著者
井上 卓
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.48-60, 2021 (Released:2022-01-11)
参考文献数
26

コーポレート・ガバナンスの原義が「株主の利益のための経営者に対する監督の仕組み」であることから考えても,株主によって構成される,株式会社の最高意思決定機関である株主総会が本来の機能を発揮しているかどうかは,コーポレート・ガバナンス上の重要問題である.本稿では,長年「形骸化」が問題視されてきた日本の上場企業の株主総会の歴史と実態を踏まえ,株主総会の「実質化」とその再生への道筋を考察する.
著者
小林 信一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.26-36, 2008-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
13

イノベーションを促進するために大学に対する研究資金を「選択と集中」の原則に基づいて配分すべきだという議論がある.本稿は「選択と集中」によるイノベーションという考え方の妥当性を,アメリカにおける科学技術政策の歴史的検討,実態分析を通じて検討するものである.分析結果は,「選択と集中」は,すべての経済主体のための研究基盤の強化を指向するイノベーション政策と相容れないことを示唆している.
著者
平本 毅 山内 裕
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.61-72, 2019-06-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
32

成員の認識を組織の分析にどう取り込むかという問いを,組織研究の主題の1つとして挙げることができる.解釈主義的アプローチに分類される組織論者達が,この問いに取り組んできた.本稿では,旧来このアプローチに分類されることの多かった社会学のエスノメソドロジーの位置付けを再考し,また透析治療場面の経験的分析を通じて,エスノメソドロジーが解釈主義とは別の仕方で,組織認識研究に貢献をもたらすことを明らかにする.
著者
淺羽 茂
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.38-44, 2019-06-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
14

研究の評価軸は,科学的価値か社会的インパクトか,小さくても厳密な貢献かラディカルな貢献か,流行りに乗るか差別化を強調するか,というように多様であり,かつトレードオフの関係にある.いずれを選択するかに正解はなく,各々の研究者に選択権が付与されている.その選択は,自分が面白いと思うかどうかでなされるべきであり,ゆえに自分の研究は面白い,面白い研究かどうか判断する目を自分は持っているという自信を持つことが大事である.
著者
舟津 昌平
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.50-66, 2023-06-20 (Released:2023-07-12)
参考文献数
46

本稿の目的は,イノベーションをめざす産学連携における大学の関与のあり方について包括的に考察することにある.本稿では,2000年における『組織科学』の産学連携特集号と比較しながら,現在の産学連携における大学の関与について検討した.文献研究および事例研究の結果として,大学組織と個人研究者とのコンフリクト,上場した大学発ベンチャーにおける大学の関与の多様性,社会性概念の出現というリサーチトピックを提示した.
著者
林 洋一郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.46-57, 2012-09-20 (Released:2013-10-01)
参考文献数
37

本論文では,「正義・公正」について哲学に基づく規範的研究と組織行動や心理学に基づく経験的研究の双方を論じた.正義に関する規範研究と経験研究の双方を展望した結果,両者の関連性があまり強くないことが明らかにされた.さらに「規範的論議-経験的論議」そして「ミクロ-マクロ」というふたつの軸を組み合わせることによって今後の研究方向について議論した.
著者
竹田 陽子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.60-72, 2022-09-20 (Released:2022-12-02)
参考文献数
46

本論文は,新事業等の企画プロジェクトの質問票調査(n=400)により,チームの創造的成果と多元的視点取得(様々なステークホルダーの立場に立って世界をイメージする視点取得の多様性)との関係を検証した.多元的視点取得は創造的成果と直接的にプラスの関係があった.チームの多様性は,チームが接触する相手の多様性を介して多元的視点取得に,接触相手の多様性は多元的視点取得を介して創造的成果に間接効果があった.
著者
佐伯 胖
出版者
The Academic Association for Organizational Science
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.38-49, 2014

「学習」をめぐって,行動主義心理学,認知心理学,認知科学,さらに状況的認知論がどのように扱ってきたかの歴史を振り返り,行動から認知,さらに社会との関連へと関心が移ってきた経緯を展望した.しかし,人が他者と共同的活動に参加するには,本当に人と人が「かかわりあう」ことが必要だが,その点が従来なおざりになっていることを指摘し,新たに「二人称的かかわり」を見直すことを提言する.
著者
簗取 萌 酒井 健
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.46-62, 2023-03-20 (Released:2023-06-02)
参考文献数
53

本稿では専門職がマネジメントを仕事の一部とする「組織化するプロフェッショナリズム」がどのように生じるのかを検討した.2つの病院における長期調査で得られた質的データを分析した結果,一方の病院で,専門職同士がほぼ無関心だった状態から,徐々に連携が拡大し,組織化するプロフェッショナリズムへと至ったプロセスが構築された.またこのプロセスでは,専門職の属人的要因よりも組織的要因が中核を為すことが確認された.
著者
牧野 成史
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.14-25, 2011-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
12

マルチレベル分析は,個人,グループ,企業,産業,地域,国など異なるレベルの現象を調査することで,個人や組織の行動やパフォーマンスを説明する多様な原因やその影響を描き出すのに利用される.シングル・レベルでのアプローチは,しばしば統計解析上の問題を生じさせ,また理論構築について誤ったインプリケーションを与えることがある.本稿では,経営学研究において,何故マルチレベル分析が伝統的なシングル・レベル分析に比べて有用であるかを説明すること,そして経営学の研究者にマルチレベル分析を経営学研究に使うことを推奨し,その価値を強調することにある.
著者
池田 浩 縄田 健悟 青島 未佳 山口 裕幸
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.49-59, 2022-09-20 (Released:2022-12-02)
参考文献数
31

本研究では,リーダーシップの新しい関係性アプローチとしてセキュアベース・リーダーシップの可能性と独自性に着目した.107チームの調査から,セキュアベース・リーダーシップは「安全」と「探索」の2機能を加えた3因子で構成され,既存のリーダーシップ理論とも独立していることが明らかになった.さらに,セキュアベース・リーダーシップは心理的安全性を醸成し,チーム成果に結実することが明らかにされた.
著者
入山 章栄 山野井 順一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.25-37, 2014-09-20 (Released:2015-02-17)
参考文献数
46
被引用文献数
2

本稿は,海外の同族企業(ファミリービジネス)の理論・実証研究の知見を紹介する.本稿では,特に同族の「所有」と「経営」の違いを重視し,代表的な3つの理論フレームワーク(エージェンシー理論,資源ベース理論,社会的情緒資産理論)のそれぞれが,「所有」と「経営」の視点にどのように適用できるかを解説する.また,日本は同族による「経営」への関与が他国よりも強い可能性を示し,そこから今後の研究への示唆を探る.
著者
清水 剛
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.4-16, 2022-09-20 (Released:2022-12-02)
参考文献数
40

本稿では,組織がどの程度存続すると予測されるかという意味での組織の寿命と組織構成員が持つ時間展望,とりわけ未来に対する時間展望との関係を検討する.本稿ではまず,この未来の時間展望と組織の寿命との関係について,組織の寿命の長さと組織への依存度によって未来の時間展望が異なりうることを示した上で,戦前から戦後にかけての企業の寿命の変化に応じて未来の時間展望がどのように変化してきたかを論じる.
著者
青木 英孝
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.18-30, 2021 (Released:2022-01-11)
参考文献数
31

トップ・マネジメント特性,経営者インセンティブ,所有構造などの企業ガバナンス要因が,粉飾決算,産地偽装,実験データ改竄,カルテルなどの意図的不祥事,およびリコール,情報漏洩,集団食中毒などの事故的不祥事に与える影響を定量的に検証した.その結果,コーポレート・ガバナンスは企業不祥事に影響すること,不祥事の種類によって有効なガバナンスが異なること,ガバナンスでは防げない不祥事もあることが判明した.
著者
佐々木 秀綱
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.41-53, 2021-09-20 (Released:2021-10-15)
参考文献数
39

本稿では経営学の研究手法としての実験を取り上げる.因果関係の検証に優れた強みを持つ実験は,他の研究手法と補完的に組み合わせたり,新たな情報通信技術を取り入れたりすることで,今なお経営学のツールキットにおける重要な一角を占めている.しかし他方で,再現可能性問題の表面化により,そのあり方について根本的な再考が求められてもいる.本稿はこれらの現状を概観したうえで,経営学における実験研究の展望を論じる.
著者
穴井 宏和
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.49-61, 2022-03-20 (Released:2022-04-20)
参考文献数
39

本研究の目的は,起業家がコミュニティのつながりを通してスタートアップを成長させることを明らかにすることである.つながりと成長の因果関係の実証には,勾配ブースティングによって計算された一般化傾向スコアで重み付けした逆確率重み付け法を用いた.本研究の成果は,起業家コミュニティ支援政策に貢献するものと考える.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.16-26, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

人間の意識は理性的な意思決定を志向するが,人間の意思決定の主役は無意識であり,無意識からのシグナルが感情となって意識に押し寄せてくる.ある種の意思決定に関して感情には理性を上回る合理性があるが,意識は無意識を適切に解釈できず,感情を非合理的とみなしてしまう.意識によって感情を否定するのでなく,感情を理解し感情と折り合いをつけることで,より生産的な意思決定が可能となる.
著者
金井 壽宏 髙橋 潔
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.4-15, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
51
被引用文献数
1

経営学における組織行動論は,心理学にベースを置き,しばしば社会学からも影響を受けてきた.心理学の影響で感情の機能が扱われ,社会学に依拠して感情にまつわる労働が注目され,ようやく経営における感情の研究が姿を現しつつある.その姿を,まず感情の定義,機能,種類,そして感情と行動との関係を踏まえ,トピックとしては,文化に規制される感情の表示規則,感情労働などに見る感情のマネジメント,経営層(マネジメント)の抱く不安などの感情,リーダーシップに伴う感情過程,カリスマの言説,ポジティブ組織行動における感情の扱いなどの論点について試論的にとりあげて,組織理論における感情研究のおおまかな地図を提示する.
著者
山野井 順一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.4-18, 2021-06-20 (Released:2021-07-15)
参考文献数
58
被引用文献数
2

本稿は経営学研究における定量的研究のレビューである.2020年に経営学総合誌のトップジャーナルに掲載された170本のうち,実世界のデータに対して定量的分析手法を用いている研究はおよそ70 パーセントであり,定量的研究は経営学研究における主流な研究方法である.分析手法は,データと分析目的に応じて多様な形態を取る.また,多くの論文において内生性への対応を行っており,経営学で内生性は当然に考慮されるべき事項といえる.
著者
藤川 佳則 阿久津 聡 小野 譲司
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.38-52, 2012-12-20 (Released:2013-10-01)
参考文献数
48
被引用文献数
6

本論文は,サービス研究における「サービス・ドミナント・ロジック」の視点から,企業と顧客が共に価値創造に加わる「価値共創」プロセスについて論考する.既存研究の「単純,リニア,事前計画的」なプロセスと,我々の定性調査の初期知見が示唆する「複雑,ダイナミック,事後創発的」なプロセスを対比し,「アフォーダンス」,「コンテクスト」,「カルチャー」をキーワードとしたダイナミックモデルの構築への試論を展開する.