著者
大塚 智文 宮下 智 伊藤 元治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0750-A0750, 2006

【目的】我々は、アイスホッケー選手のトレーニングとしてスリングエクササイズセラピー(以下、SET)を導入している。我々の先行研究では、ローカルマッスル(以下、LM)をトレーニングすることで、視覚入力に対する体幹運動の正確性が増したことを報告した。アイスホッケーは、氷の上という非常に不安定な状況で、相手とのコンタクトや、状況に応じた加減速、切り返しなど、高度なバランス能力が必要である。そこで、LMトレーニングに加え、実際の競技場面を想定したSETによる高度なバランスエクササイズを行っている。本研究では、準備期と試合期にそれぞれ行っているフィジカルテストの結果から、SETによる高度なバランス課題が可能になった者の、体幹と膝の運動の正確性に関して興味ある知見を得たので報告する。<BR>【対象】関東大学アイスホッケーリーグ1部に所属する部員、男子23名。平均年齢20.2±1.0歳。<BR>【方法】1.SET課題は、1)立位にてスリングロープを両足にかけ(空中で不安定になる)、両手を放して姿勢を安定させる。2)身体を左にねじる。3)正面に戻す。4)身体を右にねじる。5)正面に戻す事を、上肢を使わないままで試行可能(成功者)か否か(失敗者)判定した。<BR>2.MRシステム(Index社製MR Low Back Extension IP-M4000)による体幹及び膝伸展運動の筋協調テストを行い、視覚入力に対する運動出力の誤差(運動正確性)を測定した。<BR> 統計処理は、SET課題成功群と失敗群に分類し、t-検定を用いた。また、体幹伸展と膝伸展運動の相関関係を検討した。有意水準はそれぞれ5%とした。<BR>【結果】1.課題成功者は8名で、体幹運動出力の誤差平均は準備期が9.1±1.8cm、試合期が7.2±2.0cmであった。失敗者は15名、誤差平均は準備期が11.3±3.1cm、試合期が8.9±1.9cmであった。両群とも有意に運動正確性の向上がみられた(p<0.05)。<BR>2.体幹と膝の相関関係はSET課題成功群において正の相関が認められた(r=0.76、p<0.05)。失敗群ではr=0.11であった。<BR>【考察】SET課題の成否に関わらず、トレーニングにより視覚入力に対する体幹運動の正確性が増した。これは、先行研究からも示されていたように、LMトレーニングによって体幹の安定性が保証された結果であると考えることができる。また、SET課題成功者の結果から、体幹運動の正確性に連動して膝運動が正確に行われることが必要であるという傾向が示された。これにより、体幹と膝を個別にトレーニングするのではなく、連動させたトレーニングをすることによって、バランス能力の向上に繋がる可能性が示唆された。アイスホッケーでは無意識的に次の動きを予測し、反応するための高度なバランス能力が要求される。SETによって、競技場面を想定したトレーニングを行うことで、体幹と膝の運動を効率的に連動させ、高度なバランス能力を養うことが、パフォーマンス向上に繋がるように更なる検討をしていく。
著者
田平 一行 原田 鉄也 山本 純志郎 岡田 哲明 前村 優子 山本 みさき
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ae0083-Ae0083, 2012

【はじめに、目的】 運動耐容能の評価として,自転車エルゴメータやトレッドミルを用いた心肺運動負荷試験が行われ,最大酸素摂取量が最も良い指標とされている.これに加えて近年,自転車エルゴメータの漸増負荷試験から得られた最大仕事率(WRpeak)の80%の運動強度での定常負荷試験が実施されている.この試験における運動持続時間(ET)は,薬物や運動療法介入後の効果の反応性が良いとされている.実際の日常生活においても,強い運動よりも長時間運動できることが重要であると思われる.しかしこのETは相対的な運動強度で実施されるため,最大酸素摂取量やWRpeakの影響は受けにくく,影響する因子は明らかになっていない.そこで今回,ramp負荷と定常負荷試験の2種類の運動負荷試験を実施し,ETに影響する因子について検討したので報告する.【方法】 健常男子大学生13名(年齢21.9±0.8歳) を対象に自転車エルゴメータを用いて2種類の運動負荷(ramp負荷,定常負荷)試験を実施した.ペダルの回転数は60回/分を維持させた.その間,呼気ガス分析器(Metamax 3B, Cortex社)を用いて酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排出量(VCO2),分時換気量(VE),換気当量(VE/VCO2),死腔換気率(VD/VT)を,組織血液酸素モニター(BOM-L1TRW,オメガウェーブ社)を用いて大腿四頭筋外側広筋部の酸素化ヘモグロビン,脱酸素化ヘモグロビン,総ヘモグロビン(Total Hb),組織酸素飽和度を,非侵襲的血圧測定器(Portapres, FMS社)を用いて収縮期血圧,1回心拍出量,心拍数を測定した.また運動終了時は修正Borg scaleを用いて,呼吸困難感と下肢疲労感を測定した.ramp負荷試験:3分間の安静座位の後,20w/minのramp負荷にて運動を行わせ,症候限界まで実施した.定常負荷試験:3分間の安静座位の後,ramp負荷試験にて得られたWRpeakの80%の運動強度にて症候限界まで運動を行わせた.運動の中止基準は,85%予測最大心拍数,自覚症状,ペダルの回転数が60回/分維持できない場合などとした.解析方法:ramp負荷試験における各指標のpeak値(運動終了直前の30秒間の平均値)とV-slope法により求めた無酸素性作業閾値AT(VO2)および定常負荷試験における運動持続時間(ET)を解析に用いた.統計処理は,ETと各指標との間の関係についてピアソンの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した.【結果】 ETと死腔換気率との間に有意な負の相関関係が認められた(r=-0.654, p=0.013).有意ではなかったが,ETはAT(VO2)(r=0.562),換気当量(r=-0.429),下肢疲労感(r=-0.368),Total Hb(r=0.393)と関係する傾向が認められた.しかしその他の指標とは関連を認めなかった.【考察】 同じ最大酸素摂取量を持つ者でも,ETは異なり,ETが高い方がより持久性があると考えられる.今回の結果,ETとAT(VO2),骨格筋のTotal Hbとは正の,死腔換気率,換気当量,下肢疲労感とは負の関係が認められた.AT(VO2)との相関は,定常負荷試験の場合は,ramp負荷のWRpeakよりも負荷量が低いことから,より有酸素的なエネルギー代謝の影響を受けるためと考えられた.Total Hbは末梢において十分に血管が拡張しているかを反映していると考えられ,下肢疲労感との負の相関は最大運動時に下肢筋に余裕を残していることが考えられ,ETは下肢筋の有酸素能の影響を受けるものと考えられた.また死腔換気率,換気当量との関係は,肺内でのガス交換の影響を示しており,呼吸パターンや肺内の換気-血流比に影響を受けると考えられた.以上より,骨格筋の有酸素能を高めるトレーニングや呼吸パターンの修正,また静脈還流量を増やすような水中負荷,弾性ストッキングの使用などにより,同じ最大酸素摂取量を持つ対象者であっても運動時間を延長できる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 定常負荷試験におけるETは運動療法の介入効果を反映しやすい指標であるとともに,運動の持久性はADL上も重要な要因である.ETの要因を明らかにすることにより,効果的に持久性を高めるためのトレーニング方法など,運動療法のアプローチの再考につながると考える.
著者
小池 朋孝 上田 康久 横山 美佐子 辺土名 隆 芝原 美由紀 川端 良治 岩松 秀樹 佐藤 優子 遠原 真一 安達 まりえ 広瀬 真純
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.369-369, 2003

はじめに<BR>呼吸理学療法(CPT)において、特に肺理学療法と呼ばれる用手的排痰手技は、痰の喀出、1回換気量の増大など、その場での効果の報告は良く見受けることができる。しかし、急性期における介入がどの程度の効果をもたらすかという報告は、特に小児急性期には見当たらない。当院では、小児呼吸器疾患重症例にCPTの適応、不適応を検討し、必要な場合にCPTを展開している。今回、小児急性期呼吸疾患により重度呼吸不全を呈した症例に対し、第1病日から医師、看護師、理学療法士から構成される小児CPTチームに参入し、CPTの適応、不適応を検討し、必要な場合にCPTを展開した症例を数例経験した。小児集中治療室(PICU)入室日数、入院日数、再悪化、再入院、人工呼吸器管理中の肺機能の肺コンプライアンスの指標として人工呼吸器の最高吸気圧(PIP)、酸素化の指標としてPaO<SUB>2</SUB>/Fi O<SUB>2</SUB>(P/F比)の推移を数値化し、一定の傾向が見られたので考察を交え報告する。<BR>症例1:1歳男児 クループ 肺炎 二次合併症として気胸を呈する<BR>症例2:6歳女児 ARDS<BR>症例3 4歳女児 ARDS<BR> 気管支喘息以上の3症例に対し可能な限り、早期から参入し、医師、看護師との相互の情報交換によりCPTの施行・非施行を判断し、必要な場合には適宜CPTを行うこととした。抜管後も、吸入時の呼吸介助、用手的排痰法を行い、一般病棟入院中家族指導、退院後外来フォローを行った。<BR>結果<BR>PICU入室日数、入院日数に関しては、病態の相違もあり一定の傾向は見られなかった。再度悪化し、一般病棟から、PICU管理となった症例や、人工呼吸器PIPを上げなければならない症例は認めなかった。P/Fについては悪化の傾向は見られなかった。退院後数ヶ月以内の再入院患者はいない。また、脳血管障害などの二次的合併症を生じた症例はいなかった。<BR>考察<BR>小児呼吸器疾患急性期の呼吸管理において、理学療法士が早期から介入することによる悪影響は示唆されなかった。また、医師、看護師との連帯を密にし、病態理解に勤め、適切な手技を選択することにより、肺二次合併症の予防、治療、肺のコンディションの維持につながると思われた。病態の理解により、CPTが急性期呼吸管理に有用であると示唆され、状態の換気力学的な解釈などの観点から理学療法士の介入に意義があると思われる。
著者
阿波 邦彦 堀江 淳 長江 真弥 村田 伸 林 真一郎 今泉 裕次郎 市丸 勝昭 直塚 博行 白仁田 秀一 江越 正次朗 堀川 悦夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1202-Db1202, 2012

【はじめに、目的】 COPDの骨格筋筋力低下は、全身持久力、ADL、健康関連QOLの低下、予後にも影響している。今回、外出に制限が生じ始める6分間歩行距離400mをもとに、大腿四頭筋筋力を体重で除した体重支持力指数(WBI)のカットオフ値を求めた。そして、そのカットオフ値でCOPD患者を2群に分け、身体機能、身体能力、ADL、健康関連QOLの比較をすることでWBIのカットオフ値の有用性を検討した。【方法】 対象は、研究の参加に同意が得られた男性COPD患者116名であった。平均年齢は74.4±8.7歳、BMIは20.6±3.8、%FEV<sub>1.0</sub>は50.8±23.6%であった。なお、対象の選定は、歩行に支障をきたすような骨関節疾患、脳血管障害や重篤な内科的合併症の有する者、理解力が不良な者、測定への同意が得られなかった者は対象から除外した。主要測定項目はWBIとした。副次測定項目はmMRC息切れスケール、呼吸筋力検査(PImax、PEmax)、握力、片足立脚時間、5m最速歩行時間、Timed Up and Go Test(TUG)、30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)、6分間歩行距離(6MWD)、漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT)、長崎大学呼吸ADL質問票(NRADL)、健康関連QOLはSt George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)とした。予後指標はupdated BODE indexとした。統計学的解析は、外出に制限が生じ始めるWBIのカットオフ値を6MWD-400m以上群と未満群に分け、ROC曲線にて分析した。また、分析されたWBIのカットオフ値でWBI高値群と低値群に分け、2群間にて副次測定項目の比較をStudents' t-testで分析した。なお、帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、佐賀大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施し、ヘルシンキ宣言に沿った研究とした。なお、対象には研究の主旨、方法、同意の撤回などについて文書を用いて口頭にて説明したうえで同意を得て実施した。【結果】 外出に制限が生じ始めるWBIのカットオフ値は54.7であった。なお、ROC曲線下面積は0.798、感度は0.735、1-特異度は0.348であった。WBI高値群とWBI低値群における副次測定項目の比較は、mMRC息切れスケール(1.8±1.0vs2.3±1.0、p=0.008)、PImax(85.1±35.3vs56.0±28.8cmH<sub>2</sub>0、p<0.001)、PEmax(82.4±37.5vs54.4±32.1cmH<sub>2</sub>0、p=0.001)、握力(33.5±7.2vs 25.5±7.8kg、p<0.001)、片足立脚時間(67.0±42.0vs 22.7±30.2秒、p<0.001)、5m最速歩行時間(2.9±0.9vs3.9±1.5秒、p=0.001)、TUG(6.0±1.8vs9.1±4.6秒、p<0.001)、CS-30(18.3±4.5vs13.4±5.0回、p<0.001)、6MWD(416.7±110.6vs281.0±139.4m、p<0.001)、ISWT(411.9±170.4vs247.3±149.5m、p<0.001)、NRADL(78.7±20.3vs63.9±26.7点、p=0.001)、updated BODE index(3.7±3.0vs7.4±4.8、p<0.001)に有意差が認められた。しかし、SGRQ(39.3±17.5vs45.9±18.1、p=0.06)には有意差は認められなかった。【考察】 COPD患者における外出に制限が生じ始めるWBIは中等度の予測能を認めた。WBI低値群は、WBI高値群よりも各身体機能、身体能力、ADL、予後指標において有意に低値を認めた。これは先行研究と同様の結果であった。しかし、健康関連QOLに有意差は認められなかった。その原因として、健康関連QOLには筋力などの身体機能以外にも不安や抑うつなどの精神的症状も関与しているためと考えられる。今回の研究では、外出制限を6MWDの測定値で検討しているため、想像の域を脱していないことである。そのため、今後の課題は外出制限の具体的な設定や患者背景を検討してゆく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、外出に制限を生じ始めるWBIのカットオフ値を推定する一つの指標となりうる可能性が示唆された。しかし本研究では検討課題も多く残された。そのため今後も研究を重ねていき臨床の場面にて活用できるような指標に展開したいと考える。
著者
横川 正美 菅野 圭子 柚木 颯偲 堂本 千晶 吉田 光宏 浜口 毅 柳瀬 大亮 岩佐 和夫 駒井 清暢 山田 正仁
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E3O2227-E3O2227, 2010

【目的】昨年の日本理学療法学術大会において、地域住民を対象に認知症予防として実施した認知機能プログラムと運動機能プログラムの効果を調べたところ、前者のみならず、後者のプログラムでも記憶機能の改善が示唆されたことを報告した。本研究では、同様のプログラムを再度実施し、プログラムに参加していない対照群との比較を行った。<BR>【方法】一昨年度および前年度に地域で実施された脳健診の受診者から、明らかな脳疾患を有する者、および臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating; CDR)が1以上のものを除いた806名に研究参加を募った。参加への同意が得られた37名のうち、介入前後の評価を実施できた31名を介入法の対象者とした。対照群として、本研究の趣旨を説明し協力の同意が得られたグループデイ参加者20名のうち、介入群と同時期に評価を実施できた13名を対象者とした。グループデイは概ね65歳以上で、週1回以上自主的に運営し活動するグループであり、本研究の介入法には参加していない。介入法では、参加者を無作為に2つのプログラムのうち、次のいずれかに振り分けた。一つは認知プログラム(n=17)で認知症の前段階で低下しやすいと考えられている実行機能を重点的に高める内容であり、具体的には旅行の計画立案と実施を行った。もう一つは運動プログラム(n=14)で認知機能に効果的とされる有酸素運動を主体としており、体調確認の後、準備運動、ウォーキング(10-15分)、柔軟体操を行った。2つのプログラムはどちらも週1回約1時間、合計8回実施した。介入法参加者と対照群には介入前後に認知機能検査としてファイブ・コグを施行した。<BR>【説明と同意】参加者に本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。本研究は所属する機関の医学倫理委員会の承認を得た。<BR>【結果】参加者の平均年齢は72.8±4.3歳、平均教育年数は10.0±2.0年であった。認知プログラム、運動プログラム、対照群の間で対象者の年齢、教育歴による差はみられなかった。ファイブ・コグの下位項目(運動、注意、記憶、視空間認知、言語流暢性、思考)の各評価得点について、2つのプログラムと対照群のうち、どれに参加したかという「プログラム」因子と、参加前か参加後かという「時間」因子による二元配置分散分析を行ったところ、交互作用が認められた項目はなかった。次に参加前、参加後の各評価得点をプログラム間で多重比較したところ、有意差が認められた項目はなかった。各プログラム内での多重比較では、認知プログラムにおいて、運動(22.4±5.6点→24.8±6.3点; p<0.05)と記憶(13.4±6.5点→17.1±6.1点; p<0.01)の得点が参加後、有意に改善した。運動プログラムにおいても同じく運動(19.4±6.5点→22.7±6.4点; p<0.01)と記憶(12.4±7.3点→15.6±5.7点; p<0.05)の得点が参加後、有意に改善した。対照群では、参加前後で有意に変化した項目はなかった。<BR>【考察】対照群では認知機能検査において有意な改善が認められた項目がなかったのに対し、認知プログラムと運動プログラムでは記憶の項目が改善した。2つのプログラムは昨年も同様の結果が得られている。プログラム間で改善した認知機能に差異がみられる傾向にあるが、どちらのプログラムも有効性が示唆されたことから予防事業で用いる場合に効果が期待できると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】運動療法を用いた認知症予防の方法を提案するためのエビデンスを蓄積する。
著者
藤原 俊輔 石井 裕之 段 秀和
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1454-C3P1454, 2009

【目的】外来初診時において,成長期野球肘の1つである肘関節離断性骨軟骨炎を呈した患者に対し,痛みを感じてから受診までの期間,初診時の病巣の進行程度,内上顆の裂離痕の存在有無を離断性骨軟骨炎の早期発見と予防を目的として調査した.<BR><BR>【対象と方法】平成19年3月より,平成20年8月までの18ヶ月間に,当院を受診し離断性骨軟骨炎と診断された24例を対象とした.全例男性で,発症時のスポーツは全例野球で,平均年齢は12.9±1.8歳であった.なお対象には,事前に本調査の趣旨を説明し理解を得た.方法は,初診時の問診により,投球時痛を発してから受診までの期間を聴取,初診時医師及び放射線技師によるレントゲン,MRI撮影により離断性骨軟骨炎の病期分類及び内上顆の裂離痕の有無,また理学療法士により肘ROM制限と腫脹の有無を確認した.なお,離断性骨軟骨炎の病期分類は,透亮期・分離期・遊離期の3期に分類し,病巣の部位により外側型と中央型に分類した.<BR><BR>【結果】投球時痛を発してから受診までの期間は,最短で1週間,最長で11ヶ月,24例の平均は2.75ヶ月であった.内上顆裂離痕は,24例中17例に存在していた.離断性骨軟骨炎の病期分類は,透亮期11例,分離期10例,遊離期3例であり,外側型16例,中央型8例であった.また,肘関節ROM制限においては,伸展制限が9例,屈曲制限が3例,うち伸展・屈曲共に制限があったのは2例であった.肘関節外側の腫脹は15例であった.<BR><BR>【考察】肘関節外側に発症する離断性骨軟骨炎は投球障害の中での重篤な障害であり,長期間の投球禁止を余儀なくされるばかりか重症例では,変形性肘関節症に進行し,日常生活にも影響をもたらす疾患である.今回調査した症例において,内上顆裂離後に離断性骨軟骨炎に至るケースが多い傾向にあった.さらに,投球時痛を発してから受診までに平均2.75ヶ月を要した原因は,個人因子よりも環境因子(チーム事情・指導者選手間の関係)が大きく関与していると考えられる.受診までの期間が遅くなることで,分離期~遊離期での症例が半数を占めROM制限や腫脹を有していた.透亮期であれば,保存療法の加療で可能となるが,分離期・遊離期では手術に至るケースが多くなる.これを避けるためには早期発見が大切であり,予防のために積極的に環境因子についてのアプローチが必要と考えられる.
著者
門田 正久 寛田 司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0108-E0108, 2005

【はじめに】今回、平成16年9月18日から9月28日までギリシャアテネで開催されましたパラリンピックアテネ大会に本部医務室トレーナーとして帯同活動行い、大会期間中を通じて広く多くの競技団体との交流を持つことができ今後の障害者スポーツをサポートする上でのよい経験を得ることができたのでこれらについて報告する。<BR>【方法】活動日程および活動時間は、平成16年9月11日から9月27日までの16日間。1日の活動時間として、午前6時から午後11時までを原則対応とした。<BR>携帯器具その他消耗品は、治療用ベッド1台・物理療法機器をアルファーメディカル社プロテクノEMS1台、OG技研超音波1台・電気式簡易ホットパック1機用意、テーピング各種、インソール用チップ、アイシング各種用具、ストレッチボード、ストレッチポロ・各種チューブ、高圧酸素オアシスその他パッド等消耗品各種を用意した。<BR>【結果】活動利用者概要としては、アテネパラリンピック選手団ならびに役員関係者72名。男性41名・女性31名うち役員2名であった。競技団体別利用数は、アーチェリー7名、陸上0名、自転車2名、馬術0名、車椅子フェンシング2名、柔道5名、パワーリフティング1名、セーリング1名、射撃6名、水泳14名、卓球6名、車椅子テニス7名、ゴールボール5名、シッティングバレー7名、車椅子バスケット男子3名、車椅子バスケット女子3名、ウイルチェアラグビー 1名、役員2名であった。利用目的としては、疲労回復、競技前コンディショニング、疼痛軽減、テーピング、アイシング、床ずれ防止パッド作成・インソール・グリップパッド作成、排痰理学療法、競技団体トレーナーへのアドバイス、その他であった。利用回数延べは、開会式までの総合計152件。最終総合計450件であった。<BR>【考察】今回、パラリンピックという大きな世界大会で日本選手団本部トレーナーとして活動をおこなった。前回のシドニー大会との単純な比較はできないが、前回大会時の利用者数40名、総利用件数145件を考えるとトレーナーとしての機能を大きくはたすことができたと考えられた。これらは、4年間での競技選手のニーズや状況がトレーナー活動の必要性が高まってきており昨今の障害者スポーツにおける競技性の高まりを表しているようにも思われる。また理学療法士として提供できる事項が競技にだけではなく、日常生活での問題の対応など直接競技には関与していないケアも実施することが多くあった。反省としては、すべての競技内容を熟知しているわけでなく、競技動作と障害状況と競技力向上とのリンクができない競技もあり、対応内容が不十分なことが期間前半にあった。今後は各競技団体での大会や練習会にも積極的に参加していくことで能力を高めていきたいと感じられた。
著者
大澤 智恵子 網本 和 佐藤 信一 安保 雅博 宮野 佐年
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.D0524-D0524, 2004

【目的】近年、高齢者においても食道癌根治術の適応とされる傾向がある。高齢者は呼吸機能の低下から術後肺合併症の発生率が高いと報告され、術前の呼吸理学療法は重要とされている。また、合併症の発生により術後在院日数は長期化するとの見解が一般的である。今回、術後肺合併症と術後在院日数に影響を与える要因を呼吸機能、術前理学療法の観点より分析、高齢群と若年群とで比較し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】1998年から2003年に当院で食道癌根治術を行い術前または術後から理学療法を開始した101名を高齢群(65歳以上)と若年群(64歳未満)とに分類した。さらに呼吸機能の影響を明確にするため、双方より術後肺合併症への影響が強いとの報告が多い要因である腫瘍進行度(stage)、術前アルブミン、術式(開胸・開腹・内視鏡の有無・再建経路)が同じであるペアを29組作成、それぞれ高齢群29名(男性25名、女性4名、平均年齢70.6±5.1歳)と、若年群29名(男性26名、女性3名、平均年齢56.9±4.7歳)を対象とした。高齢群と若年群において(1)%VC(2)一秒率(3)PF(4)V50/V25(5)術前理学療法を肺合併症へ影響を与える要因として、同様に(1)肺合併症(2)既往(3)術前理学療法の実施を術後在院日数へ影響を与える要因として選択した。これらよりSPSSを使用してロジスティック回帰分析を行い、各々に有意に影響を与える要因の抽出を、危険率5%の有意水準にて行った。<BR>【結果】術後肺合併症に有意に影響を与える要因として、若年群では%VC(odds比0.881)が抽出されたが、高齢群では抽出されなかった。また、術後在院日数においては若年群では術前理学療法(odds比18.597)が抽出されたが高齢群では有意な要因は抽出されなかった。<BR>【考察】若年群において肺合併症へ影響を与える要因として%VCが抽出された。これは手術時の全身麻酔により残気量が減少して無気肺が発生するが、肺活量の予備能力が大きい場合には、それを代償する能力が強く、肺合併症予防に有効であるためと考えられる。また、同じく若年群において術後在院日数へ影響を与える要因として術前理学療法が抽出されたが、術前理学療法でのオリエンテーションや退院への目的意識の形成、肺合併症からの回復に術前理学療法が有用であることが示唆された。一方、高齢群において肺合併症や術後在院日数に影響を与える要因が抽出されなかった理由として、高齢者は加齢に伴う各臓器の機能・予備能力の低下や暦年齢と身体年齢の乖離、個人差の顕性化よりわずかな負荷でも合併症のトリガーとなる可能性が高いことが考えられる。従って、高齢者は肺合併症や術後在院日数への影響要因が多様で偏りがなく、若年者と比較して術後経過の予測が困難であることが示唆された。
著者
松本 康嗣 川崎 秀和 鵜飼 啓史 長壁 円 内藤 浩一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2222-C4P2222, 2010

【目的】我々は先行研究において内反捻挫後の背屈動作で足趾伸展を伴う足関節外反と関節軸のずれを報告した。実際に臨床で内反捻挫後の症例をみると足関節機能の低下に加えスポーツ動作時にマルアライメントを呈する例が多い。そこで今回の目的は捻挫による足関節・足趾への影響と動作時アライメントとの関連を検討し、リハビリテーションの一助とすることとした。<BR>【方法】内反捻挫後の症例(うち男性3名、女性7名、平均年齢19.1歳、身長164.6cm、体重59.7kg)を対象としビデオカメラを用いフォワードランジ動作を前額面・矢状面で撮影した。得られた映像をアニマ製二次元動作解析装置に取り込み、動作時アライメントとして足趾伸展角度、足関節背屈角度、舟状骨高、膝関節外反角度を計測した。同時に足関節機能として、背屈・底屈・内反・外反のROM・筋力を測定した。背屈、底屈の筋力に関して、背屈では自然背屈と足趾屈曲位での背屈筋力を、底屈では母趾球と小趾球での底屈をそれぞれ測定した。筋力の測定にはHOGGAN製MICROFET2を用いた。検討項目は足関節機能・動作時アライメントの健側・捻挫側の差と、足関節機能・動作時アライメントの相関関係とした。それに加え、先行研究の結果より内反捻挫後の足趾伸展に着目し、接地時に足趾伸展が見られる例を足趾伸展タイプ、その他の例をノーマルタイプとし、足関節機能・動作時アライメントでそれぞれ2群間の差を検討した。<BR>【説明と同意】被検者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の目的、方法、危険性について十分に説明し同意を得ておこなった。<BR>【結果】足関節機能に関して、ROMでは捻挫側で背屈、底屈、内反、外反すべてにおいて低下が見られた。筋力では足趾屈曲位での背屈、小趾球での底屈、内反、外反で有意に低下が見られた。動作時アライメントでは足趾伸展角度、足関節背屈角度、舟状骨高において有意差は見られなかった。膝関節外反角度に関しては捻挫側で有意に増大が見られた。足関節機能と動作時アライメントの相関では足趾伸展角度と内反ROMとの間に負の相関が見られた(r=-0.79、p<0.01)。舟状骨高と内反筋力・外反筋力(r=0.68・r=0.835、p<0.05)それぞれに正の相関が見られた。足趾伸展タイプ・ノーマルタイプの2群間の比較では足趾伸展タイプで母趾球での底屈筋力と膝関節外反角度が有意に高値を示した。<BR>【考察】足関節捻挫後の影響として足関節外反筋力の低下や腓骨筋反応時間の遅延などが報告されており、今回の結果からも外反筋力の低下が見られた。今回の結果ではそれに加え、内反筋力の低下が見られることや、足趾屈曲位での背屈筋力・小趾球での底屈筋力に低下が見られることから、内反筋の活動低下が著明であると考えられる。<BR>内反筋力と舟状骨高では正の相関が見られており内反筋力が低下することで内側縦アーチの低下に繋がると考えられる。内側縦アーチの低下に伴い、足関節の回内が増大し、捻挫側の膝関節外反の増大に繋がったと考える。足趾伸展タイプではノーマルタイプと比べ、母趾球での底屈筋力で高値を示しており、底屈動作で外反の要素が大きいと考えられる。足趾伸筋は足関節外反作用があることから足趾伸筋の過活動によって足関節外反を伴う底屈が起きていると考える。足趾伸展の過活動が起こる要因としては足関節内反角度の減少が考えられる。今回の結果より、足趾伸展角度と足関節内反ROMに負の相関がみられたことから、内反捻挫の症例では外側組織が炎症・瘢痕化し内反ROMが減少することで、内反時の疼痛が起こり、疼痛回避のため外反位を保持するため、外反の作用を持つ足趾伸筋にスパズムが起こり過活動に繋がると考える。足趾伸筋の過活動により、接地時の背屈筋での遠心性収縮時に前脛骨筋の活動が減少し内側縦アーチの保持が困難となる。アーチの低下により足関節回内が増大し足趾伸展タイプでは動作時の膝関節外反の増大が著明に見られたと考える。以上のことから、足関節内反捻挫後の治療として従来のアプローチに加え、内反筋である前脛骨筋・後脛骨筋へのアプローチが重要だと考える。特に足趾伸展を伴う例においては、足趾伸筋の過活動に注意し足趾や足部アーチの機能低下に対するアプローチを行い、動作時アライメントの改善を行うことが重要であるといえる。<BR>【理学療法研究としての意義】足関節内反捻挫後の理学療法評価、治療を行う際、足関節機能に対するアプローチだけでなく、動作時アライメントや足趾の機能への選択肢が拡大する可能性が示唆された。<BR>
著者
寒川 美奈 山中 正紀 片寄 正樹 大西 祥平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C1024-C1024, 2004

【はじめに】<BR> スキーは,日本で最も楽しまれているスポーツのうちの1つである.そのなかでフリースタイルスキー(モーグル)は競技としては新しく,コブ斜面を一気に滑走し,2回のエアー(ジャンプ)を組み合わせて行うという種目であり,スキー競技の中でも危険度が高いスポーツであるといえる.<BR> 今回,2003年10月14日から11月1日までスイスにて行われた全日本フリースタイルスキーモーグルチームの合宿に理学療法士として参加する機会を得た.その際実施したメディカルチェックの結果,7名中7名にてOber test陽性,うち3名に膝蓋腱炎(内側)の既往があった.1名は,チェック実施時にも同部の疼痛を有していた.<BR> 我々はフリースタイルモーグルスキー選手にみられた膝蓋腱炎の発生メカニズムについて考察し,若干の知見を得られたので報告する.<BR>【症例】<BR> 27歳女性.モーグルスキー歴9年.4年程前よりスキー練習中膝蓋腱内側に疼痛有し,超音波及び電気治療などを受けていたが,増大時にはステロイド注射にてコントロールしていた.2002年12月右MCL損傷後,膝蓋腱の疼痛増大していた.2003年10月初期評価実施.両Frog eye.右Patella下位.筋力右膝関節伸展筋,両股関節外転筋,内転筋低下.Ober test陽性.大腿四頭筋柔軟性に左右差あり.片脚スクワットでknee in傾向.膝蓋骨可動性低下.圧痛は膝蓋骨下内側部にあり,運動開始時,あるいは疲労を感じてくると疼痛出現.自発痛はなかった.これらの評価に基づき,超音波,腸脛靭帯や大腿四頭筋に対するストレッチング,膝蓋骨に対するモビライゼーション,3 point Straight Leg Raising,片脚スクワット,片脚バランスなどを指導した.また腱炎に有効とされる遠心性収縮を用いての筋力強化も行った.練習後には,必ずアイシングを行わせた.<BR>【結果】<BR> 合宿中であったにもかかわらず,疼痛をコントロールすることができた.疼痛は膝蓋骨下内側部にのみ限局して存在したが,他部位に広がることはなかった.膝蓋骨の可動性も増大した. <BR>【考察】<BR> 疼痛をコントロールできた理由として,アイシング実施による炎症の最小限化,膝蓋骨の可動性が増大,遠心性収縮を利用した筋力強化などを用いたためと考えられた.<BR> スキー滑走姿勢が常に体幹前傾,股関節屈曲・膝関節屈曲位であるため,腸脛靭帯は短縮しやすい肢位であるといえる.その際下肢は外旋位をとり,膝蓋骨は外側変位となり,膝蓋腱内側部にストレスが加わると考えられた.したがって,今後は本症例だけではなく同様の受傷を回避するために,他選手にも腸脛靭帯のストレッチングを意識的に実施させるべきであると考えられた.
著者
鈴木 誠 高橋 一揮 梁川 和也 佐藤 洋一郎 吉田 忠義 小野部 純 村上 賢一 武田 涼子 藤澤 宏幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P2406-C3P2406, 2009

【目的】<BR>垂直跳び(Vertical Jump:以下、VJ)は瞬発力の測定としてスポーツ現場では簡便に実施できる測定であり、跳躍高はプロサッカー選手の脚伸展筋力と相関が高いことがWisl&oslash;ffら(2006)の報告でもなされている.しかし、これは足関節の機能的・構造的安定性が補償されてはじめて行える動作であり、同部位に障害を負うと十分なパフォーマンスを発揮することが出来ないと予想される.そこで本研究はプロサッカー選手の足関節周囲筋の力時間曲線から得られた時間的指標とVJの跳躍高との関係性を足関節障害の有無によって比較検討することである.これは、足関節に障害を負ったスポーツ選手の競技復帰に向けた理学療法介入の具体的戦略として活用できると考えられる.<BR>【方法】<BR>対象は某プロサッカーチームに所属する選手で、重症度に関わらず足関節に障害を抱えている選手(以下、障害群)4名(22.5±3.3歳)、及び特に障害を抱えていない選手(以下、非障害群)13名(23.23±2.83歳)の計17名について調査を行った.測定の前に十分な説明を行った上で実験参加の同意を得た.測定肢は非障害群の場合、右下肢とした.測定項目は足関節背屈筋の反応時間(RT)・最大トルク到達時間(Max_tq_time)・最大変化率到達時間(MaxVtime)とした.また、VJは上肢を胸部前方で組み、反動を使わず股・膝関節屈曲90°を開始肢位として測定を行った.統計学的検定として、平均値の差の検定には2標本の差の検定を行った.また、VJの跳躍高と足関節筋力指標との関係を調べるためピアソンの積率相関係数(r)を求めた.有意水準は5%未満とした. <BR>【結果】<BR>VJの跳躍高は非障害群:47.1±3.5cm,障害群:46.5±2.9cmであり、有意差は認められなかった.足関節周囲筋の時間的指標は、RT(非障害群:0.14±0.03秒, 障害群:0.14±0.02秒)、Max_tq_time(非障害群:0.70±0.20秒, 障害群:0.49±0.08秒)、MaxVtime(非障害群:0.28±0.05秒, 障害群:0.25±0.03秒)であり、Max_tq_timeにのみ有意差を認めた(p<0.05).また、VJの跳躍高と足関節周囲筋の時間的指標との相関係数は0.5~0.8であり、有意ではないが関係性が示唆された.<BR>【考察】<BR>サッカー選手にとってジャンプ動作は相手選手との競り合いの中でもしばしば見受けられる動作であり、より高い跳躍高が求められる.今回の結果より、足関節周囲筋の最大張力だけではなく、それを短時間で発揮できる能力が足部の安定性を補償し、効率の良い脚伸展筋力の伝達に利用できると思われる.よって、早期より足関節周囲筋の筋力向上に加え、反応性を意識したような理学療法のアプローチを考慮し、下肢全体の協調性を高めていくような戦略をとる必要があると考えられる.
著者
木下 信博 日高 滋紀 塚本 裕二 山崎 伸一 平川 和生 松永 勝也 小野 直洋 志堂寺 和則
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0873-C0873, 2007

【目的】高齢化の進行に伴って、変形性膝関節症(以下膝OAと略す)は頻繁に見られる疾患であり、病状が進むと機能的障害を残し日常生活に支障をきたすことが多く、今後高齢者の増加に伴い大きな社会問題になってくる可能性が大きい。膝OAについて、新潟大学大森教授らは、正常な膝伸展時に起こる下腿の外旋:screw home 運動(以下SHMと略す)が膝OAのステージが高くなるに従って出現が低値となっており、ステージ4に至っては、逆SHMが出現していると報告している。このSHMの異常が膝関節の関節軟骨に対する大きなshear stressになっている可能性が大きいと思われる。そこで我々は、九州産業大学大学院の松永教授らとの研究で、健常者と膝OAで歩行時のSHM機能の違いを検討した、更に患者の1日の歩行数の変化もここに報告する。<BR>【方法】大腿と下腿の回旋角度を測定するための装置として、トランスミッタより磁界を発生させ、レシーバはポヒマス社製を使用した。実験は3.5km/hの速度でトレッドミルの上を2分間歩行した、最初の1分間は練習歩行期間とし、残り1分間の内45歩分のデータを解析対象とし、レシーバの位置は大腿部では大腿骨外顆で、下腿部では腓骨小頭とした。そこで本研究では、大腿に対する下腿の回旋角度の傾向を測定することとし、SHM靴(大腿に対する下腿の回旋を促す機能付き靴)の有効性を検証した。<BR>【検証靴の概容】SHM機能が付いていない通常の靴と、立脚期にSHMを発生させるため、靴底に外旋方向の回転トルクを発生させるスクリュー状の弾性体が装着されている靴で比較をおこなった。<BR>【対象】対象者は、膝に障害がない健常者2名と当院に受診中の軽度膝OA患者2名とした。1日歩数の対象者は軽度膝OA患者24名で、SHMなし、1mm、4mmの靴で比較した。<BR>【結果】<BR>結果その1:グラフは縦軸に大腿に対する下腿の回旋を示し、横軸は踵接地からの経過時間を表す。更に、黒の実線が通常の靴で、その他の破線がSHM靴である。これによると健常者における大腿・下腿の回旋運動では、踵接地からスムーズな外旋運動がみられた。<BR>結果その2:軽度膝OA患者2名では踵接地より内旋傾向が見られ、その後に外旋運動が確認された。<BR>結果その3:一日歩数の変化を見ると、SHM1mm群では変化がなく、SHMなし群で若干の歩数の増加が見られたが、SHM4mm群では、3ヶ月目、6ヶ月目と経時的に増加が見られた。<BR>【考察】オープン カイネティックでの下腿の回旋運動は周知の事実だが、歩行時のクローズド カイネティックでの検証を試みた、結果より歩行中で下腿部に外旋の力を伝えることで、膝OA患者の立脚相前期での過度な内旋を抑制する結果となった。我々はこのことによってSHM靴が膝OAに対する効果を発揮し、QOLを改善し歩行距離を伸ばしていると考えられ、このことは、引いては膝OA患者さんが歩行を続けることによって、健康増進につながると思われる。
著者
高岡 克宜 鶯 春夫 岡 陽子 唐川 美千代 平島 賢一 別部 隆司 嶋田 悦尚 橋本 安駿 橋本 マユミ 大庭 敏晴
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.F0898-F0898, 2006

【はじめに】<BR> 現在、理学療法分野では腰痛軽減を図る上で様々な物理療法や徒手療法が行われている。当院においては徒手療法を中心に治療を行っているが関節周囲軟部組織の伸張や関節モビライゼーション効果を目的に腰椎間歇牽引器(以下;従来型)を用いて牽引療法も施行している。今回、自重牽引器である浮腰式アクティブ運動療法腰痛治療器プロテック(以下;プロテック)を施行する機会を得たので従来型と比較し、その効果を検討した。<BR>【対象および方法】<BR> 平成17年6月現在の当院職員71名に対し腰痛に関するアンケート調査を行い、腰痛を有しているが整形外科疾患を有していないため治療を行っていない者15名(性別:男性5名、女性10名、平均年齢42.7±13.1歳)を対象とした。なお、対象者に安静時痛や夜間時痛を有する者はなかった。<BR> 方法は対象者を無作為にプロテック群7名、従来型群8名の2群に分け、プロテック群は開始14分間を股・膝関節90°屈曲位、残り1分間を股関節90°屈曲・膝関節完全伸展位で牽引を施行した。違和感が出現した場合は膝関節完全伸展位での牽引を止め、痛みが出現した場合は中止した。従来型群はORTHOTRAC OL-2000(OG技研)を腰椎介達動力牽引の治療肢位で使用し牽引力は体重の1/3、牽引持続時間10秒、休止時間5秒で、15分間施行した。両群とも週2回の頻度で6週間施行した。評価として日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(以下;日整会判定基準)、指床間距離(以下;FFD)、Visual analog scale(以下;VAS)を牽引前、3週間後、6週間後に行い最後にアンケート調査を行った。なお、対象者には本研究に関して十分な説明と同意を得た。<BR>【結果】<BR> 牽引前と6週間後の結果を比較すると、プロテック群の日整会判定基準の平均値は24.0±2.2点から26.5±1.1点、VASは4.8±2.4から2.0±1.5、FFDは2.2±12.0 cmから2.2±11.5cmであった。従来型群の日整会判定基準の平均値は24.0±3.8点から26.8±2.1点、VASは3.6±2.6から1.0±1.3、FFDは3.0±13.9 cm から5.6±14.0cmであった。上記の結果より、両群共に改善が認められたがFFDにおいては従来型群のみに改善を認めた。また、アンケート結果では肯定的回答が両群で4名ずつ得られた。なお、プロテック群では初回牽引後に1名、従来型群では2週間以内に3名、腰痛が出現し牽引を中止した。<BR>【考察】<BR> 両群共に腰痛軽減効果が認められた反面、疼痛が出現し悪化した者も認められた。また、本研究においては症例数が少なかったため統計学的にも両群の差を認めることが出来なかった。今後は牽引肢位や牽引力、骨盤傾斜角度等の検討を行うとともに、症例数を増やし両群の適応を再検討する必要性が示唆された。
著者
山本 朗子 中村 宅雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3108-A3P3108, 2009

【目的】日常生活において,鞄を身に付けたまま動作を行う場面がしばしば存在する.鞄の種類は多様であるが,両手が自由になり,肩から掛けたまま荷物を取り出すことが可能等の利点からショルダーバッグを選択する人も少なくない.Motmans RRらは体重の15%の重さのショルダーバッグを身体の右側に持ったときの体幹筋活動の変化を検討し,右体幹筋活動が減弱したのに対し左体幹筋活動が増大したと報告した.これまでショルダーバッグの有無やバックパックに対する体幹筋活動・アライメントの変化についての研究は報告されているが,ショルダーバッグの体幹に対する位置関係の違いによる研究はなされていない.よって今回,ショルダーバッグの位置と荷物の重量の関係から,ショルダーバッグ使用時に身体に最も負荷の少ない条件を検討することを目的とした.<BR>【方法】被験者は脊柱疾患の既往がない20代健常男性・女性各10名とした.被験者に実験の目的・趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実験を行った.表面筋電図(以下EMG)は1kHz/1msで測定し,被検筋は両側腹直筋,腰部脊柱起立筋群とした.左耳介,第7頚椎棘突起,第1腰椎棘突起,両肩峰,左大転子,左膝裂隙,左第5中足骨底に反射マーカーをつけ,前額面・矢状面の写真撮影を行い,アライメントを評価した.被験者に足部間距離15cmで立位保持を行ってもらい,ショルダーバッグを持たない条件(以下C群),ショルダーバッグの位置(前,横,後)・重量(体重の10%,15%)を変えた6条件で重心動揺・EMGを10秒間測定した.EMGはC群を100%として正規化した.統計学的分析には多重比較(Dunnett法)を用いた.<BR>【結果】被験者の平均年齢・身長・体重はそれぞれ21.5±0.9歳,166.1±5.7cm,58.1±5.7Kgであった.EMGではC群と(15%-前)群の左腹直筋間,(15%-前)群での左右腹直筋間でそれぞれ有意差が認められた(p<0.05).アライメントではC群と比較して(10%-横)群,(15%-横)群 で体幹左側屈,(15%-前)群で体幹伸展,(15%-後)群で体幹屈曲の有意差が認められた.重心動揺ではC群と比較して(15%-前,横,後)群に有意に総軌跡長が減少した(p<0.05).<BR>【考察】結果から,ショルダーバッグを体幹の横に持つ場合は体重の10%以上,体幹の前方および後方で持つ場合は体重の15%以上で身体に影響を及ぼすことがわかった.よってショルダーバッグを使用する場合には体幹の横で使用せず,かつ体重の10%未満の重量が望ましいことが示唆された.
著者
石塚 達也 柿崎 藤泰 本間 友貴 石田 行知
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0683-Ab0683, 2012

【目的】 体幹は身体質量比の0.479を占めるため、上半身質量中心点を含む胸郭の変位が身体運動に与える影響は大きい。臨床的には前額面上、胸郭が骨盤に対して正中に位置している例は少なく、多くの例で左側に変位している。我々は体幹の形態として胸郭が骨盤に対して左側に変位していることは一般的であると捉えている。そこで今回は胸郭側方変位と座位における体幹の荷重左右差の関係を定量的に示すことができたためここに報告する。【方法】 対象は成人男性13名とした(年齢 21.8±1.0歳、身長 171.2±3.4cm、体重 63.5±9.3kg、座高 92.5±1.9cm、BMI 21.6±2.6)。胸郭側方変位の判定は3DイメージメジャラーQM-3000(株式会社トプコンテクノハウス社製)を用いて行った。2台のデジタルカメラを縦に並列にステレオ配置し、基線長が40cmのステレオカメラを作成した。そのステレオカメラを2台使用した。ステレオカメラの位置は左右50°の角度で撮影距離は2mとした。ステレオカメラの後方にはプロジェクターをそれぞれ配置させた。計測肢位は自然立位とし、上肢はレッドコード(インターリハ社製)を用いてゼロポジションで固定した。身体マーキング位置は、頸切痕、剣状突起、両ASIS、両ASIS間の中点、中腋窩線と腸骨稜の交点、中腋窩線と剣状突起を通る床との水平線との交点とした。写真撮影は、プロジェクターにてランダムドットパターン無と有の光を照射し、2パターン行った。撮影した画像データはPCで読み込み、QM-3000にてポイント計測、ポリライン計測し3次元化を行った。その3次元化データより断面図作成を行った。断面図作成は両側の中腋窩線を通る床との垂線とし、前額面上での胸郭側方変位を判定できるものとした。断面図データはCSVファイルに変換し処理を行った。下限はASISレベル、上限は腋窩レベルとし、両ASIS間の中点をy軸に合わせ骨盤中心線とした。その骨盤中心線により体幹を左右に分け、体幹の右側面積、左側面積を求めた。左右で面積が大きい方を胸郭変位側とした。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。また椅子に体重計を2つ横に並べ、左右の坐骨結節がそれぞれの体重計の中央に位置するように坐骨支持の端座位をとらせた。レッドコード(インターリハ社製)を用いて上肢と下肢をスリングし、上下肢の質量を除いた条件下で体幹の荷重左右差をみた。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。そして胸郭の側方変位量と体幹の荷重左右差との関係をPearsonの相関係数にて分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿い、各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後、同意書に署名した上で計測を実施した。【結果】 胸郭側方変位は右側面積410.8±44.0cm<sup>2</sup>、左側面積426.8±43.8cm<sup>2</sup>で左側面積が有意に大きかった(p<0.05)。体幹の荷重左右差は右側体重17.2±4.0kg、左側体重19.3±2.5kgで左側体重が有意に大きかった(p<0.05)。胸郭側方変位と体幹の荷重左右差の間には、胸郭変位側に荷重の偏りがあるという正の相関がみられた(n=13、r=0.59、p<0.05)。【考察】 今回の研究より、胸郭は左側への変位が多いという結果となった。実際の臨床においても胸郭は骨盤に対して左側に変位している例が多く、その臨床像を反映する結果である。また体幹の荷重左右差については、右側に比べ左側が大きかった。これは左側への胸郭変位の存在により、上下肢の影響を除いた条件下では荷重も左側に偏りを伴うためである。左側への胸郭変位と体幹荷重の左側への偏りの関係が一般的であるが、右側への胸郭変位を呈する例や胸郭変位側とは反対側への荷重の偏りがある例は異常性があると捉えている。例えば、臨床的には腰痛症状を持つ例や腰部の構造破綻のある例などは右側への胸郭変位を呈していることが多い。結果を総合すると、姿勢や体幹機能評価で側方への胸郭変位や荷重の偏りなども考慮することは理学療法の効果判定に有効となると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より、胸郭は左側への変位が多く、体幹の荷重は左側に偏りがあることが定量的に示された。これは姿勢や体幹機能評価などの理学療法評価や治療に有益な情報となると考える。
著者
長谷川 至 尾田 敦 三浦 雅史 川口 徹 山内 茂寛 村上 三四郎 中村 正直
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0062-C0062, 2004

【はじめに】青森士会では,「第5回アジア冬季競技大会青森2003(以下,アジア冬季大会)」での理学療法サービス提供について,(財)青森アジア冬季競技大会組織委員会(以下,AWAGOC)から正式な依頼を受け,ボランティアとして活動を行った。今回,アジア冬季大会における活動を報告するとともに,活動上の問題点を踏まえて,今後の課題について検討したので報告する。<BR>【事前準備】1999年に青森士会では「冬季アジア大会準備委員会」を設置し,研修会などの開催や,AWAGOCや関連自治体との事前協議を行った。また,プレ大会へ参加することによって実地研修も行った。<BR>【大会概要】期間:2003年2月1~8日。会場:県内6市町9会場。競技種目:6競技54種目。参加国/地域:29カ国/地域。エントリー数:選手,役員計1102名。<BR>【活動概要】期間:2003年1月30日~2月7日。時間:9時~21時,一部の会場では夜間または予約のみ。場所:全会場の各選手宿舎(全9カ所)内に設置されたマッサージ室。人員:青森士会員106名(全会員279名中)。<BR>【活動結果】全会場合計の利用者延べ数は162名であった。日別利用者は,活動開始日から徐々に増加し,競技開始後2日目(49名)に最も多く,その後徐々に減少した。国別利用者延べ数は,計11カ国の方が利用し,カザフスタン(40名),韓国(38名),台湾(20名)が多かった。競技種目別利用延べ数は,カーリング(26名),バイアスロン(26名),フィギュアスケート(24名),フリースタイルスキー(21名)が多かった。主にトレーナーが帯同していない国または競技・選手の利用であった。利用目的は疲労回復(76%)が多く,腰背部(31%)や下肢(30%)に対するマッサージ(57%),物理療法(22%),ストレッチング(14%)が多かった。外傷に対する処置や,練習・競技直前の対応なども数例あったが,活動時間の都合上,対応できないケースもあった。<BR>【問題点と今後の課題】当初の計画ではいくつかの会場に限定して活動を行う予定であったが,大会数カ月前に,急きょ計画を変更して全会場での活動を行うこととなった。そのため,人員や物品の確保に支障をきたしたことや,各会場の状況を把握しきれなかったことなどの問題があった。その他,コミュニケーション能力などの問題もあったものの,選手や大会関係者からは概ね好評を得て活動を終えることができた。<BR> 資質向上,職域拡大,社会貢献などの点から,このような活動に参加することの意義は高いと考える。今後は,個々の資質向上だけでなく,青森県内においても関連機関や団体との連携を深めるとともに,組織的なサポート体制を構築することが重要である。
著者
李 嵐
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0934-G0934, 2006

【目的】21世紀を迎えた日本では、高度な知識や専門技術さらに豊かな人間性と高い倫理観をもった理学療法士が求められている。働きながら学ぶという夜間部の特性を生かし、知識と技術に偏重することなく、思いやりを持てる心の豊かさと高い倫理観を併せ持った理学療法士を養成するのは我々の教育理念である。今回、理学療法学科夜間部に在籍する学生の就業状況を調査し、学業成績との関連性を検討し若干の示唆が得られたので報告する。<BR><BR>【方法】平成15年度に当校理学療法学科夜間部に入学した学生43名(男性学生29名、女子学生14名、平均年齢24.4歳)を対象とした。学業成績として、一年次全科目学科成績を用いた。43名の学科試験成績の総合偏差値順位によって成績上位群(A群)、成績中位群(B群)、成績下位群(C群)の3グループに分けた。全員に対し就業状況と学習状況に関するアンケート調査を実施した。調査内容は最終学歴、就業施設、一日平均就業時間数(WH)、一日平均学習時間数(LH)、または就業と学習過程で生じる問題点などの質問から構成した。結果をグループ間にて比較しT検定、反復測定分散分析と相関係数の検定を用いて統計学的検討をした。<BR><BR>【結果】A群は最も高い平均年齢(26.7±7.4歳)を示し、C群(21.9±4.5歳)との間に有意な差(P<0.05)が見られた。B群に一日平均就業時間数(WH)が最も少なく、A群より有意に(P<0.05)低値を示した。一日平均学習時間数(LH)については、A群とB群はC群より有意に(P<0.05)高値を示した。WHとLHの間に強い相関関係を認められなかった。<BR><BR>【考察】学業成績は学習効果によって左右される。学習効果は基礎学力と学習時間の二つの要因に影響される。学習の一連の訓練をもっとも長く受けて来た四年制大学卒学生が必ずしも上位の成績を得られなかったのは、学習動機の不足と高等教育レベルの低下に関連すると推察できる。<BR> 高い年齢層の学生が良い成績を得られたのは、「将来への危機感による動機づけ」、「いままでの人生経験による問題処理能力」などの要因は良い影響を及ぼしていると考えられる。<BR> 就業時間数と学習時間数の間に強い相関関係を示さなかったのは、80%以上の学生が医療施設に就業し、日頃から臨床に立触っている。そこで知識不足を実感させるのは動機となり、休み時間や通勤通学電車の中の時間を学習時間としてあてる学生も少なくないのは原因ではないかと考える。<BR><BR><BR>【まとめ】学生の年齢層が幅広く、働きながら学べるのは夜間部の特徴と言える。今回の調査によって、学業成績は就業時間数にほとんど影響されず、年齢と授業外学習時間数は学業成績に関係していると考えられる。
著者
前川 昭次 高木 律幸 小島 弓佳 石塚 威 富田 沙織 南部 計 今井 晋二 岩佐 文代
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P3228-G4P3228, 2010

【目的】当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)は、国立大学法人附属病院としては本邦で初めての例として、平成20年6月に開設された。現在、開設後1年4カ月が経過したが、回リハ病棟の設置により病院全体としてどのような効果があり、患者にとっていかなる利益を供与できたかを知ることは、今後の病棟運営において非常に重要なポイントとなる。そこで、ここでは当院回リハ病棟の概要を紹介するとともに大学病院における回リハ病棟の位置付けについて各種統計データから考察することにする。<BR>【方法】回リハ病棟の病床数は46床、スタッフは回リハ医師4名(専従1名、専任3名、出身診療科:整形外科2名、神経内科1名、循環器内科1名)、理学療法士(以下、PT)3名(専従2名、専任1名)、作業療法士3名(専従1名、専任2名)看護師23名、看護補助者3名である。データは平成20年6月の回リハ病棟開設から平成21年9月までの実績(診療科別入棟患者数・割合、回リハ病棟在院日数、在宅復帰率)を算出した。そして回リハ病棟開設により、急性期の関係各診療科の在院日数がどのように変化したかを開設前、後で比較した。<BR>【説明と同意】当院は大学病院であるため患者には入院時に研究協力について理解が得られている。さらに、本研究の趣旨について回リハ病棟入棟時に説明を加え同意を得ている。<BR>【結果】平成20年6月~平成21年9月までに回リハ病棟に入棟した患者総数は371例で診療科別内訳は整形外科298例(80.3%)、脳外科27例(7.3%)、神経内科26例(7.0%)、心臓血管外科14例(3.8%)、その他6例(1.6%)であった。回リハ病棟在院日数の平均は39.6日で診療科別では整形外科31.4日、脳外科76.5日、神経内科84.1日、心臓血管外科63.8日、その他55.6日であった。在宅復帰率は全体平均が96.4%、診療科別では整形外科98.9%、脳外科87.0%、神経内科86.4%、心臓血管外科83.3%であった。回リハ病棟の入棟患者が多い診療科の在院日数を回リハ開設前(平成19年4月~20年3月)、後(平成20年6月~21年9月)で比較したところ、整形外科開設前24.4日、開設後17.8日、脳外科21.5日、21.9日、神経内科26.9日、26.6日、心臓血管外科22.1日、23.3日であった。<BR>【考察】ここで算出したデータと「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する報告書」(以下、報告書)に記されているデータを比較することにする。報告書の専従職員数平均は医師1.2名、PT4.3名、OT3.2名、ST0.9名、看護師16.5名、看護補助者9.1名であった。当院において平均値を上回っているのは看護師数のみであった。当院の場合専従医師数は1名であるが、専任医師3名の回リハ病棟患者の管理に関わる比重は大きく、ほぼ専従と同等のレベルにある。報告書のデータからも推察されるように、一般病床を有する施設の多くは回リハ病棟患者の主治医は急性期担当医師が兼務する場合が多く、当院のように4名の医師が各々の専門領域の疾患に応じて主治医となっているのは特徴の一つである。したがって、患者に何らかの不都合が生じた場合迅速な対応が可能であるだけでなく、スムーズな病棟運営に大いに貢献しているものと考える。看護師数は報告書の平均を上回っているが、これは看護補助者の配置が少ない分、相応な人員配置といえる。診療科別内訳について報告書では、脳血管系54.0%、整形外科系32.2%、廃用症候群11.9%となっている。当院の場合整形外科が圧倒的に多いが、先にも記したように、医師が専門領域別に必ず主治医となることと、整形外科医師が4名中2名人員配置されていることから、整形外科患者が最も多いことは当然の結果といえる。しかしながら、8割を超えることは開設前のシミュレーションからすれば予想外の結果であり、今後の病棟運営における検討課題の一つである。在宅復帰率についても同様に、整形外科患者が多いことがこのような高値につながったものと考える。回リハ病棟開設後の各診療科の入院在院日数の変化については、整形外科で約1週間短縮されており貢献度としては十分な結果であったといえよう。他の診療科については入院患者数に占める回リハ入棟患者の割合が少ないため、貢献度を推し測ることは困難である。今後他の統計手法を用い検討する必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】本邦の国立大学法人附属病院では唯一の回リハ病棟であり、今後さらにデータを蓄積し公開することは他大学の参考となるだけでなく、本邦における回リハ病棟の位置づけや方針を考えていくうえで重要なデータとなるものと考える。<BR>
著者
新岡 大和 上野 貴大 戸塚 寛之 宮崎 哲也 山口 大輔 成尾 豊 荻野 雅史 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bd1463-Bd1463, 2012

【はじめに、目的】 ボツリヌス療法(以下、BTX)は筋弛緩作用のあるボツリヌス毒素を痙縮した筋へ直接注射することで筋緊張の緩和を図るもので、世界70カ国以上で痙縮に対する治療として用いられている。本邦でも2010年よりA型ボツリヌス毒素製剤が脳卒中における上肢痙縮、下肢痙縮に対する効能、効果として厚生労働省より適応追加の承認を得ており、脳卒中治療ガイドライン2009においても痙縮に対する治療として推奨グレードAとされている。一方で、脳卒中の上肢痙縮、下肢痙縮改善の目的は単なる痙縮の改善だけではなく、痙縮の軽減による機能及び能力の改善にある。そのためにはBTXとリハビリテーションの併用の重要性がいわれており、先行研究においてもBTXと理学療法を併用した結果、歩行能力が有意に改善したという報告がある(Giovannelliら:2007)。当院ではBTXが上肢痙縮、下肢痙縮に対して承認されてから、痙縮が認められる維持期脳卒中患者に対してBTXを行い、理学療法介入を併用してきた。今回、症例を重ねる中でBTXの後療法としての理学療法の有用性を確認でき、若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は2011年3月より2011年9月の間に当院で脳卒中下肢痙縮に対してBTXを実施した12名(男性10名、女性2名、年齢64.2±10.0歳)である。対象者の下肢痙縮筋(股関節内転筋群、大腿二頭筋、下腿三頭筋、後脛骨筋など)にGlaxo Smithkline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって判断した。投与後より1ヶ月間、週2~6回、各60分程度の理学療法を行った。理学療法プログラムは、各種物理療法、関節可動域練習、筋力強化、歩行練習などが行われた。また、対象者に対してBTX施行前、1週間後、1ヵ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は、筋緊張検査として足関節背屈Modified Ashworth Scale(以下、MAS)、関節可動域検査として足関節背屈関節可動域(以下、ROM)、歩行検査として10m歩行検査、QOL検査としてSF-8をそれぞれ実施した。統計学的手法としてはSPSS for Windows10.0を用い、Friedman検定を行い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はさいたま記念病院倫理委員会にて承認を得て実施した。調査にあたっては、対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し、研究参加への同意を得た。【結果】 対象者の疾患内訳は、脳出血7名、脳梗塞3名、脳腫瘍2名であり、発症年齢は57.2±8.2歳で、発症からBTX施行時までの経過年数は7.0±3.8年であった。MASに関しては施行前より1週間後、1ヵ月後の順で有意に数値が減少した。ROMに関しては施行前より1週間後、1ヵ月後に有意に数値が増大した。10m歩行検査においては歩行時間が施行前より1週間後、1ヵ月後の順に有意に数値が減少した。歩数は施行前より1週間後、1ヵ月後に有意に数値が減少した。SF-8に関しては施行前より1週間後、1ヵ月後に有意に数値が減少した。【考察】 BTX施行より一週間後において、ほぼ全てのケースで筋緊張、関節可動域、歩行能力が改善されていた。また、BTX施行より1ヶ月後においても更なる改善を認め、先行研究の内容を裏づける結果となった。運動機能が固定されるケースが多い維持期脳卒中患者に対して、このような結果が得られたことは有意義といえる。今回、BTXを施行した多くの対象者は痙縮の改善後も以前の運動パターンが残存していた。筋緊張、関節可動域など改善された機能に見合った動作へ導くためには、正しい運動学習が必要となる。つまり、BTX後の治療の有無が重要ということになる。効果が1ヶ月ではあるが、持続ばかりか向上していた今回の結果は理学療法介入の必要性を示唆するものと考える。しかし、今回の研究は理学療法介入群のみのものなので、今後この点を課題として理学療法介入の有無によるRandomized Controlled Trialでの効果検証が必要だと考える。現在、諸外国ではBTXの後療法としてどのような理学療法介入が効果的か検討されている。今後は当院においても症例を重ねる中で、先行研究をもとに、より効果的な介入方法を検討し、その可能性を提示していくことが重要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究は我が国ではまだ報告の少ない維持期脳卒中患者の下肢痙縮に対するBTXの後療法として、理学療法の有用性を示唆できたことに意義があると考える。
著者
森下 志子 森下 一樹 森田 正治 宮崎 至恵 甲斐 悟 中原 雅美 渡利 一生 松崎 秀隆 吉本 龍司 村上 茂雄 千住 秀明 高橋 精一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D1179-D1179, 2005

【はじめに】シャトルウォーキングテスト(SWT)は慢性呼吸不全患者(COPD)を対象に開発された運動負荷試験である。そのプロトコルは標準化されており,その結果から運動処方を具体的に行うことが可能であるという特徴がある。健常者に用いられる運動負荷試験として20mシャトルランニングテストがあるが,元来,スポーツ選手の全身持久力を評価するために開発されたため,最初のステージで,予測最大酸素摂取量が24.5 ml/kg/minと設定されており,運動負荷が大きいという問題点を抱えている。SWTはCOPDを対象に開発されたものであるため,プロトコルが緩やかであり,走行困難な者でも実施可能である。しかし,SWTでの運動負荷の予測式はCOPDを対象としたものであり,健常者には当てはまらない。そこで本研究では健常者を対象にSWT中の酸素摂取量を測定し,その結果から予測式を算出することを目的とした。<BR>【対象】長崎県I町在住で,町が主催する健康教室へ参加した整形外科的疾患のない25名を対象とした。年齢は26~78(平均54.17±17.76)歳,男性5名,女性20名であった。<BR>【方法】測定は,身長,体重,握力,SWT歩行距離および運動終了時の実測酸素摂取量(実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>)を実施した。SWTは標準プロトコルに従って測定し,酸素摂取量は携帯型呼気ガス分析装置(MetaMax2,CORTEX)を用い,ブレスバイブレス方式で記録した。呼気ガス分析より得られた実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>とSWT歩行距離の関係を検討するために単回帰分析を用いて予測式を作成した。<BR>【結果】実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>とSWT歩行距離との関係は,実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>=0.030×SWT歩行距離+7.397(R<SUP>2</SUP>=0.841、p<0.01)となり,高い相関関係が認められた。実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>の予測式を作成する上で,年齢その他の要因の関与は認めなかった。SWTプロトコルにおいて,上記予測式を基にした各レベルの予測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>は,レベル1では7.697~8.297ml/kg/min,レベル2では8.597~9.497 ml/kg/minとなり,最高レベルであるレベル12では34.097~37.997 ml/kg/minと算出された。<BR>【考察】上記予測式の結果をMETsに換算すると,レベル1~12は2.1METs~10.9METsとなる。これをトレッドミルでの運動負荷試験として広く利用されているBruceプロトコルと比較すると,最大のレベルは3~4段階程度に相当する。Bruceプロトコルは,運動強度の増加が段階ごとに2~3METsと比較的大きく,日常的にトレーニングを行っていないものでも3段階までは到達可能である。今回の結果により,SWTでの運動負荷は,日常的にトレーニングを行っていない健常者に対する最適な運動負荷量を設定できるものと考える。