著者
小川 佳宏 加藤 茂明 伊藤 信行
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

【背景・目的】Fibroblast growth factor10(FGF10)は胎生期において四肢や肺、脂肪組織の形成に必須の増殖因子であるが、成体においては主に脂肪組織において発現が認められ、成体の脂肪組織においてFGF10が重要な役割を担っている可能性が示唆される。一方、FGF10ホモ欠損マウスは肺の形成障害により出生後早期に死亡する。本研究では肥満および肥満合併症の発症におけるFGF10の病態生理的意義を検討するために、FGF10ヘテロ欠損マウス(FGF10+/-)を用いて解析を行った。【方法・結果】標準食飼育下においてFGF10+/-と野生型マウス(FGF10+/+)の体重に有意差は認められなかった。しかしながら、10週齢より高脂肪食負荷を行ったところ両者において体重増加を認め、負荷後4週よりFGF10+/+はFGF10+/-と比較して有意に高体重を示した。負荷後8週目のFGF10+/-(31.5±2.7g)とFGF10+/+(41.8±2.5g)における糖代謝を検討したところ、血糖値に有意差は認められなかったが、血中インスリン濃度はFGF10+/-で低値を示した。糖負荷試験およびインスリン負荷試験においてFGF10+/+と比較しFGF10+/-で良好な耐糖能およびインスリン感受性が認められた。また負荷後8週目におけるFGF10+/-の脂肪組織重量はFGF10+/+の約1/2に減少していたが、組織学的には脂肪細胞の大きさに明らかな差は認められず、FGF10+/-とFGF10+/+の脂肪組織重量の差は脂肪細胞の数の差によると考えられた。【考察】FGF10は高脂肪食による脂肪細胞の増殖を促進し、高脂肪食負荷による肥満に伴う糖尿病発症を促進する可能性が示唆された。
著者
有賀 哲也
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は、固体表面上における「表面電位」の空間分布を、原子レベルの空間分解能で明らかにすることを目的として行った。実験は、申請者が最近開発した超高真空走査トンネル顕微鏡(STM)により行った。このSTMはいくつかの特徴を有するが、その一つは、きわめて低雑音(システム雑音〜1pA)なことである。トンネル電流一定(即ち、探針-試料間距離一定)の条件のもとで、探針を駆動するピエゾ素子の電圧に微小な変調を与え、ロックインアンプによる位相検波を行うことにより、d1nJ/dzすわち障壁高さを測定した。この方法の特徴は、常に探針-試料間隙が一定に保たれるため、熱ドリフトなどさまざまな実験的ゆらぎ要因の影響を無視できることである。また、トポグラフィ像と障壁高さ像を完全に同時に測定した。試料としては、超高真空下で清浄化したPd(100)表面を用いた。ステップ付近において大きなコントラストが観察された。コントラストは、探針-試料距離に依存することが判った。探針が十分遠くにあるときは、Smoluchovsky効果から予測される表面電位像が観察された。逆に探針が表面に近づくと、コントラストが反転した。これはトポグラフィカルな効果によるものであると結論した。
著者
矢原 徹一
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

カエル類では、一般に世代が重複し、一メスが一年に複数回産卵し、雌雄間で成熟時の体サイズに差がある。このような条件を備えた生物では、親が季節的に性比を変化させる可能性が理論的に予測される。しかし、カエル類では幼生・幼体期には外見で性別がわからないため、これまで性比の研究は皆無であった。申請者は、共同研究者の向坂・三浦と協力して、ツチガエルの卵を使ってDNA性判定を行う技術を確立した。本研究の目的は、この技術を使って両生類ではじめての本格的な性比研究を行い、親が季節的に性比を変化させる可能性を検討することである。日本産ツチガエルには、性染色体の形態や性差に関して明瞭に異なる2つの系統が分化している。新潟県などの日本海側地域の系統では、性染色体に関してメスがヘテロ(ZW型)だが、静岡県などの太平洋側地域の系統では、性染色体に関してオスがヘテロ(XY型)である。2000年度には、ZW型集団に関して予測どおり親が季節的に性比を変化させていることを明らかにし、論文を公表した。本年度には、XY型集団で性比の季節的変化を調べた。XY型集団では、母親側が性比を調節することは困難であり、そのため性比の季節的変化はないものと予測していた。ところが、DNA性判定の結果、XY型集団においても性比が季節的に変化することが判明した。この結果は、オスがX精子とY精子の比率を調節しているか、あるいはメスがX精子とY精子の受精効率が変わるように卵膜を変化させているか、どちらかを示すものである。いずれにせよ、従来の常識を覆す発見であるため、さらに証拠を固めたうえで、論文を公表したい。
著者
永井 良和
出版者
関西大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本年度の研究では、計画時よりも作業課題を限定し、(1)明治後期から昭和初期にかけての警察における犯罪捜査・風俗統制に関する諸資料を収集・整理するとともに、(2)これらの資料から再構成できるかぎりの範囲において、当時の警察の活動を記述・分析した。明治末に、警察は犯罪捜査のありかたを一新した。そのおもな方途は、法医学・理化学鑑識などの導入による捜査の科学化、幹部教育の徹底・教科書の発刊などによる捜査技術の体系化、調査要員としていた掏摸・博徒らとの訣別による組織の近代化といった点に集約できる。このような理念が示す方向性は大正期から昭和戦前期までに全国の警察で実現していき、社会統制を支える力となった。医学や化学のみならず、法律学や心理学などの学術も、警察のあり方に大いに影響をあたえた。また他方、警察の近代化は、大衆文化のなかの探偵ブームとも緊密な関連をもった。それは、警察の捜査技術が小説や映画に反映するといった流れにとどまらない。むしろ、大衆が抱く猟奇的趣味や、市民生活を守るための知恵が、警察のもつノウハウを洗練させていった側面に注意が向けられるべきである。以上のような歴史的経緯について研究の成果をまとめ、別記のとおり単著『探偵の社会史1 尾行者たちの街角』(世織書房)を上梓した。
著者
田島 清司 陳 克恭
出版者
九州歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

モンテカルロ法を利用した有限要素法による応力解析と構造信頼性工学を応用することで,コンポジットレジン修復歯の信頼性(コポジット充填時のエナメル質亀裂の発生率)の評価を試みた.モデル外形は上顎中切歯を唇舌方向に二分割した断面をトレースにより作成し,窩洞形態はバットジョイント単純窩洞とした.レジン,エナメル質および象牙質の各弾性率ならびにレジンのゲル化後の重合収縮値に対し,モンテカルロ法を用いて不確かさを考慮にいれた.すなわち,今までに報告されている各物性の平均値と標準偏差をもとに乱数を用いて,各物性値を50個分サンプリングした.次に,サンプリングされた物性値を用いて有限要素法による応力解析を50回繰り返すことで,窩洞窩縁部エナメル質内の最大引張主応力の平均値と標準偏差を求めた.さらに求められた最大引張主応力の確率分布に対して,正規分布の適合性をカイ二乗検定により確認後,構造信頼工学における静的破壊を考えた応力-強さモデルを適用した式により窩洞窩縁部エナメル質の破損率を算出した.その結果、下記の結論が示された解析に用いたモデルにおいて,レジンの重合収縮に起因して窩洞窩縁部エナメル質内に発生した最大主応力は用いたレジンによって異なり,平均値で9.7MPaから77.5MPaの範囲であった.いずれのレジンの場合にもエナメル質内に発生した応力の確率分布としては正規分布を適用できることが統計的に示された.レジンの重合収縮に伴う応力に起因する窩洞窩縁部エナメル質亀裂の発生確率は用いるレジンにより異なり,0から98.9%の範囲であった.窩洞窩縁部エナメル質亀裂発生確率とレジン重合収縮値およびレジン弾性率との関係をみると,エナメル質亀裂発生確率とレジン重合収縮値との間に高い相関がみられたが,レジンの弾性率との間には相関はみられなかった.
著者
風間 晴子
出版者
国際基督教大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

これまでの年度において,孔辺細胞の始原細胞(initial cells)やトライコプラストのような潜在的に細胞分裂をする能力をもった細胞群に対して,エチレンの暫時処理がそれらの細胞分裂能の増加もたらすことを示してきたが,この作用が,さらに他の同様に細胞分裂のポテンシャルを有する細胞群においても普遍的に見られるかどうかを検討した.その結果,維管束系の細胞群における細胞分裂能の増加をはじめ,不定根の誘導などを様々な組織・器官において同様の結果を得,エチレン作用としては,その存在下においては細胞周期におけるM期への移行を阻害し,エンドリデュープリケーションを促進させ,エチレン除去後には,G2期にある細胞を即M期へと移行させ,細胞質分裂を誘導することの普遍性が示された.これらの結果をもとに,細胞がエチレンに曝された時の細胞周期における位置(例えば,G1であるかG2であるか)が,エチレン除去後の細胞質分裂によって産生される細胞の種類(例えば,孔辺細胞を産生するか,孔辺母細胞を産生するか,または孔辺細胞副細胞を産生するかと言ったcell fateの決定に関わる事象)の決定の鍵を握ると考えるモデルを立て,これを証明するべく,現在も実験を継続中である.結果の一部はすでに,論文として投稿中のもの,投稿準備中のものがある.さらに,新たな展開として,温度シフトによるストレスがもたらす細胞増加の現象が,阻害剤の実験からも,エチレンを介した反応であるとの結果を得たことから,こうした観点からの研究をも今後の課題とすることを考えている.
著者
永井 良三 森田 啓行 前村 浩二
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

血圧や心拍数など心血管系機能、あるいは心筋梗塞や冠動脈スパスムなどの疾患の発症時間には、明らかな日内変動が見られるが、その分子メカニズムは未だ解明されていない。最近、体内時計の分子メカニズムが急速に明らかにされ、CLOCK, BMAL1, PERIODなどの転写因子相互のpositive及びnegativeのfeedbackループから形成されていることが明らかになった。本研究は循環器疾患の日内変動が、心臓や血管に内在する体内時計により制御されているという全く新しい着想により遂行した。マウスをlight-darkサイクルで飼育した後、経時的に心臓や血管などの臓器を採取し、体内時計構成因子群の発現が日内変動をもっていることをNorthernブロット法にて確認した。さらに、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞の培養を行い、個々の培養細胞レベルで体内時計関連遺伝子の発現が概日リズムを呈することが示され、.心血管系を形成する細胞レベルで体内時計の存在が示された。心筋梗塞、不安定狭心症などの急性冠症侯群は早朝に多く発症し、その一因として線溶系抑制因子であるPAI-1の活性が日内変動を呈し、早朝に最高値になることが挙げられている。我々はさらに血管内皮細胞において、我々のクローニングしたCLIFとCLOCKがPAI-1遺伝子発現の日内変動を局所で調節していることを示した。以上の結果より末梢組織にも体内時計が存在し、局所に抽いてPAI-1遺伝子の発現を調節することにより、心筋梗塞発症の日内変動に寄与していることが示唆された。組織固有の日内リズム発生のメカニズムを理解することは、心筋梗塞や冠動脈スパスムなどの病態の理解を深めることにつながる。さらにそれは時間に即した治療法の開発にむすびつけることが期待される。
著者
高取 吉雄 永井 一郎
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

昨年度の成果に基づき、筒型内固定体^<1)>および挿入器具^<2)>の改良を行なった。筒型内固定体のサイズは、外径19mm、内径15.5mmとし、筒体の長さは20mmと25mmの2種類を作製した。また、解剖用遺体での挿入実験から、挿入器具の柄はある程度長くないと、力を加えるハンドル部分が大腿内側に衝突することが明らかになった。このため、六角レンチなどの柄を長くし、300mmとした。これにより、比較的スムースに挿入できることがわかった。正確な挿入は、ガイドワイヤーを使用し、X線透視下で行なうことで可能と考えられた。註1)筒型内固定体この内固定材は、上下が開放した筒状の構造で、外壁にネジ山を有する形状とした。素材は生体親和性の高いチタンを選択した。使用に際しては、大腿骨頭の内下方から骨頭頂点を向けて挿入することを想定している。挿入された筒型内固定体は、罹患大腿骨頭内の頚部に近い側では、骨を筒の内部と外部に分断する。一方、関節面に近い部位では連続したままの状態である。大腿骨頭の中央に、壊死骨と健常骨の分界面が存在する場合には、内固定体の挿入により、壊死骨の形状は半球状から筒の内部の骨を加えた茸状に変化し、分界面の形状は単純な面ではなくなる。また壊死骨と健常骨とは筒型内固定体の外部のネジ山で固定される。この結果、大腿骨頭は、地滑り様の移動あるいは陥入を起こしにくくなると考えられる。2)挿入器具骨頭下リーマー、内固定体リーマー、タップ、六角レンチを試作した。この他、挿入手術用開創鉤、関節包用剪刀などについても試作した。
著者
松本 久美子
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

研究目的:1. 地域に留学生が主体的に参加していける活動の場の開拓と設定を行うこと。2. 留学生と日本人双方が、交流・協力を通して異なるものを認め理解し受け入れていく場としての、また、その過程を通して自己を発見し変容させていく場としてのボランティア活動の可能性を探り、その有効性について検証を試みること。平成11年度:1. 平成11年度に、長崎大学医学部付属病院のボランティア活動に参加した留学生は2名である。2. 同婦長から、外国人入院患者のための、留学生による看護婦や医師との会話の通訳ボランティアの依頼を受けた。協力できる留学生7名のリストを作成し、担当婦長に送付した。3. 7月10日に行われたシンポジウム「多文化共生in長崎」(主催:国立国語研究所・多文化共生in長崎実行委員会)の実行委員の一人として「留学生交流とボランティア」というタイトルで分科会を設け、地域住民と留学生とのボランティアを通じた双方向的な学習・交流の可能性について討議した。平成12年度:1.長崎大学医学部付属病院病棟でのボランティア活動の継続新規に2名の留学生がボランティアとして活動した。2.「お見舞い・通訳ボランティアリスト」実際の使用状況の連絡を受けながら、ボランティアの募集を継続して行った。3.「会話パートナープログラム」の活動内容再考このプログラムは留学生と日本人学生に出会いの場を提供し、相互理解を深めるために行っているものである。活動内容を再考し、留学生と日本人学生が協同で行うボランティア活動の可能性を検討した。この活動の中から、留学生と日本人学生による交流サークルが生まれ、活動している。4.周辺調査として、アメリカの大学でのボランティア活動への取り組みの状況についての情報および資料収集を行った。
著者
岩本 誠一 前園 宜彦 中井 達 時永 祥三 藤田 敏治
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

従来のポートフォリオ理論では平均・分散基準の確定的最適化を数理計画法によっておこなっているが、本研究においては、数理ファイナンス分野おける新しい評価基準として単一評価クラスと複合評価クラスを導入して、その不確実性の下での動的最適化手法を提案している。とくに、リスクとリターンを確率変数そのものとして取り扱い、制御マルコフ連鎖上で分数型基準の条件つき期待値を再帰的に最適化している。分数型評価は複合評価の典型的な基準の一つであるが、他に、比型、分散などの複合型基準の動的最適化をおこなっている。さらに、動的計画法を中心とした動学的最適化手法として、(1)全履歴法、(2)パラメトリック法、(3)マルコフ法、(4)多段確率決定樹表を開拓し、既存の最適化手法では解けない問題を提案し、これらの最適解を導いた。また、動的最適化手法をより分かりやすく、説得力あるものにするために、各種グラフィックス表示およびその開発をおこなった。とくに、不確実性の下において非加法型評価の多段階意思決定過程の最適化を動的計画法によって行った。具体的には、(1)事前条件付き意思決定過程と(2)事後条件付き意思決定過程の二つを新たに導入し、(3)条件なし(本来の)意思決定過程との最適解の構造およびそのアプローチにおいて三つの過程の相違点を明らかにした。本研究によって、閾値確率制御問題が上述の多様な方法で解けることが明らかになった。とくに、閾値確率最大化問題の逆問題は数理ファイナンスにおけるバリュー・アト・リスクの最小化問題なることがっわかり、バリュー・アト・リスクの最小化に新たに動的計画法・埋め込み法が適用できることになった。この二つの方法はこれまで確定的システムの最適化に多用されて成果を上げてきたが、本研究によって確率システム・あいまいシステムに対しても動的計画法・埋め込み法が適用できることが判明した。したがって、本来不確実性の下で変動するポートフォリオシステムの最適化方法が多様・多彩になってきた。これらはまさしく本萌芽的研究の成果である。
著者
柿田 章 伊藤 徹 阿曾 和哲 佐藤 光史 高橋 毅 柿田 章 伊藤 義也
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では移植用肝臓の保存時間の延長を目指して、保存液を加圧することによって凝固点以下の温度でも保存液の過冷却(非凍結)状態を維持、それによって肝臓の凍結・解凍に纏わる傷害を克服する保存法の方法論を確立するために基礎的研究を継続してきた。最終年度の平成11年度は、「加圧」が保存液の「過冷却状態の安定維持」に実際に寄与するか否かに関する実験を行った。その結果、実際に使用したUW液の、常圧、5、10、15MPaにおける凝固点はそれぞれ、-1.2+/-0.0、-1.5+/-0.1、-2.1+/-0.1、-2.5+/-0.1℃(n=6)、過冷却温度は、-4.0、-4.5+/-0.4、-4.8+/-0.8、-5.5+/-0.4℃であった。すなわち、加圧によるUW液の凝固点の降下に伴って過冷却温度も低下することが実証された。また、前年度までの実験では、肝臓が0℃・1時間の保存条件では最大35MPaまでの加圧に耐えて移植後も個体の生命を維持できること、また、加圧による傷害が加圧速度および加圧保存時間依存性であることが、移植後の生存成績や電顕による形態学的変化の観察などから明らかとなっている。加えて、肝臓は5Mpa・-2℃の条件では6時間の長時間保存に安全に耐えられる(移植後生存率100%)という成績が得られている。以上の実験結果は、凍害防止剤や浸透圧調節剤などを使用せず加圧のみによって、移植用肝臓を5MPa・-4.5℃付近まで過冷却(非凍結)状態に保存することが可能であることを示すものである。これらの結果を踏まえ、今後、肝臓の-4.5℃付近での過冷却長時間保存に向けて、氷点以下の低温の細胞・組織に対する傷害機構や至適保存液の物理化学的組成などの課題を解決すべく研究を進める予定である。
著者
吉野 博 小林 仁 久慈 るみ子 佐藤 洋
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究では衣服内の空気は動くものとして捉え、建物内部の換気量測定法であるトレーサーガス法を、衣服内換気量の測定に適用できるかどうかについて検討を行った(1)簡易温熱マネキンの製作:簡易温熱マネキンは、表面温度のコントロールのために、サーミスタ温度計をマネキン表面(胸部・背部・上腕部・前腕部・大腿部・下腿部)に貼付し、体幹部以外は左右別々に、発熱を制御できるようにスライダックを通して調整を行った。(2)ガス発生方法の検討結果:測定はトレーサーガスとしてCO_2を用い、定量発生法で行った。実験室内の温熱環境条件は、室温20.1℃〜24.5℃である。実験被服は、塩ビフィルム製の袖なしワンピース型とした。ガス発生方法の検討の結果、チャンバー(150*90*90cm)を用い間接的にガスを発生させる方法を考案した。チャンバーでの測定結果では、衣服内ガス濃度と外気のガス濃度との差は550〜670ppmの範囲にあるが、各実験において、同一条件下では衣服内のガス濃度は一様に分布し、各実験ごとの測定点間のガス濃度の標準偏差は±6.37ppmと小であった。この方法によると、チャンバー内でガスを完全拡散させることが可能となり、チャンバー内と衣服内のガス濃度はほぼ一定となることがわかった。また、室温が高くなると換気が促進されて、衣服内ガス濃度は低くなり、両者は反比例する。また、実験の再現性は高く、衣服の着せ替えによる影響はなかった。マネキン平均表面温度とチャンバー内温度の差と衣服内平均ガス濃度についてみると、温度差が大になると、やや衣服内濃度が高くなる傾向にあることがわかった。塩ビ衣服の換気量を求めたところ、発生量は平均0.065L/min.であることから、6〜7m^3/h.であると算出される。以上の結果より、チャンバーを用いて間接的にガスを発生する方法は有効であると考えられる。
著者
土佐 昌樹
出版者
神田外語大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

前年度はアメリカの実態を対象としたが,今年度はその成果に基づき主に日本のサイトを対象として研究の展開と総括を目指した。手順と成果の概要を以下に示す。(1)「Yahoo!JAPAN」に登録された宗教関係のサイトをすべて閲覧し、内容の特徴と傾向をまとめた。主たるものはハードコピーし,今後の研究の基礎資料としてデータベース化した。(2)宗教サイトを運営する姿勢として、形だけのものと積極的なものに二分される。宗教活動の中でインターネットを積極的に活用しようとしている206のサイトにメールを送り(イスラム2、神道34、仏教117、キリスト教118、その他62)、ホームページの運営方針について予備的なアンケートを実施した。(3)78のサイトから回答を得た(イスラム2、神道6、仏教32、キリスト教21、その他17)。そのうち協力的に対応してくれた組織には持続的なコミュニケーションを試み、インタビュー調査も数回にわたって実施した。インターネットの普及により新たな信仰の形が出現することを予感しているところが多かったが、全体的にまだ模索中の段階にあるといえる。日本の場合はアメリカと異なり、特にニューエイジ的なサイトが突出しているわけでなく、原理主義的な傾向も希薄であった。今後さらに、インターネットの普及が宗教活動全体に及ぼす影響を多角的、有機的に調査研究すべきとの感触を得た。情報化時代における宗教的実践の将来は、社会科学的に追求すべき豊かな問題を含んでいるといえる。
著者
飯田 弘之 吉村 仁
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究ではゲーム情報学的な解析によってチェス種(特に将棋種)を相互比較した.顕著な貢献を以下に整理する.(1)原将棋として知られる平安小将棋では,「王金対王」終盤戦のコンピュータ解析によって,盤サイズの進化論的変遷を合理的に説明できた.将棋種の変遷を考察する上で,歴史的文献資料による調査を補佐する重要な役割を担い得る可能性を示した.(2)ゲーム情報学的にゲームを比較するための指標を考案した.探索空間複雑性(search-space complexity)と決定複雑性(decision complexity)の二つの指標に基づいて、ゲームを比較する.前者は,ミニマックス木の最小サイズに相当し,そのゲームの平均終了手数Dと平均合法手数Bに対してB^Dで近似される.後者はD/(√<B>)という指標である.つまり,平均合法手数と平均終了手数のバランスのとれたゲームほどより洗練されている.(3)チェス種は,進化の大きな流れとして,ルールがより洗練される方向へと向かっている.チェス,将棋,象棋でそれが異なる手法で実現されてきたが,それは,歴史的な文化背景と密接な関係がある.
著者
足立 格一郎 芝山 有三 森本 巌 紺野 克昭
出版者
芝浦工業大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

1.月土壌の採取法及び地球への持ち帰り法の研究月面での特殊環境下での作業性に関する研究を中心に進めた。月環境と地球環境との相違の主なものは,(イ)月重力は地球の約1/6,(ロ)高真空状態,(ハ)無水状態,(ニ)遠隔・無人操作,などである。このような問題に対し,どのような対処法があるかを中心に研究を行った。2.月面構造物の初期設計月面構造物は,熱や宇宙線などを遮断するためにかなり頑丈に建設されると予想される。月面構造物の応答解析を行うのに先立ち,具体的な月面構造物の初期設計を検討した。アポロ計画での月震の観測記録から,月震計の計器特性を取り除くことにより,変位波形を求めた。その結果,浅発月震,隕石月震においてはM2〜4の規模で起こっていることがわかった。さらに隕石月震では,構造物により近い地点への隕石の落下により,さらに大きな地震動の可能性が考えられる。初期設計では,これらの要素を考慮した。3.月面構造物の月震応答解析月震の時刻歴波形は,地球の地震波形と大きく異なる。そこで,上記2で設計した構造物に対して,月震による応答特性を調べた。解析の対象とした月面構造物は月地盤の表面から深さ5mの地点に一辺が3m,厚さ1mの正方形のコンクリート構造物である。月を想定する場合は構造物内に1気圧の圧力をかける必要がある。なお,今回の解析はすべて線形で行った。地球と月で同じ規模の地震,月震が起きた場合,重力の違いのみに関しての比較であれば揺れ方は同じであるが,減衰を考慮すると差が出るという解析結果が得られた。
著者
澤木 宣彦
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

消費電力が大きな従来型の計算機システムの弱点を克服するための結合量子井戸構造における波動関数の変化を利用する新しい演算システムの構築の可能性を探ることを目的とする。1.結合ドット構造への電子波束の注入法を探るため、磁場中の量子ディスク、量子細線における電子波束の運動を詳しく検討した。磁場が強い場合には波束の崩壊は起こらないこと、磁場に直交する電界を印可すると、波束は横方向へのドリフト運動を行うことがわかった。2.電子線露光法により、砒化ガリウムにシリコンを原子層ドープした構造に微小電界効果トランジスタを作製した。チャネルの幅ならびに長さは100-500ナノメートルとし、サイドゲート構造とすることによりチャネルの伝導制御を試みた。ドレインには分岐点を設け、原子層ドープ構造におけるパーコレーション的な伝導の効果を見いだすことを試みた。しかし、今年度の実験ではそのような効果を見いだすことはできなかった。サイドゲートによるポテンシャル変調が十分でなかった可能性がある。3.結合ドット構造からの信号の光による入出力の方法として、プラズモンポラリトンを用いる方法の有効性を検討した。半導体量子井戸構造の試料の表面に電子線露光法によって金属膜グレーティングを作製した。ヘリウムネオンレーザの光を特定の角度から入射することによって、半導体表面にプラズモンが励起できた。ついで、この角度付近で、量子井戸からの発光の強度が増加することを見いだした。量子井戸の励起子系と表面に局在した電磁波との相互作用の可能性が実証された。
著者
櫻井 しのぶ 小島 照子 小島 照子 中野 正孝 池田 浩子 櫻井 しのぶ
出版者
三重大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

平成11年度に行われた研究の結果、「女性」では、従来からの「女性性」を表現する言葉が多く挙がる一方で、「心・芯は強い」という従来には見られなかった女性性の概念が抽出された。また「男性」では、「たくましい」「強い」「頼りになる」等の、従来の「男性性」と一致した表現となっていた。しかし「女性」とは反対に「気が弱い」等の精神的な弱さを挙げた者も多く、これらの傾向は20代の対象者に強く見られた。これらを元に、平成12年度は、「看護」との関連性に焦点を当て調査した。分析した結果では、「看護」に対し、「優しい」「大変・しんどい」「強い・強い精神力」という項目が上位を占めた。さらに、「女性・女性中心の仕事」という項目も、対象者の10%が挙げていた。また、看護に対するイメージと「女性性」、「男性性」としてあげられた項目において、共通する言葉を分析したところ、「女性性」との共通の方が有意に高いことが確認できた。以上の結果から、一般の人々が抱いている「看護」に対するイメージは、従来の「女性」をイメージする「優しい」等と、新しい「女性」を表す「強い」というイメージの両方を持ち合わせていることが明確となった。看護教育を考える上で、「看護」と「女性性」というものが強く結びついていることを理解し、看護者は看護に対する伝統的な女性的役割である「やさしい」だけでなく、「頼りになる」「強い」という看護の側面も、社会的に要求されていることを事実として受け止めなければならない。以上の結果をもとに、現在論文を作成中である。
著者
上掛 利博
出版者
京都府立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

ノルウェー法務省警察局のリーネ・ナースネス氏によれば、個人番号は、住民統計をはじめ、納税、福祉、年金、医療のカルテ、保険、銀行口座、事業主、学校などで使われている。「個人番号のない人はノルウェーでは人ではない」といってもよい程、公的な部分の生活をカバーしている。警察は、あまり使っていない。名前と住所の他は、守秘義務があるのでアクセスすることは難しい。プライバシーを守る法律がある。ダイレクトメールにも決まりがある。個人番号は行政には便利なシステムである。市民の側は、個人番号の弊害にも「慣れた」といえる。また、家庭内暴力(DV)と個人番号制度には深い関係があって、離婚したり別居中の男性が、銀行や福祉事務所から女性の個人番号を聞きだしてシェルターに押しかけてきた例もあるので、本人があらかじめ住所を隠せるように手直ししたし、さらに、暴力を受けた女性や裁判中の犯人については、新しい番号に変えることができるように法律の改正を検討している。児童家庭省のアンネ・ハブノール氏によれば、1976年のブリュッセルの女性会議で、ノルウェーの女性運動家が参加して家庭内暴力に光を当て社会問題化した。シェルターにきた利用者は、名前や住所や個人番号を明かさなくても良い。弁護士、警察、福祉事務所がサポートする。子どもの権利と親の権利が対立し、母親が子どもの情報を出さないこともある。また、DVシェルター全国事務局のトーベ・スモダール氏によれば、1995年からの5年間にDVやレイプで40人の女性が殺され、恐怖を感じて自分の生命を守るために移動している女性が、彼女の元にも1,000人いるという。ノルウェーでの聞き取りで、個人番号制度は極秘の部分が多く、資料を送るのでそれを検討してから質問を受けるとされたこと、また福祉政策との関連ではDVの問題が大きいことは分かったが、税金や福祉事務所などでの実際の運用面の調査は今後の課題である。
著者
宇野 勝博 山根 宏之 今野 一宏 臼井 三平 飛田 明彦 脇 克志
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

以下の場合に、群環のいわゆるワイルドな表現型をもつブロック多元環上の既約加群は、アウスランダーライテングラフの端に位置することが証明できた。(1)有限シュバレー群に対し、素数が定義体の標数の場合(2)有限シュバレー群に対し、素数が定義体の標数でなく、かつ、いわゆるリニアである場合(3)対称群、交代群とその被覆群の場合(4)いくつかの散在型有限単純群の場合しかし、F4型の有限シュバレー群で定義体の標数が2で群環の標数がリニアでないとき、また、ラドバリスの散在型単純群の被覆群のときには、アウスランダーライテングラフの端に位置しない既約加群が存在することも分かった。なお、これらのときは、いずれもその既約加群は、アウスランダーライテングラフにおいて端から2番目の場所に位置する。一方、一般の有限群の場合に有限単純群、あるいは、その被覆群の場合に問題を帰着できることも証明されており、有限単純群の分類定理を用いると上記の結果により一般の場合にも、ほとんどの場合(上の二つの群が関与しない場合)既約加群は、アウスランダーライテングラフの端に位置することが期待できる。以下の場合に群環のアウスランダーライテングラフの各連結成分における既約加群の個数が高々1個であることが証明できた。(1)有限シュバレー群に対し、素数が定義体の標数の場合(2)群のシロー2部分群が可換で素数が2の場合(3)対称群の場合また、群環の不足群の位数が4であるブロック多元環について、アウスランダーライテングラフの端に位置し、かつ、剛性をもつ加群の特徴付けを行い、それを用いてこのようなブロック多元環の間の導来同値の再構成を行った。
著者
人見 勝人 中島 勝
出版者
龍谷大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

“生産(モノ造り)"は、人間生活の基盤、国富の形成、そして世界平和のために欠かせない社会的基本活動と考察し、現今のモノ造り状況が、製品飽和、設備過剰、工業空洞化、工場現場忌諱、資源枯渇、環境破壊などの難点・ジレンマを抱えていることを指摘した。それを克服し、これからのモノ造りの秀麗性を高揚する概念・21世紀へ向けた普遍的生産原理として、“[社会的]マニュファクチャリング・エクセレンス([Social]Manufacturing Excellence)"(生産美学)を定義し、提唱した。マニュファクチャリング・エクセレンスを具象的に遂行する基本的方策として、自動化生産(FA/CIM)、人間尊重生産、高付加価値生産、環境調和(グリーン)生産を論じた。現在の資本主義体制下の企業の過当競争でひきおこされている過剰生産、使い捨て浪費(アメリカ的文化)、そしてまだ使用可能な物品の大量廃棄による天然資源の枯渇、自然環境の汚染、ひいては地球破滅と人類滅亡を防ぐためには、仏教・道教で教える「知足」(吾唯足ルヲ知ル)の精神・原理に基づく、各企業の“社会的適正生産(Socially Appropriate Manufacturing)"の考え方を提起する。つまり、これまでの“大量(過剰)生産・大量消(浪)費・大量廃棄"型から“知足生産・知足消費・極少廃棄"型への企業・個々人、そして国家・世界の変容をうながす。この「社会的適正生産」のあるべき姿としては、最底限の性能を持つ独創性に富む完璧な製品の開発、最長寿命を保証した部品・製品の使用、資源と部品の再利用・リサイクルの考慮と極少廃棄、最底限利益の企画を論議した。