著者
山田 尚勇
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.319-330, 1991-12-25

第2次世界大戦後の日本の工業経済の奇蹟的な発展は国際的に高く評価されるとともに, 時には謎とされている。一方, 国際的な貿易摩擦を引きおこすようになってからは, 日本のそうした成功は日本文化の非国際的な異質性や日本政府のアンフェアな貿易政策によるものとする論調をしばしば誘発するに至った。しかし, その多くは問題の核心を十分理解した上でのものとは言い難いと思われる。 本稿は, さまざまな観点からの考察を通して, この問題の本質についてのそうした国際的な誤解を解くことを試みるとともに, これからわれわれ日本人がこのような国際問題に取り組んでいくときに考えるべきことの一端を率直に示唆しようとするものである。
著者
越前 功
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

高解像度カメラや静脈認証センサの普及により,被撮影者の指紋・掌紋・静脈等の生体情報が意図せず取得され,悪用される可能性が指摘されている.生体認証に用いられる生体情報は終生不変のため,当該情報の漏えいは当事者の生涯に渡り不利益をもたらす危険性がある.本研究では,人間とアルゴリズムによる生体情報の認識の差異に基づいて,指紋等の生体情報のパターン認識を失敗させるジャミングパターンを被撮影者の指表面や手のひらに転写することで,視覚的違和感がなく,利便性を保ちながら,カメラやセンサ経由で取得した生体情報の認識を不能にする手法(バイオメトリックジャマー)を確立する.
著者
山田 尚勇
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.139-160, 1990-09-30
被引用文献数
1

本稿においては、研究開発に関わる統計的分析を示すのではなく、日米両国において、大学および企業の研究所で長らく過したあいだの、個人的経験を述べる。 日本では科学と技術がほとんど区別されず、一体として理解されている。しかし、かりにその差を認めたときには、どちらかというと、技術者のほうが科学者よりも地位が高いとする伝統がある。しかるに米国においては、科学は自然の法則を理解(分析)すること、工学はそれを実利に向けて応用(合成)することという、よりはっきりとした区分がなされている。 しかも、基盤となる科学に関わる者のほうが、工学に関わる者より、常に高い評価を受けてきた。 こうした微妙な差異は、科学と技術に関わる2国の政策に、かなりの違いを生んでいる。米国が基礎研究と新しいアイデアの発見にカを入れてきたのに対し、日本では既成のアイデアと技術を導入し、それらにキノ細かい改良を加えた上での製品化技術に集中し、勤勉でレベルが高く、しかも質の揃った技術者、労働者の効果的活用により、高品質、高信頼性の製品を大量生産し、安価に世界市場に供給しつつ、工業立国の面目を発揮してきた。 そうした国策は、近年大幅な貿易黒字をまねくとともに、主として製品の信頼性と価格の差とにより、米国におけるいくつかの産業を極度に圧迫している。そうして起こった貿易摩擦、経済摩擦の結果、日本が基本的アイデアを生み出すこと少なく、もっぱら他国に頼りつつ、甘い汁を吸っているという、技術タダ乗り論が海外に台頭し、高度先端技術の日本への移転を制限する運動さえ起こりだした。 こうした国際状勢の中にあって、日本としては、貿易黒字減らしと基盤的創造性の養成に、いやおうなしに取り組まなければならなくなった。 改めて世界を見まわしてみると、日本製品の廉価供給を可能にした原因として、1人あたりの国民総生産が世界一であるにもかかわらず、日本における実質的生活水準の低さが目につくようになった。すなわち、世界において飛び抜けて多い年間労働時間数、流通機構の過保護による世界一の物価高、過少な社会資本投資の結果としての生活環境の貧困さなどである。そして、国外における日本製品の価格の低廉さは、こうした犠牲の上に可能となっているという国際的指摘がなされだした。 さらに、もともと基礎研究というものは、豊かな「科学資本」-つまり教育、設備、試験研究、知識の集積など-に経費のかかるものである。日本は外国のアイデアにタダ乗りして、こうした資本の投資をもおこたっているというのである。 こうした国際的緊急状態に対処するために、日本は基礎研究にカを入れるとともに、創造性の組織的開発に取り組み始めた。 独創性を発揮するのは平均的思考能力を持つ人たちではなく、他人と変わった、独自の思考をする小数の人たちの集団であることが多い。 しかるに日本の社会では、単一化、画一化を陰に陽に奨励する文化が長らく定着しており、個性の強い者、変わり者が自由に伸びていくにはさまざまな障害が多い。 教育も、幼稚園から高校に至るまで、例外ではないから、大学にはいってから、にわかに個性を発揮しろと言われても、もともとそうした素質を持った人間は、それ以前の過程でかなり排除されてしまっている。 さらに日本の教育システムでは、小中学校の教育にかける経費はかなり潤沢であっても、大学教育、特に大学院にかける経費は、国際的に見てかなり少ない。かつ、教官に対する制限が強すぎて、かれらには自由に過ごせるまとまった期間が少なく、企業で働けず、またほとんどが所属大学の内部育ちであり、人事の交流も少ない。これらの環境条件は、またもや研究者の画一的思考を助長することになる。若手の研究者についても、大学院生を教育、研究過程に積極的に組み込むことが法的にできなくなっており、また、若手の社会人に対する「生涯教育」も思うにまかせない。積極的に創造性を評価するのに臆病であるから、長老に対する功労賞は多くても、若手に向けた大きな功績賞はない。 幼いときから、自分の意見をはっきりと相手に主張し、相手と議論してでも意見を伝えることを教えこまれているアメリカ人に比べて、われわれの行動の主原理は和の精神であり、右顧左眄しつつものを言う会議は、とかく生産的でない。委員会なども初めからとかく同種意見の持ち主で構成されるから、画期的な結果が出にくく、討論会などでも、本来の「秩序ある対決」の精神が生かされない。 個性とアイデアとは切っても切れない関連があるから、個人の確立のないところでは、アイデアそのものを尊重する観念も希薄になる。それはアイデアを出した個人の報われかたにおける日米の差によく表われている。 こうした独創性の低さ、そしてそれに付随した、外国からの先端技術タダ乗り論の非難を解消するには、国として早急に創造性養成の施策を進めなければならない。それについても多くの提案があるが、どうも対症処置に終わっていて、原点に立ち戻って考えなおすことは極力避けているかに見える。それに対症処置そのものが、また画一的、均質的で、別の硬直化を起こしそうなものが多いようだ。ほんとうに独創性を上げようと思うなら、国民全体の均質性、高水準性は多少犠牲になるかもしれないが、幼稚園教育から始めて、個性の自由な発露と、それに伴う多様化を、極力推し進めていくことが必要なのではなかろうか。そうした教育制度の思い切った改革は、なかなかむずかしいと思うが、それなしには、ただでさえ多額な投資を必要とする基礎研究に研究費を注ぎ込んだとしても、独創的な成果は、なかなか思うようには出て来ないのではなかろうか。わが国の研究の理念は、あまりにも実用的、工学的思考に傾きすぎている。たとえば気球との関わり方の歴史をみても、軍事的効用が認識されるまでは、わが国での反応は実に冷淡であったようだ。
著者
Nhlabatsi Armstrong Laney Robin Nuseibeh Bashar
出版者
国立情報学研究所
雑誌
Progress in informatics : PI (ISSN:13498614)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.75-89, 2008-03

セキュリティエンジニアリングとは,様々な資産を危害から守ることに関する技術である。フィーチャインタラクションとは,フィーチャの合成により望ましくないシステムの動作が引き起こされる,という問題のことである。多くの場合,共通のコンテキストにおいて,各フィーチャの動作が競合する,という形で現れる。フィーチャインタラクションは,セキュリティ脆弱性を引き起こすことにより,セキュリティ要求を侵害する可能性があり,攻撃者に利用される恐れがある。本論文は,フィーチャインタラクション問題,およびそのセキュリティ要求への影響について論じている。結論は以下の2 点である。(1) フィーチャインタラクションによるセキュリティ要求侵害は,検知手法については,他の種類の要求とは特に違いはない。異なるのは,このような違反がセキュリティに及ぼす影響の大きさである。(2)フィーチャインタラクションを検知する手法は脆弱性分析の手段として利用できる。
著者
北本 朝展 小野 欽司
出版者
国立情報学研究所
雑誌
NII journal (ISSN:13459996)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.15-26, 2001-03-30

本論文は、日本(国立情報学研究所)とタイ(アジア工科大学)の国際共同研究として進められているプロジェクト、すなわち台風画像データの収集および台風情報データベースの構築に関する報告である。過去の統計データによると東南アジア地域は、北西太平洋で発生する台風の約3分の1が通過する。この危険地域における台風災害を防止し損害を軽減するためには、台風解析と予報という問題に徹底的に取り組むことが重要である。本プロジェクトのユニークな点は、この問題に対して気象学の手法に基づく従来のパラダイムではなく、情報学の分野で発展したアイデアや手法を援用した情報学パラダイムに基づき、台風画像の大規模コレクションを研究の土台として挑戦するという点にある。本論文ではこのコレクションを主に気象衛星 GMS-5「ひまわり」の衛星画像から作成する。ただし GMS-5 を用いて東南アジア地域を観測する場合、衛星画像の実質的な解像度が低下し、雲形状が歪むという欠点が避けられない。そこで本論文では、別の種類の衛星画像、すなわちタイで受信する NOAA 衛星画像を組み合わせることにより、お互いの欠点を補完しつつ高品質な台風画像が生成できることを示す。さらにこのような大量の衛星データをネットワーク経由で交換するための基盤として、日本とタイの間で運用される SINET 国際回線が有効であることを述べる。
著者
河原林 健一 HOSHINO Richard
出版者
国立情報学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

2012年度の研究は、2011年度に引き続き、グラフ理論をスケジューリング問題に応用する研究を行った。特に日本プロ野球の日程に関して、以下の条件を考慮したスケジュール作成を行った。1.ホーム、アウェイゲームの連続性(ホーム、アウェイは2カードまで)2.各球団は、他球団との対戦をほぼ平等に行う(シーズンの最後に特定カードを多数残すことのないようにする)3.休日と週末でのホームゲーム試合数の均等化4.球場が使えない日程を考慮これらの条件を満たす中で、1.全球団の移動距離の総和を最小にする2.全球団の移動数を最小化にするこの2つを満たすような日程作成を目指した。この問題は、グラフ理論で考えられている「巡回トーナメント問題」の派生問題である。本年度、上記を満たす日程作成に成功した。この研究のインパクトは、アカデミック界のみならず、3月に朝日新聞の夕刊で報告されるなど、一般の社会にも伝わったようである。また、日本のみならず、アメリカ数学会、カナダ数学会の学会誌にも上記の仕事が紹介されるなど、海外にも認知度が高い研究となった。将来的な課題としては、上記の条件以外、前年度の成績を考慮し、前年度の成績がいいチームとの対戦が続かないようにする配慮する(キャリーオーバーエフェクト)取組が残っている。この点も考慮して、将来的に日程作成を行いたいと考えている。また本研究は、数学的理論が、実社会に貢献できる良い例になったと考えている。
著者
石坂 憲司 岩井 雅史 後閑 壮登 大場 秀穂 坂口 良
出版者
国立情報学研究所
雑誌
Progress in informatics : PI (ISSN:13498614)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.137-151, 2008-03
被引用文献数
2 3

この論文は,信州大学学術情報オンラインシステム(Shinshu University Online System of GeneralAcademic Resources (SOAR))の開発について報告するものである。信州大学は,国立情報学研究所の2006-2007年度の最先端学術情報基盤(CyberScience Infrastructure(CSI))の構築事業に参加した。これを機に,信州大学は,総合的な学術情報システムであるSOARの構築を目指した。SOARは,学内の最新の学術情報環境を整備すると共に,本学研究者の研究成果・研究活動を広く国内外に発信するためのものである。具体的には,「研究者総覧」と「機関リポジトリ」の2つを柱とし,それに「電子ジャーナル」と「Web of Science」とを加えて相互に連携させたシステムである。SOARは,今後の学術情報システムのモデルの一つになるものと考えられる。なお,機関リポジトリ(SOAR-IR) は,既存のソフトウェアを用いて構築したが,研究者総覧(SOAR-RD)は,XML技術を用いて新たに開発した。
著者
妻木 俊彦
出版者
国立情報学研究所
巻号頁・発行日
2007-01-18

報告番号: 乙16678 ; 学位授与年月日: 2007-01-18 ; 学位の種別: 論文博士 ; 学位の種類: 博士(学術) ; 学位記番号: 第16678号 ; 研究科・専攻: 総合文化研究科
著者
藤代 節
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.53-72, 1998-03

東・中央シベリアを中心として、広い地域に分布するチュルク系言語ヤクート語の動物及び植物を表す語彙についての研究である。ヤクート語にはその主要な話者であるサハ(あるいはヤクート)族が今日の居住域に至るまでに辿ってきた過程が、特に語彙において反映されており、そのことがチュルク諸語の中にあって、ヤクート語が特異な言語とされる所以でもある。この言語の特異性を明らかにするため語彙の中でもセットとして扱えるものを取り上げる。既に色彩名称と方向表現に関する研究を発表したが、本稿でこれに続いて同じくセットとして動植物名称を選び、研究の対象とした。色彩名称、方向表現についてと同じくサハ族の英雄叙事詩オロンホ「クース・デビリィエ」を主な資料とし、この中に見られるヤクート語の動植物名称の整理分析を試みた。
著者
山本 晃司 山口 修 青木 恒
出版者
国立情報学研究所
雑誌
Progress in informatics : PI (ISSN:13498614)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.53-62, 2010-03

本稿ではテレビ番組の出演者の顔を一覧表示することで,見たいシーンをすばやく見つけることができる映像ブラウジング・インタフェースのための高速な顔クラスタリング手法について提案する.ブラウジングのために,ユーザが録画終了後,許容できる待ち時間は1 時間番組あたり3 分以下であることが,予備調査により分かっている.本手法の目的は録画終了後,この許容時間内に顔クラスタリング処理を完了することである.顔認識に基づくクラスタリング手法(FRC) は良好な精度を得られる反面,処理時間がかかるという問題がある.そこで,本手法では顔特徴の類似度の代わりに,人物を含むショットの類似度を用いることで高速に処理する.本稿では類似ショット情報のみを用いた手法(SSC) と,SSCの結果をさらに顔サムネールの類似度でクラスタリングする手法(FTC) の2 手法を提案する.実験では映像1 時間当たりの平均処理時間はSSC が350 ミリ秒,SSC+FTC が31 秒と高速に処理可能であり,このときの精度(一覧表示における重複しない人物の数) は,FRC と比較し,それぞれ6.0%と0.9%の低下率にとどまることを示す.
著者
土屋 俊 竹内 比呂也 佐藤 義則 逸村 裕
出版者
国立情報学研究所
雑誌
Progress in informatics : PI (ISSN:13498614)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-49, 2007-03

本論文は,NACSIS-ILL と名付けられた図書館間相互貸借(ILL) リクエストメッセージ送付システムによって1990 年代半ばから実現されてきた大学間の図書館協力サービスに関する基本的事実を記述するものである。この研究は,NACSIS-ILL によって記録された1994 年から2005 年までのデータに基づいている。本研究の主要な調査結果として,以下の諸点を挙げることができる。すなわち,1) 日本の大学におけるILL においては「外国雑誌」に掲載された論文のコピーに対する要求が1990 年代にはきわめて支配的であるという点が特徴的であること,2)皮肉にも,特に看護学分野の雑誌に顕著に見られるように「国内雑誌」に掲載された論文に対する要求の増加が,2002 年に始まったコンソーシアム体制下のサイトライセンスによってオンラインで利用可能になった「外国雑誌」掲載論文に対する要求の減少を埋め合わせるかのように顕著になったこと,3)図書に対する現物貸借の要求は,それが要求全体に占める割合は小さいとはいえ,NACSIS-CAT という総合目録データベースの成長に従って増加してきたこと,4) 充足率は現物課貸出,複写提供のいずれにおいても安定的に高く,ターンアラウンドタイムの平均も概ね1週間以内であり,システムはきわめて効率的であるということ,5) システム本来の目的は相互に受益者となるような協力システムの構築にあったが,実際には主に要求するだけの図書館と供給するだけの図書館が存在しており,これは部分的には1970 年代に指定された「分野別外国雑誌センター」館に起因するものであること,6) いくつかの中小規模の図書館が近年供給を始めておりこれが顕著な動きを示していることである。
著者
船守 美穂
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、ゲイツ財団などの米国巨大財団が、米国の高等教育政策に及ぼす影響について研究を行った。米国巨大財団は、「戦略的アドボカシー」という手法で連邦政府や州政府の政策形成にも強い影響力を及ぼし、助成の効果をスケールさせようとする。民間財団が国の政策に圧力をかけているようにも見えるが、実際には、米国は清教徒が移住した時代、政府が機能しなかった頃から、教会や一部の成功者がフィランソロピーとして地域の発展のために尽くし、これが現代の財団や各種NPOの活動へと発展した。米国は現代においても、こうした第3セクターと政府による、多極的な国の発展を実現している。
著者
佐藤 真一 LIU HONG 佐藤 真一 LIU HONG
出版者
国立情報学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2023-03-08

2021年度には、証明可能な深層学習の枠組みについて検討を行う。次いで2022年度は、説明可能かつ頑健な深層学習の枠組みの検討を行う。最終年度である2023年度は、全体を総合し、証明可能・説明可能・効率的・頑健な深層学習の枠組みを構築する。その枠組みの実用性の検証のため、マルチメディア検索並びに人物再同定を対象として、この枠組みが実際に効果的に機能することを示す。
著者
北本 朝展 橋本 雄太 加納 靖之 大邑 潤三
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

「歴史ビッグデータ」とは、現代のビッグデータ解析技術を過去の世界に延長し、過去の世界を新たな視点から探る研究である。人工知能(AI)やシミュレーションなど最新のデータ駆動型モデルを活用するには、くずし字で書かれた史料に残された記録をどう入力すればよいだろうか?史料とデータ駆動型モデルを結合する鍵を握るのが、文書空間と実体空間を結合する「データ構造化」ワークフローである。そこで、文書のテキスト化やマークアップなど文書空間に関する技術と、地名エンティティなど実体空間に関する技術を研究し、分野横断的研究基盤に実装することで、歴史地震学や歴史気候学などの分野で歴史ビッグデータ研究を推進する。
著者
新井 紀子
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

コンピュータサイエンスにおいて、最も中心的な問いのひとつが、与えられた関数(グラフ)を計算するための最も効率のよいアルゴリズムは何か?と言う問題である。これは、ひとつには「P=?NP」問題に集約される。この課題に対して、ロジックからのアプローチとしては、次の2つが考えられる1.与えられた命題論理の体系に対し、その体系では多項式サイズの証明が存在しないような定理群を発見する2.与えられた2つの命題論理の体系が相対的にどちらの方が証明効率がよいか本研究においては、タブロー法とレゾリューション法の証明の複雑さに関して研究を進めた。この2つの体系は、多くの自動証明機のエンジンとして採用されていることを追記しておく。その結果、1970年代から未解決であった、さまざまなタブロー法のバリエーション間の相対的証明効率の問題を完全解決した。まず、自動証明機のエンジンとして最も採用されているclausal tableauというタブローは一般的なタブローに比べて、superpolynomial-timeな遅延があることを発見した。また、resolution法はタブロー法に比べてexponentialのスピードアップがあると信じられてきたが、それは誤りであり、resolution法はタブロー法に比べて、擬似多項式時間分しかスピードアップしないことを論理的に証明した。一方、本研究においては、clausal tableau法にシンメトリーという推論を付け加えることによって、新しい体系SCRを構築し、その証明力についてさまざまに考察した。結果、resolutionでは短く証明できない多くの組み合わせ論的な問題がSCRでは多項式サイズの証明があることがわかった。SCRはタブロー法をベースとしているため、自動証明に応用することができ、これをGodzillaという自動証明機として実現した。
著者
新井 紀子
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

初等中等教育向けに、学校のICT機能のワンストップシステムの研究開発を行った。特に、学校のICT機能のうち、(1)ポータル機能(2)校務の情報化(3)教育の情報化(4)広報の情報化をワンストップで実現できるシステムNetCommons3.0の研究開発を行った。(3)の教育の情報化には、情報モラル・情報リテラシー教育だけでなく、作文・プレゼンテーション指導、基礎学力定着、グループウェアによる知識共有などを含む。