著者
野中 洋一 角 真佐武 佐々木 裕亮 田中 将大 大橋 元一郎
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル
巻号頁・発行日
vol.26, no.8, pp.597-609, 2017

<p> 囊胞性聴神経鞘腫 (cystic vestibular schwannoma) は, 充実性聴神経鞘腫と比較して臨床像や腫瘍特性が異なり, そのため手術においては特有の難しさが存在するといわれている. それゆえ最大径が40mmを超えるような巨大囊胞性腫瘍の手術においては, 標準的なアプローチのみで切除することが困難な場合もある. Transmastoid approachは側頭骨錐体部を立体的に切削することで, 小脳の圧排なしに小脳橋角部へアクセスすることができる確立されたアプローチではあるものの, 解剖学的な制限のため術野としては決して広くはない. しかし側頭開頭や外側後頭下開頭などと組み合わせることで, 広範囲かつ多方向的な術野展開 (multidirectional approach) が可能となるため, 視認性や操作性の向上につながる. 本稿では巨大囊胞性聴神経鞘腫に対して用いたcombined transmastoid approachの有用性, 手術成績, 合併症などについて概説する.</p>
著者
田中 一寛 阪上 義雄 齋藤 実 朝田 雅博 寺村 一裕 佐々木 真人 甲村 英二
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.395-400, 2004-05-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
23

症例は77歳,女性で,頭痛,嘔気,めまいを主訴に当院を受診した.頭部MRIにおいて左小脳半球より小脳テントに沿って,一部境界不明瞭な腫瘍性病変が認められた.脳血管造影では,主に左副硬膜動脈より腫瘍濃染が認められた.後頭下開頭による腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は左小脳半球から発生し,クモ膜下腔を硬膜,小脳テントに沿って進展し,左錐体骨にて腫瘍と接する硬膜から細い多数の栄養血管が認められた.組織学的には悪性星状細胞腫であった.術前には髄膜腫,転移性脳腫瘍などとの鑑別診断に苦慮した1例であった.
著者
水野 正明 吉田 純
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.10, pp.700-704, 2006-10-20

バイオテクノロジー,ナノテクノロジーやコンピュータテクノロジーは,遺伝子治療をはじめとする新しい先端医療を生み出してきた.われわれはその時代の中で,2000年に純国産技術で作り上げた最初の遺伝子治療を悪性クリオーマを対象に行い,その安全性および有効性を確認した.その成果は,名古屋大学医学部附属病院内に設置された先端医療開発施設,遺伝子・再生医療センターに引き継がれた.同センターでは,2006年,そこで作られる先端医療マテリアルの品質を保証するため,ISO9001(2000)および13485(2003)を取得した.この取得は,大学関連施設ではわが国初である.この施設での活動を通して,患者に役立つ新しい先端医療開発を進めていくことになっている.本稿では,われわれが行っている悪性クリオーマに対する遺伝子治療と,それに関連したわれわれの活動を紹介し,これからの先端医療のあり方について展望した.
著者
渡邉 督 岩味 健一郎 岸田 悠吾 永谷 哲也
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.9, pp.642-651, 2020 (Released:2020-09-25)
参考文献数
12

神経内視鏡手術の利点は, 最小限の手術外傷で, 最大限の視野が得られる点である. この特徴を生かし, 良性脳腫瘍に対する内視鏡下小開頭アプローチに取り組んでいる. 画質の向上, 3D外視鏡の登場により視点の選択肢が増え, 内視鏡と外視鏡の適宜切り替えが可能となった. また, 経鼻開頭同時手術のような多視点手術にも内視鏡の利点を生かせる. 低侵襲性に加え, 広い視野角や多視点による根治性が重要である. 一方, 高齢化社会において症状を緩和する腫瘍外科治療が求められる. 栄養血管の処理, 減圧術など, 内視鏡手術の利点を生かし活用できる. 根治性, 緩和治療としての低侵襲性, いずれにおいても神経内視鏡が果たすべき役割は大きい.
著者
伊藤 圭介 花北 順哉 高橋 敏行 南 学 本多 文昭 森 正如
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.833-838, 2009-11-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

仙腸関節ブロックを施行した症例の臨床的検討を行った.【対象】2008年3〜10月に仙腸関節ブロックを施行した72例.【方法】保存的治療に抵抗性の腰痛を自覚し,理学的所見により仙腸関節由来の疼痛が疑われた症例に仙腸関節ブロックを施行した.【結果】仙腸関節ブロックは46例(63.9%)にて有効で,VAS平均改善率は52.4%であった.仙腸関節部痛は外来全腰痛患者の14.1%を占めていた.ブロック有効例の46例のうち36例(78.3%)に他の腰椎疾患を合併していた.【結語】仙腸関節部痛は日常診療で多数の患者が存在すると思われた.仙腸関節ブロックは仙腸関節由来の疼痛の診断,治療に効果があった.
著者
馬場 啓至 小野 智憲 戸田 啓介 馬場 史郎
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.177-183, 2007-03-20
被引用文献数
1

脳梁離断術は発作の二次性全般化を防止する目的で1940年Van WagenenとHerrenにより報告された.しかしながらその後,全般発作に対する有効性が確認され,過去30年多くの症例に行われた.特に脱力発作,強直発作,全般性強直間代発作に有効で,複雑部分発作についてはその効果が一定していない.手術適応を含め,手術時期,離断範囲など未解決の点も多い.切除外科とは異なり,脳梁離断術はあくまで緩和手術であるため,発作消失率は低いが,術後発作軽減が得られ,ADL改善につながる.脳梁離断術の歴史,脳梁のてんかんにおける役割,発作抑制機序について考察した.
著者
秋元 治朗
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.475-485, 2020 (Released:2020-07-25)
参考文献数
31

脳腫瘍外科医の関心は, 腫瘍本体の病理像とともにその切除断端の病理である. その意味で, 腫瘍と正常脳との境界 (brain tumor interface : BTI) の病理に精通することは, 手術戦略の策定, 摘出限界の把握, 術後補助療法の選択, 予後推定など, 臨床的な示唆に富む. 本稿では, まずBTIにおける正常脳の反応像を示し, その後, 代表的脳腫瘍のBTIの病理像を示した. 髄内腫瘍はその多寡はあるが, 腫瘍細胞の浸潤が認められる. 一方, 多くの髄外腫瘍は基本的に境界明瞭だが, 悪性髄膜腫では特異な浸潤パターンを示す. 術前画像や術中では捉えられないBTIの病理像を知ることは, maximum safe resectionの達成に多くの示唆を与えるものと思われる.
著者
足立 明彦 小林 英一 渡邉 義之 米山サーネキー 智子 早坂 典弘 鈴木 誉 岡本 美孝 佐伯 直勝
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.8, pp.597-603, 2011-08-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3 8

CBS(carotid blowout syndrome)は,頭頚部腫瘍に対する放射線治療後に,遅発性に動脈破裂をきたす致死的疾患として知られている.今回,放射線治療後36年および2年を経て大量出血で発症し,血管内治療で良好な結果が得られた2例を報告する.1例目は,瘤内塞栓をしたものの,2週間後に再出血し,母動脈を閉塞した.2例目は,虚血耐性を確認できたため,同様にtrappingにて止血を得た.大量出血で発症するCBSは緊急の止血処置を要する.将来的には膜付きステントに期待が寄せられるが,現時点では閉塞試験が不可能な際にも,救命目的に母動脈閉塞を要する場面は少なくない.その際,照射野を外してのendovascular trappingは永続的止血を得る確実な方法であり,有効と考えられた.
著者
大野 誠 成田 善孝
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.82-90, 2018 (Released:2018-02-25)
参考文献数
31

グレード2・3神経膠腫はWHO2016分類ではIDH遺伝子変異と1p/19q共欠失の有無に基づいて分類されるようになった. グレード2・3神経膠腫は緩徐であるが直線的に増大し, 悪性転化をきたす. 早期手術および手術摘出率を上げることは生存期間延長に寄与する可能性があるが, 手術のみでの腫瘍制御には限界があることも留意する必要がある. グレード2・3神経膠腫に対する放射線治療は重要な役割をもつが, 治療から長期経過後の高次脳機能障害が問題である. 近年化学療法による生存期間延長効果が示され, 現在欧米および本邦において適切な化学療法を検討する臨床試験が進行中である. 今後は, 分子遺伝学的な解析が進み治療効果を予測するバイオマーカーの同定や新規治療の開発が行われ, 治療成績が改善することが期待される.
著者
山崎 文之 西淵 いくの
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.188-197, 2020 (Released:2020-03-25)
参考文献数
39

本邦の膠芽腫の補助療法は, 放射線治療, テモゾロミド, ベバシズマブ, 交流電場腫瘍治療システムが挙げられる. 補助療法の標準治療は放射線60Gyとテモゾロミドの同時併用とそれに引き続いたテモゾロミドの維持療法で, オプションとして交流電場腫瘍治療システムが追加される. NCCNのガイドラインでは, 高齢者やKPS<60の状態が悪い患者では, 寡分割照射による放射線治療が推奨され, テモゾロミドによるDNAダメージを修復する酵素のMGMTのプロモーター領域がメチル化されている患者ではテモゾロミド単独治療も選択肢となる. ベバシズマブは脳浮腫を改善させるが生存期間延長効果はなく, 高血圧やタンパク尿, 血栓塞栓性合併症への対策と真に有効な患者の選別などが課題である. 新たな分子標的の発見と患者の層別化が期待される.
著者
本郷 一博 柿澤 幸成 後藤 哲哉 酒井 圭一
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.122-128, 2008-02-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

脳幹部病変のうち,海綿状血管腫,比較的限局した神経膠腫などは摘出術の適応となる場合がある.摘出術に際しては,術前の神経症状の改善を目指すのはもちろんであるが,新たな神経症状を生じさせない手術が必要である.そのためのキーポイントは,脳幹部の神経解剖を熟知し,脳幹病変に対してどこから進入し摘出を行うのが最適か,またその際に起こりうる神経症状がどのようなものであるかを十分に把握することである.そして,神経症状が最小限となる摘出ルートを選択することが重要である.さらに,術中の脳幹モニタリングあるいはマッピングにより,可能なかぎり機能温存を図ることも重要である.本稿では,海綿状血管腫の自験例を提示しつつ,機能温存の点から脳幹内の種々の病変部に対する最適な手術アプローチの選択について考察する.
著者
鎌田 恭輔 小川 博司 田村 有希恵 広島 覚 安栄 良悟
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.250-262, 2017

論文撤回のお知らせ<br><br>論文題目:てんかん外科手術から得られる病態生理<br>著&emsp;&emsp;者:鎌田 恭輔、小川 博司、田村 有希恵、広島 覚、安栄 良悟<br>掲&ensp;載&ensp;誌:脳神経外科ジャーナル&ensp;Vol.26&ensp;No.4&ensp;pp.250-262<br><br>当論文は,2017年3月24日に公開いたしましたが,著者からの申し出により撤回されました.
著者
山澤 恵理香 大野 誠 里見 介史 吉田 朗彦 宮北 康二 高橋 雅道 浅野目 卓 里見 奈都子 成田 善孝
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.27-32, 2019 (Released:2019-01-25)
参考文献数
12

Multinodular and vacuolating neuronal tumor of the cerebrum (MVNT) は比較的新しい疾患概念のため, 長期観察された報告は少ない. 今回われわれは再発なく5年経過した自験例と, これまでに報告された31例を対比しながら, MVNTの画像所見・治療経過をまとめた. これまでのところ年齢中央値は41歳であり, 男女差はない. 病理組織のみでなく画像上も結節を認めるものが約半数存在した. MVNTの症候性てんかんは手術により改善することが多い. これまでのところMVNTの悪性転化は報告されておらず, MVNTの予後は良好である.
著者
鈴木 倫保 末廣 栄一
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.11, pp.817-828, 2017 (Released:2017-11-25)
参考文献数
3
被引用文献数
2

脳神経外科専門医の10年間の変化を報告した. 日本脳卒中学会, 日本脳神経血管内治療学会, 日本脊髄外科学会専門医を併せて取得する者が増加した. 専門領域は, 脳腫瘍, 脳血管外科, 脊椎・脊髄, 小児, 定位・機能, 脳神経外傷は減少し, 脳血管内治療, 神経内視鏡, てんかん, リハビリテーション, 救急/神経集中治療を専門とする医師が増加した. これは1999年の脳神経外科専門医の再定義が影響している可能性がある. 過労死レベルの就労時間を訴える回答者も多く, 入会者・受験者の減少, 近年の外科系離れを考え合わせると, 従来型の診療体制維持に不安を抱く. 施設・専攻医の集約化とローテーション方法の熟慮, 研修・研究の集約化と効率化の工夫が必須だろう.
著者
石川 耕平 佐藤 憲市 伊東 民雄 尾崎 義丸 浅野目 卓 山口 陽平 石田 裕樹 石塚 智明 岡村 尚泰 渕崎 智紀 谷川 聖 田中 伸哉 中村 博彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.9, pp.688-693, 2017 (Released:2017-09-26)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

Tumefactive multiple sclerosis (MS) は広範な浮腫や巨大な病変を形成することから, 脳腫瘍と鑑別が困難な例が多い. 本症例は66歳男性で右上下肢の単純部分痙攣発作で発症した. 左前頭葉の病変は画像上悪性グリオーマが疑われ摘出術が行われたが, 病理検査で脱髄性の所見や広範な出血および壊死像, Creutzfeldt cellを認めたことからtumefactive MSの診断に至った. 診断には病理検査が決定的となるが, 画像上病変部の血流上昇を認めないことが悪性グリオーマとの鑑別点と考えられた.
著者
石合 純夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.427-434, 2016 (Released:2016-05-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2

神経心理学は, 局在性脳損傷によって起こるさまざまな症候を分析し, 病巣との関連から脳の働きを知ろうとする臨床神経心理学が基本となって発展してきた. このような症候論は, どちらかといえば亜急性期から慢性期の病態を扱っている. 一方, 脳神経外科領域の覚醒下手術中の電気刺激あるいは脳腫瘍等の切除過程で評価される症状は急性の病態をみていることになる. 症候論に加えて, 近年は機能画像研究や拡散テンソルトラクトグラフィ−等の脳画像研究の進展により, 神経心理学は, 巣症状の考え方から神経ネットワークとしての捉え方へと変化してきている. 急性に起こる症状はしばしば一過性であり, 神経ネットワークの冗長性によって, その構成部分のうち損傷されても機能脱落が慢性的とならない部位が少なくない. 脳神経外科手術においては, 術後1カ月頃の機能的予後を重視すべきであり, 覚醒下手術中の所見と臨床神経心理学の知見とのすり合わせを行うことが望まれる. 本稿では, 左半球の言語の神経ネットワークと右半球の空間性注意のネットワークに注目して, 必要十分な切除範囲を判断するのに役立つ情報を整理したい.
著者
宮崎 祐介
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.468-476, 2015 (Released:2015-07-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1 3

乳幼児揺さぶられ症候群と家庭内転倒・低位転落事故における頭部外傷発生メカニズムとその相違を解明することが虐待鑑別において重要である. そこで, 力学的手法により, これらの状況における頭部外傷発生メカニズムについて検討した. 生後4カ月の乳児のCT画像に基づき, 頭蓋内脳挙動を可視化できる頭部実体モデルを有する乳児ダミーを構築した. 本ダミーを用いて暴力的揺さぶりと家庭内転倒・低位転落事故を模した実験を実施した. その結果, 暴力的揺さぶりにおいて転倒・転落事故よりも大きな頭蓋内の脳の相対回転運動が観測された. これは伸展から屈曲方向に回転運動が転換する際に生じる頭蓋骨と大脳の顕著な逆回転挙動によると考えられた.