著者
中山 和則
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年PAMELA衛星、Fermi衛星によって宇宙線陽電子、電子フラックスの超過成分が観測され、これが暗黒物質対消滅の痕跡である可能性が指摘されている。これを受けて、暗黒物質対消滅とビッグバン元素合成との関係、銀河外拡散ガンマ線への暗黒物質の寄与、銀河中心方向からの高エネルギーニュートリノによる検証可能性などを調べた。将来観測によって暗黒物質対消滅の証拠を検証、あるいは排除出来ることが明らかになった。また、最近CDMS実験が暗黒物質起源と解釈され得るシグナルイベントを報告した。これに関して、超対称標準模型のパラメータへの示唆、および将来実験での観測可能性を調べた。一方、宇宙の構造形成の種となる密度揺らぎに関する研究を進めた。特に、密度揺らぎの非ガウス成分と、その素粒子物理への示唆を中心に研究を行なった。暗黒物質の有力候補の一つであるアクシオンにより、等曲率揺らぎの中に非ガウス性が現れる可能性があり、その特徴を詳しく調べた。また、超対称性模型において、超対称性を破る場によって同様の大きな非ガウス性が生成される可能性があることを明らかにした。また、非ガウス性と重力波の観測を組み合わせることで、カーバトンシナリオを検証可能であることを示した。
著者
永井 玉藻
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-26

本研究「フランシス・プーランクのオペラ作品におけるドラマトゥルギー」は、20世紀フランの作曲家、フランシス・プーランクのオペラ《カルメル会修道女の対話》を題材に、作品の資料調査とその分析を行うことで、作品のドラマトゥルギーの変遷とその意義を考察するものである。当該作品は、これまで多くの研究が行われてきた一方で、最も基礎的な資料研究が完全に欠落していた。そのため、作品の一次資料に関する情報が正確でないだけでなく、作曲中に繰り返し行われた変更や、改訂の詳細が、全く明らかになっていなかった。にもかかわらず、先行研究では繰り返し、作品の書法研究などが行われてきたのである。こうした状況に基づき、平成26年度には、2014年5月に資料調査(イタリア・ミラノのブライデンセ国立図書館リコルディ・アーカイブにおける調査)を行った。これにより、作品の一次資料に関するほぼ完全なデータを収集することができた。これらの結果は、2014年11月に行われた日本音楽学会第65回全国大会にて発表し、作曲家の自筆楽譜資料に基づいた分析を発展させた実証的な論を展開することができた。発表では、これまで公開されていなかったプーランクの自筆譜を、日本で初めて紹介することができ、その資料的価値を改めて検証することができた。一方、昨年度に複数行った海外での研究発表で出会った海外の研究者とは、年度を通してさらに密な関係を築くことができた。こうした活動を元に、博士論文の本格的な執筆が順調に進み、執筆の大筋が終了した。現在は、フランス語の訂正と本文の見直しを行い、また審査員の先生がたにもアドバイスをいただくなどしている。
著者
岩崎 稔 DRISCOLL M.W.
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

昨年度に引き続き、岩崎稔とマーク・ドリスコルが、総動員システムと植民地支配というふたつの政治文化システムの連関や相互作用を、具体的な文化的表象を用いて分析する作業を続けた。関連する文献を収集し、適宜読解するとともに、認識を共有するための研究会も重ねた。具体的には、岩崎が特に植民地支配における身体と文化の問題に取り組み、コロニアリズムにおける物質的な暴力の思想的な含意についていくどか報告した。とくに性的な身体をめぐって、レイシズムの支配が、統合と排除、包摂と異物化というふたつの作用としてせめぎあすことの動態とその理由を解明することに先進した。他方ドリスコルは、岩崎と認識を共有しつつ、謝金によって翻訳通訳業務を担当してくれるアルバイト学生を伴って国立国会図書館にひきつづき通い、必要な図版、図録を調査してきた。また収集した身体をめぐる表象や図像を具体的にもちいて図像学的読解の実践を試みた。このトレーニングを通じて、図像を分析する際の基本的な枠組みや概念を鍛えることができた。また、とくに新しい視座として、ドリスコルは、コロニアリズム研究の一環である沖縄研究にも研究対象を拡大することができ、複数の研究者や民間の研究者との共同作業をこころみた。これらの作業を通じて、身体や空間をめぐるポリティクスについて、プロジェクト参加者の認識は、初発の時点に比べて格段に深化し、多くの素材を処理可能になった。また、研究のための図像の読解作業を通じて、今後の研究に必要な研究者ネットワークを構築した。
著者
千代 浩之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

今年度は, リアルタイムLinuxであるLITMus^RTに最適なマルチプロセッサ向けリアルタイムスケジューリングであるRUNを実装する研究を行った. また, LITMUS^RTに実装されているリアルタイムスケジューリングの実行を追跡・可視化するツールであるsched_traceをインプリサイス計算モデル向けに拡張した. これにより, インプリサイス計算モデル向けリアルタイムスケジューリングの開発効率を向上させることが可能になった.インプリサイス計算モデルに3つ以上の必須部分を持つタスクを扱うことを可能にするリアルタイムスケジューリングを提案した. この手法により, より複雑なインプリサイス計算モデルにリアルタイムスケジューリングを適用可能になった. また, インプリサイス計算モデル向け最適なマルチプロセッサ向けリアルタイムスケジューリングであるRUN-RMWPを提案した. RUN-RMWPはRUNを基調としたインプリサイス計算モデル向けの最適なリアルタイムスケジューリングである. シミュレーション結果では, 従来のインプリサイス計算モデル向けリアルタイムスケジューリングであるG-RMWPやP-RMWPよりプリエンプションやマイグレーションの回数が少ない結果を示した. さらに, タスクの品質の評価結果では, G-RMWPやP-RMWPと比較して少なくとも同等もしくは高い評価結果となった. 従って, RUN-RMWPは従来のインプリサイス計算モデル向けリアルタイムスケジューリングよりオーバヘッドを減らしつつ, タスクの品質を改善することが可能になった.上記の研究は, 分散制御型ロボット向けリアルタイムオペレーティングシステムを研究開発する上で非常に重要であり, これらを研究する意義は十分にあると言える.
著者
吉田 武弘
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

貴族院院内会派の実態解明を目的に、本年度も昨年度に引き続き史料収集、翻刻、検討作業を行った。まず昨年以来検討している男爵議員の会派・公正会について、阪谷芳郎ら関係者の史料を網羅的に収集、検討する作業を継続して行った。公正会は、大正期後期の成立以来、政界において独自の存在感を示した会派としてその名が知られているが、一方でその実態や理念、動向についてはほとんど検討されていない。よって本研究がその先鞭をつけたものといえる。またこれに加えて本年は、伯爵議員団についても検討の幅を広げた。なかでも特に伯爵議員団において中心的役割を果たした大木遠吉に注目し、大木に関する史料を収集、検討する作業を行った。大木は「華冑界の総理大臣候補」ともいわれた華族政治家であるが、従来必ずしも十分に検討されてきたとは言い難い人物である。大正期華族研究は、近衛文麿、有馬頼寧らのちに「革新華族」を構成した人々に集中する傾向があるが、これに対し大木ら当時の政界において重要な役割を果たしていた華族政治家に着目することは、華族研究の視野をより広げることになるであろう。くわえて、院内会派の動向をより大きく議会史全体の文脈上に落とし込むべく、「両院関係史」の検討も行った。主には、第4次伊藤内閣下の両院衝突問題、大正政変などの時期に注目し、それら政治史上の重要事件を両院関係の視座から読み直す作業を行った。これは従来「議会」と「官僚閥」という視点で整理されてきた政治史理解に対し、むしろ「官僚閥」においても「議会」が絶対的に必要であったという視座からこれを再検討しようとするものである。こうした作業を通じて、近代日本における議会制度の意味を再検討することができるであろう。
著者
玄 英麗
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

1)屋外温熱環境の質(Quality)を評価するための新たな指標の提案ある計画敷地を対象として、その屋外環境の質を屋外物理環境と社会的便益の面から評価するため、昨年提案した指標(Index1と2と3)に新たな指標(Index4と5)を追加し、検討を行った。Index1:計画敷地内でSET*(新標準有効温度、温熱快適性を表す指標)が許容上限値以下となる領域の面積Index2:Index1の値を計画敷地面積で基準化した数値Index3:Index1の値を敷地内のオープンスペースの面積で基準化した数値Index4:計画敷地内に住んでいるすべての人たちが楽しめる熱的に許容できる面積を計画敷地面積で基準化した数値(Index4=Index2*計画敷地における容積率)Index5:計画敷地内に住んでいる人たちの一人当たり楽しめる熱的に許容できる面積を計画敷地面積で基準化した数値(Index5=Index2/計画敷地における容積率)気候特性に適合した最適な建物配置はIndex4と5の値により決定される。2)広州と仙台における最適な隣棟間隔広州と仙台を対象として、建物隣棟間隔(D)と建物高さ(H)の比(D/H)を系統的に変化させた解析を実施し、1)で考案した評価指標を用いた評価を行った。この結果、広州と仙台でのD/Hの最適値は0.71となった。3)鉛直壁面が屋外温熱快適性に与える決定的な影響緯度の変化による屋外温熱環境の変化を把握するため、広州と仙台における表面温度の分布と平均放射温度の分布を比較した。この結果、広州における太陽高度が仙台に比べより高く、より多くのオープンスペースが日差しを受け入れるが、広州における平均放射温度がより低かった。これは、広州における太陽高度が高いため、鉛直壁面が受け入れる日射が仙台より少なく、表面温度が低かったためだった。これにより、鉛直壁面が屋外温熱環境に決定的な影響を与えることを明らかにした。
著者
齋藤 実穂
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

「地球と太陽(太陽風)の相互作用からどのような物理過程で、オーロラ現象が引き起こされるのか」、その過程を明らかにするために、人工衛星の観測データの解析を行った。これまで調べることが難しかったオーロラ現象の源の構造、特に電流層の構造を調べることから、プラズマ物理を用いたオーロラ現象の説明を試みた。THEMIS衛星群を用いた電流観測から、「磁気圏尾部の電流経路」、「サブストームの発生源(起電力)」、「磁気圏のエネルギー収支」がわかるようになることが期待できる。また電流密度の構造と理論研究を合わせることにより磁気圏尾部プラズマシートが安定的に存在できるのか議論できるようにするための基礎的な知見を得ることができた。研究では、 複数の人工衛星を用いた磁気圏尾部の解析方法を開発し、電流密度を直接調べることを可能にした。開発した解析手法は、2007年にNASAが打ち上げたTHEMIS衛星群5機を用いて実際の観測データへ適用をした。2007年から2014年の観測事例を調べ統計的な性質を得ることができた。次に平均的な状態と比べて、サブストーム(オーロラ嵐)ときにどのような特徴が見られるのかを調べた。これまで磁気圏で電流密度が高くなる場合は、サブストームの成長相と考えられていたが、発達相にも高くなることを初めて示すことができた。ストーム開始時の電流系のモデルを構築し、プラズマシートの東西非対称の特徴を観測データから明らかにした。
著者
福本 和貴
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

近年、合成金属触媒をタンパク質内部空間に導入した人工生体触媒が注目されている。この人工生体触媒では、タンパク質を3次元の優れた化学反応場として扱うことで、反応の立体選択性を実現することが可能となる。しかし、立体選択的な炭素―水素結合の活性化や炭素―炭素結合形成等、より魅力的で困難な触媒反応を実現した人工生体触媒は殆ど無い。そこで本研究者は、前年度までにユニークなタンパク質空孔を有するニトロバインディンを用いて、約65%のトランス体ポリフェニルアセチレンを得ることを見出し、タンパク質が反応の立体選択性に影響を及ぼすことを示した。本年度は、より高い立体選択性を実現するために、活性中心近傍のタンパク質内部空間に対して、詳細に再設計した10種類の異なる人工生体触媒を調製した。特に得られた人工生体触媒のうちのひとつに関しては、結晶構造解析にも成功し、ロジウム錯体がタンパク質内部空間に堅牢に収まっていることが確認された。さらに、それぞれ10種類の人工生体触媒を用いて、反応条件も最適化したうえで重合反応を実施し、得られたポリマーの立体選択性について評価したところ、トランス選択性を約80%に高めることを達成した。次に、MD計算を用いてタンパク質内部空間における金属錯体の挙動を解析し、人工生体触媒が調製したポリマーの立体選択性と比較検討したところ、ポリマーのトランス選択性の向上には、"ロジウム錯体が安定に位置することが可能で"かつ"モノマーの活性中心へのアプローチをコントロールできる"適切なタンパク質内部空間をもつ人工生体触媒が必要であることが明らかとなった。
著者
池﨑 圭吾 (2013) 池崎 圭吾 (2012)
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

昨年度は、新たに作成したミオシンサンプルの生化学的特性等が、これまで用いていたサンプルと同等であることを確認するための実験を行い、使用予定のサンプルに問題がないことを確認した。また、サンプル作成に並行してレーザートラップ顕微鏡の構築を行った。光学系の構築は順調に進み、力学操作用のプローブ(ポリスチレンビーズ)を十分な強度で安定に視野中心に捕捉することに成功した。しかしながら、当初使用予定であったSutter社製の高精度ステージが不調でスムーズにサンプル位置を調整できないという問題が生じた。本計測法によるアクトミオシン系の力学操作において、基盤に固定したアクチンフィラメントとトラップされたビーズにコートされているミオシン間の距離の調節は非常に重要であり、ナノメートル精度でのステージ操作は必須である。しかしながら、高精度ステージは非常に高額で本研究予算枠では代用品を準備することは出来ず、また、所属研究室にも同等の装置の予備はなかったためレーザートラップによる計測は断念せざるを得なくなった。新たな計測方法として、当研究室の岩城研究員により新規開発されたDNA折り紙技術を用いた超微細バネを用いた計測を行うことにした。岩城研究員が開発した超微細バネの詳細は省かせていただくが、これにより既存の顕微鏡で力学測定イメージングを行うことができるようになった。現在、本研究のために新たに設計されたサンプルの調整をしており、実用化に向けておおむね目処が立っている段階にある。幾つかの問題により、出だしがだいぶ遅れてしまったが、ラベル率の上昇やイメージング計測によるデータ収集効率の上昇などのポジティブな結果も多く得られており、今後の研究は加速度的に進むと考えている。
著者
小林 憲正 DEMARCLLUS Pierre
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

分子雲中の星間塵アイスマントル中での有機物生成の検証のため,高エネ研で新規開発中のデジタル加速器を用い,模擬アイスマントルへの重粒子線照射実験を計画し,その準備を行った。星間塵アイスマントルでの有機物生成を調べる場合に問題となるのが,極低温環境で組成の既知のアイスを作製した後に,これに照射することと,その反応過程の追跡法である。アイスマントルを構成する分子としてH_20,CO,CH_3OH,NH_3などが主と考えられるため,種々の混合比のアイスを作るためのクライオスタットとガス混合機のデザインを行った。ガス混合機に関しては,この装置に用いる高精度のバルブや圧力計を選定し,購入,組み立てまでを行った。クライオスタットチャンバーに関しても,高エネ研において改造中である。アイスへの照射実験の予備実験として,東京工業大学のタンデム加速器を用い,想定される出発材料(一酸化炭素,アンモニア,水)の混合気体に3MeV陽子線を照射した時のアミノ酸生成について定量的に調べた。照射後,生成物を酸加水分解した後,陽イオン交換HPLC法によりアミノ酸の定量を行った。気相での陽子線照射実験においては,一酸化炭素・アンモニア・水蒸気および一酸化炭素・アンモニアの混合気体のいずれも,照射開始後すぐに霞の生成が見られた。このことは,高エネルギー粒子線の作用により高分子態の有機物が気相中で直接生成することを示唆するものである。各照射生成物の加水分解物中に、多種類のアミノ酸が検出された。アミノ酸の生成量は照射量に比例した。このことからも,混合気体からのアミノ酸の生成は,従来想定されていたようなストレッカー反応のような多次的反応ではなく、照射により直接気相中で固体のアミノ酸前駆体が生成したと考えられる。この結果は,アイスへの照射実験においても照射により直接,高分子態の有機物が生成する可能性があることを示唆する。
著者
髙橋 麻衣子 (2013-2015) 高橋 麻衣子 (2012)
出版者
東京女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の大きな目的は,児童・生徒の学習効率を最大限に引き上げる視聴覚メディアの在り方についての基礎的知見を提供することである。今年度も昨年度に引き続き,文字情報だけでなく音声や表情といった付加的な情報を同時に提示できる視聴覚メディアの在り方を提案すべく2つの実証研究を行なった。研究1では,視覚的な文字情報にそれを読み上げた音声情報を付与することが読解行動と理解成績に与える影響を検討した。36名の成人の参加者に,視覚的な情報のみ提示する黙読条件,音声情報を付与する音読条件と読み聞かせ条件の3つの条件下で説明的文章を読ませ,読解中の眼球運動と読解成績を測定した。その結果,黙読条件の読解成績が最も高いことが示され,成人の読み手にとっては文字情報に付与された音声情報が理解を妨げる可能性があることが指摘された。さらに各条件での読解活動中の眼球運動を分析したところ,文章読解中の視線の停留回数や停留時間は黙読条件で最も少なく,音読条件で最も多いこと,読み聞かせ条件の眼球運動は黙読条件のものに類似していることが示された。これらの結果は,成人の読み手は文字に音声情報が付与されていても,視覚的な文字情報をメインに処理して読解を行なっていることを示唆している。読みに熟達すると読み上げ音声が邪魔になる可能性があり,電子教科書の音声読み上げ機能は使用者の読解能力によって調整できるようにする必要があることが提案できた。研究2では,文字の音声情報だけでなくそれを読み上げる話者の表情動画を付与した場合,発話内容の理解にどのような影響があるのかを検討した。36名の成人を対象とした実験の結果,発話者の声の感情よりも表情そのものが受け手の理解に寄与することが示され,インターネットを介した会議などでの話者の顔の表示がコミュニケーションを円滑にする可能性が示された。
著者
田上 英一郎 BHASKAR P. V. BHASKER P.V.
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

海水中の有機物の起源や動態は、懸濁態有機物や溶存態有機物毎に、それぞれ個別的に炭素安定同位体やバイオマーカーを用いて研究されてきた。本研究では、同一海水中に含まれる懸濁態有機物や溶存態有機物について、陸源性及び海洋性有機物を分子レベルで明らかにし、伊勢湾-黒潮域を対象に、それらの動態を明らかにすることを目的とする。具体的には、濾紙上に捕集できる懸濁態有機物と共に、脱塩・濃縮が可能な溶存有機物高分子画分について、陸起源性高分子有機物、海洋性有機物を生産する動物、植物、細菌に由来する分子を区別しつつ、それらの動態を解明する。伊勢湾は、本州中央部に位置する閉鎖性内湾で、広大な集水域を有する木曽三川を中心に陸起源性有機物が負荷される一方、富栄養化による高い基礎生産による海起源性有機物の負荷も大きい。このような伊勢湾を南下すれば、そこには世界の海洋環境のなかで、最も貧栄養海域である黒潮海域が存在している。本研究が対象とする海域は、上記研究目的達成には理想的モデル海域と言える。9月23日〜25日、三重大学所属勢水丸の航海において、伊勢湾奥から伊勢湾口外部大王崎にいたる測線で、一般海洋観測を行い、淡水-海水混合状態や生物現存量、等を把握すると同時に懸濁態及び溶存態有機物試料を連続的に採集した。得られた試料については、炭水化物、アミノ酸・タンパク質及び蛍光・吸光物質等の全量分析を行った。
著者
堺 正太朗
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

土星内部磁気圏におけるダスト-プラズマ相互作用について, 過去の観測結果に基づきイオン速度が共回転速度から遅れる原因が調べられ. イオン速度はダスト密度が大きい, あるいはダスト層の厚さが厚い時に減少することが明らかとなった. また磁気圏イオン速度は電離圏電気伝導度にも強く依存することが明らかとなった. そこで本研究では電離圏電気伝導度を求めるために電離圏プラズマ密度, 速度, 温度を数値計算によって求めた. プラズマ密度は高度1200km付近で最大値10^<10>m^<-3>となった. 速度は高度10000km以下でプロトンのような軽いイオンは上向きの速度, 重いイオンは下向きの速度を持った. 特に上向き高速流イオンは土星系において初めて提案した結果である. これは遠心力及び分極電場による加速と重力によるバランスによるものと考えられる. 温度は従来の結果から極端に高くなった. 高度2000㎞付近で2000K, 高度10000kmで20000Kとなった. 低高度ではジュール加熱が, 高高度では磁気圏からの熱流が温度上昇に寄与していることが明らかとなった. 電離圏電気伝導度はローカルタイム依存性を示した. 昼間, 伝導度は最大となり明け方に最小となる. これは磁気圏イオン速度のローカルタイム依存性を示唆している. 以上の結果から, 土星内部磁気圏は強く電離圏と結合していることが分かった. これらの成果はまもなく論文投稿予定である.カッシーニ・ラングミュアプローブのデータ解析を行い, エンセラダスプリュームのプラズマ特性を調べた. 土星内部磁気圏ではプリュームが重要なパラメターである. 電子密度とイオン密度の比はエンセラダスに近い領域で0.01, 離れると0.4となった. これはプリューム内に大量の荷電ダストが存在していることに一致している. これらの結果も論文投稿準備中である.
著者
丸山 空大
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

平成26年度は、課題「フランツ・ローゼンツヴァイクの後期思想に関する研究」の最終年度として、平成25年度までの研究の成果をふまえつつ、ローゼンツヴァイクの教育論と律法についての見方に特に着目しながら研究を進めた。まず、初期から晩年にかけてのローゼンツヴァイクの教育論の変遷を追った。このことを通して、ローゼンツヴァイクが宗教教育によって一人ひとりのユダヤ人がユダヤ人としての自覚を獲得するというプロセスを重視していたことが明らかになった。このことを彼は「ユダヤ人になるJudewerden」ことと呼んでいる。彼は、初期から晩年まで一貫して、近代の(ドイツ・)ユダヤ人は家庭において自然にユダヤ人としての生活習慣や心構えを獲得するということができなくなっているから、あらためて「ユダヤ人にな」らなければいけないと考えていたのだ。このように初期思想と後期思想の連続性が明らかになったことで、後期ローゼンツヴァイクの、初期思想に対する自己批判の要点がはっきりとした。この「ユダヤ人になる」というプロセスは、初期思想の一つの到達点である『救済の星』においては、観念的に、読書と思考を通した世界観の変容として理解されていた。これに対し、後期では祈りや宗教儀礼への参加という実践的な要素が重視されるようになるのだ。しかし、このような儀礼の重視は、伝統的な正統派への退行を意味するのではないのだろうか。このような疑問を解明するために、ローゼンツヴァイクの思想を同時代の正統派の論客イザーク・ブロイアーと比較した。後期ローゼンツヴァイクとブロイアーは、律法の実践を重視することにおいて共通していた。しかし、前者においてはユダヤ人としての意識の獲得が律法の実践に先立つのに対して、後者においては逆に律法の実践を通してユダヤ人としての意識が涵養されると考えられていることがわかった。
著者
孫 雲龍
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013

本研究の目的はレーザー脱離・超音速ジェット法を用いて神経伝達物質とそのレセプターの分子認識機構を分子レベルで解明することである。本年度はアドレナリンの部分構造であるカテコールとレセプターの結合サイトであるSIVSF-NH2の錯合体をレーザー脱離・超音速ジェット法を用いて測定した。最初、それぞれの分子の粉末を混合し、これにレーザー脱離法を適用したが、錯合体は観測されなかった。そこで、それぞれの分子を水に溶かして混合した後、50℃で一昼夜乾燥して得た粉末に対してレーザー脱離法を適用したところ、錯合体の観測に成功した。これにより、錯合体の共鳴多光子イオン化(REMPI)スペクトルの測定に成功した。REMPIスペクトルには37590cm-1に強いシャープなバンドが観測され、錯合体はほぼ単一のコンフォメーションをとっていると考えられる。構造情報を得るためIRスペクトルを測定したところ、3509及び3442cm-1にシャープなバンドが、3300cm-1付近にブロードなバンドが観測された。カテコールの水素結合していないOH伸縮振動(3673cm-1)が観測されないことから、錯合体ではカテコールOH基が水素結合を形成していることが示唆される。さらに、SIVSF-NH2単体で観測されるSerのπ型水素結合したOH伸縮振動(3588cm-1)が観測されないことから、錯合体ではこのπ型水素結合が消滅し、新たにカテコールOH基と水素結合が形成されていることが分かった。
著者
松岡 寛子
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、昨年度の成果である、仏教論理学派の展開期を代表する中観派の思想家、シャーンタラクシタ(8C)著『摂真実論』・カマラシーラ(同)著『注釈』、唯識説が説かれる「外界対象の検討」章のサンスクリット語校訂テクストと訳注からなる基礎研究に基づき、その思想研究の成果の公表、及び実地調査を以下のとおり実施した。1.同章第83-86偈を検討して、シャーンタラクシタの仏智観が中観派の立場に立つとする従来の説を批判し、ブッダの自己認識を説く唯識説に立脚したものであることを明らかにした。[学会:"On the Buddha's..."]2.同章第114偈に提示される認識論的な側面から唯識性を証明する論証、及び第25-34偈に説かれる存在論的な側面から唯識性を証明する論証を各々取り上げ、解釈上の問題点を挙げて考察した。[雑誌:「シャーンタラクシタの唯識論証…」,「『タットヴァ・サングラハ』における<離一多性>論証」,学会:「シャーンタラクシタによる<唯識性>の第二…」]3.同章第118偶に示される認識の無二性が『観所縁論』に見られる認識の二相性と相反しないことを明らかにした。[学会発表:「シャーンタラクシタの唯識二諦論…」,雑誌論文"On the Alambanapariksa..."]4.極微論批判が展開される「外界対象の検討」章前半部34偈を検討してその梗概を示し、二種の議論が存在論的、認識論的な各側面からなされ、二種の唯識文献に遡及されることを明らかにした。[学会発表:"Two ways..."]5.ジャイサルメールに二ヶ月間滞在し、ジャイナ教僧団の協力下、ジャイナ教寺院併設書庫(グランタバンダーラ)に所蔵される『摂真実論』の現存する唯一貝葉写本をカラー撮影することに成功した。その写真を用いて『摂真実論』のサンスクリット校訂テクストを補完した。
著者
田代 尚路
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度においては、前年度の研究の成果を発展させつつ、物語詩的抒情詩の分析研究を進めた。前年度に引き続きアルフレッド・テニスンの詩を主たる研究対象とし、ロバート・ブラウニング及びエリザベス・ブラウニングの詩も適宜参照したが、その他にもウォルト・ホイットマンとジョン・キーツの作品群にも焦点を当てることで、物語詩的抒情詩を歴史的な座標軸において捉えるべく努めた。具体的には、まずはテニスンの物語詩的抒情詩について、「待つ」ことを扱った詩であるという結論を導き出した。テニスンの詩においては、誰かの到来を待つ人物が描かれていることが多いが、待つという状況設定が物語的枠組の中で提示され、またその待つ人物の焦燥感に満ちた心理が抒情的に語られることで物語詩的抒情詩が成立をしている点を論証した。「待つ」という様態に注目をすることで、一見何の関係性もないように見えるテニスンの初期詩三篇の類似性と連続性を指摘した点がこの議論の最大の成果である。次いで、テニスンの抒情性について明確に把握するために、ホイットマンとの比較研究を行った。ホイットマンによるテニスン論を参照しつつ、テニスンの抒情性には空疎さが見られる点を明らかにした。空疎さとはこの場合、ある感情を詩の中で指し示す場合に、その感情の理由や根拠を不明瞭にしていることを指す。テニスンの物語詩的抒情詩において描かれている感情は、詩人本人のものなのかそれとも語り手のものなのか不分明であることが多いが、そのような境界の曖昧さを支えるものとして空疎さが見られるのだと考えられる。そしてその上で物語詩的抒情詩の系譜を再確認し、テニスンが持っていた問題意識の萌芽はキーツのLamiaにおいて見られる点を指摘した。
著者
福世 真樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

感染の疫学はこれまで、もっぱら流行の観測とその数理モデル化によって進められており、実験的解析は一部の例外を除いてあまり行われていない。研究代表者は去年度までの研究で、自殺型感染防御仮説の検証を、ホストを大腸菌、病原体をλファージとする大規模(10^8個体)集団感染実験系と巨大な(10^4xlO^4)二重二次元格子を用いたシミュレーションの双方から行い、病原体は弱毒の方向に進化し、ホストは病原体に強毒を強いる方向に進化するという、病原体とホストの新たなせめぎ合いを見出した。しかし、感染実験では病原体耐性ホストの出現、空間構造ありでの継代培養方法が確立していない等の問題点が発見された。そこで今年度は、この大規模集団感染実験とシミュレーションを連結したアプローチを、感染の集団生物学の様々な問題へ応用するため、これらの問題点を解決することによる集団感染実験系の改良を行った。具体的には病原体耐性ホストの出現を、"ホストに病原体が感染するためのレセプターをコードしている1amB遺伝子を過剰に発現する"、"病原体のホストへの感染に必要なMgの濃度を調整する"といった手法で、空間構造ありでの継代培養方法は、"ベルベットスタンプによるプレートレプリカ方を用いる"、"通常よりも高い寒天濃度の寒天培地を用いる"といった手法で、それぞれ解決した。また、自殺型感染防御戦略と、その対抗戦略である免疫獲得戦略の進化について数理解析を行ったところ、自殺型感染防御戦略は哺乳類のような増殖コストの高い生物よりも、微生物のような増殖コストの低い生物で、より定着しやすいことが判明した。この病原体の毒性の進化に関する新たな説は、病原体とホストの関係を理解する上での新しい視点を提供する。また、この大規模集団感染実験とシミュレーションを連結したアプローチは、動植物をホストとするウイルスや細菌への応用が期待される。
著者
松本 和也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1、主要研究対象である「女の決闘」・「走れメロス」・『新ハムレット』の3作品については、それぞれテクスト分析及び西欧文芸・思潮との交錯の検討を進めた。「女の決闘」については、テクスト分析と併せて、オイレンベルグ作/森鴎外訳「女の決闘」がどのように読み替え・書き換えられたのかを、語りのパフォーマンスという観点から捉え直し、近代文学史を背景とした「描写(論)」の分析を進めた。「走れメロス」に関しては、昭和15年前後のシラー受容やドイツ文学の位置づけを、当時のドイツ文学の研究・批評言説からすくい上げ、日本での受容を分析し、典拠の歴史的な含意を明らかにした。『ハムレット』を典拠とする『新ハムレット』については、昭和10年代のシェイクスピア・『ハムレット』受容の動向を、当時刊行された研究書・翻訳に加え、英文学会誌や文芸誌(外国文学研究への論及)まで調査し、分析を進めた。2、昭和10年代の文学ジャンル編成に関する研究としては、文壇で前景化された火野葦平『麦と兵隊』を中心とした報告文学の隆盛と、富沢有為男『東洋』を中心とした「素材派・芸術派論争」を対象に、同時代資料を手掛かりに分析した。3、太宰治(総体)に関しては、戦後のトピックを2つ検討した。1つは、戦後、どのような要因・過程から、太宰治が他作家と〈無頼派〉として括られていったのかを分析し、研究会で報告した。もう1つは、『人間失格』をとりあげ、その書き出し部の精読から、新たな作品読解の観点を提出した。
著者
中野 さやか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当研究では、ナディームと呼ばれる宮廷文人達を取り上げ、彼らの宮廷内部の活動を分析することで、アッバース朝宮廷の当時の在り方を明らかにすることを目的としている。今年度は、ナディーム達が活躍する場となった宮廷の酒宴を巡って、当時の法学者や文筆家達がそれぞれの立場を表明した写本類を、シリア・アラブ共和国のザーヒリーエ図書館にて調査した。ナディームとはもともと「飲み仲間」を意味するアラビア語であり、君主の酒宴に侍った詩人や歌手、道化などを指した。しかしアッバース朝宮廷で酒宴が慣例化すると、有力官僚などのカリフの側近達も酒宴に侍るようになり、「ナディーム」とはカリフの公私に亘る側近を意味するようになった。しかし飲酒はイスラームでは明確に禁止されている宗教的タブーである。その為、法学者や著名な文筆家達は、飲酒の合法化理論を宮廷に提出し、一方で禁酒の勧めを執筆した御用学者も存在した。これらの議論が提出された9世紀は、市井ではハンバル派の影響力増大により、飲酒を忌避する傾向が強まる一方で、宮廷では酒宴が慣例化し密室化していった時期である。宮廷の酒宴を巡る一連の議論は、当時の社会と宮廷との関わりを表す史料であり、平成23年度中に雑誌論文として投稿する予定である。また昨年度から続けてきたナディーム研究について、国内外の学会にて発表した。