著者
滝澤 行雄 山下 順助 石郷岡 清基
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-12, 2014
被引用文献数
2

日本酒のX線照射マウスに対する放射線防護効果を検討した。供試の日本酒は米と米麹のみで醸造した純米酒(アルコール濃度10.5%)で,9週齢雄性C57BL/6JJms系マウスに純米酒0.6mL/匹を経口投与し,その約30分後にX線7.8Gy(照射線量率1.078Gy/分)を照射した。また,純米酒0.2mL/匹を7日間反復経口投与後30分後にX線を7.8Gy照射し,引き続き同様に7日反復経口投与を行った。対照マウスには普通酒(アルコール濃度15.0%),純エタノール(10.5%)及び生理的食塩水を経口投与した。なお,普通酒は米と米麹に,醸造アルコールを加えている。<br>X線照射マウスに対する放射線防護効果は30日間の生存率で評価した。その結果,大量1回投与(0.6mL)において,純米酒投与群の生存率は80%でエタノール投与群よりも高かった。生理食塩水投与群では26日目に全頭死亡した.純米酒投与群と生理食塩水投与群との間に有意差(p<0.01)が認められた。少量連続投与(0.2mL)においては,純米酒投与群の生存率は普通酒投与群より高かった。純米酒投与群の生存率は生理的食塩水投与群より有意に高かった(p<0.05)。日本酒はアルコ-ル飲料の中でもアミノ酸が多く,特にアミノ酸総量では純米酒(1771mg/L)が普通酒(932mg/L)の約2倍高であり,放射線防護効果にアミノ酸の寄与が思考される。純エタノ-ルにも防護効果はみられるが,日本酒に比べ低かった。以上,唯一日本酒のみの特徴といえるアミノ酸類に放射線防護効果があることが示唆された。
著者
佐藤 至 松坂 尚典 西村 義一 品川 邦汎 小林 晴男
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.289-292, 1993-05-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
11

In order to estimate the availability of zeolite, one of the inorganic ion exchangers, as an eliminator for the incorporated radionuclides, wholebody retention of intraperitoneally administrated 54Mn and 65Zn was measured in mice fed a zeolite-added diet at 10 per cent. Wholebody retention of 54Mn and 65Zn was decreased significantly faster than control, and the biological half-life of them was also reduced to 11.3 and 12.7 days, respectively, from 14.1 and 16.8 days in controls. The results suggest that oral administration of zeolite is effective to eliminate the incorporated 54Mn and 65Zn, and if it is used in combination with the chelation therapy of DTPA, it will be more effective.
著者
清水 雅美 安斎 育郎 福士 政広 乳井 嘉之
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.272-280, 1997-05-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
29
被引用文献数
3 5 2

チェルノブイリ事故後, 多くの国々で, キノコ中に比較的高濃度の放射性セシウムが含まれていることが注目されるようになった。キノコは生息する木や土壌などからセシウムをよく吸収し, その移行係数が高い。本研究では, 日本各地で生産された干椎茸中に含まれる放射性セシウムの濃度を分析し, 核実験およびチェルノブイリ原発事故などに伴う全国の環境放射能汚染状況を把握することを試みた。原木栽培した干椎茸を全国の都道府県より集め, 137Csおよび134Csの放射能濃度を高純度Ge半導体検出器により分析した。その結果, 3.4-33.6Bq/kgの137Csが検出された。134Csはいずれも検出限界以下であった。137Csの濃度は各都道府県の雨水・落下塵中の137Cs濃度と危険率1%で有意な相関を示した。また, 137Csの濃度は年平均気温とも危険率10%で負の相関を示したが, 原木中の濃度が把握されていないため, 気温との逆相関は見かけ上の相関である可能性もある。ちなみに, 気温と雨水・落下塵中の137Cs濃度の2変数を説明変数とした重相関係数は0.54 (危険率2.5%で有意) であった。北海道・東北, 関東, 中部, 近畿, 中国, 四国, 九州の7地域にグルーピングして分散分析を試みた結果, グループ内のばらつきよりもグループ間のばらつきが有意に大きいことが示された。気温および降下量との相関性に関する先の考察とあわせて考えると, この事実は干椎茸中の137Cs濃度がそれらの因子と関連している可能性があることを示唆するものと考えられる。
著者
原田 直樹 本島 彩香 五十嵐 和輝 野中 昌法
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.613-619, 2015

2012年に桑の葉茶から100Bq kg<sup>-1</sup>を超過する放射性セシウムが検出された。これを受け,本研究では二本松市内の桑園でクワにおける<sup>137</sup>Csの濃度分布を調査した。その結果,食用となる先端から30cmまでの上位葉において下位葉より<sup>137</sup>Cs濃度が高いこと,樹幹の表面に放射性核種が偏在していることなどが明らかとなった。また,樹幹へのカリ液肥の散布は,食用とされている上位葉(0~30cm)の<sup>137</sup>Cs濃度を有意に低下させたが,実用技術とするには不十分と判断された。
著者
飯本 武志 藤本 登 中村 尚司
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.93-102, 2014
被引用文献数
1

本事業は,高校生による放射線等に関する課題研究活動を,文部科学省が支援するものである。この課題研究は,交流会,自主研究,成果発表会の三つの柱で構成されている。メディアでも紹介され,大変に評判のよい事業であったが,残念なことに,この支援事業は平成24年度で打ち切られた。7年間の支援事業の概要を紹介すると共に,今後の展開の可能性を考察した。
著者
深津 弘子 中山 一成 今沢 良章 虻川 成司 樋口 英雄
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.16-20, 1982
被引用文献数
4

海産生物中の放射性核種の濃度とその分布を把握するために<SUP>60</SUP>Coと安定コパルトを分析し, その関係について調査を行った。試料は日本近海で採取されたイカの内臓, 魚類である。<SUP>60</SUP>Coはイオン交換樹脂を用いた放射化学分離を行ったのち, 低パックグラウンドGM計数装置を用いて定量した。安定コバルトは分光光度計を用いて吸光度を測定し定量した。<BR>その結果, 北西太平洋で採取されたカツオの内臓以外の魚類については<SUP>60</SUP>Coは検出されなかったが, <SUP>60</SUP>Coが検出されたイカの内臓等の回遊性生物において, <SUP>60</SUP>Coと安定コパルトとのよい相関関係が得られた。
著者
山崎 秀夫
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.299-316, 2014
被引用文献数
1 2

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故(以下,原発事故と略記する)では,大量の放射性核種が環境に放出された。環境射能汚染からの低線量被ばくによる生体影響に関しては様々な議論が繰り返されており,その実態については明瞭に解明されていない。今回の事故では,東日本一帯の環境が広範囲に放射能汚染され,事故による直接的な影響を受けなかった地域にも,物流などによって放射性物質が拡散している。原発事故による環境放射能汚染の特徴は,①大規模な海洋汚染が,事故後3年以上経過した現在も継続している。②首都圏を含む人口稠密な都市が,高度な放射能汚染にさらされた。③大量の放射性核種が,今でも森林生態系に沈着している。このような複雑な環境放射能汚染は,過去に世界各地で起きた大規模原子力事故では経験していない。原発事故で環境科学的に問題になる主要な核種は,<sup>131</sup>I,<sup>134</sup>Cs,<sup>137</sup>Csである。また,原子炉冷却水は,炉内のデブリにも接触しているので,<sup>90</sup>Srの他に核燃料のウランやプルトニウム同位体,核分裂生成核種,中性子捕獲生成核種などが含まれる可能性が高く,汚染冷却水の環境への漏えいは,深刻な放射能汚染を引き起こす可能性がある。福島第一原発による環境放射能汚染の概要がようやく明らかになり始めた。環境放射能汚染の状況を明らかにし,汚染に対処するためには,放射性核種の環境中での移行,蓄積,拡散を正しく評価しなければならない。本稿では,現在までにわかっている,原発事故による環境放射能汚染の動態を,環境中の放射性核種の移行と蓄積の観点から概説する。
著者
細田 正洋 赤田 尚史 下 道國 古川 雅英 岩岡 和輝 床次 眞司
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.7, pp.465-474, 2015-07-15 (Released:2015-07-28)
参考文献数
24
被引用文献数
3 4

岐阜県東濃地域において3″φ×3″NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータを用いた走行サーベイによって空気吸収線量率の測定を行った。逆距離荷重補間法によって東濃地域の空気吸収線量率の等値線図を作成した。土岐花崗岩及び苗木花崗岩地域の空気吸収線量率は領家帯花崗岩地域と比べて相対的に高い傾向を示した。東濃地域の6地点では,3″φ×3″NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータを用いて地表面から1mの高さにおけるγ線波高分布を取得した。得られたγ線波高分布の全てに134Cs及び137Csのフォトピークは観測されなかった。土岐市内の神社境内において最大で552nGy/hの空気吸収線量率,914Bq/kgの238U系列濃度が観測された。
著者
高瀬 つぎ子 高貝 慶隆 内田 守譜 難波 謙二 大槻 勤 村松 康行
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.281-290, 2013 (Released:2013-05-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

福島第一原子力発電所の事故は,福島県東部の広範な地域に,放射性セシウムによる環境汚染をもたらした。本研究では,汚染された餌を摂取したウシの血液中と内臓組織中の137Cs濃度を測定し,コンパートメントモデルによる解析を行った。その結果,血液と内臓組織に含まれる137Cs濃度には,線形相関が存在することが明らかになった。また,内臓組織中での137Csの蓄積性(aiE/aEi)を推計したところ,137Csは,筋肉に蓄積しやすいことが明らかになった。
著者
Toshinori ARAMAKI Ryohei SUGITA Atsushi HIROSE Natsuko I. KOBAYASHI Keitaro TANOI Tomoko M. NAKANISHI
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.169-176, 2015-03-15 (Released:2015-03-28)
参考文献数
23
被引用文献数
3 14

We performed an imaging analysis of 42K in Arabidopsis using real-time radioisotope imaging system(RRIS). First, we purified 42K from an 42Ar―42K generator. And then, we characterized RRIS performance by quantitatively determining 42K using standard series. As a result, the dynamic range for 42K was determined to be at least three orders of magnitude. Next, we evaluated the level of self-absorption in Arabidopsis organs by comparing the signal intensity detected using RRIS and the actual radioactivity detected by a gamma-counting method. There was no significant difference in detection efficiency between the thick bolt(stem) tissue and the thin leaf tissue. The reason for scarce self-absorption could be related to the relatively strong β ray emissions that have a maximum energy of 3525.4keV.
著者
内田 滋夫 村松 康行 住谷 みさ子 大桃 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.199-203, 1990-05-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

湿性沈着吸収によるヨウ素のコマツナおよび水稲可食部への移行および吸収部位からの転流について検討した。その結果, (1) コマツナ葉面へは, I-の方がIO3-よりもよく吸収されること, および (2) モミへの吸収では, 95%以上がモミガラに残留し, 玄米へは移行しにくいこと, さらに, (3) どちらの農作物でも吸収部位から他の部位への転流は, 非常に少ないこと, 等が明らかとなった。
著者
大井 信明 白岩 善博
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.255-264, 2015-04-15 (Released:2015-04-28)
参考文献数
20

微細藻類を用いたバイオ燃料創出のための技術開発が精力的に行われている。その実現のためには,オイル含有量の高い新規微細藻類株の自然界からの単離,培養条件の最適化によるオイル生成速度と蓄積量の増大,遺伝子工学や代謝工学による有用燃料脂質の合成能の向上や代謝改変技術の確立等を実現する必要がある。そのためには,微細藻類の有用脂質代謝経路に関する基礎情報が不可欠となるが,その詳細な解析技術は不十分である。そこで,イオントラップ型質量分析計を導入して,微細藻類のための脂質メタボロミクス手法の開発を試みた。その結果,海洋優占種の1種であるハプト藻Emiliania huxleyiを用いて,油溶性画分から10脂質種600以上の脂質分子種を同定する解析系の確立に成功した。
著者
和田 英太郎
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.136-146, 1986-03-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
47
被引用文献数
10 8
著者
柴田 浩
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.22, no.12, pp.694-700, 1973-12-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

生体におけるカドミウムの吸収および排泄について明らかにするために, 109CdCl2およびマウスを用い, サンプル測定およびオートラジオグラフィにより実験的に検討した。経口投与した109Cdの大部分は屎として体外に排泄され, 尿への排泄は少なく, また静脈内注射した109Cdは屎にかなり排泄されたが尿への排泄は少なく, 109Cdの体外排泄経路はおもに屎を介して行なわれることがわかった。109Cdの消化管における吸収は少なかった。109Cdの消化管内排泄は, 消化管壁を通しての排泄および胆汁を介しての排泄の両経路の排泄があった。消化管各部位における吸収および排泄を比較すると, 吸収は小腸下部が, 排泄は小腸中, 下部が比較的多かった。体内に吸収された109Cdは, 肝臓, 腎臓, 消化管壁, 膵臓, 唾液腺等に分布した。
著者
山野 俊也 小林 祐介 原 雅樹 白川 芳幸
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.671-678, 2006-11-15 (Released:2011-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

モニタリングポストは, 原子力施設における放射線及び放射性物質の漏えい監視のために有用な装置である。この装置は空間線量率 (μSv/h, nGy/h) や計数率 (cpm, cps) のデータを定期的に提供するものである。著者らはこのようなデータの他に原子力事故の早期の発見, あるいは異常データの的確な解釈に有用なγ線の飛来方向を計測できる新型のモニタリングポストを試作した。この検出器は, 扇形をしたNal (Tl) , CsI (Tl) , BGOの3種類のシンチレータと光電子増倍管より構成される。飛来方向によって, それぞれのシンチレータが作る光電ピークの計数が変化することを利用したものである。低エネルギーの241Am (60keV) , 中エネルギーの133Ba (356keV) , 137Cs (662keV) , 高エネルギーの60Co (1250keV) を用いて, 電磁カスケードモンテカルロシミュレーション (EGS) , 及び実験によってエネルギー領域ごとの方向計測感度の特性を評価した。この結果, 本検出器は広いエネルギー領域においてγ線の飛来方向を計測できることが確認された。