著者
大塚 英二
出版者
愛知県立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

豪農の家政改革は、一個人の経営立て直しにとどまらず、地域的な信用構造の面からして、村共同体と地域社会に大きな影響を及ぼさざるをえない。その社会的・政治的意識や行動は常に衆人環視の対象であった。その家政改革や行動について論究する場合には、やはり彼らの日常的な業務内容と地域社会状況について検討を加える必要がある。以上のような観点から、山田家文書に残された書状類及び触・御用留の類の分析を通じて、山田家が家政改革を行う時期の東部遠州地域における政治的・社会的な状況と、その中での同家の役割について検討を加えた。山田家の経済的蓄積期にあたる18世紀後半には、山田家は庄屋として領主蔵米を扱い、当該地域の積み出し港である川崎湊の廻船問屋八郎左衛門と日常的なつながりを持って、八郎左衛門所有の湊の蔵(領主蔵米の一時保管庫)の実質的管理にも関わった。山田家の炭山経営にも八郎左衛門は関わっていたと推定され、こうした廻船問屋商人とのつながりが同家の豪農としての成長に直接関わっていたと考えられる。しかし、その後、山田家の経営は順調には進展せず、米穀類の価格低下や地域的金融の混乱の中で家政改革を余儀なくされる。最初に家政改革が行われた文政期は、まさにそうした不況下で幕府が大々的な倹約触(文政2)を出した時期であった。この時、山田家は郡中惣代として倹約と諸物価引き下げに関わる郡中議定を策定するのに奔走していたが、これは同家の経営上の問題と全く二重写しとなっている。豪農の社会的・政治的活動をその家政改革は相即的なものであると見てよいだろう。なお、当該議定に関わる郡中惣代間の書状のやりとりでは、隣接する他郡の議定内容なども意識されており、こうした有力百姓層においては社会意識の面でかなりの共通性があったことが理解できる。今後更に書状類からそうした意識を探っていく必要があろう。
著者
榎本 昭二 PODYMA KATARZYNA A. 柳下 正樹
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本年度においては、昨年発表されたヘパラネース遺伝子のシークエンスをもとに、培養口腔癌細胞株および、患者から得られた口腔癌組織内におけるヘパラネースの発現について検索を行い、その転移能との相関についても調べた。さらに、研究計画どおり、培養扁平上皮癌細胞株におけるヘパラナーゼの活性とMMP2、9、MT-MMPの発現との相関も調べた。用いた培養細胞それぞれのヘパラネースmRNAの発現量は、活性レベルとほぼ相関していることがわかった。ヘパラナーゼの酵素活性を、定量PCR法を用いて、簡便に測定できることが示唆された。術前からリンパ節転移が存在した症例、原発が制御されても術後9ヶ月以内にリンパ節転移を確認した症例のなかでヘパラナーゼ陽性例数を見ると、前者には57.1%で陽性、また、後者では、100%陽性であった。また、発現レベルとともに転移率の上昇が見られた。以上より、ヘパラネースが、口腔癌において、リンパ節転移能と関連する重要なマーカーの1つになる可能性が期待できる。さらに、培養扁平上皮癌細胞株における、MMP2,MMP9,MT1-MMP,TIMP2の発現を定量し、そのヘパラネース活性とマトリジェルにおける浸潤能の相関についてしらべたところ、それぞれの細胞の浸潤能に対し、独立したMMPの発現レベルとヘパラネース活性を有しており、とくに大きな相関は見出されなかった。現在、昨年クローニングしたラットヘパラネースの抗体の精製を完了させ、また、in situハイブリダイゼーション法による、組織内のヘパラネース発現パターンを検索しており、マウス実験転移モデルと組み合わせて、がん転移機構における、ヘパラネースの機能の分析を続けていく予定である。
著者
瀬山 厚司 濱野 公一
出版者
山口大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

1.目的 骨格筋への骨髄細胞投与により誘発された新生血管により、骨格筋の生理的機能が改善されるか否かを知ることを目的とした。2.方法 ラット下肢虚血モデルを用いて、骨髄細胞注入による骨格筋血管新生を誘導した。群分けは、Sham群、Ischema群(虚血肢を作成したのみ)、PBS群(骨髄細胞の浮遊液であるPBSのみを注入)、BMI群(骨髄細胞を注入)の4群(各群n=5)とした。骨髄細胞は赤血球を除去した後、1×10^7/10μlを腓腹筋に6ヵ所経皮的に注入した。血管新生の程度は血管造影、alkaline phosphatase染色による毛細血管数、大腿静脈のarteriovenous oxygen difference(AVDO^2)にて比較した。また新生血管の生理的有用性を評価するために、20m/min,10%勾配のトレッドミル上でラットを走行させ、その走行時間を各群で比較した。3.結果 下肢血管造影では、BMI群において他の3群と比較して良好な側副血行路の発達を認めた。大腿内転筋及び腓腹筋における単位筋当たりの血管数は、BMI群において他の3群と比較して有意に高値であった(P<0.01)。モデル作成2週後のAVDO^2は、Ischema群においてSham群、BMI群と比較して有意に高値であった(P<0.01)。ラットのトレッドミル走行時間は、Sham群ではモデル作成1,2,4週後のいずれにおいても、全てのラットが5時間完走した。モデル作成2,4週後において、BMI群はIschema群、PBS群と比較して有意に長時間走行した(P<0.01)。4結論 骨髄細胞の注入により虚血肢に誘導された新生血管は、低下した運動能の回復に寄与すると考えられた。
著者
石黒 直隆 松井 章
出版者
帯広畜産大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、遺跡から出土する古代犬の骨に残存する微量な遺伝子を効率良く増幅し古代犬を遺伝子面で復元し、現生犬から構築したデータベースと比較することにより日本在来犬の起源と成立過程を解析することである。本年度は以下の成績を得た。1)残存遺伝子の増幅法の開発:長い埋蔵期間中、遺跡から出土する骨には土壌中の成分が多く浸み込み、それがPCR反応のインヒビターとなっている。古代犬の骨から効率に古ミトコンドリア(mt)DNAを分離・増幅する為には、このインヒビターを取り除くことが大切である。これまでの検索で、骨中のPCRインヒビターを取り除くには0.5MEDTAによる骨粉の洗浄が最も有効であること、また長期間の洗浄後、プロテネースKにて骨粉中の蛋白を消化することが最も増幅率を高めることが判明した。2)遺跡出土の犬骨からの古mtDNAの増幅:これまでに縄文時代、弥生時代、古墳時代、オホーツク文化時代の遺跡から出土した145本の古代犬の骨より残存遺伝子を分離・増幅した処、74本(51%)の骨より198bpの塩基配列を得た。得られた配列を現生犬のデータベースと比較した処、ハプロタイプM5型とM10型は関東以北の地域に、またハプロタイプM2型は西日本から東北地方まで広く分布していた。一方オホーツク文化期の遺跡からはM5型の犬が多く検出され、オホーツク文化期の古代犬は遺伝的に均一であることが明らかとなった。これらの成績は、古代犬が縄文時代からかなり多様性に富み、その分布には地域性があることを示し、人の移動や分布を知る上で、貴重な資料を提供するものとして期待される。
著者
田村 幸雄 趙 康杓 吉田 昭仁 菅沼 信也
出版者
東京工芸大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

昨年度までの実験的検証によって、RTK-GPSの観測可能振幅レベル、振幅分解能、周波数分解能等の基礎資料が整理できた。本年度は,高さ108mの鉄塔上にGPSユニツトを設置し、地震時および強風時の応答観測を行い,観測可能レベル、周波数分解能,使用に当たっての種々の制約や問題点の抽出を行った。日照や強風等の影響のない夜間の鉄塔静止位置を長期間にわたって観測し、その平均的な位置を厳密なゼロ点とした。これを基準にして、日照による熱変形の把握、台風時の挙動等をとらえることができた。強風時の応答からは、観測振幅の範囲では高周波数領域でのノイズレベルがやや高いが、加速度計による観測結果との十分な整合性が確認でき、以下の事柄が明らかとなった。つまり、(1)GPSにより動的変位のみならず,静的変位成分も計測可能である。(2)現状のGPSにより、固有振動数2Hz以下、つまり建物高さ約30m以上の建物が、振幅2cm以上の振動をしているときに計測が可能である。したがって、(3)10m高さでの平均風速が春一番程度の15m/sの場合、建物高さ80m以上、平均風速が台風なみの25m/sのときは、建物高さが60m以上で観測が可能である。次いで、GPSを利用して、都市建物群の健全性を管理する手法の検討のため、設計図書に基づきFEM解析モデルを作成し、固有値解析等でその妥当性を検討した上で、GPS変位時の任意部材の応力の時刻歴をモニタリングするシステムを構築した。未だ初歩的であるが、GPSによる都市建物群の性能モニタリング手法を開発し、未来型都市防災システムの在り方を示し得た。
著者
池野 武行 徳山 孝子
出版者
一宮女子短期大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

平成10年度では、中国産、ブラジル産、ニュージーランド産プロポリスのうち特に芳香性の強いブラジル産プロポリス1種(スーパーグリーン)を特定した。このプロポリスの従来からの応用・利用は、健康食品のみであったので次の点を開発した。1. アルコール抽出プロポリス(SG)を濃度調節に各プレーとして分散させる。2. 日本人の好きな檜チップ材(8×8mm)に加工してプロポリス芳香をもつ檜チップを開発して、枕の中に入れてリラックスを期待する。3. プロポリス原塊をアルコール抽出した残り分にも芳香性はあるため、これを粒子化して錠剤タイプ製型に持続型芳香剤を開発した。4. 上記の残り分を粉末のまま不織布等に封入して持ちはこび可能な芳香剤とした。とした。
著者
橋本 典久
出版者
八戸工業大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

前年度の視覚障害者に対するインタビュウー調査結果により、建築音響の影響、すなわち空間の音の響きや壁面での音の反射性状が実際によく意識されており、屋内での歩行・行動のし易さに影響を与えているという結果が得られた。これらの具体的影響とその度合いを実際の歩行行動の中で確認し、その影響因子となる建築音響の物理量を究明するため、残響時間や空間の大きさ・形などの建築音響条件の異なる4つの空間において、視覚障害者と晴眼者(アイマスク着用)の歩行実験を行った。その結果、残響時間やSTI、IACC(両耳間相関係数)などの音響指標との直接の対応は確認されなかったものの、建築音響条件の影響が有意であること、また、細長く1次元的な音響空間では、広い空間より歩行時の方向感が良くなることが実験結果により確認された。更に、これらの結果は実験空間における実験結果であることから、実際の空間条件での実験検討として、空間ロビーやデパートなどの各種建物や施設内での歩行実験を行った。その結果でも、細長い空間と広い空間との識別、細長い空間での方向感の良さなどが実際に確認された。視覚障害者の歩行・行動に対する建築音響条件の影響については確認がなされたが、これを制御し,最適化を図って行くためには、具体的な影響因子の抽出が不可欠である。今後、さらに建築音響指標の範囲とその組み合わせの幅を拡げ、建築音響の影響メカニズムを明確化する予定である。
著者
小泉 尚嗣 渋谷 拓郎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

研究対象である鳥取県の湯谷温泉は,少なくとも3つの温度の異なる帯水層(上から中温・低温・高温の帯水層)から供給される水で形成されていることがわかっている.地球潮汐や気圧変化によって地殻の体積が縮むとき,湧水量が増大し水温が低下することから,低温の帯水層から供給される水の量が,地殻の体積歪変化に対して最も敏感に対応して変化していることが判明した.平成8年8月から湯谷温泉において,水温2チャンネル(深さ2.1mと低温の帯水層直上の深さ24m)と湧水量2チャンネル(低感度と高感度)の計4チャンネルのデータを,5Hzのサンプリングレートで(科学研究費で購入した)ディジタルデータレコーダに収録し始めた.収録チャンネルが増えたので,当初予定していた10Hzのサンプリングレートを5Hzに落として収録している.1996年10月19日の23時44分48秒頃に発生した日向灘の地震(M6.6)の際,従来の1時間値で見る限りでは,深さ2.1mと24mの所の水温が地震後に50〜70m℃上昇したということが分かるにすぎなかった.しかし,5Hzサンプリング値で見ると,深さ2.1mの水温で23時47分7秒頃から23時47分22秒頃から23時47分48秒頃の間に3m℃の低下、深さ24mの水温で23時47分29秒頃の間に5〜6m℃の低下があり,その後上昇に転じていることが判明した.他方,京都大学鳥取観測所の超高性能地震計の記録によれば,P波立ち上がりが23時45分50秒前後、表面波の立ち上がりは23時46分45秒前後、表面波の大きなピークは23時47分前後である.現状では変化の全体を説明することはできないが,変化の開始時間のみに着目すると,表面波によって低温の帯水層の湧水量が変化し,それが水温の変化となって井戸上部に伝わっているように見える.これが事実とすれば,地震時の水温の変化が,地震の表面波によってもたらされるケースがあることを観測によって示した最初の事例となる.
著者
小林 哲夫
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

乾燥土壌面からの蒸発とは,土壌表面が乾燥して,水蒸気が土壌中でのみ生成される状態を意味する。したがって,日中,土壌表面温度が大気温に比べて極めて高くなりうるために,土壌表面付近では水蒸気密度だけでなく温度勾配も水蒸気移動の駆動力となりうる。その結果,従来の蒸発速度測定法の多くは,乾燥土壌面からの蒸発には適用不能となる。このような温度勾配が水蒸気の駆動力となる蒸発過程を非等温蒸発と定義し,その機構を明らかにしてモデル化した。さらに,非等温蒸発時の蒸発速度測定方を開発し,その有効性を実証した。土壌層を湿潤土層(WSL),相変換層(PTZ)および乾燥土層(DSL)に分類し,それらが表面に露出している状態を,それぞれ,蒸発の第1,第2および第3段階とした。第1段階では水蒸気の生成(相変化)はすべて土壌表面で行われるが,第2段階では表面に露出している厚さ有限のPTZ内で行われる。第3段階ではDSLが表面に露出し,乾燥土壌面からの蒸発に相当する。温度勾配の影響はDSLと大気の境界面付近で作り出され,小対流(MCJ)によって接地気層内に運ばれる。その結果,接地気分層内に湿度逆転(日中,高度と共に比湿が減少する現象)が発現する。温度勾配の影響はDSL内では比較的小さいので,DSL内の水蒸気上昇フラックスを評価して蒸発速度を推定するDSL法を開発した。また,リモートセンシングによって測定可能な土壌表面温度と厚さ5cmの表土層内の平均体積含水率のみを用いて評価できるようDSL法をパラメーター化したDSLバルク法を提案した。両方法は,鳥取砂丘とマサ土を用いて検証され,有効性が確認された。
著者
東城 清秀 渡辺 兼五
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

昨年度の研究結果から、雪室における切花の短期貯蔵は低コストで、生理学的にも安定した貯蔵環境を実現できることがわかった。しかし、一方で貯蔵後の花の開花について、特に赤色の発色に劣化が見られたことから、今年度は低温貯蔵中の切花の品質変化と発色について重点的に実験を行った。雪室の環境条件を低温、高湿度であると単純化した上で、実験室内の低温貯蔵庫を高湿度に維持できるように改造し、雪室の条件に擬して実験を行った。実験は雪室低温区(温度1℃、湿度100%)、一般低温区(温度5℃、湿度88%)、対照区(室温)の3実験区を設け、コーテローゼ(赤)、パレオ(オレンジ)、ティネケ(白)、コールデンエンブレム(黄)の4種のバラを各5本ずつ供試して湿式貯蔵を7日間行った後、室内に取り出しその後の様子を観察した。切花の品質として糖質を測定することとし、花弁のグルコース、フルクトース、スクロースの含量を貯蔵前後でガスクロを用いて測定した。花色は色彩色差計で、花もちは開花度で判定した。貯蔵中から貯蔵後にかけて4種の切花に花色の変化がみられた。ローテローゼは雪室区で花のくすみが観察され、出庫後の発色において他の実験区より劣化が見られた。パレオは雪室区と低温区ともに出庫後の花色の対照区のものより赤みを帯びた色であった。ティネケとゴールデンエンブレムでは貯蔵による花色への影響は観察されなかった。また、花弁の糖濃度の変化は雪室区のゴールデンエンブレムでは貯蔵前よりグルコースとフルクトースが増加したが、ティネケは逆にわずかながら減少した。また、ローテローゼとパレオでは糖濃度の変化はほとんど見られなかった。今年度はカビの発生についての調査も平行して進めたが、これについては今後も継続して調査し、発生防止対策を検討する必要がある。
著者
深澤 大輔 富永 禎秀 飯野 秋成 持田 灯
出版者
新潟工科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

ローコスト化を目指して二重屋根にして行った平成10年度の融雪実験では、積雪層下部に毛管現象によって融雪水が2cm程度吸い上げられ、表面張力によって下面に水幕を作ってしまうため、気温が氷点下になると融雪水が再凍結し、障害を生じた。そこで、平成11年度の実験では、メッシュの断面形状を水平から垂直に変更して行ってみた。その結果、各メッシュ毎に雪がめり込み、10cm程度垂れ下がるようになり、雪表面積が大幅に増加することにより融雪スピードが早まることが確認された。しかしながら、垂れ下がった状態で気温が氷点下になるとやはりその先端部分が再凍結してしまうため、その解決が課題として残った。この研究は、「密閉した雪山と水槽内における融雪が驚くほど良かった。」ことから始まっているが、それは「積雪層内のパイプが障害となって積雪層に粗密が生ずるために空洞が発生し、雪粒子間の空隙に通気が生じることからその空洞の表面の雪が融雪し、次第に拡大して雪室を形成した。また、この雪室は外気と遮断されていたため、その内部の気温は0℃よりも下がることはなく、逆にプラス気温時には温室効果が働き、再凍結が起きずに融雪が促進された。」ことが、この3年間の実験研究によって類推可能になった。このようなことから、「融雪水が再凍結するのを防止するために積雪で密閉される二重屋根とし、屋根雪の自重でその空洞部分にメッシュ毎に雪が自然に垂れ下がり、雪表面積を拡大させ、融雪を促進させる。」ことが効果的である。今回の最大の課題であった積雪層内部にもたらされる融雪エネルギーは、ゆっくりと伝わる外気ないし日射などによるもので、太陽からの電磁波放射の影響は小さいと考えられた。
著者
手塚 甫
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本課題の根本史料たる小学校教員養成学校卒業生の成績証明書に関し.昨年度その所在を確認しておいたが、本年度、現地に赴き、ウイーン市の小学校男子教員養成学校及びヴィーナー・ノイシュタット市の小学校教員養成学校に関し、1880年から1905年に至る全史科の写真撮影を完了した。合計約6000枚に及び、目下、その現像作業と平行して、鋭意整理を進めており、間もなく完了する。予定である.本卒業成績証明書には、卒業成績の他、出身地、信仰、父親の職業、奨学金取得の有無及びその額も記されており、これらを分析することによって、本課題の解明に大きな手懸りを得るものと期待している。なお数量的分析のみでなく、数人の指導的人物については、これまで伝記的に不明だった部分のいくつかを明らかにすることも出来た。尤もウィーン市の女子教員養成学校における当該期間の史料は、第二次大戦時の戦火によって焼失してしまったため完璧を期し得ないのは甚だ遺憾である。当面史料の分析を急ぎ出来るだけ早い機会にその成果を発表する予定である。なお、この分野に関する研究は、オーストリアに於ても手がつけられていないので、機会が得られれば是非ドイツ語でも発表したいと思っている.
著者
青井 啓悟
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は、先進的な分子設計概念により、全く新しい糖質大環状デンドリマーの創成を行うことを目的として行った。計画に従って、ポリリシンの側鎖アミノ基からポリ(アミドアミン)デンドリマー構築を行い、新しいシリンダー状高分子を得た。この反応では、市販のポリリシン臭化物塩をトリエチルアミン存在下アクリル酸メチルを用いたマイケル付加反応によりデンドリマー分岐構造に誘導した。表面アミノ基と糖誘導体置換セリンN-カルボキシ無水物(GlycoNCA)との高分子反応により、嵩高い糖の層を形成し、チューブ状の構造体を得ることに成功した。糖としては、N-アセチル-D-グルコサミンなどを導入した。シリンダー状デンドリマー内部の、ポリリシン部分の高次構造をIR測定、CD測定さらには中性子小角散乱により解析し、評価した。大環状ポリリシンを用いて、同様のデンドリマー精密構築と糖の導入により大環状糖質デンドリマーの合成が可能であり、大環状ポリリシン合成を試みた。ポリ(アミドアミン)デンドリマーの末端部分をヒドロキシル基とした新規重合体も合成し、高次構造の解析を上記と同様に行った。その結果、ヒドロキシル型でもナノスケールの円筒状の形態をとり、糖質を導入したものはより安定に円筒状となることが明らかになった。糖鎖シリンダー状デンドリマーの分子認識能を、実際に小麦胚芽(WGA)レクチンを用いた赤血球凝集阻害試験により調べた。4分岐型で優れた認識能を発揮することが分かった。また、電気泳動により、プラスミドDNAと安定な複合体を形成し、生体機能材料として有用な展望が開けた。
著者
吉新 通康 和座 一弘 鶴田 貴志夫 吉新 通康 五十嵐 正紘
出版者
自治医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

米国では、簡便で正確に精神疾患をスクリーニングするNew Prime-MDなる質問票の有効性が報告されている。そこで、日本でもこのNew Prime-MDの利用可能性、妥当性が保証されれば、これを利用して、鬱病の一般プライマリ・ケア外来での受診率、プライマリケアでの場での初期症状をも明らかにに出来ると考えた。また、米国については今までPrime-MDが実施されたデーターを使用した。まず、New prime-MDの日本語訳を作成した。次に都会型診療所1ヶ所、僻地診療所、自治医科大学の地域家庭診療センターの外来患者で一定期間の各診療所の外来患者の中で1)20歳以上、2)痴呆がない、3)緊急患者でない、4)本研究に対して同意の得た患者に対して(各診療所の100人計300人の患者) Prime-MDの記入と診察を終えた患者に対して患者満足度質問票に回答してもらい、質問票の回答を分析して、Prime-MDの日本での利用可能性や各主要精神疾患の受診率や、各主要精神疾患、特にうつ病の初期症状を米国のデーターと分類比較した。また妥当性を検証するために、プライマリ・ケア医師がPrime-MDによって診断し、次にDSM-IVに精通した精神、心理領域の専門家が、上記診療を終了直後にStructured Clinical Interviewに沿って、診断し、上記の2つの診断名の一致率(κ値)を求めた。以上の研究から、以下の新たな知見を得た。1) Prime-MDの利用可能性と妥当性は、日本においても高い。2)主要な精神疾患の受診率は、プライマリ・ケアの現場でかなり高い率である。3)うつ症状の初期症状として、多彩な身体症状を呈する。4)うつの身体症状として、日本では、特異的(腹部症状、肩こり等)なものが存在する。
著者
二井 一禎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

マツ材線虫病の病原体マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophllus)の日本国内での分化程度を調べるため、国内各地から採集した9つのアイソレイト間の特性比較を行った。まず、DNAのITS2(504bp)、及びHSP70A(378bp)領域の塩基配列を比較した。これらの領域は変異の蓄積しやすい領域であり、アイソレイト間比較には有効な領域であると考えられた。しかし、今回調査した9アイソレイト間ではいずれの領域でも塩基配列は完全に一致し、変異は認められなかった。また、これら9アイソレイトの塩基配列をこれまでの研究から明らかになっている海外のアイソレイトの塩基配列と比較すると、アメリカの1アイソレイトとITS2領域はすべて一致し、HSP70A領域でも高い相同性(99%)が得られ、日本国内のアイソレイトとアメリカのアイソレイトの近縁性が認められた。これは、日本国内のマツノザイセンチュウがアメリカからの侵入種であるという従来の仮説を支持するものであった。同時に、国内のアイソレイトがほぼ単一起源に近く、また、大きな分化のまだ起きていないかなり均質なものなのではないか、と考えられた。続いて、このように近縁なアイソレイトの形態や生理的特性に変異が生じていないのかどうかということを調査するために、これらの9アイソレイトに関して、形態を比較したところ、それぞれの値に関してアイソレイト間に有意差があることが明らかになり、形態においてはアイソレイト間に分化が認められた。次に,胚発生における発育ゼロ点に着目して温度に対する適応性をアイソレイト間で比較したところ、発育ゼロ点は7〜10℃となり、アイソレイト間に差があることが明らかになった。最後に、各アイソレイトの病原力に対する温度の影響を調べた結果、枯死実生の乾重、線虫数にはアイソレイト間差はみられなかった。一方、接種から枯死に至る所要日数に関しては、温度の影響、アイソレイト間差、それらの交互作用ともに有意性が認められた(二元配置分散分析)。さらに、100日目の段階における枯死率では、20、25℃の区でアイソレイト間差が認められた(カイ二乗検定)。
著者
松本 和紀 進藤 克博 松岡 洋夫 松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は脳内で行われる言語情報処理の早期の「知覚処理」から後期の「意味処理」への変換の仕組みとその相互作用を電気生理学的に解明していくために、事象関連電位を用いて早期の知覚情報処理に関わるNA電位と意味・記憶処理と関わるERP反復効果を指標に研究を行った。今年はNA電位とERP反復効果を健常者と精神分裂病者を対象に調べた。実験1:外国文字とかな文字との比較-刺激は非読外国文字、無意味かな単語、有意味かな単語の三種類。刺激は二文字からなり200m秒、2〜3秒の間隔で提示された。被験者はある意味範疇に属する単語に対してボタン押し反応をした。NA電位は非標的刺激に対するERPから単純反応課題に対するERPを差分して得られた。結果、NA電位は、三種類の刺激間で差が認められず、早期知覚処理では、意味の有無、日本語・外国語の違いなく同等に処理が行われることが分かった。健常者と分裂病者の比較では、分裂病者でNA電位の遅延が認められたが、刺激間の差はなかった。実験2:ERP反復効果とNA電位の比較-刺激は二文字からなるかな単語で、標的は動物の意味をもつ単語で非標的はそれ以外のかな単語。非標的の半分は初回に提示される単語で、残り半分は直後反復される単語と平均5単語間隔をおいて遅延反復される単語とに分けられた。単純反応課題も施行され、実験1と同様の方法でNA電位が計測された。結果、反復単語に対してCzを中心に全般性にERPが陽性方向へシフトするERP反復効果が認められた。NA電位とERP反復効果とは振幅や潜時に相関は認められなかった。一方で精神分裂病では、直後反復でのERPで反復効果の減弱が認められた。この結果、知覚の早期処理と記憶処理とでは、ある程度独立した機構が並行した処理を行っている可能性が指摘され、精神分裂病では知覚の早期処理の遅延と、記憶や意味と関連する電気生理学的活動の減弱が推定された。
著者
五十嵐 尚美
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

1. 性暴力について看護者の認識とその変化要因に関する調査研究目的:看護婦の性暴力に関する認識とその変化要因に関して明らかにし、看護ケアの方向性を探る。研究方法:平成8年度から継続している学習グループを計5回の学習会を開催し、そのうち1回は部外者によりファシリテーターを行い「性暴力被害者への看護の役割」に焦点をあてる「フォーカス・グループ・ディスカッション」を行い質的に分析を行った。また、学習グループ主催で、1回の看護婦対象にした講演会を開催し、参加者よりアンケートへの回答を得た。結果:「フォーカス・グループ・ディスカッション」においては、性暴力被害者の実態を理解するならば、被害者を見逃すことが少なく、最小限でも現実的なケアできる、という結果であった。講演会では、看護系雑誌に学習会主催という広告を出し、30名の看護婦が出席。地域は神戸から東京在住者であった。被害者へのケアに関する悩み、被害者経験を有する者もおり、看護ケアを積極的に推進するニーズが高かった。2. 医療機関における性・暴力被害者の受け入れ実態調査研究目的:医療機関における性・暴力被害者の受け入れ状況につい実態を把握する。研究方法:前年度の調査票を簡略化し、回収率を上げ、東京都2区にて医療機関の実態をより正確に把握する。警視庁のデータとのつき合わせをする。研究結果:3年間フォローしてきた東京都の2つの区における病院外来診療部、医療機関400箇所を対象に調査票を配布した。前年度は回収率25%であったが、今年度は35%と若干の伸びが見られた。医療機関における性・暴力被害者受け入れ状況は、警視庁報告より多いことがわかった。また詳細な事例報告の中には、ドメスティックバイオレンス(夫やパートナーからの暴力)の割合が7割をしめていた。今後とも実態を把握することの必要性がある。3. 医療機関における性暴力被害者への看護マニュアルの開発学習グループを中心に当該病院において実現可能なマニュアルを作成中である。マニュアルの評価も今後の課題として残るところである。
著者
徳井 教孝 南里 宏樹 三成 由美
出版者
産業医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

植物性蛋白分解酵素パパインの摂取によって、酸化ストレス抑制効果があるかどうかを二重盲検法による介入研究を用いて検討した。対象者は北九州市に在住の老人会に所属する60歳以上の高齢者である。研究内容を説明し47名から承諾を得た。無作為に2群に分け、介入群はパパイン酵素40mgを含むふりかけを1日3回摂取し、非介入群はパパイン酵素を含まず、他の成分は同一のふりかけを1日3回摂取するようお願いした。研究開始前に1名が入院し、研究期間中に3名が中止したため、摂取完了者は43名であった。摂取状況は、1日ごとに対象者が摂取状況を記入した。摂取期間は40日間で、摂取前後で採血、採尿を行った。2群間で酸化ストレスマーカである尿中の8ハイドロキシグアノシン(8-0HdG)をクレアチニン値で除した8-0HdG/クレアチニン値の変化を比較した。介入群の摂取前後の尿中8-0HdG/クレアチニン値は0.056±0.023、0.056±0.026、非介入群は、0.050±0.017、0.052±0.019であった。変化率はそれぞれの群で5.1±24.7%、6.3±6.06%を示し、両群の間で有意な差はみられなかった。消化酵素摂取により酸化ストレス抑制効果は認められなかったが、これまでの研究では2週間の野菜・果物摂取により酸化ストレスマーカが減少することが報告されており、今回の結果がタンパク質の消化による酸化ストレス抑制への影響が小さいのか、抗酸化食物摂取の絶対量が少ないのか、今後検討する必要がある。
著者
大坪 滋
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では先ず昨年度において、市場主導型地域貿易協定、政策主導型地域貿易協定の過去から現在にいたる動向調査を行い、次に、APECの進化態様に関する応用一般均衡世界貿易モデル分析では、APECが開かれた地域主義へ、自由貿易世界へと流れる内在誘因を有していることが明らかにされた。本年度においては、海外直接投資(FDI)を通して統合の進む世界経済を俯瞰し、その経済効果を供与国側と受領国側の両面から分析した。まずは、FDIの形成要因やそのインパクトに関する理論的考察と実証的研究のサーベイを行った。次に、FDIの効果にかんして、特に「雇用」や「国際収支」に及ぶ影響について、多くの議論が短期的、部分均衡的であり、FDIというミクロ経済行動の効果が、マクロ経済面にこの様な形で現れると主張することの間違いを正した。規模の経済や不完全競争市場というFDIに纏わる特有の市場構造や、長期における貯蓄・投資バランスへの影響を加味する為に、再度応用一般均衡分析を試み、その結果を政策提言としてまとめ、セミナー活動も行った。一部は「経済分析」に他の部分は名古屋大学APEC研究センターのディスカッションペーパーとするとともに、学術雑誌に投降中である。また、これまでの研究を総合して、本にまとめる作業に取り掛かっている。
著者
高田 春比古 根本 英二 中村 雅典 遠藤 康男
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

報告者らはこれまでに、i)歯周病関連細菌のLPS,口腔レンサ球菌ならびにCandida albicansより調製した細胞壁画分を、細菌細胞壁ペプチドグリカンの要構造に当たる合成ムラミルジペプチド(MDP)を前投与したマウスに静脈注射すると、アナフィラキシー様ショック反応を惹起すること、ii)LPSによるショック反応の背景には血小板の末梢血から肺等への急激な移行と、臓器での凝集・崩壊、それに続発する急性の組織破壊が起こっており、MDPはこのような血小板反応を増強すること、iii)さらに、一連の反応の成立には、補体が必須であることを明らかにしてきた。本研究の当初の計画では、マンナンを主要構成多糖とするC.albicansの細胞壁がmannose-binding lectin(MBL)と結合して、所謂レクチン経路を介する補体活性化を起こす結果、血小板崩壊に続発するアナフィラキシー様反応が起こるとの作業仮説の実証を目指していた。しかし、研究の途上で、マンノースホモポリマー(MHP)を保有するKlebsiella O3(KO3)のLPSに極めて強力なショック誘導作用を認めたので、先ず、MHP保有LPSを供試する実験を実施した。即ち、横地高志教授(愛知医大)より、KO3の他、E.coli O8とO9(いずれもMHPよりなるO多糖を保有)さらに、O8およびO9合成酵素をコードする遺伝子をE.coli K12(O多糖欠くR変異株)に導入して得た遺伝子組替えLPSの分与を受けて、MHP保有LPSが例外無く強力なショック反応と血小板反応を惹起すること、さらに、松下操博士(福島医大)の協力を得て、MHP保有LPSはヒトMBLと結合して、血清中のC4を捉えて、補体系を活性化することを証明した。