著者
櫻井 聖大 山田 周 北田 真己 橋本 聡 原田 正公 木村 文彦 高橋 毅
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.367-373, 2013-06-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
17

熱中症では様々な合併症を来すが,とくに肝機能障害や腎機能障害は頻度が高い。重症例になると意識障害を来し,横紋筋融解やショック,disseminated intravascular coagulation(DIC),多臓器不全などを来す。DICを来す機序は著明な血管内脱水による末梢循環不全や,高熱による直接的な組織障害・血管内皮障害,それらに引き起こされる高サイトカイン血症,腸管粘膜の透過性亢進からのbacterial translocation,また肝障害に伴う凝固因子の産生低下に伴う出血傾向などが原因と言われているが,選択される抗凝固療法については統一された治療法は確立されていない。今回,熱中症に伴うDICに対し,遺伝子組み換えトロンボモデュリン製剤(rTM)で抗凝固療法を行い,良好な成績を得た2症例を経験した。2例とも高齢女性で,非労作性熱射病であった。いずれも高度の意識障害を伴い,肝・腎機能障害を認め,日本救急医学会の急性期DIC診断基準では5点と7点であった。抗凝固療法として,前者ではrTM単剤で,後者ではメシル酸ガベキサートとの併用を行った。いずれも経過良好で,出血性合併症もなく第5病日と第14病日にDICを離脱でき,後遺症なく第57病日と第27病日に軽快転院となった。rTMは熱中症に伴うDICに対して有効な薬剤であると思われた。
著者
畔柳 三省 熊谷 哲雄 松尾 義裕 長井 敏明 黒須 明 早乙女 敦子 徳留 省悟
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.20-29, 2001
被引用文献数
2

1976年から1995年までの20年間の東京都23区内の学生・生徒の急死例の疫学調査を実施した。総数は255件であり,年別,月別,発生時状況,学生・生徒別,性別,健康状態,死因,治療状況,受診状況について検討し次の結果を得た。学生・生徒の急死は年平均12.8件発生し経年変化はほぼ一定であり,8月に多い。学校管理下での発生は約3割であり,そのうちスポーツ中は約6割である。男女比はどの学生も2:1であり,どの学生の健康状態でも健康群(自分が健康であると確信しているもの)と疾患群(直接死因となりうる既往症を指摘されているもの)の比率は約1:1である。死因は急性心機能不全63件,気管支喘息34件,心筋炎22件の順に多い。健康群の比率が高い死因は,急性心機能不全,心筋炎,脳内出血,クモ膜下出血,消化管疾患である。心筋炎,消化管疾患,気管支喘息で療養中の比率が高く,虚血性心疾患でスポーツ中,肥大型心筋症で歩行中の比率が高い。来院時心肺停止が約6割,病院外死亡および救急入院・受診中死亡は各2割である。突然発症した例は117件(45.9%)であり,症状があったが容体急変まで医療機関にかからなかった例は60件(23.5%)である。症状があり医療機関を受診したが自宅で容体急変した例は37件(14.5%)であり,消化管疾患の60%および心筋炎の45.5%がこの経過である。学生・生徒の突然死を予防するうえで,最多を占める原因不明の急性心機能不全の突然死機序の解明が待たれ,心筋炎のように発症からある程度の経過があるものについては早期診断・適切な経過観察の方法の確立が求められる。
著者
有田 和徳 魚住 徹 大庭 信二 中原 章徳 大谷 美奈子 三上 貴司 小林 益樹
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.192-196, 1994

Case 1: A 46-year-old female was admitted with sudden onset of coma. CT scan revealed brain stem and bilateral thalamic infarction. On day 3, all brain stem function was absent, while an EEG showed slow-wave activity in the frontal area. Transcranial Doppler sonography demonstrated antegrade flow in the bilateral middle cerebral arteries. Cardiac arrest occurred on day 5. Case 2: A 59-year-old male was admitted in a comatose state. A CT scan revealed a large cerebellar hematoma. Removal of the hematoma and drainage of lateral ventricle were performed, but the patient never regained brain stem function. On days 13 and 14, his condition satisfied the criteria for brain death proposed by the Japanese Ministry of Health and Welfare, except for the persistent EEG activity. Cerebral blood flow studies showed adequate blood flow in both supra and infra-tentorial regions. EEG activity was also observed on day 19. The patient experienced cardiac arrest on day 30. A state of isolated brain stem death, cessation of brain stem function accompanied by persistent EEG activity, may result from a severe cerebrovascular accident in the posterior cranial fossa. This state is usually transient, leading to total brain death, but it may continue for several days when lateral ventricular drainage is performed.
著者
稲垣 剛志 萩原 章嘉 中尾 俊一郎 伊中 愛貴 木村 昭夫
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.76-81, 2011
被引用文献数
1

今回我々は,保存的治療にて軽快した小腸広範囲の腸管気腫症を経験したので報告する。症例は82歳,男性。一か月前より腹部膨満および粘血便を認めていた。37℃台の発熱,呼吸困難,チアノーゼを認めたため救急要請となった。来院時,Glasgow Coma Score E4V2M6,血圧 120/64mmHg,心拍数 116/min,SpO<SUB>2</SUB> 100%(酸素4L/min マスク),呼吸数 18/min,体温 40.2℃であった。腹部膨隆を認めたが触診にて腹部は軟らかく圧痛はなく,腹膜刺激徴候は認めなかった。腸蠕動音は低下していた。敗血症を疑い行われた造影CTにて,小腸広範囲に渡って腸管壁内にガス像を認めた。腸管壁内のガス像の原因として,腸管壁の壊死を考えたが,患者は腹痛を訴えず,腹膜刺激徴候がなく,経時的に行われた超音波検査にても腹腔内液体貯留を認めず,緊急開腹術はひとまず延期された。腹部膨隆も徐々に改善し,第8病日に初めて黄色の下痢便を排泄した。第13病日のCTにて,腸管壁内のガス像の消失をみとめた。第19日目に施行した小腸カプセル内視鏡では,小腸粘膜の一部にびらんを認めるのみであり,空気が侵入するような粘膜の破綻,粘膜の虚血性変化,潰瘍形成に伴う変化(瘢痕形成など)は認めなかった。全身状態良好であり,29日目に自宅退院となった。気腫の原因として,腸管内腔圧の上昇による腸管壁内へのガス貯留が考えられた。
著者
新谷 裕 中谷 壽男 平出 敦 行岡 秀和 森田 大 西内 辰也 池内 尚司 林 靖之 松阪 正訓 木内 俊一郎
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.131-137, 2003

病院外心停止(OHCA)症例に関する検討は盛んに行われてきたが,小児のOHCAに関する検討は不十分である。われわれは大阪府全域で発生したすべての病院外心停止患者(OHCA)の蘇生に関わる事項をウツタイン様式を用いて網羅的に集計しているが,このデータを用いて小児に関する集計結果を報告する。1998年5月から1年間にOHCAは5,047例記録されたが,うち小児(15歳以下)は147例であった。その発生頻度は10万人当り年間10.3で大人(16歳以上)より有意に少なかった。しかし,乳児の発生頻度は10万人当り年間79で,大人より有意に多かった。心原性心停止,目撃のある心停止の割合が大人より少なかったが,bystanderによるCPRの割合は多かった。1か月生存率は大人より高かった。小児のOHCAのおよそ半数が乳児であるが,そのうちの41例に乳幼児突然死症候群(SIDS)の疑いがもたれた。この数値は従来の死亡統計に基づく17という値より多かった。小児のOHCAの内訳は,乳児(0歳)が68例,幼児(1-6歳)が43例,学童(7-15歳)は36例であった。乳児では内因性の心停止が多く,幼児,学童と年齢が上がるにつれ外因性が多くなった。小児のOHCAの内容は乳児,幼児,学童で明らかに異なっていた。このことは小児のOHCAのデータを解析する上で重要である。
著者
前崎 繁文
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.51-62, 2010
被引用文献数
1

感染制御の目的は感染症の発症を未然に防ぐための平時の感染制御と,何らかの感染症のアウトブレイクが発生した際にその拡大を防ぐための有事の感染制御がある。とくに有事の感染制御では極めて短時間に幾多の感染制御のための手法を行う必要があり,多忙を極めることになる。院内(施設内)感染にはウイルスから寄生虫まで種々の微生物が関与するが,一般的には薬剤耐性菌,なかでも多剤耐性菌感染症がその対象となることが多い。多剤耐性菌のなかでもMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌; methicillin resistant <I>Staphylococcus aureus</I>)はその代表的な菌である。MRSAは1950年代から院内感染症の主な原因菌とされてきたが,現在では院内ばかりでなく,日常の社会生活にも浸透し,いわゆる市中感染型MRSAとして問題になりつつある。また,治療薬として新規の作用機序を持つリネゾリドが臨床使用可能となり,その有効性が確立されつつある。多剤耐性緑膿菌(MDRP; multiple-drug resistant <I>Pseudomonas aeruginosa</I>)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE; vancomycin resistant <I>Enterococci</I>)は発生報告が未だに少ないため,発生初期の段階で感染の拡がりを防ぐことが重要となる。我々の施設では2006年と2007年にMDRPとVREのアウトブレイクを経験し,有事の感染制御を実施してきた。その結果,MDRPおよびVREともに現在では制御可能なレベルとなり,平時の感染制御が実施されている。
著者
広瀬 保夫 畑 耕治郎 本多 拓 山崎 芳彦 堀 寧 大関 暢
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.125-129, 2001
被引用文献数
3

This report describes 7 victims of sodium azide poisoning caused by drinking poisoned water. Ten employees at the poisoning site developed symptoms immediately after ingesting coffee or tea made from hot water contained in a thermos bottle. Symptoms included altered consciousness, faintness, blackout, palpitation, nausea, and paresthesia of both hands and feet. Seven patients were transferred to our institution by ambulance. We assumed symptoms were caused by acute poisoning but the causative agent was unknown. We could not rule out cyanide poisoning because of the rapid emergence of symptoms suggesting circulatory failure, so we administered amyl nitrate, sodium nitrate, and sodium thiosulfate. Symptoms rapidly subsided. The causative agent was identified the next day as sodium azide. While the victims were being treated at the emergency room, 2 doctors, 3 nurses, and 1 pharmacist complained of faintness, headache, nausea, sensations of dyspnea and eye pain. These medical staff members had all either conducted gastric lavage or treated gastric contents. This strongly suggests that symptoms were caused by hydrazoic acid formed in a chemical reaction between sodium azide and gastric acid. Our experience underscores the potential hazard from hydrazoic acid faced by medical staff treating patients with oral sodium azide intoxication.
著者
青山 紘子 田熊 清継 堀 進悟
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.9, pp.375-382, 2012

【背景】路上生活者数の増加に伴い救急車搬送される路上生活者の病院受入困難事例が増加し社会問題となっている。しかし,本邦で本問題を救急医療の観点から検討した研究は少なく,その実態は不明である。【目的】路上生活者の救急要請から診療終了までの状況を調査し,救急要請の応需と診療の遂行に支障を来す因子を解明する。【方法】救急隊搬送記録および病院データを用いて,路上生活者および非路上生活者の救急診療を後方視的に比較・検討した(χ<SUP>2</SUP>検定,p<0.01を有意差ありとした)。【結果】1.路上生活者は非路上生活者と比べ,救急車利用率(54.5% vs. 19.6%)が高いにもかかわらず,入院率(23.5% vs. 30.2%)は低かった(ともにp<0.001)。2.路上生活者は夜間に比べ,日中に救急受診することが多かった。3.救急受診をした路上生活者を救急受診時に路上生活者であると判明していた群(応需時ホームレス判明群)と判明していない群(応需時不明群)に分けると,後者は入院率(13.9% vs. 63.7%)が高く(p<0.001),病院滞在期間も長かった。4.路上生活者の入院時診断として消化器疾患が23.3%と最も多かった。遷延性意識障害があると入院期間が長かった。【結論】救急要請の応需および診療に支障を来す因子として,応需時不明群であること,遷延性意識障害があることが挙げられた。理由は,身元の特定,生活保護認定の取得,退院先の決定に時間を要することなど,行政手続き上や,治療は不要となっても患者の状態に合致した生活環境を提供できないことであった。路上生活者は救急車への依存度が高く,重症化すると入院期間も長くなることから,普段受診できる医療体制が必要であると ともに,救急外来診療においては,帰去時に支援するための積極的な福祉の介入が必要である。
著者
平山 傑 丹野 克俊 蕨 玲子 上村 修二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.131-135, 2008-02-15 (Released:2009-06-09)
参考文献数
9

症例は29歳の男性。 8 年前まで下垂体胚細胞腫の放射線治療を施行されており,汎下垂体機能低下症に対して 1 日にhydrocortisone 20mgを投与されていた。大量の水様性下痢後に全身脱力と低体温を呈したため当院に救急搬送された。低体温に対し電気毛布による体表復温と,温水を使用した胃洗浄による内部復温を開始した。復温に伴い血圧低下が出現したためrewarming shockを疑い輸液負荷を行ったものの反応せず,dopamineを開始したが低血圧が遷延した。既往歴とカテコラミンに不応性のショックから,急性副腎不全を疑い,搬入より11時間後にhydrocortisone 100mgを静脈内投与した。その後から徐々に血圧が上昇し,輸液負荷やdopamineを漸減することが可能となった。hydrocortisone投与前の血中コルチゾール濃度は1.4μg/dlと低値を示していた。第 4 病日にICUを退室し,第11病日に独歩退院となった。急性副腎不全はよく知られた疾患であるが,実際に救急外来で遭遇することはまれである。症状も様々で検査所見も非特異的なものが多く,診断に苦慮する。時にカテコラミンに不応性のショックを呈するため,早期の診断と治療が予後を左右する。カテコラミン不応性のショックをみた場合,既往歴や経過から積極的に急性副腎不全を疑い,ステロイドを投与すべきであると考えられた。
著者
織田 成人 平澤 博之 北村 伸哉 上野 幸廣 島崎 淳也 中西 加寿也 福家 伸夫 伊藤 史生
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.219-228, 2007-06-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

目的 : 千葉県の救急・集中治療施設における急性肺傷害 (acute lung injury; ALI) /急性呼吸急迫症候群 (acute respiratory distress syndrome; ARDS) の発症率, 治療, 転帰等について調査し, population-basedのALI/ARDS発症率を推計する。研究デザイン : 多施設共同前向きコホート研究。セッティング : 千葉県内の3次救急医療施設および大学附属病院を中心とする12施設のICU。方法 : 2004年10月1日~12月31日までの3ヵ月間の全ICU入室患者を対象に, SIRS (systemic inflammatory response syndrome), ALI/ARDSをスクリーニングした。ALI/ARDSの診断基準は, 1994年のAmerican-European Consensus Conferenceの定義を用いた。調査票を用いてALI/ARDS患者の背景病態, 原因, 重症度, 合併臓器障害, P/F比, 人工呼吸器装着の有無, 各種治療, ICU在室期間, ICU退室時および28日後の転帰等を調査し検討した。結果 : 調査期間内に1,632例が登録され, このうちSIRS症例は770例 (47.2%), ALI/ARDS症例は79例, 発症率は全症例の4.8%, SIRS患者の10.3%であった。ALI/ARDS症例の平均年齢は64.0±17.1歳, P/F比は平均150.7±70.6で, P/F比300-201の症例が19例 (24.1%), 200以下のARDS症例は60例 (75.9%) であった。入室時APACHE IIスコアは24.7±8.9, SOFAスコアは8.8±4.3, 肺以外の臓器障害数は2.2±1.4臓器であった。ALI/ARDS79例中71例が人工呼吸管理を要し, これら症例のventilator free days (VFD) は平均12.1±10.6日であった。ALI/ARDS症例の平均ICU滞在日数は18.8±9.6日, 28日生存率は68.4%であった。結論 : これらのデータから推計すると, 千葉県におけるALI/ARDSの発症率は人口10万人当たり年間6.1人であった。
著者
上村 修二 丹野 克俊 平山 傑
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.10, pp.713-717, 2007-10-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
13

症例は63歳の女性。自殺目的で焼酎5合とハイポネックス®推定150mlを服用し, 18時間後に救急外来を受診した。来院時, 高カリウム血症とメトヘモグロビン血症 (動脈血メトヘモグロビン25.6%) を呈していたが, メトヘモグロビン値は徐々に改善し, 来院12時間後に正常値となり, 第3病日退院となった。ハイポネックス®中毒による死亡例の報告はあるが, メトヘモグロビン血症の発症の報告はない。硝酸塩が酸化物質である亜硝酸塩に還元され, 血液内で亜硝酸塩によりヘモグロビンがメトヘモグロビンに酸化された結果と推測された。液体肥料中毒の重症例の報告は稀であるが, メトヘモグロビン血症を起こす可能性が考えられるので注意が必要と考えられた。
著者
黒田 泰弘 山下 進 中村 丈洋 河北 賢哉 西山 佳宏 河井 信行 内野 博之
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.167-176, 2006

ヒト蘇生後脳症においてKety-Schmidt法,washout法,positron emission tomographyにより測定された脳循環代謝量と,Safarの蘇生後脳循環障害の時間的stageをまとめ,予後との関係を述べる。臨床では,蘇生直後-1時間後における脳循環代謝量を測定できないので,stage I (no reflow)およびstage II (early postischemic hyperemia)の存在は不明である。蘇生後24時間以内のstage III (delayed postischemic hypoperfusion)では脳血流量は正常もしくは低下する。しかし,「hypoperfusionにもかかわらず脳酸素消費量の増加状態」を特徴とするSafarの報告と異なり,とくに予後不良の症例においては,実際に脳酸素消費量は低値で,脳酸素消費量の低下が脳血流量の低下よりも相対的に著明である。蘇生後24時間以後のstage IVでは,一過性のsecondary hyperemiaを呈する場合,持続するhypoperfusionを呈する場合,極度の脳代謝量低値が持続する場合,は予後不良と関係する可能性がある。意識回復例では蘇生後7日以降に脳酸素代謝が回復してくるので,蘇生後7日以内では予後を脳酸素消費量の値から推定することは難しい。
著者
藤井 公一 宮武 諭 石山 正也 大木 基通 冨岡 秀人 加瀬 建一 小林 健二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.792-796, 2014-10-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
10

症例は70歳の男性。自宅で突然の胸背部痛を訴えた後,当院に救急搬送された。来院時,意識JCS 300,脈拍数49/分,血圧96/80mmHgであった。緊急で施行した心エコー検査にて心嚢液貯留を認めたためStanford A型急性大動脈解離(以下A型解離)による心タンポナーデの可能性が疑われた。気管挿管後に,患者は心肺停止したため心肺蘇生を開始し,2分後に自己心拍は再開した。しかし循環動態が不安定となったため心嚢穿刺を施行した。約10mLの血性心嚢液を吸引した後は,速やかに血圧が上昇し,その後循環動態は安定した。造影CT検査の結果,A型解離と診断が確定し,緊急手術(上行-弓部部分置換術)が施行された。第22病日にICUを退出したが,誤嚥性肺炎を併発し,第177病日に永眠された。A型解離に合併した心タンポナーデに対する心嚢穿刺は,手術待機の間に循環が維持できない場合には考慮すべきと考えられた。その際は,ドレナージ量を最小限にして,血圧を過度に上昇させないことが重要であると考えられる。
著者
藤島 清太郎
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.819-827, 2010-10-15 (Released:2010-12-04)
参考文献数
40

急性肺損傷(ALI),急性呼吸促迫(窮迫)症候群(ARDS)は,種々の原因や基礎疾患に続発して急性に発症し,その原因が心不全,腎不全,血管内水分過剰のみでは説明できない肺水腫の総称である。病理学的にはびまん性肺胞障害(DAD)を呈し,病態生理学的には,肺胞領域を中心とした好中球主体の急性炎症と,肺胞上皮細胞,血管内皮細胞の傷害,および肺微小血管透過性の亢進を認める。本症候群の診断においては,Bernardらによるアメリカ胸部疾患学会とヨーロッパ集中治療医学会の合意会議(American European Consensus Conference; AECC)の定義が標準的であるが,その他にもMurrayらの拡大定義などが用いられる。これらの臨床的診断基準は比較的簡便で,とくにAECCのものは診断感度が高いが,特異度は十分に高くなく,類似病態の除外に留意を要する。すなわち,静水圧性肺水腫,各種呼吸器感染症,好酸球性肺炎(AEP),びまん性肺胞出血(DAH),特発性器質化肺炎(COP, BOOP),剥離性間質性肺炎(DIP),過敏性肺臓炎(HP),膠原病肺,リンパ脈管筋腫症(LAM),肺血栓塞栓症(PE),悪性腫瘍,急性拒絶反応,薬剤性肺障害などとの鑑別が必要である。鑑別診断を行う上で肺生検が最も正確と思われるが,現実的な選択枝とはなり難く,これに代わる実用的な検査手段として気管支肺胞洗浄(BAL)が重要である。ALI/ARDSの基礎・原因傷病としては,直接傷害として有毒物質の吸入,細菌性肺炎などの重症呼吸器感染症,誤嚥性肺炎,脂肪塞栓症候群(FES),肺挫傷など,また間接障害として敗血症を含む重症感染症など様々なものがある。したがって,これらに続発して発症するALI/ARDSの病態も多様であり,基礎・原因傷病ごとに最適な治療法が異なる可能性がある。
著者
織田 成人 平澤 博之 北村 伸哉 上野 幸廣 島崎 淳也 中西 加寿也 福家 伸夫 伊藤 史生
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 = Journal of Japanese Association for Acute Medicine (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.219-228, 2007-06-15
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

<b>目的</b> : 千葉県の救急・集中治療施設における急性肺傷害 (acute lung injury; ALI) /急性呼吸急迫症候群 (acute respiratory distress syndrome; ARDS) の発症率, 治療, 転帰等について調査し, population-basedのALI/ARDS発症率を推計する。<b>研究デザイン</b> : 多施設共同前向きコホート研究。<b>セッティング</b> : 千葉県内の3次救急医療施設および大学附属病院を中心とする12施設のICU。<b>方法</b> : 2004年10月1日~12月31日までの3ヵ月間の全ICU入室患者を対象に, SIRS (systemic inflammatory response syndrome), ALI/ARDSをスクリーニングした。ALI/ARDSの診断基準は, 1994年のAmerican-European Consensus Conferenceの定義を用いた。調査票を用いてALI/ARDS患者の背景病態, 原因, 重症度, 合併臓器障害, P/F比, 人工呼吸器装着の有無, 各種治療, ICU在室期間, ICU退室時および28日後の転帰等を調査し検討した。<b>結果</b> : 調査期間内に1,632例が登録され, このうちSIRS症例は770例 (47.2%), ALI/ARDS症例は79例, 発症率は全症例の4.8%, SIRS患者の10.3%であった。ALI/ARDS症例の平均年齢は64.0&plusmn;17.1歳, P/F比は平均150.7&plusmn;70.6で, P/F比300-201の症例が19例 (24.1%), 200以下のARDS症例は60例 (75.9%) であった。入室時APACHE IIスコアは24.7&plusmn;8.9, SOFAスコアは8.8&plusmn;4.3, 肺以外の臓器障害数は2.2&plusmn;1.4臓器であった。ALI/ARDS79例中71例が人工呼吸管理を要し, これら症例のventilator free days (VFD) は平均12.1&plusmn;10.6日であった。ALI/ARDS症例の平均ICU滞在日数は18.8&plusmn;9.6日, 28日生存率は68.4%であった。<b>結論</b> : これらのデータから推計すると, 千葉県におけるALI/ARDSの発症率は人口10万人当たり年間6.1人であった。
著者
唐澤 秀治 鎗田 勝
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.11-19, 2001-01-15
参考文献数
6
被引用文献数
5

いわゆる平坦脳波の定義は脳波が平らなことではなく,高感度記録で内部雑音以上の脳波がまったく認められないことである。医学的には「平坦脳波」は使用禁止用語であり,脳電気的無活動(ECI)を使用することになっている。著者らは集中治療室で脳死状態の患者に対して脳波検査を行い,アーチファクトの原因とその対策について検討した。新しく開発したシールドシステムの効果についても検討した。そして脳波検査の基本(ABC)とアーチファクト追放(artifact banish)方法を盛り込んだArtifact Banish Control Manual for ECI Recording (ABC Manual)を作成した。このマニュアルに従い脳波検査を行ったところ,集中治療室でアーチファクトは低減され,ECIの診断は十分に可能であった。
著者
古谷 良輔 岡田 保誠 稲川 博司 小島 直樹 石田 順朗 佐々木 庸郎 吉村 幸浩
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.106-112, 2008-02-15 (Released:2009-06-09)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

今回われわれはフェノバルビタール合剤を大量服用し,初期治療によりいったん意識レベルの改善を認めたものの再度意識障害が再燃するという特異な臨床経過をたどったために治療に難渋した症例を経験した。症例は31歳の男性。統合失調症で他院通院治療中であった。自室でベゲタミン®を大量服用し昏睡状態に陥っていたため当院に搬送された。到着時の意識レベルはE1V1M1/GCS,両側縮瞳・対光反射あり,努力様呼吸30/min,血圧107/60mmHg,脈拍111/min,SpO2 95%,気管挿管人工呼吸管理下で治療を開始した。服薬後,長時間が経過していたため当初活性炭投与は施行しない方針であったが,自発呼吸と脳幹反射の消失を認めたこと,カテコラミン抵抗性の遷延性低血圧が顕在化したこと,血中フェノバルビタール濃度が122.8μg/mlと致死的濃度であったこと,さらに胸腹部レントゲン写真で胃内に薬物塊様の像を認めたことから,胃洗浄,活性炭の反復投与,さらに活性炭吸着カラムによる血液吸着療法(DHP)を施行した。DHPを 3 回施行後,血中フェノバルビタール濃度は22.5μg/mlと低下,意識レベルはE3VTM6/GCSまで回復した。しかし12時間後血中濃度は101.2μg/mlと再上昇,意識レベルは再び低下し脳幹反射も消失した。この現象は,過量服用した製剤に含有されるクロルプロマジンとプロメタジンの抗コリン作用と,活性炭反復投与によって麻痺性イレウスとなり,腸管内に残存した活性炭-薬物複合体から腸管内へフェノバルビタールが遊離し,さらに腸管内と血中の濃度勾配の拡大に伴う受動拡散・再吸収が生じたことによると思われた。そのため,腸管洗浄を併用下で,DHPをさらに 4 回施行し,その後フェノバルビタール濃度は中毒域以下となった。ベゲタミン®製剤の致死的過量服用症例に対して,活性炭を反復投与する場合には,活性炭による腸管閉塞を回避するばかりでなく,活性炭-薬物複合体の排泄を促進するためにも,下剤の同時投与や,投与後12時間で活性炭便の排泄がない場合は全腸管洗浄の併用を考慮すべきである。
著者
本間 洋輔 望月 俊明 大谷 典生 青木 光広 草川 功 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.273-277, 2012-06-15 (Released:2012-08-11)
参考文献数
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Zolpidem(マイスリー®)の過量服用による急性薬物中毒の母体から出生した児が急性薬物中毒よる無呼吸状態であった1例を経験したので報告する。症例は35歳の女性。公園内で意識障害の状態で倒れていたところを発見される。周囲に薬包が散乱していたため,急性薬物中毒疑いにて当院へ搬送された。来院時意識レベルJCS200。腹部膨満を認め,腹部エコーにて子宮内に心拍を伴う胎児を認めた。その時点で妊娠37週であること,出産の徴候が認められたためパニックとなり行方不明となっていたことが発覚した。産婦人科診察にて分娩の進行が確認されたが,意識障害が遷延していたため,緊急帝王切開を施行することとなった。出産児は男児,体重2,572gでapgar scoreは1分後4点,5分後4点であった。児は自発呼吸を認めず気管挿管下の人工呼吸管理を要した。日齢1には自発呼吸認めたため抜管,その後は薬物離脱症状や合併症を認めることなく日齢22に退院となった。母親(本人)は入院2日目に意識レベルが回復し,とくに合併症なく経過した。精神科診察にてうつの診断となり,自殺企図を伴ううつの治療目的に転院となった。後日,分娩当日の母・児の血液よりZolpidemが異常高値で検出され,母児の意識障害の原因としてZolpidem中毒の診断が確定した。うつによる薬物過量服用はよくみられるが,妊婦が薬物を過量服用し,そのまま分娩を迎える例は稀である。Zolpidemは妊婦に比較的安全とされているが,本報告のように過量服用の場合には胎児に影響がでることがある。そして母体で中毒症状が出現している場合は,児ではそれ以上の中毒症状がでる場合があると想定するべきであり,妊婦の薬物過量服用の場合は常に胎児への影響について考えるべきである。また妊娠可能な年齢の女性の意識障害で詳細不明な場合,常に妊娠の合併について考えるべきである。