- 著者
-
高丸 圭一
- 出版者
- 日本知能情報ファジィ学会
- 雑誌
- 知能と情報 (ISSN:13477986)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.6, pp.195-195, 2013-12-15 (Released:2017-12-14)
方言音声の研究では,日本各地の方言についてその音声的特徴の記述が行われる.重要なものの一つにアクセント体系の記述があり,古くから聞き取り調査によって研究が進められている.日本語のアクセントは単語ごとに規定される高低のパタンで,「雨」「飴」などの同音異義語の意味を弁別する機能をもつ.アクセントは地域によって異なり,例えば「雨が」は東京式アクセントでは「アメガ」,京阪式アクセントでは「アメガ」のように発音される.また,アクセントによる意味の弁別をしない無アクセントの方言もある.消滅しつつある伝統的方言を収集することは緊急の課題とされ,近年,全国規模で音声を収録して分析する調査が盛んに進められている.工学的には,標準的な日本語音声に対する研究は進んでおり,テキストを入力すると自然なピッチパタン(声の高さの変化パタン)で話す音声合成装置が開発されている.また,関西弁などの方言で話すカーナビもあり,方言は工学的に応用されている.合成音声のピッチパタンは,標準語や特定の方言の典型をモデル化したものである.自発音声ではピッチパタンに,方言ごとに異なるアクセントのほか,日本語のイントネーション(例えば,疑問か平叙か),方言イントネーション(例えば,尻上がり調),さらには表現方法の個人性などが含まれる.一つの連続量に様々な情報が重畳されるため,ピッチパタンを加工した合成音声による知覚実験により,方言を担う変化成分を特定する研究も試みられている.方言音声分析において,方言学と情報工学が連携できる可能性は大きい.統計的手法や機械学習の手法を用いて大規模な音声データに含まれる地域差を分析することができる.そこから得られる知見は,方言学の研究成果になるだけでなく,工学的な音声認識理解の研究にも役立つ.文系・理系の垣根を越えた学際的な研究連携の進展が望まれる分野である.