著者
森山 葉子 豊川 智之 小林 廉毅 井上 和男 須山 靖男 杉本 七七子 三好 裕司
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.22, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
3 4

単身赴任者と家族同居者における生活習慣,ストレス状況および健診結果の比較―MYヘルスアップ研究から―:森山葉子ほか.東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学―目的:全国に支社を持つある金融保険系企業の男性従業員を対象に,生活習慣,ストレス状況および健診結果について,有配偶単身赴任者と有配偶同居者との比較を行うこととした.対象と方法:2004年の定期健康診断を受診しており,かつ同年に実施した質問票による調査に回答した男性のうち,有配偶であり40代および50代の事務職である3,026名を調査対象とした.質問票の配偶者はいるかとの問いに,「はい」と答えた者を同居群,「はい(単身赴任中)」と答えた者を単身赴任群とした.生活習慣については運動,飲酒,喫煙習慣など12項目を,ストレス状況については,質問票内の職業性ストレス簡易調査票の下位尺度から,活気の低下,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感,身体愁訴の6項目について喫煙者と非喫煙者を層化してχ2検定で分析した.健診結果についてはBMI,収縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,GOT,GPT,γ-GTP,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,赤血球,白血球を用いて,単身赴任との関連を年齢と喫煙を共変量として回帰分析で検討した.結果:単身赴任群は同居群と比較した結果,運動・喫煙・飲酒・食生活・休日日数などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況では喫煙者においてイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健康状況を示す健診結果については,総コレステロール,中性脂肪,白血球数が高かった.結論:本研究は,有配偶単身赴任者において食生活などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況のイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健診結果において脂質関連の数値が高いことを示した.
著者
佐野 友美 吉川 徹 中嶋 義文 木戸 道子 小川 真規 槇本 宏子 松本 吉郎 相澤 好治
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.115-126, 2020-05-20 (Released:2020-05-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

目的:医療機関における産業保健活動について,現場での事例をもとに産業保健活動の傾向や実施主体別の分類を試み,現場レベルでの今後の産業保健活動を進めていくための方向性について検討した.対象と方法:日本医師会産業保健委員会が各医療機関を対象に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート調査」調査結果を活用した.自由記載欄に記載された現在取り組んでいる産業保健活動の記述内容を対象とし,複数名の専門家により各施設の産業保健活動の分類を試みた.特に,1.個別対策事例(具体的な取り組み事例・産業保健活動の主体)2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類の2点に基づき分類を行い,各特徴について検討した.結果:有効回答数1,920件のうち,581件の自由記載があり,1,044件の個別の産業保健活動が整理された.1.個別対策事例のうち,具体的な取り組み事例については,個別対策毎の分類では「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(35.7%)」,「Cメンタルヘルス対策関連(21.0%)」,「A労働安全衛生管理体制強化・見直し(19.3%)」等が上位となった.また,施設毎に実施した取り組みに着目した場合,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革関連」と「Cメンタルヘルス対策関連等」を併せて実施している施設が施設全体の13.2%に認められた.産業保健活動の主体による分類では,「a:産業保健専門職・安全衛生管理担当者(71.7%)」が最も多く,「b:現場全体(18.4%)」,「c:外部委託(2.4%)の順となった.2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類では①包括的管理(42.0%)が最も多く,②問題別管理(23.8%),③事例管理(16.5%)の順となった.考察と結論:医療機関における産業保健活動として,過重労働対策を含む労務管理・働き方改革,メンタルヘルス対策への取り組みが多く実践されていた.特に,メンタルヘルスにおける一次予防対策と過重労働における一次予防対策を併せて実施している点,外部の産業保健機関,院内の各種委員会,産業保健専門職とが連携し産業保健活動が進められている点が認められた.厳しい労働環境にある医療機関においても,当面の課題に対処しつつ,医療従事者の健康と安全に関する課題を包括的に解決できる具体的な実践が進められつつある.また,各院内委員会や外部専門家との連携によりチームとして行う産業保健活動の進展が,益々期待される.
著者
菊地 由紀子 石井 範子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.271-279, 2016-11-20 (Released:2016-12-03)
参考文献数
22
被引用文献数
4 3

目的:本研究は,訪問看護師の夜間のオンコール業務による負担感および睡眠への影響を明らかにすることを目的とした.方法:訪問看護師614人に対して質問紙調査を行い,対象の概要,夜間オンコールの担当状況,オンコール担当による精神的負担感,身体的負担感,睡眠の状況を調査した.オンコール担当日と非担当日の睡眠の状況を比較し,また,オンコール担当による負担感や睡眠の状況に影響する要因を検討するために,『精神的負担あり』『身体的負担あり』睡眠の状況『不良』を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った.結果:有効回答であった187人を分析対象とした(有効回答率30.5%).オンコールを担当することを,81.3%が精神的に負担に感じており,69.4%が身体的に負担に感じていた.オンコール担当日は非担当日に比べ,睡眠時間は短く,中途覚醒回数が多かった.また睡眠の深さ,良眠感,すっきり感,睡眠満足感,入眠困難感の得点が悪化していた.オンコール担当による負担感や睡眠の状況に影響する要因を検討した結果,1ヶ月のコールを受けた回数が3回以上で,『精神的負担あり』および『身体的負担あり』の年齢調整後のオッズ比がそれぞれ2.51(95%信頼区間:1.05-6.00),2.44(95%信頼区間:1.20-5.00)で,有意に高かった.結論:1ヶ月のコールを受けた回数が3回以上で精神的負担および身体的負担を感じる者が多いことが明らかになった.オンコール担当日は非担当日に比べて睡眠の状況が悪いことがわかった.オンコール担当に対する手当,および休息や休日を適切に設ける必要があることが示唆された.
著者
河野 啓子 武澤 千尋 後藤 由紀
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2023-018-A, (Released:2023-08-03)

目的:わが国において今まで行われてきた「産業看護に関する研究」の推移を概観し,今後どのような研究の強化が求められるのか,その方向性を見出すことを目的とした.対象と方法:医中誌Webを用い,キーワードを「産業看護」and「研究」とし,1903年以降に発行されたすべての文献を対象とした.全760件の中から,商業誌を除外した483件とハンドサーチにより追加した3件を加えた486件について,その種類及び年代別の発行数を集計した.研究内容の分類は,原著・総説論文に該当する194件について行い,実践方法と実践能力の側面から分類した.結果と考察:486件の文献全体を種類別に見ると,会議録230件(47.3%)であり,全体の5割近くを占めていた.原著・総説論文は194件(39.9%)であり,ほぼ4割を占めていた.原著・総説論文のうち,実践方法の側面からの分類では,総括管理107件(55.2%),健康管理86件(44.3%),作業環境管理1件(0.5%)であり,作業管理,労働衛生教育はともに0件であった.実践能力の側面からの分類では,知識125件(64.4%),技術23件(11.9%),コンピテンシー46件(23.7%)であった.年次推移をみると,論文数ではいずれの種類の論文も年代区分が進むにつれて増えていた.また,全486件中,会議録が最も多く,1992年までは8割を超えていたが,次第にその割合は減少し,直近では5割を下回っていた.一方,原著論文は当初2割を下回っていたが,年代区分が進むとともにその割合が増加し,直近では4割を超え,数も会議録を上回り,よい経過をたどっていると考える.論文の内容についてみると,実践方法に関する論文では,作業環境管理,作業管理,労働衛生教育に関する研究がほとんどみられなかった.また,実践能力に関する論文では,知識に関する研究が最も多く,技術ならびにコンピテンシーに関するものもある程度なされてはいるものの,産業看護職にとって重要と考えられるにもかかわらず,まだ手がつけられていない領域があることが浮き彫りにされたと考える.結論:わが国の産業看護に関する論文については,1980年に初めて会議録が発表されて以来,論文数は着実に増えていることが明らかになった.論文の内容について,実践方法の側面からの分類では,総括管理が最も多く,そのうち産業看護管理が8割近くを占めていたことから,研究を通して産業看護の発展を目指した努力がうかがえた.一方で,作業環境管理に関する研究は,ごく少なく,作業管理,労働衛生教育に関する研究は0件であったことから,今後,これらに関する研究の必要性が示唆された.実践能力の側面からの分類では,知識に関するものが全体の6割を超え,産業看護職としての成果を上げるために必要なコンピテンシーに関する研究は2割強であった.また,コンピテンシーの内訳についても数の少ない領域があり,これについても今後の強化の必要性が示唆された.
著者
櫻谷 あすか 津野 香奈美 井上 彰臣 大塚 泰正 江口 尚 渡辺 和広 荒川 裕貴 川上 憲人 小林 由佳
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-015-E, (Released:2023-07-15)

目的:近年,質の高い産業保健活動を展開するために,産業保健専門職がリーダーシップを発揮することが求められている.本研究では,産業保健専門職が権限によらないリーダーシップを発揮するために必要な準備状態を測定するチェックリスト(The University of Tokyo Occupational Mental Health [TOMH] Leadership Checklist: TLC)を開発し,TLCの信頼性・妥当性を統計的に検証することを目的とした.対象と方法:文献レビューおよび産業保健専門職を対象としたインタビューに基づき,6因子54項目(自己理解10項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行3項目,人間関係構築10項目)から構成される尺度のドラフト版を作成した.次に,産業保健専門職(人事労務,安全衛生,健康管理のいずれかの部門に所属する者)300名を対象に,webによる横断調査を実施し,信頼性・妥当性を検証した.結果:主因子法・プロマックス回転を用いた探索的因子分析を実施した結果,5因子51項目が得られた(自己理解8項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行12項目).次に,確認的因子分析を行った結果,適合度指標はCFI = 0.877,SRMR = 0.050,およびRMSEA = 0.072となった.また,TLCの5つの下位尺度のCronbach’α 係数は,0.93~0.96となった.TLCの合計および下位尺度はいずれも,ワーク・エンゲイジメント,職務満足度,および自己効力感との間に有意な正の相関が認められた(p < .05).一方,心理的ストレス反応との間に有意な負の相関が認められた(p < .05).加えて,「権限によらないリーダーシップを発揮したことはあるか」という質問に対して「はい」と回答した群は,「いいえ」と回答した群に比べて,TLCの合計得点および下位尺度得点が有意に高かった(p < .001).考察と結論:本研究で産業保健専門職向けに新たに開発したTLCは一定の内的一貫性,構造的妥当性,構成概念妥当性(収束的妥当性および既知集団妥当性)を有することが示唆された.
著者
石丸 知宏 倉岡 宏幸 清水 少一 原 邦夫
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.74-81, 2023-03-20 (Released:2023-03-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2

目的:監理団体による技能実習生の健康と安全への支援の現状と課題を明らかにする.さらに,実習先の産業保健職との連携の有無に分けての評価を通して,課題解決に向けた産業保健職との連携の有用性を検証した.対象と方法:2021年10月に国内の監理団体3,262機関に対して郵送での質問紙調査を行った.技能実習生および実習先企業との窓口業務に従事している者に回答を依頼した.監理団体による技能実習生の健康と安全への支援(22項目)の実施頻度と難易度を尋ね,産業保健職との連携と各支援の難易度との関連性を多重ロジスティック回帰分析で評価した.結果:932件が解析対象となった(有効回答率 28.6%).受け入れ技能実習生の出身国はベトナムが最も多く(76.6%),受け入れ人数は10–49人が最も多かった(30.3%).この1年間に実習先の産業保健職との連携の経験があった団体は17.0%であった.「健康診断の実施にあたっての説明,通訳」,「交通安全の教育の実施,通訳」,「医療機関への付き添い,通訳」は実施頻度が多く,80%以上の団体がその対応が簡単であると回答した一方で,「精神の不調に関する相談対応」,「結婚,妊娠,出産における相談対応」,「セクハラ,パワハラへの相談対応」が簡単であると回答した割合は30–40%であった.産業保健職との連携の経験があった監理団体では,「交通安全の教育の実施,通訳」(p値 = .049)に有意差を認め,「安全衛生教育の実施,通訳」(p値 = .072)の実施が簡単であると回答する割合が高くなる傾向を認めた.考察と結論:監理団体は技能実習生のメンタルヘルス不調,結婚・妊娠・出産,ハラスメントへの相談対応に最も課題を抱えていた.産業保健職との連携の経験があった監理団体は,交通安全や安全衛生の教育をより簡単だと感じる傾向にあった.そのため,監理団体と産業保健職との連携促進に,教育機会や教育を計画する安全衛生の担当者の存在が重要だと考えられた.
著者
二瓶 映美 安齋 由貴子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.173-185, 2022-07-20 (Released:2022-07-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:30歳代および40歳代(以下,成人中期とする)の喫煙率は約37%であり他の年代に比べて高く,そのうち,約4人に1人は「たばこをやめたい」という意志を持っている.産業保健職はこのような禁煙希望者をはじめとする喫煙者の禁煙支援にあたり,まずは禁煙外来への受診を勧めるが,受診につながらないケースも少なくない.一方で,自力で禁煙に成功した者が多いという報告もある.しかし,喫煙はニコチン依存であり,禁煙希望者が自力で継続していくのは容易ではない.また,直ちに禁煙の意志がない者など喫煙者の禁煙希望は多様であり,産業保健職は喫煙者の禁煙支援にあたり,禁煙への取組み状況を的確に捉え,それに応じた支援を行っていく必要がある.これには禁煙成功者が禁煙に取り組んできた体験が参考になると考えた.そこで,本研究では成人中期男性労働者が禁煙成功に至った体験の特徴を明らかにし,その特徴を捉えた禁煙支援の在り方について検討することを目的とした.対象と方法:成人中期男性労働者で,1日あたり平均5本以上の喫煙歴があり,禁煙外来の治療を受けずに現在6か月以上禁煙している者とした.14名の協力を得て,半構造化面接を30–60分程度行った.面接は,喫煙開始時から禁煙を試みたきっかけ,禁煙方法や取り組む中での心境や状況の変化,過去の失敗経験,現在の思いについて,インタビューガイドを用いて実施した.面接内容の逐語録を作成し,質的帰納的に分析を行い,ラベル,サブカテゴリ,カテゴリ,コアカテゴリを抽出した.結果:成人中期男性労働者が禁煙成功に至った体験の特徴を表す概念として,683のラベルおよび117のサブカテゴリ,32のカテゴリが抽出され,最終的に9つのコアカテゴリが抽出された.以下,コアカテゴリを【 】,カテゴリを≪ ≫で示す.まず,研究協力者は【禁煙の挑戦に対する躊躇】を抱いていたが,喫煙者を取り巻く社会の変化等により【喫煙者であり続けることへの懐疑】を抱き,【困難な挑戦を始める覚悟】をしていた.禁煙開始後は,【たばこからの離脱に伴う苦痛】の中でも【自分に合う禁煙方法の試行錯誤】や【気力を盾にした喫煙欲求との戦い】により,【禁煙成功が実現できそうな予感】を感じ始めていた.さらに禁煙の継続により,【禁煙成功者としての生き方の確立】を獲得する一方で,【禁煙後に遭遇した戸惑い】を感じていた.また,≪喫煙でマイナスイメージを持たれるのを回避する≫,≪他者に対する自分のプライドを守る≫,≪周りから認められたことに喜びを感じる≫と,他者との関係性を示すカテゴリが抽出され,周囲からの評価を意識していることが明らかになった.考察と結論:本研究の結果から,【喫煙者であり続けることへの懐疑】は,禁煙挑戦への転換点として捉えられた.禁煙支援にあたり,まずは喫煙者が【喫煙者であり続けることへの懐疑】の思いにつながるアプローチを行うことが重要であると示唆される.禁煙後は,【禁煙後に遭遇した戸惑い】を軽減し【禁煙成功者としての生き方の確立】をし続けられるように,継続的なフォローアップが必要であると考えられる.さらに,本研究では周囲の評価を気にする意識が禁煙に対する行動変容につながることが示され,「公的自意識」に対するアプローチは新たな知見となる可能性が示唆された.
著者
小川 真規 和田 耕治 小森 友貴 太田 由紀
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.32-41, 2022-01-20 (Released:2022-01-25)
参考文献数
12

目的:病院機能評価に認定された関東地方の医療機関における産業保健活動を把握することである.方法:470医療機関に質問票を郵送した.質問項目は,病院規模,産業保健体制,感染症対策,メンタルヘルス対策,働き方改革への取り組み,産業保健上の優先課題である.結果:140医療機関から回答を得た.職場巡視の毎月実施率は6割弱であった.入職時の肝炎検査,4種抗体検査は65%程度の実施率だが,インフルエンザワクチンはすべての医療機関で行われていた.多くの医療機関で産業医にメンタルヘルスに関する相談ができる体制があった.働き方改革は,カンファレンスの時間の工夫,タスクシフト・シェアに取り組んでいた.今後の課題は,血液媒介感染症予防,呼吸器感染対策,医療従事者の健康管理を多くの医療機関が挙げていた.結論:医療機関の産業保健活動は,法定項目及び感染症関連の項目は実施率が高かった.働き方改革は,カンファレンスの時間工夫,タスクシフト・シェアの取り組みが上位を占めていた.
著者
藤野 善久 高橋 直樹 横川 智子 茅嶋 康太郎 立石 清一郎 安部 治彦 大久保 靖司 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.267-275, 2012-12-20 (Released:2012-12-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

目的:産業医が実施する就業措置について,適用範囲,内容,判断基準など共通の認識が存在しているとは言えない.本研究では,現在実施されている就業措置の実態から,就業措置の文脈の類型化を試みた.方法:就業措置の文脈を発見するために,インタビューとフォーカスグループディスカッション(FGD)を実施した.インタビューは開業コンサルタントの医師6名に行った.またFGDは計6回,19名の医師が参加した.インタビューおよびFGDのスクリプトをコード化し,就業措置の類型化の原案作成を行った.つづいて,これら類型化の外的妥当性を検証するために,産業医にアンケートを実施し,就業措置事例を収集し,提示した類型への適合性を検証した.結果:インタビューおよびFGDのスクリプト分析から4つの類型が示唆された(類型1:就業が疾病経過に影響を与える場合の配慮,類型2:事故・公衆災害リスクの予防,類型3:健康管理(保健指導・受診勧奨),類型4:企業・職場への注意喚起・コミュニケーション).また,産業医アンケートで収集した48の措置事例はすべて提示した4つの類型のいずれかに分類可能であった.また,この4類型に該当しない事例はなかった.収集した事例から,類型5:適性判断を加え,本研究では最終的に,産業医が実施する就業措置として5類型を提示した.考察:現在,産業医が実施する就業措置は,複数の文脈で実施されていることが明らかとなった.ここで提示した5類型では,医師,労働者,企業が担うリスクの責任や判断の主体が異なる.このように就業措置の文脈を明示的に確認することは,関係者間での合意形成を促すと考えられる.
著者
金森 悟 甲斐 裕子 川又 華代 楠本 真理 高宮 朋子 大谷 由美子 小田切 優子 福島 教照 井上 茂
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.297-305, 2015 (Released:2015-12-18)
参考文献数
13
被引用文献数
4 4

目的:全国の企業を対象に,事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連について,企業の規模や健康づくりの方針も考慮した上で明らかにすることを目的とした.方法:東京証券取引所の上場企業のうち,従業員数50名以上の3,266社を対象とした.郵送法による質問紙調査を行い,回答者には担当する事業場についての回答を求めた.目的変数を種類別健康づくり活動(栄養,運動,睡眠,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科)の実施,説明変数を産業看護職の有無,調整変数を業種,企業の従業員数,健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無としたロジスティック回帰分析を行った.結果:対象のうち415社から回収した(回収率12.7%).産業看護職がいる事業場は172社(41.4%)であった.健康づくり活動の実施は,メンタルヘルス295社(71.1%),禁煙133社(32.0%),運動99社(23.9%),栄養75社(18.1%),歯科49社(11.8%),睡眠39社(9.4%),飲酒26社(6.3%)の順で多かった.産業看護職がいない事業場を基準とした場合,産業看護職がいる事業場における健康づくり活動実施のオッズ比は,メンタルヘルス2.43(95%信頼区間: 1.32–4.48),禁煙3.70(2.14–6.38),運動4.98(2.65–9.35),栄養8.34(3.86–18.03),歯科4.25(1.87–9.62),飲酒8.96(2.24–35.92)で,睡眠を除きいずれも有意であった.従業員数が499名以下と500名以上の事業場で層化し,同様の解析を行った結果,いずれの事業場においても,禁煙,運動,栄養に関する健康づくり活動実施のオッズ比は有意に高かった.しかし,メンタルヘルスと歯科については,499名以下の事業場のみ実施のオッズ比が有意に高かった.結論:全国の上場企業の事業場において,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも,産業看護職がいる事業場はいない事業場と比較して栄養,運動,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の健康づくり活動を実施していた.健康づくり活動の実施には,事業場の産業看護職の存在が関連していることが示唆された.
著者
中野 治美 井上 栄
出版者
Japan Society for Occupational Health
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, 2010
被引用文献数
4 3

<b>東京圏在住サラリーマンの通勤時身体運動量:中野治美ほか.大妻女子大学家政学部公衆衛生研究室―目的:</b>東京圏在住サラリーマンの中強度以上身体活動の量を測定し,電車通勤者とクルマ通勤者とで比較する. <b>対象と方法:</b>歩数および身体活動の測定には,身体活動強度METs(=安静時の何倍かを表す単位)を1分ごとに記録する身体活動量計(オムロンHJA-350 IT)を使った.データをパソコンに移して,通勤時間帯および全日の運動量「エクササイズEx」(=METs(≥3)×時間)を計算した. <b>結果:</b>電車通勤男性群(74人)は,朝夕の通勤にそれぞれ70±30,103±43分を使い,朝+夕通勤時のExは3.4±1.7で,これは全日のEx 5.3±2.4の64%を占めた.この全日Exは,クルマ通勤男性群(78人)の全日Ex 1.8±0.8の2.9倍であった.1日の歩数は,電車通勤男性群9,305±2,651歩で,クルマ通勤男性群3,490±1,406歩の2.7倍であった. <b>考察:</b>厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」は,週23 Ex以上の身体運動を推奨している.東京圏在住の電車通勤サラリーマンの運動量は大きく,週日5日間では男性で平均26.5 Exとなり,電車通勤は生活習慣病予防に貢献しているように見える.<br> (産衛誌2010; 52: 133-139)<br>
著者
岩切 一幸 毛利 一平 外山 みどり 野瀬 かおり 落合 孝則 城内 博 斉藤 進
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.7-14, 2006-01-20
被引用文献数
1 4

フリーアドレス形式オフィスレイアウトでのVDT作業者の姿勢および身体的疲労感: 岩切-幸ほか.独立行政法人産業医学総合研究所-フリーアドレスとは, オフィス内の好きな机に作業者がコンピュータや資料を持って自由に座ることができる新しいオフィスレイアウトである.近年, このレイアウトの導入が増えてきていることから, 従来の固定席形式レイアウトと比較した, フリーアドレス形式レイアウトの実状と作業者の疲労状況を明らかにすることを目的としたアンケート調査を実施した.解析対象者は, システムエンジニア職でノート型コンピュータを使用している20歳から59歳までの男性VDT (Visual Display Terminals)作業者203名とした.そのうち, フリーアドレスの作業者は150名, 固定席の作業者は53名であった.フリーアドレス形式レイアウトは, 固定席形式レイアウトに比べて個人の作業スペースの改善に有効であった.フリーアドレスにおいて危惧されてきた作業者間のコミュニケーションやサポートの不備については, 作業者の不満は認められなかった.しかし, フリーアドレス形式レイアウトでは, 踵が浮いた姿勢で作業している者が多く, 椅子の高さ調節を行っていないと思われた.さらに, このレイアウトは, 首・肩および背中・腰のこり・痛みを増大させる可能性も否定できなかった.このことから, フリーアドレス形式レイアウトは, 何らかの問題を抱えている可能性があり, このレイアウトとVDT作業者の健康について更に研究が必要と考えられた.
著者
寶珠山 務
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.187-193, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
42
被引用文献数
7 11

いわゆる過労死は, 医学的な概念ではなく, 過重労働により虚血性心疾患や脳血管疾患など致死的職業性疾病が発症したと判断されて労災補償認定がなされたものを指す. 近年の文献レビューから明らかになったことは, 1) 多くの研究で過重労働は心血管系疾患の発症やリスク因子の増悪を促進することが支持されていること, 2) 過重労働により死亡リスクを直接示した研究報告は今のところなされていないこと, および3) 過重労働による健康障害は労働者の特性により変化し得ることである. いわゆる過労死の最近の認定割合は増加傾向にあり, 1988年度の3.1%から2001年度には20.7%に達したが, これは認定基準の改正と関係があると思われる. 認定基準に盛り込まれた過重労働があるか否かの判断の対象になる期間は, 1987年に示されたものには1週間であったが, 2001年に示された最新のものでは最長で6カ月まで拡張された. 社会学的な分析によれば, 日本の長時間労働は, 労働時間制度だけでなく, 労働に関する社会文化的背景と関係することが指摘されている. 2002年に厚生労働省から発表された過重労働の健康影響の予防対策は, いわゆる過労死の発生予防を目的とした初めての政策であり, 全ての労働者にひと月の残業時間が45時間を超えないように求めたもので, さらに, それが100時間を超えた労働の実態があった場合は, 当該労働者および事業場へ指導が課されることになっている. その政策は全労働者を一律に対象とするPopulation strategyであり, 特定のリスクファクターを有する労働者などを対象にしたHigh-risk strategyではない. その施策の実施にあたって, 弾力性のある活用, 例えば, 高齢労働者や高ストレス状態にある労働者に対し, 職場の生産サイクルと歩調を合わせた管理を強化すること等で, より実効性のある成果が得られるものと思われる. 特に, 産業医や産業看護職などの産業保健専門職は, いわゆる過労死問題の解決への重要な役割を果たし得ると思われ, 政策決定のエビデンスの確立を目指した調査研究への取り組みやさらなる対策への進展にも関与することが期待される.
著者
小松 優紀 甲斐 裕子 永松 俊哉 志和 忠志 須山 靖男 杉本 正子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.140-140, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
47
被引用文献数
5 10

職業性ストレスと抑うつの関係における職場のソーシャルサポートの緩衝効果の検討:小松優紀ほか.東邦大学医学部看護学科―目的:本研究は,職業性ストレスと抑うつの関連性における職場のソーシャルサポート(以下サポート)の緩衝効果について検証することを目的とした. 対象と方法:調査方法は無記名自記式質問紙を用いた横断的研究である.対象者は某精密機器製造工場に勤務する40歳以上の男性712名であった.調査項目は,年齢,職種等の属性,抑うつ,職業性ストレス(仕事の要求度・仕事のコントロール),職場のサポート(上司のサポート・同僚のサポート)等であった.職業性ストレスと職場のサポートの測定はJCQ職業性ストレス調査票(JCQ)を用いた.抑うつは抑うつ状態自己評価尺度(CES-D)を用い,得点が16点以上の者を抑うつ傾向とした.職業性ストレス,サポートについては各尺度の得点を中央値で二分し,得点の高い群を高群,低い群を低群とした.職業性ストレスおよびサポートの高低別のCES-D得点の平均値の比較をt検定にて行った.またCES-D得点を従属変数とし,対象者の属性,職業性ストレス,サポート,職業性ストレスとサポートの交互作用項を独立変数として階層的重回帰分析を行った.交互作用が有意であった場合には,年齢を共変量として共分散分析を行い,職業性ストレスの高低別にサポートの高低がCES-D得点に及ぼす効果を検討した. 結果:調査の結果,全対象者のうち抑うつ傾向者は23.2%であった.仕事の要求度の高低別のCES-D得点は,高群が低群よりも有意に高かった.仕事のコントロール,上司のサポート,同僚のサポートそれぞれにおけるCES-D得点は,各低群が高群よりも有意に高値であった.階層的重回帰分析を行った結果,仕事の要求度,仕事のコントロール,上司のサポート,同僚のサポートはそれぞれCES-D得点に対する有意な主効果が認められた.さらに仕事のコントロールと上司のサポートの要因間でCES-D得点に対する有意な交互作用が認められた.また,仕事のコントロールの低い状況でのみ,上司のサポート高群よりも低群のCES-D得点が有意に高値であった. 結論:これらのことから,上司によるサポートは仕事のコントロールの低さと関連する抑うつを緩衝する効果がある可能性が示唆された. (産衛誌2010; 52: 140-148)
著者
高桑 榮松
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.20-23, 2002
参考文献数
8

抄録 : 蒸気機関車運転室(キャブ)内労働衛生調査と事故防止対策-狩勝トンネル争議- : 高桑榮松, -昭和6〜16年の10年間における隧道内の蒸気機関車乗務員事故は36名で, うち死亡は2名であり, 50℃以上, 湿度100%という高温高湿に, 投炭時の数百度に及ぶ熱線被爆による急性熱中症であると判断された.発生源対策として, キャブの床上に25カ所位の孔をあけたパイプを10数本並列に並べて, 圧縮空気ボンベに接続し, 機関車が隧道内に進入すると同時に圧縮空気を上方に向け放出した.その結果, (1)機関室内の煤塵量は約1/10に減少, (2)CO濃度は数分の一に減少し, COヘモグロビン量が20%(CO中毒最低限)を越える者はなかった, (3)温・湿度は断熱膨張効果も作用し, キャブ内は43℃, 湿度86%と好転した.