著者
田尾 龍太郎 難波 梓 山根 久代 冬廣 吉朗 渡邊 毅 羽生 剛 杉浦 明
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.237-240, 2003 (Released:2008-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1 5 1

ウメ(Prunus mume Sieb. et Zucc.)の大多数の栽培品種は,S-RNaseが関与する配偶体型自家不和合性を示す.ウメには,自家和合性品種も存在しており,これらの自家和合性品種は自家和合性形質の分子マーカーとして利用可能なS-RNase遺伝子(Sf-RNase遺伝子)を持つことが報告されている.本研究では,このSf-RNase遺伝子を特異的にPCR増幅するためのプライマーセットを開発した.‘剣先’からSf-RNase遺伝子の部分配列をPCRクローニングし,その塩基配列を決定した.Sf-RNase遺伝子のイントロン部位の塩基配列よりセンスプライマー(Ken2)およびアンチセンスプライマー(PM-R)を設計し,いくつかのウメ品種を用いてその有効性を検討したところ,Sf-RNase遺伝子をもつ品種でのみ増幅がみられた.今後このプライマーセットをウメの自家和合性品種の育種に利用することによって,育種にかかる時間と労力を大幅に軽減できると思われる.
著者
中村 三七郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.305-317, 1935
被引用文献数
1 3

(1) 本實驗に於て根端の採取は3月11日に着手し, 10月21日迄2週間毎に17囘行へり。新梢伸長測定は5月3日に開始し, 10月18日迄1週間毎に行へり。<br>(2) 夏橙の根群の活動は4月上旬に初まり, 5月上旬より7月下旬迄最も旺盛にして, 8月に至れば殆ど衰へ, 9月下旬より10月にかけて再び活動す。概して雨期に盛んなり。新梢は5月中下旬に伸長し, 以後伸長を止め, 8月下旬より9月下旬にかけて秋芽伸長す。<br>(3) 柿はやゝ遲れて5月下旬に至り根群活動を始め, 10月下旬には甚だ衰へたり。梅雨期に盛んにして8月に衰へ, 9月下旬やゝ旺となる。新梢は5月中旬, 7月下旬及び9月上旬を中心として2-3週間伸長し, 伸長速度も5月7月, 9月の順に盛んなり。<br>(4) 枇杷の根群は3月11日には既に活動状態に入り, 10月下旬迄も活動を續く。7月上旬最盛にして, 8月に至り衰ふ。新梢は5月中旬, 7月中旬, 8月下旬より9月上旬にかけ, 各2-3週間伸長し, 5月に於て伸長速度最大なれど, 概して絶えず伸長するものの如し。<br>(5) 梨の根群は5月上旬活動期に入り, 8月上旬迄繼續す, 新梢は7月上旬迄に全伸長の殆ど總てを終る。<br>(6) 以上の結果より考察するに各果樹の根群は梅雨期及び其前後に於て活動盛んなれども, 新梢は一般に雨期に於て伸長緩慢にして, 梨は梅雨初期に於ては伸長盛んなれども終期に近付くに從ひ伸長緩やかとなる。<br>(7) 根群の活動期と新梢伸長期は明かに交互となる。
著者
須佐 寅三郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.194-221, 1934

本縣苹果在植品種の缺點と栽植上の缺陷から品種改良並に自家,他家交配研究の必要を感じ,昭和三年より繼績的に實驗を重ね.其内昭和四年より同八年迄の成績の概要を述べると次の如くである。<br> 1. 本縣主要苹果の花期は五月中旬より約三週間に亙る。印度が最も早く,國光が最も遲い。其期間は該年の花期好天なる時は短かく各品種の盛花期相接近する。之れに反し花期に低温又は降雨績く時は著しく其花期延長し各品種の盛花期を離す。同花期の良晶種を混植の要がある。<br> 2. 108品種中花粉の不良なるもの25種,中庸なるもの23種,花粉の發芽率60%以上を示すもの60種ある事が分つた。<br> 3. 雌蕋の雄蕋に對する長短と花粉能力又は受精との關係は未だ認めない。<br> 4. 花粉管放長の方向は性的親和力に影響を受くる事著しく強い。<br> 5. 苹果の花粉は攝氏13度内外の低温に於ても良く發芽す。<br> 6. 花粉管が伸長したる時降雨あれば著しき破裂現象を招來す。之れは受精作用に影響甚大なる事を推察す。<br> 7. 苹果の花粉は粉状乾燥状態にて貯藏すれば1ケ年以上發芽するものがある。<br> 8. 自家交配で自家不稔性の品種10種,弱自家結實性のもの9種,自家結實性と認め得るもの9種あつた。就中,主要品種では祝では殆んど自家不稔性で. 22%, 國光は稍自家結實性で3.07%, 紅玉は8.5%, 印度は10.05% なるが,ゴールドンヂリシヤスは16%, イングラムは33.16% の自家結實性ある事が分つた。之に反しデリシヤスは完全に自家不稔性である必す,紅玉,印度又はゴールドンデリシヤス,祝等と混植するを要すう。<br> 9. 他家交配25品種の平均結果率は22.76%で,自家交配28種平均結果率5.08% に比し約4倍半の結果率である。混植の必要が顯著である。<br> 10. 花時天候惡しき年に於ても他家交配試驗は顯著なる好結果を示した。故に花時寒濕なる氣候續く時は出來る丈人土交配を行ふか,又は花粉の媒介者昆蟲の集合を計る爲め果園の乾燥と氣温を高める事が有效であると思ふ。<br> 11. 他家交配に於て兩性器關が完全であ場合は相互嫌忌性は未だ判然と認められない。然し近親間に於ては相互嫌忌性があるかも知れない。<br> 12. 他家不結實は兩性機關が不能性であるか,何れか一方が不能的である場合に起るのが多いと思はれる。
著者
白山 竜次 郡山 啓作
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.427-432, 2013 (Released:2013-12-27)
参考文献数
15
被引用文献数
7

キク電照栽培における効果的な電照技術を確立するために,電照時間帯が花芽分化抑制効果に及ぼす影響を,限界日長の異なる夏秋ギクおよび秋ギクを用いて調査した.夏秋ギク‘岩の白扇’を用いて電照時間帯と花芽分化抑制効果を調べた結果,電照の効果が高い時間帯は暗期の中心ではなく,後夜半であった.そこでシェードを用いて‘岩の白扇’の暗期開始時刻を早めたところ,電照効果の高い時間帯が早くなった.次に秋ギク‘神馬’を用いて,暗期の中心を0:00に固定した日長12,10および8時間の3区で電照効果の高い時間帯を検討したところ,日長の長い区ほど電照効果の高い時間帯が後夜半にずれる傾向が認められた.このことから,電照効果の高い時間帯は暗期開始からの経過時間と関係があり,‘神馬’の場合は,暗期開始から9~10時後が電照効果の高い時間帯であると考えられる.また‘岩の白扇’と‘神馬’の電照効果の高い時間帯を比較した結果,‘岩の白扇’は,暗期開始から電照効果の高い時間帯までの時間が短い傾向にあり,品種ごとの限界日長との関連性が示唆された.
著者
栁下 良美 原 靖英 中山 真義
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.125-130, 2013 (Released:2013-07-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

日本で施設切り花栽培に用いられる日長反応が中性のスイートピーの冬咲き性品種は,花色などの多様性がヨーロッパで利用されている長日性の夏咲き性品種に比較して小さい.我々は冬咲き性品種の多様性を拡大するために,夏咲き性品種に特有の花弁に斑の入る形質の導入を試みた.最初のステップとして斑入り形質の遺伝様式と着色性や開花習性との連鎖について検討した.斑入り花と全着色花,全白色花との交雑による後代での花弁着色の表現型の分離比から,斑入り形質は劣性の1遺伝子により制御されており,斑入りの表現型は着色性を制御する遺伝子により劣性上位で抑制されていることを明らかにした.また既存の報告と同様に,現在日本で栽培されている冬咲き性も1つの劣性遺伝子により制御されていることを明らかにした.さらに斑入り形質,着色性および開花習性は互いに独立して分離していることを示した.これらのことから,冬咲き性は表現型が発現した世代で固定が完了する一方で,斑入り形質はその自殖後代で全白色花が現れない世代で固定が完了すると考えられる.
著者
堀 裕
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.113-115, 1983 (Released:2007-07-05)
参考文献数
20
著者
三木 泰治
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.8-25, 1935 (Released:2007-05-31)
参考文献数
3

1. 梨の果肉中の石細胞の發育過程及之が大小分布等に就き日本梨を材料として觀察研究する所があつた。2. 日本梨の石細胞は開花又は授粉後10日内外にして柔細胞中に形成せられ, 其後急速に發達し, 40-55日にして其彈性を失ひ收縮し, 爲に周圍の柔細胞を牽引して放射状を呈せしむる。3. 石細胞膜は發現後急激に肥厚し, 60-70日にして最高の厚さに達し, 其後は成熟期に至るに從ひ少しく其厚度を減ずる。日本梨の品種に依り其發育過程及成熟果に於ける石細胞膜の厚度を異にする。4. 日本梨の品種に依り果心の中央を通ずる横斷面及縱斷面に於ける石細胞群の分布密度及大小石細胞群の混合比率を異にする。此事は日本梨の果實の品質を決定する上に於て相當考慮すべき重要事項の一に屬する。
著者
村元 政雄 大塚 富一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.267-271, 1942

1. 苹果紅玉の腋花芽の分化期を知り併せて頂花芽の分化期と比較を行ふため, 農林省園藝試驗場東北支場に於て, 昭和16年8月6日より9月6日迄に7囘, 新梢の腋芽及び2年枝上の短果枝の頂芽を毎囘約40個採收して檢鏡した。<br>2. 腋花芽は當地方に於ては最初分化初期を認めるのは8月5日頃で, 頂芽より約半旬遲れてゐる。<br>3. 腋花芽の9月上旬迄の發達程度は頂花芽に比し, 約5~10日位宛遲れてゐる。<br>4. 腋花芽, 頂花芽共第I, II期の分化期間の長さは約25日で第III, IV期を略同一のやうに考察される。
著者
本條 均
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-5, 2007 (Released:2007-03-06)
参考文献数
30
被引用文献数
11 14
著者
山本 雅史 久保 達也 冨永 茂人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.372-378, 2006 (Released:2006-09-25)
参考文献数
32
被引用文献数
14 52

カンキツにおける自家不和合性は結実不良の原因となることもあるが,単為結果性が備わった場合には無核果の生産につながる重要な形質である.そのため,本研究では主としてわが国原産のカンキツ類65種・品種(以下,品種と略)を供試して,その自家不和合性について解明するとともに,血縁関係のある自家不和合性品種間の交雑不和合性についても検定した.なお,不和合性は花柱内の花粉管伸長によって検定した.レモンは自家和合性であった.ブンタンでは 6 品種すべて,ブンタン類縁種では11品種中 7 品種,ダイダイおよびその類縁種では 6 品種中 2 品種,スイートオレンジおよびその類縁種では 5 品種中‘ありあけ’のみの 1 品種,ユズおよびその類縁種では 5 品種中ヒュウガナツのみの 1 品種,マンダリンおよびその類縁種では28品種中14品種が自家不和合性であった.キンカン類縁のシキキツおよび分類上の位置が不詳の辺塚ダイダイは自家和合性であった.すなわち,本研究で供試したカンキツ全65品種中31品種が自家不和合性であった.交雑不和合性はクレメンティンとその後代である‘ありあけ’との正逆交雑でのみ認められ,両者の不和合性に関する遺伝子型が一致していると推定できた.
著者
鈴木 鉄男 金子 衛 鳥潟 博高 八田 洋章
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.37-44, 1968

温州ミカンの水分不足度をあらわす指標として, 葉の飽和水分不足度 (W.S.D.) をとりあげ, その日変化, 季節変化をほ場栽植と鉢植えミカンについて実測し, さらに気象要因, 土壌水分との関係について調査を行なつた。<br>1. 夏期における葉のW.S.D.の日変化は, 日の出とともに上昇し, 12時にピークを示し, 以後下降して18時に最低となつた。冬期の日変化は夏期とほぼ同様の傾向を示したが, その動きは小さかつた。<br>2. 葉のW.S.D.の季節変化は, 冬期は1月上旬以降の低温と寒風によつて急上昇し, 2月上旬にピークを作り, 以後3月下旬までは次第に下降した。春期は4月中は低い値で経過したが, 5月上旬は春先の乾燥と新しようほう出などの関係で急上昇して一つのピークを作り, その後は6月上旬にかけてやや下降した。夏期は高温, 乾燥とあいまつて7月上旬から8月下旬にかけて高い値を示し, とくに8月上旬は顕著で最高のピークを形成した。秋期は9月中は比較的高い値で経過したが, 10月上旬からは次第に下降した。<br>3. 冬半期と夏半期における葉のW.S.D.と各気象要因との相関関係をみたところ, 冬半期のW.S.D.は気温, 地温, 降水量, 飽差とそれぞれ高い負の相関を示し, 夏半期のW.S.D.は気温, 地温, 飽差と高い正の相関を示した。<br>4. 秋期から冬期にかけて, 風に当てた場合の葉のW.S.D.の変化をみたところ, 風速が増すにつれてW. S.D.は上昇し, また風に当てた時間が長いほどW.S.D. は上昇した。さらに枝しよう内の蒸騰流の速度は, 風に当てることによつて明らかに大となり, 土壌が乾燥するにつれて流速は低下した。<br>5. 土壌含水量の変化と葉のW.S.D.の関係をみた結果, 夏期は両者の間に高い負の相関があり, 曲線回帰方程式によつて葉のW.S.D.から土壌含水量が推測できた。なお, 土壌水分がほ場容水量~水分当量の間にある時はW.S.D.の変化は緩慢であつたが, 水分当量以上に土壌が乾燥するとW.S.D.は次第に上昇し, その後は乾燥にともなつて急上昇した。W.S.D.が8%になると葉に干害徴候があらわれ, 10%に達すると果実の外観にも干害徴候が出始めた。冬期においては土壌含水量とW.S.D.の相関は認められず, 冬期に葉のW.S.D.が上昇するのはむしろ気象要因によるところが大きいようである。
著者
小林 章
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.27-51, 1939

1. 京都帝大農學部附屬農場の室内葡萄ブラック•ハンブルグ種 (10年生)を使用し, 8, 9, 10, 11月の4ヶ月間に亘り, 室の東西兩側に於ける葉の一日の同化作用を2時間毎に測定比較し, 同時に各側に於ける葉の受光状態, 室温,葉温, 葉の含水量, 氣孔の開度を測定し, 前者との間に於ける相關關係の有無を觀察した。<br>2. 單位時間に於ける同化物質の集積並に消費は, 晴天日曇天日共に西側の樹が東側の樹に比し大であつた。但し, これは單に1日の環境差に基く結果のみでなく, 更に積年の環境差に由來する樹自體の現在の個體差が關與したものと思はれる。<br>3. 同化曲線は, 晴天日 (特に9月以降) には大體東側は午前8-10時と正午-午後2時に高値を有する双頂曲線となり, 西側は午前10時-正午にのみ高値を有する單頂曲線となつた。然るに雨天日には兩側共に午前10時-正午に高値を有する單頂曲線となり, 兩者の間に量的以外の顯著な相違は認められなかつた。<br>4. 葉の1日の受光状態 (9月中旬) は東側樹は午前7-11時に大體その全面に日光の直射を受け, 午後1時以後は日陰となつた。反對に西側樹は午前11時まで日陰であり, 午後1-5時に全面に直光を受けた。即ち室の東西兩側に於ける葉の受光状態は正午を中心として相反してなた。<br>5. 葉の受光状態と同化曲線を對比すると, 東側にては午前10時-正午即ち直光の強烈な時期が同化の不適期であり, 午前8-10時即ち直光の左程強烈ならざる時期, 及び正午-午後2時即ち散光の強き時期は適期であつた。西側にても東側同樣午前10時-正午の強き散光時は同化適期であり, 正午-午後2時の強き直光時は不適期であつた。要するに東西を通じて, 強き散光か, 或は左程強からざる直光は同化に好適であるが, 反對に強き直光は有害であつた。<br>6. 室温を比較するに, 晴天日には午前中は東側が高くその差の最も著しいのは午前8-10時で, 午後は反對に西側が高くその差の著しいのは午後1-2時であつた。室の中央部の氣温は, 午前7時-正午には東西兩側の中間に位し, 正午-午後2時には東西何れよりも低く, 午後2時以後には何れよりも高温を示した。曇天日には東西兩側に於ける差異は殆んどなかつた。<br>7. 東西兩側に於ける葉温を觀るに, 晴天日 (10月27日) には午前 (8-11時) は東側が高く, 例へばその平均温度は東側樹 (陽葉) 19.9°C, (西側樹 陰葉)16.9°Cであり, 午後 (1-4時) は反對に西側が高く丙側樹 (陽葉) 23.4°C, 東側樹 (陰葉) 21.9°Cであつた。即ち日光直射の有無に伴ひ, 正午を中心にして東西に於ける葉温は相反し, この場合東西の葉温差は午後よりも午前に著しく大であつた。曇天日 (10月29日) には葉温は主として氣温に一致し, 且つ東西に於ける差異は殆んどなかつた。而しで上述實驗の範圍内に於ては, 葉温と同化曲線との間には, 晴天日曇天日共に密接な關係を求めることは出來なかつた。<br>8. 單位葉面積當の平均含水量は, 西側の樹が東側の樹に比し常に大であり,且つその一日に於ける變化の状態は, 前者が後者に比し甚だ複雜であつた。併し, 含水率(含水量の生體重に對する百分比)は, 反對に東側が西側に比し大であつた。これは, 葉の含水率が, 主として同化量の多少に支配され變化した結果に依るものである。含水量と同化曲線との間には決定的な關係を認めることが出來なかつた。<br>9 氣孔の開度は晴天日 (9月21日) には, 1日の時間的變化が著しく,且つ東西兩側に於て明な差異を認めたが, 曇天日 (10月11日) には, 1日の變化が乏しく且つ東西に依る差異は殆んどなかつた。而して, 氣孔の開度と同化曲線との間には曇天日晴天日共に密接な關係を求めることは出來なかつた。<br>10. 斯くて, 日照の有無に伴ひ著しく變化する室温, 葉温, 葉の含水量, 氣孔の開度の何れもの一つが, 同化曲線を決定する主要制限要素とは認め難く, 結局一日中に於て, 午前8-10時の直光, 及び正午前後2時間の散光が同化に最も有效な條件を誘導し, 反對に正午前後2時間の直光が逆な條件を與へた事となる。<br>11. 而してこの事實は, 晩秋の晴天日に野外に於ける葡萄の葉の上表面をパラフイン紙を以て輕く覆ひ直光を遮ぎりたる場合に, 同化の機能が著しく促進された結果と稍通じてなて頗る興味がある。
著者
松島 二良 原田 学
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.242-246, 1966
被引用文献数
2

温州ミカン, ハッサク, ナツダイダイを連続通気方法によつてSO<sub>2</sub>くん蒸を行ない, SO<sub>2</sub>の吸収量すなわち葉内S含量の増加と落葉率ならびに他の葉内成分含量におよぼす影響を調査した。<br>1. 冬季毎日2時間あて34日間, 5, 1, 0ppmの濃度のSO<sub>2</sub>でくん蒸した結果, 煙斑の発生は認められなかつたが, 落葉率はいずれの種類も処理によつて有意的に増大したが, 濃度間では有意差はみられなかつた。一方葉内S含量は各種類ともSO<sub>2</sub>濃度の増加とともに増大し, 落葉率と関係があることを示した。SO<sub>2</sub>濃度とK含量との関係は, 0, 1ppm両区では明らかな関係はなく, 5ppm区では両区に比べ減少の度合がわずかであつた。また5ppm区ではいずれの種類もCaの減少の度が大であつた。N, P, Mgは処理に影響されなかつた。<br>2. 生育期間中のくん蒸の結果でも葉内S含量の増加と落葉率とは平行的な関係が認められたが, S含量の増加は冬季より大であり, またくん蒸期間が長いほど顕著であつた。冬季の実験に比べCa含量に対する影響は明らかでなかつたが, Kは処理区が常に高かつた。<br>3. SO<sub>2</sub>の吸収量はハッサク, ナツダイダイは温州より大きかつたが, 落葉率は温州が最も大であつた。<br>4. 120ppm-hour の同一積算量において濃度と時間を組合わせた場合, 高濃度短時間処理のほうが低濃度長時間処理より著しく被害が大であつたが, S含量はくん蒸区の間に大差はなかつた。
著者
小杉 清
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.50-54, 1953

(1) 1951年及び1952年に東京に於いて, つばぎ4品腫-はぐほう(早), しらたま(早), わびすけ(中), 赤色八重 (晩) 及びさざんか1種の花芽分化期並びに花芽の発育経過を調べた。<br>(2) つばき及びさざんかの花芽分化期は, 6月中旬~7月上旬で, 早生種は晩生種より多少早く分化したが, その差異は比較的少かつた。<br>(3) 花芽の発育は, 胚珠の形成期までは早, 中, 晩の差異が比較的少かつたが, 花粉の形成期に於いて大きく差異が認められた。<br>(4) 開花始は, しらたま10月8日, はくほう10月18日, わびすけ12月9日, 赤色八重3月28日, さざんか11月10日であつた。
著者
岩間 誠造 岩井 茂松
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.249-256, 1954

(1) 秋キクの各品種の感温性及び感光性を知つて, 栽培上の参考に資せんとして, 1952年にはまず代表的な17品種を供試した。試験方法は, 標高 360m の長野と, 同じく 850m の長村の二ケ所で, 標高差を利用して気温の相異するようにし, 5月5日定植して7月1日より一般遮光方法によつて, 日長を10時間に制限した短日20日間, 30日間夫々継続した両短日区と, 無処理の自然日長区の3区を設けた。<br>(2) 生育調査結果では, 定植前, 処理前に於ける草丈, 葉枚数とでは栽培地, 処理区, 品種間に差はみられなかつた。<br>(3) 同じ秋キクも, 立波, 信濃川, 白馬の3品種は, 遮光有無にかかわらず花芽分化し, 日長条件には影響されない。一方その他の14品種は, 日長時間が14時間30分以下の日長条件となると, 花芽形成をするが, 品種間に遅速があり, 新東亜, ピンク東亜, 新月友, みのり, の4品種は比較的早い品種群のようである。<br>(4) 花芽の発育は, 花芽形成のときと同様で立波, 信濃川, 白馬の3品種は, 温度条件のみに支配され, 気温の低い地帯では開花期は遅れる。<br>一方他の14品種は, 13時間30分以下の日長時間で花芽の発育 stage は進むが, この場合ただ日長条件のみならず温度条件の影響もうけるようである。即ち新東亜, ピンク東亜, 新月友, みのりの4品種は比較的高温状態でも, 短日条件下であれば花芽は発育する。<br>また, 岡山平和, ラスター, H. コイド, 白サギ, むらくも, 玉織姫, 国の光, 紅潮, 紅秋, 初がすみ, の10品種は, 短日条件でも高温状態では, 花芽の発育は緩慢となる。<br>(5) 短日20日程度では, 花芽の不完全分化, いわゆる柳芽発生が多く, 実用的にこの程度の短期間の遮光で順調に開花する品種は見当らなかつた。<br>短期短日条件下では花芽発育程度の如何によつて柳芽発生も相異し, この花芽の第二相の発育も, 日長及び温度条件で左右される。<br>(6) 秋キクの品種の早晩性は, 花芽分化及び開花が, 温度条件にのみ左右される品種群では, 栽培地の気温に支配される。一方花芽分化, 開化が日長及び温度条件に左右される品種群では, 短日条件による花芽分化の早晩によるものでなく, 分化後開花までの所要日数で決るようである。<br>また, 遮光栽培には所要期間のなるべく短い品種を, とり入れた方が合理的のようである。<br>(7) 供試品種をその感温性及び感光性で分類するとつぎのようになるであろう。<br>I 温度型品種: 花芽分化及び開花が, 日長条件に影響をうけないで, 温度条件にのみ支配される品種群, 立波, 信濃川, 白馬。<br>II 日長型品種: 短日下 (花芽分化=14.5時間以下, 花芽発育=13.5時間) で, 花芽分化, 開花の行われる品種群。<br>(1) 日長型であつて, この場合比較的高温条件でも花芽が発育し, 開花期が促進される品種。新東亜, ピンク東亜, みのり, 新月友。<br>(2) 日長型であつて, この場合比較的高温条件だと花芽の発育は緩慢となつて, 開花期が遅延する品種。岡山平和, ラスター, H. コイド, 白サギ, むらくも, 初がすみ, 玉織姫, 国の光, 紅潮, 紅秋。
著者
高橋 和彦 熊谷 寛 荻原 勲
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.13-17, 2006 (Released:2006-04-11)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3 1

In vitroにおいてサギソウ球根苗に菌根菌を接種し,菌根菌は球根苗の生育を促進するかどうかを明らかにしようとした.また,それはどのような栄養の吸収によるものであるかを調査した.このことにより,球根苗が形成する新球根の肥大に菌根菌接種は有効かどうかを検討した.1.菌根菌接種は球根苗の生育を促進し,形成される新球根を肥大させることが明らかとなった.2.菌根菌接種が球根苗の生育を促進したのは,菌根菌の作用によりオートミール培地から植物体が炭素化合物を多く吸収したことによると考えられた.3.植物体が吸収した炭素化合物は培地のオートミールが菌根菌によって分解され,根から直接吸収されたものであるか,あるいは菌根菌を経由して吸収されたものであるかは判別できなかった.
著者
宮崎 義光
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.142-146, 1960

1. 3月25日播種の玉レタス(グレートレークス)の地上部の生長は,5月24日よりやや急激となり6月3日より結球初期(6月13日)までが最も旺盛である。一方葉数の増加は5月24日より6月3日までが最高で結球期に入るとその増加度は漸次低下する。<br> 2. 6月3日の体内生理条件をそれ以前と比べると,葉の含水量,比電導度は減少し,粉末比重,修正濃度は増加しているが,6月13日と比べると前2者はほとんど変化なく,後2者はともに減少している。<br> 3.含水量は生育初期には葉位の上昇につれ減少し結球期には上位葉ほど含水量が大となつているが,これら含水量の葉位別勾配の転換は6月3日に行なわれている。<br> 4.粉末比重は生育初期には葉位の上昇に伴なつて著しく増大し,生育の進むにつれてその葉位別勾配はゆるやかになり,6月21日には外葉部では葉位の上昇に件なつて増加し,球葉外部では葉位の上るにつれてやや減少し球葉内部では著しく増大している。<br> 5.修正濃度は生育初期には上葉位ほど低く,結球期には葉位の上昇に伴なつて増加し,特に球葉部での増加が著しい。<br> 6.比電導度は全生育期間を通じて葉位の上昇につれて低下している。しかし結球充実期の外葉部では値がやや増加し葉位差が少なくなつている。<br> 7. SC/RIは5月24日より6月21日まで葉位の上昇につれて急減しているが,結球期には外葉部の値がやや増加し球葉部の値が減少している。<br> 8.以上の結果から玉レタスでは,生育の進行,結球開始,結球の充実に伴なつて著しい生理的変化が招来され各葉における同化物質の生成・蓄積・転流が起つているが,6月3日には葉内に可溶性物質の著しい蓄積が起り同時にロぜット内部の葉の形成・生長が盛んになつているのでこの時期が結球開始期と考えられる。
著者
堀江 秀樹 伊藤 秀和 一法師 克成 東 敬子 五十嵐 勇
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.425-428, 2004 (Released:2008-03-15)
参考文献数
11
被引用文献数
7 13 3

キュウリの嗜好評価の上で,食感の評価が重要である.そこで,キュウリ果実の果肉部の肉質を評価する方法を提案した.本法では,キュウリ果肉部にプランジャーを貫入させ,プランジャーの先端が果肉中を移動する間の力の変化を記録した.プランジャー貫入中の力の変化を指標化し,CI(crispness index)とした.CIはプランジャーが果肉中を貫入する間にかかる力を2次微分し,その絶対値の和として計算した.CIはコリコリした食感のキュウリ果肉において高い値を示した.多くの果実の食感評価の指標として「硬さ(組織破断時の力)」が広く用いられてきたが,CIは「硬さ」とは異なる特性を表すものと考えられる.従来法による「硬さ」の測定ができれば,新たな装置を準備しなくともCIの測定が可能で,「硬さ」とCIを用いることにより,より精度の高いキュウリ果実の食感評価が可能になるものと期待される.
著者
石川 啓 木村 秀也 吉川 省子
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.39-46, 2008 (Released:2008-01-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2

ウンシュウミカン樹において発芽期前後に葉面散布された尿素の吸収・移行特性を明らかにするため,15Nトレーサー法を用いて2か年間の圃場試験とポット試験を行った. マシン油乳剤との混用の有無に関わらず,葉面散布された尿素は3月下旬においても旧葉から吸収され,6月中旬までにその57%が春季新生器官に移行した.ただし,根部への移行量は極めて少なかった.葉面散布された尿素の吸収量は,少なくとも3回散布までは散布回数に比例して増加し,その利用率は散布窒素量の約40%前後であった.これらのことから,3月下旬~4月上旬の尿素葉面散布は,窒素レベルが低下している樹に対して全窒素を増加させる効果があることが示された.
著者
村上 覚 末松 信彦 水戸 喜平 中村 新市
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.331-336, 2006 (Released:2006-09-25)
参考文献数
20
被引用文献数
11 10

伊豆半島を代表する早咲きザクラである‘カワヅザクラ’の南伊豆地域における開花期を調査し,開花日と気温との関係について検討した. 4年間の平均開花日(2分咲き日)は,気温が高く推移していた地点では早く,気温が低くする地点では遅くなる傾向を示し,南伊豆地域内においても約1か月の差が確認された.年次間差では4年間の調査で約2週間の違いがあった.開花期間は2分咲きから満開までが平均18日と比較的観賞期間は長かった.開花日(2分咲き日)と気温との相関は,11月下旬から12月上旬にあたる開花前51~70日以降の気温との相関が高かった.河津町田中と南伊豆町青野川堤防における‘カワヅザクラ’の開花状況には個体差 が確認され,地域内で長期間連続して開花を続ける性質が認められた.