著者
原島 省 呉 在龍 姜 聲舷
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.79-90, 2001

海洋環境の変動をモニターするプラットフォームとして,定期航路船舶の連続取水系の利用が有効な手段となっている.主な理由は,観測専用船と異なり,維持経費がかからないことや,多様なフロースルー型の計測手法が適用できることなどであるが,最も本質的な点は,計測頻度が高いこと,長期間持続することが可能なこと,計測の空間的密度を高くできることから,植物プランクトンのブルームなど重要な海洋変動のスペクトルに対応する時空間スケールをカバーできることである.本報告では,国立環境研究所のフェリーによる海洋環境モニタリングの実行例(1991~現在),韓国海洋研究所による同様の実行例(1998年~現在),および諸外国の実行例や計画例を紹介し,フェリーの利用による特記的な成果を示すとともに,今後の課題や発展の可能性について述べる.
著者
松原 賢 三根 崇幸 伊藤 史郎
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.139-153, 2018

珪藻類のSkeletonema 属およびEucampia zodiacus,渦鞭毛藻類のAkashiwo sanguinea,ラフィド藻類のFibrocapsajaponica は有明海奥部においてノリ漁期にブルームを形成し,ノリの色落ち被害を与える有害な植物プランクトンである.これら植物プランクトンの現場海域における増殖特性を明らかにするため,有明海奥部の塩田川河口域において,2008年4月から2013年3月にかけて植物プランクトンの出現動態と各種環境要因の変動を調査した.珪藻類については,Skeletonema 属は6~9月と1~3月に,E. zodiacus は主に2~3月にブルームを形成した.鞭毛藻類については,渦鞭毛藻類のA. sanguinea は主に9~11月の秋季に,ラフィド藻類のF. japonica は8~9月および11月にブルームを形成した.冬季におけるSkeletonema 属およびE. zodiacus のブルームのきっかけはともに水柱における透過光量の増加であることが示唆された.鉛直循環期であっても,出水や小潮により成層が形成されれば,透過光量が増加することも確認された.A. sanguinea およびF. japonica は競合生物である珪藻類が少ない時にブルームを形成する傾向が確認された.
著者
堤 裕昭
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.165-174, 2012 (Released:2020-02-12)
参考文献数
79
被引用文献数
1

有明海では1990年代後半より赤潮が頻発し,奥部海域では1998年より秋季~初冬に発生する赤潮が急に大規模化した.赤潮の頻発や大規模化は,海底への有機物負荷量の大幅な増大につながり,夏季の貧酸素水発生の主要な原因となる.そこで,有明海奥部における赤潮の発生のメカニズムと原因について,近年の水質,潮流,海底環境などに関する調査・研究の成果をレビューした.赤潮の頻発や大規模化は,陸域からの栄養塩負荷量の増加を伴わない条件下で起きていた.実際には,塩分成層が形成された時に,低塩分・高栄養塩濃度化した表層で赤潮が発生していた.したがって,赤潮の頻発や大規模化は,塩分成層が形成される頻度や継続期間に依存すると考えられる.塩分成層が形成されやすくなる原因としては,潮汐振幅の減少を通したことによる水柱の鉛直混合エネルギーの減少では説明がむずかしく,むしろ潮流自体の変化によって生じた可能性が指摘される.
著者
関口 秀夫
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.69-78, 2021 (Released:2021-09-07)
参考文献数
28

前報での議論を踏まえ,①「豊かな海」と海洋生態系の関係,②「豊かな海」をめぐる利害関係者の衝突,③水産業の社 会的位置と問題点,④「豊かな海」と里海と漁業の関係,⑤「豊かな生態系」(豊かな海)の価値および評価,の5つの課題 を検討する.
著者
谷川 亘 村山 雅史 井尻 暁 廣瀬 丈洋 浦本 豪一郎 星野 辰彦 田中 幸記 山本 裕二 濱田 洋平 岡﨑 啓史 徳山 英一
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-31, 2021 (Released:2021-09-07)
参考文献数
34

高知県須崎市野見湾では,白鳳地震によって水没した村『黒田郡』の伝承が語り継がれているが,その証拠は見つかっ ていない.そこで本研究では,野見湾内で海底調査を行い『黒田郡』の痕跡を探索した.その結果,海底遺構の目撃情報 がある戸島北東部の海底浅部(水深6m~7m)に,面積約0.09km2の沖側に緩やかに傾斜する平坦な台地を確認した. 台地表層は主に薄い砂で覆われており,沿岸に近づくにつれて円礫が多くなった.また,砂層の下位は硬い基盤岩と考え られ,海底台地は旧海食台(波食棚)と推定される.海水準変動と地震性地殻変動を踏まえると南海地震により海食台は 約7m 沈降したと推定できる.本調査では黒田郡の痕跡は発見できなかったが,水中遺跡研究に対する多角的な調査手 法を検討することができた.特に,インターフェロメトリソナーの後方散乱強度分布による底質観察とStructure from Motion(SfM)技術を用いた海底微地形の構築は,今後浅海における水中遺跡調査に活用できる.
著者
須賀 利雄 齊藤 寛子 遠山 勝也 渡邊 朝生
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.103-118, 2013 (Released:2020-02-12)
参考文献数
32

亜熱帯循環の通気密度躍層下部(σθ=26.3~26.6kg m-3)の等密度面が冬季にアウトクロップする亜寒帯前線帯では,主に移行領域モード水(TRMW ; S<34.0)が形成されることをArgo データの解析から示した.さらに,密度変化を補償し合う水温・塩分前線を横切る鉛直シアー流がソルトフィンガー型二重拡散対流を引き起こし,TRMW は形成後速やかに高温・高塩分化して,その一部が重い中央モード水(D-CMW ; S>34.0)に変質し得ることを示した.また,シノプティックなXCTD 断面の解析から,亜寒帯前線帯から沈み込んだTRMW やD-CMW などの低渦位水の一部は,中規模渦によって平均流を横切って南に運ばれた後に,亜熱帯循環の通気密度躍層内に広がっていることが示唆された.この輸送過程は,亜寒帯前線帯の深い冬季混合層と亜熱帯循環内に広がる等密度面上の低渦位舌が気候値の流線で直接結ばれていない理由を説明し,TRMW の変質過程とともに,亜寒帯前線帯起源の水塊が亜熱帯密度躍層の維持に寄与するメカニズムを担っている可能性がある.
著者
三島 康史 星加 章
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.145-150, 2002
被引用文献数
4

瀬戸内海(伊予灘,大阪湾)で採取された魚類のδ^<13>C,δ^<15>N値を測定した.特に,伊予灘で採取されたマダイ(Chrysophrys major)のδ^<13>C・δ^<15>N値からマダイの体内での炭素・窒素のターンオーバータイムを評価した.また,大阪湾および伊予灘で採取された魚類のδ^<13>C,δ^<15>N値から見た特徴について議論を行った.1995年9月11日に放流したマダイのδ^<13>C,δ^<15>N値が,放流後約1ヶ月間で天然魚とほぼ同じ値となった.これらの結果から,マダイの体内での炭素・窒素のターンオーバータイムは,1ヶ月以内であると推測された.大阪湾で採取されたカタクチイワシ(Engraulis japonica)とマイワシ(Sardinops melanosticta)のδ^<13>C・δ^<15>N値は(マイワシ:δ^<13>C=-15.8‰,δ^<15>N=13.8‰,カタクチイワシ:δ^<13>C=-15.9‰,δ^<15>N=13.7‰)それぞれほとんど同じ値であったことから,同じ栄養段階であることが予想された.今回採取された魚類のδ^<13>C,δ^<15>N値から,魚類の栄養段階を推測するにはいたらなかった.今後,植物プランクトンの増殖速度による効果,漁業生産に及ぼす炭素源としての海草類および海藻類の重要性等,検討を行う必要がある.
著者
堤 裕昭
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.165-174, 2012

有明海では1990年代後半より赤潮が頻発し,奥部海域では1998年より秋季~初冬に発生する赤潮が急に大規模化した.赤潮の頻発や大規模化は,海底への有機物負荷量の大幅な増大につながり,夏季の貧酸素水発生の主要な原因となる.そこで,有明海奥部における赤潮の発生のメカニズムと原因について,近年の水質,潮流,海底環境などに関する調査・研究の成果をレビューした.赤潮の頻発や大規模化は,陸域からの栄養塩負荷量の増加を伴わない条件下で起きていた.実際には,塩分成層が形成された時に,低塩分・高栄養塩濃度化した表層で赤潮が発生していた.したがって,赤潮の頻発や大規模化は,塩分成層が形成される頻度や継続期間に依存すると考えられる.塩分成層が形成されやすくなる原因としては,潮汐振幅の減少を通したことによる水柱の鉛直混合エネルギーの減少では説明がむずかしく,むしろ潮流自体の変化によって生じた可能性が指摘される.
著者
清野,聡子
出版者
日本海洋学会沿岸海洋研究部会
雑誌
沿岸海洋研究
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, 2002-02-22

現在,「環境修復」や「環境復元」が注目され,沿岸域についても人工干潟や藻場の造成なども行われている.本研究では,大分県の守江湾を対象として絶滅危惧生物カブトガニ(Tachypleus tridentatus)の生息と守江湾の環境変遷の関係について考察し,生息場の修復のためのミティゲーションについて述べた.干潟の環境調査では,一般に干潟が空間的に広くしかも干潮時にのみ出現するために網羅的調査には限界がある.このことから,空中写真を利用した効果的な環境調査法を開発した.空中写真により干潟の微地形分類を精度よく行うことができた.また洪水が干潟に及ぼすインパクトを調べるために,洪水前後に詳細測量を行って干潟の地形変化量を把握し,それと生物の生息条件の関係について調べた.守江湾への流入河川である八坂川では,2000年に河口から2〜4km区間に残されていた感潮域蛇行部の捷水路事業が行われたが,河川改修による下流への影響として洪水時の流速の増大が見込まれ,それに起因して河口部のカブトガニ産卵地砂州の流出可能性が指摘された.そこで産卵地の代替適地を選定し養浜を行った.環境対策のために,他の流域や沿岸からの土砂の使用を極力避けるという思想のもと,養浜材料には近傍の河道掘削土砂を活用した.
著者
清野 聡子 宇多 高明
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.117-124, 2002
被引用文献数
2

現在,「環境修復」や「環境復元」が注目され,沿岸域についても人工干潟や藻場の造成なども行われている.本研究では,大分県の守江湾を対象として絶滅危惧生物カブトガニ(Tachypleus tridentatus)の生息と守江湾の環境変遷の関係について考察し,生息場の修復のためのミティゲーションについて述べた.干潟の環境調査では,一般に干潟が空間的に広くしかも干潮時にのみ出現するために網羅的調査には限界がある.このことから,空中写真を利用した効果的な環境調査法を開発した.空中写真により干潟の微地形分類を精度よく行うことができた.また洪水が干潟に及ぼすインパクトを調べるために,洪水前後に詳細測量を行って干潟の地形変化量を把握し,それと生物の生息条件の関係について調べた.守江湾への流入河川である八坂川では,2000年に河口から2~4km区間に残されていた感潮域蛇行部の捷水路事業が行われたが,河川改修による下流への影響として洪水時の流速の増大が見込まれ,それに起因して河口部のカブトガニ産卵地砂州の流出可能性が指摘された.そこで産卵地の代替適地を選定し養浜を行った.環境対策のために,他の流域や沿岸からの土砂の使用を極力避けるという思想のもと,養浜材料には近傍の河道掘削土砂を活用した.
著者
梅澤 有 福田 秀樹 小針 統
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.3-10, 2017 (Released:2020-02-12)
参考文献数
17

地方の都道府県に立地する大学の多くは,18歳人口の減少と大学進学率の停滞によって,地元からの大学進学者の割合が低下し,大都市圏から多くの学生が集まるようになっている.学生は卒業後に出身地に戻って就職をすることも多いため,今後も続くこの傾向は,地方大学の人材育成方針にも影響を与えうる.一方で,卒業生が,水産・海洋系の専門を活かして,大学院への進学や,公的機関に就職するだけでなく,多様な民間企業へと就職していく現在,専門に特化した教育だけでなく,応用力,問題解決能力,語学を含むコミュニケーション能力等を持ち,多方面で活躍できる人材の育成が一つの鍵となっている.アクティブラーニングの活用,地域だけに特化しない総合的な水産・海洋教育,大学間連携と いった大学教育に加えて,地域の小学生から社会人を対象とした教育活動など,広範な視野をもった教育が,今後の水 産・海洋分野の発展には必要と考えられる.
著者
本田 聡 志田 修 山村 織生
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-47, 2003-08-26
被引用文献数
3

スケトウダラ太平洋系群は,親潮および沿岸親潮の影響が及ぶ北海道〜東北太平洋岸の陸棚および陸棚斜面域に分布する重要漁獲対象資源である.主要な産卵場は冬季の噴火湾口部周辺海域に形成される.春季に孵化した着底前0歳魚の多くは日高湾のごく沿岸域に沿って東進し,秋季までに0歳魚の成育場と考えられている道東海域に到達する.この移動は春〜夏にかけての動物プランクトン豊度の移動と一致する.成熟までを主に道東陸棚域で過ごした未成魚は,3〜5歳の冬に初回の成熟を迎え,噴火湾口部へ産卵回遊する.産卵後の成魚は再び道東海域へ移動し,摂餌を行う.以後,成魚は夏の索餌期には道東,冬の産卵期には噴火湾口部へと,襟裳岬を挟んでの季節回遊を繰り返す.本資源は,北海道太平洋岸に隣り合って位置する二つの異なる海域,噴火湾口部周辺海域および道東海域の特性をそれぞれ有効に活かす生活史を持つに至ったと考えられる.
著者
小松 輝久 三上 温子 鰺坂 哲朗 上井 進也 青木 優和 田中 克彦 福田 正浩 國分 優孝 田中 潔 道田 豊 杉本 隆成
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.127-136, 2009-02-27

海面に浮遊している藻類や海草のパッチは流れ藻と呼ばれ,世界の海で見られる.日本周辺では,ホンダワラ類がそのほとんどを占めている.ホンダワラ類は,葉が変形し,内部にガスを貯め浮力を得ることのできる気胞を有しており,繁茂期には数メートルにまで成長する.沿岸から波などにより引き剥がされた後,その多くは海面を漂流し,流れ藻となる.東シナ海の流れ藻の起源を,固着期と流れ藻期のアカモクの分布調査,遺伝子解析,衛星位置追跡ブイ調査をもとに推定した.その結果,中国浙江省沖合域の島嶼沿岸から流出している可能性が示された.ホンダワラ類の流れ藻は,漂流中も光合成,成長などの生物活動を行っている.伊豆半島下田地先のガラモ場での現地調査および陸上水槽実験を通じて,流れ藻の発生時期とその量,成長,成熟,光合成速度,浮遊期間を調べた.最後に,ホンダワラ類にとっての流れ藻期の生態的意義について議論した.
著者
首藤 伸夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.147-157, 1998-02-25
被引用文献数
1

最近,数値計算が発達したため,津波の事は全て判ったとの誤解が生じているようである.しかし,津波の実像を知る上で様々な難問題が残されている.まず,出発点である津波初期波形が一義的に決まらない.計算途上で不安定が起こり易く,また誤差の集積が結果の精度を落としかねない.計算結果の検証にあたっては,潮位記録にはフィルターがかかっている事,津波痕跡は往々にして大きい値のみが測定されており良い検証材料とは言えない場合もある事,等の問題がある.我が国の津波対策は,3つの方策を組み合わせて行われる.ハードな対策としての構造物,ソフトな対策としての防災体制,そして防災地域計画である.
著者
武岡 英隆 速水 祐一 兼田 淳史 松下 太郎 紀本 岳志 渡辺 浩三 藤川 淳一
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.91-97, 2001-02-23
被引用文献数
1

夏季の瀬戸内海には外洋から栄養塩が流入しているため,外洋の大規模な海洋循環の変動が瀬戸内海の栄養塩環境に影響を与える可能性がある.このような問題意識に基づいた,我々のいくつかのモニタリング計画を紹介した.中でも重要なのは,佐田岬先端部に設置した栄養塩などの自動監視システムによるモニタリングである.このシステムは,2000年3月に設置され,水温,塩分,pH,溶存酸素,クロロフィル蛍光,硝酸態窒素,アンモニア態窒素,リン酸態リン,珪酸態珪素,動物プランクトン数を1時間毎に測定している.
著者
亀田 卓彦 藤原 建紀
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.59-68, 1995-08-31

瀬戸内海の灘部の底層には夏季に低温・低酸素の水塊が形成される.本報ではこの水塊を底層冷水と呼ぶ.この中で,別府湾の底層冷水についてその形成過程と,交換時間・酸素消費速度を求めた.8月の交換時間は1700日であり,水塊の存在時間よりも長い.この交換時間を用いて,底層冷水内の海水の年齢組成を求めた.9月になってもその体積の70%以上が,成層ができる以前(4月)の水である.このことは,別府湾の底層冷水は冬季の海水が水温上昇期に加熱から取り残されてできたものであることを示している.底層冷水はまた貧酸素水塊でもある.この水塊中の酸素消費速度は0.5〜1.0gm^<-2>day^<-1>であった.別府湾底層での強い貧酸素化は,底層冷水と外部との間の海水交換が少なく,外部からの酸素の供給が少ないために起こる.
著者
都司 嘉宣
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.159-168, 1998-02-25

インドネシアは国土が日本と同じような列島弧からなっており,地震,津波火山災害の多い国である.1992年以後今日までの5年間に4回もの津波が発生しており,津波による総溺死者数は1,500人を超えると見られる.1992年のFlores島地震を始め,近年にインドネシアで起きた津波4例を検証し,この国に津波警報システムを構築する構想について考察する.
著者
上 真一
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.137-142, 2006-02-28
被引用文献数
1

瀬戸内海の東側出入り口に相当する紀伊水道の生態系の経年変動を,徳島県水産試験場が1987-1999年の12年間に亘って行った海洋環境調査と動物プランクトン主要分類群の出現密度結果などに基づいて解析した.紀伊水道の水温や栄養塩濃度は数年周期で変動し,1995年以降,水温は上昇傾向,栄養塩濃度は低下傾向にあった.このような変動パターンを引き起こす要因として,紀伊水道への底層貫入の強弱が関与していることが明らかとなった.即ち,底層貫入が強力な年は,1)平均水温が低く,2)栄養塩濃度が高く,3)透明度が低く(即ち,植物プランクトン現存量が高く),4)植食性カラヌス目カイアシ類(特に大型カイアシ類のCalanus sinicus)の出現密度が高かった.底層貫入が強い年は,黒潮流軸は紀伊水道から離れた沖合に位置していた.一方,1995年以降,黒潮は接岸傾向にあり,底層貫入は弱体化し,紀伊水道は次第に貧栄養の外洋的な生態系に変化しつつあると考えられた.漁獲量も近年は顕著な低下傾向にあった.底層貫入水は大阪湾や播磨灘などの瀬戸内海内部海域にも及ぶので,外洋起源の栄養塩は瀬戸内海内部の生物生産過程にも影響すると考えられる.