著者
五十嵐 由夏
出版者
神奈川大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

昨年度は,自分の手,馴染みのある物(ICカード,名刺),馴染みのない物(角丸紙)をイメージしながら,ディスプレイ面上の二本の水平線間の幅を各物体の大きさに調整させることで,物と手の大きさイメージの正確性の違いを検討した.実験参加者からディスプレイまでの距離についても,手前から奥にランダムに6段階で変化させながら実験を実施したところ,特に手のイメージは距離の影響を強く受け,ディスプレイ面が自分の腕の長さより遠くに配置されると有意に過小判断されることが明らかとなった.これらの結果は,身体の大きさ概念が,長期的な身体経験によって調整されうるものであることを示唆する.今年度は,この結果に新たにデータを加え,これまで得られた手の大きさイメージの正確性に関する知研究成果とあわせて,1つの雑誌論文にまとめた.また今年度は,共同研究として身体各部位および身体背面部における触刺激の評価に関する調査・実験研究を行った.まず,質問紙による調査を行った所,関東圏内の大学に通う女子大生の約30%が1回以上の痴漢被害を経験しており,その被害部位の多くが身体背面部や下半身であることが明らかとなった.そこで,目隠しをした上で,身体背面部(背中・臀部)および手のひらに,手(手のひら・手の甲)や物(鞄・傘)を呈示し,触覚情報のみで正しく対象を判断できるかを検討した.その結果,特に身体背面部である臀部や背中では,物が呈示されているにも関わらず,約30%が手だと誤って判断されることが明らかとなった.この結果は,触覚解像度の低い身体背面部においては,触覚情報のみで対象を正確に識別することが難しいことを示唆しており,痴漢冤罪が生じる原因の一端を示すと考えられる.
著者
歌川 光一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、都市新中間層生成期の「娘」教育における遊芸の位置づけ及びその機能を明らかにすることを目的とする。考察の対象としては、ピアノ、ヴァイオリンといったモダン文化との比較が可能な遊芸として、箏、三味線、琵琶といった楽器を据えた。本年度の成果は、以下の通りである。第一に、1900~1920年代の女性の職業準備としての遊芸習得について記述のある婦人・少女雑誌記事、職業案内書の内容を整理した。その結果、高収入がゆえに虚栄的なイメージもつきまとった洋楽の女流プロよりも、主婦役割を逸脱しない程度に収入を稼げる遊芸師匠の方が、良妻賢母像に親和的な職業として扱われており、その結果、「娘」期からの和楽器習得が、より修養的な役割を担わされたことが示唆された(「明治後期~大正期女子職業論における遊芸習得の位置-楽器習得に着目して-」『文化経済学』9_2、2012年ほか)第二に、婦人・少女雑誌付録の絵双六に関する所蔵状況を整理し、内容の分類を試みた。検討の結果、「娘」の将来像が良妻賢母か職業婦人かによって、また、同じ未婚女性であっても、「少女」と「令嬢」という理想像の違いによって、習得が期待される楽器の和洋が異なることが明らかとなった(「20世紀初頭の女性雑誌付録絵双六にみる『楽器定義のジェンダー化』過程-雑誌の対象年齢層に着目して-」女性と音楽研究フォーラム12月例会、於、中野区勤労福祉会館、2012年ほか)。第三に、本研究の背景となる、女性のアマチュア芸術文化活動のネットワーク化や、それに対する社会的まなざし、階層性について考察を重ねた(「女性芥川賞作家としての重兼芳子-カルチャーセンター・主婦・高女世代-」『「女性文化人」の社会的形成に関する歴史社会学的研究(稲垣恭子研究代表、平成22年度~平成24年度科学研究曹補助金(基礎研究B)研究成果報告書)』2013年ほか)。
著者
宮本 幸一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

超弦理論に関連する宇宙モデルの観測的シグナルについて研究を行った。主な内容は以下の3点である。1:将来の観測による宇宙ひものパラメータの決定精度の推定宇宙ひもとは、宇宙論的な長さを持つ、莫大なエネルギーが凝縮した1次元的な領域である。超弦理論に基づく宇宙モデルのいくつかは、その存在を予言する。私は、将来の重力波直接検出実験、宇宙背景放射(CMB)の観測、パルサータイミング実験により、宇宙ひもを特徴付けるパラメータがどの程度の精度で決定されるかを調べた。そして、異なる実験の組み合わせによりパラメータの決定精度を改善できること、重力波直接検出実験が特に強力な手段をなることを明らかにした。2:超伝導宇宙ひもに対する観測的制限宇宙ひもの存在を予言する理論の一部においては、宇宙ひもは超伝導状態になる。このような超伝導宇宙ひもは、強力な電磁波を放出し、特異なシグナルをもたらす。私は、CMB、電波、X線、ガンマ線の観測や、ビックバン元素合成への影響を考慮して、超伝導宇宙ひもへの制限を導出し、また、将来の実験において超伝導宇宙ひもが発見される可能性を調べた。その結果、CMB非等方性の観測から最も厳しい制限が与えられること、将来の電波バーストの観測が超伝導宇宙ひもを発見する上で強力であることを明らかにした。3:初期宇宙の磁場が作るCMBエネルギースペクトルの歪みの非等方性銀河や銀河団の中の磁場の起源を説明するため、宇宙初期において磁場が作られる宇宙モデルが活発に研究されている。その中には、超弦理論に基づくモデルもある。私は、初期宇宙の磁場のシグナルとして、CMBのエネルギースペクトルの歪みに着目した。そのような歪みの空間的に一様な成分に関する先行研究を拡張し、ランダムな磁場によって作られる非一様な歪みを計算した。その結果、初期宇宙に強い磁場があれば、将来の衛星により歪みの非等方性が検出されるとわかった。
著者
殿﨑 薫
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

種間交雑では,しばしば胚乳発生異常など種子形成時の生殖的隔離が障害となる.ハクサイやカブ等を含むBrassica rapaとダイコンを含むRaphsnus sativusの種間交雑では,胚乳発生の異常が生じる.しかしながら,B. rapa品種の「聖護院カブ」を種子親として用い,R. sativusの花粉を交雑した場合には,例外的に低頻度ながらも種間の生殖的隔離が打破される.これまでに,雑種形成能力を有する「聖護院カブ」と雑種形成能力のない「チーフハクサイ」を用いた遺伝解析から、B. rapaの雑種形成能に関わる3つのQTLを同定し,その内、2つのQTL領域内に座乗するBrFIE及びBrMSI1の2つの遺伝子において,機能に影響を及ぼすと推定されるフレームシフト変異を見出している.BrFIEおよびBrMSI1は,ポリコーム複合体構成因子をコードしている.ポリコーム複合体は、MADS-box転写因子であるPHE1やAGL62の発現を抑制することで正常な胚乳発生を制御している.そこで,B. rapaのポリコーム複合体標的遺伝子と推定されるBrPHE1及びBrAGL62について,自殖種子及びR. sativusとの雑種種子での発現解析を行った.自殖・雑種種子に関わらず「聖護院カブ」由来のゲノムを持つ場合,標的遺伝子の発現レベルは「チーフハクサイ」のそれらより低い傾向にあった.このことから「聖護院カブ」では,恒常的にポリコーム複合体による標的遺伝子の制御が強く,それによって種間交雑でも胚乳発生に関わる遺伝子を正常に制御することができているため,生殖的隔離を打破している可能性が考えられた.ナチュラルバリエーションの中から,生殖的隔離を引き起こす因子としてポリコーム複合体の関与を示したのは初めての結果である.ポリコーム複合体の種内変異の重要性を示した例はこれまでになく,本研究成果から種間交雑で見られる生殖的隔離の分子機構に関与する重要な知見を得ることができた.
著者
多田野 寛人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

タンパク質をコードしない非翻訳性RNA(ncRNA)は様々な生命現象に関与している。近年、200塩基以上の長さの長鎖のncRNAが多数同定されており、その一部の機能が明らかにされている。また、真確生物の複雑性とncRNAの種類数との関連が指摘されている。従って、高次な生物の種特異的な形質の発現に長鎖ncRNAが重要な役割を担う可能性があるが、これまでにそれが検証された例はほとんどない。私が研究対象とするセイヨウミツバチは社会性昆虫であり、労働カーストである雌の働き蜂は羽化後の日齢に応じてコロニー維持の様々な仕事を分担する。私はこれまでに働き蜂の齡差分業を制御する候補遺伝子として、働き蜂脳内において分業依存に発現変動するミツバチに固有な新規長鎖ncRNA遺伝子、Nb-1を同定している。本研究課題において私は、Nb-1 RNAが社会性を含めたミツバチの多彩な形質発現に関与する可能性を検証する目的で、ミツバチの生活史の様々な局面におけるNb-1 RNAの発現を解析してきた。しかし、Nb-1 RNAは新規なncRNAであり、生体機能については全く不明であった。そこで本年度では、はじめにRNAiをもちいたNb-1 RNAの発現抑制系を構築した。次に、Nb-1の分子経路の下流において機能する遺伝子を検索するために、マイクロアレイによりNb-1の発現抑制による遺伝子発現プロファイルの変化を解析した。その結果、Nb-1により発現が促進される候補として、複数の転写因子遺伝子を同定した。これら候補遺伝子のショウジョウバエのオーソログは発生運命決定や分化を含む、発生のイベントにおいて重要な機能を担うことから、Nb-1はこれらの転写因子遺伝子群の発現制御を介してミツバチの特徴的な形質の発現に寄与していることが示唆された。
著者
原口 恵
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は,情動刺激の処理と注意機能の関連を明らかにすることを目的とする。まず,情動刺激によるボトムアップ的な操作がその後の情動的注意の時間的側面に及ぼす影響について検討した研究に関しては,情動誘発盲という現象に着目している。この現象は情動的な刺激に注意を向けた直後に出現する標的を見落とす現象であり,刺激に注意を向ける前の情動的な処理が関わっていることが原因として考えられていた。本研究ではこの現象が情動刺激を繰り返し観察させるというボトムアップ的な情動操作によって消失したという結果が報告者の一昨年度の実験から得られている。この結果から,情動的注意の時間的側面には,刺激の情動性について前注意的に評価する段階が関与していることが示唆された。この成果に関しては現在,国際誌に投稿中である。また,情動刺激によるボトムアップ的操作が情動的注意の空間的側面に及ぼす影響について検討した研究に関しては,情動刺激と同じ位置に出現する標的への反応が遅れる現象(情動的復帰抑制)が,事前の情動刺激の反復曝露によって消失したという結果が得られた。この結果から,情動的注意の空間的側面に関しても,情動性の前注意的な評価段階が関与することが示唆された。この成果に関しては本年度の国内学会にて発表された。さらに本年度は,感情刺激の反復曝露による効果が,刺激の入力から反応の出力までに関わる感情処理のどの段階に影響しているのかを,刺激の感情情報の自動的処理が関与していると考えられている情動ストループ効果を用いて検討した。結果として,閾下感情馴化によって不快刺激による情動ストループ効果が消失したことが示された。この結果から,情動刺激の反復曝露が前注意段階の感情処理の機能を損なうことが示唆された。この成果に関しては国内学会で発表された。
著者
厚 香苗
出版者
神奈川大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

ソウル特別市冠岳区の三地点において、露店をめぐる観察および聞き取り調査をおこなった。各調査地点における露店の概要は以下のとおりである。(1)地下鉄2号線ソウル大入口駅付近-行政管理型の露店冠岳区が推奨している「デザイン露店」が夜間を中心に営業している。「デザイン露店」は都市美観に配慮した機能的な露店である。区から営業可能な時間と出店場所が指定されている。(2)冠岳山入口付近-行楽地型の露店冠岳山はソウル南部で気軽に登山を楽しむことができる観光地で、中高年の登山客でにぎわう。その登山口には「デザイン露店」もあるが、人の通りが多いところは「不法露店」が占めていて、登山の途中で食べる餅、蒸かし芋、海苔巻などの軽食を売っている。気候の良い時期の昼間の商いである。(3)6洞市場-在来市場型の露店新林再整備促進地区の中心に形成されている在来市場である。小規模小売店と露店商が混在している。露店商と常店の商人が、野菜や豆腐など、同じ商品を扱っていることもあり、露店と常店の違いはあいまいである。ここの露店のほとんどは「不法露店」だと考えられる。
著者
喜多 藍
出版者
法政大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度の最大の成果は、これまでの研究をまとめた博士論文が受理されたことである。本稿では、中国古典文学に描かれる厠と井戸の描写を分析し、古代中国の人々が厠や井戸をどのような場所と認識していたかを考察した。中国の厠については、主に六朝から唐代まで、どのような場所と考えられていたかを論じ、中国には多種多様な厠神に関する記述があり、出会っただけで人間に死をもたらす恐ろしい神と、富貴を与える神との二種類に大別されることが判明した。これは、日本の厠神が、不敬な行為を行わない限り禍をもたらすことのない、穏やかな神であるのとは大きく異なっている。また井戸については、文言小説に描かれる井戸がこの世と異界を繋ぐ境界であることが指摘されている以外、ほとんど研究が行われていない現状を踏まえ、従来取り上げられたことのない多くの文献を対象として、中国における「井戸観」を探求し、以下の三点について指摘した。1. 文言小説に加えて中国古典詩歌を検討し、詩歌では「境界としての井戸」は描かれず、詩歌と小説では井戸の何処に注目するかが異なっているとする新たな見解を提示した。2. 井戸で使われる釣瓶や轆轤に注目し、釣瓶は人間の魂の入れ物であり、釣瓶を上下させる轆轤は人の運命をもてあそぶものという象徴的意味があることを明らかにした。3. 唐・元稹「夢井」に「遶井(井戸をめぐる)」いう語が二度現れることを端緒とし、ものの周囲をめぐるという行為の民俗学的意義を考察し、中国では先秦時代から現在まで、死者を安置した棺や墳墓の周りをめぐるという死者を弔う習俗が途切れることなく行われてきたことを指摘した。以上を踏まえ、元稹「夢井」および李賀「後園鑿井」の新たな解釈を提示しつつ、李白「長干行二首」では井戸に関する習俗や婚姻儀礼における旋回の意義に基づいて、従来提起されていた多くの議論の中からひとつの結論を導いた。
著者
橋本 裕
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本プロジェクトでは、胃がんにおいて異常DNAメチル化により発現が低下している複数のmiRNAが、がん関連遺伝子発現制御を協力的に行っているかどうかを調べる事を目的とした研究を行った。解析の結果、dihydropyrimidinase-like 2(DPYSL2/CRMP2)遺伝子が胃がんで発現増加し、miR-224クラスター(miR-224/452)がDPYSL2を含めた複数の標的遺伝子の発現制御に関与している事がわかった。またmiR-224クラスターはDNAメチル化により発現低下することを明らかにした。さらに原発性胃がん組織においてmiR-224のメチル化はDPYSL2の発現増加に寄与し、DPYSL2は胃がんにおいて細胞増殖に関連するがん関連遺伝子である事を示した。一方、miR-340/181cも同様にDNAメチル化により発現低下し、協力的に複数の癌関連遺伝子の発現調節を行っていることを示した。また胃がん細胞の増殖抑制に関与する可能性も示した。以上より、エピジェネティックな発現制御を受けているmiRNAは協力的に標的遺伝子を発現調節している可能性が高く、胃がんにおいて、複数のmiRNA発現低下は癌関連遺伝子の発現増加に大きく影響する事が推測される。さらに、このようなmiRNAの発現調節機構の研究は胃がんの発症機構解明並びに、新規治療薬の開発にも役立つと考えられる。以上の内容は原著論文として2013年5月、国際学術誌PLoS Oneに掲載された。また、昨年度はスペイン・ベルビッチェバイオメディカル研究所にてDr.Manel Estellerのグループと共同研究を行った。大腸がんにおいて異常脱メチル化により発現低下する長鎖非コードRNA(1ncRNA)を探索したところ、ヒトがんで発現異常が報告されているmiRNA(仮称:miR-Y)の発現と相関する1ncRNA(仮称:lnc-X)を見つけた。さらにlnc-Xは原発性ヒト大腸がん組織だけでなく、肝がん組織においても高頻度のがん特異的メチル化が検出された。これまでのところmiR-Yの発現は様々ながんで発現低下が報告されているものの、その発現調節機構については不明な点が多く、今後はmiR-Yの調節制御にlnc-Xが関与している事を明らかにするつもりである.
著者
中村 佳敬
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、雷嵐に伴って発生するシビア現象と雷放電活動を全世界的に解析し、シビア現象をもたらす積乱雲と雷放電の全球的な分布・傾向を推定するため、全球落雷位置標定装置による全球の発雷分布と気象衛星による全球の降水分布の関係について研究を行った。本研究で使用した全球落雷位置標定装置は、世界50か所以上にVLFセンサを設置しており海洋上を含めた全球の雷放電活動をモニタリングしている米国ワシントン大学のWorld Wide Lightning Location Network (WWLLN)であり、全球の降水分布は米国海洋大気圏局の気象衛星に搭載されているマイクロ放射計Microwave Humidity Sounder (MHS)のデータセットから得られた固体降水量の鉛直積算値であるIce Water Path (IWP)を使用した。米国ワシントン大学に滞在し、これらの観測機器で得られた雷放電活動と固体降水量との関係を比較した結果、海域と陸域とで傾向が異なるものの、発雷頻度とIWPは指数関係にあることが明らかとなった。この発雷-降水関係を利用し、発雷観測を基とする衛星降水未観測域における降水量推定の可能性を示した。得られた雷放電と降水量の関係は光学観測に基づく推定結果と異なる傾向を示している。これは、中和電荷量等雷放電の規模が今まで考慮されていなかったためであると考えられ、今後の課題として陸域と海域、光学観測と電磁波観測で得られた関係性の違いを説明するために、雷撃のエネルギー量の観点からの解析が挙げられる。モデル構築の面では、本年度は気象庁非静力学モデルに対して、広帯域レーダシステムが種子島で観測した発雷を伴う雷嵐について電荷構造を推定した。この際、放電過程を導入した結果、一つの雷嵐の盛衰過程での電荷構造を再現した。雲放電が再現された一方で,本事例ついては対地放電が再現されなかったため、今後の課題としては落雷位置標定装置による対地放電の観測結果との比較評価が挙げられる。
著者
ロバーツ グレンダ KAWANO SATSUKI KAWANO S.
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究では、現代日本において、急激に進んできた少子化の傾向が、先祖供養に与える影響及びその対応策について考察しています。近年、子供のいない家庭や成人の未婚者も増加し、伝統的な家制度に基づいた先祖祭祀が難しくなっており、子孫がいなくても入れる合祀墓や自然葬(散骨)を選ぶ人も増えています。本研究ではそれらの対処法を選んだ人々の動機、家族背景、特に少子化との関連について参与観察、インタビュー、アンケート調査を行いました。また、少子化と先祖供養の存続に関する地域差を明らかにするため、本年度は北海道恵庭市、札幌市、青森県弘前市、岩手県水沢市及び真城町、東京都檜原村、愛知県岡崎市、名古屋市、京都府西京区、岡山県浅口郡船穂町、倉敷市の11か所で調査を行いました。その結果、高度経済成長期に町村部から都市に移住してきた人々の間では、少子化が合祀墓や散骨を選ぶ理由になりやすいことが明らかになりました。また、自然葬を行っているNPO法人「葬送の自由をすすめる会」の協力を得、自然葬を行った人々の追悼行為ついて遺族調査も行いました。その結果、遺族は従来の仏式の祭祀形態に必ずしもとらわれず、故人の意志を尊重し、その人らしさを大切にした追悼を行っていることが明らかになりました。従来の葬送形態の批判として行われることもある「生前葬」に関する調査結果も研究論文にまとめ、生前葬がその人らしい人生の最終章を飾る自己表現の一儀礼として行われていると論じました。
著者
竹内 聖悟
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

ゲーム情報学の分野において、将棋や囲碁、チェスなどの二人零和有限確定完全情報ゲームを対象として研究を行った。この分野における大きな研究目的に人間に勝つような強いプログラムを作ることがあるが、そのためには評価関数(形勢判断)とゲーム木探索(先読み)が重要であり、両者の改良について多くの研究がされている。評価関数やゲーム木探索の性能を評価するには、一般に対戦が用いられるが、時間がかかることや結果のフィードバックがないなどの問題がある。この問題点を解決するための手法として、棋譜データとプログラムの評価関数との関係を見るEvaluation Curveなどの評価手法を報告者は提案し、その有効性を示してきた。本年度は、対戦実験など性能評価に関する実験データの追加・充実した。モンテカルロ木探索はコンピュータ囲碁で大きな成功を収めた手法で、他のゲームでも応用が試されている。しかし、将棋やチェスでは、従来手法に匹敵する成果は得られていない。モンテカルロ木探索の試みの中で評価関数とモンテカルロ木探索を組み合わせる手法があり、いくつかのゲームでは従来のモンテカルロ木探索、従来のアルファベータ探索よりも良い性能を得ることに成功した例が報告されている。これまでの研究や、モンテカルロ木探索と評価関数両者の性能評価を行ってきた知識と経験を生かし、本年度はモンテカルロ木探索手法と評価関数を組み合わせる手法についてコンピュータ将棋を題材として研究を行なった。その中では、昨年度取り扱った静止探索を組み合わせることを提案し、従来のアルファベータ探索には及ばなかったが、従来のモンテカルロ木探索手法、評価関数だけを使ったモンテカルロ木探索手法よりも性能が良くなることを示した。
著者
中村 輝石
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

到来方向に感度を持つ暗黒物質探索実験において、新しい出器NEWAGE-0.3b'開発・生能評価を行ったのちに神岡地下で探索実験を行った。この検出器は、2010年に行われた前回の測定時に比べると次のような改良が施されている。①角度分解能と標的質量から最適化されたドリフト長40㎝とμ-prcを完全に覆うことができるGEMを用いて2倍の体積がある。②低圧ガスを用いることでより短い飛跡に関しての角度分解能を定義できることにより、エネルギー閾値が100keVから50keVに低減している。③新しいデータ取得システムの導入により、飛跡の形状が持つエネルギー損失の情報を用いてガンマ線バックグラウンド事象を効果的に除去できる。④冷却活性炭を用いたガス循環システムと検出器内のドリフトケージを低バックグラウンド素材であるPEEKに置き換えることでバックグラウンド源であるラドンの量を1/50以下に低下できる。2013年の7月から11月にかけて0.327㎏・daysの測定を行い、その間安定性を確認するために定期的にエネルギー校正や検出効率の測定を行った。測定の結果、200GeV/c2の質量の暗黒物質に対して577pbのSD散乱断面積の上限を得た。これは、前回測定時より約10倍感度が高く、方向に感度を持つ実験における世界最高感度を更新した。また、Geant4のシミュレーションを用いて残存バックグラウンド事象について詳細な調査を行い、画像検出器として用いているμ-PICの絶縁体部に含まれる放射性不純物の寄与が大きいことを突き止めた。今後、低バックグラウンドμ-PICの開発が進むとさらに10倍の感度向上が見込まれ、DAMAの主張する領域の探索が可能となる見通しを作った。
著者
志田 未来
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年、日本においてひとり親家庭の割合は年々増加しており、ひとり親家庭で育つ子どもたちは低学力・低学歴に陥っていることが様々な研究によって指摘されている。本研究はそのようなひとり親家庭の子どもたちが、どのような経路をたどってそういった困難に直面しているのか、また、その困難を乗り越えられるとしたら何が影響を与えているのかということを明らかにすることを試みる。2011年から2012年にかけて行ったひとり親家庭の子どもに対するインタビューをまとめ、学会誌『教育社会学研究』へ投稿,掲載された。また、2011年より行っている公立中学校でのフィールドワークを継続し、ひとり親家庭で育った子どもが、どのような学校経験を経ているのかを現在も調査中である。また,国内での調査と並行して海外における調査も実施した。2013年度,2014年度と同様にアメリカ・カリフォルニア州の公立高校における調査を、約6週間に渡って行った。同校はひとり親家庭を筆頭に、不安定な家族で暮らす子どもたちが多く通っており、エスニック的にもブラック、ラティノなどのマイノリティが多く在籍している。このような不安定な家庭が多い校区にある調査対象校は、社会的困難を「克服」している学校であることで注目されている。そのため、フィールドワークによって、不安定な家族で暮らしている子どもたちに対して、学校はどのような支援が可能なのか、ということを調査した。同校での調査が3年目であったこと、6週間の長期調査であったことも影響して、質・量ともに昨年度よりも望ましいデータを取得することができるとともに,経年的なデータを入手できた。アメリカにおけるフィールドワークより入手したデータは,教育社会学会大会にて発表するとともに,複数の学会誌への投稿を試みている。
著者
竹内 あい
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、複数の主体の意思決定がそれぞれの結果に相互に影響を与えるゲーム的状況において、他者のとる行動を推論する人としない人でどのように行動が異なるのか、実験を用いて検証することを目的としている。しかし、これまでの実験仮説は、過去の実験結果に基づくものであり、理論によって導かれたものではなかった。帰納的ゲーム理論、とくにKaneko and Kline(2009)の理論では、相手の状況について解らない場合(以下、NRS)は、他者の取る行動の推論の有無が行動に影響を与えず、一方で相手の状況について解る場合(以下、RS)は、これが行動に影響を与える。そこで、本年度は帰納的ゲーム理論に基づき実験仮説を立て、それを検証する実験を行った。具体的には、Kaneko & Kline(2009)の理論を囚人のジレンマに応用した実験を行った。理論に基づくと、NRSの場合、あるいはRSで相手のことを考えない場合には人々は協力をせず、RSで相手のことを自分と同じように考える場合は協力が生じると予測される。そこで、3種類の囚人のジレンマについて、それぞれRSとNRSの場合を比較する実験を行った。実験の結果、理論の予測通りNRSよりもRSの方がより協力が頻繁に観察された。これにより、他者の状況に関する情報がないため相手の取る行動を推論することが出来ない場合と、それが可能な場合との比較を行うことができた。また、より詳細な分析により、帰納的ゲーム理論の前提に関する分析を行うこともできた。これにより、今後の帰納的ゲーム理論の発展に寄与することが出来たと思われる。
著者
中森 義輝 KROLZ bigniew KROL Zbigniew
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、新しい知識基盤社会の始まりに際して、知識科学という新しい認識法をどのように確立するかということを深く探究することである。さらには、数学と科学における直観的基盤をどのように説明するかということについて同時に考察し、知識創造における直観の役割を合理的に説明することである。本研究では、数学や科学の知識創造における直観の役割について歴史的な考察を行っている。科学理論は相対主義に固執しているように見えるが、技術や科学実践ではいまだに古典的真理に基礎を置いている。この矛盾を回避する方法を発見することにより、知識創造の新しいメカニズムの発見に結びつける。具体的には、数学の直観的基盤を探求するとともに、日常の数学訓練を説明するシステムの形成を行い、現代数学に対する説明方法の再構築を目指している。さらに、それを集合論へと展開するとともに、現代科学における絶対空間概念の創発についてのケーススタディを行う。平成20年度は特に、ウリツビッキーと中森が提唱している新しい学際的な知識正当化理論である「進化的構成的客観主義」の中のマルチメディア原理において重要であり、さらには知識科学の応用において重要となる言語の抽象的構造に関して考察を行った。また、古典数学に対する直観的解釈(クロールが提唱している知識正当化の方法)の再構築を試みた。これらの成果は、いくつかの論文(印刷中のもの2件を含む)、国際会議等において発表した。
著者
澤渡 浩之
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

ダウン症者における先天性心疾患と睡眠時無呼吸症候群との関連についての報告、ダウン症者特有の睡眠体位と睡眠時無呼吸症候群との関連とについての報告と睡眠時無呼吸症候群の簡易検査装置のパルスオキシメトリーを用いて検討したダウン症者特有の睡眠体位と睡眠時無呼吸症候群との関連についての報告を国際誌へ投稿し全て受理されている。いずれの論文もダウン症者における睡眠時無呼吸症候群は、非常に高率であることと睡眠時無呼吸症候群の危険因子に関して報告している。また、ダウン症者の睡眠時無呼吸症候群に関する国際調査を行うべく、スコットランドのチームと研究基盤を作り、研究を行った。この国際研究を実施するに当たって、双方のチームの立案段階でのデーターベースの作成やデータの解析を行った。最終的に我々は、成人のダウン症者のデータをスコットランド人・日本人合わせて約800名収集できた。以上の研究の内容をスコットランドのチームと共同して論文化しており、近日中に国際誌に投稿する予定である。今後は、さらに精度の高い検査法で疫学調査を行いより確立したデーターベースの作成を行う予定である。睡眠時無呼吸症候群は、心血管病、注意欠陥多動性障害、学習障害との関連が示唆されている。このことから、本研究は、睡眠時無呼吸症候群の早期発見・早期治療へと繋げることが出来る内容となっているため、ダウン症者のQOLや予後の改善に大きく貢献出来るものだと考える。また、調査範囲を国際研究へ広げたことから日本だけでは無くヨーロッパの国々にも貢献出来る研究に発展したと考えている。
著者
森棟 せいら
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は, ガラス管型を用いることにより, ポリピニルアルコール(PVA)/ナノダイヤモンド(ND)ナノ複合材料を繊維状に成形し, さらに延伸を行うことにより, 超延伸PVA/ND繊維を作製した。作製した超延伸(延伸倍率 : 30) PVA/ND繊維では, PVA微結晶は延伸方向に高配向(配向率95.4%)していることを明らかにした。引張り試験による力学物性の測定をおこなったところ, 未延伸繊維の力学物性はPVA/NDキャストフィルムと同様であった。一方, 超延伸を行うことにより, 力学物性は飛躍的に増加した。ここから, PVAの微結晶配向が繊維の力学物性に大きく影響することが示された. また, 超延伸繊維についてPVA繊維とナノ複合繊維の比較を行うと, NDを1Wt%充てんすることにより, 弾性率は35%, 強度は23%と大きく増加することが明らかとなった。したがって, 超延伸ナノ複合繊維は, PVA微結晶が高配向したことに加えNDの優れた補強効果が発現したことから, 高い力学物性を示すことを見出した。上述の超延伸PVA/ND繊維と同様に, 超延伸PVA/グラフェンオキサイド(GO)繊維を作製した。GOはシート状の形状を有していることから, 繊維内でPVAのみならずGOが配列することにより, さらなる力学補強効果を期待できる。GOをlwt%充てんしたナノ複合繊維は, 超延伸(延伸倍率50倍)を行うことにより弾性率が60GPaに達した。これは, ガラス繊維(弾性率70GPa)に匹敵・追随する値である。さらに, 超延伸PVA/GO繊維は, 優れた熱物性を示すことを明らかにした。GOを充てんしていないPVA繊維と比較して, GOを1wt%充てんしたナノ複合繊維の熱分解温度は, いずれの延伸倍率においても10℃高いことを明らかにした。これは, GOがPVA分子鎖の運動を抑制し, 熱分解に伴う生成物の放出をバリアしたためであると考えられる。
著者
岡本 正洋
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

走運動により高まる神経新生の分子機構を明らかにするために,平成24年度は計画書の「実験2:海馬アンドロゲン阻害が走運動による神経新生の増加に与える影響」について,アンドロゲンとエストロゲン効果の比較や血中アンドロゲン作用について詳細に検証した。以下にその概要を示す。実験2-1アンドロゲン受容体拮抗薬の検討運動誘発性の神経新生におけるアンドロゲン作用を明らかにするために,アンドロゲン受容体拮抗薬フルタミド投与が神経新生に及ぼす影響について検証した。神経新生はその成熟過程を三つの段階,増殖(Ki67),分化(DCX),生存(BrdU/NeuN)に分けて評価した。その結果,フルタミド投与により低強度運動によるDCX陽性細胞数およびBrdU/NeuN陽性細胞数の促進効果は消失した。一方,Ki67陽性細胞数はフルタミド投与群でも低強度運動により有意に増加した。これにより,アンドロゲンは神経新生の促進因子の一つであり,その効果は細胞増殖ではなく,新生細胞の神経分化や生存に強く作用することが明らかとなった。実験2-2:精巣摘出の効果一般的に,アンドロゲンは精巣から血液中に分泌され,標的器官に作用すると考えられている。そこで,精巣摘出に伴う血中アンドロゲン濃度の枯渇が運動誘発性の神経新生に及ぼす影響について検証した。その結果,低強度運動による神経新生促進効果は精巣摘出群でも持続され,その効果はアンドロゲン拮抗薬フルタミドを投与することで消失した。フルタミド作用は,実験1-1同様,DCX,BrdU/NeuN陽性細胞に特異的であることが明らかとなった。これらのことから,アンドロゲンが神経新生を促進する新たな因子の一つであり,さらに運動誘発性の神経新生を仲介するアンドロゲンは精巣由来ではなく海馬由来であることが示唆された。
著者
高橋 祥子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

α-シクロデキストリンとポリエチレングリコールによる包接錯体形成について研究を行った。α-シクロデキストリンとポリエチレングリコールによる包接錯体は、環動高分子材料の前駆体であるポリロタキサンを合成するために最も広く用いられている組み合わせである。包接錯体形成時に形成される環状分子に軸高分子が貫通した構造が環動高分子材料の特異な物性をもたらすため、環動高分子材料にとって包接錯体形成はカギとなる反応といえる。しかし、包接錯体形成に伴ってα-シクロデキストリン同士は凝集を起こし、反応系が溶液から固体まで大きく変化するため、包接錯体形成反応の詳細は未解明であった。そこで、本研究では高分子鎖の片末端を基板上に固定することでポリマーブラシとし、環状分子と高分子の包接反応を2次元系において追跡することにした。主に中性子反射率測定、斜入射広角X線散乱測定、表面プラズモン共鳴測定を用いて研究を行った。中性子反射率測定から包接錯体中で高分子鎖が屈曲した構造をとっており、斜入射広角X線散乱測定からは基板に対して包接錯体結晶が配向していることがわかった。また、表面プラズモン共鳴から、形成された包接錯体量の時間変化がわかった。このように、3次元系では系のゲル化や沈殿形成により知ることが出来なかった、配向性など包接錯体の構造と包接条件との関連や、包接錯体結晶が結晶核の形成と成長の様式を示すことを明らかにすることが出来た。