著者
落合 太郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.4_29-4_34, 2013-11-30 (Released:2014-01-25)
参考文献数
10

世界初となるユニバーサルデザイン信号灯の公道上における社会実験を2012年1月27日から3月30日の間、福岡県警察本部および福岡ビジネス創造センターと著者が共同で実施した。赤信号に特殊なLEDで埋め込まれた「×」印が健常者には気にならない程度の存在であるのに対し、色覚障碍者にはよりくっきりと見えて、止まれの意味が良く伝わるという基本コンセプトを提示した。アンケート調査では、有効回答数257の約94%が賛成意見であった。赤灯に「×」印は適合する組合せと受けとめられ、輝度差による図示には違和感が少なく、色覚障碍者が安全に運転できる信号は必要であるという総意を得た。一方「×」印は昼間より夜間で見えにくかったため、青色光の割合の再調整と当該LEDレンズ性能の改良点が見つかった。色覚障碍者から多数寄せられた意見からは3灯式より1灯点滅式信号灯が難問であり、優先するニーズであることが分かった。
著者
近藤 祐一郎 青木 弘行 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.37-44, 1998-09-30 (Released:2017-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本研究は籾殻の炭化法を変化させることによって得られる性状の変化を確認し, それに基づいて稲作農村地域における水質浄化材などへの有効利活用法について探求したものである。実験では, 熱重量測定実験, 比表面積測定実験, 細孔分布測定実験を行い, 以下の知見を得た。1)籾殻燻炭は, 活性炭と比較して炭素分は少ない反面, 灰分(ミネラル分)は多い。しかし, 稲作農村地域では排水処理材の他にもさまざまな応用・展開が可能であり, 十分に利用価値のある資源である。 2)野焼き法で製造した籾殻燻炭は単位価格あたりに対する比表面積が高く, 活性炭や木炭と比べて経済的である。 3)被吸着物質に応じた細孔径を有する籾殻燻炭を, 炭化条件を変化させることにより製造することができる。 4)稲作農村地域では生活雑排水が水質汚染源であり, 野焼き法と320℃, 520℃で炭化した3種類の籾殻の併用が最も効果的である。
著者
陳 香延 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_85-2_94, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
53

大甲藺工芸は,台湾中西部の大安渓流域に自生する特有の藺草の一種である大甲藺を素材として,当該地域で制作され使用されてきた生活工芸である。当該地域の人びとによって,大甲藺が発見され,それを素材とした大甲蓆がつくられてからの歴史のなかで,大甲帽子,煙草入れなどのさまざまな生活用具が制作され,産業としての繁栄を遂げるに至った。文献調査,現地調査に基づき,以下の結論を得た。(1)大甲藺工芸の発展の礎は,台湾大甲地域の人びとの生活のなかで,大甲藺という材料が発見され,その利活用方法のみならず,より良質な材料をつくり出すための工夫が,人びとの手でさまざまになされたことにある。(2)大甲藺工芸は,当該地域の人びとの生活のなかで全体活用が徹底されるなど,生活との密接な関連のなかで発展してきた,まさに当該地域の生活文化を代表する存在である。(3)大甲藺工芸は,当該地域の人びとを結びつける重要な媒体であった。
著者
林 秀紀 櫛 勝彦 志水 瞭斗
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究作品集 (ISSN:13418475)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1_64-1_69, 2020

木の玩具には様々な教育的な効果があると言われている。幼児の保護者や保育士への調査では、木には、「やさしさ」「温かみ」「心地よさ」があると言うような意見が多く寄せられ、情操教育としての効果が示唆されている。筆者らのこれまでの研究成果においても、木の玩具は子どもの身体能力や知的能力の成長を促す教育効果が実証された。しかし、発達段階において獲得する能力と玩具との関係性についてさらに明らかにする必要があった。そこで、(有)レインディアのおもちゃファイルを調査分析し、「子どもの成長に効果的な遊びと木育玩具の年齢別対応表」を作成した。これをデザインガイドとして木育玩具をプロトタイピングした結果、対象のユーザ像が明確になり、要件定義やデザイン評価が容易になった。この他、初めて木の玩具をデザインする学生らにも、子どもの教育効果を考えたデザイン提案がし易くなるという効果が見られた(図1)。
著者
平野 友規 落合 健太郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究特集号 (ISSN:09196803)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.14-20, 2014

UI(ユーザーインターフェイス)デザインのトレンドは、従来のスキューモーフィックデザインからフラットデザインへと移行し、説明過多な装飾から脱却した。フラットデザインという共通のデザイントーンによってUIビジュアルデザインの「モジュール化」が起きている。そのことからUIのビジュアルデザインがコードのみで実装可能となり、これまで困難とされていたUIビジュアルデザインのライブラリ化がはじまると考えられる。近い将来、UIのビジュアルデザインという仕事がエンジニア側のワークフローに組み込まれるだろう。「描画」というデザイナーの専門性が揺らいでいる。本稿では、デザイナーの仕事の本質とはデザイニング(行為)とそれを支える知恵にあることを主張する。そのために、著者らの業務体験を参考に考察する。
著者
楊 寧 須長 正治 藤 紀里子 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1_51-1_60, 2018

<p> 本研究は,「ユニバーサルデザインフォント(以下「UD フォント」と表記)」として開発されたフォントの評価を中心に総合的に検証し,合わせてフォントの形態的属性についても調査を行い,これらの相関性を分析考察することで,望ましいUDフォントのデザインに関する指針を得ることを目的とした。<br> UDフォントの評価は,従来の視認性,判別性,可読性の3つの評価項目に、積極的な評価項目とされていなかった美感性を加え、計4つの項目で行った。若年者,デザイン関連業務経験者,高齢者の合計90名を被験者とした。また,角ゴシック体,丸ゴシック体,明朝体から,合計60フォントを実験用フォントとして選定した。<br> 本稿では,実験のうち,美感性を取り上げて分析を行い,合わせて計測したフォントの形態属性との間の相関性を探った。その結果,濃度,字面面積,英数字の形態が,いずれのカテゴリーにおいても,見出しと本文フォントともに,美感性評価に強く影響していることがわかった。</p>
著者
新井 竜治
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.2_11-2_20, 2013-07-31 (Released:2013-09-30)
参考文献数
41

昭和戦前期の東京地区百貨店における新作家具展示会に出品された洋家具には、アール・デコ調、近代合理主義モダン、國風家具、様式家具、ペザント家具(農民家具)等、多様な家具スタイルが混在していた。またその家具設計者の中には戦前期・戦後期を通して活躍した人々がいた。一方、終戦直後期から高度経済成長期の東京地区百貨店の新作家具展示会では、一部に戦前の延長としての多様な家具スタイルが見られたが、全体として簡素なユティリティー家具、近代合理主義モダンの家具が比較的多く見られた。そして小住宅向け・アパート向けの簡素な量産家具が全盛になった。この百貨店専属工場で開発された新作家具の展示会は、1950 年代末頃から、家具製造業・販売業における位置が相対的に低下し始めた。代わりに欧米輸入家具展・官展・家具組合展・木製家具メーカーの個展等が百貨店各店において盛大に開催されるようになっていった。
著者
郡 祐太郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.394, 2019 (Released:2019-06-27)

ファッションは自由な自己表現や温度管理のために着るようになったといわれている。しかし、日本には四季があり、年間を通して気温の変動がある。温度管理のためにその気温に対応するべく人間は気温が寒いと体温が下がらないように厚着をし、暑いと服装は薄着になる。そのような背景から気温によって着ることができる衣類の選択が狭まっている状況であるために自由な自己表現をすることが難しい。本研究では靴による体温を調節を促すことを目的としたプロトタイプの製作プロセスを説明する。
著者
角山 朋子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.156, 2017 (Released:2017-06-29)

本研究は、1920年代前半の「ウィーン・キネティシズム」派(1920-1924頃)の活動実態、造形的特徴を明らかにし、両大戦間期のオーストリア・デザイン史の一端を解明する。キネティシズム派の担い手は、ウィーンのクンストゲヴェルベシューレの美術教育家フランツ・チゼックの生徒たちであり、多くが字体学者ルドルフ・フォン・ラリッシュにも師事した。リズミカルな動きや構成的表現を特徴とする絵画、立体、グラフィック作品は、同時代のアヴァンギャルド運動と通じたチゼックの装飾教育を基盤とした。さらに、文字を含む作品群には1900年頃に興隆したウィーン・モデルネの系譜をもつ独自の表現性が認められ、ここではラリッシュの字体教育の影響が色濃い。キネティシズム派の造形活動は国際性とローカルな伝統を内包し、1920年代前半の国家転換期のウィーンの多元的な文化状況を具現している。
著者
吉日木図 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_1-2_10, 2018-09-30 (Released:2018-10-25)
参考文献数
56

今日,急速な定住化が進む中国・内モンゴルにおいて,長い遊牧生活の歴史のなかで構築されてきたモンゴルの人びとの独自の時間概念が消失する危機に直面している。本稿では,遊牧生活を営む人びとが,どのように時間を把握してきたのかを確認し記録するとともに,モンゴルの遊牧生活に培われてきた時間概念の特質を明らかにすることを目的とした。調査・考察の結果以下の知見を得た。(1)人びとは,太陽,月,星,気候の変化,植物,動物やその規則的な生態などを始めとした自然が直接与える現象・情報によって生活における時間の秩序の「節目」を設定し,自らが一日,一月,一年のどの時間にいるかを把握してきた。(2)周囲に起こる全ての自然現象や動植物の状態に目を向け,蓄積した「経験」が来たるべき時間がどのような状態であるかを予測可能にし,それらを生業に応用し共有してきた。(3)時間の把握の仕方には,当該地域の自然に適応しようとしてきた人びとの生き様が如実に反映されている。(4)遊牧生活の時間概念は,「過去」と「今」によって定められるがゆえに「未来」へとつながるものであった。
著者
柿山 浩一郎 安齋 利典
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第67回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.106, 2020 (Released:2020-08-27)

本稿は、同タイトル:「BtoB企業に対するUXワークショプの試行-01」の続報である。;BtoB企業を対象にした、全4回のUXワークショップの実践報告であり、第1回、第4回の内容と、本試み全体の評価に関して述べる。; 特に第1回では、コンジョイント分析を活用したユーザーのメンタルモデル認識体験を行なった。また第4回では、カードソーティング法を用いたUXデザイン体験の試みを行なった。; 受講前後のアンケート結果から、本ワークショップを受講した受講者には、教育効果があったと結論付けた。
著者
張 伝揚 川合 康央
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.414, 2019 (Released:2019-06-27)

VR(Virtual Reality:人工現実感)による組立訓練によって、作業員の練度を上げることはできるが、実作業との連携は難しい。そこで、MR(Mixed Reality:複合現実)を提示するHoloLensを用いて、作業員に部品認知と配置情報をリアルタイムで示すことができれば、作業の手戻り防止や能率向上などをはかることができると考えられる。本研究では、自作パソコンを対象として、立体部品の認知と配置作業に適用するリアルタイム支援システムの構築を行った。
著者
石黒 大洋
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第67回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.250, 2020 (Released:2020-08-27)

今日、世界の有力企業では、デザインを活用した経営手法への関心が高まっているが、多くの企業では、いまだにデザインの考え方や手法を自社の戦略に十分に活用できていない。大企業よりも経営資源に劣る中小企業では尚更である。中小企業においても、多様化・高度化する社会や顧客のニーズに応えるためには、デザインの戦略的な活用が重要なテーマとなっていることに変わりはない。行政や商工会議所などにおいても、中小企業が経営にデザインを活用できるよう、関連研究・技術支援や支援ツール開発、各種の研修事業など、デザイン振興に関わる様々な取り組みを展開しているが、期待される程の効果は出ていない。経営資源が限られ、多くの経営課題を抱える中小企業では、デザインの活用を特定領域における施策として推進するのではなく、経営戦略の一環としてデザインマネジメントを取り入れた戦略を推進することが有効であると考える。本稿では、企業の経営戦略の形成と実行においてデザインが果たす役割を整理し、中小企業事業者の実践知を経営戦略におけるデザインの役割に当てはめることで、戦略的デザインマネジメントの方法論について考察したので、その概要を報告する。
著者
伊藤 晶子 畔柳 加奈子 櫛 勝彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_11-3_20, 2020-01-31 (Released:2020-02-25)
参考文献数
10

クレジットカードや電子マネー、デビットカード、QR コード、スマートフォン・アプリ(以下アプリ)を介しての送金など、現金以外のさまざまな支払い手段が利用され始めているが、日本においては、未だ現金での支払いが優勢である。その理由としてさまざまな社会的な要因が指摘されているが、生活者自身がどのような理由で支払い方法を選択しているか、という生活者の心理については明らかになっていない。そこで、本研究では10 名の生活者へインタビューを行い、グラウンデッドセオリーアプローチを援用し分析した。その結果、生活者が支払い方法を決定するためには共通のプロセスが存在していること、さらに、支払い行動については4パターンの行動原理があることを明らかにした。最後に、キャッシュレス社会に進展していくためのサービスデザインの要件提案を行なった。