著者
春見 隆文
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.618-627, 2010 (Released:2016-02-04)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

微生物は高浸透圧の環境にさらされると,細胞内の水分が細胞外に移動するため生育が困難となる。しかし,酵母やカビなどは細胞内の浸透圧を高めて細胞外の高浸透圧に耐えるメカニズムを備えている。本稿では,微生物における浸透圧応答を適合溶質としての糖アルコールの生成について,一般的な出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeとエリスリトール生成菌Trichosporonoides megachiliensisを例に解説していただいた。
著者
岡嶋 研二
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.285-293, 2010 (Released:2012-02-24)
参考文献数
25

インスリン様成長因子–I(IGF–I)はほとんどの組織で発現し細胞の分化や成長,機能維持に重要な役割を演じる。著者らは知覚神経を刺激することによりIGF–Iの産生が増加することを見出した。これらの所見を基に,日本酒による美肌効果はその中に含まれるα—グルコシルグリセロール(α GG)が知覚神経を刺激し,IGF–Iを増加させるために発現することを突き止めた。本稿ではIGF–Iの生体内機能について詳細に解説して頂いた。更に日本酒がもつ美肌効果,認知機能の改善,抗うつ効果に関し実験データを基に解説して頂くと共に,赤ワインやビールにも認知機能改善などの効果が期待できることについても触れて頂いた。
著者
上田 誠之助
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.91, no.7, pp.498-501, 1996-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

原始社会において食物は最大の関心事であった。その食物の安定確保を左右するものとして天候, 気候があり, この管理しがたい事象を人間側に有利ならしめるものとLて神まつりがあった。餅と酒は人間側に立つ神を元気付けるもの, あるいは人間に敵対する神を懐柔するためのものであった。餅には2種類あリ, 普通の餅は丸米をついて造るが, しとぎは米粉をこねて造る。筆者は神の食物であるしとぎと酒の関係について研究している。古代の酒造りにも思いを巡らしていただきたい。
著者
伊藤 一成 福崎 智司 産本 弘之 三宅 剛史
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.10, pp.687-693, 2011 (Released:2017-03-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1

我々は,生もとの小仕込み試験を行い,そこに含まれるオリゴペプチド成分について速醸もとと比較し解析を行った。その結果,生もとでは苦味ペプチドを含む全オリゴペプチドが速やかに減少するのに対し,速醸もとでは多くの苦味ペプチドが残存することを見いだした。こうしたオリゴペプチド成分の動向には酵母は関与しておらず,完成時の苦味ペプチド含量が麹歩合による顕著な影響を受けたことから,麹由来の酵素による苦味ペプチドの分解様式が生もとと速醸もとで異なっていると思われた。
著者
早川 雅巳
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.640-646, 2009 (Released:2016-02-10)
参考文献数
12

ウイスキー,ブランデーやワインなどの酒類と樽の関係については実用面,科学技術面から多数の知見が集積されてきている。これは,樽がこれらの酒類の品質にいかに大きな影響を及ぼすかを示すものと思われる。今回,樽の専門家である筆者に,樽材となる世界の主要なオークについて,その特性,酒類製造への利用の歴史,現状からオーク資源の今後にまでわたり詳細に解説していただいた。
著者
辻 謙次
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.84, no.12, pp.823-828, 1989-12-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
34

ウィスキー製造法については, 蒸留法に関心が強いためか, 発酵管理について詳述した文献は少ない。特に, 酒母代替としての圧搾酵母の使用法については, 各社のknow-howに係るだけに, 本場英国においても報告はわずかである。それだけに, 本稿は貴重な一文といえよう。
著者
家村 芳次 影山 由香里 松永 恒司 原 昌道
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.91, no.7, pp.515-520, 1996-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
29
被引用文献数
6 6

(1) 白米のアミロース含量, 心白および腹白の何れもが白米の吸水性に強く影響を及ぼした。また, アミロース含量は白米の最大吸水量に影響を与えるのに対し, 心白および腹白は主に白米の吸水速度に影響を及ぼした。(2) 心白米や腹白米の吸水率が高い要囚は, アミロース含量や蛋白含量など成分上の違いによるのではなく, 心白や腹白そのもの, すなわち米粒構造の違いによるものと推定した。終わりに貴重な試料米を提供下さいました北海道立上川農業試験場, 中国農業試験場, 灘五郷酒造組合酒米研究会の皆様に深謝いたします。本研究の概要は平成2年度日本生物丁学会大会にて発表した。
著者
岡本 雅子 Singh Archana K. 東原 和成
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.278-285, 2016 (Released:2018-07-12)
参考文献数
20

食べ物の「おいしさ」には,味や香り,食感,外観,経験,情報などさまざまな要因が関わっている。これらの要因が脳でどのように処理され,私たちは「おいしさ」を感じているのだろうか? 本稿では,脳機能イメージングを用いた研究から得られた知見をもとに,味覚,嗅覚などの相互作用により私たちが「あじ」ととらえている感覚が生じるしくみや,情報が「あじ」に与える影響,さらには脳機能イメージングの食品産業への応用の可能性について解説いただいた。一読をおすすめする。
著者
的場 輝佳
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.100, no.8, pp.538-546, 2005-08-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

昔から関東のこい口文化, 関西のうす口文化といわれ, それは何故? また東海道ではどのあたりに境目があるの, 関が原? 筆者は東海道沿いのうどんのだし汁を実際に分析調査し, 東西の食文化の境目を明らかにした。参考にされたい。
著者
香山 聰
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.95-100, 1992-02-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
20

甲州名物料理「ほうとう」の食物史を調べ, この調味にピッタリの甲州味噌を試作したという活路開拓実現化事業の経過を紹介していただいた。
著者
恩田 匠
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.881-889, 2013 (Released:2018-02-13)
参考文献数
23
被引用文献数
1

フェノレやブレットと呼ばれる赤ワインのフェノール性の異臭は,世界中のワインで深刻な問題となっている。これまで国内では充分な情報がなかったが,国産ワインのフェノレに取り組んでおられる著者に,国産ワインのフェノレの現状と予防について解説していただいた。
著者
高橋 砂織
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.636-648, 2015

味噌の効能に関する研究は多く,抗酸化性や抗腫瘍性など多くの論文が報告されている。著者らは,ここ10年ほど味噌中の血圧調節作用物質に注目し,レニン,キマーゼ,アンギオテンシン変換酵素やアンギオテンシン変換酵素2阻害物質の探索を行った。その結果,味噌には複数の血圧関連酵素阻害物質が存在することを見出された。味噌の効能に新たな可能性が期待されている。
著者
飯野 修一 渡辺 正平
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.84, no.8, pp.555-559, 1989-08-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
20

1. モロミ上槽時の圧力増加に伴う搾酒の成分変化は次のとおりであった。漸増するもの(日本酒度, 紫外部吸収及びpH), 漸減するもの (直糖及びMn), モロミタレ歩合80%以上の上槽末期から増加するもの(アミノ酸度, 着色度, Fe, Cu及びZn) 及び増減のないもの(酸度及び低沸点香気成分)の4つのタイプに分類された。2. 官能的には上槽末期から評価は落ち, 雑味と味の薄さが指摘された。なお上槽末期の官能低下にアミノ酸度, Cu及びZnの増加がよく一致した。3. 藪田式自動圧搾機に比べて, 水圧式圧搾機の場合にはFe, Cu, Znの増加及び官能変化は比較的緩慢であった。これは上槽時の圧力増加が緩慢であったからと推定された。終わりに本試験に協力していただきました清酒メーカーの2社に深く感謝いたします。
著者
小泉 亜希子 山中 寿城 岡本 匡史 平井 信行 黒瀬 直孝 小川 慶治 川北 貞夫 垂水 彰二 高橋 康次郎
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.98, no.2, pp.125-131, 2003-02-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
5

清酒を光照射下で保存した場合に増加する成分について, 溶存酸素濃度がそれらの成分の変化に与える影響について検討し, 以下の結果を得た。(1) トリプトファン類縁化合物6成分が清酒の光照射により生成することを確認した。6成分は, 前報で報告したハルマンのほか, ノルハルマン, 1-エチル-β-カルボリン, 3-インドールカルボキシアルデヒド, 9H-カルバゾールおよび3-メチルー1H-インドールであり, これらは何れも苦味を呈する成分であった。(2) ハルマン, ノルハルマン, 3-インドールカルボキシアルデヒドの3成分は, 溶存酸素低減により増加が抑制され, 9H-カルバゾール, 3-メチルー1H-インドールのの2成分は溶存酸素低減により増加が促進された。1-エチルーβ-カルボリンについては, 溶存酸素低減による影響は明らかでなかった。(3) 16%エタノール含有のマックルベイン緩衝液へのトリプトファン添加試験の結果, 上記6成分が光照射下の保存で生成したことから, これらはトリプトファンから生成することを確認した。また, トリプトファンを添加した清酒の保存試験の結果, トリプトファン濃度の増加により6成分全ての生成量が増加した。(4) 上述の6成分以外にもトリプトファン類縁化合物とGC/MSライブラリー検索の一致率が72%以上である4成分が清酒の光照射により増加することが認められた。
著者
向井 伸彦 岡田 明彦 鈴木 昭紀 高橋 利郎
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.93, no.12, pp.967-975, 1998-12-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
19
被引用文献数
8 11

ビール醸造の観点から, ビール酵母, 清酒酵母, 焼酎酵母及びワイン酵母の各醸造用酵母の特性を比較することを目的に, 炭素源の発酵性・資化性試験や酵母の凝集性試験を実施した。また, 三角フラスコレベル (100ml) 及び発酵管レベル(2L)での麦汁発酵性試験を実施し以下の結果が得られた。ビール酵母は, マルトース及びマルトトリオースの発酵・資化性が高く, 麦汁中でよく発酵したとともに凝集性が強かった。ワイン酵母は, ビール酵母同様マルトースの発酵・資化性が高く, また, 一部の酵母でマルトトリオースの発酵・資化性も高く, 麦汁中で比較的よく発酵したが, 凝集性は弱かった。清酒酵母は, ガラクトース, マルトースの発酵性・資化性が弱い傾向がみられた。焼酎酵母では, マルトースは発酵・資化したもののマルトトリオースの発酵・資化性が低かった。これらの酵母では, 一部の酵母である程度麦汁を発酵したが, おおむね麦汁の発酵性は低く, 凝集性は弱かった。さらに, 麦汁による小規模の発酵性試験で比較的よく発酵したワイン酵母 (K-1), 及び清酒酵母(民14)を用いてパイロットスケール (100L) での試験醸造を実施した。その結果, これらの酵母を用いた場合, ビール酵母に比べ, 主発酵の期間が長くなり, 真正発酵度は高くはならなかったが, ビールを製造出来ることが確認された。また, 試醸したこれらのビールは官能評価を行ったところ, ワイン酵母によるビールは酸味とフェノール臭が強く, 清酒酵母によるビールはエステル香が強いことがわかった。ワイン酵母は, バイツェン酵母と同様にフェルラ酸の脱炭酸による4-ビニルグアイヤコールへの変換能を持つこと及び, 清酒酵母は麦汁中での発酵における酢酸イソアミルの生成が他の醸造用酵母に比べて高いことがわかった。