著者
後藤 航
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年,乳癌治療において腫瘍微小環境(TME)の評価が重要な役割を担っていると考えられるようになった.TMEには上皮間葉転換や腫瘍免疫応答など,癌細胞の悪性形質獲得に関わる変化が含まれており,TME制御が治療戦略の鍵と考えられる.非タキサン系の微小管阻害剤であるエリブリンは,TME調整作用などユニークな薬剤特性を有することが前臨床研究により明らかになっている.申請者はエリブリン耐性乳癌細胞株の樹立に成功し,耐性機序の観点よりエリブリンのTME調整作用について探究をすすめている.本研究ではエリブリンにおける腫瘍微小環境制御による新たな乳癌治療戦略を検証していく.
著者
長澤 伸樹
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

最終年度は、個人論文集刊行にむけた具体的構想を固めることを念頭にしながら、これまでの成果の取りまとめを中心に研究をすすめた。具体的には、1.前年に引き続き「楽市」の地域史的意義を問い直す視点から、(1)織田氏(美濃加納)、(2)後北条氏(武蔵世田谷・相模荻野・武蔵白子)の事例について、それぞれ関連史料の収集・調査研究をおこなった。また、2.中近世移行期における「楽市」の歴史的意義について、これまでの研究成果をふまえて取りまとめをおこなった。その中で「楽市」が、各大名領国の社会情勢や権力自身の支配理念に大きく左右されて成立・変化する性質をもっていたこと。領域支配上の課題解決にむけた合理的かつ現実的対策として、平和の確立や経済特区としてのあり方を一時的に可視化するための、いわゆる法令(文書)を発する大名権力自らの理想の概念であったことを明らかにした。同時に、幕藩体制下の地域社会における記録・評価・伝承という側面からも分析を加えた。その中で、近世において「楽市」はそもそも、社会秩序の変容や市町の存亡にかかわる特別な法令・空間としては認識されていないこと。一方、近世以降も社会的システムとして「役」が継続することから、その賦課を免れようとする在地では、諸役免除という記述の有無にのみ法令の価値を見出し、歴史的事実として書き留められる場合も「市日指定」「市町免許」の制札という形で単純化されていく姿を指摘した。
著者
城戸 康年
出版者
大阪市立大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
巻号頁・発行日
2019

アフリカトリパノソーマ症は寄生性原虫Trypanosoma bruceiを病原体とする人獣共通感染症であり、ヒトに生じるアフリカ睡眠病(Human African Trypanosomiasis; HAT)は致死性疾患である。HATは血流のみに感染が限局している急性期と、数カ月から数年の経過で中枢神経へ進展する慢性期の2病期に大別されるが、ヒト慢性期の起因原虫はT. brucei gambienseという亜種である。しかし、家畜伝染病予防法の規制により日本で入手できるT.b.gambienseは限られ、マウスへの感受性が悪く、他の動物種を用いた実験も不可能である。2020年度には新型コロナウイルス感染症の流行拡大のため、研究代表者らはコンゴ民主共和国への渡航は出来なかったが、2019年度の本国際共同研究で実施したMastomys natalensis (African ratと総称されるサブ・サハラの固有種であり実験動物として供される) を用いた慢性期感染モデルの再現性の確認と解析を海外共同研究者と実施した。この慢性期モデルでは、数日ごとに末梢血中のトリパノソーマ原虫が出現と消失を繰り返し、慢性期の病態が完成し、実際に中枢神経へ病原体が浸潤することが確認できた。これはヒトの慢性期における病態と極めて類似しており、この感染実験系は良好な慢性期病態モデルであることがわかった。2020年度は、T.bruceiの急性期モデルに効果を示すアスコフラノンおよびその誘導体を用いて、慢性期モデルでも治療可能かどうかを検証したところ、急性期モデルでの効果と同等の効果が得られることが示唆された。
著者
徳永 文稔 小出 武比古
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

新生蛋白質が正しい折れたたみを受けることは、蛋白質の正常な機能発現のために必須である。折れたたみ異常(ミスフォールド)蛋白質が分泌されると生体にとって有害になるので、これらは分泌前に識別され、小胞体内腔からサイトゾルへ逆行輸送したのちにプロテアソーム分解される。この細胞機構は小胞体関連分解(endoplasmic reticulum-associated degradation、ERAD)と呼ばれる。我々は、各種ミスフォールド蛋白質のERAD機構を解析し、小胞体マンノシダーゼIによるN型糖鎖のプロセシングがERADに重要であることを明らかにしている。本研究で我々は、東京都臨床研の吉田らによって発見された糖蛋白質に会合する新規ユビキチンリガーゼSCF^<Fbx2>(Skp1-Cu11-Fbx)複合体のERADにおける役割を解析した。その結果、Skp1との結合部位であるF-box領域を欠く変異体(Fbx2ΔF)は、優性ネガティブ変異体として働き、典型的なERAD基質蛋白質であるのう胞症繊維症のCFTRΔ508Phe欠失変異体やT細胞受容体α鎖のERADを抑制することを見いだした。さらに、CFTRΔ508Phe欠失変異体はプロテアソーム活性抑制時にアグリソームと呼ばれる核近傍セントロソーム部位に凝集体を形成することが知られているが、正常型Fbx2を共発現するとCFTRΔ508Pheのアグリソーム形成率が減少することが分かった。一方、Fbx2の欠失変異体はアグリソーム形成の抑制効果はなかった。これらの結果から、Fbx2は小胞体型のN型糖鎖をもつ蛋白質がサイトゾルに暴露された際にこれらの蛋白質を折れたたみ異常と認識し、ユビキチン・プロテアソーム分解に導くユビキチンリガーゼであることが示された。
著者
塩見 大輔
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

DNAの塩基配列を使えば,何らかの機能性を持った分子を望みの配列様式で並べて,分子集合機能系を構築することが可能になる.本研究では,一本鎖DNAと小分子の核酸塩基誘導体との組み合わせで,分子スピン集合系を構築することを提案した.いくつかのモデル系について,分子力場計算による配座探索と構造最適化の計算により,最安定構造を明らかにした.アデニンとシトシンの代わりにそれぞれ,ジアミノトリアジンとイソシトシンを導入(置換)したニトロニルニトロキシドラジカル誘導体を用いた系では,一本鎖DNAと小分子の組み合わせであっても,擬似的な二重鎖構造は保たれることがわかった.
著者
高島 葉子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.123-137, 2001

はじめに : 昔話や伝説に老婆の姿で登場する「山姥」は, 人を取って喰う恐ろしい妖怪であるが, 同時に, 作物の豊作や狩猟の獲物さらには食物や富など様々な恵みをもたらす豊饒の女神, あるいは福の女神でもある。このような豊饒の女神としての山姥が, 縄文時代に崇められていた古い母神の性質を受け継いでいることは, 吉田敦彦によって指摘されている。筆者も, 山姥の起源が遙か縄文時代の狩猟神にまで遡る可能性があることを別の機会に指摘した。本論では, 吉田があまり論じていない狩猟神としての山姥を対象とし, 狩猟民文化の伝統の強く残るシベリアや北米の北方諸民族の女神と比較することによってその原形を考察する。……
著者
三上 雅子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.109-121, 2002

1963年の東宝による『マイ・フェア・レディ』(My Fair Lady)初演の興奮を, 小藤田千栄子は以下のように記す。「マイ・フェア・レディ」の日本初演は1963年9月1日から29日まで, 東宝劇場において行われた。初日の開演は午後3時―。当時のミュージカル・ファンは, どんなにかこの日を, そしてこの時を待ちこがれていたことか。この日のことを思うと, 私は今でも, いささか上気してくる。それは新しい歴史の始まりであり, ミュージカルというジャンルに向けての興奮の船出であった。(中略)客席にみなぎる静かな興奮。もうすぐ「マイ・フェア・レディ」が, "本格的な"ブロードウェイ・ミュージカルの「マイ・フェア・レディ」が始まるのだという興奮。私は三階席だったけれど, 見まわすと東宝劇場は観客の期待をのみこんで, もう限界までふくれあがっているようだった。……
著者
大黒 俊二
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.55-86, 2002

一 : 説教史料 : 「声の影」 : 西欧中世史研究において、説教記録のもつ豊かな可能性が広く知られるようになったのはここ二〇年来のことである。説教記録は近年ようやく、単なる記録を脱して歴史家にとっての史料としての地位を得たといってよい。それ以前、説教記録は教会史家や思想史家、ときに文学史家が興味を示す程度であり、研究者も修道士など教会関係者がおもであった。それが今日では、説教それ自体が中世最大のマス・コミュニケーション手段として専門研究の対象となるとともに、経済史、心性史、女性史、民衆文化史、美術史などの研究者が素材を求めて説教史科に赴くようになっている。……
著者
原田 伴彦
出版者
大阪市立大学
巻号頁・発行日
1962

博士論文
著者
山口 悦子 村尾 仁 糸井 利幸 森本 玄 種田 憲一朗 森口 ゆたか 由井 武人 村上 聡 北村 英之
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

今日、患者安全では、事故から学び改善する態度を、組織的に奨励すべきであることが強調されているが、そのような態度や文化を醸成するために効果的な教育は確立された方法が少ない。事故からの学びを継続的な改善活動へと発展させる「学習する組織」作りには、職員の主体性や創造性の育成も要求される。そこで本研究は、職員が協働的・主体的・創造的に患者安全の課題に取り組む態度や能力を培う学習支援の一つとして、芸術の患者安全教育への応用可能性を探索した。また、芸術的手法を応用した教育プログラムを研究に参加した施設が協力して開発・実施し、これらの芸術を応用した教育プログラムが安全文化に及ぼす影響や効果について検討した。
著者
高島 葉子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.835-850, 1996

はじめに : ヨーロッパにキリスト教が広まるとともに, 土着の異教の神々の多くは悪魔に転落させられ, 排除されていった。「大いなるパン神は死せり」という言葉どおり, パン神も悪魔として追放された。……
著者
弘田 洋二
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.641-665, 1996

はじめに : 文部省の提唱によって、スクールカウンセラーを学校に配置することについての制度化が推進されつつある。勤務形態および心理臨床的な専門家をどのように選定するかという重要な基準は曖昧なままに、各都道府県の公立学校はスクールカウンセラー制度の導入に向けて動き始めている。……
著者
中井 孝章 松島 恭子 篠田 美紀 長濱 輝代 三船 直子 小伊藤 亜希子 清水 由香
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、幼老統合ケア及びそれに基づく世代間交流の効果を、3年間にわたって大阪市内の特定地域での多世代交流会、高齢者と子どもの複合施設(宅幼老所)、地域住民の居場所、認知症高齢者施設において総合的に調査研究した結果、子どもは生活習慣や他者(特に、高齢者)への共感能力が身につき、高齢者は生き甲斐と自尊心が生まれるとともに、母親の子育て支援に対しても社会的祖父母力を発揮できることが実証された。