著者
山根 京子 小林 恵子 清水 祐美
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.219-229, 2018 (Released:2018-06-30)
参考文献数
13
被引用文献数
1

若者のワサビ離れの実態は不明であり,ワサビや辛味の嗜好性との関係も調べられたことはなかった.そこで全国の農業高等学校15校と老人介護施設3施設を対象に郵送でアンケート用紙を送付し,高校生594人および高齢者65人から有効回答を得て辛味に関する嗜好性を分析した.その結果,高齢者より高校生で,高校生男子より高校生女子で「ワサビ嫌い」が有意に多くみられることがわかった.辛い食べ物やトウガラシでは世代,性別間で有意な差はみられなかった.嫌いな理由として「鼻にツンとくるから」が72%と最も高かった.ワサビ好きと「回転寿司の利用頻度」と「肉の嗜好性」とは無関係であり,「魚の嗜好性」と 「生ワサビの経験値」 と有意な関係性がみられた.一方,「家族のワサビの経験値」とも有意な関係性がみられ, ワサビの嗜好性には家庭環境が影響を与えている可能性がある.今回の結果から,若い人たちが本当のワサビの味を知らず,身近な食材としてトウガラシをより好む傾向になりつつある現状が浮かびあがった.より多くの人たちに生ワサビを食する機会を設けるなど何等かの対策を講じる必要があるだろう.
著者
杉浦 広幸 河野 圭助 香山 雪彦 村松 康行
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.135-141, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
23

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う福島市のシラカシ果実と葉における放射性セシウム濃度を定量し,汚染状況と汚染経路を検討した.2010年以前に展開し事故時に存在していたと推定される古い葉の放射性セシウム濃度は非常に高く12,000 Bq・kg-1(生体におけるCs-137とCs-134の合計)を超えていた.しかし,2012年度に展開した若葉は300 Bq・kg-1未満であり,大きく減少していた.2012年に採取した果実の放射性セシウム濃度は,最大で305 ± 8 Bq・kg-1であった.果実の汚染は表面を洗浄しても低下せず,また洗浄後の殻と種子(内部)に差がなく,表面汚染ではなかった.古い葉と新しい葉の放射性セシウム濃度は,ある程度の相関がみられた.また,新しい葉と果実の放射性セシウム濃度にも相関がみられ,果実/葉の比は約0.85であった.果実における放射性セシウム濃度と,株の周囲で舗装されていない部分(根圏域が露出している面積)の割合との間にも比較的高い相関がみられた.以上の結果から,果実と若葉の放射性セシウム汚染は,転流以外にも表層に張る根からの吸収経路の寄与が示唆された.
著者
竹岡 賢二 福島 啓吾 伊藤 純樹 毛利 晃
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.273-278, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
19

発泡ガラスの園芸用培地としての利用可能性を明らかにするため,粒径別の理化学性およびコマツナの栽培特性を調査した.有効水分は,粒径4 mm未満で確保でき,4 mm未満に4~15 mmを25~75%混合すると制御できた.発泡ガラスの化学性は,pHおよび交換性マグネシウムが高く,CECが低かった.発泡ガラスを流水洗浄することで交換性マグネシウムは低下したが,pHは調整が必要であった.コマツナの生育および窒素吸収量から,発泡ガラス培地は,pHを6に調整するとマサ土とバーク堆肥を混合した慣行培地と同程度の生育を示したが,ゼオライトの添加による生育差は見られなかった.以上のことから,発泡ガラスは,粒径4 mm未満に4~15 mmを25~75%混合し,pHを6に調整することで,園芸用培地として利用できる可能性が示唆された.
著者
羽山 裕子 三谷 宣仁 山根 崇嘉 井上 博道 草塲 新之助
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.79-87, 2017 (Released:2017-03-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1 9

ニホンナシ ‘あきづき’ および ‘王秋’ の果実に生じるコルク状果肉障害の発生状況について,果実を5 mm厚に薄くスライスして詳細に調査を行い,成熟期や果実品質との関係を解析するとともに,GA処理の影響について調査した.両品種ともにコルクの発生が認められ,‘あきづき’は成熟の遅い果実に発生が多かった.本試験では,‘王秋’は‘あきづき’ほど成熟時期による違いは明確ではなかった.一方,両品種ともに果実重の大きい果実で発生が多く,特に‘あきづき’では大きい果実ほどコルクの個数が増加し,大きいコルクの発生も多くなった.コルクの発生位置は,果実全体に分布していたが,赤道面よりややこうあ部側に最も多く観察された.GA処理は,両品種ともにコルクの発生個数を有意に増加させ,障害程度を重症化させた.ただし,コルクの発生果率には影響を及ぼさなかった.
著者
堀江 秀樹
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.109-113, 2011 (Released:2011-02-02)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

同一ビニールハウスで収穫したキュウリ果実中の糖含量について日ごとの変化を調査した.果実中にはグルコースとフルクトースがほぼ等量含まれていた.果実中のグルコース(およびフルクトース)の含量は,収穫日によって0.8~1.4%の間で変動した.果実中のグルコース含量と収穫前日の天候との関連が認められ,日照時間が短い場合や遮光処理した場合に,翌日収穫した果実中のグルコース含量が低下した.キュウリ果実中の糖含量は日々変動するため,キュウリの内部品質管理には果実中の糖含量を簡便・迅速に測定できるのが望ましい.そこで,使い捨て型のバイオセンサーである血糖センサーを用い,果実中のグルコースを測定することを試みた.血糖センサーを用いて得た結果は,キャピラリー電気泳動法で分析したグルコースのデータと高い正の相関を示した.試料の前処理は簡単で,結果を得るのに10分程度しか要しないので,血糖センサーを用いたこの方法は,キュウリ果実中のグルコースの迅速定量に非常に有効である.
著者
門田 寅太郎 谷川 茂
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.115-123, 1943 (Released:2007-05-31)
参考文献数
12

1. 農林省園藝試驗場に於て里芋の開花結果に關する研究の手始めとして開花容易なる南洋産赤莖及青莖種を用ひ昭和16年準備をなし17年交配及實生を試み併せて花及種子の觀察をも行つた。2. 里芋は親芋の頂部に近き肩の所より花芽を形成し1花序4~5花,順次花梗を抽出して2~3日置きに開花する。3. 里芋の肉穗花は雌花先熟にて開苞雄花成熟の前日の朝が授粉の適期の如くである。4. 1穗の雌花數 (子房數) は150~200にて雄花數320~340であつた。5. 1雄花は平均6ケの雄蕋及葯の融合せるものにして各1ケの葯孔を有す。6. 花粉は角刺を有し外觀甘藷のそれに類似し直徑約25ミユーであつた。7. 子房は前後縱にくびれ不完全なる2室を成し側膜胎座をなす。8. 果實は開花後35日にて完熟する。9. 1果約200粒の種子を得た。10. 種子は淡褐黄色牛蒡種子型12本の縱溝を有し1000粒0.25瓦にて罌粟よりも小さい。11. 種子は採り播を行へば發芽良好なるも7グ月後には枯死してゐた。12. 甲析は單子葉にて子葉の形はブラシカに似る。13. 初期の生長は遲々たるも半年後には相當の大さに達する。14. 實生の變異は實に大きく赤莖×青莖のF1に於て黒紫色の個體が半數以上現れた。
著者
高野 和夫 妹尾 知憲 海野 孝章 笹邊 幸男 多田 幹郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.137-143, 2007 (Released:2007-03-06)
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

モモ果実の渋味の近赤外分光法による非破壊測定の方法について検討した.モモの渋味は果肉中の全ポリフェノール濃度と相関が高く,全ポリフェノール濃度が100 g当たり約110 mg以上で強い渋味を感じた.そこで,モモ果実中の全ポリフェノール濃度の推定を400~1100 nmの反射スペクトルから試みたが,誤差が大きく測定不可能と考えられた.しかし,モモのポリフェノールの主要な構成成分であるカテキンとクロロゲン酸水溶液の1100~2500 nmの透過スペクトルを解析すると,1664 nmと1730 nm付近に相関の高い波長域が存在した.そこで,モモ果実の1100~2500 nmの反射スペクトルによる解析を行ったところ,1720 nm付近に全ポリフェノール濃度と相関の高い波長域が存在し,重回帰分析による全ポリフェノール濃度の推定精度はSEP = 14.7 mg・100 g−1FWと比較的高かった.これらの結果から,1100~2500 nmの反射スペクトルを測定することによって,モモ果実の渋味を非破壊的に判別できる可能性が高いと考えられた.
著者
斎藤 隆 伊東 秀夫
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.137-146, 1961
被引用文献数
3

花の性の分化に関して,葉の演ずる役割について研究した結果,次のような事実を認めた。実験方法は,始め高温連続照明の下で育苗し,随時発達状態に応じて,これに短日処理を与え,後再び高温連続照明の下に移し,それぞれの状態で植物体の葉が短日処理に感応した結果をその雌花発現状態の上で観察しようと試みた。<br> l.葉面積 本葉4葉展開したもので,葉身を3/4あるいは1/2切除し,面積を減らした結果,面積が減るに伴ない雌花発現数も減ることが.見られた。<br> 2.葉令 5葉展開した時期に,第1葉から第5葉のうち1葉のみを残してほかを摘除して験したところ,第3節葉が最も能力よく,第2節葉,第1節葉の順に続き,葉令の若過ぎるものも葉令の進み過ぎたものも,葉令中期のものより機能が劣ることが認められた。<br> 3.葉面上の部位 葉面上の部位による差は,先端寄りの半分を残したものが,縦半分割あるいは基部寄りの半分寄りを残したものより劣り,後の2者にはほとんど差がない。<br> 4.苗令と葉令 2葉・3葉・4葉ならびに6葉展開苗で,各1葉のみを残して摘葉し比較した。同節位の葉を比較すると,葉令は苗令の進行とともに進み,最も雌花発現能力の強い葉は苗令の進行とともに順次上節位に移つてゆく。<br> 5.苗令と葉面積 2葉・3葉・4葉および6葉展開苗で,頂端の葉1枚のみを残したものから,順次下位の葉1枚ずつを添えて残したものをつくつて比較すると,頂端の葉1葉のみの処理を受けたものは,6葉展開苗では雌花が僅か発現したが,ほかの苗では発現せず,苗令の違うことの影響が見られた。同じ葉数をもつ黄同志の間で苗令の進んだものほど雌花数が多かつた。葉面積が大体等しくても苗令の影響が現われた。<br> 6.未熟葉と成熟葉 圃場(気温20°C,日長15時間)で,葉が横径5cmあるいは7cmに達したら摘除する処理を行なうと,前者では第19節辺から雌花が冤られ,後者では第13節辺から見られた(標準区と同じ)。本葉3枚あるいは6枚展開した時に頂端の第1葉(未展開葉)を摘除し,その後も新葉を発生次第摘除しつづけると,前者では雌花は第5節から,後者では標準区と変らなかつたが,両区ともおそくなつて下位の雄花節に両性花・雌花が発現した。未熟葉を摘除すると雌花の発生を助長するものと見られる。<br> 本葉5葉展開時に(ガラス室栽培,気温25~30°C,日長15時間),第1~3節の葉を摘除し,その後の葉が完全に展張し次第順次摘除する区と,第4節までの葉を残し,第5節以上の葉は全部摘除しつづける区をつくつた場合,前者では下位の節から雌花が現われ,その総数も多く,後者では第1雌花が標準区よりやや後れ,その後の着生も少なく,総数が少ない。<br> 圃場栽培のものとガラス室栽培のものとが,未熟葉を摘除することに対して反対の結果を現わした。ガラス室では高温のため残された成葉の機能が急速に衰えたためと考えられる。<br> 完全展葉後に摘葉する場合に雌花の発現を助長するのは,摘葉が生育を弱め,生長点のauxin含量が低いことと関連していると考えられる。<br> 7.短日処理後の摘葉 未展開葉を摘除すると雌花が多く発現し成熟葉を摘除すると雌花の発現が少なかつた。<br> 8.部分短日処理 1株上で,生長点あるいは一部の葉を連続照明下におくと,他部に短日処理を施しても,雌花の発現が抑制される。温度が17°の場合には,生長点あるいは一部の葉を連続照明下においても,短日処理葉の面積に応じて雌花を発現した。<br> 9.枝別短日処理 1株上の2本の側枝の一方は短日処理し,他方は連続照明し,後者上の雌花の発現を見ると,雌花が発現した(1節)から短日処理枝からの影響が及んだことになる。連続照明枝上の成熟葉を摘除すると雌花節は1.8とややふえ,未展開葉を摘除すると0.2と減つた。短日処理枝の頂部を摘除しておいて連続照明枝の成熟葉を摘除すると雌花節は2.5とふえた。<br> 10.環状剥皮 主茎基部の環状剥皮は無効であつた。<br> 11.キュウリにおける雌花の分化は,葉が短日処理に感応してある特定の代謝産物つまり花芽形成に不可欠な物質を生成し,この物質が茎を通つてその個体上で最もauxinの多い生長点近くに移行して,生長点近くの未だ性の決定が行なわれていない花芽に作用を与えて起こるものと考えられる。しかし,この場合生長点のauxin levelが低いという条件も同時に充たされる必要があると思われる。
著者
今給黎 征郎 白山 竜次 渡辺 剛史 上野 敬一郎 永吉 実孝 久松 完
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.51-59, 2017

<p>近年,量販店向けの花束加工用にニーズが高まっている切り花長70 cm程度のスプレーギクを"エコマム"と称し,"エコマム"を通年安定的に供給するための生産技術を検討した.現場に普及している直挿し栽培を用いて10 a当たり年4作で24万本出荷することを目標とし,1.効率生産に適した品種の条件,2.栽植様式,3.わい化剤処理による切り花重の改善効果について検討を行った.適品種の条件は,秋スプレーギクと一部作型に夏秋スプレーギクを供試して年4作型を行い,1作80日で栽培できる品種を探索した.その結果,伸長性,早生性(到花日数),揃い(生育・開花)が優れている品種が求められ,秋スプレーギクの'セレブレイト','ピサン'が該当した.ただし高温となる9月開花作型では,それらの特性に加え高温開花性が優れる夏秋スプレーギク品種を用いる必要があることがわかった.栽植様式については,慣行より通路を狭くすることで植付面積を広くとり,10 a当たり4万本から6万本まで栽植本数を増やして,切り花重や花数への影響を検討した.その結果,栽植本数を増やすことで切り花重や花数が減少するものの,通路側のマスを2本植え,内側のマスを1本植えにするなど,植付け方法を工夫することにより切り花重の揃いが向上した.わい化剤散布による切り花重の増加効果については,10 a当たり7万本程度の栽植本数で,過去に輪ギクで効果が認められている方法を応用し,電照打ち切り後にわい化剤を2回散布することで,切り花重が有意に増加し,20 g以上の切り花を6万本以上採花できた.これらの技術を利用することで,直挿し栽培による年4作で,慣行の2倍となる年間24万本のスプレーギクを出荷できることが実証された.</p>
著者
山口 訓史 後藤 丹十郎 大谷 翔子 安場 健一郎 田中 義行 吉田 裕一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.261-266, 2015 (Released:2015-09-30)
参考文献数
12

生育段階の異なるシュートに対する温度条件がシュッコンカスミソウ‘アルタイル’の形態異常花序発生に及ぼす影響を検討した.シュート長20 cmから2週間15°Cに加温することで,8週間15°Cに加温した場合と同様に,形態異常花序発生が軽減された.2週間加温した個体の切り花長と切り花重は,8週間加温した個体よりも大きくなった.形態異常花序が発生するシュート長と頂芽における花芽分化段階との関係を調べたところ,頂芽のステージが栄養成長からがく片形成期に当たるシュート長が約1~20 cmから15日間の15°C加温で最も形態異常花序が抑制できた.形態異常花序に及ぼす低温の影響を明確にするため,異なる生育段階に対する低温遭遇(7°C)が形態異常花序発生に及ぼす影響を調査した.異なる生育段階に高温(15°C)に遭遇させた実験と同様に,頂芽のステージが栄養成長からがく片形成期までの低温遭遇が形態異常花序発生に大きく関与していた.以上のことから,摘心直後からがく片形成期の期間,株を低温に遭遇させないように温度管理することで,形態異常花序の発生を抑制でき,切り花形質も改善できると考えられた.
著者
阿部 弘 川勝 恭子 大友 英嗣 西島 隆明
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.267-273, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
9

エゾリンドウの4年生株における切り花収量の減少要因を明らかにするため,2年生株から4年生株において,塊茎の発達過程と花茎の発生について調査した.2年生株から3年生株にかけて主塊茎の生育は旺盛になり,副塊茎の多くがこの時期に形成された.3年生株から4年生株にかけては,主塊茎の木化が進んで生育が緩慢になる一方で,副塊茎の発達が旺盛になった.株齢による花茎の発生は主塊茎と副塊茎で異なる傾向を示した.3年生株では,主塊茎からの花茎の発生が旺盛であった.これに対して,4年生株では,旺盛に発達する副塊茎からの花茎の発生が盛んになったものの,主塊茎からの花茎の発生が減少することにより,株全体の花茎発生が減少した.主塊茎の頂芽は栄養芽として存続し,側生器官である花茎と副塊茎を分化し続けた.従って,4年生株における主塊茎の発達の停滞は,無限成長性を維持したまま起こると考えられた.
著者
柚木 秀雄 東 暁史 吉岡 正明 薬師寺 博
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.433-438, 2016 (Released:2016-12-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ブドウ‘安芸クイーン’への環状はく皮処理が,果皮色ならびにアントシアニン合成関連遺伝子群の発現量に及ぼす影響を調査した.着色開始期(満開35日後)における主枝への環状はく皮処理により,果皮色が対照(無処理)区と比較して著しく向上した.また,環状はく皮処理により,主に7月中下旬~8月上旬におけるアントシアニン合成関連遺伝子群の発現量が対照区と比較して有意に増加し,成熟期間を通した累積発現量も増加した.また,アントシアニン含量と多くのアントシアニン合成関連遺伝子群の累積発現量との間に正の相関が認められた.以上のとおり,環状はく皮処理によって成熟期における果皮のアントシアニン合成関連遺伝子群の累積発現量が増加し,これによりアントシアニン合成が促進することが明らかとなった.また,多くの関連遺伝子の発現量が増加しはじめる着色開始期の環状はく皮処理が‘安芸クイーン’の着色向上に有効であることが示された.
著者
福島 啓吾 梶原 真二 石倉 聡 勝谷 範敏 後藤 丹十郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.177-184, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
33
被引用文献数
2

本実験は,吸水種子湿潤低温処理方法がトルコギキョウの生育および切り花形質に及ぼす影響を明らかにしようとした.無処理を対照とし,10°Cの暗黒条件下で5週間の低温処理を播種前または播種後に行う6処理区についてロゼット性の異なる‘キングオブスノー’と‘ロココマリン’を用いて比較検討した.低温処理終了から定植までの育苗は,日最低気温が21.0~25.5°Cの範囲で推移し平均23.0°C,日最高気温が26.0~43.5°Cの範囲で推移し平均37.2°Cの条件の下で実施した.抽苔,発蕾および開花率は,ロゼット性にかかわらず種子低温処理により無処理と比較して有意に高まったが,低温処理方法による差はなかった.ロゼット性の強い‘ロココマリン’において定植から抽苔,発蕾および開花までの日数は,無処理と比較して種子低温処理により有意に減少した.切り花形質は,両品種ともに種子低温処理各区に大きな差はなかった.以上から,高温期に育苗する作型では,種子低温処理を行うことが重要であり,処理方法は低温による生育促進効果に影響を及ぼさないことが明らかになった.
著者
高橋 志津 鈴木 勝治 市村 一雄
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.87-92, 2016 (Released:2016-03-31)
参考文献数
20
被引用文献数
3

糖質とイソチアゾリン系抗菌剤を用いた後処理がダリア切り花の品質保持期間に及ぼす影響を調査した.ダリア‘黒蝶’切り花の品質保持期間に及ぼす影響は,抗菌剤を含む2.5%と5%のグルコースの後処理が有効で,相対新鮮重は5%で最も増加した.そこで,糖質濃度が5%となるように,抗菌剤を含むグルコース,スクロース,フルクトースおよびスクロース + フルクトースを用いた後処理を行ったところ,どの処理も品質保持期間をほぼ同様に延長し,相対新鮮重も増加した.その際,スクロース + フルクトースでは花弁の裏返る症状が少なかった.ダリア切り花8品種にこの処理を行ったところ,すべての品種において切り花の相対新鮮重が増加し,切り花の品質保持期間が延長された.
著者
今給黎 征郎 白山 竜次 渡辺 剛史 上野 敬一郎 永吉 実孝 久松 完
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.51-59, 2017 (Released:2017-03-31)
参考文献数
18

近年,量販店向けの花束加工用にニーズが高まっている切り花長70 cm程度のスプレーギクを“エコマム”と称し,“エコマム”を通年安定的に供給するための生産技術を検討した.現場に普及している直挿し栽培を用いて10 a当たり年4作で24万本出荷することを目標とし,1.効率生産に適した品種の条件,2.栽植様式,3.わい化剤処理による切り花重の改善効果について検討を行った.適品種の条件は,秋スプレーギクと一部作型に夏秋スプレーギクを供試して年4作型を行い,1作80日で栽培できる品種を探索した.その結果,伸長性,早生性(到花日数),揃い(生育・開花)が優れている品種が求められ,秋スプレーギクの‘セレブレイト’,‘ピサン’が該当した.ただし高温となる9月開花作型では,それらの特性に加え高温開花性が優れる夏秋スプレーギク品種を用いる必要があることがわかった.栽植様式については,慣行より通路を狭くすることで植付面積を広くとり,10 a当たり4万本から6万本まで栽植本数を増やして,切り花重や花数への影響を検討した.その結果,栽植本数を増やすことで切り花重や花数が減少するものの,通路側のマスを2本植え,内側のマスを1本植えにするなど,植付け方法を工夫することにより切り花重の揃いが向上した.わい化剤散布による切り花重の増加効果については,10 a当たり7万本程度の栽植本数で,過去に輪ギクで効果が認められている方法を応用し,電照打ち切り後にわい化剤を2回散布することで,切り花重が有意に増加し,20 g以上の切り花を6万本以上採花できた.これらの技術を利用することで,直挿し栽培による年4作で,慣行の2倍となる年間24万本のスプレーギクを出荷できることが実証された.
著者
黒島 学 市村 一雄 鈴木 亮子 生方 雅男
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.197-202, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
13
被引用文献数
2

エラータム系デルフィニウム切り花において,STS処理後の切り花の銀含量と花持ちの関係,STS処理時における小花の開花後日数とSTS処理効果の関係および前処理におけるスクロース添加の影響について調査した.エラータム系‘オーロラブルーインプ’切り花に0.1,0.2および0.25 mMのSTS溶液を様々な時間で処理した結果,処理直後における小花の銀含量が3 μmol・100 g–1 FW以上で花持ち期間が最も延長された.小花にこの値以上の銀が蓄積された切り花の花持ち期間は,STS処理濃度および処理時間に影響されなかった.小花にSTS処理効果を最大にする銀含量が蓄積されたとしても,処理時に離層が形成されたステージに達していた小花においては,STS処理効果を期待できないことが明らかとなった.エラータム系‘ブルーバード’切り花を0.2 mMのSTSに0,2および4%スクロースを組み合わせた溶液で処理した.その結果,4%スクロースを組み合わせた処理ではSTS単独処理に比べて処理後に開花した小花におけるアントシアニン含量の増加が認められ,花色の発色向上効果がみられた.10°Cで48時間の乾式輸送シミュレーション後においても,花色の発色向上効果がみられた.
著者
松本 和浩 藤田 知道 佐藤 早希 五十嵐 恵 初山 慶道 塩崎 雄之輔
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.211-217, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
20

3倍体で大型の黄色い果皮の品種である‘弘大みさき’を育成した.SSRマーカーを利用した遺伝子型解析の結果,本品種は‘ゴールデンデリシャス’ × ‘デリシャス’系の組み合わせで作出されたものと考えられた.育成地での収穫期は満開後約150日の10月上旬で,リンゴ黄色品種標準カラーチャートで2~3程度の果皮に青味が残る状態が収穫適期であることが明らかになった.果実は450 gを超える大果であり,糖度は12~14°,酸度は0.4%前後の甘酸適和の品種である.有袋栽培を行えば橙赤色の果皮の果実の生産も可能である.贈答用として活用でき着色管理の必要がない省力化品種として普及が期待される.
著者
Tran Duy Vinh Yuichi Yoshida Mitsuo Ooyama Tanjuro Goto Ken-ichiro Yasuba Yoshiyuki Tanaka
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
pp.OKD-114, (Released:2017-11-17)
被引用文献数
15

Blossom-end rot (BER) in tomato has been generally reported as a calcium (Ca)-related physiological disorder influenced by cultivar and environmental factors. In our previous works, we found that different fruit-sized cultivars could share a similar threshold value of water-soluble Ca. In addition, seasonal susceptibility to BER was closely related to fruit growth rate. This study aimed to clarify the effect of fruit growth rate as a dominant factor determining the susceptibility in different fruit-sized tomato cultivars. A large-sized cultivar, ‘Momotaro Fight’, and medium-sized ‘Cindy Sweet’, with different susceptibility to BER disorder, were hydroponically grown with modified Hoagland nutrient solutions consisting of a range of Ca:K (potassium) ratios in four cropping seasons. In spring and summer, BER incidence was more than 60 and 10% in ‘Momotaro Fight’ and ‘Cindy Sweet’, respectively, when plants were fed with low Ca. BER was rarely observed when water-soluble Ca exceeded 0.30 μmol·g−1 FW, and the rate of BER incidence increased with a decrease in water-soluble Ca concentration in both cultivars. Fruit growth rate was much more vigorous in ‘Momotaro Fight’ than ‘Cindy Sweet’, especially in summer. It was significantly favored by the increased temperature and solar radiation in both cultivars. The multiple regression analyses detected a significant effect of fruit growth rate on BER incidence, exclusively in ‘Momotaro Fight’. Together with water-soluble Ca, fruit growth rate explained over 50% of the variation of BER incidence. A vigorous rate of fruit growth can play a more important role in decreasing water-soluble Ca in ‘Momotaro Fight’, and result in severe and frequent BER incidence, compared to ‘Cindy Sweet’. Thus the cultivar difference in the susceptibility to BER is likely explained by the difference in the growth rate of young fruit affecting water-soluble Ca in the distal part of tomato fruit.
著者
Yasushi Kawasaki Tadahisa Higashide
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
pp.OKD-118, (Released:2017-11-17)
被引用文献数
1

Fruit growth represents the balance between material influxes via xylem and phloem and efflux by transpiration via the stomata of the calyx and cuticle of fruit, which determines the yield and soluble solids content (SSC). Knowledge of these factors is important for the production of high-SSC tomato fruit, but no physiological indicator is available to allow prediction of fruit yield and SSC for breeding and crop production purposes. To identify indicators, we grew Japanese, Dutch, Japanese × Dutch, and high-SSC cultivars and sought correlations of the fluxes to fruit with yield and SSC. To estimate the contributions of the xylem, phloem, and transpiration fluxes to fruit weight increase, we measured 2-day growth rates of intact, detached, and heat-girdled (peduncle steamed for 90 to 120 s) fruits treated at 14, 28, or 42 days after flowering (DAF). Xylem influx was much lower in the high-SSC cultivar than in the others. Phloem influx was lower in the Dutch and hybrid cultivars at 28 DAF. Transpiration efflux was greater in the Japanese cultivar at 42 DAF. Fruit growth rate at 14 DAF was positively correlated with yield, and phloem influx per fruit weight increase at 14 and 28 DAF was positively correlated with SSC. These results show how the xylem, phloem, and transpiration fluxes of fruit can predict fruit yield and SSC. This information will help the production and breeding of high-SSC fruit.
著者
Kazuhiro Matsumoto Toru Kobayashi Tomoaki Kougo Tomomichi Fujita Saki Sato Takaya Moriguchi
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
pp.OKD-117, (Released:2017-11-08)
被引用文献数
13

‘Kurenainoyume’ is a new red-fleshed apple cultivar with a gradually increasing cultivation area. However, cork spot-like physiological disorder (CSPD) of the apple skin has become a serious problem over the years. Therefore, the development of strategies to reduce and prevent CSPD is strongly desired by farmers. To this end, we investigated the effectiveness of i) spraying calcium (Ca), boron (B), or both on the tree and ii) pre-harvest fruit bagging. Ca or B solutions or both did not decrease CSPD incidence. Furthermore, no relationship was detected between CSPD and the Ca/B content of fruit and leaves, demonstrating that the occurrence of CSPD might not be due to a deficiency in these elements. Pre-harvest fruit bagging reduced the development of CSPD depending on the light permeability of the paper bags used. Moreover, CSPD development was positively correlated with sunshine duration. Therefore, to prevent CSPD, fruit should be covered with light-impermeable paper bags at least from mid-July to late-September because the fruit covered for a shorter period developed CSPD. Thus, we propose that pre-harvest fruit bagging with light impermeable paper could be a useful and practical strategy to reduce or prevent CSPD in ‘Kurenainoyume’.