著者
片岡 大治 飯原 弘二
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.12-18, 2015 (Released:2015-01-25)
参考文献数
25

穿通枝障害は重篤な神経症状を生じることが多いため, その外科解剖を理解することは脳神経外科顕微鏡手術においてきわめて重要である. 特に, 脳動脈瘤クリッピング術の際は, 穿通枝の解剖学的バリエーションと脳動脈瘤との関係について理解しておく必要がある. 前脈絡叢動脈は, 動脈瘤のドームから起始することもあり, また2~4本存在することがあるため, そのような場合には注意が必要である. レンズ核線条体動脈は通常中大脳動脈水平部 (M1部) の後壁から分岐するが, 時としてM1-2分岐部やM2から起始する. 視床下部動脈は前交通動脈の後面から起始するため, pterional approachでは確認することが困難である. 穿通枝の温存のためには, 動脈瘤周囲の穿通枝をすべて確認することが必要で, 神経内視鏡は顕微鏡の死角となる部分の観察に有用である. 穿通枝の血流を温存するようにクリップをかけ, クリッピング後はドップラー超音波流量計, ICG蛍光血管造影, 運動誘発電位などの神経生理学的モニタリングなどの術中モニタリングで穿通枝の温存を確認する. それぞれのモニタリングには偽陰性が生じ得るため, 複数のモニタリングを組み合わせて使用することが重要である.
著者
新田 雅之 小森 隆司
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.11, pp.782-791, 2017 (Released:2017-11-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

世界保健機関 (WHO) 脳腫瘍分類 (Classification of Tumors of the Central Nervous System) は1979年の初版以来, 診断技術の進歩に伴い改訂を重ね, 2016年に第4版の改訂版が出版された. 本改定では浸潤性神経膠腫および胎児性腫瘍に初めて分子分類が取り入れられ, 古典的組織分類から分子遺伝学的分類へと病理診断の概念が大きく変更された事実上の第5版といえる. これは腫瘍の定義をできるだけ厳密にして客観性を高めるという方針に基づくもので, 遺伝子解析ができない場合や診断根拠が曖昧な腫瘍はNOS (not otherwise specified) を付与した記述に留めることになった. したがって多くのNOS診断を生み出す問題点も生じている.
著者
末廣 栄一 河島 雅到 松野 彰
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.159-164, 2022 (Released:2022-03-25)
参考文献数
28

日本社会の高齢化は急速に進行しており, 抗血栓療法の重要性は増している. 虚血性疾患における抗血栓薬の有効性は知られているが, 多種類の抗血小板薬や抗凝固薬の中から何を選択するのか, 抗血小板薬2剤併用療法などオプション治療の適応, さらに投与のタイミングや期間について選択の幅が拡がっており, 抗血栓薬に関する広い知識が求められる. 抗血栓療法には出血性合併症のリスクも伴う. まずは, リスクを減らす投与方法が重要である. また, 合併症の発生時には, 抗血栓療法の中止や中和療法を含めた適切な対応で合併症状を最小限に抑制しなければならない. 本稿では, 抗血栓薬の効果と安全性についてエビデンスを中心に再整理する.
著者
篠山 隆司 田中 一寛 長嶋 宏明
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.11-19, 2022 (Released:2022-01-25)
参考文献数
34

膠芽腫はいまだ生存期間中央値が約2年と悪性脳腫瘍の中で最も予後不良の疾患である. 膠芽腫の治療は大きく分けて手術, 放射線療法, 化学療法の3つに分けられる. 手術に関しては造影部位の全摘出が推奨されるが, 機能予後を十分考慮して摘出する必要がある. また, 化学療法はテモゾロミドとベバシズマブがあるが, ベバシズマブの投与時期, 投与方法についてはまだまだ議論の余地がある. 一方, 放射線治療については高齢者では短期照射が推奨され, 現在日本国内では医師主導試験が行われている. その他, 術中光線力学療法, novo-TTF, ウイルス療法など, 新しい治療法が登場している.
著者
篠崎 淳 牛田 享宏
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.214-221, 2008-03-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
43

痛覚系は元来,侵害刺激から身を守るために重要なシステムであるが,組織が修復されているにもかかわらず痛みが持続し,患者を苦しめることがある,痛みは不快な感覚・情動を伴う主観的体験であり,固体が持つ要因による差が大きいことから,客観的評価を行うことが困難であった.近年,イメージング技術の発展により疼痛に関する脳内基盤が明らかにされつつあり,主に第一次・第二次体性感覚野,島皮質,前帯状回,前頭前野内側部が痛みの情報処理に関与していることがわかっている,さらにこれらの領域の中でも前帯状回と島皮質は痛みの情動的側面を担っているという傍証が多い.これらの領域の活動をイメージング技術でとらえることにより,慢性疼痛などの疾患に対する評価の方法として臨床応用していくことで,感覚面・情動面を統合した集学的治療が必要な痛みの治療に貢献できるものと考えられる.
著者
北川 一夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.901-908, 2008-12-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
20
被引用文献数
1

これまで原因不明とされてきた脳梗塞の中で,大動脈粥状硬化病変からの塞栓症である大動脈原性脳塞栓症,卵円孔開存などの右左シャントに起因する奇異性脳塞栓症が,経食道心エコー検査を用いて正確に診断されるようになってきた.大動脈弓部に内膜中膜厚4mm以上,または可動性プラーク,潰瘍形成を認めるプラークは塞栓源として認識されている.再発予防にはスタチン製剤と抗血小板薬または抗凝固薬の使用が推奨される.卵円孔開存は一般健常人でも約20%観察されるため,奇異性脳塞栓症の診断には右左シャントの証明だけでは十分でない.下肢深部静脈血栓症や肺塞栓症の存在を確認する必要がある.下肢静脈エコー検査は,深部静脈血栓,特にヒラメ静脈血栓症の検出に有用である.卵円孔開存を伴う脳卒中症例の再発予防には,深部静脈血栓症あるいは全身の凝固元進状態を合併していればワルファリンが,これらの合併がない場合は抗血小板薬が推奨される.
著者
大里 俊明 渡部 寿一 進藤 孝一郎 大熊 理弘 本庄 華織 杉尾 啓徳 麓 健太朗 上山 憲司 中村 博彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.820-826, 2016 (Released:2016-10-25)
参考文献数
27

STA-MCA bypass術は主幹動脈閉塞性脳血管障害の再発予防を目的として現在広く行われている. しかし歴史的にbypass術に対する否定的な研究が発表された経緯があり, 同手術の有効性を証明すべく本邦で行われたJapanese EC-IC bypass Trial (JET study) によりその優位性が証明されるに至った. その後再びbypass術が否定されたCarotid Occlusion Surgery Study (COSS) が発表され, 現在もその検証が進んでいる. 今後JETとCOSSの結果の乖離を解明すべく周術期合併症を含めた本邦でのreal world resultsを発表していくことが必要と思われる. さらに急性期bypass術, 再生医療との協力などSTA-MCA bypass術の将来の可能性も期待される.
著者
園田 順彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.9, pp.644-649, 2017 (Released:2017-09-26)
参考文献数
11

グリオーマの病理組織学診断は, あくまでもWHO2007までは形態学的診断に基づいており, 決して分子生物学的診断が最終診断に必須なものではなかった. 今回のWHO2016は形態学的診断と分子生物学的診断を合わせて統合的な診断を行うというものである. 対象疾患は今回の改訂ではdiffuse gliomaと胎児性腫瘍に限られており, まだ, いくつかの細かい問題はあるが, 100年にもわたる中枢神経系腫瘍の形態学的病理診断から, WHO2016は大きく舵を切ったといえる.
著者
平戸 政史 高橋 章夫 渡辺 克成 風間 健 好本 裕平
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.205-213, 2008-03-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
26

脳卒中後疼痛(以下,視床痛)の出現には,視床感覚核脳血管障害病変および病変周囲構造の機能再編が大きな要因であることが示唆されるが,その病態は複雑で,症例により異なるため治療は難しい.29例の視床痛患者に対する脊髄,大脳皮質運動野刺激術,脳深部(視床,内包後脚)破壊,刺激術など,種々の手術結果より外科治療法の選択について検討した.視床痛に対しては,個々の例で脳深部記録,機能画像法などの手法を用いた詳細な病態解析を行い,視床感覚核疼痛関連構造における異常活動部位,変化および皮質への影響などを把握して,病態に応じた機能異常の是正を行うことが大切である.
著者
西本 伸志 福間 良平 栁澤 琢史 貴島 晴彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.896-903, 2018 (Released:2018-12-25)
参考文献数
19

近年の機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) 技術の進展および機械学習技術の高度化に従い, 日常的な知覚・認知に関わる脳機能・脳内情報の定量的な解明が進んでいる. このような研究は, 全脳を対象とした包括的脳機能マップに基づく術前・術中の情報提供や, 侵襲脳計測・刺激技術を介した高度なブレイン・マシン・インターフェースなど, 先進的な技術の数理基盤となる可能性がある. 本稿ではこれら最近の脳情報の解明に関する現状と展望について紹介する.
著者
大槻 美佳
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.179-186, 2009-03-20

脳梁損傷は,たとえ部分の損傷でも,損傷部位によってさまざまな症状が出現する.脳梁で,機能的に重要でない部位はないといえるほどである.しかし,多くの脳梁離断症状は,日常生活に大きな影響を与えることなしに,数週間で改善する.ただし,中には患者の日常生活に多大な影響を与える症状もある.例えば,行為障害や発話に関する障害である.これらに対しては,その障害の評価と適切なアプローチが必要である.本レビューでは,脳梁損傷によって出現する症状を概説し,その脳梁内の解剖学的な関連部位の最新の知見を提供する.
著者
関 要次郎
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.5, pp.320-325, 2002-05-20

前世紀末より,人工内耳は内耳性聾の聴力回復法として大きな成果をあげている.障害された内耳(蝸牛)に代わって電気的に蝸牛神経を刺激し,コミュニケーションを可能とするもので,コンピューター技術による一種の人工臓器である.この技術を応用し,人工内耳の無効な蝸牛神経(第1次ニューロン)障害による聾に対し,聴力を回復しようとするのが,聴性脳幹インプラント(ABI)である.脳幹の蝸牛神経核で第2次ニューロンを刺激するが,基本的な装置の構造は人工内耳と同様で,刺激電極の形状のみが異なる.ABIの適応症例は,両側の蝸牛神経障害による聾,したがってその大部分が神経線維腫症第2型である.ABIはすでに世界で百数十例に実施され,人工内耳の発達とともに改良が加えられ,その聴取能を少しでも人工内耳に近づけるべく努力が続いている.このなかで現在期待されているのが,非刺激電極による神経活動のモニター法(neural response telemetry)の導入や,蝸牛神経核への深部電極の使用などである.
著者
斉藤 延人 金 太一 中冨 浩文
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.29-36, 2016 (Released:2017-01-25)
参考文献数
26

脳幹へはさまざまな手術法が工夫されており, 本稿はその総説である. 手術適応として, 海綿状血管奇形, グリオーマ, 血管芽腫などが対象疾患となる. 原則として脳幹への進入は, 病変が脳幹表面に最も近い部位で切開を加えるが, そのために 「two-point method」 などの方法が提唱されている. また, 病変の存在下での脳幹内の核や神経路を把握する必要があり, 術前画像のシミュレーションで病変により圧排された解剖構造を把握することも有用である.  手術による障害を最小限に抑えるためには, motor evoked potential (MEP), auditory brainstem response (ABR) やsomatosensory evoked potential (SEP), 心電図 (EEG), 顔面神経の電気刺激などの術中モニタリングが有用である.  代表的な中脳背側からのアプローチとして, occipital transtentorial approach (OTA) がある. 背側と比較して中脳腹側へのアプローチは難しいが, orbitozygomatic approachとtrans-lamina terminalis approachなどが使用される. 橋から延髄の背面へのアプローチには, 第四脳室経由のアプローチがあるが, 第四脳室を広く開放する方法として, trans-cerebellomedullary fissure (CMF) approachが有用で, これにはlateral approachとmedial approachがある. 橋・延髄レベルの前側方からのアプローチとしてsubtemporal approach, anterior petrosal approach, far lateral (transcondylar) approachがあり, 錐体路を避けることが重要である.
著者
國井 尚人 齊藤 延人
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.386-392, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
7

てんかんは発作だけでなく, 発作間欠期における認知機能障害や精神症状を伴う罹病期間の長い疾患であり, 生涯にわたってQOLが大きく損なわれる. 正しい診断・治療だけでなく人生のさまざまな局面に応じた適切な指導・助言を行っていくことが重要である. そのためには, てんかんの病態だけでなく, てんかんに関連する法・制度の理解が必要となる. てんかんについては, 自立支援医療, 手帳制度, 障害者支援区分認定, 障害年金, 障害者雇用制度などについて理解しておくとよい. 一方で, てんかん発作よる悲劇的な自動車事故は社会問題化している. 自動車運転に関連した法・制度は流動的であり, 運転免許制度に関する知識の更新を心がけたい.
著者
鎌田 恭輔 小川 博司 田村 有希恵 広島 覚 安栄 良悟
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.250-262, 2017 (Released:2017-04-25)
参考文献数
42

論文撤回のお知らせ 論文題目:てんかん外科手術から得られる病態生理 著  者:鎌田 恭輔、小川 博司、田村 有希恵、広島 覚、安栄 良悟 掲 載 誌:脳神経外科ジャーナル Vol.26 No.4 pp.250-262 当論文は,2017年3月24日に公開いたしましたが,著者からの申し出により撤回されました.
著者
本望 修
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.979-984, 2016 (Released:2016-12-25)
参考文献数
3
被引用文献数
1

われわれは, これまでの研究成果に基づき, 自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく, 治験薬として医師主導治験を実施し, 医薬品 (再生医療等製品) として実用化することを試みている. 脳梗塞は, 2013年2月に治験届を提出し, 医師主導治験 (第Ⅲ相) を開始している. 脊髄損傷は, 2013年10月に治験届を提出し, 医師主導治験 (第Ⅱ相) を開始している. 今後, 数年後をめどに薬事承認を受けることを目指して現在進行中である. 治験の詳細は, 本学公式ホームページ上の専用ページに掲載済みである (http://web.sapmed.ac.jp/saisei/index.php).
著者
原 寛美
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.516-526, 2012
被引用文献数
6

脳卒中後に生じる可塑性の知見に基づき,脳卒中リハビリテーションは進められる必要性がある.Critical time windowと呼ばれる発症後2〜3週以内に,効果的なリハビリテーションの介入をすることが可塑性を最大限に引き出すことになる.急性期からの運動機能回復のステージ理論が提唱されている.急性期は残存するcorticospinal excitabilityに依拠する回復であり,3ヵ月で終了する.その後3ヵ月をピークに生じているメカニズムは皮質間抑制が解除されるintracortical excitabilityであり6ヵ月まで続く.その後6ヵ月以後も続くのはtraining-induced synaptic strengtheningのメカニズムである.それぞれの時期に効果的なリハビリテーションプログラムを選択する必要性がある.治療的電気刺激,ミラーテラピー,課題志向的訓練などがプログラムの選択肢となる.経頭蓋磁気刺激と集中OT(Neuro-15)は,従来は困難であった慢性期における上肢手指麻痺改善に向けた新たなリハビリテーションの手法である.
著者
榊 寿右 森本 哲也 星田 徹 中瀬 裕之 米澤 泰司
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.11, pp.777-785, 1997-11-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
21

傍矢状洞髄膜腫は,頭蓋内に生じる髄嘆腫のうちでも比較的頻度の高いものであり,遭遇する機会も多い.したがって,その手術に関しては多くの成書に記載されているところであるが,その手術の問題点ともいうべき皮質静脈,ならびに上矢状静脈洞に対する対処,ならびにそれらが損傷された時の合併損傷について述べられたものは少ない.本文では,この腫瘍の発生部を傍矢状静脈洞部の前1/3,中1/3および後1/3に発生したものについて,症状や手術法を簡単に記述し,特に皮質静脈損傷時の合併症について症例を呈示しながら,静脈温存の重要性について述べた.皮質静脈には多くの側副血行路が存在しているので,仮に損傷されても大きな障害が発生することは比較的少ないが,この静脈内に血栓が生じ,それが広範に広がったならば重篤な合併症を呈するので,その部に浸潤した腫瘍の摘出には注意を払うことを強調する.また上矢状静脈洞については,脳血管撮影で閉塞しているようにみえても,術中に静脈洞造影をすると,なお開存しているので,安易な切除はたいへん危険である.もし,こうした静脈系がなお開存しているにもかかわらず犠牲となった時には, saphenous veinを用いた血行再建を行うべきと考える.
著者
永廣 信治 溝渕 佳史
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.957-964, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
1

スポーツ頭部外傷の問題点を可視化するために, 今日的話題をレビューした. 急性硬膜下血腫はスポーツ頭部外傷の重症型の中で最も頻度が高く, 軽症例の代表は脳振盪である. いずれも回転加速度損傷を発生機序としている. 脳振盪を繰り返すことによる重症化や慢性外傷性脳症の発生など, 脳振盪への正しい理解と対応が脳神経外科医に求められている. 重症スポーツ頭部外傷を回避するためには, 脳振盪が疑われた当日は競技復帰をさせず, 症状が消失するまでは許可しない, 復帰を許可する場合には段階的復帰プログラムを用いる, 急性硬膜下血腫など器質的病変を有するアスリートに対しては, 原則としてコンタクトスポーツへの競技復帰は許可しないことが推奨される.