- 著者
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曹 偉琴
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.2, pp.39-54, 2009-02-28 (Released:2017-05-01)
本稿では,まず中国の明清時代と現代の胡同名の命名の特徴を分析し,次に,民国時代と文革期及び1990年代以降の改称の特徴を分析した.その結果,胡同名の命名は,どの時代も地物・人物・市場等の表示性の顕著な地名が優勢になり,「表示性重視型」命名法の特徴が現れていると指摘できる.そして,胡同名の改称は,(1)民国時代には,多くの俗称的な地名が表示性の乏しい嘉称・好字地名に改称されていること,(2)文革期には,坂や寺院等の表示性の高い地名が消失し,共産党の歴史や思想等を反映する地名に改称されていること,(3)1990年代以降も,異称化名称の多くが表意性の高い地名に改称されていること,が判明した.このことから,胡同名の改称には,「表意性重視型」命名法の特徴が現れていると指摘できる.また,胡同名の現況は,都市開発により,胡同とともに胡同名が消失するという問題があるが,政府も,改造された住居区や道路等に伝統的な地名を伝承して命名するなどの対策を講じ,市民も胡同名の保存・保護に取り組むようになっている.しかし,現状を見る限り,多くの胡同名が消える一方で,拝金主義的な「金」「銀」の文字の付く地名や流行を追う外来語の名称等が増え,北京住民の地域的,社会的,個人的アイデンティティを脅かしている.今後,北京の胡同名を保存し,住民のアイデンティティを守るための対策が急がれる.