著者
高橋 英幸 金田 邦彦 酒井 哲也 原田 直樹 堀井 進一 岡村 明治 土師 守
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.1423-1427, 2014

症例は68歳,男性.平成24年12月に骨盤内を占める大きな腫瘍(φ90mm×140mm×100mm)に対し,腫瘍摘出術を施行.病理組織学的にperivascular epithelioid cell tumor (以下PEComa)でS状結腸に癒着があったため,一部S状結腸も合併切除した.粘膜面は正常であり,病理学的にS状結腸間膜から発生したものと診断した.核分裂像は1/10HPF以下であったが,腫瘍径は5cm以上で,腫瘍の中心部は広汎な壊死に陥っていたことより,悪性のポテンシャルを持った腫瘍の可能性を否定できないと考え,定期的に当院外来にて経過観察を行っていた.平成25年10月に約1年ぶりのfollow upの腹部CTで,下腹部に約55mm大の腫瘤を認めた.また,骨盤腔内右前部の腫瘍に一致してFDGの集積を認めた.(SUVmax 5.828)以上より,PEComaの腹膜再発と考え,摘出術を施行した.病理学的にも基本的に前回と同様の所見を認めた.術後の経過は良好であり,第7病日に軽快退院した.再々発の危険性があるため,今後,3~4カ月ごとの腹部PET-CT検査を予定している.
著者
福岡 岳美 花岡 農夫 李 力行 大内 慎一郎 田中 雄一 瀬戸 泰士
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.1816-1819, 2000-07-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
10

81歳の女性で, 1年前から痴呆症状がみられていた. 10日前から腹痛があり,腹満感が増強してきたため当院を受診した.腹部の筋性防御が著明で,腹部単純X線写真,腹部CT検査で遊離ガス像を認めた.消化管穿孔の診断で緊急開腹術を行い,腹腔内には混濁した腹水を認め,下行結腸からS状結腸にかけて異物により多発穿孔を起こしていた.左結腸切除,洗浄ドレナージ,および横行結腸人工肛門造設を行った.切除した結腸にはビニール製の紐が充満しており,後に,患者がビニール製のゴザを蕎麦と思い食べたことがわかった.異食は痴呆の1症状であるが,痴呆患者は訴えが乏しく,重篤な状態になってから受診するため注意を要する.痴呆老人が腹痛を訴えて受診した場合は,異食の可能性も念頭に入れて,診察にあたる必要があると思われた.
著者
中右 雅之 橘 強 岡部 寛 光吉 明 柳橋 健
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.657-661, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
9

妊娠・出産による腹直筋離開は,欧米ではしばしば治療対象となるが本邦では着目されていない.今回われわれは,腹部膨隆を主訴とする2回の経膣分娩歴のある33歳,および双子を帝王切開で出産した36歳の女性の腹直筋離開に対し腹腔鏡下に修復を行った.両者とも離開部を鏡視下に非吸収糸で縫縮した後composite meshによる補強を行った.腹部CTによる術前・術後6カ月の腹直筋間距離(inter-recti distance:以下IRD)を,臍部頭側3cm・臍部中央・臍部尾側2cmで計測を行い評価した.1例目ではIRDは術前26mm・42mm・20mmから術後は10mm・15mm・10mmと,2例目では術前26mm・32mm・23mmから16mm・9mm・9mmと短縮した.両者とも術後合併症はなく修復に対する満足度は高かった.妊娠出産後の腹直筋離開に対する本邦での腹腔鏡下修復例の報告はなく,文献的考察を加え報告する.
著者
小室 龍太郎 池田 栄人 徳川 奉樹 大内 孝雄
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.253-258, 1998-01-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
26
被引用文献数
1

従来から無毒蛇と分類されているヤマカガシによる咬傷でDICをきたしたが,幸いにも対症療法のみで救命しえた1例を経験したので報告する. 症例は41歳女性で,ヤマカガシに両手背をかまれ, 2時間後に出血傾向が出現,数カ所の医療機関を経由して受傷34時間後に当院受診した.患者本人に蛇についての知識があり,抗血清の投与を拒否したため抗血清療法は施行せず, DICに対してヘパリン投与などの対症療法施行し幸いにも救命した. ヤマカガシ咬傷では上顎後部のDuvernoy腺から分泌される毒が注入されることにより出血傾向が引き起こされる.本邦では北村の症例以来自験例を含めて26例の報告があり,全例に出血傾向が認められる.治療においては出血傾向のある蛇咬傷では本症を疑い抗血清投与が必要である.
著者
榎本 浩士 金泉 年郁 八倉 一晃 岡野 永嗣
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.2131-2133, 2004
被引用文献数
2

症例は, 61歳,男性.既往歴は未治療の糖尿病.現病歴は嘔気,嘔吐を主訴に当院を受診した.胃内視鏡にて巨大な胃石を認めたため砕石を試みたが硬くて不可能であった.第4病日に腸閉塞を呈したため当科紹介となった.イレウス管挿入後,イレウス管から小腸造影を行ったところイレウス管先端部肛門側に透亮像を認めた.胃石の存在が既に確認されていたこと並びに腹部CT,エコーにて含気を伴う腫瘤像を認めたことから腸石による腸閉塞と診断し,手術を施行した.術式は,結石が嵌頓して壁の一部が壊死に陥っていた回腸の部分切除と胃切開砕石術を行った.結石成分の結果は胃石がタンニン,腸石がタンニン,タンパク質であった.
著者
天願 俊穂 中須 昭雄 村上 隆啓 安元 浩 八幡 浩信 本竹 秀光
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.2778-2781, 2012

症例は55歳,男性.道路横断中にはねられ受傷し当院救急センターに搬送された.受診時はショックバイタルで意識障害を伴っていた.精査にて頭蓋骨骨折,下顎骨骨折,胸椎横突起骨折,多発肋骨骨折,胸部大動脈損傷,両側肺挫傷,右気胸,肝損傷,腹腔内出血,骨盤骨折を認めた.造影CTにて恥骨後面に造影剤の漏出像認めたため経カテーテル動脈塞栓術を行った.同時に大動脈損傷に対するステントグラフト留置術も施行した.術後,脳の高次機能障害は残存したが歩行できるまで回復し,さらなるリハビリテーション行うために転院した.術後,約6カ月後の胸部造影CT検査にてステント留置部位の異常は認めておらず脳損傷や肺挫傷,骨盤骨折を合併した大動脈損傷の治療法として有用であることが示唆された.
著者
田中 俊行 小川 哲史 池谷 俊郎 竹吉 泉
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.1891-1895, 2007

当院悪性腫瘍患者への告知率は78%である. 告知を受けていないがん患者と主治医の立場から当院の告知のあり方を検討した. 2005年4月から2年間にチームが介入した患者566例を依頼時のがん告知で「告知なし」「原疾患まで (以下, 原疾患) 」「転移まで (以下, 転移) 」「予後まで (以下, 予後) 」の4群に分けた結果, 「告知なし」11%, 「原疾患」28%, 「転移」52%, 「予後」9%であった. 「告知なし」の平均年齢 (77歳) はその他の群に比べ有意 (p<0.01) に高い値であった. 「告知なし」は, 男性19例, 女性41例と女性が多かった. 「告知なし」のチームの関与日数は16日で, 「原疾患」や「転移」に比べ有意 (それぞれp<0.01) に短かった. 死亡の割合は, 「告知なし」が明らかに高かった (67%). 主治医の医療従事年数は「告知なし」12年で, 「転移」や「予後」に比べ有意に (p<0.05) に短く, 一方10年以下の割合は一番高かった (42%). アンケートで, 全医師は告知が必要と考えているが, がん患者を受け持つ医師は「患者に聞いてから告知をする」を含めても患者主体の告知は41%であった. がんを受け持つ医師は経験年数が少ないほど家族にゆだねる傾向にあった. 高齢の患者に, 医師 (特に医療従事年数の比較的短い医師) と家族で告知を決めている傾向があるかもしれない. 今後医師への教育が必要になってくる.
著者
小川 達哉 田中 直行 小森 俊昭 柴野 成幸 椿 昌裕 砂川 正勝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.216-220, 2001-01-25 (Released:2009-08-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

症例は, 29歳女性.下腹部痛を主訴として,近医受診し,鎮痛剤および点滴等の治療を受けたが症状の改善がみられず,当院産婦人科受診となった.婦人科にて骨盤内腹膜炎疑いで保存的加療を行ったが,症状は悪化し当科紹介となった.腹部CT検査により,子宮筋腫および膀胱子宮間に存在する索状物による絞扼性イレウスを疑い緊急手術を施行した.術中所見では子宮筋腫と膀胱との間に索状物が存在し,回盲部の高度炎症および回腸末端から口側約110cmにわたる小腸壊死を認めた.子宮筋腫と膀胱との間に索状物があり,子宮膀胱間を連結し,膀胱子宮窩がヘルニア門となり絞扼性イレウスが生じたものと考えられた.この索状物は,中腎傍管が癒合し子宮広間膜を形成する際に形成されたものであろうかと推測された.
著者
藤井 大輔 栗田 啓 高嶋 成光
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.2918-2922, 2001

慢性関節リウマチの経過観察中に早期胃癌を発症し,それに対する幽門側胃切除術施行時に得られた小腸片より続発性消化管アミロイドーシスの確定診断を得た1例を経験した.症例は72歳,女性.近医にて慢性関節リウマチの治療のために入退院を繰り返していた.健康診断目的で受けた胃内視鏡にて早期胃癌を認めたため,治療目的で当院へ紹介された.早期胃癌の診断の下に幽門側胃切除術を行った.手術施行時に得られた空腸の一部を病理標本として提出,検討した.組織学的には,粘膜下層に分布する小型~中型の血管壁に好酸性物質の沈着,硝子化を散存性に認めた.同部位の特殊染色結果はAA typeのアミロイドーシス蛋白の沈着を示し慢性関節リウマチに続発した消化管アミロイドーシスと考えられた.消化管アミロイドーシスは,本症例のように胃癌が併発していることもあり,慢性関節リウマチに対しては定期的に内視鏡検査を行う必要があると考えられた.
著者
佃 和憲 浅野 博昭 内藤 稔 村岡 孝幸 伊野 英男
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.1615-1618, 2010 (Released:2010-12-25)
参考文献数
10

症例は57歳,女性.子宮体癌術後1年の時,孤立性脾腫瘍を発見された.合併していたサルコイドーシスの病変と考えられ経過観察されていた.徐々に増大するためCTガイド下生検を行われ,子宮体癌脾臓転移と診断された.他臓器への転移は認めなかったため,脾臓摘出術を施行した.肉眼的な腹膜播種は認めなかったが,腹水細胞診がclass Vであったため,術後に化学療法を再開した.孤立性の転移性脾腫瘍はきわめて珍しく,若干の文献を含め報告する.
著者
曽ヶ端 克哉 染谷 哲史 佐藤 卓 鳥越 俊彦 佐藤 昇志 平田 公一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.1115-1118, 2005
被引用文献数
1

自動吻合器を使用したPPH (procedure for prolapse hemorrhoids) 法により痔核手術を施行したが,術後に巨大な直腸粘膜下血腫を生じ排便困難になった症例を経験した.患者は69歳女性で,痔核の脱出を主訴に外来受診し, Goligher分類ではIII度内痔核であったため手術を施行した.手術は肛門拡張器を肛門内に挿入し, Purse-string Suture Anoscopeを順次回転させながら2-0プロリンにて直腸粘膜に巾着縫合を全周にかけ,自動吻合器により切除を行った.巾着吻合の糸を索引した際に下腹部痛,嘔気および徐脈・血圧低下を訴え,術後も下腹部の違和感が残っていた.術後4日目になっても便が排出されず,肛門診の際吻合部に疼痛を訴えたため術後7日目に骨盤CT施行したところ,直腸に直径約7cmの粘膜下血腫を認めた. PPH法は手技も簡便で術後痔痛が少ないなど利点も多い.しかし安易な施行は合併症を起こすことを認識し,適応と手技を十分に検討していく必要があると思われた.
著者
斉藤 良太 島田 淳一 北村 博顕 遠山 洋一 柳澤 暁 矢永 勝彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.1035-1040, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
16

症例は50歳の男性で,上腹部違和感にて近医受診,腹部USにて膵頭部の膵管拡張を指摘され当院紹介となった.MRCPにて膵頭部に非特異的な走行を示す蛇行した膵管像を認め,一部は嚢胞状に拡張しており分枝型の膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断した.経過観察としていたが初診から2年後のMRCPにて嚢胞径が32mmに増大し,かつ壁在結節を疑う所見を認めたため悪性を否定できず幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.摘出標本の膵管造影を行ったところ,背側膵管と腹側膵管が各々の下枝を介して癒合する膵管癒合異常を示し,広岡らの分類における分枝癒合型2型に相当すると考えられた.病理組織学的診断では微小浸潤を伴った膵管内乳頭粘液性癌であった.非常に稀な膵管像を呈した膵管内乳頭粘液性腫瘍の1例と考えられるため報告した.
著者
長嵜 悦子 佐久田 斉 仲栄真 盛保 比嘉 昇 國吉 幸男 古謝 景春
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.2913-2917, 2003-11-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
9
被引用文献数
1

肺塞栓症の塞栓源として下肢深部静脈血栓症が知られている.肺塞栓症を合併した孤立性ヒラメ筋静脈血栓症の3症例を経験したので報告する.症例1: 59歳,女性. Cushing syndromeに対する腹腔鏡下副腎摘出術後3日目に胸部圧迫感,低酸素血症が出現.症例2: 54歳,女性.卵巣癌の既往があり1カ月前より左下腿鈍痛が出現.症例3: 44歳,女性.両下腿に腫脹,鈍痛があり,階段昇降時に息切れを自覚.いずれも下肢超音波検査でヒラメ筋静脈のみに限局した血栓,肺血流シンチで肺血流欠損像,胸部造影CT検査で多発性肺動脈血栓を認めた. 3例中1例にウロキナーゼによる血栓溶解療法,全例に抗凝固療法を行い症状の改善が得られた.ヒラメ筋静脈血栓症は臨床症状が乏しいため見落とされやすい.しかし肺塞栓症の合併,血栓の中枢側進展,再発を繰り返すことがあり,積極的に診断,治療,予防する必要がある.
著者
三枝 晋 大井 正貴 今岡 裕基 志村 匡信 井上 靖浩 楠 正人
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.1320-1323, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
11

症例は50歳,男性.貧血精査のため,カプセル内視鏡(CE)目的に当院紹介となった.CEの回盲部への到達は確認出来なかったが,観察範囲に多発小腸潰瘍を認めた.5カ月後,貧血の再発を認めたため,再紹介となった.再診時,腹部症状は認めなかった.腹部X線写真・単純CT上,骨盤腔内小腸にCE滞留を認めた.1週間後の腹部X線写真においても,同部位でのCE滞留を認めたため,腹腔鏡下手術を施行した.CEおよび病変部位は,腹腔鏡下に容易に同定可能であった.回腸末端より約50cmの回腸にCEおよびfat wrapping signを伴う狭窄を認めた.その他の小腸に異常は認めなかった.狭窄部を含む約30cmの小腸を切除し,機能的端々吻合を行った.病理学的所見は,非特異性単純潰瘍であった.術後経過は良好であり,貧血の進行を認めていない.回腸狭窄によるCE滞留例に対し,腹腔鏡下手術を施行したので報告する.
著者
金子 猛 西平 友彦 鷲田 昌信 石井 隆道 岩井 輝 井上 章
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.2217-2220, 2003
被引用文献数
5 1

症例は84歳,女性.腹部手術の既往はなかった.突然出現した腹痛と嘔気を主訴に当院に来院した.腹部全体が膨隆し下腹部に圧痛を認めた.腹部単純X線で鏡面像を伴う拡張した小腸が認められ腸閉塞と診断された.腹膜刺激症状を認めなかったため,イレウス管を留置し精査を行った.イレウス管造影と注腸造影により,回盲部の尾側に両端に狭窄像を有する拡張した小腸係締を認めた.この拡張した小腸係締は腹部CT上では盲腸の背側に位置していたため,盲腸後窩ヘルニアを強く疑った.開腹すると回腸末端から口側約80cmの部位で約4cmの回腸係締が盲腸後窩に嵌頓していた.還納後,盲腸を後腹膜へ固定しヘルニア門を閉鎖した.盲腸後窩ヘルニアは比較的稀な疾患であり,術前診断は困難とされている.本例ではCTが術前診断に有用であり,消化管造影後に撮影したため盲腸周囲ヘルニアのタイプ診断も可能であった.
著者
貴島 孝 白尾 一定 桑畑 太作 秦 洋一 田中 弘之 牛谷 義秀 夏越 祥次
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.9, pp.2569-2573, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

症例は63歳の女性.既往歴に9カ月前交通外傷にて頸椎捻挫症,腰痛症となり入院歴がある.腹痛を主訴に前医受診,腹部腫瘤性病変を認め腹膜炎疑いにて当科紹介受診となる.腹部CTにて横行結腸頭側脂肪織内に約3.8cmの腫瘤を認め,炎症性腫瘤の診断にて入院,抗菌薬治療となった.抗菌薬投与1週間後の腹部CTでは炎症性腫瘤に変化なく手術を施行した.横行結腸頭側に膿瘍が存在し,結腸,胃大弯側に巻き込んでいたため,膿瘍を含めた横行結腸・胃部分切除術を施行.術後経過は良好で第15病日に退院となった.病理組織検査では大網内に菌塊を認め,放線菌症と診断された.腹部放線菌症は稀な疾患であり大網原発例は僅かである.また,交通外傷時のシートベルトによる打撲の部位と大体一致して大網放線菌症による腸管狭窄をきたしていたことから,シートベルト損傷と腸管損傷,大網放線菌症の関係が示唆された.
著者
齋藤 孝晶 小谷野 憲一 松田 巌
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.474-478, 2003-02-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
23
被引用文献数
3 2

症例は12歳,男児.右下腹部痛を主訴に1996年5月30日当院外科外来を受診した.腹部US, CTで回盲部に3×5cmの腫瘤を認め, WBC 15, 300, CRP 10.1と高値であった.全麻下に腫大した虫垂とこれに癒着していた腫瘤状の大網を切除し, 7病日目に退院となった.しかしその翌日,発熱と下腹部痛のために再入院し, CTで左腸腰筋前面に膿瘍を認め,手術時の摘出標本の病理組織検査では大網の炎症性肉芽腫の中に放線菌のコロニーが認められた.以後放線菌症の診断にて保存的加療を行い軽快した.小児の腹部放線菌症は稀な疾患であるが,炎症を伴う腹部腫瘤の鑑別疾患として念頭に置くべきである.
著者
森谷 雅人 高木 融 鈴木 敬二 佐々木 啓成 伊藤 一成 片柳 創 土田 明彦 青木 達哉 小柳 〓久
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.2114-2117, 2002-09-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
13

症例は61歳,女性.胃癌にて1997年12月9日,胃全摘術,膵脾合併切除施行. 1998年1月9日より化学療法施行. 18日より経口摂取不良となり,高カロリー輸液(以下, TPN)を開始したが, 2月10日より記銘力低下, 14日より意識レベル低下し, 15日に急性循環不全を呈した.血液ガス分析では, pH 7.136, PaO2 157.0mmHg, PaCO2 9.8mmHg, HCO3-3.3mEq/l, Base Excess -23.4mEq/lと代謝性アシドーシスを呈していた.炭酸水素ナトリウム500ml投与するも効なく,乳酸値を測定したところ144.0mg/dlと高値を示したためビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスを疑い塩酸チアミンを投与したところ,投与後6時間でpH 7.598, Base Excess 8.9mEq/lとなり,意識レベル,循環動態も改善した. 自験例を含めたTPN施行時のビタミン欠乏による乳酸アシドーシスの報告例について文献的考察を加えて報告する.
著者
宮本 伸二 葉玉 哲生 濱本 浩嗣 穴井 博文 迫 秀則 岩田 英理子 嶋岡 徹
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.862-865, 2002

症例は77歳,男性.身長169cm,体重66kg.特別な器具を用いず両側総腸骨動脈の拡大を伴う最大径7cmの腎下腹部大動脈瘤に対し全長12cmの小正中切開にて径腹的にYグラフト置換術を施行した.末梢側吻合は両側とも内外腸骨動脈分岐部で行った.術二日目に経口摂取を開始し術後経過良好で退院した.ほとんどの腹部大動脈置換術は小切開で可能と思われ,今後推奨される術式と考える.