著者
高田 春比古 根本 英二 中村 雅典 遠藤 康男
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

先に申請者らは、歯周病に深く係わるとされるPorphyromonas gingivalis,Prevotella intermedia等の黒色色素産生菌(BPB)のリポ多糖(LPS)をマウスに静脈注射すると、通常のLPSでは報告のない全身アナフィラキシー様反応を惹起する事を見出した。さらに、この反応の背景には血小板の末梢血から肺・肝等への急激な移行と、臓器での凝集・崩壊、それに続発する急性の組織破壊が起こる事を明らかにした。これらの反応の機序解明を目指して、補体系との係わりに焦点を絞って研究した。研究にあたっては、アナフィラキシー様反応惹起能が強いKlebsiella 03(K03)のLPS(愛知医大・横地高志教授より分与を受けた)を主として供試した。その結果、1.先天的に補体因子C5を欠くDBA/2マウスやAKRマウスではアナフィラキシー様反応や血小板の崩壊が起こらない。2.C5抑制剤K-75 COOHを予め投与されたマウスやコブラ毒素を投与して補体を枯渇させたマウスでも、アナフィラキシー様反応や血小板崩壊が起こらない。3.補体活性化作用が弱いKO3変異株のLPSでは、血小板の一過性の肺・肝への移行はみられるが、やがて血液に戻り、アナフィラキシー様反応も認められない。これらの知見はLPSによって惹起される血小板-アナフィラキシー様反応には補体活性化が必須がであることを示唆している。報告者は、K03 LPSの0多糖部のマンノースホモポリマー(MHP)がレクチン経路(近年解明された第3の補体活性化経路)を介して補体を強力に活性化して、集積した血小板を崩壊させ、アナフィラキシー様反応を惹起するとの作業仮説を立てた。実際、4.Esherichia coli 0111:B4にMHP合成遺伝子を導入した変異株のLPS(横地教授より分与)では、親株のLPSに認められない強力な血小板反応とアナフィラキシー様反応惹起作用が認められた。今後、歯周局所でもBPB LPSによって、同様の機序による急性炎症が惹起されている可能性を探究する予定である。
著者
板野 理 斎藤 淳一
出版者
慶応義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

現在、胃癌に先行して、大腸癌の臨床検体を用いた研究を継続中である。大腸癌新鮮手術切除検体25例の癌部、非癌部のゲノムDNAを抽出し、RLGS法を用いて、各々のprofileを作成した。(板野、斎藤)二次元電気泳動により得られた各profile上でのスポットの変化を、癌部と非癌部間で比較したところ、いくつかの共通スポット変化をみとめた。その内訳は、非癌部のみに出現するスポットが4種、癌部のみに出現するスポットが2種であった。最も高頻度にみられたスポット変化は癌部のみに出現するスポットで、25例中19例(76%)にみとめた。そのDNA断片をゲルからクローニングするために、制限醇素Not I siteのみを描出するtrapper methodを用いた。クローニングはtrapper施行後のprofileから、目的とするスポットを直接打抜き、DNAを抽出した。DNA量の確保のため、プラスミドに押入し、大腸菌を用いて形質転換を行い、増幅させた。さらにダイデオキシ法にて、塩基配列を決定した。今回のクローニングで得られたDNA断片の塩基配列は、ヒト脂肪酸合成酵素遺伝子(FAS)と69%の相同性を認めるものであった。(板野)今後は,得られたDNA断片をprobeとし、該当する癌関連遺伝子の同定を試みる予定である。以上の手法にて、他の変化スポットも1種ずつクローニングしてゆくことで、未知の癌関連遺伝子同定が進んでゆくと考える。また、各profile間のスポット変化と臨床病理学的特徴を解析することで、特定の遺伝子変化に対応した病態が解明される可能性がある。
著者
山内 靖雄 田中 浄
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究では、強力な遺伝子転写プロモーターを植物に人為的に導入し、無作為に種々の植物ゲノム遺伝子の転写を活性化させることにより、さまざまな転写活性型突然変異体を作製し、原因となっている転写活性化された遺伝子のクローニングをするアクチベーションタギング法を用いて、環境ストレス耐性に関与する遺伝子をクローニングすることを最終目的として実験を行った。実験材料は当初はタバコとシロイヌナズナを用いて行ったが、シロイヌナズナを用いる形質転換係が芳しくなく、効率的に変異体を作製することができなかったので、当研究室で確立しているタバコを用いた形質転換系を用いて変異体植物作製を集中的に行った。本実験ではアグロバクテリウム(GV3101)とアクチベーションタギング用プラスミド(pPCVICEn4HPT)を組み合わせ、タバコ葉片に感染法によりプロモーターを導入した。プロモーター導入後のタバコカルスを抗生物質(ハイグロマイシン)を含んだ培地で選抜し、変異体植物タバコを完全体に再生した。第一世代の形質転換体タバコは種子を得るため、約6ヶ月間種子が完熟するまで栽培した。その結果、計191系統の形質転換体タバコを得ることができた。現在、得られた突然変異体タバコを播種し、塩ストレス、乾燥ストレスを負荷し、ストレスに耐性を持った個体を選抜中である。また、これらの形質転換体タバコのうちいくつかは、形態的に野生株と異なっているものがあり、今後はこのようなタバコ個体の遺伝子解析も行う予定である。
著者
岡本 新 前田 芳實
出版者
鹿児島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究では、染色体顕微切断技術をニワトリのNo.1染色体に応用することにより、染色体より採取したDNAをPCR増幅後、FISH(fluorescence in situ hybridization)法によるマッピングまでの一連の操作を検討し、さらにNo.1染色体特異的DNAのサブクローニングを行い塩基配列を決定した。顕微切断は、ガラスナイフの先端にいかに染色体断片を付着させるかが回収のポイントであった。1本の染色体より回収した断片は、タンパク質とDNAの複合体であるためにProteinnase K処理によりタンパク質を除去した。PCR増幅に関しては、2回増幅を繰り返すことにより100bpから600bpまでの範囲の増幅産物を確認できた。このことから1つの染色体断片でも十分に増幅可能であることが明らかとなった。得られたPCR産物をビオチン標識しFISHを実施したところ、増幅産物の由来するNo.1染色体上にシグナルを検出することはできたが十分な再現性は得られなかった。さらにこのDNAを挿入断片とするサブクローニングを行いシークエンス反応に供したところ、480bpの塩基配列を決定することができた。以上の研究結果をもとに家禽における今後の顕微切断法を応用したペインティングマーカーの課題について考察してみると、(1)FISH法におけるシグナルの再現性、(2)複製Rバンドを併用したハイブリポジッションの同定、(3)塩基配列にが決定されたPCR産物の利用、(4)他の大型染色体への応用、および(5)微小染色体識別マーカーの作出などがあげられる。
著者
柴山 潔 平田 博章
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究では,・従来のプロセッサから見たコンピュータ間通信性能がローカルメモリへのアクセス性能とほぼ同等になる(メモリアクセス性能と通信性能が拮抗する);・ネットワークのトポロジやその中での情報処理主体の地理的位置に広域的な通信性能が影響されない;の2つの仮定のもとに,地球規模のコンピュータネットワークに超多数個散在する情報処理主体要素(これを本研究では,「プロセッサによる処理だけではなくメモリアクセスや通信までを含めた情報処理主体」という意味で「情報体」と呼ぶ)のハードウェア/ソフトウェア・トレードオフについて考察した.具体的には,次の2つの知見を研究成果として得た.(a)プロセッサから見たメモリアクセスと他のコンピュータ/プロセッサとの通信とを論理的に等価に扱い得る情報処理主体要素(情報体)の処理モデルの構築;(b)共有メモリによる通信とメッセージ交換による通信との物理的な区別が無くなることに伴う情報体のアーキテクチャ(ハードウェア/ソフトウェア・トレードオフ)の設計;
著者
村松 郁延
出版者
福井医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

ペインティング法により100〜150μmの小孔に脂質平面膜を形成し,膜電位固定下で種々の海洋毒の作用を調べた。その結果,イワスナギンチャク毒パリトキシン,サザナミハギ毒マイトトキシン,サンゴ毒のゴニオポーラトキシンやアネモネトキシンは脂質膜に対してチャネルを形成し得なかった。しかし、海綿から得られたポリペプチドトキシンであるポリテオナミドA,B,Cの3種がチャネルを形成することを見つけた。有効濃度は1pMと低く,1MCsCl液中でのシングルチャネルの電流の大きさは+200mV負荷で約0.7pA,-200mV負荷で約2pAであった。この電位依存性はポリテオナミドA,B,Cいずれにおいても認められたが,シングルチャネル開口の持続時間はB>A>Cの順であった。3種のポリテオナミドはD体とL体のアミノ酸約40ヶが交互に結合した同一のβヘリックス構造を中央にもつことより、チャネル形成と電位依存性にこのβヘリックス構造が関係していること,しかし,チャネル開閉のゲーティングにはC末およびN末の構造の違いが微妙に影響していることが示唆された。現在,C末およびN末を化学的に修飾して,ゲーティングに対する影響を検討中である。
著者
澤田 敬司
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

日豪の演劇比較に関し、日豪演劇の違い、特に「ナショナル」なイメージが演劇にどのような形で反映されるか、を具体的に検証するため、日豪の演劇実践者に協力を仰ぎ、実験的なパフオーマンスを行った。それがオーストラリア先住民戯曲を研究代表者が日本語訳、そして日本の演出家、および俳優がリーディング上演を行うという試みだった。そこで得られた全く新しい知見は、一部国立民族学博物館の研究部会で報告したほか、日本人演出家和田喜夫、来日し当該パフォーマンスにも参加してくれたオーストラリア先住民の劇作家・演出家ウェスリー・イノックに対して行ったインタビューを材料に近く論文にまとめ、日豪いずれかの学会誌に投稿する予定でいる。資料収集・整理については、オーストラリアへの資料収集の時期は予定より遅れたが、収集された文献資料をデータベース化するためのフォーマット作りを、まず完成させた。その他、日豪比較演劇関連の研究成果としては、日本の天皇の戦争責任をあつかったオーストラリア劇作家テレーズ・ラディックをインタビューし、オーストラリアの日本観、天皇観、戦争観、国家観、現代史観などを掘り起こすと共に、日本演劇との交流の可能性についての指摘を行った論文『テレーズ・ラディック:オーストラリアから見た天皇制』が発表された。また、現代を代表するオーストラリア女性作家ジョアンナ・マレースミスの代表作『オナー』の日本語版の舞台を、日本の演劇実践者(演劇集団円)と議論しながら製作した。このテクストを用いての議論の過程で日豪演劇の相違が浮き彫りになり、その成果は実際の舞台となって表れている。また、このパフォーマンスについても、日本人の観客のリアクションも含めて、オーストラリアの演劇研究学術誌に報告の論文を投稿する計画がある。
著者
山崎 文雄
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では,地震の横揺れが到着する前に,地震発生情報を高速道路走行中のドライバーに伝達する方法について最新の技術的検討を行い,どのような方法が可能かどうか,その実現性や限界を含めて検討した.地震発生を鉄道総合技術研究所が開発したUrEDAS的な方法で即時把握し,VICS(ビ-クル・インフォメーション・アンド・コミュニケーション・システム)を利用してドライバーに知らせることを第1候補としながらも,その他の方法,たとえば沿線の電光表示板を密に設置して伝達する方法や,他の通信メディア(たとえば携帯電話やポケベル)を利用する方法などについても考慮した.その結果,現時点のVICSでは,装着率が低く,一部の車両にのみ地震発生を通報しても,都市部における事故や被害の低減にはつながらないであろうという結論になった.しかし,車両の自動運転区間などにおいての適用可能性は高く,また,東海地震の警報が発令された場合など,ラジオの受信を義務づけられるような状況においては,有望と考えられ,今後の研究を続けたいと考えている.
著者
日比野 治雄 野口 薫 桐谷 佳恵
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

従来の視覚的ストレス研究では,被験者は光過敏性てんかん(photosensitive epilepsy)患者や片頭痛患者が主であった。そこで,本研究計画では,一般の健常者における視覚的ストレス(visual stress:広義の視覚刺激による不快感全般)の問題を取り上げ,一般健常者を被験者として心理物理学的実験を行った。本研究では,各刺激による視覚的ストレスの効果は,マグニチュード推定法(method of magnitude estimation)を用いて測定した。本研究で検討を加えた主な問題は,(1)幾何学的パターンの物理特性(チェック・パターンの縦/横比,ストライプ・パターンの空間周波数,パターンの大きさなど)と視覚的ストレスの効果;(2)ストライプ・パターンの色彩が視覚的ストレスに及ぼす効果;(3)ポケモン事件の視覚的ストレスに関する認知的要因:の三点である。それぞれの結果の概要は,以下の通りである。(1)生理的指標(脳波)による光過敏性てんかん患者での結果とは異なり,健常者では細かいチェック・パターンによる視覚的ストレスの効果が大きかった。(2)ストライプ・パターンのコントラストが一定の場合には,黄色のストライプ・パターンによる視覚的ストレスの効果が最も大きかった。(3)同一の視覚刺激を観察した場合でも,その観察者の心理的・認知的要因によって視覚的ストレスの効果は変化する。
著者
吉成 直樹
出版者
法政大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

1. 四国、静岡、伊豆諸島(三宅島)などのカシュウイモとニガカシュウの分布状況、利用状況を調査した結果、カシュウイモは基本的にブナ林帯において栽培、利用されているものの、一部照葉樹林帯(高知県北川村、三宅島など)に及んでいることが明らかになった。特に高知県の北川村ではカシュウイモとニガカシュウが存在し、ともに栽培遺物であるものの、両者の違いを認識し、カシュウイモを食用として用いている状況である。2. 高知県におけるカシュウイモの消失過程を集中調査したところ、山間村落においてカシュウイモが利用されなくなったのは、戦後、コウケイ35号と呼ばれるサツマイモの品種が導入されたことが契機であることが明らかになった。それ以前のサツマイモは、収量が多くなかったとされ、依然としてカシュウイモの優位が続いていたという。また、カシュウイモは痩せた土地でも栽培でき、連作しても障害を起こさないものであった。3. イモ類の年中行事における儀礼的利用を全国的にみれば、西日本のサトイモ類に対して東日本のヤマノイモ類という構図を描くことができるが、西日本においては、標高の高い山間村落においてカシュウイモなどを中心とするヤマノイモ類を儀礼的に利用していることが明らかになった。このことは、西日本でも標高の高い地域や東日本などの比較的寒冷な地域では、恐らく初期に導入されたサトイモ類は充分に育たないため、カシュウイモやヤマノイモなどのヤマノイモ類をサトイモ類の代用品として利用したことを示すものと考えられる。
著者
山村 善洋
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

南九州火山灰土壌地帯は,元来,河川水,湧水,地下水あるいは溜池を水源とする天水依存型の農業地帯である。ところが,この地域は戦後の50年の間に,土地利用形態の変化,農地の減少や河川改修等によって水文環境が相当に変化し,河川水位や地下水位の低下,あるいはため池や湿原の減少等の水環境の変化が生起している。その結果,気温の上昇と湿度の低下,霧の発生の減少等の気象環境変化が認められている。この様に水環境の変化が進行する中で,ダム・堰・調整池,水路,パイプライン等の建設を含む農業水利事業が完了したり,進行中であったり,あるいは今後着工する地域がある。ところで,農業水利事業とは新たな水環境創生事業に他ならない。卑近な事例として高鍋防災ダムがある。築造され30年経過し,ダムの効果が発揮されていると同時に,湿原が出現し,今その保存のあり方と環境教育の一環として注目を浴びている。また,昨夏の無降水・猛暑による早魃被害が報じられた一方で,一ツ瀬地域の水利事業完了地域ではその事業効果が報じられた。この様に農業用水は単に安定した作物生産や営農上の観点から,農業・農村の活性化に貢献するばかりでなく,周辺の大気・微気象環境を良好にし,用水として使用される過程において,また,使用された結果として,地表水あるいは地中水・地下水として3次元的に地域水環境に影響を及ぼしていることが明らかになった。このように農業用水は地域水環境の保全に対して公益的機能をもっている。しかるに,農業用水も取水・利用には利水上の制限があり,水利施設の観点からの用水管理のあり方が重要な課題となっている。そのためには水利用の実態と気象条件との関連を詳細に解析し,水使用量の推定を行うことが重要な要因となる。気象変動の予測にはひまわり画像が有益な情報であり,この利活用による農業水利施設の管理が可能であることを確認できた。
著者
大津 由紀雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

統語解析理論は、脳波や脳画像などの資料を解釈するうえで、重要な役割を果たす。今年度の研究では、昨年度の研究成果にもとづき、つぎの隣接結合の原則を心理実験により検証した。[隣接結合の原則]結合は隣接した構成素同士でのものが最適である。日本語の統語解析においてこの原則が重要な役割を果たしているか否かを大津研究室に設置のタキストスコープによって調査した。被験者総数は20名で、画面上に文節ごとに提示された文字列を読み、その意味を理解したごとに反応キーを押すという課題で実験を行った。刺激材料には、隣接結合の原則にしたがう文とそうでない文が混在している。もし被験者が隣接結合の原則を使って解析を行っているのであれば、後者では、隣接結合の原則が貫徹されないことを示す間題の部分が提示された直後の反応時間が田の部分での反応時問に比べ、長くなることが予想される。実験の結果はおおむね、それを支持するものであった。今後はこの結果をもとにより多くの刺激文を作成し、それらを用いてERPや機能MRIを用いた実験を行う予定である。これらの実験では、それぞれのタイプの刺激文に対し、100以上の刺激文(トークン)が必要とされるからである。なお、大津は現在、京都大学病院において、この実験の一部を予備実験の形で実施中である。
著者
石川 誠 瀬戸 知也 石川 千佳子
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

学校と美術館が有機的に連携して鑑賞教育の成果を挙げる方策を明らかにするため,前年度に実施した全国美術館の教育普及担当者向け調査等を踏まえ,平成11年度は,次のように研究を展開し、知見を得た。1.学校教育の鑑賞教育に対する実態把握(1)「学校と美術館との連携に関する調査:学校における図面工作・美術科教科担当者向け質問紙」の実施学校における図面工作・美術科の位置や美術教育における鑑賞の扱い,学校と美術館との連携に関して質問紙法による調査を実施した。調査対象は,各都道府県の都市部および都部から抽出した小学校94校及び中学校95校。小学校30校(回収率31.9%),中学校44校(同46.3%)から回答を得た。1999年9月に実施。(2)図面工作・美術科教科担当者への面接訪問調査前掲調査と平行して,学校訪問による授業観察と面接調査を実施。鑑賞教育の実践事例収集と実態把握。2.美術館担当者向け調査の結果との照合・検討前年の「学校と美術館との連携に関する調査:美術館教育普及担当者向け質問紙」(回収率64.3%)の集計結果と照合し,類似問題に関する両者の意識や状況などについて検証した。そこから導かれた主要な課題は,(1)移動のための時間設定と費用捻出も問題,(2)教育と学芸員の相互交流の必要性とその機械の不足,(3)両者の意識改革:表現制作中心の学校と敷き居の高い美術館,(4)鑑賞の評価に関する見解の相違,である。3.地域の美術館利用を組み込んだ鑑賞授業モデルの立案と試行子どもが本物に触れる可能性を求めて,学校と美術館の相互連携から鑑賞授業モデルを試行した。調査から,すべての学校が美術観に子どもを引率するには無理があるが,教室で地域の美術館収蔵作品を取り上げることは,子どもが美術館で本物に触れる動機付けにすると着目した。いくつかの方法論の事例(宮崎県立美術館や練馬区立美術館作品の教材化など)を試みているが,小学生にも好結果が得られている。今後さらに題材開発と検証を進め,授業モデルとして一般化を図りたい。
著者
登倉 尋実 緑川 知子 登倉 尋実
出版者
奈良女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

実験1)平成8年度の実験で両大腿部加圧時に唾液消化能力への被服圧の影響が大きいことがわかったので、今回は両大腿部に10mmHg,2mmHg,30mmHgの圧力を加えて加圧量により唾液消化能力・自律神経機能がどの様な影響を受けるかを調べた。被験者の両大腿部に血圧測定用カフを巻いただけの非加圧期間30分の後、60分カフに空気を送り加圧を行った。唾液消化能力の低下がすべての加圧時に、唾液分泌速度の低下、唾液中アミラーゼ濃度の低下が20mmHg,30mmHg加圧時に見られた。唾液中カルシウム濃度の上昇が30mmHgで、コルチゾール濃度の上昇は20mmHgで顕著に見られた。光に対するボタン押し随意反応時間は20mmHg、音に対する随意反応時間は30mmHg加圧時に遅延する傾向が見られた。皮膚圧迫により心臓における副交感神経活動の有意な亢進と交感神経活動の抑制が認められ、心拍数は有意に減少した。今回の加圧量と加圧部位においては交感神経系地域性能のより、加圧が唾液腺への副交感神経活動を抑制していたことが示唆された。実験2)実験において唾液腺への副交感神経が加圧により抑制されていることが示唆されたので、今回はさらに加圧によるストレスが唾液腺に影響を与えた可能性があると考え、ストレス下での加圧を試みた。ストレスとして環境温35±0.5°C,相対湿度60±3.0%の人工気候室内で暑熱負荷を行い体温調節反応も併せて測定した。その結果加圧時には発汗量が抑制され深部体温の上昇度が有意に多くなった。唾液中コルチゾール・尿中カテコールアミン類・アンケートによる疲労感・不快感が加圧時に上昇を示した。唾液分泌量の減少が認められた。以上のことから、被服圧は加圧部位における直接的な影響からは計り知れない生理的影響を,自律神経系ストレス系を通して体中に生じていることが示唆された。
著者
井上 雅雄
出版者
立教大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

主要5大都市のホワイトカラー50名(男40、女10)に対して「仕事と余暇」に関する面接聴き取り調査とアンケート調査を実施した。その結果、次の諸点が明らかとなった。1)会社での仕事の時間配分は各人の裁量によるところが多いが、あらかじめ残業を織り込んでいるため、正規の終業時間内で仕事を終えるという時間意識が弱く、時間管理に厳密性が欠けている。その最大の理由は、仕事量に比して要員が少ないもとで、常に「仕事の区切り」のほうを「時間の区切り」よりも優先しているところにある。2)残業が多かれ少なかれ恒常化しているとはいえ、退社時間については各人が自由に設定しており、職場での集団的な拘束性はほとんどみられない。これは、かつてのごとく残業時間の長さが人事考課の対象となることがなくなり、専ら仕事の成果に移ってきたこととあいまって、職場での各人の時間管理の自立性をあらわしている。3)平日勤務の帰宅後は、男性の場合、家族との団欒やTV鑑賞など休養が圧倒的で、家事への参加度はきわめて低い。この傾向は年齢が高くなるほど顕著である。女性の場合は、そのほとんどの時間が家事に費やされ、若干の例外を除けば、その夫の家事の分担もまたきわめて少ない。他方、男性のうちごくわずかではあるが、週に1-2回演奏会に向けて楽器演奏の練習に参加するなど、自分の固有な時間をもっている場合がある。4)土、日の休日は、ショッピング、スポーツ、ドライヴ、散歩など家族で過ごす時間が多く、読書やゴルフなどの私的時間を確保している度合いも高くなる。5)多くの場合、仕事は単なる生活の資を稼ぐための手段というよりも、生きがいの核をなし、多かれ少なかれ自我の拠り所としての性格をもっている。これに対し余暇は、心身を癒し、仕事への活力の源泉という域をでず、余暇活動にアイデンティファイする事例は例外的であり、生活文化の限界が看取される。
著者
清水 裕之
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

これまで劇場建設に求められたものは、1980年代に始まる多目的ホール建設ラッシュから、その反動としての90年代には専用劇場の建設、また今日では劇場の多目的化についても見直され始めている。こうした日本の劇場建設における独特の二者択一の状況を生む背景には何があったかということを歴史的な作業を通して解明し、劇場建設に一つの見解を得ようとするものである。即ち、劇場建設における計画の「多目的」あるいは「専用」の問題についてその議論が見えてくる時代に遡ることによって、現在の劇場建設における功罪を検証しでいる。「多目的」劇場、あるいは「専用」劇場を建設を取り巻く問題の中で、現代に見られる我が国の演劇創造と劇場の乖離現象を暗示するのが、帝国劇場(1911年開場)、築地小劇場(1924年開場)、東京宝塚劇場(1933年開場)であり、それはヨーロッパの劇場空間の影響を受けて進行する。一方、ヨーロッパにおける劇場の近代化には、逆に演劇創造と劇場の協力関係が見える。特に、舞台装置家アドルフ・アッピア(1826-1928)は、舞踊家エミール・ジャック・ダルクローズ(1865-1950)と共に、ダルクローズ学校内ホール(ドイツ・ドレスデン)において、ルネッサンス以来初めてプロセニアムアーチを排除した空間を実現した。そこには、アッピアの演出理念、新しい劇場技術が反映され、ダルクローズとともにつくり出した演劇創造と劇場空間との協力関係を見ることができる。こうした協力関係が、我が国においてどのような背景で乖離の芽が作られたのかについて演劇界、建築界の言説をもとに描き出し、以下の点がなぜ達成できなかったかについて、社会における劇場の位置づけ、劇場制度、劇場技術、舞台と客席との空間構成から見直すものである。
著者
田頭 章一
出版者
上智大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

1 倒産企業への投資に関する内外の実務および研究の状況の整理(1)外国の状況文献調査および英国での現地調査により、次の知見を得た。米国では、少数の特別な投資家が倒産企業への投資によって莫大な利益を得るという一昔前の状況から、大規模の投資銀行系のファンドなどが競争しあう、より洗練された投資環境が整備されつつある。他方、ヨーロッパでは、米国系のファンドによる倒産企業への投資活動が日常的になってきてはいるが、このような投資活動への社会的な拒否反応もないではなく(とくに、独仏)、あわせて、法制の不備や専門家の育成の遅れなどもみられる。(2)わが国の状況わが国では、投資事例が重なるにつれ、わが国独自の投資スタイルが形成されてきている。その例としては、(1)わが国の倒産手続では、裁判所、管財人等手続機関の倒産手続への関与が強く、時として、その存在が、投資家側からすれば、円滑な投資を阻害する要因にもなること、(2)わが国では、企業再建プロセスで雇用関係の維持が重視されること、(3)私的整理における投資には、簿外債務の存在など、障害が多いこと、などがあげられる。2 わが国における法的問題点と法的規律の在り方(1)倒産法に関する問題点スポンサー選定過程の透明化、債権者の手続的地位の弱さ、などが問題点としてあげられる。これらの問題については、さしあたり現在進行中の会社更生法改正の論点と重なる。(2)その他の法制上の問題点投資ファンドの組織形態、租税(とくに外資系企業にとって)、アドバイサリー業務等と投資業務との間の利益相反関係などが、問題点として存在する。
著者
岡本 祥浩
出版者
中京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

1998年度に入り全国的にホームレスの数が倍増した。名古屋市においても夜回り支援グループが把握している人数が500〜600人から800〜900人と1.5倍以上に増大している。ホームレスの増大要因としてバブル経済崩壊以降のいわゆる平成大不況が考えられる。第一に通常建設日雇い労働などに就いていた日雇労働者の就労率が極端に下がっていることが指摘できる。この原因は、建設不況による件数の減少、コスト削減による低労働賃金を求めることによる外国人労働者やアルバイト労働の増加、従来の日雇い建設労働者の高齢化などが考えられる。第二に従来の寄せ場を経由していた日雇い労働者以外の労働者などのホームレス化が指摘できる。この原因は、住宅ローンをはじめ多くの債務を抱えている者が、不況によって労働賃金の上昇がみられないため債務を履行できずホームレス化する場合、雇用形態が終身雇用から派遣労働など短期間の雇用に変化しているが、そうした人々が不況期の労働力の調整に充当され、就労の場を奪われる場合が考えられる。発展途上国ではホームレス状態の人々が一般化できる数を占めている。欧米ではホームレスの多くを発展途上国からの労働者が占めている。日本のホームレスは、比較的均一な集団におけるマイノリティに位置付けられ、そのことによる差別化が行われている。しかし、前述しているようにホームレスの属性は多様であり、単一視することはできない。名古屋市のホームレスに関するヒアリング調査によって地区による属性の違いが明確である。すなわち当該地域に長く居住している者と他地域から流入した者、自炊できる者と支援団体の炊き出しでしか食事を摂れない者、ホームレス歴の長い者と短い者などである。いずれにしてもホームレスは看過できない状態であることに変わりはない。
著者
牛島 廣治
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は、治療的ワクチンを含めたワクチンを植物を利用することで開発しようというものである。ワクチンの投与法については経口、経鼻法といった簡便性、日常性をもった方法の検討も研究の目的とする。平成10年までに既に次のことが可能となった。(1)組み込む遺伝子領域とウイルス株の選定:HIVのエンベロープ(gp120)にはエピトープとなる部位が複数あり、抗原性の高い領域である。このgp120遺伝子を組み込む領域とした。マクロファージ親和性ウイルスの1つの株であるBAL株を選んだ。(2)遺伝子の増幅:プライマーの存謹下でPCRをし、目的遺伝子を増幅した。(3)ベクターへの挿入:目的遺伝子をpUC12-35S-NOSプラスミドBamHI切断部位に挿入した(35SプロモーターとNOSターミネーター間に挿入次に、EcoRI、HindIIIで切断し植物細菌アグロバクテリウムのベクターBin19のT-DNA領域に挿入した。(4)細菌への導入と植物への導入:アグロバクテリウム ツメファンテス細菌は自然界では、根頭癌腫病を引き起こし、独特の共存関係を営む。この現象は、アグロバクテリウムが植物に感染するとベクターBin19のT-DNA領域が植物のゲノムに移入されることによるものである。遺伝子を挿入したベクターBin19をアグロバクテリウムに導入した後、アグロバクテリウムを植物に感染させると、先の原理により目的遺伝子は植物のゲノムに移入された。(5)植物の分化・生育:今回は食用植物としてのレタスにHIVエンベロープ(gp120)遺伝子を導入し、カルスから分化させ形質転換植物を得た。(6)レタスの蛋白を葉から抽出し、ELISA法、ウエスタンブロット法でその発現を調べた。HIV抗体陽性血清と反応する蛋白の分画を認めた。このような粘膜免疫システムを応用したワクチン法は、HIVの感染者が増加している国内はもとより、感染が拡がり続けている開発途上国においても重要な戦略になりえるものと考える。
著者
渡辺 明子 渋谷 治男 融 道男 渡辺 明子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

要約:治療抵抗性の気分障害者に抗うつ薬に加えて甲状腺末を併用投与すると抑うつ症状が改善する事をしばしば経験する。これは両薬剤の併用が抗うつ作用を増幅した結果と考えられる。このような抗うつ作用の増幅の機序を明らかにするために、ラットにデスメチルイミブラミン(DMI)とレポチロキシンナトリウム(T_3)を併用投与したときの動物行動、脳内アミンおよびβ受容体、セロトニン(5HT)2A受容体について調べ検討した。対照群、DMI群、T3群、DMI+T3併用群の4群間で比較検討した。薬物の投与は単回(DMI 30mg/kg,T3 1mg/lkg)、反復投与(DMI 10mg/kg,T3 100μg/kg)7日間とした。DMI+T3併用群についての結果は、強制水泳テストで7日間の併用薬投与でのみ有意な無動時間の短縮(59%に減少)を認め、抗うつ作用の増幅作用を裏付けるものであった。その時の脳内アミンの変化は前頭前野皮質(PF)でノルアドレナリン(NE)の有意な増加、ドーパミン(DA)代謝回転の亢進、海馬(HIP)で5HT代謝回転の亢進を示した。反復東予によるβ受容体の変化はDMI群で従来報告されているようにPF,HIP,視床下部(HY)で有意な結合量の減少を示したが、T3群はPFで有意な増加を示し、併用薬群はいずれの部位でもその中間値を示し対照群との差を認めなかった。5HT2A受容体をは7日間の併用薬反復投与群でPFで結合量の減少を示した。この時、T3群も減少を示したが、DMI群では変化なくT3がその効果を高めたと考える。従来の抗うつ作用機序とされるβ受容体、5HT2Aの減少が言われているが、今回の結果は必ずしも一致するものではなかった。アミンおよび受容体の変化を主にPFで認めたことから抗うつ作用の責任部位の一部はPFが担っており、そこではDA,NE,5HTニューロンが相互に係わっている可能性を示唆した。