著者
加茂 具樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、中華人民共和国の「議会」に相当する人民代表大会と、その構成員である人民代表大会代表の政治的機能を明らかにした。これまでの現代中国政治研究は、人民代表大会の活動、とくに人民代表大会代表の活動について、ほとんど関心を払ってこなかった。本研究は、そうした学問的な空白を埋めることができた。また、地方の人民代表大会代表に対する調査をつうじて、これまで政治的機能の実態が明らかではなかった人民代表大会代表が、選出された選挙区への利益誘導を目的として活動する実態を描き出すことに成功した。本研究をつうじて現代中国政治研究は、「議会」政治研究という新しい研究分野を見出すことに成功したかもしれない。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.1-20, 1995-06-25

情報化,グローバル化,不況の長期化が進むなかで,中間管理者の余剰感は増大してきた。しかし情報処理,国際業務処理などの中間管理者の能力は,益々重視されるようになり,またその能力発揮プロセスよりも,結果である業績が重視されるようになった。人事評価基準は,外界の状態と企業の状態との関数であって,万古不易のものはない。急成長企業では,自ら企業家精神を発揮し,新しい提案をし,実行する中間管理者が高く評価され,停滞している企業は,沈滞している部下に意識革命をおこさせるネアカな人間が,高く評価される。中間管理者の評価基準としての部下の育成は,日本の企業にのみ通用する基準であって,外国企業では通用しない。評価の公平性,公正性は,評価者,被評価者および,周囲の者によって納得されるとき,はじめて認められる。しかし,人間による人間の評価には,必ず個人的な偏りがあるから,複数上司の評価,敗者復活の制度が必要である。時系列的にみると,従来の成長期には,上司,その上の上司と,横からの人事評価が一般的なシステムであったが,現在は,人事部の評価が少くなってきた。何らかの理由で,会社の主流からはずれた専門能力のある中間管理者を,グループ大企業間を移動させ,その能力を最大限発揮させたり,あるいは,その専門能力の開発教育と同時に,ボラソティア活動を奨励し,人生観を変え,「人生再設計」を実行できるようにすることが,これからの中間管理者の新しい方向である。
著者
今口 忠政 李 新建 李 新建 申 美花
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、事業構造の再構築を「組織能力の再構築」として捉え、そのために必要な組織能力を明確化すると同時に、復活に貢献するコアとなる能力要因を明らかにすることが目的である。そこで、組織能力に関する文献研究、停滞傾向にある企業を組織能力の再構築によって復活する過程のケース研究を行い、日本の上場企業を対象として組織能力に関するアンケート調査を実施した。また、日中韓企業の組織能力比較を試みるために、IT企業群、中国企業、韓国企業を訪問してインタビュー調査を行い、日中韓企業の組織能力特性を定性的、定量的に比較した。
著者
榊原 寛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

二年目の平成21年度は,前年度の成果に加えて3つの研九行よっこ.一つ目は、PBNゲートウェイ間のネットワークを、首藤らによるOverlayWeaverというDHTベースの実装を採用した.昨年度のプロトタイプ実装では、10台程度までしかスケールしない設計であったのに対し、今年度は数万台単位でのPBNゲートウェイの接続も可能としている.今後は、PBNの想定する環境に最も適したDHTアルゴリズムの選定を行なって行く予定である.二つ目は、異種ネットワークノードにより構成されるオーバレイの管理APIの整備である.前年度は単一のオーバレイの利用のみ可能であったが、今年度のAPI整備により、任意の名前を持つ任意個数のオーバレイの作成が可能となった.異種ネットワークノードは、任意の数のオーバレイに参加可能である.今後は異なるオーバレイを結合させる際、どのようにアドレスやルーティングを変更するべきかについて研究を進めて行く予定である.最後は、仮想アドレスに関してである.昨年度のプロトタイプ実装では、仮想アドレスはスタティックなアドレス空間しか利用できなかったが、本年度の実装では、任意のアドレス空間を指定し、オーバレイネットワークのアドレスとして利用可能にした.また、異なるオーバレイが結合した際に発生しうる、アドレスの衝突の回避アルゴリズムについて考案した.
著者
村上 俊之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では, 機械システムによる人の動作支援制御の体系化を1つの目的とし, 電動自転車のパワーアシスト制御を外乱の切り分けアルゴリズムにより実現した. ここでは, 自転車のステアリングアクチュエータによる姿勢安定化アシスト制御, 走行駆動アクチュエータによる走行負荷低減アシスト制御に関して提案を行い実験的検証を行った.
著者
前嶋 信次
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.425-447, 1967-11

松本信廣先生古稀記念According to, Marco Polo, the Mongols, led by Nescradin, defeated an army of the king of Burma at Uniain (Yungch'ang Fu in Yunnan Province) and captured many elephants. Polo said that from that battle Qubilai Khan began to have elephants in plenty for his armies, though before he had none for the army. But, through the whole history of China, we can find no record of the use of elephants in warfare, except a king of Ch'u 楚 who used them to scare away the soldiers of Wu 呉 when the latters besieged his capital in 506 B.C. Besides, the Chinese sources concerning the battle between the Mongols and the Burmese in 1277 are not consistent with the account of Polo in various points. Therefore some scholars went so far to doubt or even to deny the veracity and credibility of the latter. The writer of this article compared the Chinese sources with the narrative of Polo and reached the conclusion that the both are supplemental to each other and not always incompatible.
著者
橋本 増吉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.499-527, 1938-04
著者
加藤 万里子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本年度は光星の光度曲線の理論を確立した。まず可視光や赤外線など長波長では、光球のすぐ外のプラズマから放出される自由-自由遷移により放射を私のoptically thide wind理論を用いて計算した。横軸を対数でとりと、白色矮星の重さや波長によらいない普遍則があることがわかった。ただしx線や紫外線の光度曲線は光球からの異体輪射でわれによく近似できる。この普遍則は折れ曲がりのをあらわすパラメタ1つで体系化できる。この理論をいくつかほ新星の光度曲線と詳しく合わせることにより、精密に連星にパラメタを決定することができることを示した。これまでの研究の総まとめとも言える。また、2006年2月にへびつかい度RS星が20年ぶりに爆発した。今回は日本の観測グループを組織して緻密なy光度曲線を得ることに成功した。これはガス円盤の存在をはっきり示している。そこで白色矮星に照らされたガス円盤と伴星を含むモデルを計算し、光度曲線を合わせることにより、この星がI_a型超新星への迄すじの王期に位置することを示した。また今回はじめて軟X線の光度曲線が得られたのでそのモデル計算も行った。軟x線が長く続くことは、白色矮星の上にヘリウム層がつもっていることそ示していることがわかった。つまりこの星はIa型超新星の親天体である。さらに昨年にひきつづき、超エディユトン光度の理論研究をすすめることができた。観測データのそろった5つの古典新星につき、吸収係数の減少を考慮した光度曲線モデルを計算し、新星のピークを再現することに成功した
著者
鈴木 泰平
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.227-240, 1962-12

間崎万里先生頌寿記念It is a very well known fact what a great influence the French Revolution had on the formation of the German State and her people. However, it may be stated that there were practically no one who understood sufficiently the historical significance of the progress of the Revolution. During this period, it is said, that Goethe alone understood the world historical significance of the Revolution, but so far as his works are concerned, one cannot always say that he really had complete understanding. After all, for Goethe, it might be stated that, outside of pursuing the humanities, he had almost no interest in the historical events of his time. To understand and evaluate sufficiently the Revolution and its historical significance, it was necessary to wait for the emergence of the German Romanticism.
著者
佐藤 道生 住吉 朋彦 堀川 貴司 陳 捷 山田 尚子 島田 翔太 山崎 明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本漢籍の中で明治期以降日本国外に所在を移し、現在も国外の公共機関に所蔵されるものについて書誌調査を行なうことを目的とする。2008年度から2011年度にかけて調査を実施した国外の日本漢籍所蔵機関は8箇所で、その内、アメリカ合衆国・カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館所蔵の日本漢籍については目録を編集し、貴重書の解題を作成した。
著者
西山 繁 中村 和彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は有用な薬剤の開発に資することを最終目的として、有機電気化学的手法とタリウム(III)塩の双方からフェノール酸化反応を検討し、これを鍵反応として天然有機化合物を含む生物活性物質の合成を行ったものである。以下、その概略を述べる。ユーリパミド類の合成海洋生物由来の環状イソジチロシン類ユーリパミドA、B、Dの合成を行った。鍵となるジアリールエーテルの構築は、硝酸(III)タリウムを活用した。ユーリパミドAの構造訂正を含めて、目的を達成することが出来た。さらに、ユーリパミド誘導体に新たな抗MRSA活性を見出すことが出来た。現在さらなる高活性の誘導体を求めて研究を続けている。ジャーマクレンDの臭素化反応ジヤーマクレンDに電極酸化により発生させたブロモカチオンを反応させ、主生成物として2環性化合物が得られることが判明した。ヘリアヌオール類の合成と生物活性独自に開発したフェノール類の陽極酸化で生成するスピロ化合物か6クロマン誘導体への変換反応を活用して、ヒマワリのアレロパシー物質ヘリアヌオールEの構造訂正を含めて全合成を達成した。また、本合成における転位反応の選択性は芳香環上の置換基の立体化学と電子的性質に依存することを見出した。合成途上で得られたクロマンおよびベンゾオキセピン誘導体について植物に対する成長阻害活性を調べたところ、より単純な構造についても天然物と同様の活性を有することを明6かにした。海洋生物由来のスピロイソキサソール型天然物の合成と反応スピロイソキサソール骨格の合成を陽極酸化と水素化ホウ素亜鉛の還元による改良合成法を確立するとともにスピロイソキサソール環の選択的な開環反応を行い、新しいアエロプリシニン-1の合成を達成した。カラフイアニンは、ジエノン部分にエポキシ環が存在するスピロイソキサソール関連物質であり、本研究において従来提唱されていた構造を訂正するとともに全合成を達成した。ベルベナカルコンの合成神経芽成長促進因子活性化作用を示す植物成分ベルベナカルコンの合成において、混合ハロゲン化フェノールの陽極酸化反応を鍵反応として全合成を達成した。さらに、この全合成の知見を活用して活性試験を行い、新たな知見を得た。
著者
松本 淳
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の知見や結論として主に4点挙げられる。第1に、選挙における候補者の政策公約について、多くの政党では同じ政党の候補者同士でも各争点に対する主張に概ねばらつきがあり、また二大政党の候補者間にみられる主張の違いの程度が選挙区によって大きく異なっている。よって、候補者の主張は選挙制度改革以降も明確に政党ごとにまとまっておらず、各選挙区での二大政党間の対立は横断的にみれば一様ではなく、政策的には二大政党化が選挙区レベルにまで浸透していないといえる。第2に、多くの選挙区では候補者間で主張の違いがありながらも、それが投票参加に影響していない。先行研究として、有権者は支持候補の当落がもたらす利益の得失差をより大きく認知するほど投票に行くとの議論や、そうした認知上の差がわが国では小さくなっているとの指摘があるが、これらを踏まえれば、候補者の議論が有権者に正確に届かず、認知上の差を生まないことが、上記結果に至る一因と考えられる。第3に、衆議院の委員会でみられる議員の主張は自らの立場を明確に示すものばかりではなく、また委員会採決の際、議員は概ね政党単位で結束して行動するため、選挙では政党内でばらつきのあった主張がこの時点で収斂をみることになる。よって、その是非は別にして、委員会審議では、選挙での候補者の主張や有権者認知の内容とは異なる事態が生じることがある。第4に、有権者が公約を認知する際に誤解が生じていること、また公約に対する有権者の信頼や関心の低下が指摘され、有権者の多数は自らの意思が国の決定に反映されていないと考えている。この背景には、上述の通り、選挙で多くの候補者の主張が曖昧か、政党ごとに収斂していないために有権者にわかりにくく、そもそも必ずしも有権者の関心に即す内容等ではないこと、また議会での上記のような行動や選挙時との主張のギャップが上記有権者意識に影響していると考えられる。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.110-162, 1992-10-25

今回のサーベイでは,個性的な問題把握・対処策・経営管理を遂行している企業が高業績をあげていることが解った。他社にまねられない強み,それをベースにした競争優位の戦略をたて遂行しているからである。若い人は自分の興味のある問題には驚異的なエネルギーを出すからこれを組織化する(ピア),人間の尊厳と企業の価値観との共通部分を大きくするためにpeace of mind事業に特化する(セコム),テナントを入れると,同時にing情報を入手して不安定なファッション性と財務の安定性を統合する(パルコ),コンピュータに回線をつなげるのではなく,回線にコンピュータをぶらさげるのだという,不連続的飛躍が必要である(インテック),social communication gift businessという友情ビジネスを原点にし他社にまねられない著作権の強みを発揮する(サンリオ),若いクラフトマンの養成と年とったクラフトマンの技能のデジタル技術化とによって競争力を強化する(佐々木硝子),日本で急増した鉄屑を原料にして大型電気炉による薄板生産に注力し,NIESにまけない価格で薄板を供給する(東京製鉄),社長が調理場をまわり,管理職のファイルをつくって顔を憶えファミリー感覚を浸透させる(帝国ホテル)。以上の企業は巨大企業ではない。社長の個性が企業文化の中に深く浸透し,企業に強い個性ができ,これが他社にまねられない強みになっている。一方規模の大きい歴史の旧い装置産業は生産技術の改善に力を入れ競争力をつけようとする。従来のノウハウを生かしたセンサーを用いて光ファイバーの自動連続生産に力を入れる(古河電工),同じ生産設備を効率よく稼働させるために新しい触媒の開発に力を入れる(三井東圧)。さらに人事評価に独自性を見出す企業もふえてきた。業績考課と能力考課に分け,前者では上司と部下との意見をフィードバックさせるが後者ではフィードバックさせない(栗田工業),成果,役割行動,能力の3つで絶対評価するが,役割評価はグループ内で一生懸命やって成果が上らない場合の補償措置とする(横浜ゴム)。さらに素材産業はいわゆる盛田論文に反論し,旧来からの経営の常識を強調する。短納期,低価格,高性能が競争力の源泉である(三井ハイテック),よい製品を安く社会提供するのが製造業の使命(住友軽金属)という。
著者
丸山 哲夫 梶谷 宇 長島 隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

昨年度に引き続き本年度は、哺乳類胚発生のメカニズムならびに胚の個体発生能を含めた質的ポテンシャルを、非侵襲的に解明し評価することを目的とした。そのために、マウス胚発生過程において培養液中に分泌されるタンパク質のプロファイル(secretome)を明らかにし、そのデータベース構築を目指すとともに、agingや機械的受精操作などがsecretomeにどのような影響を及ぼすかについて検討するための実験システムの整備を行った。まず、secretomeと胚発生・発育の関連を検討する際に、十分な胚盤胞到達率が得られなければならない。一方、プロテインチップ解析に供するためには、出来るだけ少量の培養液で行う必要があり、これは胚発生・発育にとって厳しい環境となる。このように、両者は相反するため、至適条件の確立が極めて重要である。そこで、培養液の変更など種々の検討を行った結果、60μ1の培養液量で約90%の胚盤胞到達率を再現性良く得られる培養システムを確立し、引き続いてその実験システムにより得られた各時期の培養液をプロテインチップ解析に供した。その結果、コントロール培養液に比較して、胚存在下の培養液では、複数の特異的蛋白ピークが検出され、また時期に応じてそのプロファイルは変化した。これらの一連のsecretomeのプロファイリングと胚盤胞到達率との関連を検討するとともに、今回検出された複数の特異的蛋白の同定を目指し、MALDI/TOF-MS質量分析計への解析に供するに必要な実験システムの更なる構築を行った。昨年度より引き続いて本年度得られた上記の成果は、マウスのみならずヒト胚のqualityの非侵襲的評価システムを確立するうえで、重要な基盤データになると考えられる。
著者
梅津 光弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度は3か年におよぶ研究の最終年として、これまでの研究成果をふまえた日米の比較およびまとめをおこなった。4月には日本経営学会関東部会,8月にはアメリカ経営倫理学会、9月には日本経営学会大会、慶應義塾商学会例会、10月にはアメリカ企業倫理担当者会議においてそれぞれ研究発表を行った。日本における不祥事にはいくつかのパターンが見られるが、その誘因としては組織内における営利を最優先する組織文化やそのなかで慣例とされている多くの業務遂行方式があげられる。そうした慣行が放置されると現場の従業員は倫理や法令遵守よりも営利を優先して当然とする錯覚に陥り、無自覚なまま不正行為を行い続けることになる。また不正行為がはびこる職場ではコミュニケーションの悪さが目立ち、管理者に対する隠ぺい工作などが行われ、現場と管理者との認識や価値観の乖離を招く傾向がある。欧米においてもこのような傾向は見られるものの、法令や倫理を経営トップが重視する方針が明示されると、従業員はそれに従う傾向があるのに対し、日本の企業においてはより現場にちかい監督者やその部署の風土、同僚の影響などが大きな要因となる。こうした、日本的な組織の特徴を考えると、法令遵守や契約を重視する企業倫理プログラムよりも、価値共有を浸透させる組織内制度の構築が重要であることが分かる。本研究の成果として、日本の組織における組織内不正行為の防止およびその再発防止策としてはリーダーシップの重要性や細かいルールの策定もさることながら、より現場に密着した組織文化の構築や、分かりやすい原則を徹底することが重要かつ効果的な施策であると結論付けることができる。ここ数年、日本の企業においても企業倫理プログラムを導入するところが増加しており、以前に比べると改善が見られるものの、法令遵守を強調する倫理プログラムが多く、また一部の企業では表面的な制度の導入にとどまり、組織内における価値観の共有、浸透・徹底が不十分である。また現場に対する教育・訓練野実施も不十分である。今後は日本の企業をはじめとする各種の組織において、より自発的な浸透への努力がなされるべきであり、そうした能動的な倫理や法令遵守にかんする理解と取り組みなしでは、真の意味での再発防止にはつながっていかない。今後いっそうこの分野における研究と日本的な組織風土にあった制度化のイノベーションが求められている。
著者
上村 大輔 有本 博一 吉田 久美 北 将樹 大野 修
出版者
慶應義塾大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

自然界での生物現象から真摯に学び、特異な生態系でくり広げられる生物現象を「生態系ダイナミズム」という視点で着目し、現象に関与する切れ味の良い有用天然有機分子の探索を試みた。また、新規化合物の単離・構造決定のみで満足することなく、化合物の展開利用までを視野に入れた姿勢で化学合成と生物学的意義の解明を目指した研究に取り組み、複数の重要化合物の発見及びその機能解明を達成した。本研究により、サンゴ幼生誘引物質や哺乳類毒の解明等これまで未解明であった現象に関与する物質を解明するとともに、関連科学分野への波及性を発揮する新規天然有機化合物の発見を導くことができ、生物分子科学の新領域を創成した。
著者
柳田 利夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.401-415, 1992

一 はじめに二 「梨子盗難事件」三 スペイン側の抗議四 神奈川県裁判所の回答五 むすび
著者
大橋 裕太郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

「理科離れ」と呼ばれる理科や科学に対する若い世代での興味・関心の薄れの問題に対して、筆者はサイエンスコミュニケーションのアプローチから問題解決のための試みを行った。サイエンスコミュニケーションとは、最先端の科学を市民へ紹介し、理解を促すことで社会全体の科学への理解促進を目的とした活動を指す。近年、博物館や科学館などの文化施設、さらには野外学習の場では、ITを利用したサイエンスコミュニケーションを支援する試みが盛んに行われている。筆者は、自然や理科に楽しみながら親しむことができ、真正性がある学習の場として水族館の教育的価値に着目し、水族館におけるITを利用した学習環境デザインを行った。神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館と共同で、携帯端末を利用した映像ナビゲーションシステムのアプリケーションを開発し、2008年5月3日から6日の4日間にわたって来館者に対して実証実験を行った。システムの利用後に、満足度や操作性、内容やネットワークに関する質問紙調査を行った。質問紙調査の結果から、システムの操作性やコンテンツに対して好意的評価を得た。特に「システムが観察に役立った」、「システムによって知識が深まった」など、学習効果に関する質問項目に肯定的に回答した利用者数に有意な差を確認することができた。その他、利用者の会話によるプロトコル分析から、利用者の観察行動の特徴を抽出した。利用者は端末のディスプレイを他者と共有することで相互的な気づきを促進していることが分かった。実証実験中にアクセスの集中などにより、ネットワークの接続に問題が発生したことがあったため、この点は今後の課題である。