著者
尾崎 博明 越川 博元
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

木材腐朽菌に属する白色腐朽菌により,有機塩素化合物などの各種有害有機物を分解する新しい環境浄化方法を開発することを最終目的として,本研究では、数種の白色腐朽菌(子実体としての"きのこ"を形成するもの、形成しないもの)の最適増殖条件のほか、それらによる上記有害有機化合物等の最適分解条件及び白色腐朽菌が生産する酵素の活性との関連等について検討を加えた。得られた主な結果は以下の通りである。1.当該研究者らは従来、研究用の白色腐朽菌であるPhanerochaete chrysosporium(きのこ無形成)を対象として、Kirkらの培地を基礎としてさらに栄養源を調整した培地により上述した検討を行ってきた。さらに、ヒラタケ(Pleurotusostreatus)、カワラタケ(Coriolusversicolor)、シイタケ(Lentinula edodes)等の食用または一般によく観察される白色腐朽菌(きのこ形成)についても検討を加えたところ、上記培地がそれらの菌の増殖に同様に適当であるが、増殖速度はカワラタケ>ヒラタケ>シイタケの順に大きく、菌種により相違があることが明らかになった。各菌種の最適な培地及び最適環境条件についてはさらに検討を続けている。2.Phanerochaete chrysosporiumはリグニンペルオキシダーゼ(LiP)とマンガンペルオキシダーゼ(MnP)の2種の菌体外分解酵素を生産するのに対し、同様の栄養及び環境条件下において、ヒラタケ、カワラタケ、シイタケはマンガンペルオキシダーゼとラッカーゼ(Lac)を主に生産し、LiP活性は無いかあるいは微弱なものであった。Phanerochaete chrysosporiumが2,6-DCPなどの有機塩素化合物やアゾ染料を分解することはすでに確認しえたが、他の白色腐朽菌による有害有機化合物の分解性については実験中であり、MnPやLacの作用につきさらに詳細な検討を行う予定である
著者
近藤 滋
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

魚類には、皮膚にストライプ模様を持つものが多い。ストライプの形成原理に関しては、その成長に伴う変化から、反応拡散モデルが適用できることが解っている。しかし、その分子、遺伝子レベルの解明は未だなされていない。ストライプ発生のメカニズムを考えるとき、その波が発生する場についての情報が必須であることはもちろんであるが、魚の皮膚に関しては、その皮膚構造と模様との関係は明らかになっていなかった。そのため、本年度は光学、電子顕微鏡を使い、皮膚の微細構造が模様とどのようなかかわりがあるかについて検討することを目的とした。研究対象としては、今年からはプレコストムスに加え、zebrafish, Genicanthus類のキンチャクダイを用いた。顕微鏡による詳細な観察の結果、皮膚内の微細構造は普段外から見ている模様の部域差以上に複雑であることがわかった。特に、インターストライプの領域が3つに分かれていることが判明し、目に見えるメラノフォアの分布以上に複雑な構成になっていることが解った。さらに、皮膚内のそれぞれの層に存在する細胞群の同定を行った結果、多くの場合メラノサイトよりも、iridophoa(銀色の反射板を持つ細胞種)が構造の細かい部域差を見せていた。今後、模様形成に関与する細胞の候補として注目すべきである。また皮膚内に存在する鱗の基部が縞模様の方向性に関与することが明らかとなった。
著者
近藤 滋
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

結果 ゼブラフィッシュにおいてもタテジマキンチャクダイで観察されたものと同様な、成長に伴う模様の変化を観察した。ゼブラフィッシュの体表に分布するメラノサイト移動を経時的に観察することにより、(1)メラノサイトの移動は、ごく初期にのみおき、実際に模様形成がおきるときには移動しない。模様の形成は個々のメラノサイトの濃淡の変化でできる。(2)これは他の魚類でも同じであり、模様形成メカニズムに一般性があることが解った。次にクローニングのターゲットとして今のところ最有力なのはleo遺伝子であるが、これが実際に反応拡散波形成の中核に位置する分子をコードしていることを以下のようにして確認した.leo locusの対立遺伝子 wild,t1,tw28,tq270は、ホモの個体を作ると4通りの模様ができるが、それらはいずれも反応拡散方程式の1つのパラメーターを連続的に変化させることにより、作り出すことができる。2つのホモの個体のパラメーターの中間の値をとったときに計算される模様と、実際のヘテロの個体の模様が一致すれば、この遺伝子が「反応拡散波に影響している」という極めて強い証拠になるが、今までのところ、かなり予測と近い結果を得ている。また、別の突然変異で、ストライプの幅が変化するもの(td15,td271d)との二重変異個体についても、ほぼ計算予測と近い結果を得ている。結論 leo遺伝子は反応拡散波を作る因子に直接関与する遺伝子(おそらくアクチベーターの合成をコントロール)で有ることはほぼ間違いと思われる.この結果は98年分子生物学会のワークショップにて発表済みであり、現在論文を準備中です。
著者
奥津 哲夫 渡邉 興一 平塚 浩士
出版者
群馬大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究では、「光による結晶成長制御が可能であることを示すこと」を目的とし、研究期間内に以下の実績が得られた。光で結晶成長させることが可能であるような系の探索を行った結果、1.有機結晶を用いた系分子性結晶であるアントラセンを用い、結晶が懸濁した溶液にパルスレーザー光照射を行った。アントラセン結晶が溶解し、同時に新たな結晶の出現と成長が観測された。レーザー一光子で結晶相の分子4〜5分子が溶液相へと溶解した。このため、結晶表面がパルス励起されると、飽和溶液中に分子が溶解し過飽和状態となり、結晶成長の駆動力を生じることが判明した。このことから、光により結晶成長制御を行うことが可能であることが示された。2.無機化合物結晶結晶を用いた系無機化合物として硫酸銅結晶を用いた。レーザー光照射を行うと、結晶は溶解するのみで新たな結晶の出現・成長は観測されなかった。36光子を吸収することにより一分子が溶解した。光照射を行いながら結晶成長を行ったところ、光照射により結晶成長は著しく遅くなることが判明した。このことから、光照射を行うと結晶表面の温度が上がり、溶解度が上昇するため、成長速度が遅くなることと解釈した。光照射を特定の面に行うことにより、その結晶面の成長を制御することが可能であることが判明した。3.結晶表面に吸着物質を吸着させ、光で剥離させることにより特定の面を成長させる試み硫酸銅結晶にゼラチンあるいはシアニン色素を吸着させ、結晶成長を抑制させた。この結晶にレーザー光を照射し、表面の吸着物質を剥離させた。この結晶を飽和溶液中に吊し、結晶成長させたところ、レーザー光を照射した面の結晶成長が観測された。
著者
上田 信 金子 啓一 上田 恵介 阿部 珠理 佐々木 研一
出版者
立教大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

前年度から引き継がれた問題点前年度は、NGOに関する情報収集と、NGOに関心を持つ大学教員に対する聞き取り調査を行い、基本的な認識を得るように努めた。今年度は、研究の焦点を緑化NGOに定め、その行為に参画し、実践的に研究を進めた。(1) 緑化リーダー養成講座GENは中国の沙漠化地域の一つである山西省の高度高原において、現地の青年連合会とパートナーシップを組んで緑化活動を行っている。そのなかで、現地の植生の調査、育苗・植林技術の向上、病害虫被害の分析などにおいて、大学教員や元教員と連携を図っている。その主なメンバーを招き、「緑化リーダー養成講座」というタイトルのもと、講演会を開催し、そのNGO経験に関するデータを集めた。(2) ワーキングツアーチコロナイは北海道でアイヌ民俗が多く住むニ風谷において、アイヌ文化の基盤となる森林の再生を目的とするナショナルトラスト活動である。毎年、数度にわたり現地においてワーキングツアーを企画しており、上田が参加して大学とのパートナーシップの可能性を探った。その結果、ナショナルトラスト活動は自然と文化と生活とを総合的に考察する機会を与えるものであり、ワーキングツアーは有効な教育の場となりうることが明らかとなった。(3) 文学部集中合同講義「アジア・開発・NGO」大学の学生のNGOに対する取り組みを調べるために、文学部の集中合同講義にNGOを取り上げた。学生にNGOが企画したシンポジウムやイベントの情報を提供し、興味を持ったものに参加するように促した。その結果、学生のNGOに対する目を開かせるためには、きめの細かいサポートが必要であることが明らかとなった。(4) サポートセンターの必要性以上の研究・調査の結果、大学とNGOのパートナーシップを構築するためには、両者の事情に精通したものがマッチンキグさせるための第三者的なサポート体制をつくる必要があることが明らかとなった。今後は、そのサポートセンターの設立の条件などについて、実践的に研究を展開させてゆきたい。
著者
因 京子 松村 瑞子 日下 みどり
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は,日本の少女・女性マンガを素材として日本人学生と留学生を対象に,日本文化と日本語についての理解と考察を深めそれを明確に言語化する能力の涵養を目指す「異文化理解コース」のための教材を開発することである。行った主な活動とその成果を次にあげる。1.日本マンガの特徴の分析:海外のマンガとの比較によって日本マンガの特徴を検証し,また,日本マンガが他の国のマンガや他の表現分野に与えた影響を考察した。(→平成14年に単行本『(仮題)世界マンガ事情』として刊行予定。)2.マンガ作品研究:日本の現代社会を理解する鍵となると考えられる作品を中心に主題分析を行った。単行本『マンガのススメ』を刊行した。また,学習者用の手引きを執筆した(→報告書所収)3.マンガ言語の分析:社会的な文脈の中での「ていねいさ」の表現,女性語の使用,口語表現に特に焦点を当てて行った。4.教材化の方法論研究:教材選定のための基準,コース・デザイン,タスク作成方法などについて考察した。5.教材作成:コース用教材2学期分と発展研究用資料を執筆し,研究代表者の所属する機関で試用した。(→報告書所収)以上の研究成果は,3本の論文,2冊の単行本,3つの口頭発表によって発表した。論文は作成した教材とともに報告書に収録し,留学生教育,国際化教育に携わる関係諸機関に送付する。
著者
西川 青季 上野 慶介 井関 裕靖
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は,調和写像の無限遠境界値問題を一般の負曲率等質リーマン多様体に対して研究することである.このような空間の中で,カルノー群とよばれる巾零リー群の1次元可解拡大として得られる「カルノー空間」は,対称空間の一般化として重要なカテゴリーをなす.本研究の目標は,このカルノー空間のカテゴリーにおいて,理想境界として現れる巾零リー群上の幾何学・解析学と,内部領域として現れる可解リー群上の幾何学・解析学の相互関係を,「調和写像の無限遠境界値問題」を通して調べることであり,そのためにはまず,解として得られる調和写像の無限遠理想境界の近傍での正則性(微分可能性)を詳しく調べる必要がある.昨年度の研究において,研究分担者・上野は,「複素双曲型空間形から実双曲型空間形への固有な調和写像で,無限遠境界まで連続的可能性をもって延びるものは存在しない」ことを証明したが,その際調和写像の無限遠境界での正則性は,カルノー空間の不変計量の無限遠境界の近傍での発散のオーダーと密接に関係することが明らかになった.今年度は,この点に関してさらに考察し,次の結果を得た.1.定義域のカルノー空間のステップ数が,値域となるカルノー空間のステップ数よりも小さい場合(例えば,複素双曲型空間形から実双曲型空間形への場合),無限遠境界の近傍での不変計量の発散のオーダーが同じであっても,固有な調和写像の無限遠境界の近傍での漸近挙動は,その境界値から完全には決定できない.2.定義域のカルノー空間のステップ数が,値域となるカルノー空間のステップ数よりも大きいか等しく,かつ無限遠境界の近傍での不変計量の発散のオーダーが同じである場合には,固有な調和写像の無限遠境界の近傍での漸近挙動は,その境界値から完全に決定される.西川はこの結果を,上海で開催された国際研究集「International Conference on Modern Mathematics」において,招待講演として発表した.
著者
井田 齊 林崎 健一
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

ホルマリン中に長期保存されていた魚類標本からDNAの回収と増幅が可能となれば、過去に蓄積された標本を再利用して遺伝学的検討を行うことができ、水産学のいろいろな分野への応用が可能となる。しかし、ホルマリン固定標本では、保存中にDNAが断片化されており、また、組織の溶解も困難であると考えられる。それゆえ本研究では、断片化されたDNAを効率よく回収することを主眼として、DNA抽出手法の改良を行った。また、本手法を用いて回収されたDNAがどの程度利用可能かをPCR増幅可能長を基準として検討を行った。実験には約20年前までのシロザケ稚魚ホルマリン標本(ホルマリン固定後エタノールに置換したものも含む)の体側筋を用いた。組織の融解に関しては、高濃度の尿素をふくむTNESバッファー中でproteinase Kの連続添加が有効的であった。また、フェノール抽出の際には、遠心後の有機層からの逆抽出を行うことにより断片化したDNAを効率よく回収することができた。回収されたDNAのサイズを電気泳動により比較したところ、ホルマリン固定後数カ月を経過した後は、断片化の程度と保存期間の長短との関連は明確でなく、むしろ固定時の条件に左右されたものと考えられた。PCR増幅に関しては、ホルマリン標本はRAPD法には適さないことが明らかとなった。しかし、mtDNAのcytochrome b領域に関しては、約400塩基対まで増幅が可能であった。さらに、増幅産物をsequencingに供することも可能であったことから、魚類のホルマリン標本を用いてのDNA解析は、一般に困難ではあるが、抽出手法を改良することにより、短い領域を対象とすれば可能であることが明らかとなった。
著者
嶌原 康行 飯室 勇二 河田 則文 山岡 義生
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

【目的・方法】PDGFシグナルは肝星細胞の増殖に関与するが、NACによる肝線維化の防止効果とその機序について検討した。ラット肝から星細胞を分離し、PDGF刺激下の細胞内シグナル伝達をWestern blotで、RNAをNorthern blotで解析した。蛋白分解酵素阻害剤;E64、leupeptin、pepstatin A、CA074にて、蛋白分解の機序を解析した。チオアセトアミド肝線維症ラット、胆管結紮ラットに対して、NAC(100mg/body)を毎日6週間投与した。また、6週間TAA投与後、NACを投与した。【結果】NACのチオール基によってPDGFレセプターのヂスルフィド結合を解離し、星細胞から細胞外へ分泌しているカテプシンBによってPDGFレセプターを分解することが明らかとなった。また、このNACの分解作用は、TGF-betaレセプターIIやN-CAMなどのIgGタイプの細胞表面タンパクにも認められた。さらに、PDGFレセプターの分解により、それ以降の細胞内シグナルを抑制し、星細胞の増殖を抑える。また、これは血管平滑筋細胞でも認められた。さらに、チオアセトアミド誘導肝線維化モデル、胆管結札ラットでNACが抗線維化効果を発揮することを確認した。【考察】NACのレセプター分解という新たな作用を発見し、それによってシグナルを抑えることが明らかになった。通常は、細胞外は酸化状態であり、カテプシンBは不活化しているが、NACの投与により、細胞外を還元することにより、カテプシンBを活性化させると考える。また、NACの抗線維化作用は、カテプシンBのコラーゲン分解作用も加味していると考えられる。以上より、我々はNACが分泌カテプシンBを利用してPDGFレセプター、TGF-betaレセプターIIの細胞外分解を誘起することを確立し、その作用が肝線維化治療に効を奏することを発見した。
著者
小林 昭雄 藤山 和仁 梶山 慎一郎 福崎 英一郎
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では、食虫植物の栄養獲得機構に関する予備的な知見を得るために、モデル植物としてウツボカズラ科の食虫植物を用い、捕虫袋内部に分泌される消化酵素や分泌液に関する基礎データの収集を行った。まず、捕虫袋分泌液に含まれる消化酵素の種類を明らかにすべく、各種加水分解酵素の活性測定を行った。予備実験において、蓋(ふた)が開く前の未成熟捕虫袋分泌液は無菌状態であった。一方、昆虫が捕らえられた捕虫袋分泌液は、外見上透明であり、腐敗臭は全く認められないが、数種類の微生物の存在が確認された。その中にはプロテアーゼを分泌するものも存在することが判明した。そこで、植物由来の酵素のみを分析するために、ほぼ無菌的な蓋が開いた直後の捕虫袋分泌液を酵素活性測定に使用した。その結果、プロテアーゼ、エステラーゼ、ホスファターゼ、RNase.DNase、ホスホリパーゼD、キチナーゼといった、少なくとも7種類の酵素活性が存在することが明らかになった。このうちプロテアーゼに関しては、プロテアーゼインヒビターを用いた阻害実験がら、アスパラギン酸プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ)である事が判明した。一方で、捕虫袋分泌液のpHは蓋が開いた直後で4.0 4.8、獲物が捕らえられると3以下にまで低下することが予備実験で観察されていた。そこで、分泌液が強酸性を示す原因を探るために、分泌液に含まれる各種無機イオン濃度を測定した。その結果、プロトンの他にK^+とCl^-が高濃度(それぞれ、650 760ppm、530 600ppm)含まれることが明らかとなった。このことから、分泌液の酸性pHは、哺乳類の胃の内部と同じく塩酸の分泌によるものと推測された。以上の結果から、捕虫袋分泌液には昆蚤の消化に必要な消化酵素が一揃い存在し、これら消化酵素と分泌液のpHの低下が本植物の栄養獲得過程において重要な役割を果たしていることが示唆された。今後のさらなる研究により、根以外の部位からの低分子の吸収機構が明らがとなり、葉面がらの効率的物質吸収に関する新しい知識が集積されることが期待される。
著者
岡山 隆之
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

稲わらを原料として酸素アルカリ蒸解を行い、水酸化ナトリウム濃度、蒸解温度、蒸解時間、酸素濃度の影響について検討したところ、蒸解温度及び蒸解時間の増加に伴ってパルプのシリカ含有量が増加することが判明した。稲わらの酸素アルカリ蒸解は通常のアルカリ蒸解に比べて蒸解液中に一旦溶出したシリカの再沈積量が増加した。蒸解中におけるシリカの再沈積現象は、蒸解液の残留アルカリ濃度の低下及び、これに伴うpH値の低下と密接に関連していることを確認した。酸素アルカリ蒸解パルプ繊維シートはアルカリ蒸解パルプに比べて、密度や引張り強さが低下したが、白色度や比散乱係数のような光学特性の向上が認められた。さらに、酸素アルカリ蒸解パルプではシートの空隙率が大きく、多孔性を有し、特に直径1μm以下の細孔が広く分布していた。また、これらの微細な細孔の量は叩解処理によってほとんど変化しなかった。SEM-EDXAによる観察から、微細な細孔は主としてシート中に多量のシリカが存在することによってもたらされていることが判明した。シートの液体浸透性を測定したところ、酸素アルカリパルプでは水の浸透速度が速くなり、シート中にシリカが残存していることによるものと推測された。さらに、シートのインクジェット記録特性を評価したが、酸素アルカリ蒸解パルプ繊維シートに印字されたドットは、円形度及び印字濃度が最も高く、ドット面積のバラツキも少なく、市販のインクジェット用にに近い記録品質を示した。
著者
矢内 桂三
出版者
岩手大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

田沢湖は海抜249m、水深423m(湖底は海抜-174m)の巨大なサークル状凹地である。田沢湖の成因(起源)は今だ謎のままであるが、次の4つの可能性が考えられる。つまり(1)噴火口(火山噴火による火口湖)説、(2)構造的陥没湖説、(3)隕石衝突孔(メテオライト インパクト クレーター)説、(4)その他の説である。初年度と次年度は湖岸域から、多数の岩石資料を採取し顕微鏡により観察した。また、秋田大学工学資源学部に保管されている数個の湖底からドレッジされた貴重な岩石を含む大量の岩石サンプルについても検討してきた。しかし、隕石衝突による特異な岩石種(角礫岩やシャッターコーンなど)はまだ確認できていない。また、この間に国外の隕石衝突孔(米国のオデッサ・クレーター)などを現地調査し、田沢湖と比較検討を行ってきた。隕石衝突時の衝撃によって隕石孔から大量の物質を放出する例が国外には多く知られている。このため本研究の最終年は田沢湖の外側数キロ地点までの野外地質調査を実施し、多くの試料を採集し顕微鏡により観察した。しかし、この地域に於ても衝突によると思われる現象は今のところ確認できていなし、衝突起源の岩石サンプルも得られていない。田沢湖の成因については(1)の噴火口説は地質学的に否定されているし、(2)陥没湖説もサークル状に400m以上も陥没することが可能なのかどうか疑問である。(3)の巨大隕石衝突の可能性を一番に考えたいが、今だ確かな証拠は得られていない。もしかしたら、第4の説(いわゆる伝説)がこれからも続くのかもしれないが、一片のインパクタイト(衝撃石英や衝突球粒などの衝突起源物質)の発見が、田沢湖を日本初の隕石衝突孔にするはずである。今後も湖底からの岩石採集や周辺地域の詳細な野外地質調査等を続けなければならない。
著者
竹内 俊郎 吉崎 悟朗 酒井 清
出版者
東京水産大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

閉鎖生態環境という1つのモデルの中で、魚類を産卵・ふ化させるとともに、植物・動物プランクトンを用いた系により仔稚魚を飼育し、ひいては継代繁殖を目指す閉鎖型水棲生物複合飼育システム(閉鎖生態系循環式養殖システム、Controled Ecological Recirculating Aquaculture System;CERAS)を開発するための基礎的知見を得ることを目的とした。本研究では閉鎖型飼育システムの設計および製作、水棲生物飼育による水質維持評価実験、植物プランクトンによるティラピアの飼育実験を行い、成長や魚体に及ぼす影響を調べた。その結果、密閉式水槽を用いた実験では、ティラピアを密度20g/Lで17日程度飼育できることが明らかになった。この間、ティラピアの成長は順調であったが、水質の悪化は著しく、とくにアンモニアの増加が顕著であった。この原因としては、濾過槽の能力が魚のアンモニア代謝(排泄)量の6割程度しかなかったためと推察された。飼育日数の経過に伴い、流量の低下も招いた。これは、酸素供給ユニット内での目詰まりによるものであった。今後、ユニットの構造自体の改良が必要であろう。また、pHも6を下回る傾向を示し、この低下はアンモニアの分解能力を低下させることになる。次に、植物プランクトンとして今回はスピルリナを用いティラピアの飼育実験を行ったところ、ティラピアの成長は市販飼料区が優れていたが、乾燥スピルリナのみでも十分に生育させられることが分かった。また、6週間程度の飼育で魚体脂質中の脂肪酸組成が大きく変動することが明らかになった。本研究により密閉型循環式魚類飼育装置の開発に関する基礎的知見が得られるとともに、水棲生物の食物連鎖の一端を確立する目途が立つなど、CERAS構築に向けた萌芽的研究が遂行できた。
著者
田中 雅夫 柳 雄介 小川 向洋 水元 一博
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

我々は予後が極めて不良な膵癌に対する免疫遺伝子治療に取り組んでおり、これまでに以下の成果をあげた。(1)in vitroにおけるサイトカイン発現の確認:ハムスター膵癌細胞に各組換えウイルス(IFN-γ、GM-CSF,MCP-1)をMOI 0、10、50、100の感染効率で感染させ毎日、7日後まで上清を採集、ELISAにてサイトカインの放出量を測定した、各サイトカインはMOI依存性に腫瘍細胞より放出され、3目目に最高レベルで放出され1週間後には極少量となった。(2)放出されるサイトカインの生物学的測定:IFN-γはvesicular stomatitis virus plaque inhibition assay, GM-CSFはマウス骨髄細胞を用いたcolony forming assay,MCP-1に対してはTHP-1 細胞(human monocyte)を用いた。chemotaxis assayにより測定した。放出された各サイトカインは生物学的活性をもつことが証明された。(3)in vitroにおける腫瘍増殖:24穴プレートの各wellに2x10^3個の細胞をまき2日後にウイルスをMOI0,10,50,100で感染させ細胞数を各群3穴ずつ、24時間おきに4日後まで計測した。IFN-γのみ腫瘍増殖をMOI依存性に抑制した。(4)in vivoにおける腫瘍増殖:6穴プレートに各ウェル1x105の腫瘍細胞をまき2日後にウイルスをMOI 100の感染効率で感染させ2時間後に100Gyのγ線照射を行い、その翌日ハムスターに腫瘍ワクチンとし1x10^6個の細胞を皮下に注入(n=10)、7日後に1x10^5個のγ線照射を行っていない腫瘍細胞を皮下にチャレンジした。腫瘍ワクチンの実験系においては、GM-CSFが1ヶ月後に95%の抗腫瘍効果を及ぼした。MCP-1及びIFN-γは効果が認められなかった。皮下移植腫瘍にてGM-CSFに抗腫瘍効果が認められたので、in vivoでの肝転移に対する効果についてGM-CSF遺伝子組換えウイルスを用いて現在検討中である。
著者
鎌江 伊三夫 柳沢 振一郎 石井 昇
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

敦賀湾における核事故を想定した医療対応力に関して、北陸・東海・近畿の部の医療機関にアンケート調査を実施した。その結果、ヨウ素製剤の備蓄・重症熱傷や骨髄抑制の治療などの急性期治療は、限定された人数なら対応可能であるが、大規模事故にて多数の被爆者が出た場合は対応が困難であることが推定された。敦賀湾限定の核事故におけるヨウ素製剤投与に関しては、確認された備蓄量11万人分という数量から推測して、準広域にて十分な対応が可能と思われるが、大都市を含む大規模災害となった場合の必要数と供給には2桁ほどの乖離が予想された。広域避難に対しては転送手段・受け入れネットワークにも課題が確認された。また、NBC災害や大規模災害に対する災害対応マニュアルを含めた準備態勢にも問題が見受けられた。一般施設の被災に関して、施設間転送ネットワークや各種災害マニュアルなどは比較的低予算で整備することが出来、ほかの各種災害に援用可能なシステムもあるので、積極的な整備が望まれる。災害拠点病院や県立病院単位でのネットワークは整備されているが、ネットワーク外に置かれている私立病院をはじめとする施設と患者が存在する。特に広域避難に関しては、個々の施設や自治体の対応の限界を超えた問題が多い。行政や関連学会の補助が必要と考えられるなど、今後の対策要件等について明らかにすることができた。避難区域が広域となった場合や大都市が発災中心となった場合、さまざまな医療措置が不足となる事態が想定される。例えば本研究の調査では、人工透析通院数と余剰受け入れ可能数の乖離が確認された。政策における余剰医療設備の適正量の決定は、医療経済的な側面からだけではなく社会安全保障の側面からの検討も必要との示唆を得た。
著者
茆原 順一 小林 佳美 萱場 広之
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

気管支喘息に代表されるアレルギー性疾患は,アレルギー性炎症疾患として捉えられている.古典的な炎症の定義から考察するとアレルギー性炎症として「発熱」という現象に対する検討はまだされていない.そこで,気道炎症の「発熱」を呼気温度の測定にて捉え得るのではないかと着目し,基礎的検討を行った.フローボリウム測定と瞬時に温度変化を捉えられる高感度温度計を組み合わせ,はじめに安定した測定条件の検討を行った.最大吸気から呼出までの条件,最大呼気条件による呼気測定の温度センサーの位置をマウスピースの中央,マウスピースより咽頭側,鼻マスクで検討を行った.この結果最大吸気後ゆっくりとゆっくり呼出させる方法で,温度センサーをマウスピースを咽頭側で測定した際,最も安定した測定値が得られた.次に単位面積当たりの熱エネルギー量(W/cm^2)を表す呼気熱流速と呼気温度のピーク値の体温補正値(呼気温度測定値と体温の比で表したもの)を健常者の各条件で比較した.その結果,呼気熱流速は呼気温度に比べて温度変化に敏感な値を示した.さらに呼気温度のピーク値は性別や喫煙の有無で差が認められたが,熱流速には差を認めなかった.呼気温度と呼気熱流速の両方を用いることで気道炎症の新しい指標になりうると考えられた.
著者
佐々木 保行 大日向 雅美
出版者
鳴門教育大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は,パタニティ・ブルーとよばれる子どもの誕生から3か月位までの間にみられる,父親の役割をめぐる心理的動揺や葛藤による心身の症状を指す現象についての研究である。1987年にプルーエットがはじめて指摘した現象であるが,今日,子育てにおける父親の役割や父親になることの意義等に関する内外の研究が隆盛であるにもかかわらず,その発生のメカニズムの解明と防止策については,全くといってよいほど触れられていない。本研究は,少子化の問題や核家族に関する研究の蓄積が従来とくらべ顕著になっているが,父親と子ども,さらには父親と子育てという社会的,今日的課題を深める上で,父親の心理社会的対応をより細かく実現するためにも,これまで注目されなかった課題を取りあげることによって,父親研究をより推進する役割をになうことになる。本年度は,これまでのパタニティ・ブルーの特徴をチェックする質問項目の選定とその関連研究を,再度洗い直しをして,本研究の意義を確認する作業を実施した。チェック・リスト等は近々,学会や研究紀要等で発表する予定である。なお,わが国における最近10年間の父親研究のレビューを行うことによって,父親研究のもつ一つの盲点を指摘した。掲載論文は鳴門教育大学研究紀要(教育科学編)の第15巻である。
著者
和泉 薫 遠藤 八十一 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

雪崩危険地を多く抱える市町村に残る、地名、言い伝え、伝説、災害体験記録、慰霊碑、山林禁伐の掟など雪崩の災害文化に関しての調査研究を行った結果、平成11年度には次のような知見が得られた。江戸時代から、山林の乱伐によって集落が雪崩に襲われ被害を受けたために、集落背後の森林の伐採を厳しく禁じてきた歴史が各地に残されている。そのような災害文化も長年月経って風化してしまうと禁伐林が伐採され、そのため集落雪崩災害が再び発生していることがわかった。禁伐林の歴史は、雪崩災害発生防止には森林が有効であり、その保存・管理が大切なこと、それを忘れて伐採するといつか雪崩災害が発生することを伝えている。かって雪崩災害で多数の犠牲者が出た日を忌み日として精進したり、その日に犠牲者を弔う「講」を行ったりする行事が各地にあることがわかった。また雪崩に襲われても助かるという謂われから旧暦の11月晦日・12月朔日に団子や餅を食べる年中行事を行っている所があることもわかった。これらの行事の時期は雪崩の危険性が考えられる頃で、昔の人はこうした行事を通して雪崩を意識し警戒を喚起したものと考えられる。雪崩にまつわる伝説も各地に数多く残されており、雪崩の発生場所、雪崩埋没時の対処法、表層雪崩の恐ろしさなどを伝承している。実在の雪崩災害の話に誇張やフィクションを交えて作られたこれらの伝説は、単なる雪崩災害の事実だけよりも興味を引くため代々語り継がれ、人々の災害意識を高めてきたものと考えられる。現代では地域社会が大きく変容し、過去の貴重な災害文化が忘れ去られようとしている。本研究でも、すでに文献上でしか把握できない災害文化も多いことがわかった。こうした雪崩の災害文化を、本研究によって可能なかぎり収集し現状を把握できた意義は大きい。今後は雪崩の災害文化の体系化をさらに進め、雪崩防災・減災のための基礎的情報として活用したいと考えている。
著者
茅野 宏明
出版者
武庫川女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

身体障害者に対する余暇教育プログラムの効果を明らかにすることを目的とした本研究は、平成9年5月から兵庫県立総合リハビリテーションセンター、重度身体障害者更生援護施設にて開始。5月中に余暇評価を実施し、ソーシャルワーカーとの協議の結果、7名をメンバーに選出。同年10月に再度余暇評価を実施。その時点で、継続意志なし(2名:現在や今後の余暇生活に不安なし)、退所(1名:8月末退所)、入院(1名)、継続中(2名)、完了(1名)。完了した1名について、2回にわたる余暇評価の差が、余暇に対する自発性(3.63から4.79)と余暇に対する退屈度(2.81から1.31)において、顕著に表れた。数値面だけでなく、実際に自らスポーツ系のクラブに入会し、退所後の継続的な余暇活動の実現を果たしていた。また、継続中の1名は、自分には無理だと思った活動を、同じ障害の人たちが行っているのをビデオを通じて発見し、『がぜん、やる気がでてきたぞ』と文集に書いた。同年10月から、新しいメンバーを6名迎えるとともに、余暇教育プログラムのワークシートを改訂した。平成10年1月時点で、継続中(5名)、長期欠席(1名)。継続中の5名は具体的な余暇活動計画へと進んでいる段階である。余暇教育プログラムを実施して、次の点が明らかになった。(1)現在行っているいないに関わらず、生活地域における活動が実現可能。(2)自分の好きなことを実現するために、自分自身への動機づけが比較的高いレベルで維持。(3)交友関係の広さが余暇生活への不安を減少する傾向。(4)余暇評価とケースワークとが同傾向を提示。今後の課題として、退所を目前にしないメンバー向けのワークシート開発の必要性と余暇教育プログラムの定着に向けてのケースワーク評価を重ねることがあげられる。
著者
城谷 一民
出版者
室蘭工業大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

スクッテルド鉱型化合物LnT_4X_<12>(Ln = lanthanide, T = transition metals, X = P, As, Sb)は超伝導、金属一絶縁体転移、強磁性や反強磁性など多様な物性を示すうえ、熱電材料など実用面からも注目される興味深い化合物である。これらはスズフラックス法を用いて合成されるのが普通であるが、我々は高圧合成法を用いて多くの新スクッテルド鉱型化合物の開発に成功し、大きな成果を上げている。しかし単結晶の作製は行っていなかった。精密な物性研究には単結晶が不可欠である。スズフラックス法では単結晶の育成は可能であるが、大きな単結晶を造るのが難しい。中性子回折や超音波の測定には大型の単結晶を必要とするので、スズフラックス法は適当でない。我々はすでに黒リンの大型単結晶を高温、高圧下で育成させることに成功している。この技術を用いれば、スクッテルド鉱型化合物の単結晶の育成ができると考え、比較的単純で融点も低いCoP_3を取り上げた。CoSb_3は熱電材料としては最も研究されており、当然のことながら同族のCoP_3にも注目が集まっている。キュウビックアンビル型高圧装置を用い、CoとPを化学量論的にとり、高圧装置にセットして、3.5GPaまで加圧する。その後、温度を1100℃まで上昇させて、CoP_3をまず合成する。再び加熱して1600℃まで上昇させてCoP_3を融解した後、1分に約1℃の割合でゆっくりと温度を低下させる。約1000℃になった所で急冷した。取り出してみると大型単結晶の育成が認められた。ラウエ写真でも単結晶のスポットが見出された。スクッテルド鉱型化合物の高温高圧下における単結晶の育成は世界で初めて行われたものなので、現在特許を申請中である。CoP_3の熱起電力、電気抵抗率、熱伝導率なども測定し、熱電特性を評価し興味深い結果を得ている。