著者
北垣 智基
出版者
佛教大学
雑誌
福祉教育開発センター紀要 (ISSN:13496646)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.35-55, 2014-03-31

本稿の目的は、介護現場における人材育成・定着に向けた取り組みの実態と課題、ならびに関連する政策・制度上の課題について考察を行うことにある。本稿では調査データとして、平成24 年に京都府で実施された「福祉・介護事業所の経営実態と労働環境調査」の結果の一部を用いて考察を行い、以下の点を指摘している。第一に、多くの介護現場では人材育成・定着に向けた取り組みが意識的に行われており、一定の課題を含みつつも、その有効性が労働者に認識されている点である。第二に、介護現場では取り組みを進めるなかで直面している問題があり、そこに介護報酬の水準や人員配置基準といった政策・制度上の問題が関連している、という点である。今後も介護人材対策が必要視されるなかで、現場における取り組みの継続・発展と合わせて、本稿で指摘する政策・制度上の問題が見直されていく必要がある。
著者
千葉 芳夫
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.17-31, 1999-03-01

ヴェーバーは、近代化や合理化を全面的に肯定したわけではなかった。彼の議論には、西欧の近代や合理性に対する批判も明らかに見られるのである。近年、ヴェーパーの近代批判の側面に焦点をあてた解釈が多く現れてきている。そこで議論の一つの中心をなしているのは、ヴェーパーとニーチェの関係である。本稿では、わが国におけるこの問題についての代表的論者である山之内靖のヴェーパー解釈を中心に、ヴェーパーとニーチェをめぐる議論を検討することにする。
著者
木元 英策
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.117-133, 2011-03-01

平安期や鎌倉期に「得分」といえば、「領主之得分」を指していた。それは、12世紀半ばの史料に現れる余剰生産物が、官物や地子、それから開発領主が収取する得分のみであったことからも窺われる。ところが戦国期になると、領主層が収取する年貢部分の固定化や生産力の向上にともない、さらなる余剰を生みだすようになる。戦国期の「得分」は主にその余剰部分を指し、土豪・富農層を中心に集積された。ところが、これまでその戦国期の「得分」について曖昧に捉えられる面もあり、定義付けおよび問題提起が不十分であった。そこで数多く伝存する北近江・和泉地域の売券・寄進状をつぶさに検討し、戦国期の「得分」を分類整理した結果、存在形態によっては、領主層が収取すべき部分にまで踏み出して、土豪層が得分を成立させている例を呈示するに至った。
著者
持留 浩二
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.139-150, 2007-03-01

本論文は文学批評理論における比較的新しい手法である「進化論批評」について考察している。パラシュやキャロルといった批評家は新しい心理学の流れである進化心理学の観点から文学作品を読むことを提唱している。彼らは、科学者や宗教家と比べてより自由な立場にいる作家こそが最もよく人間の真の姿を理解しており、文学作品には普遍的な人間性が描かれていると言う。そこに描かれているものは生物学的な理屈に適っているのである。しかし進化論批評にも問題点がある。 時々、生物学的事実に反するようなことが作品に描かれていることがあるのだ。作品内容のみに注意を向けるだけではこの問題を解決できない。より正しい解釈を行うためには、作品のみに目を向けるのではなく、作者や、作者とその周辺の環境との相互作用を考慮に入れることが必要になってくるのである。
著者
杉山 貴士
出版者
佛教大学
雑誌
福祉教育開発センター紀要 (ISSN:13496646)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.165-179, 2015-03-31

昨今、性的マイノリティがメディアを通じて見聞きする機会が増えている。性同一性障害が「性的違和」に変更となり、地方議員や国政に進出する当事者も現われている。さらに最近は「LGBT 市場5.7 兆円」に代表されるように、市場価値を持つゲイがクローズアップされ、消費に旺盛な当事者像が出される一方で、自尊感情が低く「ゲイの自殺企図率は異性愛者の6 倍」という当事者像も出される。そうした狭間で実際に多くいるはずの「地域や組織で役割を果たして生計をなす当事者不在」となっている。 こうした現状で民医連職員としてゲイとして保健医療福祉専門職へ性的マイノリティ支援教育研修の機会を得た。地域や組織で働くゲイのありようを示しながら、研修の概要やポイントを整理し、研修によってどう行動変容があったのか受講者の声等を紹介する。同じ職場環境にいながら性的マイノリティ支援研究を進める当事者が行う研修の効用を考える。
著者
古我 正和
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.93-102, 2004-03-01

イギリスのヴィクトリア朝は、対外的に大いに発展して経済的にも国内の産業がフル稼働していた時期であった。そのため人間個人の幸福や安寧はそれに追い付かず、 国家的な方面からの法整備もかなわぬままに、イギリス国民はその好景気に飲み込まれ、弱肉強食体制の中で、模索しながら生きていかなければならなかった。Charles Dickensはそのような世相の中で堅実に生きていこうとする庶民に日を向け、暖かく見守った。とりわけクリスマスには人々の心を癒してくれる物語を数多く書いた。本論では、そのクリスマスの物語の一つThe Cricket on the Hearthをとりあげ、そこに出てくる生きものと人聞が、ヴィクトリア朝というこの試練の時期にいかに懸命に生きているかを眺めながら、同時にディケンズの描くヴイクトリア朝の影も 探ってみた。
著者
筒井 大祐
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-18, 2014-03-25

神功皇后新羅出兵譚を語る中世期の資料のひとつに『平家物語』がある。『平家物語』の神功皇后新羅出兵譚は、八幡縁起資料の内容と異なり、その依拠資料は未だ解明されていない。そこで本稿では、中世期における神功皇后伝承の展開を考察するためにも、延慶本『平家物語』の神功皇后新羅出兵譚を取り上げ、その依拠資料の解明を目的とする。そのために本稿では、従来、言及されていない延慶本と同一の神功皇后伝承を載せる資料として、聖徳太子伝を指摘し、その内容を延慶本と比較した。さらに、延慶本と同文の新羅出兵譚を有する太子伝の伝本である、寛文六年刊本、真福寺文庫蔵『仏法最初弘仁伝』、養寿寺蔵『平氏伝』などの文保本太子伝と、延慶本を比較、検討した結果、延慶本の神功皇后新羅出兵譚の依拠資料が聖徳太子伝であると結論付けた。
著者
黒田 彰
出版者
佛教大学
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.109-151, 2013-11-30
著者
黒田 彰
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.55-76, 2014-03-01

祇寺図経(祇園図経)は、平家物語冒頭部「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」のもとになった、文献として知られるものである。その本文は、大正新脩大蔵経(卍続蔵経に拠る)等に収められ、底本は版本で、古写本の存在は、未だ知られていない。その意味で、版本の祇寺図経は、非常に重要なものとしなければならないが、不思議なことに、その版本は、これまで紹介されたことがない(かつて故渡辺貞麿氏が上巻のみ影印されている<『仏教文学研究』2期2>)。さて、本学図書館に、二本もの祇寺図経の所蔵されていることは、誠に幸いなこととすべきであろう。この機会に、佛教大学図書館の許可を得て、その内の一本、極楽寺旧蔵本を本号(上巻)、次号( 99号、下巻)の二回に分けて影印、公刊したく思う。
著者
空井 伸一
出版者
佛教大学
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.59-73, 2012-11-24

本稿は、護摩で用いられる「芥子」、就中その匂いを感受する作中人物の描かれ方を手がかりにその心根を照らし出す試みである。麻薬としてのいわゆる「罌粟(opium)」に通ずる芥子の語感から、異常な作用をもたらすように受け止められることがままあるが、しかし実際にそのようなことはない。さして変哲もないものに過剰に反応するなら、それは受け止める側の心の問題ということになるだろう。本稿が目的とするのは『雨月物語』中の二篇を読み解くことだが、その手始めに「芥子の香」なる特徴的な表現で知られた『源氏物語』「葵」の帖につき、それが六条御息所の苦衷を描く上でいかなる意味を持つかを考察する。次いで、この表現を自覚的に引用した「蛇性の婬」につき、豊雄に執念くつきまとう真女子は「芥子の香」をもって調伏されながら、しかしその香は同時に、加害を為す邪神とは断罪しかねる彼女の心意をも浮かび上げていることを論ずる。最後に、悪逆な死霊が高野山という霊場に跋扈し、しかもその死霊自らが霊場の神妙を言祝いでみせるという不可解さが読む者を戸惑わせてきた「仏法僧」につき、そのように言挙げする死霊たちの自意識を■明する上で、彼らの連句に読み込まれた「芥子」の語がひとつの徴証となることを論じる。
著者
平松 隆円
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学教育学部学会紀要 (ISSN:13474782)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.147-155, 2012-03-14

なぜ、若者は電車内などの公衆場面で化粧をおこなうのか。ある調査によると、10歳代の約40%は電車内での化粧に抵抗なく、約30%が実際に経験している。しかしながら、50歳代では約8.5%に抵抗がなく、実際の経験も6.5%と低下する。これは、社会や集団において個人が同調することを期待されている行動や判断の基準である規範意識に差があるからと仮説できる。また、従来からのアルコールや薬物に加え、近年では携帯電話などの依存性が社会問題化している。化粧と依存性との関係について、化粧そのものに気分の高揚感が存在することから、公衆場面で化粧行動をおこなう者は、ある程度の依存状態にあるのではないかと仮説できる。そこで本研究は、公衆場面における化粧行動と規範意識や依存性について検討をおこなった。結果を要約すると、以下の通りになる。1)実際の化粧行動は、『日常的化粧行動』と『非日常的化粧行動』に構造化され、公衆場面での化粧行動は『不特定他者場面』と『特定他者場面』に構造化された。そして、男性では『非日常的化粧行動』が『不特定他者場面』と、『非日常的化粧行動』が『特定他者場面』と有意な正の相関関係を、女性では『日常的化粧行動』が『特定他者場面』と、『非日常的化粧行動』が『不特定他者場面』と有意な正の相関を示すことがわかった。2)男女とも『不特定他者場面』『特定他者場面』のそれぞれを規範意識が有意に規定することはなかった。3)男性では『不特定他者場面』を情動的依存が負に有意に規定することが、女性では『不特定他者場面』を情動的依存が負に有意に規定することが、『特定他者場面』を情動的依存が正に有意に規定することがわかった
著者
黒田 彰子
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

平成29年度は、27年度・28年度に調査閲覧を行い、翻刻データを作成した「肥前松平文庫藏奥義抄」「書陵部蔵御巫本奥義抄」両本の刊行に向け、データの見直し、点検を行った。その後、「肥前島原松平文庫藏奥義抄」と系統の近い、志香須賀文庫旧蔵本が慶應大学図書館に蔵される事が判明したため、同本との校異を取る作業を行った。以上二書は、平成29年度中に、成果報告として刊行した。平安期歌学書研究の対象である冷泉家時雨亭文庫に蔵される『口伝和歌釈抄』の輪読は、順調に進み、その成果として『口伝和歌釈抄輪読四』を刊行した。同じく、平安期歌学書研究の対象である『和歌童蒙抄』については、研究代表者の黒田が、平成17年から継続して行ってきた注解作業が完了したので、これまでの注解に不足していた新出資料を加え、『和歌童蒙抄注解』として刊行することになった。幸い平成30年度研究成果公開促進費〈学術図書〉が交付される事になったため、現在鋭意原稿の整理を行っている。また、平安時代歌学書が後世に与えた影響の一例として、名古屋市蓬左文庫に蔵される『巣子』を翻刻公刊した。本書は、平安歌学を後世から見るという観点から極めて興味深い資料であるが、未紹介の資料であるため、これを翻刻し成果報告として公刊した。なお、平成27年度以降調査と続けてきた奥義抄の古鈔本については、個別の公刊を避け、一書にまとめる予定である。具体的には、藤原定家筆天理図書館本、伝顕昭筆尊経閣文庫本、等であり、これらについては、すでに調査及びデータ化を終えており、平成31年には刊行の予定である。
著者
平松 隆円
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学教育学部学会紀要 (ISSN:13474782)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.107-112, 2009-03-14
被引用文献数
1

This study was focused on the every day feeling adjustment with makeup. The purpose of this study was clarified whether manicure had as influenced to be desirable for feeling adjustment. The analytical subject was 40 female university students (M=19.68years old, SD=2.03). The index used Profile of Mood States(POMS). After using manicure, "Tension-Anxiety score","Depression -Dejection score","Anger-Hostility score", "Fatigue score","Confusion score" decreased significantly of Profile of Mood States(POMS) and "Vigor score" increased significantly of Profile of Mood Sates(POMS). The result of this study indicated a fact it is possible to give positive feeling adjustment affects on female university students through the using manicure. 本研究の目的は,化粧の日常的な感情調整作用に注目し,女子学生40名(平均年齢=19.68歳,SD=2.03)を対象に,マニキュアのもたらす感情調整作用について検討することである. マニキュア使用前後の感情の変化をProfile of Mood states(POMS)によって測定したところ,マニキュアの使用にともない,「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「怒り-敵意」「疲労」「混乱」が有意に低下し,「活気」が有意に上昇することが明らかとなった. 本研究の結果から,マニキュアの使用はリラクセーションに有用であると考えられた.
著者
斉藤 利彦
出版者
佛教大学
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.59-78, 2014-03-01

近世京都に存在した日暮小太夫・日暮八太夫は、代数は明確ではないが、数代にわたり継承された太夫号である。同時に、このふたりが所有した「説教讃語名代」は、京都の宮地芝居の座の興行権として用いられており、近世中期京都興行界を考えるうえで重要である。本稿は、近世中期京都において活動した説経太夫日暮小太夫・八太夫について、先行研究に学びながら、考察していきたい。
著者
森谷 峰雄 森谷 美麗
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.103-116, 2003-03-01

ミルトンの「パラダイス・ロスト』を元に、音楽作品を創作した有名な作曲家としては、Haydn,Franz Joseph (1732 -1809)とPenderecki,Krzysztof (1933年,11月23日ポーランド生まれ)の2人が知られている。前者は、3人の独奏者、合唱、管弦楽のための壮大なオラトリオ『天地創造』 (Die Schopfung) を創作し、後者はオペラParadiseLost (1978)を創作した。ペンデレツキのオペラは、登場人物がミルトン、アダム、イプ、サタン、パールゼブプ、モレク、ベリアル、マモン、神の声、死、罪、イスエル、ラファエル、ゼフォン、ガプリエル、メシア、ミカエルの17名である。内容は、アダムとイプ及び神との聞の平和・和解を中心に原作ミルトンの『パラダイス・ロスト』の主要な内容の全篇にわたっている。他方、ハイドンの方は、ミルトンの『パラダイス・ロスト』の中の一部(PL,Book,VIIの天地創造とBook Vのアダムとイブの朝の祈りの部分)から抜粋されている。もっとも、ハイドン自身がミルトンのParadise Lost全篇を読んで知っていたかどうかは不明である-ドイツ語訳の『パラダイス・ロスト』が完成されるのは、19世紀中葉になってからである。両者を聴いて比較すると、ハイドンの持つ宗教的深み、神への荘厳な感謝の念はペンデレツキにはない。もちろん、ハイドンにはペンデレツキの持つポリリズム(多線リズム polyrhythm) はない。この問題はここでは触れない。さて、本研究はミルトンの『パラダイス・ロスト』全篇12巻を音楽化する意思がある。ここでいう「音楽化」とは、言語芸術(詩)である『パラダイス・ロスト』に流れている創造精神を作曲者の思いのままに自由に形式にこだわりなく、音響乃至音楽-最終的には交響曲-に変換することであって、詩に節をつけることではない。ここで言う「音楽化」とは、原作の創造精神の自由な音楽的再創造のことである。すなわち、言語芸術の音響的芸術変換を言う。筆者らはすでに、ミルトンの詩をそのままコンピューターミュージック化した『音響失楽園』を有している。この音楽を作曲者がその自らの創造力でピアノ音楽へと再創造する。それは、おそらく、カトリック的な雰囲気をもつグレゴリウス聖歌的な曲になるだろう。現在、しかし、論文の原稿の量の制限からも、その他の理由から現在はできない。そこで、本稿は、ハイドンにならい、ミルトンの『パラダイス・ロスト』の一部を抜粋してピアノ作品に表現したい。テーマは、ペンデレツキの趣旨に似通う、アダムとイプそして、人類と神との平和である。『広島の犠牲者のための哀歌』 (Threnody for the Victims of Hiroshima,1961)を作曲したペンデレツキが戦争のむごたらしさ、残酷さを知り、平和を欣求する精神に溢れているように、ミルトンの中にも平和を求める気持ちは人一倍であった。ここで、平和というのは、事実としての戦争がない状態をいうのではなく、神・創造主とのつながりを得ている状態を言うのである。本稿は、ペンデレツキも着目した平和、人間と神との平和-これをへプライ語ではヒトラツァ(hitratstsa)という-の精神を与えられたアダムとイプが、心に真の平和を得て、楽園を去っていくまでを音楽化したものである。このピアノ作品は、Paradise Lost,Book IX,1134からBook XII,649までを音楽化したものである。イスラエルは、ミルトンの精神の中心思想を生んだ故郷である。しかるに、イスラエルは今日では世界で最も悲惨な国となった。この国においてほど、このヒトラツァが今や必要とされるところはない、と思われる。この曲はこの意味で、この国に捧げられてもよいのである。かつて、へブライ大学のトルーマン平和推進研究所(The Harry S. Truman Research Institute for the Advancement of Peace) の研究員(senior fellow) であった筆者には特別の思いが、この言葉ヒトラツァ(hitratstsa)にはある。なお、個人的なことで恐縮であるが、この言葉を教示してくださり、この曲についてもご配慮していただいたモーシェ・マオズ(Dr. Moshe Ma'oz)前研究所所長の思い出と共に、この曲を発表することができて嬉しい。本文の解説は森谷峰雄、作曲は森谷美麗が担当した。なお、この解説文をご高閲の上、筆者のあらぬ間違いをご指摘して下さった京都芸術大学教授龍村あや子氏に筆者は感謝の涙をした。
著者
浅尾 広良
出版者
佛教大学
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.35-46, 2010-11-27

『源氏物語』桐壺巻の巻末近くには、二人の皇女の婚姻が語られている。しかも二人は皇統の尊貴性を担う后腹内親王であり、物語はこうした皇女の婚姻を全体の舞台設定として語るのである。そもそも、律令制度下において皇女の婚姻は厳しく制限されていた。それは皇女が皇位継承において重要な役割を果たして来たことに由来する。そのために皇女不婚の原則は何百年にも亘って守られてきたが、平安時代に入るとそれが少しずつ崩れてくる。しかし、そうであっても天皇の意図に従い、皇女は相変わらず天皇家の権威保持にとって重要な役割を果たしたのである。歴史的に見ると、皇統が交替し、天皇の権威が危うくなった時に、皇女を使った皇統の権威化と臣下との紐帯強化が繰り返し行われてきた。物語の二人の皇女の婚姻は、天皇のおかれた裏面の事情を想像させる。
著者
長谷川 智治
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.67-108, 2012-03-25

数多ある山岳表現をもつ作例の中でも法隆寺・玉虫厨子の山岳に施された表現・技法は特殊であり、類似作例はみられない。だがその全てが独自のもので、他からの影響が皆無であるとは考え難い。本論ではその源流を辿るべく古代中国の山岳表現をもつ作例の観察と読み解きを進めた。その上で玉虫厨子山岳表現の詳細な観察との比較を行った結果、玉虫厨子の山岳はある特定の時代や様式の影響を受けて施工されたのではなく、様々な時代の特徴を内包した復古的とも呼べる表現であることが判明した。そして比較対象として重要な表現をもつ作例が、梁と西魏と云う隣接した時代に確認された。さらに捨身飼虎図は場面の中に枝の折れた竹を含ませることで、場面から場面への時間的推移を表していた。そして物語の舞台である山岳は静から動へと変動していく様を場面順に捉えており、『金光明経』捨身品にある「大地六種震動」の情景が描写されている可能性が示唆された。