著者
原田 杏子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.54-64, 2003-03-30
被引用文献数
7

本研究の目的は,一般の人々による日常的な相談・援助場面の会話に注目し,「人はどのように他者の悩みをきくのか」を明らかにすることである。会話データから帰納的な分析を行うため,質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。データ収集においては,大学生の同年代・同性ペアによる実験的な相談・援助場面の会話を録音した。データ分析においては,<概念のラベル付け>から<最終的なカテゴリーの選択>へと至る4つの段階を経て,データからカテゴリーを生成した。その結果,他者の悩みをきく際の発言として,【推測・理解・確認】【肯定・受容】【情報探索】【自己及び周辺の開示】【違う視点の提示】【問題解決に向けた発言】という6つのカテゴリーが抽出された。生成されたカテゴリーを先行研究と比較すると,悩みのきき手が自分の体験を開示したり,問題を受容するよう促したりするところに,臨床面接や援助技法とは異なった日常的な相談・援助のあり方が見出された。これらのカテゴリーは,データに基づいた暫定的なものではあるが,今まで研究対象として見過ごされてきた日常的な相談・援助に実態像を与えるものとなった。
著者
松原 達哉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.37-44, 1966-03-31

子どもの就学は,おおまかに6才といわれるが,しかし,誕生日の違いで,実際に入学する年令は異なっている。ある子どもは6才Oか月で,他の子どもは6才11月で小学校1年生になる。そこで,本研究では,子どもを年少児群・中間児群・年長児群の3群にわけ,学力・体位・欠席日数・指導性について縦断的に比較検討した。年少児群は,6才0〜1か月,中間児群は,6才5〜6か月,年長児群は,6才10〜11か月で入学するものである。結果はつぎのようである。1.国語,社会,算数,理科などの知的教科は,平均して2〜3年間年長児群の方が年少児群に比較しですぐれている。しかし,3〜4年ころからその差異はなくなっている。2.音楽は1年間,図工は5年まで,特に,体育は,6年間年長児群が有意にすぐれていることがめだっている。3.身長・体重・胸囲・座高などの体位は,男女とも小学1年生から中学3年生まで,年長児群が年少児群に比較しですぐれている(ただし,女子の身長,座高は中学2年生まで)。中間児群は,両群の中位を占めて発達している。4.欠席日数は,小学1〜2年間は年少児群の方にやや多い傾向がある。5.学校委員およびクラブ活動の委員の人数は,4年生まで年長児群にやや多い傾向がある。
著者
成田 健一 下仲 順子 中里 克治 河合 千恵子 佐藤 眞一 長田 由紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.306-314, 1995-09-30
被引用文献数
22

The purpose of this study was to examine the reliability and validity of a self-efficacy scale (SES : Sherer et al., 1982) using a Japanese community sample. The SES comprised 23 items measuring generalized self-efficacy. The SES and other measures were administered to a total of 1524 males and females whose ages ranged from 13 to 92. Exploratory factor analyses were conducted separately for sex and age groups and the factor structures obtained from these were compared. The results revealed a clear one-factor solution for the sample as a whole. A similar one-factor structure was obtained across sex and age groups. The SES was found to have satisfactory test-retest reliability and internal consistency. The correlations of the scores on the SES with other measures, such as depression, self-esteem, masculinity, and perceived health, provided some supports of construct validity. Some evidences of the construct and factorial validity of the SES in the Japanese community sample were found.
著者
西川 一二 雨宮 俊彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.412-425, 2015
被引用文献数
15

本研究では, 知的好奇心の2タイプである拡散的好奇心と特殊的好奇心を測定する尺度の開発を行った。拡散的好奇心は新奇な情報を幅広く探し求めることを動機づけ, 特殊的好奇心はズレや矛盾などの認知的な不一致を解消するために特定の情報を探し求めることを動機づける。研究1では, 大学生816名を対象とした予備調査を行い, 50項目の項目プールから12項目を選定し, 知的好奇心尺度とした。次に大学生566名を対象とした本調査を行い, 予備調査で作成した知的好奇心尺度の因子構造の検討を行った。因子分析の結果, 各6項目からなる2つの因子が抽出され, 各因子の項目内容は, 拡散的好奇心および特殊的好奇心の特徴と一致することが確認された。2下位尺度の内的整合性は, 十分な値(α=.81)を示した。研究2では, 知的好奇心尺度の妥当性を, Big Five尺度, BIS/BAS尺度, 認知欲求尺度, 認知的完結欲求尺度と曖昧さへの態度尺度を用いて検討した。相関分析と回帰分析の結果, 拡散的好奇心と特殊的好奇心の共通性と対比について, 理論的予測とほぼ一致する結果が得られた。知的好奇心尺度の含意と今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
佐藤 寛 今城 知子 戸ヶ崎 泰子 石川 信一 佐藤 容子 佐藤 正二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.111-123, 2009-03-30
被引用文献数
1 11

本研究の目的は,学級単位で担任教師が実施することのできる,児童の抑うつに対する認知行動療法プログラムの有効性について検討を行うことであった。小学5〜6年生の児童310名を対象とし,150名が介入群に,160名が統制群に割り付けられた。介入群の児童に対して,心理教育,社会的スキル訓練,および認知再構成法を中心的な構成要素とする,9セッション(1セッション45分)からなる学級規模の集団認知行動療法プログラムが実施された。その結果,介入群の児童は統制群の児童に比べて抑うつ症状が大きく低減していた。さらに,介入群の児童は抑うつ尺度のカットポイントを超える割合が低くなっていたが,統制群ではカットポイントを超える児童の割合に変化は認められなかった。介入群の児童は,介入目標とされた社会的スキルと認知の誤りにも介入前後で改善が見られ,全般的な主観的学校不適応感も軽減され,抑うつや認知行動的対処に関する一般的な理解度が高まるといった効果が認められた。最後に,子どもの抑うつに対する心理学的介入プログラムの有効性や実用性を向上させるために必要とされる点について議論された。
著者
宇田光 市川哲 西口利文 松山康成 溝口哲志# 福井龍太# 有門秀記 渡邊毅#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 本シンポジウムでは,過去4回にわたってPBIS(ポジティブ行動支援:ポジティブ生徒指導)の理論と実践を中心に,我が国の学校現場でのポジティブで予防的な生徒指導の導入方法について検討してきた。 今回は,「PBISと人格教育に関する実践」という副題で合計4名の先生方からPBISと人格教育の理論と実践についてご紹介いただく。そして,ポジティブで予防的な生徒指導を日本の学校において導入する場合には,どのような形が効果的なのか,またどのような課題があるのか,引き続き考えていきたい。米国におけるA中高一貫校での「PBIS」と「人格教育」の実践市川 哲 PBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports:ポジティブ行動支援:ポジティブ生徒指導)とは,子供の適切な行動の増加を目的とし,スクールワイド,クラスワイドに行う「ポジティブで予防的」な生徒指導システムである(池田, 2014)。また,予防的支援の第1層,第1層で改善が見られなかった子供に対する第2層,第2層で改善が見られなかった子供に対する第3層の階層的支援からなる(Sugai, 2013)。 人格教育(Character education)とは,米国の子供が学校全体で市民(Citizenship)・公正(Fairness)・責任(Responsibility)・尊重(Respect)・寛容(Tolerance)等の価値概念(徳目)を10程度選択し,1つの概念を1つの単元として,幼稚園から高校まで繰り返し学習させるものである(中原,2017)。 発表者は2017年1月に米国ウィスコンシン州のA中高一貫校(以下,対象校)へ視察を行った。対象校は,視察時点で人格教育導入6年目(PBISも同時期に導入)であった。また,対象校はアメリカ全土で特に優れた人格教育に取り組んでいる学校の1校に選ばれており,人格教育とPBISに同時に取り組んでいた。本発表では,対象校における「PBIS」と「人格教育」の取り組みを紹介する。参考文献池田実(2014)「学校全体の行動教育(肯定的な介入と支援)」生徒指導士認定協会応用講座市川哲・池田実・渡邊毅(2017)米国における小中学校での「PBIS」と「人格教育」の実践に関する視察報告 平成28年度学校カウンセリング学会総会研修会Sugai,G(2013) すべての児童・生徒のためのポジティブな行動的介入と支援 日本教育心理学会第55回総会講演日本の小学校におけるSWPBIS松山康成 石隈(1999)は学校心理学の枠組みから,3段階の心理教育的援助サービスを提唱している。また文部科学省(2010)も,集団指導と個別指導を進める指導原理として,生徒指導事象を第1次から第3次的支援に分けて指導する必要性を示している。このようにわが国において多層支援の重要性は指摘されてきている。アメリカではこの多層支援はMTSS(Multi-Tier System of Supports)と呼ばれ、子どもの学力,行動などの様々な側面を多層支援でサポートしようとする取り組みが近年広がっている。その中でも行動面の多層支援として,PBISが着目されている。 私は,アメリカで取り組まれている PBIS の視察を2013年と2014年に2度行い(枝廣・松山, 2015),アメリカの学級で取り組まれている PBIS の実際を見た。アメリカにおいて数多くの実践研究が行われ支援効果が実証されているPBISであるが,日本ではまだ導入や展開といった動向は少なく,学校全体で取り組むPBISの実践例は僅かである。 そこで本研究では,学校全体でPBISに取り組むためにビジュアル版行動指導計画シート(松山, 2018)を開発し,それを用いて特別活動における委員会活動や児童会活動を通して全校児童を対象に実践を行った。具体的には,児童会活動において登校時におけるあいさつ回数の増加を目指した実践を取り組んだ。また委員会活動において清掃時間における残されたごみの数や大きさの減少を目指した実践を取り組んだ。この他,学校内3つの委員会活動において全校児童対象のSWPBISが実施された。各委員会,児童会担当の教員は,児童とともに行動指導計画シートを作成し、職員会議に提案,他の職員の協力を得ながら児童が主体となって取り組みを展開することとした。参考文献枝廣和憲・松山康成(2015)学校全体における積極的行動介入および支援(SWPBIS)の動向と実際 ―イリノイ州District15公立小学校における取り組みを中心に― 岡山大学学生支援センター年報 (8)27-37枝廣和憲・松山康成(2015)学校全体における積極的行動介入および支援の動向と実際 ―イリノイ州 District15 公立中学校における取り組みを中心に― 岡山大学教師教育開発センター紀要 5(1)35-43松山康成(2018)児童会活動による学校全体のポジティブ行動支援 ―ビジュアル版行動指導計画シートの開発と活用― 学校カウンセリング研究19 25-31 道徳教育とポジティブ生徒指導溝口哲志 近年子ども達による学級崩壊が大きな問題となっている。学級崩壊が起きる要因の一つとして,子どもたちの自己肯定感の低さが考えられる。その為,発表者は子ども達の自己肯定感を向上させることを第一に,学級経営や仲間作りをしてきた。主な取り組みとしては,3つある。 1つ目は「ポジティブカード」の活用である。これは,子ども達による賞賛活動の1つである。具体的には,子どもたちが友達にされて嬉しかった事や,すごいと思った事を星形の紙に書いて帰りの会で発表するという活動である。発表し学級全体から賞賛されることで,子ども達の自己肯定感や自己有用感を高める事を狙いとして取り組んでいる。 2つ目は「道徳カード」の活用である。これは,教師による子どもへの賞賛活動である。子ども達が徳目にあった行動をした際に,子ども達を褒めてカードを渡す活動である。全員の目の前で,教師が賞賛することによって子ども達の自己有用感を向上させる事を狙いとした活動である。 3つ目は「ナンバーワン宣言」である。これは,子ども達が1ヶ月間頑張りたいことや,その理由を紙に書き,毎日朝の会で発表するという活動である。朝の会では子ども達の心が落ち着くような呼吸法やイメージトレーニング等を用いて,一日が穏やかな気持ちから始められるようにする。子ども達を落ち着かせることによって,子ども達が発表しやすい環境を作り,発表を聞いてもらう事で自己肯定感の向上を狙いとした活動である。 これらの活動の成果としては,学級が落ち着きを取り戻し始めたことで,子どもの問題行動が減少したことがあげられる。活動実施以前には嫌なことがあると教室を飛び出したり,友だちに手を出したり等の問題行動があったが,以前よりも穏やかに学校生活を送る事が出来るようになった。さらに,困った友達を見つけた時にはすぐに手を差し伸べる等,互いに協力して活動する姿を多く見ることができた。また,6月上旬に実施したQ-Uの結果は,昨年度と比べて学校に対する満足度が約20%向上していた。この事から,子ども達が学級や教室が居心地の良い所と感じている事がうかがえる。ポジティブ生徒指導(PBIS)と人格教育―行動支援は規範意識を醸成するか福井龍太 アメリカの学校では,学校規則を定め,生徒にその規則を守る指導をし,その規則に違反すれば罰を与えて矯正する,というゼロトレランスを基盤とした段階的規律指導が実施されていたが,罰を与えても生徒の行動が改善しない,という問題が指摘されるようになった。 これを背景としてPBISを取り入れる学校が急速に拡大した。PBISはABA(応用行動分析)を基盤としており,専ら期待行動の強化に焦点を当て,生徒の行動全体における望ましい行動の割合を増やすことによって,結果的に問題行動の発生を予防する。PBISは期待行動そのものに注目した教育的枠組みであるが故に,本来そこに道徳性や人格といった個人特性を介在させる必要はない。 最近のアメリカの学校では,しかしながら,期待行動表において徳目を提示することをはじめとして,PBISと人格教育とが関連付けられはじめている。本発表では,先行研究を踏まえ,PBISと人格教育の関わりについて,規範意識の醸成との関連から検討する。 参考文献Althof and Berkowitz (2006) “Moral education and character education: their relationship and roles in citizenship education,” Journal of Moral Education 35, 495–518.
著者
高橋幾 齊藤勝 深沢和彦 河村茂雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 日本が2014年に批准した「障害者の権利に関する条約」の第24条では,インクルーシブ教育について以下のように言及している。「インクルーシブ教育システム」とは,(中略)障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと,自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること,個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている」。つまり,具体的な状況を想定すると,障害児が居住している地域の小中学校で他の児童生徒と同じ教室で学ぶことを選択できる。その際に,障害児の障害特性に合わせて必要な合理的な配慮がなされたうえで,平等な評価基準の下に,障害児と定型発達児がともに学ぶ状況が,インクルーシブ教育が実践されている状況と考えられる。 しかし,現状の特別支援教育はインクルーシブ教育とは逆行している可能性が指摘されている。例えば,2007年以降,特別支援学校数と特別支援学級の在籍者数は増加の一途をたどっている。同じ教室で学ぶという「場」のインクルーシブに矛盾が生じている可能性があるだろう。 また,通常学級という同じ土俵に立ったとしても,必要な支援を受けることができなければ,十分なインクルーシブ教育とは言えないだろう。個人に必要な合理的配慮の提供が重要となる。バーンズ亀山(2015)は,アコモデーションは,「教師の厚意によって授けられるもの」ではなく,人権擁護の問題であることを指摘している。河村(2018)は多様性を包含しながら,すべての子どもの支援に対応するためには,適切にアセスメントを行い,学級での相互作用を促す必要性を指摘している。インクルーシブ教育では,児童生徒の学習・生活環境を保障するために,教師はアセスメントに基づいた適切な支援をすることが求められている。しかし,その方略は各現場の判断に任されており,各々の教師の努力によって支えられていることが指摘されている。 本シンポジウムでは,通常学級における特別支援対象児の権利擁護に対応し,インクルーシブ教育を推進していくために,学級の状態や個別の適応状態のアセスメントを行い,適切な支援や指導につなげることの重要性を,「教師間の共通認識を持った取り組み」,「授業での個々の特性に合った方略の取り組み」,「教師の児童に対する権利擁護の取り組み」の視点で紹介する。それぞれの視点から,通常学級におけるインクルーシブ教育の可能性を示したい。話題提供教師間の共通認識を持った取組み高橋 幾 2012年に文部科学省が行った調査において,発達障害の可能性がある児童生徒は6.5%と発表されている。河村(2018)は,これからの教育目標の達成のために必要な要素の一つとして「多様性を包含する『学級集団作り』」を示している。教員は発達障害児の障害特性の理解をし,環境との相互作用を考慮に入れることが求められるだろう。発達障害のある児童生徒は学級の状態により困難の度合いが変化するため,教師は,児童生徒への対応を一貫した視点で共有する必要があると考える。うまくいった支援を引き継ぎ,うまくいかなかった支援を繰り返さないことが,児童生徒の二次障害を防ぎ,発達障害児の適応を上げることにつながるだろう。同じ視点を共有し,教師間の指導行動を一致させることは,児童生徒への対応の矛盾を少なくし,指導の効果を上げることになると考える。 本シンポジウムでは,校内で統一のアセスメントを用いて研究を推進し,共通の指標から学級・学校の状況に合わせた「スタンダードな指導行動」を見出し実践している小学校の事例を通して,一貫した支援に向けた統一の指標の重要性を示したい。インクルーシブ教育を推進するための学級集団づくり 齋藤 勝 平成29年3月に改訂された新学習指導要領では,特別な配慮を必要とする子どもへの指導と教育課程の関係について,新たな項目が新設され明記されている。これは,インクルーシブ教育システムの構築を目指し,子どもたちの十分な学びを確保し,一人一人の発達を支える視点から,子どもの障害の状態や発達段階に応じた指導や支援を一層充実させていくことを趣旨としている。これを叶えるのが,学びのユニバーサルデザイン(以下UDL)の視点を取り入れた授業づくりであると考える。 現在,教育現場ではICT環境の整備が少しずつ進んでいる。ICT環境の充実は,UDLの視点を授業に生かしていくための大きな支えとなる。ICTの効果的な利活用によって,子どもたちの学び方そのものを変えることにもつながる。しかし,ICTを活用しさえすればUDLの視点を取り入れた授業につながるというわけではない。UDLのガイドラインに示された「取り組み」・「提示(理解)」・「行動と表出」の3つの視点を意識したICTの利活用が,これまでの授業の姿を変えるきっかけになる。 そこで,授業では,タブレット端末が使える環境を整備し,必要に応じて必要な児童が使えるようにする。各教科の学習では,個別学習,ペア学習,グループ学習とフレックスな学習形態を認め,自分に合った学習方法を児童が自分で選択できるようにする。いわゆる従来の学習形態にはうまくなじめない子も,ICTを利活用することによっていろいろな表現が可能になり,友達と協働しやすくなる。ICTの利活用は,子どもたち一人一人が自分のよさを生かした学びへのアプローチを拡げるツールとなりうる。その結果,発達障害のあるなしに関わらず,多くの子どもたちの「主体的,対話的で深い学び」が実現できるのではないだろうか。 本シンポジウムでは,具体的な実践事例とそれによる児童の変容について報告し,UDL推進における学級集団づくりの効果について考えてみたい。児童に対する教師のアドボカシー深沢和彦 インクルーシブな学級を構築する担任教師からの観察と聞き取り内容から,教師の対応に共通するものがあることがわかった。個別指導と集団指導の両立に懸命になっている教師は多いが,インクルーシブな学級を構築している教師は,それらを別々には行ってはいなかった。個別指導と集団指導が混然一体となっており,学級集団全体に指導するとき,特別支援対象のAくんに視線をやり,こちらに意識を向けさせてから話したり,見ればすぐに理解できる掲示物をさっと示したり,集団指導の中にAくんへの個別指導がさりげなく含まれていた。 また,Aくんに個別指導しているときも,他の児童がそのやりとりを見ていることを意識して対応していた。「ああ,そういうふうに対応すればいいのか」とか「Aくんって,そういうとらえ方をするんだな」とか,周りで見ている子どもたちが自然と,Aくんを理解したり,対応の仕方を学んだりできるようにしていた。「個」と「集団」の両方を意識しながら特別支援対象の子どもたちを学級の中に位置付かせるためのこうした対応を,「インクルーシブ指導行動」と呼ぶことにする。インクルーシブな学級を構築する3名の教師は,共通してこの「インクルーシブ指導行動」を行っていることが明らかとなり,この対応が,特別支援を特別にしないための重要な対応である可能性が示された。「インクルーシブ指導行動」の中心的な機能に,代弁者,通訳として,特別支援対象児と学級集団(小さな社会)をつなぐ機能がある。この代弁者,通訳としてつなぐ機能を「アドボカシー(advocacy)」という。アドボカシーとは人権を侵害されている当事者のために「声を上げる」という意味であり,教師も学級内でうまく周囲とつながれない子どもたちのためにアドボカシーの役割を担う立場にある。具体例を挙げると,「対象児が,苦手の克服に向けて努力している最中であることを学級全体に伝える」「対象児の不可解な行動の背景にある思いを周囲が納得できるように説明する」「対象児用の特別ルールには,周囲の児童が“ずるい”と思わないように,特別な支援を必要とする理由や必要性について納得できる説明をする」「最初に比べたらずいぶんよくなったよね。と,対象児のよき変容や成長を学級全体で分かち合う」等である。アドボカシーは耳慣れない言葉なので,「架け橋対応」と呼ぶことにするが,この「架け橋対応」を教師が行っているかどうかを調査し,受け持つ学級の状態との関連を検討したところ,「架け橋対応」をよく行っている教師は,周囲児の適応も対象児の適応も有意に高いという結果が得られた。つまり,個と学級集団をつなごうとする教師のアドボカシーは,インクルーシブ教育を成立させる上で重要な指導行動であることが,明らかになったのである。
著者
郡司菜津美 岡部大介# 青山征彦 広瀬拓海 太田礼穂 城間祥子 渡辺貴裕# 奥村高明#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 パフォーマンス心理学とは,個体主義と自然科学主義を特徴とする心理学へのラディカルな批判から出発し(茂呂, 2019),人間の集合的発達を支えようとする新しい運動である。本企画では,このパフォーマンス心理学の具体について話題提供することで,これまでの学習と発達の捉え方との違いを示し,参加者皆で学習/発達観を発達させたい。 有元(2019)が「パフォーマンスという言葉を用いるということは,アームチェアに座って頭で考えることから心理学という学問を解放したいという意図がある」と述べているように,本企画では,学習と発達について主知的(intellectual)な理解をすることを目指すのではなく,理解のパフォーマンス化(performance turn)を目指してみたい。本企画では関連する2書『パフォーマンス心理学入門』(香川・有元・茂呂編著, 2019)および『みんなの発達!』(フレド・ニューマン著,茂呂・郡司・有元・城間訳,2019)から,発達とパフォーアンスに関する4つの話題を提供する。やり方を知らないことに取り組み,発達するためには,発達の場づくりを皆でパフォームする必要があり,それはアカデミアにしても同じことだ。パフォーマンス心理学においては,研究者自身もパフォーマンスの一部(青山, 2019)であることが前提とされる。 なお本企画は,SIG DEE(日本認知科学会 教育環境のデザイン分科会)が主催する。パフォーマンス・ターンをパフォーマンスする太田礼穂 本発表では,状況論におけるパフォーマンス心理学への転回(パフォーマンス・ターン)について理論的背景と方法論を比較し,発達的実践としての「パフォーマンス」の可能性を以下の2点から議論する。 まず,パフォーマンス心理学における,パフォーマンスの位置づけとその意味を紹介する。特にこのパフォーマンスが,個人に紐づけられた成果や技術という意味ではなく,たとえば乳幼児が遊びながら今現在の自分ではない自分に「成っていく」ような協働の過程に注目する理論的装置であることを紹介する。これを支えるヴィゴツキーの遊び論や演劇論,ヴィトゲンシュタインの言語ゲームの議論などの参照を通じ,パフォーマンス・ターンの意義を整理する。 次に,状況論との連続性と不連続性について紹介する。状況論(状況的学習論)では,人間の知的営みがいかに状況の中に埋め込まれ,その中に参加する人々がどのような存在になっていくかに注目する(たとえばLave & Wenger, 1991/1993)。これは人間の知的営みが社会的起源をもつというヴィゴツキーの理論に基づくものであり,人間の思考や学習の成り立ちを過度に内的プロセスから説明しようとする個人主義的アプローチとは異なる学習・発達に関する知見だといえる。パフォーマンス心理学もヴィゴツキーの理論に基づくという意味で,状況論と思想的起源を共有しているが,両者の違いはいったい何だろうか。本発表では「現実」の分析と制約という観点から,パフォーマンス心理学がもたらす「研究」と「実践」の接続の意味を考えていきたい。学校外における子ども・若者支援のパフォーマンス広瀬拓海 近年,貧困や格差が,子ども・若者にもたらす問題に関心が集まっている。本シンポジウムで話題提供者が注目するのは,以上のような問題を受けて,身近な子ども・若者のために勉強や食事,居場所を提供する新しい地域コミュニティをつくり出した人々の動きである。パフォーマンスとは,自分とは異なる人物に成ることであるが,それは既存の社会的な制約を超えた新しい活動やコミュニティを創造(ビルド)することと切り離せない。貧困問題という急速に現れて来た社会的な課題に対して,それらを良い方向に導いていくための地域住民のコミュニティビルドは,まさに今生まれつつある新しいパフォーマンスだといえるだろう。本発表では,以上のコミュニティビルド=パフォーマンスが,実際の社会的な文脈の中でどのように準備されてきたのかを検討していく。特に,このとき交換(柄谷,2001)の観点からそのプロセスを見ていくことで,パフォーマンスが歴史的な交換様式の変化の中で生じた問題への応答としてあらわれてくる可能性について議論する。教員養成におけるパフォーマンスの実際郡司菜津美 現在,新たに教員養成に求められていることとして,(1)主体的・対話的で深い学びの場作りができるようになること,(2)チーム学校の一員として仲間と共同することの重要性について理解させること,の2点が挙げられる。筆者は教員養成に携わる一人として,この2点を重視した指導を行ってきた。そのために応用演劇の一つである「インプロ」を用い,学生たちが教師としてのパフォーマンスを学習できるように重点を置いてきた。 ここでいう教師としてのパフォーマンスとは,やり方を知らないことに皆で取り組める場をつくることであり,講義ではこのことを先取り的に体験させた。またインプロとは,共同の価値を学習することができる演劇手法であり,集団の中で失敗を失敗にしない安心感のある場を作る体験ができるものである(Lobman & Lundquist, 2007)。講義ではインプロを用いたことで,学生たちはチームの一員として仲間と共同することの重要性に気付いたと考えられた。 ただ,こうした学生たちの姿は何かができるようになったというよりは,パフォーマンスの意味・意義を体験的に知ったという方が妥当であろう。そこから何が起きるのか?授業である以上,ここが最も重要である。 本発表では,筆者が実際に授業で実践しているパフォーマンスの効果について,皆さんと検討してみたい。みんなの発達のためのパフォーマンス城間祥子 『みんなの発達!』は,現代の社会や文化の中で感情の痛みをかかえて生きているごく「普通の人びと」の日常に,ソーシャルセラピーの実践的で批判的なメッセージを届けるために書かれた本である。この本には,パフォーマンス心理学の創始者のひとりであるフレド・ニューマンのソーシャルセラピーに参加した「普通の人びと」が数多く登場する。ソーシャルセラピーは,セラピーと称しているものの,従来の心理療法とは異なり,診断とそれにもとづく問題解決を目指さない。コミュニティを創造するプロセスを通して,自らのライフ(生活,人生,生き方)の全体を転換させる実践である。 ソーシャルセラピーグループは,参加者が自らの発達を創造することを支える場である。参加者は場に「ギブ」することで場の発達に貢献する。同時に,場の発達が個々の参加者に発達と成長をもたらす。グループで試みられた新しい生のパフォーマンスは参加者相互の「ギブ」によって完成し,問題がもはや問題として成立しなくなるような発達が生じるのである。 本発表では,ソーシャルセラピーのアプローチを理解する上で重要ないくつかの概念(ゲットとギブ,全体と個別,言葉,エクササイズ等)を共有するとともに,ニューマンの哲学と実践を,私たちの文化や日常を変化させるためにどのように用いていけばいいのかを議論したい。参考文献「パフォーマンス心理学入門 共生と発達のアート」 香川秀太・有元典文・茂呂雄二 編著 新曜社 2019「みんなの発達!ニューマン博士の成長と発達のガイドブック」 フレド・ニューマン・フィリス・ゴールドバーグ 茂呂雄二・郡司菜津美・城間祥子・有元典文 訳 新曜社 2019
著者
東 清和
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.156-164, 1997-03-30
被引用文献数
2 1

本論文は, かつては性差が認められるとされた視空間能力, 数学的能力, 言語能力および攻撃性に関するメタ分析, および性差が認められないとされた原因帰属, 被影響性, 非言語的コミュニケーション, 援助行動, 自尊感情, 不安, 主張性などのメタ分析の概観を試みたものである。加えて, 1970年代以降の日本における性差・性役割に関する学会誌論文での研究動向を紹介した。
著者
向後 千春
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.182-191, 2002
被引用文献数
1

大学でいくつかの科目についてWebベースの個別化教授システム(PSI)を実践している。本論文はそのデザイン,実践と評価について報告する。PSIコースは自己ペースによる学習と,単元ごとの通過テストによって完全習得学習を指向することを特徴としている。学習教材はHTMLで記述され,受講生にCD-ROMの形で配布された。3~5年間の実践でのドロップアウト率は10%以下であった。コースの最後に行った授業評価によると,PSIコースは一斉講義形式の授業よりも高い評価を得た。
著者
高木伸也 佐々木淳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問題と目的 DSM-5が2014年に発刊され,新しく不安症の中に選択性緘黙(Selective Mutism; 以下,SM)が加わった。中でも社交不安症(Social anxiety disorders; 以下SAD)はSMと近い症状があることが知られており,併存する確率が高い(Vecchio et al,2003)。SM自体の研究は臨床心理学の研究としてSMに対する事例研究として行動療法(沢宮・田上,2003)・遊戯療法(上野,2010)などが適用されてその効果が検討されている。しかしSMのメカニズムを明らかにする研究は数少ない。中でも維持期における認知行動モデルが解明されることは、今後の臨床でのより細やかな認知行動療法の適用だけでなく,SM児と日々接している教師・保育士に対して有益な見立てを提供できる可能性を秘めている。 SADの認知モデル(Clark&Wells,1995)はこれまでの研究の蓄積が多い。これを参考にしつつSM独自のモデルを作成することは意義深い。また,SMに関する尺度はSMQ(Selective Mutism Questioner; Bergman,2008)やその日本語版の場面緘黙質問票(以下,SMQ-R; かんもくネット,2011)があるが,これは行動指標を主に捉えているスクリーニング用の質問紙であり,苦手とする状況の最中で考えていること(認知)に着目した尺度は存在していない。そのため本研究では,⑴SMの維持期における認知行動モデルの作成,⑵SMの認知行動尺度の項目作成を目標としたインタビューを行う。方 法手続き 半構造化面接の方法を用い,事前に作成したインタビューガイドに基づいて70分程度のインタビューを行った。SMの症状があった時期の脅威的状況および克服した現在における同様の状況の場合の双方を想定し,その状況下の認知・感情・行動・身体的変化について焦点を当てて質問した。対象者は筆者がSMの治療の経験が豊富な臨床心理士等に依頼し,現在は克服しているSMの経験者の紹介を求めた。インタビューで得られたデータは内容分析によって,質的研究の観点から⑴SMにおける認知行動モデルを作成,⑵SMの認知行動尺度を作成することを念頭においてまとめられた。 なお,本研究は,大阪大学大学院人間科学研究科教育学系研究倫理委員会において承認されている(受付番号15-061)。対象者 現在3名(女性3名)。年齢平均21.3歳であり,過去に緘黙の診断をもっていたのは2名であった。質問紙 インタビューを始める前に,SMの程度を把握するためにSMQ-Rを二枚用意して回答を求めた(一枚目はSMの症状が一番顕著に表れていた時,二枚目は,現在の状態を想定する)。SM時の平均得点は12.3,現在の平均得点は37.3であった。なお,Bergman(2008)によると,健常児は43点,SM児は12点であった。結 果 想起された状況は,「自己紹介の場面」「スピーチの場面」「話すことを強制させられる場面」であった。本研究では,感情,行動,身体的反応のうち特に認知と行動に焦点を当てて報告したい。認知は主に2つに分類することができた。<受動的な認知>と<能動的認知>である。<受動的認知>は「自分の番でどうやってやり過ごそう」「早く終わらないかな」などの受身的な考えやイメージであった。<能動的認知>は「何を話そうかな」「1対1の時のように話そう」などの自発的な考えやイメージであった。また,行動は主に2つに分類された。即ち,<受動的行動>と<能動的行動>であった。<受動的行動>は「先生がもういいよと言うまで待つ」「話せなくなる」などの受身的な行動であった。<能動的行動>は「ネットでコツを調べた」「職場だったら頑張って話すようにする」などの自発的な行動についてであった。 また社交不安症の維持要因として考えられている自己注目や安全行動などは,緘黙を克服した現在においてもなお続いていた。考 察 SMの経験者の認知と行動には受動的側面と能動的側面が共通して見られた。SMの維持期においては受動的側面が多く,克服した現在においては能動的側面が多く見られる傾向が示唆された。そしてインタビューにおける文脈から<受動的認知>が<能動的認知>に変化して,それが<能動的行動>を促進していることが推測された。即ち,受動的体験から能動的体験にシフトしていると捉えることができた。 また,SMを克服した者でも現在において社交不安傾向があったため,SMの維持期は,社交不安の維持期よりもさらに複雑な仕組みを持っていることが考えられる。そのため,今後は,SM独自の維持要因という視点からもデータ収集と分析を行っていく必要がある。 最後に本研究の結果から,SMに対する支援のあり方として,受動的認知という内的な側面に働きかける試みがその糸口となることが考えられた。
著者
杉浦 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.352-360, 2000-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は, 拒否不安と親和傾向という2つの親和動機と対人的疎外感との関係, 及びそれらの関係の発達差や男女差を調べることであった。中学生366名, 高校生528名, 大学生233名を対象に親和動機, 対人的疎外感及び自我同一性についての質問紙調査を行った。その結果, 拒否不安と親和傾向は高い正の相関を示すにもかかわらず, 拒否不安は対人的疎外感と正の関係を, 親和傾向は負の関係を示した。また, 結果には男女差, 発達的差異があった。(1)女子において, 拒否不安は成長に伴い漸減した。(2)男子では, 拒否不安は中学生で対人的疎外感と負の関係を示したのに対し, 大学生では正の関係を示した。(3)拒否不安と親和傾向の相関は, 中学生の方が, 高校生, 大学生よりも高かった。これらの結果から, 2つの親和動機の変化は, 対人関係を適応的に維持していくための発達課題を示しているのではないかと考えられた。
著者
山下 倫実 坂田 桐子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.57-71, 2008-03

本研究は,大学生におけるソーシャル・サポートと恋愛関係崩壊からの立ち直りとの関連について検討した。まず,性役割の観点より,恋愛関係崩壊前の情緒的サポート源が恋愛パートナーに限定される者は女性より男性に多いという予測1について検討した。恋愛関係にある大学生146名を対象に友人(同性/異性),恋人,家族(同性/異性)から提供されたサポート(情緒的/道具的)について尋ねた。その結果,予測1は概ね支持された。次に,現在,恋愛関係にない大学生132名を対象に恋愛関係崩壊時の情緒的サポート源が多い者ほど,立ち直り評価が高いという予測2について検討した。各関係からのサポート(予測1の検討と同様),恋愛関係崩壊時のショック度,恋愛関係崩壊からの立ち直り過程の経験及び立ち直り評価などの項目について回答を求めた。サポート形態は,情緒的サポート源が多様である多様型,情緒的サポート源が同性友人に限定される同性友人型,サポート低型に分類された。予測2は概ね支持され,恋愛関係崩壊前の情緒的サポート源を恋愛パートナーに限定することが,立ち直り評価の低さにつながる可能性が論じられた。
著者
石川 満佐育 濱口 佳和
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.526-537, 2007-12-30

本研究では,近年諸外国で研究が盛んに行われているforgivenessの概念に注目し,ゆるし傾向性として実証的に取り上げ,わが国の中学生・高校生を対象に,ゆるし傾向性と外在化問題・内在化問題との関連を検討することを目的とした。研究1では,中高生574名を対象に,ゆるし傾向性尺度の作成を行った。因子分析を行った結果,「他者へのゆるし傾向」,「自己への消極的ゆるし傾向」,「自己への積極的ゆるし傾向」の3因子からなるゆるし傾向性尺度が作成された。研究2では,中高生553名を対象に,ゆるし傾向性尺度の信頼性,妥当性の検討を行った。その結果,十分な値の信頼性,妥当性が確認された。研究3では,中高生556名を対象に,ゆるし傾向性と外在化問題(身体的攻撃・関係性攻撃),内在化問題(抑うつ・不安)との関連を検討した。相関,重回帰分析により検討を行った結果,ゆるし傾向性と外在化問題,内在化問題との間には,負の関連が示された。従って,中高生にとって,ゆるし傾向性は,外在化問題,内在化問題の軽減に有効である可能性が示された。