著者
最上 嘉子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.147-156, 1996-03-30
被引用文献数
2

この論文は, 学校現場における体罰を無くさなければならないという多くの声があるにも関わらず, なかなか無くならない現実に鑑みて書かれたもので, 体罰禁止の法律的な根拠, いくつかの代表的な裁判所の判断, および行政当局による指導例を紹介しながら体罰が無くならない背景について考察し, 体罰を根絶するための方策について論じたものである。特に, 体罰を是とする意見の解析にも論を進め, 学校現場の生の状況をも考慮し, 体罰は無くならないという結論を得ている。体罰が一向に絶えない大きな背景には, 家庭に代わって行うしつけ, 勝利を得るためのスポーツのハードトレーニング, 体罰の即時的効果への期待, 愛の鞭という解釈などがあり, また, 複数の児童生徒の間での人権問題, およびいじめ防止問題が絡んでいるために, 撲滅の困難さがある。しかし, 体罰の根絶は最大の目標であり, そのためには, 教師の職業上の心のゆとり, 人格向上のための援助などが必要とされる。
著者
卜部 敬康 佐々木 薫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.283-292, 1999-09
被引用文献数
1

本研究の目的は,授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校,33クラス,1490名を対象に質問紙調査が実施され,私語に関するクラスの規範,私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は,リターン・ポテンシャル・モデル(Jackson,1960,1965;佐々木,1982)を用いた。また,調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって,各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ,多私語群7クラスと少私語群8クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1)多私語群においては少私語群よりも相対的に,私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2)生徒に認知された教師の期待は,クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり,かつ両群間でよく一致していた。また,(3)クラスの私語の多い少ないに拘わらず,「規範の過寛視」(集団規範が私的見解よりも寛容なこと)がみられた。これらの結果から,私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の(1)および(2)から,教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく,授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され,結果の(3)から,生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら,彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。
著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.301-310, 2002-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川(1995)によって提案されているが,本研究ではその尺度の問題点を指摘し,学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに,その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを,学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に,学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は,精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが,モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として,どれか1つの学習観には大いに賛同するが,それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
笹屋 里絵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.312-319, 1997-09
被引用文献数
5

This study examined how children used facial and situational cues to infer others' emotions. The subjects were 4-year-olds, 5-year-olds, first-graders, third-graders, fifth-graders, seventh-graders, and adults, and each group consisted of 10 males and 10 females. Subjects saw Picture stimuli providing facial cues (Task 1), Videotaped stimuli providing situational cues (Task 2), Videotaped stimuli providing both cues depicting the same emotion (Task 3), and Videotaped stimuli providing both cues depicting different emotions (Task 4). In conflicting condition (Task 4), 4-year-olds relied solely on facial cues to infer emotion, but this preference decreased with age. Having reached the third grade, girls were integrating both facial and situational cues, whereas boys who relied on situational cues in the third- and fifth grades, did not integrate both cues until the seventh grade. The way to use the cues in Task 4 was related somewhat to a development of abilities to understand other's emotions from facial cue (in Task 1) and from situational cue (in Task 2).
著者
宮本 美沙子 国枝 加代子 山梨 益代 東 洋
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.206-212, 1965-12-31

この研究は子どものひとりごとについて,1.課題解決中の子どものひとりごとの発言数は,発達的にいかに変化するか。2.課題解決中そこに障害を導入すると,子どもがそれに気づいたあとひとりごとに変化が生じるか,という点を実験的に検証することを目的とした。課題としては,子どもがなじみやすく,遂行中の発言が自由でかつ実験者が困難度を統御しやすいという意味で,ピクチャーパズルおよび自由画を選んだ。子どもが課題遂行中,ピクチャーパズルでは途中で残り数片のうち3片を他のパズルの3片ととりかえ,自由画では子どもの必要としているクレパスを数本ぬく,という障害を導入した。2人を1組とし,そのうち1人を被験者として注目し,4・5・6才児計53名を被験者として実験を行なった。結果を要約すると次のようになる。1.子どもがピクチャーパズルおよび自由画という課題解決時において発した言語では,自己中心性言語が社会性言語をうわまわった。2.課題解決中の発言数は,自己中心性言語数では,5才が最も多く,4才がそれにつぎ,6才が最も少なかった。社会性言語数では年令が増すとともに減少した。3.課題解決中にそこに障害をいれると,子どもが障害に気づく前よりも気づいたあとでは,自己中心性言語が有意差をもって増加した。4.課題解決中子どもが障害に気づくと,気づく前にくらべて,自己中心性言語のうち問題解決的独語が有意差をもって増加した。問題解決的独語と非問題解決的独語との差には有意差があった。以上の結果結論を述べる。1.ひとりごとは,内言の発達における過渡的段階に生じるものとして,発言教は5才まで増大し,その後減少することが見出された。2.課題解決中そこに障害を導入すると,ひとりごとの頻度が増し,かつより問題解決指向的になることが見出された。したがって,本研究に関するかぎりでは,ひとりごとは,自分の行動を統制し,障害に対して問題解決指向的に働く機能をもつ,と結論づけることができる。
著者
森 一夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.p17-25, 1976-03
被引用文献数
1

物質観の発達をとらえるにあたって,まず幼児の物質観は素朴実在論的物質観であると措定する。これは外界に実在する物質を知覚されるとおりのままの固まり(mass)としてみて,物質の内的構造の把握にまでは至らないから,(1)物質の表面的属性だけで判断するために重さの概念は見かけの大きさに従属していて,したがって重量と体積とは概念的に未分化である。(2)自らの意識に反映されたとおりのままの物質としてとらえているため,欲求の度合に応じて物質の大きさの知覚に差異が生じる。このような基本的仮説に基づいて実験を行ったところ,次のような知見が得られた。1.3才児と4才児では大きい球を重いと判断する傾向が認められる。つまり幼児に関する限り,視覚が介在すると反Charpentier効率ともいうべき傾向が認あられる。これは幼児の場合,重量が見かけの体積と依存しているため,Charpentier効果に優先してこれと逆の結果が現われたものであろうと考えられる。
著者
小野 雄大 庄司 一子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.438-452, 2015
被引用文献数
5

本研究の目的は, 中学校と高校の部活動における先輩後輩関係の構造を明らかにし, また学年や性別, 部活動のタイプやレベルによって先輩後輩関係にどのような違いが生じているのか, さらに先輩後輩関係が, 部活動の活動内容や特徴によってどの程度予測されるのか明らかにすることであった。そのため, 全国の中学生と高校生711名を対象に質問紙調査を実施した。その結果, 中学生・高校生ともに1年生が最も先輩後輩関係を感じやすい立場にあり, 中学生では男子よりも女子の方が先輩後輩関係を厳しく捉える傾向にあることが明らかになった。また, 部活動のレベルやタイプ別の検討では, 競技・コンクール等で高いレベルで活躍する部活動や, 文化部よりも運動部において, 先輩後輩関係が明確になることが明らかになった。さらに, 部活動の方針や性格等が, 先輩後輩関係の各側面を高く予測することが明らかになった。
著者
三島 美砂 宇野 宏幸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.414-425, 2004-12-30
被引用文献数
2 2

小学校高学年の児童に, 1学期と学年末の2回, 「教師認知」と「学級雰囲気」についての調査を実施し, 教師が学級集団や学級雰囲気に如何に効果的に影響を及ぼすかということを検討した。因子分析の結果, 「教師認知」因子として, 「受容・親近」, 「自信・客観」, 「怖さ」, 「罰」, 「たくましさ」が, 「学級雰囲気」因子として, 「認め合い」, 「規律」, 「意欲」, 「楽しさ」, 「反抗」が抽出され, 重回帰分析の結果, 学級雰囲気と強い関連性をもっているのは, 教師認知因子「受容・親近」, 「自信・客観」の2つであることが示唆された。「受容・親近」は主に「意欲」・「楽しさ」の2つの雰囲気に影響を与えており, 早期よりその効果が顕在化していた。それに対し, 「自信・客観」は1学期にはどの雰囲気とも関連が認められなかったが, 学年末の学級雰囲気「認め合い」に正の, 「反抗」に負の大きな影響力をもつことが示された。
著者
斎藤裕
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

問題と目的 『内包量』とは「長さ」に代表される『外延量』と対置されるもので,「速さ」などが代表的なものである。前者は性質や「強さ」の量であり,後者は「大きさ・広がり」の量である。操作的な違いとして,外延量は加法性を満たすのに対し,内包量は満たさない点に特徴がある。内包量は2つの外延量の商で生み出されるもので,言わば「割合」である。内包量を理解するとは,1.独立性:全体量や土台量の多少に関係なく“強さ”として一定である,2.関係性:2つの量が既知の時に残りの“量”が求められる,3.操作性質:2つ以上の量を合併することはできない-非加法性,の3点を理解すると言えよう。麻柄は,「独立性」の理解を重視し,内包量教育実践の指標として,1)内包量は「全体量÷土台量」で算出されて初めて存在する量ではなく,初めから存在する量であることを強調すること,2)学習の初期には,土台量や全体量と異なる外延量によって暫定的に内包量を定義すること,の2点を挙げている(1992)。しかし,外延量的理解を促せば,「非加法性」に抵触してしまう。この理解は,単に「足せない」だけではなく,『平均』の理解にも関係する。『速さ』は“相加”平均もできないのである。また,内包量も多岐に渡る。松田らは「日常生活の中で経験豊富だから速さのほうが密度より概念獲得が早い」(2000)と述べているが,日常生活が内包量概念獲得に深く関与しているならば,各々の内包量概念は,どのような経験がなされているのかによって,その獲得状況に大きな差異が出てこよう。本研究では,被験者を大学生とし,内包量として「割合」「速さ」「温度」「濃度」「密度」を選び,それらについて“加法性”“平均”及び“関係性の理解(計算操作)”について調査し,彼らレベルにおいて「内包量」についてどのような理解状態にあるのか確認することを目的としたい。方 法 (1)実験の概要:被験者は,2大学保育福祉系学科(A公立大・B私立大)1年生(A;40名・B;60名)。被験者全員に調査問題が配布され,解答が求められる(20分程度)。 (2)調査問題:2種の問題群からなる。1正誤判断問題9問-加法判断3問〔重さ・割合・濃度〕,平均値判断6問〔外延量・平均値・濃度・速さ・密度・温度〕2「外延量の平均」及び「内包量;第1-3用法」に関する計算問題5問;1)外延量-平均2)割合:第1用法3)割合:第3用法 4)速さ:第2用法5)密度:第1用法結果と考察 (1)計算力:2大学で違いが見られた。A大学生は“割合第3用法”でも8割以上の正答率を示した。A大学生は計算力(関係性の理解)は高い。 (2)“加法性”・“平均”の理解:A大学生は「非加法性」3問でも高い正答率を示す。B大学生は全て約50%の正答率でしかない。「重さ」は“水に溶かす”問題であったため,彼らは『非保存的判断』を示した可能性もある。一方,“平均”はややB大学生の方が正答率は低いが,有意な差はなく,両大学生とも特徴的傾向を示している。それは「速さ」「平均の平均」の低い正答率である。これは,「速さ」が生活経験の積み重ねの結果として,特別な『外延量的理解』となっているからではないだろうか。「速さ」は所謂“平均の速さ”である。「平均の平均」も間違うことが象徴的である。「平均」とはいかなる量なのか・内包量としての「平均」値の理解をどう進めるかが,全体して「内包量の理解」の促進の課題であり,その検討を進める必要があると考える。