著者
吉永 龍史 小野 武也 沖 貞明 大塚 彰 梅井 凡子 星本 諭 中平 剛志 高橋 祐二 小林 弘基
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2062-A4P2062, 2010

【目的】関節拘縮の治療に関わるものは、関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間を知りたい。この検討は動物実験を通して、関節をギプスなどで固定した後、固定を外してストレッチを一日につき一定時間実施し、再び関節を固定する方法で行われている。これを1週程度毎日繰り返し、最終日は固定を外して治療として持続的伸張運動(以下、ストレッチ)を実施した後に、効果判定の関節可動域テストを行っている。ここでポイントとなる点は、最終日の効果判定直前に治療としてのストレッチを行っている点である。先に述べた方法による最終日の関節可動域の効果判定結果は、 2つの影響が含まれていると考えられる。一つは毎日行う関節運動の影響(蓄積効果)である。もう一つは、最終日の関節可動域測定直前のストレッチの影響(即時効果)である。蓄積効果と即時効果を含む方法による研究結果によると、関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間はおよそ30分/日であろうと推測されている。ところが、我々は朝起きるとストレッチを行わないでも関節可動域は維持できている。これは、前日までの関節運動が十分に行われているためと考えることができる。このようなことから、効果判定を行う直前にストレッチを行わないで、関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間を検討することも重要と考えられる。本研究の目的は、即時効果を省き蓄積効果により関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間の検討である。<BR>【方法】8週齢のWistar系雌ラット20匹を用いた。ラットは10匹ずつ無作為に2群に振り分けた。そのうち1群は、左後肢を「正常群」、足関節最大底屈位でギプス固定した右後肢を「固定群」とした。さらに、固定群と同様にギプス固定を行い、2日目から最終日(7日目)の前日までの計5回、1日1回ギプスを外し、麻酔下でバネ秤を用い30gで30分ストレッチを実施した右後肢を「30g伸張群」とした。尚、固定期間は1週間とした。すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌も自由に摂取する事ができるようにした。足関節背屈角度(以下、背屈角度)は、初日と最終日(7日目)の背屈角度を測定した。ただし、実験最終日には、ストレッチを実施しないでギプス除去後に測定した。測定は、麻酔で小型筋力計を用いて30gの力を加えた状態で行った。統計処理は、実験前の各群間の背屈角度の比較に一元配置分散分析を、また各群の初日と最終日の背屈角度の比較をKruskal-Wallis検定によって確かめた後、有意差を認めた場合は多重比較検定にScheffe法を適用した。なお、危険率は5%未満をもって有意とした。<BR>【説明と同意】本研究は、本学の研究倫理委員会の承諾を受けて行った。<BR>【結果】実験前の背屈角度は、正常群が37.9±1.2°、固定群が37.6±1.3°、30g伸張群が37.0±1.6°ですべての群間で有意差を認めなかった。最終日の背屈角度は、正常群が37.9±1.7°、固定群が73.4±4.8°、30g伸張群が84.5±6.5°であった。実験前後の背屈角度の比較から固定群および30g伸張群には、実験後に有意をもって拘縮発生を認めた。また、各群間の比較では、すべての群に有意差が認められ、30g伸張群がストレッチを行ったにも関わらず、関節拘縮が最も発生していた。<BR>【考察】本研究の結果から、最終日にストレッチを行わずに効果判定を行うことで、30分/日で行うストレッチによる蓄積効果のみではギプス固定除去直後に関節拘縮が生じることが明らかとなった。また、ストレッチを行った30g伸張群が固定群と比較して関節拘縮がより悪化していた。ストレッチを行ったにも関わらず30g伸張群が固定群と比較して関節拘縮が悪化した原因について、先行研究によると、ギプス固定1週間のラット足関節の制限因子は、皮膚切開によって10%、下腿三頭筋切除によって80.5%であったと報告していることからも、軟部組織による制限因子であると推測される。そのため、30gによるストレッチが重すぎたのではないかと考えられる。もう一つの原因は関節可動域運動の時間が不足していたと考えられる。小児を対象とした先行研究では1日約6時間の関節運動を必要としている。このことから、関節可動域運動の伸張時間が長いほど関節拘縮を防ぐことができると考えられる。よって、本研究の関節可動域運動の時間は不足していたと考えられる。蓄積効果により関節の動きを維持するために一日に必要な関節運動の時間は、即時効果を含めた場合よりも多くの時間を必要とする可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】日々臨床で遭遇する関節拘縮を予防するために必要な運動時間を知ることは重要である。<BR>
著者
石田 貴恵 横井 輝夫 青山 景治 森田 枝里香
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P2228-E3P2228, 2009

【緒言】認知症者のケアを困難にし,認知症者やその家族のQOLを低下させる主な原因は,記憶や判断,言語などの認知機能の減退ではなく,認知症に伴う行動障害や心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)である.理学療法場面においても,認知症者を対象とする機会は増加しており,彼らの示すBPSDについての理解は不可欠である.本論では,様々なBPSDのうち,施設入所の引き金になり,交通事故の犠牲になる原因でもある徘徊の心理的な特徴について,横井らが作成した人間関係の視点に基づいたBPSDの解釈モデルを用いて分析した.<BR>【対象と方法】対象は介護老人保健施設の認知症専門棟に入所し,認知症と診断された48名のうち,日々徘徊がみられた5名(全員女性でアルツハイマー型認知症,平均年齢78歳)である.この5名について,徘徊の場面を中心に筆者らが3日間観察して,その言動を書き留めた.また介護職員からも情報を得た.対象者を「心の理論」(自己や他者の行動の背景にある直接観察できない心理的な状態-意図や思考など-を推定する能力),「内省」(自己が生きる社会の基準を理解し,それらに照らし合わせて自己の思考や情動,行為が良いのか悪いのかを判断する能力),「自己意識」(自己に注視して自己と他者を区別する能力)の有無で区分された4段階に分類し,各段階でみられた徘徊の特徴について,横井らのモデルとBPSDが出現している実際の場面に基づいて分析した.尚,家族に研究の目的と方法を説明し,書面で同意を得た.<BR>【結果】「心の理論」課題通過者には徘徊は見られなかった.「心の理論」課題未通過で「内省」課題通過者1名は,徘徊している自己を「みんな遊んで歩いていると思ってやる」と悲しそうな表情で筆者に話し,自己が徘徊していることに気づいていた.そして徘徊中「どこ行けばいいか分らん,連れていって」と通りすがる重度の認知症者に話しかけ,曖昧であるが,どこかへ行きたいという目的をもって徘徊していた.また話している途中に手で顔を覆い「わあー,わからんは,どうしてええの」と泣くような表情をし,自己は混乱していた.一方,「内省」課題未通過者3名と「自己意識」課題未通過者1名では,対象者の言動からは,自己が徘徊していることに気づいている様子はなく,徘徊に目的もみられず,夜間も繰り返された.そして,居室や廊下で放尿し,人前で服を脱ぐなど他者の目を気にしないBPSDも見られた.<BR>【考察】自己を内省できなければ,内省できるがゆえの混乱は消失するが,自己が何をしているのかを意識できないため,徘徊している自己に気づかず,徘徊に目的が無くなり,他者の目を気にしない行動をとるようになると考えられた.そして,現在という時間を意識できないため,徘徊は夜間も繰り返されたと推察された.
著者
平石 恒男
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E0989-E0989, 2006

【目的】<BR>脳卒中片麻痺患者にとって、床上での立ち座りは困難な動作の一つである。文献には立ち上がり方法についての記載は多いが、一人で立ち座りができるかどうかを予測する方法を述べているも見当たらない。そこで、今回、片麻痺患者の床上での立ち座りと立位、歩行能力の関連から立ち上がり能力を簡便に判定する方法を検討した。<BR>【方法】<BR>対象は当院に入院中の脳卒中片麻痺患者54名、男34名、女20名、平均年令65.4才、ブルンストローム下肢ステージI,II―5名 III,IV―34名 V,VI―15名 <BR>方法は立位能力を、立位から床への上肢リーチ動作を5段階、歩行能力も5段階に分け、床上での立ち座り動作の可否から関連を検討した。立ち座りについては口頭指示、台の使用を可とした。<BR>【結果と考察】<BR>1.立位姿勢から床への上肢リーチ動作と床上での立ち座りについて、<BR> 立位から手掌が床に着けられたものは37名中32名が自力で立ち座りができた。一方、それができなかった17名は、一人が台を使用してできただけだった。また、床への立ち上がりと下り動作の難易度で、前者は37名中26名が可能であったのに対して、後者が35名と、下り動作の難易度は、ほぼ、床へ手掌が着けられる動作と同じと云えたが、立ち上がり動作は、それに比較して、難しい動作であることが分かった。しかし、立ち上がりに台を使用することにより37名中32が可能となった。したがって、片麻痺患者の立位から床へ手掌が着けられる上肢のリーチ動作能力は床からの立ち上がり、床への下り動作が自力で可能か否かの指標になると考えられた。<BR>2.歩行能力と床上での立ち座りについて<BR> 室内自立歩行群19名中18名が床からの立ち座りが一人で出来、台の使用者は1名のみであった。しかし、監視歩行群では一人で立ち座れたものは半数に止まっていた。このことから、歩行の自立は台などの立ち上がり時の補助用具なしでの、自力での立ち座りの可能性が指摘された。一方、車椅子使用者でも監視歩行ができることにより、一人で床への乗り降りができるものがあることが分かった。<BR>【まとめ】<BR> 今回の研究から片麻痺患者の立位姿勢からの床へのリーチ動作と歩行能力は床上での立ち上がり動作に関連があることがわかった。特に立位姿勢から床への手掌の接地の可否は一人で床上で立ち上がりが出来るか否かの目安になると思われた。
著者
和泉 謙二 川上 勇一 法月 香代 冨田 昌夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2071-A3P2071, 2009

【目的】<BR> 私たちは重力を知覚し基礎的定位をし,視覚情報その他から得られる空間的定位と一致させ行為している.身体内部の非対称性は身体軸の傾きやバランス戦略等動作時の傾向性として表出される.脳血管障害者における治療用ベッド上に斜めに寝るという現象は,その一つの代表例として考えられる.<BR>今回,我々は健常人における軸の傾きやズレに対し,揺すり手技を用いた介入により修正できるか検討し,若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】<BR> 研究の趣旨を説明し同意の得られた健常成人15例(男:9,女:6),平均年齢29.5±5.0歳,視覚認知に問題なく神経疾患の既往がないものを対象とした.尚,本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.<BR>【方法】<BR> 頸部の軸を計測するために眉間,下顎中央に,体幹の軸を計測するために胸骨上切痕,臍にマーキングし,それぞれを結ぶ直線をベッド端まで延長した点の頭側および尾側の差とベッド長軸の長さから三角関数により傾き角度および頸部・体幹軸のズレを算出した.測定はそれぞれ安静臥位,視覚導入後,頸部からの揺すりによる介入後において行った.統計手法は求められた平均値より対応のないt検定(有意水準5%)にて比較検討した.<BR>【結果】<BR>1) 頚部の傾きは安静臥位3.2±1.6°,視覚導入後2.4±1.4°,揺すり介入後1.2±1.3°となった.体幹の傾きは安静臥位2.5±1.6°,視覚導入後2.5±1.6°,揺すり介入後1.4±1.2°となり,平均値の差の検定では頸部・体幹とも揺すり介入後が安静臥位ならびに視覚導入後よりも傾きが減少する傾向を認めた(p<0.05). <BR>2) 頸部・体幹の軸のズレは安静臥位3.3±2.2°,視覚導入後2.0±2.1°,揺すり介入後2.2±2.0°と安静臥位より視覚導入後および揺すり介入後において軸のズレが減少したが,優位な差を認めなかった.<BR>【考察およびまとめ】<BR> 私達は無意識下に重力を知覚し,自身の姿勢や行為を決定している.人間が重力に抗して活動するためには正中を知り,振れ幅の少ない左右均衡した中で動くことが,経済的である.<BR>しかし,実際に自分の正中がどこなのか明示するものはなく動くことによりボディイメージが形成され,視覚情報と一致するという知覚循環のもとに自分の位置,構えを知覚している.筋活動の不均衡や可動性の制限が生じると「動かせない」「知覚できない」身体部位ができ,知覚循環により空間との関係性を知ることが困難になると考える.<BR>今回の測定結果より,頸部からの揺すり介入は,過活動な表在筋群の緊張を抑制し,Parking FunctionあるいはDynamic Stabilizationの状態に近づけることで知覚しやすい身体づくりが可能となることで身体軸の修正,基礎的定位と空間的定位の一致させる上で有用な介入であることが示唆されたものと考えられる.
著者
吉田 盛児
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.667-667, 2003

【はじめに】 介護老人保健施設(以下、老健とする)では中間施設としての役割の一つに在宅促進がある。在宅促進には介護力、住環境、家族背景の整備などが必要とされ、それぞれが複雑に関係しているといわれる。また、「歩けるようにさえなれば家に帰れる・・・」、「痴呆がひどいから退所はちょっと・・・」、「ADLが自立していないから退所は無理」など、利用者やご家族、時には職員の声も聞かれる。そこで、介護サービスの必要度(各要介護認定等基準時間)と入退所との関係を調査・分析し関連性を検討したので報告する。<BR>【対象および方法】 平成12年4月から平成14年6月までに当園を入所利用された14ヶ月以上入所されている男性3名、女性26名、平均年齢83.69±5.82歳の長期入所者と、自宅に退所された男性9名、女性31名、平均年齢85.28±7.39歳の自宅退所者、医療機関に転院された男性3名、女性25名、平均年齢83.04±8.57歳の病院退所者の計97名を対象とした。そこで全97名を対象に各要介護認定等基準時間ごとにK-Means法を用い統計的に基準時間が長いケースと短いケースの2群に大別し、2群を更に長期入所群、自宅退所群、病院転所群の3群に分類し、各要介護認定等基準項目ごとに二元配置分散分析を用いて両群の関係を調査・分析した。<BR>【結果】 直接生活介助:長期入所_-_病院転所、自宅退所_-_病院転所間において長期入所、自宅退所の方が病院転所に比べ有意に介助時間が短かった。(p=0.0028、p=0.001) 間接生活介助:長期入所_-_自宅退所、長期入所_-_病院転所、自宅退所_-_病院転所間において自宅退所、長期入所、病院転所の順に介助時間が有意に短かった。(p=0.0059、p=0.0277、p=0.0000) 問題行動関連介助:有意差を認めなかった。 機能訓練関連行為:有意差を認めなかった。 医療関連行為:有意差を認めなかった。<BR>【考察】 今回の結果により老健からの自宅退所には直接生活介助時間の短縮よりも間接生活介助時間を短縮する必要があることが示唆された。これは、機能訓練関連行為時間に有意差がなかったことからも生活関連動作が在宅復帰に大きく関与していると考えられ、今後の老健でのリハビリテーションのあり方を示唆するものと考える。また、問題行動関連介助時間と在宅復帰に有意差が認められなかったのは要介護認定等基準時間の問題行動関連介助時間の値が小さく統計的に時間が長いケースと短いケースに分類する際偏りが出たことが原因と思われる。このため、今回の結果からは両群の関係は明確にはできなかったが今後さまざまな要素との関係を明確にし在宅復帰に積極的に取組みたいと考える。
著者
松井 陽佑 奥山 拓朗 市川 勝 安部 記子 渡邉 和裕 吉野 靖
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea1028-Ea1028, 2012

【はじめに、目的】 転倒予防対策の方略としては,対象者個々の転倒リスクの評価に基づき転倒の内的・外的要因を解消させるための取り組みを行うべきであるが,簡便且つ客観的な評価方法は未だ統一されていないのが現状である.特に通所系サービスでは利用初日から送迎や移動を伴うため,初回利用日までに転倒リスクを判定し,結果を関連職種で共有しておくことが望ましく,またケアマネジャーをはじめ関連職種との情報共有にも配慮することが必要である.そこで本研究では,当院通所リハセンター利用者の転倒に関するデータを収集・解析し,転倒状況から転倒と関連のある項目を抽出することを目的とした.【方法】 要介護高齢者の転倒要因については,関連文献(Karenら 2001, 他)から抽出するとともに,全国回復期リハ病棟連絡協議会が作成した『転倒リスクアセスメントシート(以下,アセスメントシート)』の項目を準用した.このアセスメントシートは,【a.転倒歴,b.中枢神経麻痺,c.視覚障害,d.感覚障害,e.尿失禁,f.中枢神経作用薬,g.移動手段,h.認知障害】の全8項目からなり,各項目の有無により0~2点を与え,合計点からリスク1(0~3点,転倒の可能性がある),リスク2(4~6点,転倒を起こしやすい),リスク3(7~10点,転倒をよく起こす)の3グループに分類するものである.これらを合わせた全38項目を取り入れた追跡記録用紙を作成し,当通所リハセンターの看護師・介護福祉士・PT・OTにより,プロジェクト開始時以降3ヶ月ごと,および転倒時に記録された.対象者は,平成23年4月1日時点で当院通所リハを利用中の要介護者107名(男61名,女46名,平均73.3±9.0歳,要介護度1:18名,2:32名,3:26名,4:25名,5:6名)で,それぞれプロジェクト開始日から前向きに追跡調査された.3ヶ月間収集したデータについては統計学的検討を行い,非転倒者と転倒者との比較において転倒と有意な関連性のある項目の抽出を試みた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施している.【結果】 観察期間中の転倒発生件数は24件(22%)であった.107名のうち16名(15%)が1回以上の転倒を経験し,6名(6%)が複数回転倒者であった.転倒場所は居室が最も多く(46%),転倒の96%が日中に発生していた.転倒時の外傷状況として,10件の転倒では外傷はみられず,14件(58%)にて打撲・切創・擦創がみられた.大腿骨頚部骨折や頭部外傷等の重篤な外傷はみられなかった.また,臨床データと転倒の有無をクロス集計にて整理しχ2適合度検定の結果,臨床データと転倒の有無に有意な差を認めた項目は,「中枢神経麻痺の有無」,「中枢神経作用薬の使用」,「過去1年の転倒歴」,「背中が丸くなった」,「1人で動こうとする」,「つまづくことがある」であった(p<0.05).【考察】 通所系サービスでは,利用初日から送迎や移動を伴うため,初回利用日までに転倒リスクを判定し,結果を関連職種で共有しておくことが望ましい.その意味で,本研究は簡便かつ客観的に評価できるアセスメントシートを作成するためのデータ収集の端緒となりうるものと考えられた.また,在宅ケアには様々な職種が関わるため,複雑な判定基準を要するアセスメントは使いにくい.本研究における評価には,PT・OTだけではなく看護師や介護福祉士も加わっており,今回の評価項目が多職種協働のツールとなり,ひいては情報共有の一助になる可能性が示唆された.本研究の転倒群・非転倒群の比較では6項目において有意差を認めたが,調査期間が短いことから今後は症例数を増やして調査を継続していく必要がある.なお,将来的には症例数や調査期間を再調整したうえで,転倒関連項目の統計学的抽出を行い,通所リハで活用できる簡便な転倒リスクアセスメントシートの作成につなげていく予定である.【理学療法学研究としての意義】 高齢者が要介護状態となった様々な要因を踏まえて転倒リスクを判定することは,転倒予防に有用である可能性がある.将来的に,本研究の結果に基づいた簡便に判定できるアセスメントを作成する予定であり,在宅支援に関わる専門職種間での情報共有を図る端緒として有意義である.
著者
大賀 一郎 細井 匠 牧野 英一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E3O1202-E3O1202, 2010

【目的】近年,精神科病棟においても患者の高齢化が著しく,全国で約33万人の精神科病棟入院患者のうち42.2%が高齢者という状況である。当院でも入院患者の高齢化に伴い,転倒・転落事故がアクシデントの上位を占めるに至っているが,その原因として精神科病棟の環境にも一因があるのではないかと考えた。そこで,当院の精神科病棟の職員が病棟のどのような場所を危険度が高いと判断しているのかを把握するとともに,過去一年間に起きた実際の転倒・転落事故のデータと対照させることで,転倒事故の環境要因に対する意識啓蒙につなげることを目的に調査を行った。<BR><BR>【方法】調査1では職員の意識調査として,「精神科病棟における環境面での転倒危険度意識調査」を精神科病棟に勤務する60名の看護師および介護士を対象にアンケート調査を行った。アンケートでは病棟の見取り図を作成し,病室,廊下,トイレ,浴室,ナースステーションなど全箇所に番号を振り,それらの箇所について5件法で転倒危険度の評価を行ってもらった。調査方法はデルファイ法を用いた。この方法はアンケート方式で対象者全員に対して行った質問の回答分布(中央値,四分位範囲)を各対象者にフィードバックしながらアンケートを繰り返すことで全体意見の合意,集約を図るものである。アンケートでは他にも,転倒の危険度が高いと判定された場所について,その理由や改善方法などの自由意見を求めた。調査2ではアクシデントレポートと看護記録をもとにして平成20年8月から平成21年7月までの1年間に実際に起きた転倒・転落事故を調査し,リサーチした場所での実際の転倒件数を集計した。<BR><BR>【説明と同意】職員へのアンケート調査に際しては事前に調査目的と方法の説明を紙面にて行い,同意した職員を対象に調査を行った。転倒・転落事故の調査に関しては個人名が特定できないようプライバシーに配慮した。<BR><BR>【結果】調査1では,職員に対する環境面での転倒危険度意識調査としてアンケートを3回繰り返し,集計結果に変化がないか検討するために,1回目と2回目,2回目と3回目の間で,有意水準を5%未満としたWilcoxonの符号付順位検定を用いて検討した。その結果,全ての調査箇所において,職員の転倒危険度に対する評価に有意な変化は無く,四分位範囲は狭まったため,意見は集約されたと考え,3回目のアンケート結果を分析対象とした。職員の危険度評価は5件法によるもので順序尺度であるが,危険度評価をランキングするため間隔尺度とみなし,平均値を算出した。その結果,1位が浴室で4.81,2位が脱衣所で4.40,3位がトイレで4.14であった。また,自由意見の集計結果では「水・尿による床の濡れを原因とする転倒」を危惧する意見が突出して多かった。調査2の転倒調査では,174件の転倒・転落事故を分類した結果,1位が病室で57件,2位がホールで32件,3位が廊下で23件であった。<BR><BR>【考察】精神科病棟では水に執着する患者も多く,不安定な歩行でコップに入れた水を床にこぼしながら持ち歩く患者も見受けられる。トイレは尿による床の汚染ですぐに滑りやすい状態になってしまう。このような環境の中で,精神科病棟職員は床面の濡れを原因とする転倒には日常的に注意している。今回の調査の結果でも精神科病棟職員の危険度評価は浴室周辺やトイレなど水濡れを原因として転倒の可能性の高い場所を危険度が高いと認識している。しかし,それに対して実際の転倒調査では病室における転倒事故が一番多く,職員の危険度認識と実際の転倒・転落事故の発生場所が乖離している結果であった。これは,裏を返せば職員が危険を認識している浴室,脱衣所では職員も近くにおり,十分に注意が行き届いているために転倒事故を未然に防いでいるのではないか,とも考えられる。一方,病室内は常に職員が監視することは難しい場所である。しかし,今後は実際の転倒・転落事故の多くが病室内で発生しているという事実を認識することが必要だと考える。当院は元々高齢者対象の施設ではなく,精神科病棟の廊下に手すりが無い,トイレ入口に段差があるなど,環境面での転倒危険因子が存在する。また,病室によってはポータブルトイレが多く混み合っていたり,ベッド下に衣装ケースがあるために衣類を取り出すたびに床面近くまで屈みこむ動作を強いられる環境があり,これらの環境面における転倒危険因子を少しでも除去していくことが転倒・転落事故の減少に結びつくと考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】環境面から見た転倒危険度を,職員の認識と実際の転倒・転落事故の調査結果を対照させることで,職員の意識の盲点となっている転倒危険箇所を抽出し,それに対して環境面での転倒危険因子を除去するとともに,職員の意識啓蒙に繋げることで転倒・転落事故を減少することが出来ると考える。
著者
岡 真一郎 矢倉 千昭 緒方 彩 加来 剛 城市 綾子 濱地 望 木原 勇夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O1033-A3O1033, 2010

【目的】高齢者が自立した生活を送るためには,下肢筋群の筋力を維持,向上させることが重要である.高齢者における下肢筋群の筋力低下は,歩行能力やバランス能力の低下によって転倒リスクを増加させる.また,転倒は頭部外傷や骨折などの原因となるだけでなく,転倒への不安や恐怖感から行動制限を引き起こし,ADL,QOLの低下を招くことが示されている.これらのことから,高齢者の下肢筋力評価による筋力低下の早期発見は,介護予防における筋力の維持,向上のために重要である.高齢者に対する簡易的な下肢筋力評価には,椅子からの立ち上がり動作を一定回数行ったときの時間,一定時間行ったときの回数を測定値とする椅子立ち上がりテストがよく用いられている.一方,同じ高さの椅子からの立ち上がり動作は,対象者の体重,下肢長など体格の違いによって力学的な仕事量に差が生じることから,立ち上がり回数や時間よりも立ち上がり動作の仕事率(立ち上がりパワー)で評価する方が下肢筋力を反映する可能性がある.そこで,本研究は,糖尿病予防セミナーに参加した壮年女性を対象に10回椅子立ち上がりテスト(Sit-to-Standテスト,以下STS)の立ち上がり時間(STS-time;STS-T)および立ち上がりパワー(STS-Power;STS-P)と等尺性膝伸展力との関係について調査した.<BR>【方法】対象は,島根県出雲市に在住する住民で,糖尿病予防セミナーに参加した女性47名であった.対象者の基本特性は,平均年齢58.3±4.9歳,身長1.55±0.1m,体重54.2±6.7kg,BMI22.6±2.7kg/m2であった.測定は,STS,等尺性膝伸展力の順で行った.STSの測定は,対象者に両上肢を胸の前で組ませ,両下肢を肩幅程度に開き,膝関節を軽度屈曲させ,高さ42cmの安定した椅子から立ち上がって座る動作を10回行った時間(STS-T)を2回測定し,その平均値を代表値とした.STS-Pは,椅子の高さから立位での重心位置までの仕事率とし,立位での重心位置を身長の55%として推定し,STS-P=(身長×0.55-椅子の高さ)×体重×重力加速度×立ち上がり回数/立ち上がり時間,の計算式で算出した.等尺性膝伸展力は,徒手筋力計(μTas F-1,アニマ社)を用い,対象者を診察台に座らせ,徒手筋力計の歪みセンサーをつけたベルトを診察台の支柱に固定し,歪みセンサーを下腿遠位部にあて,股関節90°,膝関節90°屈曲位での等尺性膝伸展力を左右交互に2回ずつ測定した.等尺性膝伸展力の代表値は,左右の最大値の平均値とした.統計解析は,SPSS 11.0J for Windows(SPSS Inc.)を用いて,STS-TおよびSTS-Pと等尺性膝伸展筋力との関係はPearson積率相関分析を行い,危険率5%未満をもって有意とした.<BR>【説明と同意】セミナー開始前,参加希望者から事前に書面にて説明と同意を得てから実施した.なお,本研究は島根大学医学部・医の倫理委員会の承認を得て実施された.<BR>【結果】STS-Tは,等尺性膝伸展筋力と有意な相関はなかったが,STS-Pでは有意な相関があった(r=0.37,p<0.01).<BR>【考察】本研究の結果,STS-Tは等尺性膝伸展力と有意な相関がなかったが,STS-Pでは有意な相関があった.身長から推定した立位での重心位置と体重から算出した立ち上がりパワーは,従来の立ち上がり時間による指標よりも下肢筋力を反映できるのではないかと考える.しかし,STS-Pと等尺性膝伸展力との相関は,r=0.37(p<0.01)と低かった.STS-Pの計算式における重心位置は,身長からの推定値を用いていることから,STS-Pの値に影響を及ぼした可能性がある.また,フィールド調査における徒手筋力計を用いた等尺性膝伸展力の測定では,シートやベルトによる体幹および大腿部の固定が不十分であり,発揮された筋力が部分的に歪みセンサーへの応力として伝達されなかった可能性がある.今後は,地域高齢者やリハビリテーション対象者に対する椅子からの立ち上がりパワーと下肢筋力との関係について,さらなる調査が必要である.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】椅子からの立ち上がり回数や時間を指標とするより,体格を考慮した椅子からの立ち上がりパワーは,地域高齢者やリハビリテーション対象者における簡易下肢筋力評価として有用になる可能性がある.
著者
隅田 祥子 張 元 渡部 和彦 浦辺 幸夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.144-144, 2003

【はじめに】着地衝撃には幅広い周波数が含まれており、人間の感覚として、骨を通じて生体内に伝播される低周波帯の振動は、皮膚や脂肪、筋肉組織に吸収されやすい高周波帯の振動よりも不快であり、着地衝撃の大きさが同一であっても含まれる周波数成分によって感じ方が異なると考えられている(西脇,2000)。これまでに乾燥脛骨を用いて、叩打部位による一定の振動モードが認められることが報告されている(Nakatsuchi et al.,1996)。本研究では生体において、ジャンプ着地によって足部から入力される衝撃が脛骨の各部位にどのような周波数帯で伝播されるのか、加速度の周波数解析を用いて検討した。【対象】本研究の趣旨に同意が得られ、下肢に既往歴をもたない男性6名(平均年齢20.5±0.8歳、身長168.0±6.4cm、体重57.8±7.6kg)とした。【方法】脛骨の内果および内側顆、前縁上の4箇所(脛骨近位80%・60%・40%・20%)、計6箇所に加速度計(MA3-10AC、MicroStone社製)を装着し、床反力計(5007Y15、KISTLER社製)上で最大努力によるジャンプから左片脚着地を行った。この時の床反力および各部位の脛骨に対して長軸方向の加速度を測定・記録し、MemCalc/Win(周波数解析ソフト、諏訪クラスト社製)による周波数解析を行った。西脇(2000)は着地時の加速度の周波数分析を用いてソール素材の違いによる衝撃緩衝能の評価をし、この評価がより人間の感覚に近い評価であることを確認しており、素材の違いにより15-35Hzの低周波帯でのパワースペクトルの減衰量に大きな違いがみられたとしている。このことから本研究では評価指数として15-35Hzのパワースペクトルの面積(PSD)を用いた。PSDの各部位間での有意差は、Wilcoxonの符号付順位検定を用い危険率5%未満で求めた。【結果】測定部位ごとのPSDは、内果では23.77±20.73、脛骨近位80%では31.93±14.82、脛骨近位60%では44.47±17.34、脛骨近位40%では86.52±42.69、脛骨近位20%では51.01±31.04、内側顆では53.96±43.47であり、個々により値の大小はあるものの、脛骨では全対象において近位40%で最も大きな値を示した。さらに、脛骨近位40%でのPSDは、内果、脛骨近位20%および80%でのPSDよりも有意に大きな値であった。【考察】本研究から脛骨に対するジャンプ時の着地衝撃の垂直成分は、脛骨近位40%に低周波成分が集中していることが認められた。このように骨を通じて伝播されやすい成分が多く検出される部位は、従来より指摘されている跳躍型疲労骨折の好発部位(脛骨中央部前方)に一致することが示された。このことから両者の間には因果関係があるかもしれない。
著者
國津 秀治 山下 堅志 永井 宏達 窟 耕一 今田 晃司 亀井 滋
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ad0811-Ad0811, 2012

【はじめに、目的】 近年,タブレット型コンピュータ(以下,タブレットPC)が開発され,様々な分野への応用が期待されている.医療分野では,遠隔治療や電子カルテなどに応用されており,その有用性は確認され始めている.しかしながら,理学療法分野への応用に関する報告はなく,その可能性を模索する必要がある.そこで本研究では,理学療法においてタブレットPCをどのように使用できるのか,またタブレットPCを使用することが患者にとって有用になり得るのか,当院での取り組みを報告する.【方法】 今回,当院ではタブレットPC(Apple社製,iPad2)を使用し,対象はタブレットPCを用いた理学療法に承諾が得られた当院外来受診患者とした.タブレットPCはリハビリテーション室に配置し,理学療法施行中の姿勢・動作分析の説明と,セルフエクササイズの指導に使用した.姿勢分析の説明では,坐位や立位で患者に不良肢位が観られた際に,不良肢位をタブレット型PCで静止画撮影した.撮影した静止画はタブレットPCに即座に表示させ,画面を患者と供覧し,姿勢の特徴の説明を行なった.治療改善後,再度撮影し,患者に改善点を確認してもらった.次に動作分析では,立ち上がりや歩行などの患者の動作を動画撮影し,撮影した動画の説明には,2つの動画を同時再生できるアプリケーション(ぽかぽかライフケア社製,療法士の動作分析,以下,アプリ)を用いた.治療前に動画を撮影し,タブレットPCに表示し,患者と供覧しながら改善すべき動作の確認を行なった.治療改善後,再度患者の動作を動画撮影し,治療前,治療後の動画を同時再生し改善点を供覧した.最後にセルフエクササイズの指導では,既存アプリが存在しないため,ストレッチや筋力増強運動の当院独自の解説テキストを作成した.理学療法施行中,セルフエクササイズの指導が必要となった際には,タブレットPCから必要なテキストを選択し,無線LAN接続したプリンターで即座に印刷して患者に手渡した.タブレットPCを用いた理学療法の患者の受け入れを調査するため,対象患者には理学療法施行後に問診による聞き取りを行なった.またタブレットPCの理学療法への汎用性を調査するため,担当理学療法士への問診による聞き取りも行なった.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の目的及び趣旨を口頭で説明し,参加への同意を得た.【結果】 対象患者への問診では,従来の治療の説明に比べ,視認性の向上と治療への理解が得られやすくなったとの意見が挙げられた.担当療法士からは,1)タブレットPCの使用により,患者の姿勢や動作を静止画や動画で視覚的に確認することができるようになった,2)患者の姿勢の静止画や動作の動画は経時的に保存でき,患者の状態変化の把握が容易となった,3)姿勢の静止画や動作の動画を即座に患者と供覧することが可能になり,状態を視覚的に説明することが可能になった,4)必要に応じてタブレットPCからセルフエクササイズのテキストを選択して印刷でき,時間の短縮につながった,などの意見が挙げられた.【考察】 今回,理学療法施行中の姿勢・動作分析の説明と,セルフエクササイズの指導にタブレットPCを用いて取り組んだ.タブレットPCを使用することで,視認性が向上し,治療に対する理解の共有化が図りやすくなったという意見が,患者・スタッフ双方から得られ,理学療法場面でのタブレットPC利用の有用性,及び汎用性を示唆していると思われる.タブレットPCは持ち運び易く,操作が容易であるため,患者に評価や治療効果を即座に,視覚的にフィードバックできる利点がある.一方,タブレットPCの使用に関しては,理学療法関連の数少ない既存アプリを使用するか,独自の使用方法を考案する必要があり,今後アプリの開発が待たれる.またネットワーク構築によりスタッフ間での情報共有も容易となるが,セキュリティ対策が不可欠である.これら諸問題をクリアできれば,理学療法施行場面において, タブレットPCは患者と理学療法士の間を取り持つツールに成り得る可能性が非常に高い.今後は,タブレットPCの使用前後での,治療に対する理解度や満足度などの定量的評価を行うとともに,治療効果への影響を検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 理学療法分野においてもタブレットPCの使用が,治療の一助になり得る可能性があるものと考える.
著者
明﨑 禎輝 野村 卓生 森 耕平 片岡 紳一郎 中俣 恵美 浅田 史成 森 禎章 甲斐 悟
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101832-48101832, 2013

【目的】虚弱高齢者でも実施可能なように福島県喜多方市で開発された「太極拳ゆったり体操」(以下,体操という)は,運動器の機能向上(AGG,2011)や新規の要介護認定の発生を抑制する(日老医会誌,2011)ことが証明されている.しかしながら,4種類ある体操の型(坐位版2種類,立位版2種類)について,呼吸循環系から体操の安全性について検討された報告はない.本研究は,後期高齢者を対象として,体操の安全性を呼吸循環動態から検証することである.【方法】対象は,地域在住高齢者に対する太極拳ゆったり体操プログラムの介護予防効果(UMIN000006991)の臨床研究に参加している70歳以上の3例の女性とした.年齢,BMI,安静時心拍数と血圧は,それぞれ対象1では71歳,29.2kg/m2,73回/分,142/85mmHg,対象2は76歳,21.4kg/m2,77回/分,158/77mmHg,対象3は75歳, 23.5kg/m2,66回/分,157/94mmHg,であった.体操は,坐位での2種類(約11分と6分),立位での2種類(約13分と6分)の4種類である.安全性の検証方法は,椅座位での安静3分後に4種類をランダムに十分な休息時間を設けて1日に2種類ずつ,2日で計4種類を実施した.評価項目:体操前後に血圧,Borg scaleを測定した.また,携帯型呼気ガス分析装置エアロソニックAT-1100(アニマ社)を用い,体操中の呼吸数,心拍数や呼吸商(RQ)を測定した.【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭で説明を行い,同意のもとに研究を実施した.本研究は,学内研究倫理委員会で承認を受けた.【結果】対象1:体操中の最大心拍数は坐位版,立位版でそれぞれ82回/分,85回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.16を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めず,逆に低下する傾向にあった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大25回/分,26回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象2:体操中の最大心拍数は坐位版・立位版でそれぞれ84回/分,93回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.24を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めなかった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大23回/分,23回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象3:体操中の最大心拍数は坐位版,立位版でそれぞれ74回/分,85回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.24を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めなかった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大22回/分,24回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象3例の平均RQは坐位版で0.87±0.10,立位版で0.84±0.07,体操のMetsは坐位版で最大2.17Mets,立位版で最大2.83Metsであった.また,体操中の最大Borg scaleは,対象2において立位版で13「ややきつい」であった.【考察】対象3例において,体操実施時の最大心拍数はカルボーネン式のおおよそk=0.2程度であったこと,RQの平均も0.8であったことから,体操の坐位版,立位版ともに脂質代謝優位の有酸素運動であると考えられた.また,Metsからは坐位版ではゆっくりとした歩行,立位版では67m/分での歩行程度の身体活動量(Med Sci Sports Exerc. 2000)であると考えられた.体操後に血圧の上昇は認めず,体操実施中の呼吸回数の大きな増加や変動(呼吸数の減少)を認めなかったことから,バルサルバ様式(息をこらえて止める)を必要としない運動であると考えられた.一方,Borg scaleは対象2において最大で13「ややきつい」を認めたが,これは立位版で下肢筋力の発揮を必要とする運動パターンにおいて認めたものであり,呼吸循環系の自覚的負担を訴えるものではなく,対象3例において適切な負荷量であると考えた.以上を総合して,本体操は後期高齢者にも安全性の高い運動プログラムの一つであると考えられた.【理学療法研究としての意義】体操実施前中後の健常な後期高齢者における呼吸循環動態が明らかとなり,今後,体操を適応する対象を患者へ拡大していく上での基礎資料となる.また,本研究で得られた体操のRQやMetsは,肥満症や動脈硬化性疾患などの生活習慣病予防・改善への効果を検討する上での基礎資料となる.
著者
久保 祐子 山口 光国 大野 範夫 福井 勉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.118-118, 2003

【はじめに】我々は、身体を上半身と下半身とに分けた各々の質量中心点より身体重心を求める「身体重心点の視覚的評価」を考案し、臨床場面で姿勢や動作を観察する際に利用している。第36、37回日本理学療法士学術大会において、この評価をもとに歩行時の上半身の動きについて調査し、上半身質量中心点の動きが歩行時の身体重心の移動や調節に関係していると考えられた。今回は、これまでに調査した上半身の回旋運動と左右座標における上半身質量中心点の動きとの関係を調査し、さらに検討した。【方法】対象は健常者10名(男性5名、女性5名)、平均年齢25.7歳であった。動きの観察には三次元動作解析装置VICON370(oxfordmetrics社製)を用い、被験者の身体に13標点(左右肩峰、大転子、外果、第2、7、11胸椎棘突起より左右へ5cmの位置、第7胸椎棘突起)を付け、自由に歩行したところを観察及び計測した。歩行中の上半身回旋運動は、第7胸椎レベルに対する第2、第11胸椎レベルの回旋角度変化から、その回旋方向について、また歩行中の上半身質量中心点の動きとして、第7胸椎の左右座標における移動方向と速度及び加速度変化を調査した。【結果】全被験者において、上半身の回旋運動は第7胸椎の上部と下部で反対方向へ回旋し、踵接地から反対側踵接地までは、立脚側において上部は後から前、下部は前から後へ回旋していた。左右座標における第7胸椎の移動は、踵接地から立脚中期にかけて立脚側へ移動し、立脚中期に最大となり、その後、反対側へ移動していた。これは各部位においても同様の傾向を示した。上半身質量中心点における速度及び加速度は踵接地時にその方向が替わり、踵接地時には、次の支持基底面側への変化を示していた。【考察】今回の結果から、上半身質量中心点の存在する第7胸椎を支点として上半身の回旋運動が認められ、これまでの報告と同様に、効率の良い重心移動に関係していると考えられる。また、上半身質量中心点の左右座標における移動に関しては、他の部位における動きと同様であることから、これらは支持基底面上に身体重心を移動させるための変化として捉えられる。しかし、上半身質量中心点の速度及び加速度変化に着目すると、踵接地時には次の支持基底面側への力を受けており、上半身では、すでに反対側への対応が開始されているものと推察される。これまでの上半身質量中心点の観察は、身体運動に伴う受動的な変化として捉えられていたが、今回の調査から、単に受動的な変化だけでなく、連続した運動における能動的な身体調節が行われている可能性が示唆された。 今後このような上半身質量中心点の特徴を踏まえ、下半身の動きを調査に加え、歩行時における身体重心位置の調節について更に検討する必要があると考える。
著者
藤丘 政明 井上 敦 森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1150-C4P1150, 2010

【目的】<BR> 肩甲上腕リズム(Scapulohumeral Rhythm:以下、SHR)が破綻している症例において、筋力や臼蓋上腕リズムの動きなど局所の状態は改善しているものの、全体として協調した動きの獲得に難渋することは多い。そこで今回、拘束条件として肩甲骨の動きを制限する患側を下にした側臥位での挙上運動が、全体として協調したSHR獲得に及ぼす影響について明らかにすることを本研究の目的とする。<BR>【方法】<BR> 本研究を行うにあたって、患側を下にした側臥位でのアプローチ(以下、SL法)では患側を下にした状態で90°側臥位をとることで、自重にて肩甲骨の自由な動きは制限されるので、その環境で挙上をすることで肩甲骨の動きを用いない動作となり、SHR獲得につながるのではないかと仮説を立てた。その仮説を検証するために、肩関節挙上時に代償動作として肩甲骨挙上がみられる症例に対して、SHR再獲得に一般的に用いられている鏡でのフィードバックを用いた方法(以下、FB法)とSL法を行い、アプローチ前後の即時効果を90°前方挙上時、Empty can test(以下、ECT)とFull can test(以下、FCT)での90°外転時における僧帽筋上部線維(Trapezius Upper:以下、TU)の筋電図積分値(以下、IEMG)と肩甲骨外転距離という評価項目を用いて比較した。FB法では鏡でのフィードバックを行いながら代償の出ない範囲での挙上運動を50回実施し、SL法では患側を下にした90°側臥位の状態で0°~90°までの挙上運動を50回実施した。対象は棘上筋断裂修復術を施行してから4ヶ月が経過している50代女性で、他動運動での可動域制限や疼痛はなかった。筋力はマイクロFET(日本メディックス社製)を使用して測定したが、安定性を高める筋である僧帽筋中部線維などについては健側と比べて80~90%程度であった。また、棘上筋の機能については、萎縮はほとんど見られず、Drop Arm Test(-)、Jobe Testでの筋力は健側に比べ85%程度であった。90°前方挙上時の患側の肩甲骨外転距離は健側と比べ3cm大きく、TUのIEMGも患側の方が大きかった。表面筋電計にはユニバーサルEMG((有)追坂電子機器製)を用いた。TUの電極貼付部位は、C7と肩峰を結んだ線上でC7より2cm外下方とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には本研究の趣旨を十分に説明し、理解を得た上で同意書に署名していただいた。<BR>【結果】<BR> FB法では、運動中のTUのIEMGは減少していたものの、評価項目での改善は得られなかった。患側を下にした運動中には、肩甲骨の外転距離にほとんど変化はなく、挙上時におけるTUのIEMGは0.8から0.1へと減少した。アプローチ後では、座位での前方挙上時におけるTUのIEMGにはほとんど変化は見られなかったが、肩甲骨外転距離は1cm程度改善し、「だいぶ肩甲骨が上がってこなくなったような気がする」という主観的な訴えも聞かれた。また90°外転時では、FCTでのTUのIEMGはほとんど変化しなかったものの、ECTでのIEMGは2.2から2.0へと減少した。<BR>【考察】<BR> 本症例は、肩関節周囲筋には健側とほぼ同等の筋力を有しているにもかかわらず、挙上時には肩甲骨の代償動作を伴った運動パターンが残存していた。そこで、運動パターン改善のためにFB法とSL法を行ったが、結果としてFB法では運動パターンに変化が得られなかった。この要因としては、鏡からの視覚的フィードバックによって、代償動作が出ない範囲での運動は行えるが、あくまで代償動作が出ない範囲の運動であるため、代償動作が出現する肢位での運動パターンの変化には結びつかなかったのではないかと考えられた。一方、SL法では肩甲骨外転距離やTUのIEMGが減少した。これについては仮説で考えたように、挙上運動時に運動の拘束条件として肩甲骨の動きを制限したことで、TUによる代償動作が行ないにくくなり、肩甲骨の動きを用いない動作が可能になったためではないかと考えられた。そうすることで代償を用いないパターンでの運動学習が行え、座位での運動パターンの改善に繋がったのではないかと考えられた。また、SL法は無意識下での運動が可能であるので、ホームエクササイズとしての指導が容易であり外来通院患者のSHR獲得の一助にもなりうるのではないかと考えられる。ただ、SL法は本症例のように疼痛がない場合には適応できるが、SL法が疼痛を惹起するような症例に対しては禁忌であると考えられる。そういった症例に対してどういった方法を用いるかについては今後の課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>患側を下にした側臥位でのアプローチがSHR獲得に及ぼす影響について明らかにすることで、局所の状態は改善しているにもかかわらず肩甲骨挙上のパターンを呈している症例に対するSHR獲得への介入方法の一助となり得る。
著者
溝口 桂 川端 悠士 南 秀樹 田口 昭彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db0573-Db0573, 2012

【はじめに】 糖尿病療養に於ける運動療法の自己効力感(self-efficacy;SE)を高める教育は,運動療法へのアドヒアランスを向上させる為に効果的である.またSEの向上は生活習慣の改善に結びつき糖尿病の治療や予防に有効であるとされている.糖尿病を対象とした運動療法の効果に関しては緒家らにより多く報告されているが,運動療法前後の自己血糖測定(selfmonitoring of blood glucose;SMBG)がSEに与える影響を検討した報告は渉猟の範囲では見当たらない.そこで,今回糖尿病教育目的で入院となった患者に対し,アンケート調査にてSMBGによるSEの有効性を検証し,当院の運動療法効果を立証すると共に考察を得たので報告する.【方法】 2010年7月から11月の間に糖尿病教育目的で入院した20例(男性14名,女性6名)を対象とした.病前から日常生活自立度が低い者(日常生活自立度判定B以下),高度な認知機能の低下によって調査理解困難な者,重篤な合併症(3大合併症,それ以外)を有する者は除外した.介入方法としては対象者をSMBG実施群(以下,介入群:男性8名,女性4名:平均年齢66.1±12.4歳)とSMBG非実施群(以下,コントロール群:男性6名,女性2名:平均年齢58.9±14.3歳)にランダムに割り付け,運動療法後,SEに関するアンケート調査を自己記入式で行った.(使用機器:テルモ株式会社 メディセーフ)運動療法に関しては両群共に同プログラム(ストレッチ等の準備体操・整理体操と主運動:約40分)を実施した.主運動は快適な負荷での自転車エルゴメータとし,運動強度は自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)13レベルとした.身体機能に偏りがないように男女比,年齢,行動変容段階を2群間で比較した.SEの指標には,Marcusらが作成した「運動実施に対する自己効力感」の5項目(天気が良くない時,時間がある時,時間がない時,気分が乗らない時,疲れている時)を用い,運動する自信があるか否かを絶対出来るから(5点)絶対出来ない(1点)の5段階リッカート式尺度で尋ね,その合計(5~20点)で比較した.統計学的解析は介入群,コントロール群の2群間の比較に当たって,男女比の比較にはχ<sup>2</sup>検定,年齢の比較には対応のないt検定,SEの比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には調査の趣旨を説明し,口頭での同意を得た.【結果】 対象者の属性(男女比,年齢差,行動変容段階)に偏りはなく,コントロール群より介入群の方がSEが得られている結果となり,雨(雪)が降っている時,時間にゆとりがある時,疲れている時,そして各項目の合計点で有意差が見られた.またSMBG後は「こんなに変化があるのか」等のコメントも見受けられ,納得した様子の反応もあった【考察】 当院では糖尿病教育患者は4回/日の血糖測定を実施しており,1日の中での血糖値の変化は知る事が出来るが運動療法の効果としての情報とはなっておらず,今回は運動療法の効果を血糖値の変化と言う視覚的な情報を追加し体感した為,理解が深まり活動性を維持・向上させる可能性が示唆された.SEとは「ある結果を生み出す為に必要な行動を,どの程度うまく行うことが出来るかと言う個人の確信の程度」を表すもので,行動変容を促す際に重要な視点となるとされている.努力すれば自分もここまで出来ると言う自信や意欲を高める為に,4つの情報源(達成体験,代理体験,言語的説得,生理的・情動的喚起)を通し生み出されるものであると考えられており,SMBGによって情報源の1つである生理的・情動的喚起に働きかけが出来た事が示唆された.生活習慣を望ましい方向に変容させる介入を行う際,より効果が得られる情報源を中心に取り入れ,積極的に働きかけを行う事が推奨されている.井澤らは,患者の主観的健康度・機能状態(健康関連QOL)の向上を目指した運動療法の方法論を構築していく際に,身体活動自己効力感に着目する事は重要な視点となるとしており,今後も継続して行きたいと考えている.しかしSEへの働きかけは退院後の活動性の向上が期待されるが,本研究の限界としてあくまでも短期的な効果であり,長期的な効果は未検討のままである.今後は,HbA1c等をパラメータに加え長期的な治療効果を検証する予定である.【理学療法学研究としての意義】 本研究にて運動療法前後のSMBGによってSEの改善が得られる事が明らかとなった.入院期間短縮の風潮もあり早期退院となり,退院後に活動性が消極的になる事が報告されているが,運動療法の意義の理解により活動性継続・向上が期待される.また生活習慣,行動変容の段階の変化にもSEが要因に挙げられており,それらの改善も期待される.
著者
村山 慶隆
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P3172-E3P3172, 2009

【はじめに】パーキンソン病では、自宅でのトイレ動作が日中は自立しているが、夜間は時間を要する、また、介助になるケースも少なくない.そこで今回、夜間のポーダブルトイレ(以下、Pトイレ)動作が困難な利用者に対して、その手順や動線のプロセスで必要な環境調整を行ったので報告する.<BR><BR>【症例と評価】52歳・男性.疾患はパーキンソン病・腸閉塞.ADL・基本動作は、夜間はトイレ要介助、屋外歩行軽介助以外は自立.Yahr2であり、歩行時に小刻み・突進現象がある.自宅での生活状況は、冬場は夜間のトイレ回数増加、同居の母親は高齢認知症のため、介護力は不十分である.居室は段差などのバリアはなく、電動ベッド上にリモコン・ブザー・枕・電気毛布などがあるため、ベッド機能が発揮しづらい状況にある.Pトイレはベッドの近くにあり、移乗用のベストポジションバーを設置している.これら本人と環境の双方を評価した結果、内服薬の効果が少ない夜間、プロセスの開始であるベッドからの起き上がり動作が困難であることが判明した.時間帯・家族・トイレのタイミングなどから、人による介助は困難であり、起き上がりも含めた一連の動作自立を目標とした.<BR><BR>【方法と結果】無駄な手順の回避や安全を考慮し、電動ベッドの機能を利用した起き上がりが自立できるような環境調整を行った.1.リモコンの位置設定、2.ベッドアップ角度設定、3.ベッドアップ時にブザーが落ちないように固定、4.3同様に枕の固定、5.端座位時に電気毛布のコードが足に引っ掛からないように固定、6.端座位時に両足が下ろしやすく、掛布団が落ちないように柵の選定を行い、動作練習の結果、一連の動作が自立した.<BR><BR>【考察】生活習慣や家族・住宅・季節・時間など、環境の影響を受けやすい個別の生活動作は、心身機能だけでなく、本人に関連する生活・介護状況も十分に評価すべきである.また、生活動作は1つの動作を切り取らず、リモコンを探してから布団を掛けて寝るまでなど、動作手順と動線の2つの流れ評価が必要である.さらに、身体機能の低下を身体機能そのものの向上で補うこともできるが、環境の機能も利用することで、より実用的な自立が実現できる.生活動作の一連の流れは、理学療法士(以下、PT)の専門性である起居・移乗・移動によって1つ1つの動作がつなげられていることが多い.PTが生活動作の自立への手段として、環境の機能を活かす利点は、1.身体機能を熟知している、2.残存機能を効果的に発揮できる、3.生活動作の基礎となる具体的アプローチができる、4.相乗効果での自立度向上・介護量軽減、などが挙げられる.本人と本人を取り巻く環境を含めた生活機能全般を見渡すこと、そして、その中にある課題と課題をつなげ、環境の機能を利用することで、これまでよりPTの専門性に深みが増すと思わ
著者
丸居 夕利佳 青木 美幸 田原 岳治 小川 鶯修 相馬 俊雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P1505-D3P1505, 2009

【はじめに】近年,糖尿病(以下,DM)患者やその家族などを対象に,様々な取り組みが実施されている.当院では,毎月DM教室を行い,理学療法士(以下,PT)等が,講義やDMウォークラリー(以下,DM-WR)などを開催している.そこで今回,当院におけるDM-WRの活動内容の紹介と,参加者のセルフエフィカシー(以下SE)について調査・検討したので報告する.<BR><BR>【対象】対象は,平成20年5月及び9月に開催されたDM-WRに参加した28名(DM罹患者15名,DM非罹患者13名:男性5名,女性23名,平均年齢66.0±14.6歳)対象者には,調査に先立ち調査の内容を説明し同意を得た.<BR><BR>【方法】対象者は血圧および血糖値測定後,全長約3.5kmのコースをウォーキングした.途中,水分補給およびDMクイズを約15分実施した.約60分でゴールし,血圧測定後,アンケートの記入を行った.<BR><BR>【アンケート内容】アンケートは3因子で構成されており,疾患に対する対処行動の積極性(14項目),健康に対する統制感(9項目),運動に対する積極性(7項目)の合計30の質問項目になっている.回答は5件法で行い,得点が高いほど自己効力感が高いことを示す.アンケートはDM-WR終了後,その場で回答し,1ヶ月後に同様のアンケートを使用し郵送で追跡調査を行った.<BR><BR>【結果】アンケートの各因子の平均値は,疾患に対する対処行動の積極性・健康に対する統制感・運動に対する積極性の順に実施直後:4.2点,4.1点,4.3点,1ヵ月後:4.3点,4.0点,4.3点であった.各回の最高得点項目と最低得点項目の平均値はそれぞれ,実施直後で「DMの自己管理に運動が必要であることを知っている」4.8点,「適度な運動を計画通りに続けることができる」3.7点で,1ヵ月後で「医師や看護師を信頼できる」4.9点,「適度な運動を計画通りに続けることができる」と「規則正しい生活を送ることができる」3.6点であった.<BR><BR>【考察】この調査を実施する過程では,1ヶ月後のSEの点数が実施直後よりも低下すると考えていたが,著明な変化は見られなかった.DM-WRの参加者は元々DM治療に主体的に参加していると考えられるため,DM-WRがSEを向上させる程の刺激に成り得なかった可能性がある.運動継続性のSEに関しては,実施直後と1ヶ月後共に点数が低い傾向が見られた.今回のDM-WRのような企画型イベントに参加するだけでは,自ら運動を計画し,継続する啓発効果までは十分に得られないと推測される.このことから行動変容に対する介入が重要であると考えられた.今後はSEアンケートの妥当性の検討,DM-WR前後のSEの調査及び検討,行動変容に対する効果判定など更なる検討が必要だと考える.
著者
若田 真 山田 純生 河野 裕治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P2494-D3P2494, 2009

【目的】<BR>有疾患者や高齢者において上肢運動は下肢運動に比べ呼吸困難感(DOB)が強い.これまでDOBに上肢運動における胸郭と腹部の非同期呼吸パターンが関連することは明らかにされているが、上肢運動における呼吸数依存の換気量増加や一回換気フローボリューム曲線の位相変化など、その他の要因との関連は不明である.呼吸数依存性換気量増大は、一回換気時間の短縮による呼気速度の増大や、位相変化が生じた場合は各肺気量位での呼気気流の予備量が異なってくるとともに、呼気気流制限(EFL)の誘因になると考えられる.以上より、本研究は上肢と下肢の運動様式の違いがEFLならびに位相変化の発生に関連するか否かを検討することを目的とした.<BR>【方法】<BR>喫煙歴、肺疾患歴のない健常女性10名(年齢21.9±1.4歳,身長:157.6±7.0cm,体重:49.4±5.7kg)を対象とした.まず、上肢運動はアームエルゴメータ、下肢運動は自転車エルゴメータを用いて心肺運動負荷試験を行い、最高仕事量の80%(80%peak watts)を上肢運動の強度とした.下肢運動の強度は、上肢運動の定常負荷時の分時換気量(VE)と等しくなる負荷量とした.定常負荷試験は5分間の安静の後、0wattsのwarm-upを3分間行い6分間の定常負荷運動を行うものとし、負荷開始4分目と6分目に呼気ガスマスク装着のままフローボリューム曲線を測定した.運動中は呼気ガス指標ならびに心拍数を連続的にモニターし、1分間隔で呼吸困難感と上肢・下肢疲労感(修正Borg指数)を測定した.以上より、運動4分目と6分目の各指標を比較し、また運動時の最大フローボリューム曲線と一回換気フローボリューム曲線との位置関係より、EFLの発生の有無ならびに位相変化を評価した.本研究は、名古屋大学医学部倫理委員会保健学部会で承認を得た (承認番号8-514) .<BR>【結果】<BR>上肢運動と下肢運動における定常運動負荷開始後4分目と6分目のVEには有意差はなかった.上肢運動における換気量の増加は下肢運動と比較して、一回換気量の増大は少なく呼吸数増加によるものであった.しかし、運動時一回換気フローボリューム曲線による評価ではEFLの発生は確認されなかった.また、上肢運動では一回換気量増加に伴う吸気終末肺気量の増加量が下肢運動と比較して有意に低下しており、下肢運動時の一回換気フローボリューム曲線と比較して右方偏位していることが観察された.<BR>【まとめ】<BR>本研究では、EFLの発生は確認されなかったが、上肢運動は下肢運動と比較して、呼吸数優位な換気増加パターンであることが示されている.また、上肢運動では一回換気フローボリューム曲線が右方偏位することが確認され、換気増加パターンとあわせて換気量増加に伴いEFLを起こしやすいことが示唆された.
著者
竹内 真太 西田 裕介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A1Sh2025-A1Sh2025, 2010

【目的】<BR>ヒトの歩行や走行中、心拍リズムと運動リズムが近付いた際、2つのリズム間で同期現象を示すことが報告されており、この現象はCardiac-Locomotor Synchronization(CLS)と称されている。CLSの生理学的意義の1つとして、活動筋の弛緩のタイミングと心臓の拍動のタイミングが一致し、筋内圧が下がった時に筋へ血液が流入することで、活動筋への血流量が最大化することが推測されている。我々は、先行研究にてCLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数と酸素摂取量を比較し、心拍数に差がない状態でも、酸素摂取量はCLSを誘発した歩行で高値を示すことを確認した。このことからCLSを誘発することにより歩行中の動静脈酸素含有量格差に差が出ることが推測された。本研究では、CLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数、酸素摂取量、下腿筋血流量を測定し、CLSの生理学的意義を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】<BR>対象は心血管系疾患の既往がない若年男性8名(年齢21±2歳、身長169.6±3.53cm、体重57.7±4.20kg(平均±標準偏差))とした。対象者は心電図用電極、右踵部にフットスイッチ、左下腿外側に筋血流量計プローブ、呼気ガスマスクをそれぞれ装着し、対象者が運動リズム120step/min、心拍数120bpmとなるトレッドミル速度と傾斜を決定した。次に、以下の2つのプロトコルを実施した。プロトコル1では、CLSを誘発するため、対象者は先に決定したトレッドミル負荷にて、120beats/minのブザーに合わせた歩行を約5分間行い、心拍数が定常状態に達した後、心電図計からのブザーに歩行リズムを合わせた。呼吸リズムは歩行リズムとの比率が1:4となるよう指示し、その際の呼気と吸気の比率は1:1とした。対象者は定常状態にて10分間歩行を行った。プロトコル2では、同様のトレッドミル負荷にて5分間のウォーミングアップを行い、その後定常状態にて10分間の自由歩行を行った。定常状態での10分間を測定期間とした。2つのプロトコルの順はランダムに実施された。プロトコル1から導出された心拍リズムと歩行リズムを用いて、2つのリズム間の結合度を示す指標、位相コヒーレンス(λ)を1分毎に算出した。λは0から1の数を示し、高値であるほど2つのリズム間の結合度が高いことを表す。プロトコル1にてλが0.6を超えている部分をCLSが発生しているととらえ、CLS発生時と自由歩行時を対応のあるt検定にて比較した。またCLSの発生している時間数と、CLSを誘発した歩行と自由歩行の平均値の差(プロトコル1-プロトコル2)の関連を、スピアマン順位相関係数検定を用いて検討した。有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には口頭にて実験の主旨を説明し、同意書にて参加の同意を得た。本研究は、聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認のもと実施した。<BR>【結果】<BR>プロトコル1にて8人中7人の対象者でλが0.6を超える部分が観測された。CLS発生時と自由歩行時の比較の結果、酸素摂取量はCLS発生時が29.13ml/kg/min、自由歩行時が28.19ml/kg/minでありCLS発生時で有意に高値を示した。筋血流量を示すと考えられるTotal HbはCLS発生時が17.91g/dl、自由歩行時が17.58g/dlでありCLS発生時で有意に高値を示した。心拍数には有意差は認められなかった。CLSの発生している時間数と2つのプロトコル間の差の関連は、Total Hbにて相関係数0.70(p=0.07)、酸素摂取量にて相関係数0.61(p=0.10)であった。<BR>【考察】<BR>酸素摂取量と心拍数では、我々の先行研究と同様の結果が確認された。また、CLSが発生している際に筋血流量が増加することが確認された。更にCLSの発生している時間が長い対象者ほど、自由歩行時よりもCLSを誘発した歩行で筋血流量、酸素摂取量が高値を示す傾向がみられた。以上のことから、CLSが発生している歩行では、同負荷の自由歩行と比較して、筋血流量が増加し、その結果、活動筋への酸素供給量の増大、それに伴うタイプ1線維の活性化、酸素代謝の亢進が起こり、酸素摂取量が増加することが推測された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>CLSは若年者よりも高齢者で、また、低強度よりも高強度において発生しやすいことが報告されている。このことは、運動による要求に対し、活動筋と心血管系を協応させることで血液循環の効率化を行い対応した結果であると考えられる。CLSを誘発することによって、運動中の心血管系と活動筋間の協応を導くことができる可能性があり、今後検討を行うことで、高齢者や心疾患患者に対する運動療法として応用できると考えられる。
著者
田中 美香 西田 宗幹 大平 雄一 植松 光俊
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1087-E1087, 2006

【はじめに】早朝や準夜帯における理学療法(以下、PT)の必要性が言われて久しいが、その客観的な効果を検証した報告は少ない。我々は自宅退院後の活動量の増加に伴い疲労感や痛みの訴えを認め、入院中の活動量不足、特に夕食後から消灯までの時間の活動量が低いことを報告した。この問題を改善するため当院でも遅出PTプログラムの実施(以下、遅出PT)を導入した。本研究ではこの遅出PTにより身体活動量がどのように変化するのかを検討した。<BR><BR>【対象および方法】対象は当院回復期リハビリテーション病棟入院女性患者7名(84.4±6.6歳)、Barthel index84.3±7.9点、整形外科疾患2名、脳血管障害3名、内科疾患2名であった。遅出PTの対象は、退院を約1ヶ月以内に控えた患者とし、その実施は週3回、17時~21時とした。夕食前後は移動および整容動作の確認を行い、夕食1時間後の19時頃からセラバンド等を用いた集団体操と、個別トレーニングを組み合わせて実施し20時30分までに終えて、就寝の準備を始めるようにした。<BR> 身体活動量の評価にはベルトにて臍部の高さ腹部中央に装着した携帯型動作加速度装置アクティブトレーサー(GMS社製AC-301)を用い、加速度設定は0.05、0.15、0.2Gの3CHとし、各CHでの総カウント数を身体活動量とした。計測は遅出PT実施前の不特定日と、実施後の遅出PT実施日、1日の17時~21時時間帯で行い、それぞれ1時間毎の時間帯別の比較をした。また、前回報告の退院後在宅活動量との比較も実施した。統計は遅出実施前後の身体活動量の比較にpaired t-test、在宅での身体活動量との比較にunpaired t-testを用い、有意水準1%とした。<BR><BR>【結果】17時~21時までの平均総カウント数の遅出PT実施前・後比較では、それぞれ0.05Gで12173±632→24234±2498、0.15Gで1696±225→4170±2499、0.2Gで473±207→1102±182とすべての加速度領域で遅出PT実施後有意に増加した(P<0.0001)。時間帯別の比較では、19時帯で0.05G、0.15Gで(P<0.001)、0.2G(P<0.0001)、20時帯では全ての加速度領域で実施後、有意に増加した(P<0.0001)。前回の退院時在宅身体活動量との比較では、全てにおいて有意差は認めなかった。<BR><BR>【考察】身体活動量は有意に増加しており、時間帯別比較からも夕食後から消灯時間までの身体活動量を向上させる上で有効であることがわかった。さらに、今回の遅出PTが在宅での身体活動量とほぼ同様の活動量が獲得できたことから、在宅生活に向けての準備として適切であると考えられる。また、遅出PT実施中の患者は笑顔が多く、その参加を楽しみにしている反応から生活の質への効果も推測できた。<BR><BR>
著者
樋口 由美 北川 智美 岩田 晃 小栢 進也 今岡 真和 藤堂 恵美子 平島 賢一 石原 みさ子 淵岡 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101447-48101447, 2013

【はじめに、目的】中等度以上の身体活動を継続することは、心血管病、大腸ガン等の発症率低下のみならず、生命予後の延伸にも寄与することが知られている。しかし一方で、デスクワーク、テレビ視聴等の座ってすごす時間(座業時間)が長いと、同程度の身体活動を習慣にしていても、座業時間が短い人々に比べて死亡率の上昇が報告されるようになった。ただし、中壮年以上のコホート研究で報告されており、座業が高齢者に与える影響については不明な部分が多い。 本研究は、中等度以上の身体活動を習慣にしている高齢者の座業時間と、運動機能および生活機能との関連を検討することを目的とした。【方法】大阪府南部に位置するH市で、介護予防事業の拠点施設を定期的に利用する者を対象に研究参加ボランティアを募集した。応募した60歳以上の男女127名に対し、平均的な1週間の身体活動量を質問票にて調査した。質問票は、国際標準化身体活動質問票IPAQ(短縮版)を用いた。調査の結果、中等度(4METs)以上の身体活動を習慣にしている者97名(女性71名、平均年齢73.9歳、61-90歳)を分析対象者とした。同じく質問票より1日当たりの座業時間を調査した。座業時間とは、座って行う作業、テレビ視聴、おしゃべり等の合計時間であり、睡眠時間は含まない。運動機能は、5m通常歩行時間とTimed up & go test(以下TUG)を測定した。5m通常歩行時間は、11m歩行路の中央5mの所要時間を計測した。TUGは原典と同じく通常歩行の速さで計測した。生活機能は、老研式活動能力指標(13点満点、高いほど良好)にて調査した。座業時間と運動機能および生活機能の関連を分析するため、1日の座位時間が6時間以上の群と6時間未満の群に2群化し、年齢を共変量とした共分散分析を用いて男女別に解析した。なお、基準とした6時間は先行研究を参考とした。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。なお、本研究科研究倫理委員会の承認済みである。【結果】分析対象者の1日の座業時間は平均4時間19分であり、男性の平均は4時間52分、女性は4時間7分と女性の方が座業時間の短い傾向を示した。座業時間による2群化は、男性では6時間未満(n = 19)、6時間以上(n = 7)、女性は6時間未満(n = 50)、6時間以上(n = 21)であった。なお、座業時間2群間でBMIに男女ともに有意差を認めなかった(男性:6時間未満22.0、6時間以上21.8 女性:21.5、21.3)。運動機能に対する共分散分析の結果、男性の座業時間6時間未満群は、5m歩行時間の平均値が3.8秒、6時間以上群が4.0秒であった。女性では6時間未満群3.4秒、6時間以上群3.8秒と座業時間の延長に伴い有意に歩行時間が遅延した。TUGでは、男性の6時間未満群が8.1秒、6時間以上群8.8秒、女性も各々7.0秒、7.5秒であったものの、年齢調整後の分析結果では有意差を認めなかった。生活機能に対する共分散分析では、男女ともに座位時間と老研式活動能力指標との間に統計学的関連を認めなかった(男性:6時間未満11.5点、6時間以上12.1点 女性:12.3点、12.0点)。【考察】中等度以上の身体活動を習慣とする高齢者において、1日の座業時間が6時間以上の女性は、年齢調整後も有意に歩行速度が低下していた。従来、中等度以上の身体活動を日常生活に取り入れることは、健康状態や生命予後に良好な影響を与えることが明らかであるが、座って過ごす時間の延長は、高齢期においても身体活動がもたらす好作用を阻害する可能性が示唆された。なお、男性でも同傾向を認めたが有意差に至らなかったことは、対象者数の少なさが要因の一つと考えられる。一方、生活機能が高い本研究対象者では、座業時間の影響は確認されなかった。【理学療法学研究としての意義】地域高齢者に対する予防的アプローチにおいて、中等度以上の身体活動を推奨すると同時に、座って過ごす生活時間(座業時間)にも留意することで介護予防さらに生命予後の改善が期待されること。