著者
山口 敬太
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.241-246, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
44
被引用文献数
1

1920から30年にかけて、東西30kmにおよび複数の市町村にまたがる六甲山に、行政界や都市計画区域を越えた「一大森林公園」としての位置づけをもった山地開発計画が立てられた。本研究では、この山地開発計画の策定経緯と具体的内容、およびその目的について一次史料をもとに明らかにした。その結果は以下の通りである。山地開発計画の作成主体は、兵庫県都市研究会と神戸市都市計画部であり、前者の計画原案を作成したのは、都市計画地方委員会技師兼兵庫県技師であった森一雄であった。両者ともにその山地開発の根本目的は、風致の保全を前提とした山地および風景地の開放にあり、道路と公園的施設の配置が主眼となった。道路については、兵庫県都市研究会が骨格となる幹線道路を、神戸市都市計画部が都市計画区域内の道路網を充実させる案を示し、両者により統一的な計画案が示された。またそれは、自動車用の幹線道路と徒歩道路とを織り重ねたものであり、その計画路線は遊行と自然鑑賞を満足させるように考慮された。さらには、観賞樹の植林等により風景の保護修飾をなすとともに、様々な種類の公園的施設の充実が図られた。
著者
下山 萌子 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.405-412, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
35
被引用文献数
3

近年、日本を訪れる外国人観光客が増加している。特に2000年代以降は、国による観光促進政策が進められたことも後押しして、訪日観光客数は急伸基調にある。本研究では、客室数の増加が顕著な東京都心部において、近年に建てられたホテルの立地傾向を明らかにする事を目的とする。その上で現行の誘導政策と立地実態とを比較しつつ課題を抽出する。訪日観光客増加期に建設されたホテルの立地傾向を詳細に検討したところ、主なパターンとして以下の3種類が得られた。1.駅近の小規模オフィスが、中価格帯の宿泊特化ホテルへの建て替わる、もっとも代表的なパターン。2.駅からやや離れた場所では、小規模オフィスが低価格帯の宿泊特化型ホテルへと建てかわるパターンが見られたが、このタイプのホテル(いわゆる「ビジネスホテル」)の建設は以前よりも鈍化しつつある。3.ターミナル駅から近い商業地域では、複数の事業所が再開発により統合されて大規模複合ビルとなり、その上層部に高級ホテルが設置されるパターンも見られる。最も主流なパターンは1であるため、中小規模の空きオフィスをホテルへ用途変更にするための規制緩和についても検討の余地がある。
著者
蛭田 美紅 三宅 諭
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.864-871, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
9

福島第一原子力発電所事故により原発周辺地域は帰還困難区域に指定され、今でも多くの避難者は福島県内外で避難生活を続けている。避難者と受入先市民との間にトラブルも発生しており、原発避難者の今後の生活を考える上で、避難先住民との対立関係を解消することが求められる。本研究は、いわき市小名浜地区の市民および避難者にアンケート調査を行い、対立の要因と対立解消に向けた課題を明らかにしている。トラブルが発生するのは新しい生活が始まるタイミングに多いことを明らかにした。また、避難者と市民の意識対立の要因として、不満や忌避感が負の影響を与えていることを明らかにした。さらに、避難者と避難者の近くに住む市民は積極的な交流に消極的であるのに対し、離れて暮らす市民は避難者の受入に積極的であることが明らかになった。
著者
小地沢 将之 田村 渓介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.657-664, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
7

本研究は、将来的に児童遊園が適切に更新されていくための課題を整理する。児童遊園と都市公園が隣接して整備された経緯は、市当局へのヒアリングを実施したが不明だった。そこで、私たちは現地調査、文献調査、管理者へのヒアリングなどを実施した。その結果、児童遊園は児童厚生施設の園庭の役割を持っていること、ならびに自治体の乏しい財政により児童遊園が更新できていないことが明らかになった。この問題の解決のためには、児童厚生施設を含めた公共施設との一体的なリニューアルを行う必要があると私たちは結論付けた。
著者
会田 裕一 大沢 昌玄 岸井 隆幸
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1377-1384, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
29

台湾は二輪車中心の私事交通が発達しており、公共交通分担率は低いレベルにある。中央政府では公共交通システムを再定義し、BRTやLRTといった公共交通システムを積極的に推進している。淡海地区では高雄に次いで二番目のLRTが建設中であるが、最初の計画から事業計画の最終承認までに21年間を要している。本研究では、新たな公共交通システムを導入するにあたりどの公共交通システムを採用すべきかの意思決定プロセスを解明すること、LRT決定後のルート選定・構造形式選定といった路線計画の検討ポイントを整理し、その経緯を明らかにすることを目的とする。淡海では、MRT、LRT、BRTの導入が比較・検討された経緯があり、最終的にLRTが選定された。その意思決定プロセスでは、(1)台湾の公共交通政策による誘導が大きな影響を及ぼしていたこと、(2)道路空間などの物理的な制約や投資対効果といった経済性などが重要なポイントであったこと、(3)建設コストのみならず、利便性や景観といったポイントの評価を重視していること、等が明らかとなった。今後、わが国の都市がLRT導入を推進する際にも一つのモデルとなる事例と考えられる。
著者
伊藤 亜美 伊藤 佑亮 森本 章倫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.614-621, 2022-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
23

2050年カーボンニュートラルの実現のため,世界各国で電気自動車(EV)の普及が進められている.一方,火力発電の割合が大きい電源構成を有する日本では,EVの導入のみでは環境負荷の削減効果が十分に得られない.本研究はEVの完全普及を前提とし,EVの課題に対処可能なシェアリングや電源構成の見直しも想定した交通体系について,ライフサイクルを考慮して定量的に環境負荷を評価することを目的とする.分析では,ライドシェアの利用率を変化させ,シミュレーションを行う.その後,電源構成比率を変更し,環境負荷を算出する.その結果,2030年の削減目標値を達成するにはEVとライドシェアの組み合わせが最も適しており,さらにライドシェアの利用率の増加や電源構成の見直しに関する政策を行うことでさらなる削減効果が期待できることを明らかにした.
著者
渡部 大輔
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.631-636, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
23

本研究では、古代において国府と京を結んでいた七道駅路を中心として、古代物流ネットワークの形態解析と物流システムの移動利便性として移動距離や日数、運賃との関係について分析した。七道駅路ネットワークを構築した上で、本路・支路によって結ばれている国府の隣接グラフを構築した。そして、最小木と重複しない隣接グラフの辺は、地方と京をなるべく短い距離で結ぶように、放射・縦断方向に長い辺が構築されていることが明らかになった。七道駅路を用いた物流システムについて、運賃は距離と線形に比例する関係が見られ、往復日数の方が距離よりも運賃と比例関係が強いことが明らかになった。海上輸送は、陸上輸送と比べて、所要日数が少なく、運賃も大幅に低いことが明らかになった。このように、地形の起伏や広大な河川、海上輸送を含むかどうかが、移動に大きく影響していることが明らかになった。現在価値への換算すると、現代のトラック運賃と比べて、遠距離に行くほど差が広がっていることが明らかになった。このように、古代の物流においては、現代より日数、費用ともに大きくコストをかけて運ばれていたことが定量的に明らかになった。
著者
圓道寺 ゆみ 宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.33-40, 2014-04-25 (Released:2014-04-25)
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

日本の河川敷地は、河川法で制限されているが、2011年の通知(国土交通事務次官通知第135号)で、占用主体として民間事業者も認められるようになった。そこで本論文は、この河川敷地占用許可準則の改正を用いた全国の取り組み(7市13事例)を把握した後、東京都、大阪市、広島市の運営組織の比較を行った。中でも、大阪市の官民一体事業に焦点を当て、関係者へのヒヤリングを通じ、河川敷地の占用と利用状況を具体的に明らかにしている。結論で、1)水都大阪の事例から、河川敷地のハード整備のアイデアを公募する仕組みと、北浜テラスで河床の整備と管理面に関して、民間で運営していることがわかった。2)現地調査から、河川敷地の連続性が活用状況に影響を与えていること、遊歩道の有無、出入り口、イベントの実施により利用状況が大きく異なること、利用を促進するためのイベントの実施、建築や護岸の形式の連続性も重要であることがわかった。
著者
中谷 裕一郎 小浦 久子 木谷 弘司
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1417-1422, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
15

本研究は、金沢における重要文化的景観の価値を継承するための景観保全に求められた都市の高さ問題への対応を検証することにより、市街地更新を前提とする都市の文化的景観の保全について考察した。近世城下町の計画理念が表現されている天守を見通すヴィスタの景観演出は、金沢の重要文化的景観の価値と特定されるものであり、この価値の保全とは城跡から旧城下を眺める眺望を保全することである。そのために城の正面に位置する地区における高さの抑制が課題となった。シミュレーションにより、地形条件も踏まえ、城跡からみたときに建物が石垣の高さを超えないようにするための指標となる高さを検証した。合わせて、地区ごとの建築実態および景観不調和の実態を把握し、シミュレーションにより求められた20m高度を指標とし、地区の状況に応じて高度地区のダウンゾーニングが実施された。この取り組みは、価値の考え方にもとづく計画基準の設定のあり方を示したもので、継続的に変化することで持続的となる都市の文化的景観の動態的保全手法の一つを画定したといえる。
著者
國吉 真哉 池田 孝之
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.175-180, 1991-10-25 (Released:2020-05-01)
参考文献数
7

THE EXISTANCE OF THE U.S. BASE AREAS PREVENTS SMOOTH CONSTRUCTION OF THE INFRASTRUCTURE IN OKINAWA. OTHERWISE, THE BASE AREAS IN ( OR NEAR ) THE CITY ARE RETURNED EVRY YEAR. THESE AREAS ARE GOING TO AFFECT LAND USE OF THE CITY AFTER THIS. THE PURPOSE OF THIS STUDY IS TO FIND THE PROBLEMS OF PLANNING OF THE LAND USE BY COMPARING THE PRESENT CONDITION OF LAND USE TO THE PLANNING OF DIVERSION IN THE U.S. BASE AREAS AFTER REVERSION TO OKINAWA.
著者
岡村 祐 北沢 猛 西村 幸夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.40.3, pp.823-828, 2005-10-25 (Released:2017-07-01)
参考文献数
10

本研究は、都市におけるいくつかの空間要素が空間的に密接な関係性を持つことによって、それら総体としての価値が新たに生まれるという都市空間遺産に着目し、その一例として、神社境内地とその境外における参道(=境外参道)の組み合わせによる空間を取り上げる。東京都心部においては、現在境外参道は 20事例に留まり、また、現状の物的側面に関する分析や歴史的な空間の変容及びその背景の探求から、痕跡空間、サイン空間、そしてアプローチ空間という空間の特性が明らかになった。
著者
服部 圭郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.816-823, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
26
被引用文献数
2

日日本の人口は減少している。多くの都市も人口が減少し、その結果、人口縮小というこれまで経験しなかった課題に対応せざるを得なくなっている。しかし、旧東ドイツの都市では、このような課題を既に経験している。そして、その問題に対応する一つの手法が撤去(全面的減築)であった。本論文では、この撤去を旧東ドイツでは都市計画的にどのように位置づけたのか。その政策的意図と、実際の撤去の進捗過程を、ブランデンブルグ州の社会主義時代につくられた計画工業都市アイゼンヒュッテンシュタットを事例として整理し、その政策に伴う課題および成果をまとめた。その結果、アイゼンヒュッテンシュタット市の減築の都市計画目標、そしてそのための減築建物の選定プロセスを整理し、さらにはそのプロセスに伴った生じた課題を抽出した。そして、現段階での都市計画的成果をまとめた。撤去という手法は、将来において残すものを選択するという都市計画的判断であり、短期的には痛みを伴っても、長期的に都市を「消滅」させないための英断であることが本調査から理解できた。
著者
砂本 文彦
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.259-264, 1997-10-25 (Released:2018-05-01)
参考文献数
44

The aim of this study is to make clear states of improvement programs of facilities in the tourist industry during 1930s. The Government established the Board of Tourist Industry and the Committee of Tourist Industry to attain foreign currency. They had suggested improvement programs so that facilities can construct resorts for foreign tourists. Therefore improvement programs of facilities had reflected their interests.
著者
穴井 宏和 柴崎 亮介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1055-1062, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
18

本研究の目的は、(1)スタートアップ及びそのエコシステムの集積状況を明らかにする、(2)エコシステムの空間的な特徴と課題を抽出して、スタートアップ支援政策等に生かすことである。既存研究では、スタートアップのみ、投資家のみの立地分析を行ったものが多かった。一方で、スタートアップ、投資家、大学・研究機関などで構成されるエコシステムを一体的に研究した例は少ない。本研究では、スタートアップとその支援機関の共集積の状況を2変量ローカルモラン統計量によって明らかにしたのが特徴。検証の結果、スタートアップの集積がありながら支援機関が少ないエリアとして、東新宿、代々木、五反田、茅場町、芝浦などがあることが明らかになった。これらの地域は、政府・民間のスタートアップ支援によってエコシステムを強化できる可能性がある。
著者
丁 育華 近藤 光男 村上 幸二郎 大西 賢和 渡辺 公次郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.13-18, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
18

近年、我が国では人口減少、超高齢社会を迎える時代にあり、コンパクトシティの構築が要求されている。その中、都心居住の促進は今後の都市づくりに貢献すると考えられる。本研究は、高齢者を考慮し、徒歩で暮らせる都心居住空間を創出するため、都市施設に対する重要度および都市施設までの移動距離に対する満足率に着目し、住民の視点から都市施設に基づく居住環境を評価するための評価指標、および評価モデルを作成した。そして、作成した評価モデルを地方都市に適用し、現状の居住環境を評価した。その結果、都心に近い地点の方が高く評価されていることが判明した。
著者
山田 育穂 岡部 篤行
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.923-928, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
10

空間自己相関は,地域の空間的な近接性と属性的な類似性との関連を示す概念であり,都市空間で発生する事象の空間分布やその背景にあるプロセスを理解するうえで,重要な役割を担っている.MoranのI統計量は,地区データの空間自己相関を扱う際に最も広く用いられている手法のひとつであるが,その潜在的な問題については一般にあまり認識されていない. MoranのI統計量による検定がその分布の漸近的な正規性を仮定して構築されているのに対し,通常のデータでI統計量の正規性が達成される可能性は低い.従って,I統計量の正規性を仮定した仮説検定では結果に偏りが生じる恐れがあり,またこの問題を避けて用いられるシミュレーションによる検定方法であっても,結果にはシミュレーションに特有のばらつきが生じる.そこで,本研究ではMoranのI統計量の確率分布の裾野に着目した大規模シミュレーションを通じて,仮説検定で用いられる棄却限界値の推定式を構築する.達成の難しいI統計量の正規性や都度のシミュレーションに依らない平易な推定式を提供することで,検定結果の安定と信頼性の向上に資することを目的とする.
著者
松原 康介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1007-1014, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
32

本研究では、フェルナン・プイヨンの自伝『石叫ぶべし』(荒木亨訳)の精読から、プイヨンの参画内容を抽出・整理し、既往研究とも突き合わせながら文脈的に再構成することで、マルセイユ旧港復興の経緯と形成空間の特徴を明らかにする。まず旧港地区の形成と空間的特徴、老朽化の問題を既往研究より概括する。続いて、戦災の状況と、戦後市政におけるマルセイユらしい混乱の中でプイヨンが「追放」されるまでの経緯を戦史、政治史を踏まえて明らかにする。更に、石材ルートの確保やル・トロネ修道院等、地域の歴史的建築の調査を経て、プイヨンが主導権を握っていく過程を建築史も踏まえて明らかにする。その上で、計画論とファサード図を踏まえて、最終的に実現された旧港空間が、いかなる特徴を体現しているかを検討する。プイヨンは、先行計画を無理に否定することもなく、自らは柔軟かつ抑制的に6つの低中層住宅からなるファサードの計画に留めた。それが多様性を活かすプイヨンの計画論であった。南へ向かっては旧港、ひいてはノートルダム・ドゥ・ラ・ギャルドを臨み、北に向かっては斜面地の歴史的建築物が見え隠れする地中海的ヴィスタは、こうして実現されたのであった。
著者
東本 靖史 高田 寛 岸 邦宏
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.433-438, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
10

バス利用者の減少が年々、深刻化する中、2002年の改正道路運送法の施行に伴い、バス事業者としては経営上、公共性よりも採算性を重視せざる終えなく、全国的に赤字路線からの撤退が相次いだ。地域のバスサービスの低下は、地域住民の移動手段を奪うこととなり、地域生活に大きな影響を及ぼすことになるが、更には地域の利便性の低下は地価の下落を招くこととなり、社会経済的な損失は多大である。そこで本研究では、路線廃止や減便などのバスサービスの低下がもたらす地価下落への影響を分析するため、ヘドニックアプローチにより地価関数の変数にバスサービスを含めたモデルを構築する。特に、各地域のバスサービスについては、バス便数や系統数、バス停までの距離が複合的に影響するため、本研究では包絡分析法(Data Envelopment Analysis)を用いて、新たなバスサービス水準指標を設定した。
著者
宗 健
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.422-427, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

日本の人口は減少しており自治体間で熾烈な人口獲得競争が行われている。しかし、どのような政策が人口増加に繋がるのかは、必ずしも明かではない。本研究では全国を対象とした約18万人の地域の居住満足度アンケートデータと、住民基本台帳人口データの関係を分析した。分析結果は以下のようなものである。居住満足度と人口増減には高い相関関係がある。「イメージ」「親しみやすさ」「生活利便性」の各因子は人口増加と正の相関があり、「静かさ・治安」「自然・観光地」の各因子は負の相関がある。「物価家賃」や「交通利便性」、「行政サービス」は有意な関係がない。