著者
馬原 文彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.2341-2348, 2017-11-10 (Released:2018-11-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2

ダニ媒介性感染症は発生数の少ないものが多く,日常診療のなかで遭遇することは稀な感染症である.本稿では,代表的なダニ媒介性感染症で近年多発している日本紅斑熱(Japanese spotted fever),つつが虫病(Tsutsugamushi disease)について主に述べ,ダニ刺咬患者への初期対応について言及する.ダニとの接触がほとんどないと思われる生活環境であっても,海外も含めて人と物が頻繁に移動することを考慮し,いつでもどこでも起こり得る感染症として,常に新たな認識が必要な疾患である.
著者
松澤 孝明
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.11, pp.2344-2350, 2018-11-10 (Released:2019-11-10)
参考文献数
10

ライフサイエンス分野は,その成果が国民の健康や福祉に直結し,また,国としての研究投資の大きい分野である.このため,研究不正に対する社会的な関心が高く,各国において注目を集めた不正事案が発生しており,その結果,各国の研究公正システムの形成・発展を牽引する役割を果たしてきた. この分野における研究不正の特徴は,研究不正の発生事案数が多く,我が国の自然科学における研究不正の約75%が集中していることである.また,研究不正の内容として,捏造・改ざん型が多く,重篤な不正と受け止められやすいことや,図表の改ざん等,第三者にも検証しやすい研究不正が多いこと等も特徴として挙げられる. 自然科学系の場合,実験を中心に研究が進められるため,研究を指導する教授のみならず,実際に実験に関与した職階の低い若手研究者も研究不正の責任を問われやすい.研究不正は意図的に行われるばかりでなく,認識不足等が契機となって発生することも多い.また,各国の研究公正システムには国毎に不均一性が存在し,研究活動のグローバル化に伴い,意図せず研究不正に巻き込まれるリスクも懸念されている.このため,研究倫理教育の充実が今日の研究不正対策の課題となっているが,ライフサイエンス分野は,研究倫理教育においても牽引的役割を期待されている.
著者
西城 卓也 伴 信太郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.7, pp.1987-1993, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

良き教育を提供する意義に疑いの余地はないが,その具体的改善策の理解は難しい.それらを裏付けする教育理論のうち,内科指導医に役立つと思われるものを抽出し概観した.成人である学習者の特性を理解できる"成人学習理論",学習者を動機付ける"TARGETモデル",経験が学習の基盤であることを示す"経験的学習モデル",人は如何にしてエキスパートに成長するかを説明する"熟達化理論",身の丈に合う練習の重要性を説く"Vygotskyの発達理論",人の知識がどのように構築されるかを示す"構成主義",競争的学習を脱却し,より成人らしい学習の在り方を提示する"協同的学習",先輩やロールモデルが存在する環境で学ぶことの重要性を説く"状況的学習",今後目指すべき新たな専門家像である"反省的実践家"について,これらのエッセンスを要約した.今後このような理論に基づき,内科臨床教育がより活発に推進されることが期待される.
著者
杉本 孝一 塩之入 洋 井上 幸愛 金子 好宏
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.66-70, 1984-01-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
17
被引用文献数
4 5

少量の甘草摂取により,低カリウム血性筋症をきたした偽アルドステロン症と思われる1例を経験した.本症例は,著明な筋力低下と知覚障害を呈し,血清カリウム低値および筋逸脱酵素活性の著しい上昇から,低カリウム血性筋症が疑われ,カリウム補充療法を受けた後,入院した.低カリウム血症の原因として,既往歴から,消化管からのカリウム喪失は否定的であつた.内分泌学的検査では,甲状腺機能正常,尿中17-KS, 17-OHCS値正常であつた.一方,血奨レニン活性は低下していたが,血中アルドステロン値は比較的低値ながら正常範囲であり,原発性アルドステロン症も否定された.薬剤服用歴において,甘草製剤の服用は否定されたが,「仁丹」の長期摂取歴があり,以上の検査所見,および「仁丹」摂取の既往から,本剤に少量ながら含まれる甘草による偽アルドステロン症が,本症例の低カリウム血症の原因であると考えられる,本症例の「仁丹」摂取量から換算すると1日あたりのグリチルリチン摂取量は20mg程度であると思われる.かかる少量の甘草摂取により偽アルドステロン症を生じ,これにより,低カリウム血性筋症をきたした症例はまれと考えられ,また,同時にグリチルリチン負荷試験を行ない得たので,この結果をあわせて報告する.
著者
土岐 真朗 板垣 英二 倉田 勇 内田 康仁 田部井 弘一 畑 英行 蓮江 智彦 山口 康晴 石田 均 高橋 信一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.143-146, 2013 (Released:2014-01-10)
参考文献数
5
被引用文献数
4 5

症例は65歳,女性.腺腫様甲状腺腫にて甲状腺亜全摘出術後から,チラージンS®錠の内服を継続し,経過中に肝障害を発症した.各種肝炎ウィルス等は陰性で,画像所見は異常所見なく,リンパ球刺激試験も陰性であった.肝生検の結果は,薬物性肝障害に矛盾しない所見であった.乾燥甲状腺末に内服を変更したところ,肝障害は軽快したことから,肝障害の原因としてチラージンS®錠の添加物が考えられた.注意喚起も含め報告する.
著者
Chih-Wei Yang Shun-Neng Hsu Jhih-Syuan Liu Dueng-Yuan Hueng
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.53, no.15, pp.1665-1668, 2014 (Released:2014-08-01)
参考文献数
23
被引用文献数
3 12

The formation of spinal epidural abscess following acupuncture is very rare. We herein report the case of a 54-year-old woman who presented with progressive low back pain and fever with a root sign. She underwent surgical decompression, with an immediate improvement of the low back pain. A culture of the epidural abscess grew Serratia marcescens. One year postoperatively, magnetic resonance imaging revealed the almost complete eradication of the abscess. This case is the first case of Serratia marcescens-associated spinal epidural abscess formation secondary to acupuncture. The characteristics of spinal epidural abscess that develop after acupuncture and how to prevent such complications are also discussed.
著者
竹本 稔
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.690-695, 2017-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

日々の日常診療で遭遇する脂質異常症患者の中には,なんらかの原因により脂質異常症を来たす二次性脂質異常症や冠動脈疾患の発症リスクが高い原発性高脂血症患者,さらには非常に稀な原発性高脂血症があり,治療法が通常の脂質異常症とは異なる疾患が紛れている. 脂質値の異常を来たす背景因子を鑑みることが,そのような疾患を見落とさないために重要と思われる.
著者
加藤 陽子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.1201-1206, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
25

小児の鉄欠乏性貧血は,急激な発育による鉄の需要が増大する離乳期と思春期が好発年齢である.頻度の高さ,発達や精神神経活動に及ぼす影響の大きさ,日々の栄養/食育の観点からも,多角的に捉え医学的に対応する必要がある.
著者
藤田 次郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.11, pp.2860-2874, 2013-11-10 (Released:2014-11-10)
参考文献数
10

本稿では,胸部単純写真を用いた肺炎と抗酸菌症の画像診断について概説した.まず肺炎と抗酸菌症の画像診断を実施する際に必要な解剖学的知識として,Millerの二次小葉とAschoffの細葉の重要性を強調した.また肺の容積変化からみた肺炎のとらえ方について,胸部単純写真での評価法を示した.さらに胸部単純写真による画像パターンとその解釈を示した.抗酸菌症として,肺結核と肺非結核性抗酸菌症の画像診断の鑑別方法について示した.
著者
川上 和義
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.11, pp.2307-2313, 2015-11-10 (Released:2016-11-10)
参考文献数
12

肺炎球菌は厚い莢膜を持つ細胞外増殖細菌であり,好中球が主要な貪食殺菌細胞である.補体の活性化を阻害するため,莢膜多糖に対する抗体がオプソニンとして重要である.莢膜多糖は胸腺非依存性抗原であり,メモリーB細胞を形成しないが,IgMからIgG2へのクラススイッチは起こり,インターフェロンγが関与するとされている.本稿では,肺炎球菌肺炎の病態の理解のために,本菌に対する免疫応答機構について概説する.
著者
光武 範吏 山下 俊一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.786-791, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

広島・長崎での原爆被爆者やチェルノブイリ原発事故後の疫学調査などより,外部被曝のみならず放射性ヨードによる内部被曝によるものと考えられる晩発性甲状腺癌が誘発される事が確認された.発癌リスクには線量依存性があり,被爆時の年齢と強い逆相関性が認められる.特に低年齢,5~10歳未満では顕著であり,この時期の被曝を避ける事がもっとも重要である.近年の分子生物学の進歩により,放射線誘発癌の分子メカニズムも次第に明らかになりつつある.

11 0 0 0 OA 13.梅毒

著者
柳原 保武 柳原 格
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.91, no.10, pp.2983-2989, 2002-10-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
13
著者
朝倉 均 本間 照 成澤 林太郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, pp.1066-1071, 1996-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
7

続発性吸収不良症候群のうち,本邦でみられる代表的疾患であるA型胃炎,胃切除後症候群, Crohn病,全身性疾患に伴う腸病変(アミロイドーシス, PSS, α鎖病)および糖質吸収不全に伴う下痢などの病態について解説した.続発性吸収不良症候群は糖質,脂質,蛋白質,ビタミンB12,鉄,水・電解質,胆汁酸などの消化吸収不全を伴っているので,それがもたらす徴候は多岐にわたるので,患者をよく見ることが大事である.
著者
伴 信太郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.12, pp.2673-2680, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本の医師国家試験は,認知領域の試験としては信頼性,透明性,公平性,効率性の高い試験となっているが,技能,態度を測定できておらず,妥当性に欠ける.又法的に見ても医師法第九条を満足していない.国家試験は卒前教育にも強い影響を与えており,早急に臨床実習に積極的に取り組んだ学生ほど合格し易くなるような設計をすべきである.また,改革のためにはその成果を検証しながら進めることが不可欠であり,常設の国家試験センターの設置を構想すべきである.
著者
奥野 英雄 多屋 馨子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.782-787, 2015-04-10 (Released:2016-04-10)
参考文献数
10

麻疹ウイルスは感染力が強く,わずかな感受性者を見つけて感染伝播する.我が国では国をあげた麻疹排除への取り組みが奏功し,患者報告数も減少傾向であり,日本国内の土着株である遺伝子型D5は2010年5月を最後に検出されなくなった.しかし,海外で感染した輸入例を発端とした小規模のアウトブレイクの報告はいまだにあり,医療機関を受診した麻疹患者から,医療関係者や周りの患者へ感染が伝播した報告も見られる.麻疹には有効なワクチンが存在するが,特異的な治療法はなく,感染が拡大してしまってから対処できることは限定的である.麻疹の感染対策には,感染が発覚してから対処するよりも,麻疹の特徴を知ったうえで,平時から備えておくことが重要である.
著者
岡本 光佑 金藤 公人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.7, pp.1365-1372, 2018-07-10 (Released:2019-07-10)
参考文献数
6

45歳,男性.3年前よりエソメプラゾール20 mgを内服中であった.後頸部痛と両手の攣り(つり)を主訴に救急搬送され,著明な電解質異常(K 1.7 mEq/l,Ca 9.1 mg/dl,Mg 1.0 mg/dl)を認めた.各電解質の補正と共に低Mg血症の原因をプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)と疑い,中止した.長期PPI内服で低Mg血症を,二次的に低K血症,低Ca血症も来たし得る.

10 0 0 0 OA II.橋本脳症

著者
米田 誠 松永 晶子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1550-1554, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

橋本脳症の精神・神経症状(脳症)は多彩であるが,臨床的特徴を知ることで診断できる.橋本脳症は,急性脳症,慢性精神病ならびに小脳失調等の病型をとる.鑑別としては,粘液水腫性脳症,脳炎,認知症,脊髄小脳変性症が挙げられる.血清の抗NAE(anti-NH2 terminal of alpha-enolase)抗体の特異度は90%と高いが,感度は約50%程度である.脳波の基礎律動の徐波化や脳SPECT(single photon emission computed tomography)の血流低下が高頻度にみられる.多くの患者はステロイドが奏効する.橋本脳症を念頭に置き,日常診療に潜む患者を見逃さないことが肝要である.