- 著者
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富永 真琴
- 出版者
- 医学書院
- 雑誌
- BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.5, pp.493-501, 2008-05-01
はじめに
侵害刺激を受容する陽イオンチャネル(多くは高いCa2+透過性を持つ)のいくつかは,TRP(transient receptor potential)スーパーファミリーに属する。TRPチャネルの1つのサブユニットは6回の膜貫通領域を有し,4量体として機能的なチャネルを形成すると考えられている。trp遺伝子は,1989年にショウジョウバエの眼の光受容器異常変異体の原因遺伝子として同定された1)。その後,trpのコードする蛋白質TRPはCa2+透過性の高いチャネルであることが明らかとなり,これまでに多くのTRPホモログが発見されている。現在,TRPスーパーファミリーは,哺乳類では大きくTRPC,TRPV,TRPM,TRPML,TRPP,TRPAの6つのサブファミリーに分けられている2)。そのうち,TRPVサブファミリー〔「V」はTRPV1を活性化するバニロイド(vanilloid)の頭文字「v」に由来する〕に属するカプサイシン受容体TRPV1は,侵害刺激受容神経(nociceptor)での発現が強く,侵害刺激受容に関わっていると考えられている。1997年に遺伝子がクローニングされてから10年,TRPV1の研究は大きく進み,数々の有効刺激が明らかになり,活性化機構や制御機構が解明されてきた。機能に関わる構造基盤もかなりわかってきた。侵害刺激受容の中心分子として,鎮痛薬としての阻害薬に対する期待は大きく,いくつかの化合物が臨床治験の段階に進んでいる。本稿では,TRPV1に関して最近注目を浴びているいくつかのポイントに焦点を当てて概説したい。