著者
藤井 千枝子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

遺伝医療においては、遺伝子診断が可能となっても、治療法が確立されていない疾患がある。遺伝子診断によって患者は、疾病に罹患する予測が立ち、それによる就職や、保険加入時による不利益が起こることが危惧されている。新しい医療技術の発展に伴い、医療現場でも、新たに様々な問題が生じるであろう。入院患者と多くの時間を共有する看護師が、遺伝に関する理解を高め、患者をどのように擁護するかは、今後の遺伝医療の発展の中で重要な鍵となる。患者の療養に関する援助を行うためには、遺伝に関する知識が不可欠なものとなる。現在、癌など、臨床現場の病名告知は、告知前に患者家族と相談して本人へ伝えることが多い。しかしながら遺伝子疾患に関連する告知は、本人だけでなく、その家族の病名診断となりうる。また、家族は、法的な家族であっても、生物学的な家族とは限らない。家族関係の告知ともなりうる。このような医療の進歩の中で、看護は、ケアの倫理を基盤とした患者支援が益々重要となる。本研究は、看護教育において、遺伝医学をどのように導入するかを明らかにすることを目的とした。特に、遺伝医療の発展と疾患に伴う社会的問題、看護の役割について文献レビューおよび国内外の調査により、検討した。その結果、今後の看護基礎教育においては、遺伝に対する理解と、偶発的危機状況にある人々を支援するための看護を構築していくことが必要であることが明らかになった。これらの背景から、看護の遺伝学の基盤となる教育としては、(1)分子生物学の基礎、(2)遺伝と疾患;ゲノムプロジェクトからポストゲノムの時代へ、(3)人々の多様性の意義(生物として、社会として)、(4)集団遺伝学、(5)環境と遺伝、(6)危機理論・危機介入、(7)患者・家族の支援、(8)遺伝と倫理、(9)遺伝看護学の可能性と課題に関する内容が必要と示唆された。
著者
西村 義人
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.125-149, 1996-03

100集記念号I. はじめにII. モラルのダイナミックスの一般理論の概念III. 希望の責任の観念史 : モルトマンとメッツIV. モラルの動力としての希望 : マッコーリーに即してV. 希望と,罪・恩恵・謝恩 : マッコーリーとフレッチャーVI. むすびIn this paper, the writer is presenting a general theory of moral dynamics. "Moral dynamics" herein means the ethics which deals with the forces acting on our moral lives such as motive force, motivation force, driving force, and energizing force. "General theory" represents a process for exploring what is common between Christian ethics and non-Christian ethics. The possibility of such a theory had been suggested in 1960's by several Christian theologians including Jurgen Moltmann, Johann Baptist Metz, John Macquarrie and Joseph Fletscher. Through the examination of the ethical theories of these theologians, I showed my theory that "gratitude for grace" and "hope" are the basic forces which act on our moral lives, and that these are also the concept of non-Christian ethics.
著者
河合 正朝 渡邉 妙子 中村 麻紀 伊藤 公久 赤沼 英男 廣井 雄一 廣木 順一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本刀用可搬式デジタル画像撮像装置を開発し、鎌倉時代から江戸時代までの75件の短刀と3件の太刀を撮像した。得られたデジタル画像には、従来の記録方法では困難であった、各流派および各時代を代表する日本刀地金の特色が細部に至るまで表示されていた。これまで、日本刀の鑑識家に独占されていた日本刀表面形態を一般に提示するうえできわめて有効な方法であり、当該方法による日本刀デジタル画像データベースの構築が可能であることが確かめられた。
著者
川口 春馬 倪 恨美
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

研究は、弱酸型モノマーと弱塩基型モノマー、骨格モノマー、架橋用モノマーの沈殿共重合により、pH応答性ヒドロゲル微粒子を作製し、粒子の物性のpH応答性を確認し、この粒子に担持された低分子物質をpHによって放出制御することを目的とするものである。pH応答性ヒドロゲル粒子は、受け入れ研究者(川口)が以前研究したもの(Kamijo, Y., et al., Angew.Macromol.Chem.,240,187(1996))であるが、Ni博士は川口らが提唱している重合機構に異議を唱え、同君独自のメカニズムを考案した。それによれば、系は重合が始まる以前から不均一系であり、存在する超微小液滴が重合粒子の核となるであろうということである。Ni博士はこれらの成果を二報の論文^*にまとめた。得られた両性ハイドロゲル粒子を低分子化合物の担体として用いその放出をpHで制御することの可能性を探るのが後半のテーマであった。まず、ハイドロゲル粒子の体積のpH応答性を調べるため、HClとKOHとでpHを調整した系で動的光散乱法により水中での粒径を求めた。弱酸性モノマーとしてメタクリル酸(MAc)、弱塩基性モノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレー(DMAMA)を等モル用いて得られた粒子はpH6付近で粒径が最小となり、そのときの粒径は、低pHあるいは高pHにおける粒径の約1/3であった。粒径が最小となるpHはDMAEMA/MAcによって変化させることができた。ただし、粒径はpH以外にイオン種、イオン強度にも依存した。こうして、希望するpH応答性を持ったハイドロゲル粒子を設計するための指針をまとめることができた。^*2報ともNi, H.-M., Kawaguchi, H., J.Polymer Sci., A.Polym.Chem.,
著者
松村 友視 五味渕 典嗣 杉野 元子 紅野 謙介 浅岡 邦雄 杉野 元子 紅野 謙介 浅岡 邦雄 高 榮蘭 小向 和誠 黒田 俊太郎 和泉 司 三浦 卓 大澤 聡 尾崎 名津子 柴野 京子 高島 健一郎 戸家 誠
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

慶應義塾大学三田メディアセンターに寄贈された改造社関係資料の整理・調査を行い、同資料のデジタル・アーカイヴ化に貢献した。また、近現代の日本文学・中国文学・メディア史・思想史を専攻する研究者による共同研究プロジェクトを立ち上げ、改造社にかかわる実証的な研究を行う他、20世紀の前半期に日本語の雑誌や書籍が、列島の「外」において、どのように受容され、どんな作用を及ぼしていたかを明らかにした。
著者
犀川 陽子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ミドリイガイの殻皮層を塩酸抽出したのちイオン交換、分子ふるい、逆相クロマトグラフィーなどを用いて精製を行い、主成分である青色色素が光、酸素に安定で親水性の色素ペプチドであることを明らかにした。また、アカクラゲ由来の刺激物質の探索を敏感マウスのくしゃみを用いた評価法にて行った。抽出物のヘキサン画分をシリカゲルや逆相クロマドグラフィーにて精製し、有意な活性を持つ脂肪酸を分離した。
著者
三井 宏隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.165-197, 1990

自分が見たいものを見る,読みたいものを読むといった個人の自由が社会の安寧,秩序に反するとの理由で制限,制約をうけることがある.「個人の自由といっても,それは無制限に許されるものではない」というのが,制限論者の主張である.この主張の是非はともかくとして,一応それを受け入れるとするならば,次に問題となることは,その線引きをどのようにするのか,ということである.特に人びとが「黒か,白か」をめぐって厳しく対立しているような場合には,線引きは難航する.その一例として,ポルノグラフィー(porunography)の問題があげられる.ポルノグラフィーをめぐっては,規制の強化を主張する人たちと,表現の自由,思想の自由を盾にして規制反対を唱える人たちの間で激しい論争が繰り返されてきた.そこに社会科学者が関与することになったのは,ジョンソン大統領のときに大統領諮問委員会(Commission on Obscenity & Pornography)が設置され,委託研究という形で専門家の意見が求められたことによる.その後この委員会は「ポルノグラフィーは成人にとって無害である」との結論を導き出し,それに基づく答申案をまとめて(Lockhart Report),大統領と議会に提出することになった.しかしながら,それを受けた当時のニクソン大統領及び議会は,「この内容はアメリカ国民の道徳心を堕落させるものである」と手厳しく批判したうえで,答申の受諾を拒否してしまったのである.こうして200万ドルの予算と2年間の歳月を費した委員会の報告は(1巻の要約と9巻からなる研究報告書),悪評のうちに世間から葬り去られてしまったのである.それと同時に,社会科学者(心理学者,行動科学者)はその研究成果に基づいて社会政策の立案に参画するというまたとないチャンスをフイにしてしまったのである.本稿では,大統領諮問委員会の答申が何故このような結末を迎えることになったのか,この種の社会的争点の解決に心理学の手法を適用することが果して妥当であったのか,そこから得られた知見は一般の人たちにどのように受けとめられたのか,といった問題について,この諮問委員会(Lockhart Report)の活動を辿りながら考えていくことにする.
著者
堀田 耕司
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

脊索動物の形態形成過程を細胞レベルで理解するために、本研究では、個体を構成する細胞数が少なくシンプルな体制をもつホヤを用いて個体まるごとの1細胞レベルイメージングを行った。ホヤ幼生ひのう部における新規末梢神経ネットワーク構造の3Dイメージングや尾芽胚の3Dコンピュータモデル化、および神経管閉鎖過程の3Dライブ(4D)イメージングを行い、ホヤ胚発生におけるさまざまな形態形成過程を細胞レベルで明らかにすることができた。
著者
佐藤 正幸
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.145-171, 1974

論文序(1) 説明の論理構造的側面 (a) 演繹的側面 (b) 確率的モデル(2) 説明の経験科学的な側面(3) 説明の実際的な側面結びDuring the past three decades, many philosophers and historians have been occupied with the "Analytical Philosophy of History", concentrating on the problem of historical explanation. The work as it has been carried on has yielded much fruit particularly by helping to elucidate the nature of history and historical writing. Being a student of history, it has been to my regret that the above has been primarily restricted to the realm of philosophical concern. And those few historians who have recently shown an interest in the philosophical problem as related to history have moved too rapidly in applying philosophical conclusions to the analysis of their own discipline ; at the cost of systematic ivestigation and analysis, to which their own discipline is deserving. Given the present situation, I would suggest two alternatives in which the current problem could be dealt with. One is through the analysis of "historical imagination" which I believe in the long run is capable of regulating historical writing. The second approach being the "analysis of historiography from a theoretical point of view". While the two above disciplines have a complementary relationship to approach the multitude of problems surrounding the nature of history, this paper will concentrate on the second alternative, particularly as it is applied to those tasks within the confines of the application of theoretical discussion as it pertains to the analysis of historiography. Systematic theory of explanation to the analysis of history requires a three stage structure ; (1) logical stage of explanation, (2) empirical stage of explanation, and (3) actual stage of explanation. While the first stage gives itself to the purely logical or syntactical, which is given by the Hempel-Oppenheim's covering-law theory of explanation, It is in the second stage that the concept of "time" enters first, which because of it's nature, as related to the "law-statement", is divided into three different types; (a) law of succeession, (b) law of coexistence, and (c) law of precedence. It is a primary conclusion of this paper that the central problem is within the core of type (c), the law of precedence. NOTE: The above conclusion has two conditions, given that this law statement is supportable through, (1); the presented works of E. Nagel and R. Rudner; which conclude that this law statement can be reduced to the above (a)'s law statement. (2); That the explanations in this stage are admitted to as a scientific explanation and that these can be reduced to the first syntactical structure. In the concluding third stage, "the analysis of the actual work of history writing" is in my opinion primarily one of "stage reduction". This conclusion was reached following my examination and analysis of W. Dray's work, "Continuous-Series Explanation", to which various types of historical essays are included within the model. A model when given due consideration, in my opinion, reveals a logical analysis that lends itself creditably to the proposition that the third stage can be reduced to the first and second stage's. While many problems continue to plague the serious student of Historical Explanation, it is none-the-less the contention of this paper that far more thrust must be given to the endeavour of reaching the realm of "The Analytical Philosophy of History", a realm I might add which when reached however will provide the much needed light with which to explore the current dimly lit field of the "Theoretical Foundations of Analysis of History Writing for the Establishment of Historography".
著者
富田 広士
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

この研究プロジェクトは、研究計画調書および交付申請書提出段階では、民主化・経済自由化を軸に、1.スーダン・アフリカの角(エチオピア、エリトリア、ソマリア、ジブーティ)と2.エジプトの比較を行おうとした。研究分担として、1.を英国レッディング大学政治学科教授、ピーター・ウッドワード氏、2.を私が担当することになっていた。しかし、研究を開始して1年後の平成10年度交付申請書提出段階において、本務校の事務担当者より、研究組織上外国人を含めることはできず、また実際研究代表者1名による個人研究であるので、そのような形で研究を遂行してほしいとの指摘を受けた。そこで、日本学術振興会担当課に、交付申諸書記載事項の変更を届け出るべきか照会したが、その必要はないとの返答を得た。こうした経緯を踏まえ、平成10、11年度には、エジプトの民主化と経済自由化の研究に集中した。分担地域1.については、ウッドワード教授との研究レビューに止めた。研究成果報告書第1部は、エジプト革命以降サーダート政権までを中心に、従来発表した研究に加筆修正を施した。また第1部、「終りに」において、新たに、7月23日革命以後1990年代半ばに至るエジプトの政治過程を概観している。第2部は、研究計画調書で問題提起した、1960年代エジプトにおける経済自由化の萌芽に関する研究である。第8章を除く全ての論稿は、このプロジェクト期間中に調査あるいは執筆を行ったものである。第11章では、60年代前半のソ連・東欧における経済改革の影響がエジプトに及んだ経緯をある程度分析することができた。今後、エジプトにおける経済自由化の萌芽の問題を軸に、1960年代後半の出来事を追跡して、日本におけるエジプト研究の中で、一つのまとまりとオリジナリティを持った研究に仕上げるつもりである。
著者
石井 智弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,急性期ステロイドホルモン生合成の第一ステップでコレステロールをミトコンドリア外膜から内膜へ転送するsteroidogenic acute regulatory protein (StAR)の機能解明を目指したものである.ミトコンドリア標的シグナルを利用したStAR 蛋白自身のミトコンドリアマトリックスへの移動が,StARのコレステロール転送能に重要な役割を果たすことをin vivoで明らかとした.
著者
柚崎 通介 松田 信爾 飯島 崇利
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

補体Clqの球状ドメイン(gClq)を磯能ドメインとして持つClq/TNFスーパーファミリーが、シグナル分子や細胞外マトリックス分子として細胞外環境において非常に多彩な生理機能に関与することが近年注目を集めている。一方、Clq/TNFスーパーファミリーの中には脳内に主に発現するCblnファミリーとClq1ファミリーが存在するが、これらの分子の生理機能についてはほとんど分かっていない。私たちはこれまでにCblnファミリーのうちCbln1分子が、小脳顆粒細胞-プルキンエ細胞シナプスにおいて、シナプスの接着性と可塑性を制御することを発見した。Cbln1は海馬歯状回に線維を送る嗅内皮質にも発現し、他のメンバー分子Cbln2やCbln4も海馬や脳内の各部位に発現していることから、他の脳部位においてもCblnファミリーがシナプス形態調節分子として機能している可能性がある(Eur J Neurosci,in press)。今年度はClq1ファミリー分子群(Clql1-Clql4)の解析を進めた。Clql1は小脳登上線維の起始核である下オリーブ核に特異的に発現し、Clql2とClql3分子は海馬歯状回の顆粒細胞に発達期および成熟後も共発現する。これらの分子は何れもCblnファミリーと同様に同種・異種分子間にて多量体を形成して分泌されることを見いだした(Eur J Neurosci,2010)。これらのことからClqlファミリーもCblnファミリーと同様に、発達時や成熟後の脳においてシナプス機能に関与している可能性が示唆された。
著者
藤本 啓二
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

細胞表層にポリマーからなるシールド層を形成させ、さらに外側に種々のバイオアフィニティを提示させることにより多様な細胞からなる組織体を形成させた。次に組織再生を視野に入れた細胞の構造化に向けた表層改質条件の検討を行った。また、このアフィニティを利用して基板上に細胞を2次元あるいは3次元状に配列し、セルチップなどの技術への展開をはかるための基盤技術の確立を行った。また、リガンド・レセプター間結合を高め、細胞表層改質のために、リガンド固定化部位、光反応性部位、アフィニティ部位および解離性部位からなる多機能性ナノ分子(ポリマーナノツール)を作製した。これにより、細胞の移動性を光によって制御することができた。
著者
関場 武
出版者
慶應義塾大学
雑誌
藝文研究 (ISSN:04351630)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.5-24, 1993

松原秀一教授退任記念論文集一、 「佛語自在」、「佛學捷徑七ツ以呂波」二、 「英學捷徑九體伊呂波」「英字三體苗字盡」三、 「英字三體大日本國盡」、「横文字六大洲國盡」
著者
中嶋 敦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、芳香族有機分子ナノ集合体について、内部温度を制御した有機結晶や薄膜の電子物性を微視的に理解するための構造相転移現象を解明することを目的として研究を推進した。平成21年度は、孤立分子とバルクの橋渡しを実現する観点から分子の有限多体系に着目し、特に温度を規定した環境下で、その構造の秩序性を解明するための実験研究に取り組んだ。特に、有機金属クラスターをプローブとすることによって、表面上に形成される2次元自己組織化単分子膜(SAM)の2次元融解に関する成果を得た。アルカンチオールSAMにおいて注目されることは、2次元炭化水素鎖が表面上で「相」に対応する秩序状態をもつかという点である。この自己組織化したSAMの秩序性の挙動を明らかにするために、鎖長の異なる様々なアルカンチオールSAM基板を調製し、その表面上にバナジウム(V)-ベンゼン(Bz)1:2組成サンドイッチクラスター正イオンV(Bz)_2^+を10-20eV程度の入射エネルギーで打ち込み、蒸着されたサンドイッチクラスターの熱力学的安定性や配向特性を評価した。昇温脱離スペクトルの測定からSAMの炭素鎖長がC4からC22まで長くなるにつれて、脱離しきい温度が高温側にシフトし、ナノクラスターの脱離の活性化エネルギーは、C4-,C8-SAMで約60.0kJ/molであったが、C22-SAMでは、化学吸着熱に匹敵する~150kJ/molへと著しく増大していることがわかった。また、反射型赤外スペクトル測定から、C22-SAMのように鎖長が長い場合には、V(Bz)_2クラスターは蒸着時にSAM内に進入することによって捕捉されることがわかった。そして、室温以上まで固体基板上に固定される原理は、アルキル分子鎖の自己組織化に基づく秩序化によっていることを明らかにした。これらの成果を含めて、第四回公開シンポジウム(5/30-31、東京)、および、国際シンポジウム(1/7-9、京都)においてポスター発表を行ない、さらに、成果報告会(3/7-8、東京)において研究成果について講演を行った。
著者
清水 信義 浅川 修一 清水 厚志 佐々木 貴史
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

ヒトゲノム解読によって30億のDNA塩基配列から23,000余の遺伝子が同定された。しかし、機能が判明あるいは推定できるものは6割程度で残り4割の機能は不明である。ゲノムに潜む遺伝子の探索は未完成であくまでも暫定的であり、それらの中には機能を全く推定できない遺伝子が、我々の厳密な解析から1,000個以上存在することが判明した。申請者はこれら顔の見えない遺伝子を「カオナシ遺伝子」と命名しゲノムワイドに探索して300個を厳選し、ゲノム解読研究で培ったノウハウの総力を結集して、ゲノム構造の決定・mRNAトランスクリプトの確認・タンパク質構造の推定・比較ゲノム解析などを行った。特に、機能解析のきっかけを得るためにメダカをモデル生物として選択し、メダカWGSデータからメダカ型カオナシ遺伝子を同定した。メダカの発生過程は40ステージに分類されている。各ステージ毎に受精卵を100~1000個採取し合成したcDNAを用いて発生過程におけるメダカカオナシ遺伝子の発現量の変化を観察した。その後にメダカの胚発生をモルフォリノアンチセンスオリゴでノックダウンし形態形成の異常を観察した。その結果、現在までに130個のメダカ型カオナシ遺伝子に関して発生過程における遺伝子発現パターンおよび形態形成への影響などを分類することができた。このうち、60個の遺伝子に関しては発生過程で形態形成異常が確認された。
著者
清水 信義 浅川 修一 清水 厚志 佐々木 貴史 楊 浩 塩浜 愛子 小島 サビヌ和子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

カオナシ遺伝子を統合的に解析するために、慶應ヒト遺伝子データベースを構築し、メダカカオナシ遺伝子のノックダウン解析結果や初期胚における発現パターンによる検索を可能とした。さらにヒトカオナシ遺伝子を培養細胞で強制発現させた細胞内局在解析や、高効率なメダカ発現コンストラクトの開発を行った。タンパク質コード遺伝子のみならず小分子カオナシRNAを対象としてシーケンシングと解析を行った。