便座に座って患側の壁に壁離れ寸法が数センチのL字手すり(以下、標準型手すり)を設置するというケースが多く見られる。しかし、この環境では、L字手すりが立ち座り動作や移乗動作の補助にはなるが、立位保持の際に健側上肢の動きが壁によって制限され、下衣の上げ下げ動作の補助にはなりにくい。<BR> そこで、壁離れ寸法を20~25cmとし、一部にクッション材を当てたL字手すり(以下、支持型手すり)を考案した。脳血管障害片麻痺者が支持型手すりを利用すると、手すりの縦部分で麻痺側の胸部もしくは頭部を支持して、自由度が高くなった健側の上肢で下衣の上げ下げ動作が容易になる。これによって、下衣の上げ下げ動作が自立もしくは介助量軽減した症例を経験し、支持型手すりによるトイレ動作が効果的ではないかと感じた。<BR> 本研究では、標準型手すりによるトイレ動作と支持型手すりによるトイレ動作を比較・検証し、考察することを目的とした。<BR>【方法】<BR>1.対象者 <BR> 対象者は、宮崎県内の介護老人保健施設を利用されており、車椅子を日常的な移動手段としている脳血管障害を有する者で、麻痺側の上肢が実用的に使用できない者とした。認知機能の低下により動作指示の理解ができない者は除外した。そのうち、同意を得られた10名を対象とした。内訳は、男性4名、女性6名、平均年齢68.9±10.3歳だった。<BR>2.実験手順<BR> 実験1:対象者の腰部周囲計に3cmプラスした長さのセラバンドを下衣に見立てて、両側の膝蓋骨上周囲と腸骨周囲を基準線とし、セラバンドを基準線まで上げる動作・下げる動作を標準型手すり、支持型手すりで各々3回繰り返す。動画データをパソコンに取り込んだ後、動画再生ソフト上で上げ下げ時間を測定する。<BR> 実験2:便座に移乗していただいてから立ち上がり、健側下肢の横に50cmの棒を設置する。姿勢が安定したら、膝を曲げないようにして健側の上肢を垂直下方の限界点まで伸ばす動作を標準型手すり、支持型手すりで各々3回繰り返す。撮影した動画データを「Quick time pro」でイメージシークエンスに変換した後、「Image J」に取り込んで、基準として設置した50cmの棒の上端から手指の最下点までの距離を測定する。<BR> 統計的処理として、paired-t検定を行い、実験1と実験2で、標準型手すりと支持型手すりとの比較を行った。<BR>【説明と同意】<BR>書面と口頭による説明を本人もしくは家族に行ない、同意を得た後書面にサインをいただいた。<BR>【結果】<BR> 実験1では、標準型手すりの上げ下げ時間平均は26.8±11.1秒、支持型手すりでの上げ下げ時間平均は22.8±9.8秒だった。10名中、7名が支持型手すりで上げ下げ時間が短かったが、有意差は見られなかった。実験2では、標準型手すりでのリーチ距離は15.7±9.3cm、支持型手すりでのリーチ距離は17.5±8.2cmだった。10名中6名が支持型手すりでのリーチ距離が長かったが、有意差は見られなかった。<BR>【考察】<BR> 今回の実験に使用した手すりは、施設内にある既存のトイレ手すりのみだったので、対象者の身長や体幹の変形などを考慮した手すりの設定ができなかったが、それを考慮しても全ての脳血管障害片麻痺者に適するというわけではなかった。今後は、1)脳血管障害片麻痺者でも状態は様々なので、対象者個々人のバランス能力や体格に応じた手すりを設定する。2)もたれかかる動作を意識した運動療法のプログラムを確立する。3)手すりの素材や形状をさらに工夫する、という点を考慮し、より有効な手すりとして実用化できるように努めたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 支持型手すりでのトイレ動作を確立できれば、脳血管障害片麻痺者が使用する手すりの選択肢のひとつとして適用できると思われる。それによって、脳血管障害片麻痺者に対してADLやQOLの向上に貢献できるのではないかと考える。また、家庭復帰につながれば、地域福祉・地域リハビリテーションにも貢献できるのではないかと考える。
著者
松田 英希 榎 真奈美 伊藤 絵里子 藤澤 美由紀 山中 崇
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.B0464-B0464, 2004

【はじめに】身体機能的には可能であったにも関わらず、器質性人格障害のためにADL自立が困難であったクモ膜下出血の症例を経験したので報告する。<BR>【症例】33歳男性。身長172cm、体重65.3kg。病前の性格は温厚。平成14年8月9日、クモ膜下出血発症。同日、緊急開頭血腫除去術・脳動脈クリッピング術・外減圧術施行。平成15年3月18日、リハビリテーション目的にて当院リハビリテーション科へ転院となった。転院時所見としてCTにて前頭葉の広汎な病変を認め、右片麻痺・人格感情障害・知的低下・注意障害・記憶障害・失語症・右半側空間無視・Alien Hand(右手)が見られた。Brunnstrom Recovery Stageは右上肢V・右手指V・右下肢IV。起居動作は軽度~中等度介助、歩行は中等度介助で、周囲の状況や身体の状態に関係なく動作を行い、転倒・転落の危険を伴った。<BR>【経過】平成15年3月19日、当院PT・OT・ST開始。車椅子にてリハビリテーションセンターに来室。ROM ex.や坐位・立位でのBalance ex.などのアプローチは協力を得られず、暴力的になったり寝てしまったりした。そのため、臥位から起き上がって歩くという一連のプロセスを、誘導しながら介助して患者のペースで行う方法が中心となった。介助に対して暴力的になり歩行中でも振り払おうとしたため、衣服の皺を伸ばすように見せるなど、患者の注意を変換することで興奮の抑制を図った。排泄・入浴場面では、激しく興奮し状況判断せず行動するため2~3人の介助が必要で、OTの介入も困難であった。同年4月中旬には、右下肢の支持性や歩行バランスの向上により屋内歩行が軽度介助レベルとなり、屋外での不整地・段差・スロープ歩行が可能となった。同年6月12日には屋内歩行が遠位監視となったが、介助に対する暴力的な行動は変わらなかった。本症例は、家族の在宅困難との判断により、平成15年7月25日転院となった。<BR>【考察】本症例は運動機能としての起居移乗動作や歩行は自立したが、ADL自立には至らなかった。屋内外ともに移動手段として歩行を確立できたのは、患者が介助を意識しないようにアプローチしたり、リスクを伴うと考えられる歩行条件でも、あえて患者の選択を尊重し、PT中の情動爆発を可能な限り抑制したことが功を奏したと考えられる。しかし全般的な脱抑制により動作のほとんどが無目的で、特に排泄・入浴動作の指導・介入に対しては激しい情動爆発が見られるなど、状況に応じた適切かつ安全な行動が困難であった。本症例の経験より、精神科領域の知識や症状のとらえ方は、我々PTの臨床場面にも求められると思われた。
著者
樋口 謙次 中村 智恵子 佐藤 信一 安保 雅博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0879-B0879, 2005

【目的】急性期脳血管障害の予後予測の指標として用いられる二木の報告は、内科的治療を行なった患者を対象とした研究であり、外科的治療を行なった患者に対する予後についての報告は少ない。本研究の目的は、脳出血患者の内科的治療患者と外科的治療患者において、起居動作能力を経時的に評価し、その推移を探り、動作能力から比較及び予後を検討することである。<BR>【対象】2000年4月~2004年7月の間、脳出血患者で理学療法開始が発症から10日以内であり、発症から30日以上在院した43例を対象とした。対象の内訳は男性34例、女性9例、平均年齢59.3±12.9歳、内科的治療30例、外科的治療13例である。<BR>【方法】当院で使用している脳血管障害早期理学療法評価表を後方視的に調査した。内科的治療群(以下内科群)及び外科的治療群(以下外科群)の2群間の動作能力の推移を検討するために発症から10日目、20日目、30日目の動作能力を坐位不可能、坐位可能、立位可能、歩行可能の4つに分類し、経時的な動作能力の変化について検討した。また、10日目、20日目、30日目のそれぞれの動作能力について内科群と外科群を比較した。統計処理は、χ<SUP>2</SUP>検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】10日目における4つの動作分類(坐位不可、坐位可能、立位可能、歩行可能)では、内科群は、46.7%、46.7%、6.6%、0%であり、外科群は、84.6%、7.7%、7.7%、0%であった。20日目では、内科群は、23.3%、36.7%、26.7%、13.3%であり、外科群は、53.8%、30.8%、0%、15.4%であった。30日目では、内科群は、13.3%、30.0%、26.7%、30.0%であり、外科群は、30.8%、38.5%、7.7%、23.0%であった。10日目の動作能力において2群間に有意差が認められた(p<0.05)。また、両群において10日目坐位不可である患者の動作能力推移は、20日目において坐位不可(内科群50.0%、外科群63.6%)、坐位可能(内科群42.8%、外科群36.4%)、立位可能(内科群7.2%、外科群0%)であり、30日目では、坐位不可(内科群28.5%、外科群36.3%)、坐位可能(内科群28.5%、外科群45.4%)、立位可能(内科群28.5%、外科群9.1%)、歩行可能(内科群14.5%、外科群9.1%)であった。<BR>【考察】動作能力の達成率では、30日目において内科群が5~6割の患者が立位可能であるが外科群は3割程度であり、短期的な目標設定を考えると2群において差異があると考えられる。また、10日目の動作能力では、2群で有意差を認め、外科的治療患者の術後管理による影響があると考えられる。また、10日目に坐位不可能な2群の動作能力推移に類似性がある点は興味深い。
著者
丸田 一郎 江上 健
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI2178-BbPI2178, 2011

【目的】応用行動分析学は、近年注目を集め、理学療法学における研究もされている。しかし、実際の臨床において、「しているADL」が拡大できない理由について、意欲低下や依存心といった言葉で片付けられることが多い。今回食事場面でのADL練習を行い、食事動作が「しているADL」に定着した症例について応用行動分析学的考察を行ったので以下に報告する。<BR>【方法】症例は、多発性硬化症により四肢麻痺を呈する70歳代の男性である。感覚は表在感覚および深部感覚中等度鈍麻、全身性のしびれ感と疼痛を有している。筋力はMMTで頚部3、肘関節屈曲3、その他四肢と体幹2、握力は左が1kgで右が0kgである。ADLは重度介護を必要とし、FIMで運動項目が15点、認知項目が31点である。ナースコールは手に固定して中指でなんとか押せる状態で、日中は食事と理学療法時以外は臥床して過ごしている。<BR>本症例は、上肢機能の回復が比較的良好であり、本人の希望もあり自立する可能性と必要性が高い食事動作に対して自立を目標に介入した。当初は、筋力と筋持久力の向上を目的にリハビリテーション室での食事動作練習を中心に行ったが効果に乏しかったことから、実際の食事場面でのADL練習のみを行うようにした。<BR>食事場面での練習の方法としては、ベッドフルギャッジアップにて自助具を用い可能な限り自己摂取を促し、疲労が出現した時点で介助により食事をとるようにした。しかし阻害因子として、しびれ感や疼痛といった異常感覚の増悪および疾病からくる易疲労性があり、食事動作の持久性の低下が認められた。 <BR>セラピストが練習として立ち会っている食事場面では、異常感覚の増悪と易疲労性はあるものの自助具を用い20口程度食事動作を行うことが可能であった。しかし、セラピストが立ち会っていない食事場面では、10口程度食事動作を行うと介助を希望し、自己摂取量を増やそうとしないことが続いた。<BR>そこで介入方法を変更し、本人了解のもと、ギャッジアップ座位時間の延長を目的に自己摂取終了時から介助を行うまで10分時間をおくように条件設定を行った。また、ギャッジアップに対しても食事動作と同様に持久性の低下があるにもかかわらず、症例の思考の中には「早く食べ終えれば早く寝られる」という考えがなかったことから、その考え方の提示を行った。<BR>【説明と同意】本研究は当病院の倫理委員会で承認され、研究の目的や方法について記載した同意書を用い本人に十分説明した上で同意していただいた。<BR>【結果】条件設定の変更後、自己摂取終了時より10分間、介助を行わない間に、なるべく自己にて摂取する量を増やし、介助にて摂取する量を少なくして、食事を早く終了しようとする様子がみられた。その後徐々に自己摂取量が増加した。5ヵ月後には異常感覚の増悪について変化は無かったものの、筋力と筋持久力には改善を認めた。そして食事動作の持久性は向上し、全量自己摂取が可能となり、「しているADL」に定着することができた。<BR>【考察】応用行動分析では、ABC分析の中で、行動に対する先行刺激と後続刺激の整備を行い、個人と環境の相互作用にアプローチを行う。これを症例に対し当てはめ考えていくと行動は「食事をする」になり、先行刺激は「早く食べ終えれば早く寝られる」、後続刺激は、「実際に早く寝られた経験」と「異常感覚の増悪」、「疲れたら介助により食べられる」となる。<BR>当初、食事動作の持久性の向上がみられず、「しているADL」がなかなか定着しなかった原因として、有効的な強化刺激に乏しく、「異常感覚の増悪」と「疲れたら介助により食べられる」といった嫌悪刺激が強いことがあげられる。そこで、条件設定の変更と「早く食べ終えれば早く寝られる」というポジティブルールの提示によって、「食事介助開始までの10分間に自己摂取量を増やせば、早く寝られる」という状況を作ることができた。そのことが自己摂取量を増やすことに対しての取り組みを促進する活動性強化となった。そして、自己摂取量を増やし、「実際に早く寝られた経験」を繰り返す事で更なる強化刺激が生じ、更なる自己摂取量増大を促進したものと考える。以上より、条件設定と思考提示により「自己摂取量を増やせば、早く寝られる」という状況を作ったことで「実際に早く寝られた経験」という強化刺激を生じさせる事ができたと考える。そして、学習の経過と結果が行動内在型強化として働くようになったことで食事動作が「しているADL」に定着したものと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回は経験的にADL練習を行い「しているADL」が定着したにすぎない。臨床において、意欲低下や依存心という言葉はあくまでも結果であり、それらを生じさせている原因があることを常に考え理学療法を行うことが重要である。
著者
齋藤 裕一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1274-CbPI1274, 2011

【目的】<BR> 脊椎後弯変形は高齢者における代表的な病態のひとつであり、膝関節疾患等と併合して起こる姿勢アライメント不良や生活動作制限、転倒等の要因となりうる。脊柱後弯姿勢により姿勢アライメントが乱れ転倒リスクが高まることは報告されている。姿勢アライメントとしての脊柱後彎姿勢の評価方法は様々な方法が報告されているが、脊柱後彎のみに対する評価の報告は多くない。今回は簡易的かつ安価で行える自在曲線定規を用いて評価し、脊柱後彎を円背姿勢に置き換え評価することとした。本研究は加齢による脊柱後弯変形や転倒リスクを検討する為の先行研究として、健常者における脊柱後弯の程度(円背指数)を知ることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象者は、脊椎疾患を有してない健常女性42名とした。平均年齢は44.0±9.7歳、平均身長は157.1±5.2cmであった。円背指数の計測方法としては、腕組み・足底非接地の安楽座位にて市販されている60cmの自在曲線定規(発売元:金亀糸業株式会社)を用い、第7頚椎(以下、C7)から第4腰椎(以下、L4)棘突起までの背部の彎曲の形状を紙上にトレースした。紙面上にトレースした彎曲のC7とL4を結ぶ直線をL(cm)、直線Lから彎曲の頂点までの垂線の距離をH(cm)とし、Milneらの式を用い、その割合を円背指数=H/L×100として算出した。評価は同一の理学療法士により行われた。そして、円背指数を平均値とこの95%信頼区間の範囲を求めた。また、被検者間の個体差として、身長差で生じる対象者の脊椎の長さ(C7~L4)を考慮し、身長(cm)と脊椎の長さC7~L4間の彎曲距離(以下、彎曲距離)を測定した。そして、各々の身長に対して、彎曲距離、L、Hを比較した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者は医療・介護施設の職員であり、書面にて本研究の目的と方法を説明し、署名により同意を得られた者である。<BR>【結果】<BR> 円背指数の平均値は8.08(3.19~11.36)であり、95%信頼区間は-0.63~0.63であった。その他の測定結果は以下に示し、カッコ内は最小値~最大値の範囲を示した。身長の平均値と95%信頼区間は157.1±5.17cm(145cm~166cm)、彎曲距離の平均値と95%信頼区間は46.3±2.14cm(43.0cm~49.5cm)、Lの平均値と95%信頼区間は43.1±2.06cm(39.5cm~47.0cm)、Hの平均値と95%信頼区間は3.5±0.88cm(1.5cm~5.0cm)であった。被検者間の個体差では、身長と彎曲距離の比較では相関を認めたが、身長とL、Hの比較ではどちらも相関を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 今回計測方法はMilneらにより再現性が証明されている。また、寺垣らは高齢女性での観察における円背指数を正常9.2±2.5、軽度後彎12.7±3.6、中等度後彎17.9±2.5、重度後彎22.3±2.5と示している。被検者間の個体差について、身長と脊椎の長さでの相関は円背指数が身長差等の構築学的影響を受けないことが示された。円背指数に影響を与えるL、Hの2項目で個体差を認めなかったことから、本研究で示された平均円背指数は妥当であると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究において健常女性の円背指数の平均値を知ることができた。自在曲線定規を用いた計測を行うときの基準値となり、脊柱後彎を評価する上での判断基準が示唆された。今後の方向性として、対象者の人数を増やして、より厳密に基準値を明確化していく必要がある。また、性差や年代による円背指数の変化を検討し、転倒リスクを評価できる独自のツールを作成していきたい。
著者
仙波 浩幸 八木 幸一 清水 和彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P2315-G4P2315, 2010

【目的】臨床実習IIは理学療法専攻学生にとって、学外のそれぞれの実習地で、3週間という長期にわたり、同級生と離れて実践し、医療専門職、社会人として対象者と向かい合わなければならない。3週間の臨床実習IIにおける学生の生活情報、精神心理面の情報を収集分析し、学生の主観的満足度、主観的達成度に影響を及ぼす要因を明らかにして、有意義な臨床実習の遂行ができるように、臨床実習指導者及び教員が、精神心理状況も配慮した指導ができるための知見を獲得することを目的とした。<BR>【方法】対象は本学1期生62名(男子42名、女子20名、現役55名、1,2浪7名)である。平成21年2~3月の3週間にわたり実施した3年次臨床実習IIを分析対象とした。データ収集は、臨床実習開始前、臨床実習終了時にオリジナルな質問紙法により収集した。基本情報は、現役浪人区分、通学時間、家族同居有無、同級生との連絡頻度、学内学業成績5分位、1日の帰宅後の学習時間、主観的余裕度、課題量、指導者との人間関係、患者との人間関係、全般的満足度、全般的達成度である。全般的な精神健康度はGeneral Health Questionnaire (GHQ-12)、睡眠状態はPittsburgh Sleep Quality Index (PSQI)、抑うつ状況はZung Self-rating Depression Scale (SDS)を使用した。<BR>【説明と同意】本研究開始にあたり、対象学生に対し、本研究の目的、意義について説明会を開催し文書による承諾を得て実施した。<BR>【結果】主観的満足度は70.7±18.5%であった。また、主観的達成度は59.1±16.7%であった。<BR>1)主観的満足度に影響を与える因子(単相関、P<0.05 *:P<0.01)終了時うつ状態(r= -0.45)*、開始時導眠時間(r= -0.28)、指導者との人間関係(r= 0.46)*、状態不安(r= -0.26)、実習成績(r= 0.38)*、主観的達成度(r= 0.63)*;2)主観的達成度に影響を与える因子(単相関、P<0.05 *:P<0.01)主観的余裕(r= -0.29)、課題困難度(r= -0.27)、終了時うつ状態(r= -0.38)*、開始時導眠時間(r= -0.38)*、指導者との人間関係(r= 0.30)、実習成績(r= 0.31)、主観的満足度(r= 0.63)*;3)主観的満足度に影響を与える因子(重相関・ステップワイズ、P<0.05)、指導者との関係が良好なこと(t=3.0)、うつ状態が低いこと(t=-2.6);4)主観的達成度に影響を与える因子(重相関・ステップワイズ、P<0.05)、指導者との関係が良好なこと(t=2.2)、うつ状態が低いこと(t=-2.1)<BR>【考察】 学生の臨床実習における主観的満足度、主観的達成度は、臨床実習指導者との良好な関係、うつ状態が大きな影響を与えている。臨床実習指導者との良好な関係には、経済産業省が提唱する社会人基礎力(基礎学力、コミュニケーション能力、積極性、問題解決力など)という社会人として活躍するために必要な能力の要素が内包していると考えられる。 社会人基礎力は、学生の臨床実習指導者との人間関係自己評価、臨床実習指導者の総合評価に集約されていると考える。また、もう一つの重要な側面である精神的健康度としてうつ状態の評価が重要である。以上より臨床実習の遂行には、基礎学力、社会性、精神的健康度のいずれも良好であることが欠くことができない条件であり、学生の自己評価として主観的満足度、主観的達成度の評価に現れていると考える。このことが、教員、臨床実習指導者ともに留意して指導にあたる必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】学生の主観的満足度、主観的達成度は、社会人基礎力、精神的健康度が大きく関与しており、臨床実習の鍵を握っている。この点を教員、臨床実習指導者ともに留意すべきであり、個々の学生に応じた目標設定や対応が重要であることを客観的に明らかにした。