著者
前田 吉昭 森吉 仁志 伊藤 雄二 藤原 耕二
出版者
慶応義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

1997年から1998年にかけては,次の研究テーマを主題に行なった.(1) 4次元空間のYang-Mills gradient flowと3次元空間のYang-Mills-Higgs gradient flowの研究.(2) 変形量子化問題と非可環幾何学(3) 無限次元空間における無限次元リー群の作用によるオービットの幾何学的性質(1)については,4次元コンパクト多様体のYang-Mills qradient flowについて,チャーン数に近い初期データを与えることでその滑らかな解が大域的に存在することを示した.また,3次元空間のYang-Mills-Higgs qradient flowについては,その弱大域解の存在を与えられることがわかった.(2)については,特に接触多様体の変形量子化問題とそのレダクションの方法について研究を行なった.(3)についてはコンパクト多様体のリーマン計量の空間に作用する微分同型群(無限次元リー群)のオービットに対する平均曲率の定式化とその応用について研究を行なった.これらの研究は萌芽研究として申請した,非可換微分幾何学の構築において基礎となる成果をあげることができた.そして,その成果はこの2年間の間に行なわれた,国内の研究集会,国際研究集会で発表や討議を行ない,これから先に非可換微分幾何学の展開に向けて,大きな成果をあげた.さらなる成果は,近い将来に出版される予定である.
著者
大森 美津子 小野 幸子
出版者
香川医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

1.ビハーラ安芸に所属する僧侶1名、ビハーラ花の里病院に勤務している僧侶1名とこの病院でビハーラ活動を行っている「広島県北部会と三次活動の会」の会長に面接を行い、ビハーラ活動の実態について調査した。調査の内容は、ビハーラ活動のきっかけ、組織と運営、目的、対象の選定、活動の場・内容・頻度、活動の評価、今度の課題についてであった。2.179名の一般の人々を対象とした宗教的なニーズとケアに関する意識調査をした結果、(1)保健医療施設に入院または入所時に、宗教的な活動の場が必要と考えた者は3割弱であり、考えなかった者は3割弱であり、残りの約半数近くはわからないであり、(2)必要に応じて関わることのできる宗教家がいて欲しいと考える者は約3割、考えない者は約2割であり、わからない者は約半数であった。(3)宗教家に求めるケアの内容は「心のケア」「心の安らぎ」「死の受容」「専門的な教えや会話」などであった。(4)予後不良の病気に罹患した時に宗教家の関わりを希望する者は約1.5割であった。(5)信仰する宗教がある者の内、予後不良の病気に罹患した時に、宗教的活動を続けることを望む者は約6割であった。詳細については報告書で報告する。
著者
山田 正 高橋 信博
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

「漢方薬」は免疫増強作用などホスト側の体質の改善を主目的とし、結果として疾患を改善させようとするものが多い。その中でも日常的に「健胃薬」などとして用いられている漢方薬は、副作用の心配が少なく、口腔内局所投与によっても影響が少ないと思われる。そこで、本研究計画では、黄連や黄柏がもつ(1)各種歯周病関連菌の増殖に対する影響、(2)その作用様式、(3)有効成分、(4)プロテアーゼなどの菌体外酵素に対する影響などを明らかにし、これらの漢方薬の抗菌メカニズムを解明することを目的とし、以下の結果を得た。1.黄連・黄柏の水抽出物は歯周病関連菌Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Actinomyces naeslundiiの増殖を抑制した。一方、齲触関連菌であるStreptococcusとLactobacillusの増殖はあまり抑制しなかった。2.黄連・黄柏水抽出物の有効成分はベルベリンに代表されるアルカロイドであることが分かった。3.この抗菌効果の作用様式は殺菌作用であることが明らかになった。2.さらにPorphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Actinobacillus actinomycetemcomitansの菌体外プロテアーゼを阻害することが分かった。しかし、プロテアーゼ抑制に必要な黄連・黄柏水抽出物の濃度は増殖阻害に必要な濃度よりも高かった。以上の結果から、黄連・黄柏は歯周病関連菌に対して抗菌作用を示すことが明らかになった。また、プロテアーゼ活性阻害効果があるものの、抗菌効果の本質は殺菌作用であることが推察された。
著者
佐藤 一精
出版者
広島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では、究極的にはパン様食品の教材化を目指し、まず学校の授業や家庭で簡便に作れるような電子レンジ加熱を利用したパン様食品の好ましい調製法の確立と、そば粉やはったい粉などの添加により嗜好性、栄養性、物性等に優れたパン様食品調製の可能性の検討を目的として検討を行った。得られた成績は以下の通りである。1.発酵パンのロールパンに準じて調製したドウを、電子レンジ加熱により膨化させ、続いてオ-ブン加熱操作を行い焼成した。オ-ブン加熱のみのものをコントロールとして膨化率を比較検討した結果、少量の重曹とヨ-グルトの添加で、嗜好性も、フレーバーも良好なものが得られた。大学生男女各17名で行い7段階の点数で評価した官能検査においてもその重曹とヨ-グルト添加のものに最高点が与えられた。2.本研究費で購入したクリープメーター物性試験システムを使用して硬さを測定し焼成後の変化を見たところ、やはり少量の重曹とヨ-グルトを添加して調製したものが最も硬化し難いことが判明した。3.はったい粉やそば粉の添加効果については、上記の最良の条件のものに50%まで小麦粉に置き換えて添加して調べたが、まだ検討は継続中である。そば粉の場合は、添加量に比例して膨化が促進され、10%添加のものが比較的良好であった。また、はったい粉の場合は、添加割合が多いほど膨化率は減少したが、10〜25%添加割合のものは、嗜好性も、フレーバーも良好であった。以上、十分実用に供しうると思われるパン様食品の調製法を確立することができた。この教材としての応用についても展望が開けたが、実践方法等の検討は今後の課題である。
著者
熊丸 尚宏 藤原 照文
出版者
広島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

これまでのICP発光分析法でも予備検討を踏まえて、酸分解などを行わず、まず手始めに固体試料のままでPbを定量する方法を検討した。Pbの含有量既知の試料として、NIESやNISTの「環境標準物質」を取り上げ、これを紛砕して使用した。その結果、これらをサンプルキュベット反応容器に取り、徐々にこの温度を上昇させ、最終的には約850℃に保ちながら炭化と灰化を連続的に行って、有機物を完全に揮散させ、その後、急激に温度を約2500℃まで上げてPbを気化させ、そのままオンラインでICP-MS装置へ導入する手法が確立できた。固体試料の直接定量において最も煩雑で精密さを要する操作は、その試料の秤量である。数mgの試料を直接秤取するには、特殊なミクロ天秤を用いる必要がある。ここでは灰か段階までには、ほぼ完全に揮散し、かつ目的成分の気化段階には影響を与えない有効なリン酸水素アンモニアを固体希釈剤として用い、約2倍程度に試料を希釈して通常の化学天秤でも容易に秤取できる方法を開発した。本研究の最大のポイントは、固体試料を、短時間にしかも完全に分解することが出来るか否かにある。通常は、試料を硝酸-硫酸ーリン酸などを用いて分解を行うが、これらの酸はタングステン製サンプルキュベットを腐蝕させるので、使用できない。ここでは、これまでの酸分解用の試薬に代わる分解試薬を検索した結果、(CH_3)_4NOHが好結果を与えることを見い出した。この添加剤は、灰化してもなお分解・揮散することなく残存する成分による干渉を防ぎ、気化段階における目的成分化学種を同一に揃えて気化させるマトリックス修飾剤としても働くことを明らかにした。また、検出器としてICP-MSを使用することにより、^<207>Pbと^<208>Pbの同位体比の測定も可能となった。
著者
高橋 隆雄
出版者
熊本大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

平成8年度・9年度でのアンケート調査をさらに完全にするために、10年度は、熊本市とその近郊の中学校7校(1.547名)を対象にアンケート調査を実施した。また、高校生自身が持つ自己理解の虚偽性を裏づけるために別の調査も実施した。これらによって今までの解析結果がかなりの程度確証された。アンケート調査としては、さらに生命倫理に的をしぼった内容でも行なってみた。ここでも興味深い解析結果が得られた。平成10年度のアンケート調査実施対象は、2660名。3年間の研究期間では統計6.844名となり、膨大なデータと解析結果を得ることができた。これらのアンケートの特徴は、設問数が33〜41問とないこと、内容が意議の広い領域に亘ること、数量化しやすい方式も採用していること等であり、相関係数がとりやすく解析が容易なように工夫しておいた。このため種々の統計処理が可能となり、多くの成果を上げることができた。それらの成果の一部は大学の紀要に論文として掲載したり、学会において研究発表という形で公表したが、成果が相当の量にのぼるため、約100頁(A4版)の報告書を準備中であり、3月中旬に印刷される予定である。ともかく、この3年間の研究によって、倫理学の新しい方法としてアンケート調査をとらえる試みの第一段階は十分成功したと言える。
著者
松田 隆美
出版者
慶応義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

研究課題について、書物と人の交流という外面史と文学的影響という内面史の両方から研究をおこなった。1. 活版印刷術の伝播と15-16世紀におけるイタリアとイギリスでの出版事情の変化。グーテンベルク以来の活版印刷術の伝播を、個々の出版者の活動と出版対象となった書物の種類およびそのレイアウトに注目しつつ具体的にたどり、15世紀のインキュナビュラから16世紀のより小型な書物への移行の過程に関して、両国を比較した。イタリアでは全般的な書物の小型化が見られる一方で、イギリスでは、テクストのジャンルと用途をより厳密に反映するかたちで書物の形態の多様化が生じたことを指摘した。2. 中世後期から17世紀にかけてのイギリス人旅行者にとってのイタリアの魅力。中世から17世紀にかけての巡礼者へのガイドブック、人文主義者の旅行者が残した紀行文、16-17世紀の外国旅行の手引き書などを一次資料として用い、宗教改革期を経てイタリア訪問の意義が、ローマ巡礼から古代探訪へと徐々にシフトしてゆく過程を跡づけたが、シフトは完全なものではなく、長らくカトリック信仰への興味と古代への情熱が共存するかたちで、イギリス人にとってのイタリアの魅力を形成していたことが明らかとなった。3. ベトラルカの詩および散文作品のイギリス文学における受容。ベトラルカの『老年書簡』に登場する「グリセルダの話」のイギリス、フランスへの伝播を16世紀まで全てのヴァージョンに関して辿り、読者層の変化との関連で主題上のシフトを説明した。またベトラルカの「カンツォニエーレ」のイギリスへの伝播を15世紀の写本、16世紀の英訳によって跡付け、いわゆるペトラルキズムの発展をモチーフと挿絵の両面から考察した。また収集した画像資料を画像データベース化し、Web公開が可能なかたちで整理した。
著者
安河内 朗
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究は、日韓の民族服である和服と韓服(チョマチョゴリ)を両国の被験者それぞれに着衣させ、高温曝露中の生理的、心理的諸反応を比較することによって衣文化にともなう耐暑反応の違いを検討することを目的とした。被験者は、日本と韓国の健康な女子大学生各々6名で、身長、体重、体表面積、皮下脂肪厚にみられる身体的特徴はほぼ同じであった。使用した和服は浴衣、帯、下駄など、韓服はチョマ、チョゴリ、靴などで構成され、それぞれの全重量は1,232g,1,151gであった。また生地は和服が綿、韓服が絹であった。被験者は同国の2名ずつが1組となって和服か韓服のいずれかを着用し、前室26℃(RH50%)で30分安静後、35℃(RH50%)の高温環境へ立位に近い椅座位で90分間曝露された。測定項目は、直腸温、皮膚温(7点)、発汗率、心拍数、及び温冷感、快適感の主観評価であった。発汗率が和服では日韓両被験者でほぼ等しかったが、韓服においては日本人被験者の方が韓国人被験者よりも大きかった。平均皮膚温の上昇度は、和服で日本人被験者がより大きく、韓服では逆に韓国人被験者がやや大きい値を示した。直腸温の上昇度は、和服で日韓両被験者はほぼ等しく、韓服において韓国人被験者の方が小さかった。韓服では日本人被験者はより大きな発汗率を示したにもかかわらず直腸温の上昇度は大きくなることが示された。
著者
河田 政明 石野 幸三
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

従来の高頻度刺激不全心モデルに比較し、より拡張型心筋症に類似した臨床症状を有する不全心モデルの作成に、独自に開発した高頻度刺激プロトコールによって成功した。正常心犬と我々の不全心モデル犬の摘出交叉環流心標本を用いて、左室形成術(PLV)の心機能と心筋酸素消費に及ぼす効果を対比検討した。心機能に及ぼす効果:1)心収縮性-Emaxは左室形成術により有意に増加し、心収縮性の改善を認めた。2)心拡張性-拡張末期圧-容積関係は左室形成術により有意に急峻となり、心拡張性の障害を認めた。3)心弛緩能-時定数は左室形成術術後急性期には不変で、心弛緩能には影響を認めなかった。4)心ポンプ能-一回心拍出量は心収縮性と心拡張性との相反する効果のために変化は一定しなかった。以上の効果は、正常心より不全心でより著明であった。心筋酸素消費に及ぼす効果:左室形成術により左室圧容積面積-心筋酸素消費量関係において有意な左室仕事量の酸素コストの低下、すなわち心筋酸素消費削減効果を認めた。本実験の成果をまとめ,第99回日本外科学会総会「PLVの心機能に及ぼす効果:不全心と正常心との実験的比較」、第63回日本循環器病学会総会「拡張型心筋症モデルにおけるBatista手術の心拡張能並びに心ポンプ機能に及ぼす影響」、第52回日本胸部外科学会総会「左室部分切除術と心ポンプ能-正常心と不全心での効果の違い-」、第3回日本心不全学会・学術集会「EFFECT OF PARTIAL LEFT VENTRICULECTOMY ON DIASTOLIC FUNCTION IN NORMAL AND FAILING HEARTS」等の発表を行った。
著者
久保 智康
出版者
京都国立博物館
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では、16世紀から19世紀に至る各時期の建築遺構に付属している飾金具の調査を行った。調査を行った主な箇所は次の通りである。仙台/東照宮本殿、日光/東照宮・輪王寺大猷院霊廟、富士吉田/浅間神社本殿、高山/東照宮、滋賀/都久夫須麻神社・勧学院・長浜山車、伊賀上野/天神祭楼車、京都/高台寺霊屋・二条城二の丸御殿・西本願寺・北野天満宮本殿・曼殊院書院・桂離宮御殿及び御茶屋群・修学院離宮中御茶屋客殿・角屋、出雲/日御碕神社。また関連調査として、各地の中・近世遺跡出土飾金具、博物館収蔵の工芸品付属金具なども対象に加えた。調査にあたっては、やむを得ない場合を除いて金具全点を観察対象とし、技法上から見て建物の建立当初の型式を抽出した。そして各遺構の当初型式の技法と意匠性について、築造年代に沿って検討を行い、以下のような変遷を確認するに至った。16世紀後半:シンプルな形状で、単純な鍍金もしくは墨差しが基調。彫金は強いタッチで、細部にこだわらず、ダイナミックな意匠表現を行う。16世紀末〜17世紀初:意匠を凝らした大型釘隠の登場。鍍金と墨差しの組合わせが基調。金具の装飾性が急速に増してくる。17世紀前半:加飾密度の高まり。技巧の細密化と平準化。彫金のタッチは急速に弱くなる。鍍金・墨差しに加えて七宝により色彩表現が豊かになる。17世紀後半:金具形状に具体的な器物や文字など様々な意匠が表される。七宝の色種も増えて、効果的な装飾性が試みられる。ただし技巧的には後退の途を辿りだす。18世紀:揚屋の角屋など特徴的な建物では意匠の新規性は続くが、多くは形式化が進む。18世紀末〜19世紀前半:大味な技巧ながら、立体的な意匠表現が全盛を迎える。
著者
三橋 睦子
出版者
久留米大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1998年のN市における集団赤痢症例を中心に、精神健康調査および施設収容法調査により心理的問題および構成要素をコード化し、心理的援助法としての戦略を導き出した。1.集団赤痢発生の条件下での現象として、不安・緊張・不眠がみられた。条件の特性には、発生源の存在/腹痛・下痢・発熱/感染拡大・易感染/自宅待機/行動制限/収入源の途絶え/経済的負担/アンケートの協力、があり、赤痢発生から終息1〜2か月後まで持続し、周囲の人の視線により脅かしがみられた。管理戦略として、発生源の原因究明と早期管理・情報提供/行政各機関の早期協働/発生源関係者の謝罪と適切な対応/一般住民の感染に対する理解/病気・治療・感染防止に関連した情報提供/感染拡大防止への協力啓発/検便陰性・陽性に関わらない補償/生活環境の調整/アンケート調査の調整/マスコミの感染と関係者に対する理解と適切な情報提供、が必要であり、これにより、対象は集団赤痢を貴重な体験として受容し、回復の可能性が高まると考えられた。2.集団隔離・行動制限の条件下での現象として、無能力・抑うつ・社会機能障害・快感消失がみられた。条件の特性として、治療・検便/行動制限や感染に関連した説明と教育/手洗いの励行/生活の規制/持参品の制限/一般住民や周囲からの隔たり/情報源の減少/連絡手段の制限/面会の制限/排泄物の管理、があり、赤痢発生から終息1〜2か月後まで持続していた。管理戦略として、隔離に関連した情報の提供と協力の啓発/病気・治療・入院生活に関する情報提供/自由に使用できる電話の確保/同施設内一般患者への感染症の理解啓発/排泄後の後始末のディスポ手袋使用と指導/リラクゼーションの配慮/面会者への感染症の理解啓発/入浴などの規制緩和/カウンセリングなどの早期導入、が必要であり、これにより、上記同様の回復プロセスが考えられた。
著者
真島 秀行
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1)多次元虹の発生と撮影.昨年度から行っている滑らかな凹凸のあるガラスに懐中電灯の光をピンホールで絞って照射し多次元虹を発生させる実験を続けた.デジタル一眼レフを購入し,それによるバルブ撮影を行った.撮影時間は通常の一眼レフより短縮でき,画質をすぐ確認できたので連続的な変化を捉えるのに役立った.初等カタストロフ理論における,双曲型の臍,梢円型の臍,放物型の臍の特異点集合がモノクロでなく分光し虹としてかつ過剰虹を伴って発生させ撮影でき,数理科学的解析するための実験資料を得ることができた.2)過剰虹の数理解析的研究.カスプ虹などの多次元虹の発生を表す関数は,初等カタストロフのポテンシャル関数を指数関数の肩に乗せ積分したいわゆる振動積分として与えられる.この多変数関数としての漸近展開は上の実験の結果を説明するような,ある方向では指数減少,ある方向では正弦関数的に振動するものとして計算できるはずである.カスプの場合はパーシー積分であり,また,一般エアリー関数の変数を適当に制限してやることによりにより,エアリー・ハーディーの関数に還元されることが以前の研究で分かっており,それを手掛かりにして行っているがまた完全ではない.3)視覚教材を作成.自然界や人口虹スクリーン上の過剰虹,カスプ虹などの多次元虹を撮影したものと数理解析学的理論を解説した教材を印刷物および計算機上にハイパーテキストとして完成させることも一つの目標としてきたが,この研究で得られた資料等を参考に大学院生が「虹を題材とした計算機支援教材の研究」を行い,ハイパーテキストによる教材例が作成された.
著者
鎌田 直人 江崎 功二郎 矢田 豊 和田 敬四郎
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

個体群生態学的な研究により、カシノナガキクイムシはイニシアルアタックの際に、衰弱木や感受性の個体を選択的に攻撃するのではなく、無差別に攻撃していた。穿孔数やカシナガの繁殖成功度は、樹木の生死ではなく過去の穿孔の有無によって強く影響されていた。過去にカシナガの穿入を受けていない7本のミズナラを測定対象とし、樹幹北側の地際部と地上高150cmの位置で、各2点ずつの温度測定を行った。その結果、1)150cm部位と地際部の温度差(以下、温度差)は、特に6〜8月の高温時(日最高気温約25℃以上)に大きくなった。2)秋までに被害を受け葉が褐変または萎凋した個体(以下、被害個体)は、1個体を除き、カシナガ穿入前(6月上・中旬)に高温時の温度差が大きかった。3)上記例外の1個体は150cm部位と地際部の温度の平均値(以下、平均温度)については他の個体よりも高めで、最も早くカシナガの穿入を受け、枯死した。樹幹2ヶ所の温度差と平均温度によって、樹体の健全性を評価し、カシノナガキクイムシの穿孔に伴う枯死や萎凋を予測できる可能性がある。
著者
山浦 逸雄 矢嶋 征雄
出版者
信州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

研究計画最終年度は前年度に引き続き、樹木の接地インピーダンス測定法の改良を行い、4電極法による測定法を導出するに至った。これにより初めて、樹木の接地インピーダンス測定が実用化の域に達したので特許出願を行った。次に、本学附属大室農場の天蚕用クヌギ林において、研究計画初年度(平成8年度)より準備した、組織と結合が十分安定している電極を用いて、幹電位の連続測定を1998年6月より開始した。幹電位変化には1日周期の変動がみられたため、その発現原因についてまず調査した。気温との相互相関関数を計算し検討した結果、24時間周期で変化する幹電位は、電極と植物組織との界面に生じる分極電圧の温度依存性が主原因であると推測された。浅間山火山活動と電位変化の比較については、電位観測期間中浅間山には特に目立った活動はなく比較に至らなかった。一方、地震については1998年8月から9月にかけて上高地地震が発生した。上田地方で震度1以上の有感地震(最高2まで)に対し、幹電位との比較を行ったが、地震発生前後においてとくに変わった電位変動は見られなかった。ただし、地震発生時には枝の揺れによるノイズと考えられる電位変動が記録されたこともあった。1999年1月23日には上田地方で本年度最大の揺れを感じた大町の地震(震度3、M4.7)においても、何らの異常電位も見出されなかった。一方、98年7月1日には長野県北部地震(震度2、M4.7)があり、上述のノイズによるものとみられる電位変化が記録された他、約20時間前に通常の電位波形の中に大きな単相性のhumped waveがみられた。しかし,1回だけの現象でこれが何に由来したかは不明であった。樹木の大地センサとしての可能性については、以上の研究を通じ根の接地インピーダンスや幹電位測定手法が本研究によって確立されたので、これらを手がかりにさらに研究を進めることが必要とされる。
著者
手越 達也
出版者
京都府立医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

接着分子の発現(1)カドヘリン骨髄由来培養マスト細胞(BMMC)、腹腔マスト細胞(PMC)、メチルセルロースコロニー培養小腸上皮(M-IE)、腸管膜リンパ節細胞由来(M-MLN)マスト細胞をRT-PCR、FACS、免疫染色、ウエスタンブロット法で解析した結果すべてのマスト細胞においてE-カドヘリンの発現を確認した。しかしながらN-カドヘリンの発現は腹腔マスト細胞には認められなかった。また、P-カドヘリンの発現はすべてのマスト細胞において認められなかった。(2)CD103(αIEL)/β7インテグリンE-カドヘリンのリガンドの一つであるCD103(αIEL)/β7インテグリンのβ7発現はBMMC,PMC,M-IE,M-MLN由来マスト細胞すべてにおいて発現を確認した。CD103は通常のBMMCにおいて発現が認められないが、TGF-β1,PMA刺激により発現する。我々はこれらの刺激の他にIgE刺激によっても発現することを見出した。E-カドヘリンの機能(3)分化・増殖マスト細胞前駆細胞からマスト細胞に分化・増殖する過程でE-カドヘリンの関与を明らかにするため、小腸上皮単核球をメチルセルロースコロニー培養法で、形成するマスト細胞コロニーの数を解析した。E-カドヘリン抗体・ペプチドを添加した群では形成するコロニー数がコントロール抗体・ペプチド群と比較し有意に減少した。マスト細胞に分化した後の増殖にE-カドヘリンが関与しているかBMMCを用い、抗体・ペプチドをメチルセルロース培養に添加し、形成するマスト細胞コロニー数を解析した。E-カドヘリン抗体・ペプチドを添加した群はコントロール抗体・ペプチド群と比較し有意にコロニー数が減少した。(4)細胞接着E-カドヘリンを発現する上皮細胞株F-9とBMMCの細胞間接着をbinding assayで調べた結果、E-カドヘリンを介した細胞間接着を確認した。TGF-β1刺激によりCD103を発現させたBMMCではインテグリンの活性化(マンガンの添加)によりF-9細胞とBMMCの接着割合が増加した。
著者
石川 忠晴
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

まず始めに、可視化技術を用いた雨滴観測システムを製作し、雨滴径と落下速度の関係に関して、野外での実降雨観測と人工水滴を用いた室内実験を行って定式化した。また雨滴体積、落下速度と音響強度の関係に関する基礎実験を実施し、音響雨量計のデータ処理ルーチンを確定した。続いて、データ処理及びデータ保存を高速化するように部品構成を検討した後、バッテリ-駆動型の野外計測用音響雨量計を3台作製した。この装置を東工大長津田キャンパス周辺に設置して降雨観測を行ったところ、10秒間雨量の時間変動が詳細に捉えられ、雨域の移動状況を把握することが可能であることがわかった。しかし、音響収録部分の設置環境や缶面劣化により、降雨強度と音響性の関係にズレが発生することも明らかとなり、何らかの補正を加えるための装置改良の必要性が生じた。そこで、音響雨量計と転倒升式雨量計という性質の異なる計測器の出力を同時にデータ解析し、音響雨量計のパラメータをオンラインでキャリブレーションできる処理ルーチンを開発した。この新しい方式(ハイブリッド音響雨量計)を使用して野外観測を実施したところ、降雨のミクロな変動が良好に捉えられることがわかった。最後に、本測定器の誤差(微少雨滴が捕捉できないこと、複数の雨音の重合による誤差)を数値シュミュレーションにより検討した。その結果、上記のハイブリッド方式により十分な精度で観測できていることが確認された。
著者
玉井 克哉 川村 一郎
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

従来のマスメディアは、不特定多数に対する一方的な情報提供であり、かつ、運営のために莫大な資金を必要とするため、国民の意見を政府にフィードバックする点で一定の限界があったが、インターネットをはじめとするコンピュータ・ネットワークは双方向性を有するなどこれらの限界を克服する可能性を有している。また、電話など従来の通信手段に比べても様々な点で独自の優位性を持っている。このため、コンピュータ・ネットワークを政治的な活動に利用することは集団の意思形成に要する取引費用を削減し、国民の政治参加への道が大きく拓かれることが期待される。さらに、国民の政治的な意思決定の手段である選挙にもコンピュータ・ネットワークを活用した電子投票システムの導入が考えられる。電子投票システムは、(1)投票所を設けて投票及び開票手続を電子化する方式と、(2)投票所を設けずにネットワークの上で投票を行う方式とに大きく分けられる。(2)ネットワーク上で行う方式には、投票者及び開票者以外の第三者が投票者の本人確認を行うとともに投票の秘密を担保する方式と、当該第三者が本人確認を行い、投票者自身が投票の秘密を担保する方式が考えられる。これらの電子投票システムを実現するためには、投票の秘密を確保することと、選挙が公正に行われたことを担保することが重要な課題である。近年、欧米諸国のみならず日本においても、国や地方の重要な政策の決定に際し国民投票や住民投票を行うケースが増えている。電子投票システムの実現は投票や開票に要する経費や時間を大幅に削減することが期待できるため、国民投票や住民投票を行うことを極めて容易にするものである。しかしながら、このような直接投票の結果は世論操作の影響を受けやすいなどの問題点がかねてから指摘されており、電子投票の場合その傾向がさらに加速されるおそれがあると考えられる。
著者
森 厚 丸山 健人
出版者
東京学芸大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は教材開発も含めて行う予定であったが、教材開発そのものの成果は十分とは言えない。しかし、予備実験として以下のような様々な成果を得ることができた。1. 自動観測装置の作成人の手による観測は様々な困難を伴うので自動観測装置を開発した。PCとデジタルカメラを組み合わせた装置で、現在も自動的に5分おきに観測し、データの蓄積に多いに役立っている。以下の結果はこの装置で得られたデータによるものである。2. 空の明るさについての基礎的な研究(1) 理論との比較仰角が大きいところの空の明るさについて簡単化された理論モデルを用いて検討した。冬の良く晴れた日の観測結果とある程度の一致が確認されたので、空の明るさについての角度依存性がはっきりし、同時に、明るさの日変化・季節変化についても情報が得られた。これらはエアロゾルで大気が汚染される前の状態を反映していると考えられ、観測結果の背景場の特定の重要な鍵となる。また、エアロゾルによるミー散乱の量が多ければそれが明るくなるはずであるが、その点に関して次の(2)〜(4)のような傾向が見られた。(2) 空の明るさの時刻による違い冬の晴れた日では、午前中に比べて午後の方が空が明るいようである。前回の報告では逆のケースを報告したが、こちらのケースが多いようである。(3) 空の明るさの曜日による違い観測結果は、休日の方が空が暗い傾向がある。(4) 空の明るさの季節による違い(1)で述べた理論モデルを基準に考えると、夏は冬に比べて空の明るい傾向がある。3.空の青さについての基礎的な研究空の青さについて、昨年度検討したことを新たなデータを使って再確認した。以上、1.〜3.を踏まえ、早急に教材として確立したいと考えている。
著者
片木 篤
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

平成13年度においては、近代ヨーロッパで成立した1)郊外と郊外住宅 2)山岳リゾートとサナトリウムを取り上げ、それらを「衛生」概念から分析した。産業革命を先導したイギリスでは、工業都市への人口集中とそれに伴う労働者の住環境劣化が「都市問題」化され、E.チャドウィックによる公衆衛生法の制定(1848年)以降、公衆衛生法と建築法により、住棟の前面道路幅員や「囲い地」、住戸の窓面積や天井高等が規制された。これらの規制項目を抽出することで、当時の「衛生」概念では、採光(=「太陽」)と通風(=「空気」)のサーキュレーションが重視されていたことが明らかとなった。また中流階級の郊外住宅では、そこに屋外活動として農業のシミュラークルとしての園芸(=「緑」)が加わり、そのことが郊外住宅地のパンフレットで宣伝されたり、更に啓蒙的企業家による工業モデル・ヴィレッジでも公共菜園が設けられたりした。E.ハワードの「田園都市」論(1898年)では、「太陽の輝き」「新鮮な空気」「樹木と牧草地と森」という利点をもつ農業-村落と工業-都市とをそれぞれ独立した1対として、両者の均衡が図られており、「田園都市」でも「衛生」概念が下敷きにされていたことが明らかとなった。「太陽」「空気」「緑」は、「労働」からの心身の再生(recreation)、すなわち「余暇」の場であるリゾート地の必須要素となったが、海浜リゾートに労働者階級が押し寄せ大衆化されたこと、「オゾン」や「森林浴」といった新鮮な「空気」の摂取が喧伝されたことなどが相俟って、山岳にリゾートやサナトリウムが建設されるようになった。興味深いことに、J.ダイカー設計のサナトリウム(1919年-)やA.アアルト設計のサナトリウム(1928年-)では、桟橋や甲板といった海浜リゾートの差異的要素が持ち込まれていることが読み取れた。
著者
山浦 逸雄 矢島 征雄
出版者
信州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

ヒマワリとケナフを10数本以上育成し,その中から比較的生長の早い数本を選び一週間毎に測定を行った.4月に種を播き,発芽生長後,茎の太さが測定可能になった7〜8頃より測定を開始し,ほとんど枯れた11月まで測定を行った.この間の気象は,アメダス他の観測によったが,平年に比べ特に異常ということはなく,植物の生長は順調だったといえる.根の接地抵抗は植物の生長とともに変化するが,大地の水分量によっても変化する.この影響を除去するため,昨年度には根の接地抵抗を地表に接する円板電極の半径に置きなおす等価半径の概念を導入た.今年度は,新たに測定電流と電圧の位相差に着目して,根の抵抗を複素インピーダンスに拡張して,その変化を詳細に調べることとした.測定実験から植物の根の電気的等価回路は抵抗と容量の並列回路で評価でき,それら相互の量的変化が生長過程を知る上で重要であることがわかった.この変化を表現するために昨年度導入した等価半径を複素数化して,今年度は複素等価半径を新たに定義した.この実数部は等価回路の純抵抗によって支配され,虚数部は等価回路の容量によって支配される.純抵抗の大小は根の全体的な大きさや組織の抵抗に依存する.植物組織において細胞壁や膜の機能が低下したり,壊れると抵抗は低くなる.容量は根と土の接触界面における状況や組織細胞の壁や膜の活性度によって変化する.活性が落ちると容量は低下する.以上の考えのもとに実測した複素等価半径のベクトル軌跡をX-Y平面に描き,生長とともにどのように変化するかを調べた.その結果,ヒマワリ,ケナフとも開花するまでの生長期には,実数部虚数部ともに増加がみられ,それ以後は虚数部の減少が顕著であり,枯れて行く過程で組織が不活性化する様子がよくわかった.植物の生長とともに複素等価半径のベクトル軌跡は概ね時計方向の半円を描くことがわかったことは大きな成果である.