著者
山田 明義
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

菌根性食用きのこが地域再生に貢献できる前提として,山林を活用した栽培技術の開発が挙げられよう.腐生性きのこの菌床栽培技術をそのまま応用しただけでは,必ずしも地域再生には結びつかない.マツタケで言うならば,経験的なマツタケ山の施業を元にしつつ,施業内容の科学的な再検証と,新たな生物工学的技術の導入が考えられる.また,野生食用きのこの資源価値を吟味することも大いに意義があろう.戦後,菌根性きのこを含む野生きのこの収穫や生産は,栽培きのこの量産化に伴ってその価値が低下した.しかし,食文化の成熟とともに,菌根性きのこにしかない風味や食感に対するニーズが,今後大きくなると予想される.また,欧米のきのこという見られ方の強いトリュフ,ポルチーニ,シャントレルも,実は国内の山林に自生する.このため,まずは,資源となる菌根性きのこが地域にはどのくらいあるのか明らかにし,その活用法や活用先について知恵を絞る手が考えられる.同時に,地域の山林でどの菌根性きのこをどのくらい収穫したいのかといった青写真をかざしながら,菌根苗の生産と植林や,菌床埋設によるきのこ山の造成などの技術面を詰めていく手が考えられる.
著者
鹿島 潤 都築 伸行 鹿又 秀聡 興梠 克久
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

チェーンソー用防護服を使用している300超名の林業労働者に対してアンケート調査を行った。その結果、防護服の日常管理が必ずしも正しい方法行われていない現状が明らかになった。メーカーからの使用上の注意事項への認識が十分でなく、誤った使用、管理が行われているため防護性の低下している防護服を使っている作業者が多い可能性が示された。特に洗濯方法を誤っている場合や、破損を自分で修理している場合にその可能性が高い。防護服が破損する理由は様々であるが、チェーンソーで切った、汚れがひどくなった、破れたといった理由が多い。作業者の身体に合っていないサイズの防護服を使用しているために破損している場合も少なからずあると考えられる。防護服の更新期間は約2年と推測されたが、正しい使い方とメンテナンスができれば更新期間の延長が可能なばかりか、更新経費の抑制も可能と考えられる。
著者
成松 眞樹 八木 貴信 野口 麻穂子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.167-175, 2016
被引用文献数
1

<p>カラマツコンテナ苗の植栽適期を明らかにするために,5月から11月の各月に苗を植え,翌月以降に掘り取って,活着と根,樹高,地際直径の成長を植栽月で比較した。植栽月は当年と翌年の成長に影響し,植栽月によっては根と樹高の成長が連関した。苗は各植栽月で97% 以上の活着率を示したが,秋植えでは根鉢からの根の伸長量が減少した。8月以前は地温が高く迅速に根が伸長し,10月以降は地温が低く根の伸長が抑制されたと考える。植栽当年の樹高成長は5月と6月の植栽でのみ明瞭だった。そのピークは各々8月と9月に現れ,根長成長ピークから1カ月遅れた。7月以降の植栽では,樹高成長が根長成長後に生じるカラマツの特性により,樹高成長開始前に秋を迎えたと考えられる。植栽当年11月の地下部重量は早い植栽月で大きく,植栽翌年7月までの樹高成長率と正の相関を示した。その結果,植栽当年11月にみられた樹高の差は,その1年後でも完全には回復せず,11月植栽苗の樹高は,8月以前の植栽苗より小さかった。本研究の結果は,カラマツのコンテナ苗は春から秋まで植栽可能だが,9月以降の植栽は冬季枯損や植栽翌年までの成長不良のリスクが高まる可能性を示唆している。</p>
著者
関 剛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

トドマツを含むモミ属樹種では、種子生産の豊凶は雌花序生産の年次間変動と深く関わっている。北海道においてトドマツは天然林の構成樹種であり、主要な造林樹種でもあることから、雌花序の年次間変動の予測方法は天然林管理、種子採取に関して重要な情報である。本研究では、トドマツ林冠木の樹冠上部の枝に残存する球果・発達中止した雌花および雌花芽の中軸を確認して雌花序の過去の年次間変動を推定し、線型混合モデルによって豊作に有効な要因を選択した。説明変数として、花芽形成年、その前年の気温、および両年の気温差(花芽形成年の気温から前年の気温を引いた値)を用いた。雌花序の調査は、北海道・後志地域の中山峠付近で、トドマツ林冠木10個体の主幹から分枝して3-5年目に相当する枝の主軸を対象とした。調査対象の13年間のうち、雌花序の豊作は3回確認され、対象個体のほとんどによる開花がこの他に2回確認された。雌花序生産の豊作のきっかけとしては、6月における花芽形成当年と前年の気温差の正の効果が最も有効な要因として検出された。雌花序生産の年次間変動予測において、連続する2年間の温度条件を調べることの重要性が示唆された。
著者
林 拓也 岡田 直紀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.413, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

【背景・目的】 福島第一原子力発電所の事故後、大量の137Csが放出され森林に沈着した。菌類子実体中には高濃度の137Csが集積し、属間で集積の程度が異なることが報告されている。その要因のひとつとして、土壌中の菌糸の垂直分布の違いが指摘されている。この点を確認するため本研究では安定同位体を用いて菌糸の土壌中垂直分布と子実体中放射性セシウムの吸収源を推定することを試みた。【方法】 福島県川内村の広葉樹林(原発より約20km)にて外生菌根菌と腐生菌、合わせて約90試料と、リター層と腐植層および鉱質土壌を2 cmごとに深さ30 cmまで採取した。子実体試料は乾燥後に粉砕、土壌試料は風乾し、それぞれの安定同位体比(δ13C、δ15N、δ34S )および137Cs濃度を測定した。【結果】 土壌のδ13C、δ15N、δ34Sはいずれもリター層と腐植層で最も小さく、鉱質土壌では深くなるにつれて大きくなった。子実体中の安定同位体比と137Cs濃度は属間および種間で差が見られた。腐生菌よりも外生菌根菌の方がより深い土壌層に菌糸が分布することが安定同位体の値から示唆されたが、子実体中の137Cs濃度とは必ずしも対応していなかった。
著者
知念 良之 西野 吉彦 芝 正己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.129-135, 2017

<p>産業用および家庭用燃料資材の調達という観点から,沖縄県宮古地域の西端に位置する多良間島におけるバイオマス資源の利用形態および需給状況の変化を分析し,地域社会や行政の取組の特徴を明らかにすることを試みた。1898年に製糖が始まると砂糖樽や製糖用燃料の需要が高まった。砂糖樽用材料は移入し,製糖用燃料はバガスや落葉等で代用され,当初は家庭用燃料資材と競合しなかった。しかし,人口増加や製糖の拡大に伴って落葉等の消費量が増加し,肥料生産と競合して耕作地の生産性低下を招いた。このため,1917年に近代的な森林管理の手法と技術を導入し,入会林野の造林計画を編成してリュウキュウマツが植林された。しかし,入会林野の伐採は禁止されたことで私有林の価値が高まった。1938年に行政による造林の奨励とモクマオウの導入で,私有林を中心に森林面積が拡大して砂糖樽の島内生産も行われた。戦後は,人口減少や砂糖樽が紙箱に変化したことにより薪を近隣の島に移出する余力が生まれたが,1960年代以降は代替燃料の普及により造林は衰退した。多良間島では,住民と行政の取組によりバイオマス資源の持続的生産に一定の成果がもたらされた。</p>
著者
中條 幸
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.329-334, 1950-10-25 (Released:2011-09-02)

“KAZINOKI” “KÔZO” and “TURU-KÔZO”, the material for making KÔZO-paper, Shifu-fabric etc., are quite different species of the moraceous genus Broussonetia, but generally they are called together by one Japanese name “KÔZO” [_??_] among the Japanese paper-makers, foresters and cultivators. I made a brief sketch on these three species of Broussonetia from the morphological and the taxonomical standpoints and also attempted to introduce concisely their various vernacular names for those who have interest in “KôZO”. [Biological Institute, Tôhoku Universty.]
著者
斎藤 馨 中村 和彦 渡辺 隆一 藤原 章雄 岩岡 正博 中山 雅哉 大辻 永 小林 博樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

「インターネット森林観察サイト」は、森林の現在の様子、過去の様子をインターネットから提供するサイトで、誰もが、遠隔の森林情報に容易に接しながら、森林の季節や経年変化に気づき、興味を持って森林の観察ができ、しかも観察継続がしやすくなるサイトを目的に開発した。対象の森林は遠隔の天然林で、 かつ長期映像記録のある東京大学秩父演習林(埼玉県奥秩父:過去15 年間記録)と信州大学志賀 自然教育園(長野県志賀高原:過去20 年間記録)とした。森林の様子を映像と音によりリアルタ イム(ライブ)でインターネット上に配信し、同時に配信データを録画・録音・公開し、配信後 にも観察できる森林観察サイトを開発し、継続的な運用試験を可能にした。例えば、フェノロジーに着目すると過去の映像と同じショットの画像が毎日配信されることで、日々や季節の変化を見ることが出来、ふと気づいたときに数年から十数年を遡って確認することが出来る。しかもインターネット上で共有されているため、SNSとの親和性も高いことを確認した。
著者
深谷 智史 奥田 直人 岡田 龍一 伊東 康人 池野 英利 山崎 理正
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.151, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

コナラ、ミズナラなどのブナ科樹木が枯死するナラ枯れの被害が日本国内で発生し問題となっている。その原因となるナラ菌を保有するカシノナガキクイムシの飛翔能力(飛翔距離、飛翔時間、飛翔速度)の直接的測定を行われた例は昨年我々が報告した例以外にはなく、それに何が影響し飛翔能力が変化するかなどその詳細についてはわかっていない。カシノナガキクイムシの飛翔能力に影響を与える要因が明らかになれば、ナラ枯れ防除の技術開発につながるかもしれない。昨年は回転アームの先端に取り付けた虫が飛翔するとアーム部分が軸を中心に回転する装置であるフライトミルを用いて、カシノナガキクイムシの最大飛翔距離を測定し、報告した。(最大飛翔距離27.3km)今回は新たにカシノナガキクイムシの飛翔速度、飛翔時間に注目して、どのような要素(体長、翅の長さ、性別、飛翔開始時間)が影響し、変化するのかということを調べた。その結果、飛翔開始時間が早い個体は飛翔速度が速く、飛翔時間も長いという結果が得られ、飛翔開始時間というものが飛翔速度と飛翔時間に影響していることがわかり、朝早く飛び立つ個体が長距離移動していることが示された。
著者
大地 純平
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

ニホンジカの捕獲法は様々な方法が考案されており、それぞれに一長一短がある。本研究では、①誰でも容易に設置・運用が可能な事、②資材の確保が容易な事、③効率的な捕獲が可能な事の三点に注目し、「市販資材を用いた簡易囲い罠によるニホンジカ誘引捕獲」について研究を行った。囲い罠資材はホームセンターや建築資材店等で購入可能な単管パイプ、落下防止ネットなどを用いて、10万円以下の資金で構築できるように設計した。また、オプションとして150m程度離れた場所から監視、ゲート閉鎖を行うことのできる遠隔監視装置を用意した。<br> 囲い罠を用いた誘引・捕獲試験は山梨県南アルプス市高尾の牧場採草地を利用して実施した。ニホンジカ誘引試験では、毎日~週二回(火曜日、金曜日)囲い罠内外にアルファルファを給餌し、採食の様子を自動撮影カメラで記録した。捕獲については、誘引個体数、馴致の様子を確認して適宜実施した。試験結果から、市販資材を用いた簡易囲い罠であっても、ニホンジカ捕獲に耐える十分な性能を確保できること、週二回程度の給餌であっても十分な誘引効果がある事を確認することが出来た。
著者
平野 和隆 梶山 雄太 高橋 俊守 山本 美穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

栃木・茨城県境八溝地域の山間集落、栃木県那須烏山市大木須地区において木造古民家である長屋門が、農家のどのような土地利用との関連で存在し残されてきたのかを明らかにし、近世から近代への村落構造・農民層の変化を考察することを目的とする。大木須地区、那須烏山市、那珂川流域についての文献史料収集・整理、大木須地区の長屋門所有者13戸のうち11戸に対して、長屋門及び家屋の形状・木材使用状況、建築時期、土地利用、戦後経営史、文書の有無などについて聞き取り調査を行った。八溝地域で盛んであった葉煙草作の経済的優位性が長屋門を構える経済的な余裕を生んだこと、集落内の各戸に十分な林野面積が配分されており自家用材の備蓄林として大きな役割を果たしていたと共に葉煙草作の堆肥にもなっていたこと、大木須地区の立地条件上、木材輸送の拠点であった那珂川まで大木須地区から材を搬出する際の輸送上の困難さがありその搬出の必要性も見られず木材の集落内での使用に傾注できたこと、地域内で高い木造建築技術を有する大工が存在し継承されてきたこと等により、長屋門がこの地区で存在し残されてきたことなどがその理由として挙げられる。