著者
針原 伸二 清水 宏次
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

前年度は,主に現代人の歯を用いて,歯からDNAが抽出できるのか,また抽出したDNAからどのような遺伝子の解析が可能なのかについて,技術的に検討した.今年度は実際に江戸時代人骨の歯の試料を用いて,DNAの抽出と解析を試みた.青森県八戸市新井田遺跡から発掘された人骨から,異なる個体のものと判断できる36本の歯の試料を得た.前年度に,現代人の試料で試みた方法と同様に,それぞれの歯根部を切断して,破砕し,EDTA溶液中にてしばらく脱灰した後,プロテイナーゼ処理して,フェノール法にてDNAを抽出した.土中にて長時間を経た試料からの抽出であることもあり,DNAを定量分析したり,電気泳動での確認は不可能であったが,ミトコンドリアDNA(mtDNA)のPCR増幅は,36個体中30個体で可能であった.増幅したのは,mtDNAの中で長さの変異のみられる,領域V(non coding region V)を含む120塩基の部分である.2回の増幅により,予想される長さの断片を得ることが確認された.長さの変異は,9塩基対の欠失として報告されているが,今回増幅が認められた30個体中,3個体で増幅された断片が短く,欠失の変異があると考えられた.性別判定は,Y染色体特異的反復配列の部分をPCRで2回増幅し,断片の有無を確認した.36個体中,断片が検出されたのは10個体であった.X染色体中に1箇所しかない配列の増幅による,X染色体の検出は未だに成功していない.細胞中,多くのコピー数のあるmtDNAや,反復回数の多いY染色体特異的配列ではPCR増幅が可能であったが,ゲノム中に1箇所しかないDNA部分の増幅については,さらに技術的な改良が必要と思われる.
著者
大串 健吾
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

ストループ効果とは、色と文字の意味が一致していないカラーワードに対して、被験者に色の反応を求めたとき、色と文字の認知の間に干渉が生じ、反応時間が増大するという視覚心理学の分野における効果である。この研究の目的は、「色」と「文字の意味」に対して、絶対音感保有者の認知する歌声の「音高(音名)」と「意味(単語)」を対応させ、聴覚の分野においても視覚におけるストループ効果と同様の効果が生じるかどうかを調べることである。音声刺激としては歌手に1オクターブ内のハ長調のド音からシ音までの音高をもつ7音をそれぞれ、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、という単語(発音)で発声してもらったものを用いた。被験者は絶対音感を保有している音楽専攻学生である。実験方法としては、被験者は音声刺激を聴取し、できるだけ速く音刺激の音高を口頭で答えた(音高反応)。音声刺激の始めから口頭反応の始めまでの反応時間(RT)を測定した。次に、音名にかかわらず、発声した単語をそのまま答えさせる実験(単語反応)も行った。実験結果のうち、音高反応に関しては、すべての被験者について、音声刺激の音名と発声した単語の一致した条件における反応時間RTsは異なった条件における反応時間RTdよりも有意に短かかった。単語反応についてもほとんどの被験者について、RTs<RTdとなったが、全体的には有意差はなかった。なおこの研究は、平成11年9月に日本音響学会、11月に日本音楽知覚認知学会のそれぞれの研究発表会で発表した。さらに平成12年8月に英国で開催される第6回音楽知覚認知国際会議において発表する。
著者
村上 征勝 古瀬 順一
出版者
統計数理研究所
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

川端康成のノーベル賞受賞作品「雪国」の代筆疑惑を解明するため、同作品と他の複数の川端作品との比較及び三島由紀夫の作品との比較を試みた。そのため川端と三島の作品の文章を単語分割し、品詞コードをつけたデータベースの構築を行い、品詞や読点などの情報を手がかりに同作品の文体特徴を明らかにする作業を行った。川端作品としては「雪国」、「みづうみ」、「山の音」、「伊豆の踊り子」、「虹」、「母の初恋」、「女の夢」、「ほくろの手紙」、「夜のさいころ」、「燕の童女」、「夫唱婦和」、「子供一人」、「ゆく人」、「年の暮」の14作品を,三島の作品としては「潮騒」、「金閣寺」、「眞夏の死」、「愛の渇き」の4作品の全文をまず入力した。この内,川端の「雪国」、「みづうみ」、「山の音」、「伊豆の踊り子」、「虹」の5作品と,三島作品の「潮騒」、「金閣寺」の2作品に関しては,文章を単語に分割し,品詞情報を付加したデータベースを構築した。このデータベースを用いて計量分析を試み以下のような結果を得た。これまでの研究から現代作家の文章において、読点のつけ方に作家の特徴が出やすいことを明らかにしていたので,読点のつけ方を中心に行った。川端の作品は,戦後の作品「みづうみ」から作風が変わったというのが従来の通説であるが,読点のつけ方の数量的分析からは,戦後の作品であっても著述年代がもっと遡る「山の音」から変わったと考えた方が妥当であるという結論を得た。また三島と川端との関係をみるため「潮騒」と川端作品を一緒に分析した結果、川端作品と「潮騒」では読点のつけ方に違いがあることも明らかとなった。現状では、一部の情報にとどまっており、明確な結論を出すまでには至っていないが、川端の文体の数量的研究に基盤はできたように思われる。
著者
笹原 亮二
出版者
国立民族学博物館
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本年度の調査は、前年度までの調査成果を踏まえて、未調査の地域の祭や民俗芸能、及び補充調査の必要な地域の祭や民俗芸能について実施した。本年度新たに調査を行ったのは、岩手県の三陸海岸地方南部で行われている虎舞である。虎舞は宮古市域や釜石市域を中心に20ヶ所以上で行われている芸能である。虎舞は、文楽や歌舞伎で有名な国姓爺合戦に因んだもので、中国を舞台として和藤内の虎退治の話を仕組んだストーリーが演じられるものである。同様の内容を有する芸能は神奈川県三浦半島や瀬戸内地方にも若干見られるが、分布の密度は三陸地方のほうがはるかに濃い。また、三陸地方の虎舞の芸態や音楽が、他地域の虎舞よりも三陸や岩手に多数分布している剣舞や山伏神楽とむしろ共通性を感じさせる。三陸地方の虎舞の調査研究はそれほど進んでおらず、関連資料の蓄積があまり見られない。従って、どのようなかたちで現在の分布状況や芸態が掲載されたかは、今回の調査では明らかにすることができなかった。基本的なデータの集積が待たれる。補充調査としては、南九州の琉球人踊について調査を行った。本年度は、琉球人踊の分布が知られていたにも関わらず、昨年度まで調子をしていなかった種子島の琉球人踊について調査を行った。従来の研究では、鹿児島本土では琉球から島津家にやってくる使節に因んだ琉球人踊が行われているのに対し、種子島では一般の人々が江戸期から盛んに琉球と行き来してきたということがあり、そうした直接交渉に因んだ琉球人踊が行われているとされてきた。確かに、鹿児島本土とは異なるかたちで種子島の人々が琉球人に扮した踊が行われていたが、琉球の人々を写実的に真似たのではなく、鹿児島とは異なるかたちでではあるが、かなり変形した奇妙なかたちで琉球人の姿態を演じていた。直接的な琉球の人々との交渉が相当ありながら、何故こうした変形させて演じられているのか、興味を惹かれるところである。また、種子島では、北部の西之表市から南部の南種子町まで各地に琉球人踊に類するものが分布していて、内容は場所によってかなり違っていた。更に詳細な実態調査の必要性を感じた。本年度はそのほか、長崎地方の獅子浮流、佐賀地方の面浮流、伊勢地方の唐人踊と鯨船神事、沖縄地方の唐踊と獅子舞などに関する調査を実施し、関連資料を収集した。
著者
村本 健一郎 播磨屋 敏生 久保 守 藤田 政之 椎名 徹
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

雲の中で成長した雪結晶は自分の重みで落下が始まり,雲粒の中を落下していく途中で雲粒が雪結晶に付着して種々の形に成長するが,落下速度は遅いので,すぐに空間密度が高まり互いに接触する割合が高く,しかも枝の構造が機械的にからみやすいため,いくつもの結晶の合体した雪片となる.この雪片同士が衝突併合には,雪片輪郭線の複雑さや落下運動の不規則さが関与していることが報告されているが,実際に雪片同士が衝突した瞬間の映像は捉えられていない.また,雪片が複雑な運動を伴って落下する理由も十分には解明されていない.本研究では,できるだけ自然に近い状態で落下中の雪片の映像を録画するシステムを製作し,次にそれらの映像を画像処理技術を使って定量化し,降雪現象の物理的特性を定量的に解明するシステムを開発することを目的として以下の実験を行った.(I)降雪雪片撮影システムの開発できるだけ自然現象に近い状態で落下中の雪片を観測するために4m(縦)×5m(横)×13m(高さ)の観測塔内で,地面に対して水平方向に1台,および鉛直方向に4台のCCDカメラを設置し,降雪雪片の落下中の運動を2方向から同時に撮影するシステムを開発した.(I)降雪観測と解析実際に、降雪中の切片を5台のカメラで撮影した.撮影した画像から降雪雪片の形状と3次元的な落下運動軌跡を求めた.
著者
志田原 重人 松下 正司
出版者
比治山大学短期大学部
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1.古代・中世遺跡出土遺物の調査研究(1)前年度に引き続き,古代・中世遺跡から出土した動植物遺体や木簡を収集し,流通・消費について考えた。(2)前年度に引き続き,古代・中世遺跡から出土した食器・調理具の集成を行い,特に瀬戸内海地域における食器・調理具のあり方について検討した。2.文献史料の検討(1)『正倉院文書』に見られる食材を収集し,奈良時代の食文化について考えた。(2)江戸時代に朝鮮通信使を饗応した際の料理に関する史料をはじめ,近世の瀬戸内海地域の食文化に関する史料を収集した。3.まとめ考古資料・文献史料などをもとに検討し,中世を中心に古代から近世に至る食文化の一端を垣間見ることができた。特に瀬戸内海地域と関わりの深い水産資源の流通と消費について明らかにすることができた。
著者
川合 研兒 鄭 星珠
出版者
高知大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

これまでの一連の研究で、Aeromonas hydrophila A-3500株を液体培地で培養したのち塩類溶液で飢餓させた菌は、コイなどに対する病原性が培養菌よりも高いことを明らかにしてきた。本研究では、まずこれらの菌の病原性の違いをフナでも確認したのち、病原性に関与すると考えられる菌の生物学的性状を両菌で調べた。その結果、フナの皮膚に対する付着性、体表粘液・血清の殺菌性に対する抵抗性、および頭腎マクロファージの貪食に対する抵抗性がいずれも飢餓菌のほうが高く、このような生物活性の高さが飢餓菌の高い病原性を裏付けるものと推定した。培養菌、飢餓菌および感染魚から回収した菌から外膜タンパク(OMP)を抽出し、SDS-PAGEで比較したところ、36および43kDaのOMPが共通に認められた。そこで、これらの抽出したOMPをそれぞれキンギョに注射して免疫したのち感染試験を行ったところ、いずれの免疫魚も非免疫魚より高い生存率を示し、共通のOMPには感染防御抗原性があると推定された。つぎに、各地で異なった魚種から分離されたA.hydrophila7株およびA.hydrophilaと近縁種のAeromonas veronii biotyoe sobria T30株、Aeromonas jandaei B2株およびAeromonas sp.T8株を用い、抗A-3500株血清を用いたSDS-PAGE/ウェスタンブロットおよび菌体凝集反応を行って、抗原の比較を行った。その結果、凝集反応ではA.hydrophila株間および近縁種との間で、凝集価が大きく異なり血清型が異なることが示された。しかし、ウェスタンブロットではA.hydrophilaの菌株間ではほとんど差異がないが、近縁種との間ではパターンに大きな差異が認められた。これらのことから、本菌の飢餓菌と培養菌との間に認められる36および43kDaのOMPは、病原性にはあまり関与しないが、本種における共通の感染防御抗原である可能性が強いと考えられる。
著者
伊狩 裕
出版者
同志社大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

今年度も、昨年度に引き続き、ガリツィアに生まれた同化ユダヤ人作家カール、エーミール、フランツォース(Karl Emil Franzos 1848-1904)を対象としたが、今年度は特に19世紀後半のドイツの法学者イェーリング(Rudolf von Jhering 1818-1892)とフランツォースとの関わりを、論文「権利のための闘争カール、エーミール、フランツォース試論(2)」において明らかにすることができた。フランツォースは、1867年ウィーン大学に入学し法律学を専攻するが、その翌年、ギーセンのローマ法教授イェーリングが、オーストリア帝国法務大臣アントン・ヒュエによって招聘されウィーンへやって来る。19世紀後半のドイツにおける法思想の主流はサヴィニーの歴史法学であったが、イェーリングはそれに対して異を唱えた人物であった。すなわち、サヴィニーの歴史法学が民族性に法の根拠を見出していたのに対してイェーリングは、ローマ法の研究を通じて普遍性に法の根拠を見定めていたのであった。同化ユダヤ人として幼い頃から啓蒙主義の中で育てられてきたフランツォースがイェーリングに傾倒していったのは当然の成り行きであった。1872年3月イェーリングはウィーンの法律家協会における講演「権利のための闘争」を置き土産にゲッティンゲンへ去る。方フランツォースは同じ年、あれほど心酔し、生涯を捧げる決意していた法学を断念し大学を去り、作家活動に入ってゆく。フランツォースが法学を断念したのは、彼がユダヤ人であったことと、おまけにブルシェンシャフトでの活動が公職に就くことが困難としたからであった。この年の秋イェーリングの講演は『権利のための闘争』として刊行され、この書によってフランツォースは「権利/法の神聖」を強く確信し、10年後、小説『権利のための闘争』(1882年)を書かせるきっかけとなったのであった。
著者
八田 武志 三輪 和久 川口 潤 筧 一彦 川上 綾子 栗本 英和
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

昨年度に続き本年度も今までに収集した漢字誤記のタイプ別分類(1)とその産出メカニズムの説明モデルの作成と、(2)さらなる自発書字における漢字誤記の収集を行った。さらに,(3)今までに収集した漢字誤記のデータベース作成と,(4)データベースの利用容易性の検討である。(1)については,音韻、形態、意味の3つの基本要素を中心にそれらの組み合わせから生じる音韻+形態、音韻+意味、形態+意味、音韻+形態+意味、語順、部品欠損、その他の合計10タイプに漢字誤記は分類できることが明らかとなった。このような誤記の産出は3基本要素の心内辞書での活性化によるとする認知モデルは,基本的に変更する必要を感じなかった。これは,10タイプの分類で不可能とするような新しいタイプの誤記は生じなかったためである。(2)について本年度行ったのは,(1)ベネッセ「赤ペン先生」に解答者が記載する赤ペン先生へのletterにおける誤記(この場合中学生が主な対象となる)。(2)大学生における約400名の自由記述タイプの試験答案における誤記(これは一人あたりおよそ2000文字以上の記述がある),(3)専門学校生におけるレポートおよび感想文における誤記を対象に収集した。(1)については,添削がネット上で行われる様態に変更されたために,途中で収集は断念せざるを得なかった。(3)および(4)に関しては,誤記を考慮した手書き入力デバイスへの支援ソフトに利便性の高い形式を模索中である。本研究に関連の深いものとして,書字において情動価をどの様に伝達するのかに関する実験研究を行い結果を発表した。その内容は,漢字,平かな,カタカナなど表記のタイプと活字体の種類を変数にしたもので音声言語でのプロソディに相当する機能を書字でも行っていることを立証するものであった。
著者
菅野 純夫
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

食物より経口的にDNAが血中に移行するかを検討するために、健常人のボランティア(のべ10人、男性9女性1、25-43歳)に依頼し、約400gの鶏肉(空揚げしたもの)を経口摂取した後、1、2、3、4、5時間後に静脈血1mlを採取し、それよりDNAを抽出し、PCRにて卵白アルブミン遺伝子のDNAを増幅することにより、ニワトリ由来のDNAの存在を検討したところ、全例でニワトリ由来のDNAを見いだせなかった。PCRの感度は約20pg(細胞10個分)であるので、循環血液量を31として、ニワトリ由来のDNAは、どの時点でも、多くとも血中に60mg以下であると推定された。鶏肉中のDNAが少なくとも10mg以上存在することを考えると、食物中のDNAの血中への移行はほとんど起こらないということがいえる。さらに、血中でのDNAの安定性を検討する目的で、100μgのプラスミッドDNAをマウスに尾静脈注射し、目よりの採血を経時的に行い、その血中半減期を測定したところ、2分以下であった。一方、ヘパリン採血したヒト血液中に100μgのプラスミドDNAを入れた場合はDNA分解による半減期は10分以上であった。これから、仮に、食物からDNAが血中に移行しても、速やかに失われてしまうことが考えられる。ただ、失われてしまうメカニズムとして、血中での分解以外の可能性も考えなければならない。こうしたことは、今後の研究の課題であろう。
著者
大隅 秀晃 江尻 宏泰 藤原 守 岸本 忠史
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

山脈の宇宙線トモグラフィーを得ることに成功すれば、掘削不可能な広い範囲の地質や地層に対する新しい情報(エネルギー損失係数の3次元分布dE/dX(p,A,Z)-つまり地層の密度と構成粒子の原子番号等の関数)が得られ、地質や地層の研究に応用できる。この方法を推し進めれば、宇宙線地学という新しい研究分野開拓の契機となる。この研究をめざして、紀伊半島中部にある山岳トンネル(大塔天辻トンネル、地下約470m(最大)、長さ約5km)内から、そのトンネルを覆う山脈の宇宙線(μ粒子)トモグラフィー(山脈の断層写真)を得るために以下の検出器開発と実験研究をおこなった。1.宇宙線(μ粒子)の方向・強度を測定するためプラスチックシンチレーターホドスコープ(1m×1m)、データ取り込み回路の開発をおこなった。開発したプラスチックホドスコープは、位置分解能と検出効率とコストパフォーマンスを考慮した設計で、シンチレータとウエーブレングスシフタ-を組み合わせて少ない光電子増倍管で、大面積を覆う設計となっている。2.大塔天辻トンネルの地層に対する資料調査を行なった。建設時に地質調査が詳しくなされていることが判明し、地質、地質の境界、断層、破砕帯、風化帯等の資料が得られた。また各地点の弾性波速度の詳細な資料も得られた。したがって本研究で測定できるエネルギー損失係数の3次元分布との詳細な対比が可能となった。3.プラスチックシンチレーターホドスコープの地上(大阪大学理学部)でのデータ取り込みテストを行ない、設計で目標とした、予定通りの性能が得られた。また地上での宇宙線の3次元強度分布の測定を行ない、今まで発表されている、地上での宇宙線強度と矛盾のないことを確かめた。4.大塔天辻トンネルに持ち込み各点での宇宙線の強度および方向の精密測定については、その予備テストを行なったが、核物理センターの大塔コスモ実験室の建設のため、トンネル内への立ち入りが制限されたため、本格的な三次元分布の測定は次年度にひきつづき行なう予定になっている。
著者
河野 重行
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

申請者は,真正粘菌Physarum polycephalumで,ミトコンドリアプラスミド(mF)を見いだしている.本研究課題の目的は,(1)このmFプラスミドの起源とミトコンドリアへの侵入・伝播・成立の分子機構とその存在意義を明らかにするとともに,(2)mFプラスミドミの水平伝播能を利用し,ミトコンドリア用のベクター開発を目指すことにあった.mFは,mtDNAの一部(mID, 479bp)とほぼ完全に相同な領域(pID, 475bp)をもっており,この間の相同組換えによって,mtDNA内に組み込まれる.mIDがmtDNAに残されたmFの痕跡とすると(pID→mID), mFは,(i)P.polycephalumの種の確立する以前にミトコンドリアに侵入していたか,(ii)種の確立以後に極めて速やかに種全体に伝播したと考えられる.逆に, pIDがmtDNAに由来するものなら(mID→pID),(iii)mFは極最近になってP.polycephalumに侵入した可能性が高い.収集の結果,P.polycephalumの由来の異なる粘菌アメーバを30株以上を保有することができた.本年度は,それぞれのmIDとpIDの塩基配列決定を引き続き行うとともに,近縁種の収集にも力を入れた.1)PCR法を用いて,組換え型,pIDとmIDの有無を調べた.また,mIDとpIDは全て塩基配列を決定し,塩基置換の種類と有無によってmIDとpIDの系譜図を作成している.これによって,pID→mIDとmID→pIDのいずれかが決定できるものと思われる.2)P.polycephalumおよびその近縁種を用いて,mFプラスミドの水平伝播の可能性を探るとともに,mFプラスミドを改変し,mFプラスミドの伝播に果たす末端タンパク質(TP)の役割に注目し,薬剤耐性マーカーの付加やpID改変によるベクター化の可能性を探っている.
著者
赤池 孝章 加藤 篤 前田 浩 宮本 洋一 豊田 哲也 永井 美之
出版者
熊本大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

ウイルス感染病態において誘導型NO合成酵素(inducible NO synthase,iNOS)から過剰に産生されるNOは、共存する分子状酸素(O_2)や酸素ラジカル(活性酸素)などと反応し、パーオキシナイトライト(ONOO^-)などの反応性窒素酸化物の生成を介して、宿主に酸化ストレスをもたらす。一方で、感染炎症における酸化ストレスは、生体内で増殖するウイルスそのものにも加えられることが予想される。RNAウイルスは、一回の複製でヌクレチド残基あたり10^<-5>〜10^<-3>という頻度で変異し、極めて高度な遺伝的多様性を有しており、様々な環境中のストレスにより淘汰されながら分子進化を繰り返している。この様なウイルスの多様性は、これまで主にRNA複製の不正確さにより説明されてきたが、その分子メカニズムは今だに不明である。そこで今回、NOよりもたらされる酸化ストレスのウイルスの分子進化への関わりについて検討した。このため、変異のマーカー遺伝子としてgreen fluorescent protein(GFP)を組み込んだセンダイウイルス(GFP-SeV)を用いてNOやパーオキシナイトライトによるウイルス遺伝子変異促進作用について解析した。その結果、in vitroの系において、パーオキシナイトライトはウイルスに対して非常に強い変異原性を示した。さらにiNOS欠損マウスおよび野生マウスのGFP-SeV感染系において、野生マウスではiNOS欠損マウスの7倍程度高いウイルス遺伝子変異率が認められた。これらの知見は、ウイルス感染・炎症反応にともない過剰に産生されるNOやパーオキシナイトライトが、ウイルスの変異速度を高め、その分子進化に関与していることを示唆している。
著者
西本 憲弘 吉崎 和幸 桑島 正道
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

カルニチンは、生体にとって重要なエネルギー源である長鎖脂肪酸のβ酸化に関与する分子量161の小分子である。このカルニチンの輸送担体の遺伝子異常を有するJVS(juvenile visceral steatosis)マウスにおいては脂肪肝や低血糖、筋委縮などの全身性カルニチン欠損症状に加え、著しい胸腺の萎縮が認められ、組織学的検索から胸腺細胞のアポトーシスが疑われた。そこでJVSマウスを用いて、胸腺でのアポトーシス現象およびT細胞の分化におけるカルニチンの関与について検討した。【方法】2,4,8週齢のhomozygote(jvs/jvs)、heterozygote(+/jvs)ならびにL-カルニチン(1μmol/grBW,ip)による治療を行ったhomozygoteを用いた。胸腺の重量測定、HE染色、TUNEL法によるアポトーシスの検索に加えて、FACS-によるT細胞表面マーカーの解析を行った。【結果および考察】JVS未治療群では胸腺は萎縮していたがL-カルニチン腹腔内投与により胸腺重量は正常化したことからこの胸腺の委縮はカルニチン欠乏によって生じることが確認された。さらにJVSの胸腺ではアポトーシス陽性細胞の増加がTUNEL法により確認された。胸腺より分離したT細胞数もコントロールに比べ約1/10に減少し、これらの細胞を用いたFACS解析からJVSマウスの胸腺ではCD4^-8^-分画の割合が増加し、CD4^+8^+分画の割合が減少していることがわかった。このことからカルニチン欠乏におけるT細胞の分化をPositive Selectionの段階で障害する可能性も示唆された。JVSマウスはヒト原発性カルニチン欠乏症のモデルマウスであり後天性のものに必ずしもあてはまるとは限らないが、カルニチン欠乏はヒトAIDS患者でも報告されておりカルニチン欠乏状態がT細胞免疫不全を悪化させている可能性がある。カルニチンは経口でも補うことが可能であるからカルニチン欠乏が疑われる場合、不足を補うことで病態の悪化を防ぐことが可能である。
著者
平野 葉一 河村 勝久 中村 義作 秋山 仁 板井 昌典
出版者
東海大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は高校数学教育における数学史活用のための教員用マニュアルおよびCD-ROM作成であるが、平成11年度においては、研究最終年を迎えて具体的な実践を含めたまとめに向けての研究を行った。特に、東海大学付属高校の数学教員の協力もあり、作成資料(テキスト)の検討、実際の授業での活用を踏まえた共同授業なども試みた。研究活動および成果以下の通りである。1.数学史に関する教員用マニュアルに関しては、特に2003年からの高校数学教育改訂を念頭におき、授業での生徒たちの作業的・実践的活動が可能になる事例の収集を行った。特に新しい数学基礎との関連を考えた「黄金比」に関しての資料の充実、科学実験との関連をも考えた「指数・対数関数」が中心であった。また、ブールを中心とした集合・論理に関する研究、数学パズルに関する歴史的考察も行った。2.CD-ROM制作に関しては、Internetの普及を考慮してホームページ形式(htlm形式)とすることにした。特に、ピタゴラスからケプラーまでの数学と音楽の歴史展開を基礎とした内容の作品は、高校教員と担当の生徒たちの協力もあり、現場に即したものとなった。3.データベースの作成では、数学史関連項目を約100点選び、その歴史関連文献(約1500件)を収集した。現状では文献リストの形だが、今後内容を含めてデータベース化する予定である。具体的な成果に関する口頭発表は以下の通りである。平成11年12月3日・4日 数学史および数学教育に関するWorkshop開催(発表論文集作成中)論文報告:「数学史の通時と共時:本Workshopへの問題提起として」「ブールの『思考の法則』についての研究」など3件平成12年1月13日 韓国・ソウル、団体Mathlove主催のMath-Festivalでの招待講演「数学博物館と数学教育-数学史的視点からの考察を含めて」
著者
志水 彰 山下 仰
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

1.研究目的:コミックビデオの視聴による笑いの前後で血液中のNK細胞活性を測定し、笑いによる変化を求めた。笑いの評価は主観的な面白さをPOMSで、客観的な評価を大頬骨筋電図の面積積分値の大きさで行った。2.実験の進行状況:現在までに男女あわせて12名(男性8名、女性4名)の測定を終えている。(平均年齢22.9±3.5歳)最終的に20人を測定する予定である。3.現在までの結果:(1)主観的な評価でコミックビデオを面白いと感じた場合は、視聴後にNK細胞活性は有意に上昇した。(2)先の結果をビデオ視聴前と視聴後で比較した場合、コミックの場合もコントロールの場合もNK細胞活性に有意な差は見られなかった。(3)コミックビデオ視聴前後のNK細胞活性の差とコントロール刺激ビデオ視聴前後のNK細胞活性の差を比較した場合にも有意な差は見られなかった。(4)この結果は、笑うという動作はNK細胞活性に影響せず、面白いという情動はNK細胞活性を上昇させると解釈できる。4.今後の研究の展開について:今後は被験者の性格、気分、大頬骨筋電図の面積積分値とNK細胞活性の関係をさらに求めたい。また、今までの成績では男性被験者に比較して女性被験者はNK細胞活性の変化に乏しかったが、これも感受性の違いによるものと思われるが、現在のところ女性被験者数が少ないためにはっきりしたことはいえないのでこの点についても検討したい。
著者
池田 秀敏 吉本 高志
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

民族進化の歴史と家族性モヤモヤ病の地誌的分布とに共通項があるか否がを明らかにすることを研究目的とした。民族の進化の跡を追跡する手段として、ミトコンドリアDNAの塩基変化を比較検討を行なった。これは、ミトコンドリアDNAが、主に母系遺伝をするがために、母系のルーツを探ることができるためである。また、Y染色体の染色体多型を用いて、父系系譜よりルーツを探った。家族性モヤモヤ病患者58名(男性16名、女性42名)と、モヤモヤ病がないと判断された健康人60名を対象とした。Y染色体の解析は、DYS287(YAP)locusと、DYS19locusとを行った。この解析結果から、父系には、大きく2つのルーツからの流れがあることが判明し、コントール集団と比べ、集積性があることが判明した。また、ミトコンドリアD-ループ領域のhypervariable region IIの(MT3)の検討を行った。ヌクレオチドは、Cambridge Reference Sequence(CRS)の93-110番及び、326-307番に相応している。家族性モヤモヤ病患者群では、MT3の塩基配列の違いがら見て10個のハプロタイプが存在したのみであったが、コントロール群では、30個のハプロタイプが見られた。また、平均塩基置換数を見ると、家族性モヤモヤ病群とコントロール群とでは、有意差が見られた(P<0.0001)。以上から、家族性モヤモヤ病には、ルーツがあり、モンゴロイドの移動進化とともに地球上に分布したと考えれた。
著者
久冨 善之 木村 元
出版者
一橋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1.戦後日本の出生率、進学率、児童・生徒数、教員数、不登校数(率)等のデモグラフィックな統計データを重ね合わせることで、"教育"の性格の歴史的展開を(これまでの教育史理解とは異なる角度から)照らし出した。2.戦前1930年代東北-地方データから同じく'30年代教育の民衆との関連に光をあてた。3.明治以来の小学校の学校資料を複写し整理中であるが、ぼう大なために、また報告できるほどの整理に到達していない(兵庫県但馬地方)4.静岡県の一地域の民衆誌にかかわる「戦後戸塚文庫」の整理を進めている。5.以上の作業について、いずれもコンピューター・ディスク上のデータとしての記録・整理を進めている。6.上の1・2・4については、文書による報告書を冊子として作成した。
著者
千葉 拓 瀧井 猛将
出版者
名古屋市立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

食品紅花中にはセロトニン誘導体(N-(p-coumaroyl)serotonin(CS),N-ferutoyserotonin)の他、ポリフェノ-ル類に含まれる抗酸化物質が存在する。これらのセロトニン誘導体がグラム陰性菌のエンドトキシンリポ多糖(LPS)刺激によるヒト末梢単球からの炎症性サイトカインの産生を抑制する以外に、細胞増殖促進活性ももっていることを見出したのでその機序を明らかにする。そして、病気の予防、創傷治癒、また、抗炎症剤としての創薬の基礎的研究を目的とする。本研究では以下の点が明らかになった。1)LPSで活性化させた単球/マクロファージから産生される炎症性サイトカインであるIL-1α,IL-1β,IL-6,TNFαは、CS50μMで約50%、200μMで完全に阻害された。この効果はタンパク量レベル、mRNAレベルでも同様だった。2)CS類似化合物として、N-(p-coumaroyl)-tryptamine(CT),N-(trans-cinnamoyl)tryptamine(CinT)とN-(trans-cinnamoyl)serotonin(CinS)を合成し、抗酸化活性の構造活性相関を調べたところ、serotoninに付いている水酸基が抗酸化活性に関与していることが明らかになった。3)LPS刺激ヒト末梢単球からのIL-1α,IL-1β,IL-6,TNFαの産生抑制作用は、CS>CT>CinSの順で強められたが、CinTには作用が認められなかった。4)タンパク合成阻害作用は、CS,CTの方がCinS,CinTよりも強く認められた。5)正常なヒトやマウスの線維芽細胞増殖活性は、CS,CinS,CT>CinTの順であった。6)CSは、酸性の線維芽細胞成長因子(aFGF)や血小板由来の成長因子(PDGF)ではなく、塩基性の線維芽細胞成長因子(bFGF)や上皮成長因子(EGF)と共同して線維芽細胞を増殖させることが明らかになった。7)ラットの熱傷創に対する創傷治療速度について、我々が作製したCS軟膏やCinT軟膏,それに市販のゲーべンクリームを用いて調べたが,自然治癒に比べて著しい治癒効果はみられなかった。
著者
松本 満 三谷 匡
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

哺乳動物の遺伝子機能の解析において、遺伝子ターゲティングによるノックアウトマウス作製技術は個体レベルでの解析システムとして、既に必須のツールとなっている。しかしながら、現行のノックアウトマウスの作製過程では胚性幹細胞(ES細胞)に遺伝子改変操作を行い、その後、キメラマウスの交配によってはじめてへテロマウスが樹立されるため、ホモ個体の樹立までには、長い時間を要する。しかしながら、もし仮に遺伝子改変操作を行った細胞から直接へテロマウスを作製することができれば、研究効率を著しく改善できることは論を特たない。このような視点から、最近報告された体細胞を用いたクローンマウス作製技術を応用し、遺伝子改変操作を行なった体細胞の核移植操作により、直接へテロマウスを取得する系の開発を以下のごとく試みた。1)ターゲティングベクターを導入する体細胞の選択過去に体細胞での相同遺伝子組換え効率はES細胞に比べ低いことが報告されたが、近年、その改善が著しいベクターや遺伝子導入方法用いた相同組換え効率については再検討の余地がある。そこで既存のベクターを用いて胎仔線維芽細胞への遺伝子導入を行なった。胎仔線維芽細胞は、遺伝子導入の効率については優れていたものの、相同組換え体を取得するには至らなかった。2)体細胞に由来する個体作製技術の確立上記と同じく、胎仔線維芽細胞の核移植により体細胞クローンの作出を試みたが、今回の研究では技術的に、依然、きわめて困難であった。以上、本年度の研究からは体細胞クローン技術を応用した簡便なノックアウトマウス作製方法を確立するには至らなかったが、理論的にも十分に可能性がおり、さらに研究を進める必要がある。