著者
髙山 卓美
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.4, pp.204-218, 2016 (Released:2018-06-29)
参考文献数
36

中国の蒸留酒は,固体発酵,大曲,泥窖地発酵,固体醪蒸留など他に見ない特徴を持ち,その酒質も高アルコール度,高い香気など独特の個性を有している。しかしながら,その起源については諸説あり謎に包まれた部分も多い。中国では近年,遺跡の発掘が相次ぎ貴重な発見がなされているが,著者は2007年に発見された劉怜酔焼鍋遺址の出土遺物をもとに,これまでの古記録を整理しつつ,その歴史的意義と酒造法変遷についての考察を行った。本論文は中国酒史を考える上で重要な知見と示唆を与えるものである。
著者
藤沢 英夫
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.628-640, 2010 (Released:2016-02-04)
参考文献数
28

本報告は,平成21年5月に独立行政法人国立科学博物館によって発行された「技術の系統化調査報告第14集–ビール醸造設備発展の系統化調査」をもとに,要点を再編集して報告するものである。

5 0 0 0 OA お味噌の効能

著者
渡邊 敦光
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.11, pp.714-723, 2010 (Released:2016-02-04)
参考文献数
46
被引用文献数
3 2

わが国の代表的発酵食品の一つである味噌について,健康や長寿に良いことが伝承されてきたが,食塩の過剰摂取による弊害のおそれも指摘されてきた。これまで味噌等の発酵食品の健康・栄養に関する知見については伝承的な説明が広く知られていたが科学的な研究の発展が遅れていた。近年,動物を用いた臨床研究,分子生物学,分子栄養学の研究が進展し,味噌を含む発酵食品の健康機能性が急速に明らかにされつつある。本解説では,味噌の抗癌効果を長年に亘って研究し味噌の生理機能研究を牽引してきた研究者の一人である著者に,これまでのご自身の研究成果と国内外の研究成果を紹介していただき,味噌の健康機能について幅広くわかりやすく解説していただいた。
著者
岡本 隆典
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.89, no.9, pp.704-709, 1994-09-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
10

バイオリアクターによるビ-ル連続醸造に関する研究は1970年代前半から始まり, 数多くの研究結果が発表されている。しかし, 商業べースでの実用化はほとんど例がなく (ビールの後発酵工程で7インランドのビール工場が実用化している), キリンビールがサイパンにおいて世界で初めて主発酵も含めたビール醸造を連続発酵法により成功させている。バイオリアクターを用いると酵母密度等が従来の回分式発酵と大きく異なるため, 品質や成分も大きく影響を受ける。これらの問題点をどのようにして解決し, 実用化に槽ぎつけたか。その興味ある経過を解説していたたいた。
著者
鈴木 崇
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.2, pp.98-108, 2007-02-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
1

醸造用水は酵母やもろみ中の酵素作用, 緩衝作用及び酵母の生育と醗酵, 最終的には製成酒の色沢, 風味に多大なる影響を及ぼすことは古くから周知されていることであるが, 今回あらためて酒質に影響を与える成分や, 近年の経済発展にともない, 有害化学物質の水への汚染が懸念されていることから, それらの汚染物質の安全な水質基準についてもあわせて解説していただいた。
著者
Du DONGDONG 海老澤 香里 宮本 悠紀 吉永 真理子 上原 誉志夫
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.126-136, 2014 (Released:2018-03-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

わが国の伝統的発酵調味料として「和食」の味を支えている味噌は,多くの生理機能成分を含むと考えられているが,同時に食塩を含むことから高血圧症の原因となるとして,消費者から敬遠され,消費量が年々漸減する傾向にある。しかし,最近の研究から,味噌汁として摂取する量では高血圧症の原因とはなりにくいことが解りつつある。味噌の食塩を敬遠するよりも味噌の成分がもつ機能性をより有用と考えて,おいしく食事をいただく方が,より健康によいことがわかり始めている。本解説では,味噌汁を摂取することが食塩による血圧上昇には直接つながらないことを動物実験により示し,むしろ味噌にふくまれる成分の複合的作用による血圧上昇抑制について解説していただいた。味噌には多くの成分が含まれ,それらの複合的作用について今後の研究へ期待が大いにもたれる。
著者
堀越 昌子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.6, pp.389-394, 2012 (Released:2017-12-12)
参考文献数
9
被引用文献数
2

なれずし(馴れずし・熟れずし)は,コイやフナなどの川魚に米飯を混ぜ,重石をして数ヶ月から数年かけて保存する。この間,乳酸菌の作用でpHが下がり,雑菌の繁殖を抑えつつタンパク質の分解により旨み成分が増加するが,独特の香りを持っている。琵琶湖の「鮒ずし」や東北・北海道の「いずし」を始め,各種のものが知られている。そこで筆者に琵琶湖のナレズシを中心に,文化・栄養・製法・位置づけ・抗菌性について解説して頂いた。
著者
林 京子 田中 昭弘
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.6, pp.401-412, 2013 (Released:2018-01-12)
参考文献数
14
被引用文献数
2

収穫直前のマイタケを冷蔵保存した後に凍結乾燥し,アミラーゼによる分解を防ぐために,80℃以上の高温で熱水抽出したαーグルカン(YM-6A)が生体防御機能を介したマウスへのインフルエンザさらにタミフル耐性株に対しても治療効果があることを見出したので,解説いただいた。
著者
岩本 將稔
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.5, pp.318-325, 2013 (Released:2018-01-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

柿渋は従来,防水及び防腐効果を有するため染色に使用されてきたが,醸造用の清澄剤として用いられている事実について知らない人も多い。この点について筆者は,柿渋の歴史的背景から,柿渋の製造方法を含め清酒への応用について詳しく解説している。また,新しい手法(UF膜)を用いて,従来からの課題であった柿渋の酪酸臭等の発酵臭(不快有機酸)の除去を可能とし,高分子柿タンニンを効率良く分離するとともにゲル化防止にも成功した。この2つの事例は,柿渋の新たな可能性を示唆するものであり,たいへん意義がある。歴史好きな人や醸造に携わる人,ならびに研究者にとっても参考になることも多く一読願いたい。
著者
細井 知弘
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.98, no.12, pp.830-839, 2003-12-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
61
被引用文献数
5 4

プロバイオティクス (probiotics) とは,「宿主の腸内菌叢のバランスを改善することにより, 宿主にとって有益な作用をもたらす生きた微生物, 並びにそれらを含む食贔」と定義される。プロバイオティクスの効果としては, 腸内菌叢の改善, 腸管感染症下痢症の改善, 便秘の解消, 免疫機能向上, 血圧低下などが報告されている。ここでは, 腸内菌叢と腸管免疫システムについての概説と, 大豆発酵食品である納豆に関与する納豆菌や納豆のプロバイオティクスとしての作用について, 解説していただいた。
著者
谷本 亙
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.169-175, 1997-03-15 (Released:2011-09-20)

地域と酒蔵との深い関係が忘れ去られようとしたことがある。ところが, 近年, 各地で「酒蔵 (酒造場)」の存在意味を問い直すような様々な事業活動, 支援運動が行われており, いま正に, 地域の中での酒蔵を再認識すべき時に来ている。そこで, 地域振興活動に詳しい筆者に, 21世紀に向けて酒蔵の維持・発展の方向性及び方策について提示願った。
著者
柳田 藤治
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.134-141, 1990-03-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1

酢の薬効については古くから伝えられているが, 科学のメスが加えられたのはごく最近のことといえる。黒酢や酢大豆に代表されるように, 健康食品としてマスコミに登場する機会も多い。酢の機能性とは何か, 数多くの研究結果を引用して解説していただいた。
著者
山田 修
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.103, no.9, pp.665-669, 2008-09-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
13
被引用文献数
4 3

麹菌と近縁のA. flavusはカビ毒アフラトキシンを生産する。麹菌はアフラトキシンを生産しないことはすでに多くの研究により証明されているが, ゲノム解析に使用されたRIB40株には, アフラトキシン生合成に関与する遺伝子群が染色体上にクラスタを形成していることが報告された。そこで, 酒類総合研究所に保存されている多数の醸造用麹菌株について調べ, 麹菌がアフラトキシンを生産する能力を持たないことを分子生物学的に明らかにした。筆者らの研究は, 麹菌の安全性を示すとともに, 麹菌のルーツをさぐる糸口を与えるものである。
著者
吉田 元
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.862-866, 2006-11-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
16

終戦の翌年 (昭和21年), 奄美諸島は突然鹿児島県から切り離されて, 米軍政下におかれることになった。 以来, 紆余曲折を経て, 昭和28年に宿願の本土復帰をはたしたが, 軍政下の8年間は奄美の歴史のなかでも極めて特異な時期であった。 すなわち, 軍政下という小さな独立国のなかで, 奄美島民が主体的に行政, 経済, 文化を担うことになったからである。本稿では, 奄美群島政府の行政資料や新聞記事などにもとついて, 軍政下における奄美の酒造史, 特に 「黒糖焼酎」 誕生までの前史について2回にわたって解説していただいた。
著者
高橋 美絵 磯谷 敦子 宇都宮 仁 中野 成美 小泉 武夫 戸塚 昭
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.5, pp.403-411, 2007-05-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
21
被引用文献数
5 7

製麹工程における麹の香りの変化を明らかにした。1.製麹工程中の香りは, 麹らしい香りの全体的強度, キノコの香りの強度は経時的に増加する傾向を示し, 甘い香りは出麹時に最も強くなり, 栗香は出麹以降に強くなることが認められた。2.栗香については, Phenylacetaldehydeが床もみ後40時間で最大となり, 1-Octen-3-one, 1-Octen-3-olは菌体量の増加とともに44時間から49時間の出麹にかけて約2倍に増加したことから, これらの成分のバランスで栗様の香りになるものと考察した。3.製麹工程において麹中のアミノ酸は出麹に向けて経時的に増加する傾向を示したが, 香気成分の前駆物質と考えられるアミノ酸 (Val, Leu, Met及びPhe) において固有の動向は見られなかった。4.製麹工程における脂肪酸の動向を検討したところ, 脂肪酸は菌体量の増加, 菌体外タンパク質量と共に増加する傾向を示し, 脂肪酸は麹菌の増殖の指標となると考えられた。5.リノール酸を基質として麹から抽出した粗酵素液を反応させたところ, HOD及び1-Octen-3-olの生成が確認された。1-Octen-3-ol生成酵素活性は製麹後半 (リノール酸の増加開始約4時間後付近) で約10倍高くなり, 基質であるリノール酸に制御されていることが示唆された。6.1-Octen-3-olを基質として粗酵素液を反応させたところ, 1-Octen-3-oneの生成が確認された。1-Octen-3-one生成酵素活性は盛仕事以後の製麹工程中において一定であり, 香りに強弱がある麹間においても差は認められなかった。7.製麹後期の麹の香りは, リノール酸を前駆体として生産されるものであり, この香りを製麹管理及び麹の品質評価の指標として活用できることが確認された。
著者
後藤 奈美
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.4, pp.210-216, 2012 (Released:2017-12-11)
参考文献数
36

国産ワインのレベル向上などからワインに関する研究が多く行われている。最近,赤ワインの渋みに関する研究も多く報告されている。ここでは,渋み成分の生合成から,渋みを感じる仕組み,ぶどう栽培やワイン醸造を含めて最近の知見や筆者の取り組みも交えて,詳細に解説いただいた。
著者
宮尾 俊輔
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.103, no.10, pp.742-749, 2008-10-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

吟醸酒の製造にカプロン酸エチル高生産酵母は不可欠な存在になっている。カプロン酸エチル高生産酵母は醒後半のキレが鈍る傾向にあり, そのため発酵能が高い酵母との混合仕込が普及している。最近, 日本醸造協会が開発し, 頒布しはじめたカプロン酸エチル高生産酵母のきょうかいm1号は, 発酵能が高い酵母として注目されている。筆者らはかねてからカプロン酸エチル高生産酵母の混合仕込について詳しく調べており, 今般きょうかい1801号の混合仕込を行い, 発酵能や香気成分の生成量などを検討した。混合仕込全般を含めきょうかい田1号について得られた最新の知見を詳しく解説していただいた。
著者
松井 徳光 大杉 匡弘
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.833-838, 2006-11-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
15
被引用文献数
6

古来より味噌は麹カビを用い, 耐塩性酵母および耐塩性乳酸菌の働きで造られてきた。筆者らは, 子嚢菌類 (麹カビ) とともにいわゆる真菌類の主体をなす担子菌類 (きのこ類) がアミラーゼ, プロテアーゼ, 乳酸脱水素酵素, アルコール脱水素酵素を有することを見出だし, きのこを用いるワイン, ビール, 清酒などの製造も試みておられる。さらに, きのこには抗ガン作用や抗血栓作用などもあり, 機能性食品素材としても注目される。筆者らは, 食品素材としてのきのこに着目し, 機能性食品の開発を主目的として大豆素材の特性を活かしながら, 機能性に優れ独特の風味を有するきのこ味噌 (無塩味噌, むしろ味噌様食品と呼ぶべき食品) の製造を試みられた。知恵と経験を活かしながら, 今迄にない食品素材と微生物組み合わせることによって, 新しい風味を呈し種々の疾病予防に効果を示す発酵食品の製造が可能の好例として大いに参考になるものと思われる。