著者
武 正憲 神宮 翔真 佐方 啓介 伊藤 太一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第128回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.792, 2017-05-26 (Released:2017-06-20)

利用者の好む森林景観を把握することで,良好な自然体験を提供できるような適切な登山道整備や管理計画の実施が可能となる。しかし,自然体験が少ない大学生の場合は,これまで好まれるとされてきた森林景観と認識が異なる可能性がある。近年,GPSロガーの低価格化や携帯電話にGPS機能が初期搭載されるようになり,行動記録の取得が容易になった。本研究は,筑波大学生2・3年生向け野外実習での富士山村山古道登山活動を通じて,参加学生が取得したGPS記録を元に,大学生の印象に残った森林景観認識を明らかにすることを目的とした。村山古道は廃道になった参詣道を地元有志が再整備した登山道である。実習で利用した標高1100mから2693m(宝永山)の区間は,原生林,人工林(国有林),参詣道時代の史跡,林業従事者の作業跡,台風による倒木跡などの多様な森林景観が存在する。参加学生は,体力および登山経験に応じた班ごとに,印象に残った地点の位置情報を記録した。記録地点の密度分析により,登山道上の倒木,森林限界,台風による倒木跡,史跡などの大きな景観変化点は記録密度が高い一方,人工林内の林相変化点では記録密度が低いことが示された。
著者
中澤 昌彦 吉田 智佳史 佐々木 達也 陣川 雅樹 田中 良明 鈴木 秀典 上村 巧 伊藤 崇之 山﨑 敏彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

【目的】本研究では,急峻で複雑な地形と大径材搬出への適用が期待できる欧州製タワーヤーダを用いた作業システムを開発することを目的に,間伐作業の功程調査を行った。前報で架線下の上荷集材作業について報告したので,本報では上荷横取り集材作業を中心に報告する。【方法】搬器にShelpa U-3toを搭載したMM社製WANDERFALKE U-AM-2toを用いて,上荷横取り集材作業を実施し,時間分析を行なった。【結果】魚骨状に4列伐採し,27サイクル,28本,計17.87m3を集材した。平均荷掛量は0.66m3,平均集材距離は156.6m(135.7~194.6m),平均横取り距離は25.7m(5.1~48.1m)で,打ち合わせや遅延時間を除く横取り集材作業時間の合計は10,371秒となった。既存タワーヤーダであるツルムファルケ(平均荷掛量0.37m3)と比較すると,横取り作業時間が約2割短かった。以上から,本調査区における上げ荷横取り集材作業の生産性を求めると6.2m3/時となり,架線下だけでなく横取り集材作業においても既存タワーヤーダより高い生産性が期待できることが示唆された。
著者
小林 誠 渡邊 定元
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.98, 2003 (Released:2003-03-31)
参考文献数
3

ブナは冷温帯の標徴種とされ、その分布の北限は北海道南部黒松内低地帯に存在する。北海道における冷温帯領域と、冷温帯の標徴種であるブナの北限が一致しない事実は、現在に至るまで様々な説が提唱されてきているが、いまだ定説は存在しない。現在ブナ林の最北限は「ツバメの沢ブナ保護林」であり、黒松内低地帯を越え、孤立した標高約600mに成立するブナ純林である。ツバメの沢ブナ林における林分構造の調査(真山ら1988)は、1986年以降行われておらず、本研究では1986年の調査資料を基に、ツバメの沢ブナ林における林分構造、およびその16年間の推移変化を解析することを目的とした。また、ブナ個体群の動態から、急傾斜地における齢構造の連続性、ブナの分布北限域における樹齢の短命化・今後の動向を検討した。 調査地は、ブナ林分布の最北限に位置する、北海道蘭越町ツバメの沢ブナ保護林である。尾根部にはミズナラ林、北西斜面の急傾斜地にはブナ林が成立し、地形に対応した優占樹種の交代がみられる。調査は2002年6月および8月に、1986年に標高600mの等高線上に設定された水平推移帯状区(10m×190m)を使用した毎木調査、また保護林内におけるブナの胸高直径の再測を行った。これらの調査は、北海道上川支庁真山良氏からご提供いただいた1986年当時の調査資料を基に、帯状区の再現およびブナ各個体の識別を行った。また階層構造の解析には、出現した樹木の樹高を、当該群落における最高樹高の相対値であらわし、それを基に群落を5階層に分ける、渡邊(1985)の順位係数を用いたSynusiaの解析を行った。 水平推移帯状区において、北海道における林冠層構成種(M1-Sy構成種(渡邊1985))の階層分布をみると、尾根部に成立するミズナラ林においては、ミズナラ、ダケカンバが林冠層を獲得し、ブナは中間層までしか階層をすすめていなかった。しかし、ブナ林が成立する北西斜面の急傾斜地に向かうほど、ブナが林冠層に出現し、かつ各階層に連続的に存在し、後継木も多数存在していた。 またブナの直径階分布は、小径木が多数存在し、各直径階に連続的に存在するL字型分布を示したのに対し、ミズナラは小径木をほとんど欠き、ある直径階にモードを持つ分布型を示した。このように、急傾斜地においてブナのサイズ構造は連続し、連続して更新していることが示唆された。またブナは個体数が他種に比べ圧倒的に多いが、胸高断面積合計(BA)がミズナラの約40%程だったことからも、ブナの小径木の多さが伺えた。また、直径階分布の16年間の変化として、ブナは26個体が新規進界個体だったのに対し、ミズナラは1個体のみで、ブナ個体群の変化は著しかった。 ツバメの沢ブナ林における16年間のブナ個体群の動態として、直径成長量の頻度分布は、平均5.205cm、モード5.5cm、歪度0.162と、正規分布に似た分布型を示した。本州における同様の調査によると、分布はL字型分布をとることから(村井ら編1991)、直径成長量のモードは分布の北限域において高いほうへとシフトしていることが明らかとなり、相対的に成長の良い個体が多いことが伺えた。また、各直径階における成長量の平均値を表すと、ほとんどが5cm付近にあり、北限域におけるブナの肥大成長は、生育期間を通じてほぼ一定に持続されることが明らかになった。このことから、急傾斜地におけるブナのサイズ構造の連続を、齢構造の連続と置き換えることが可能となり、μ+1σ、μ、μ-1σの3つの成長パターンにおいて、樹齢の推定を試みた。その結果、枯死木のほとんどが胸高直径70から80cmだったことから、樹齢190から250年程度で枯死していくことが推定された。このことから、ブナの最高樹齢は、本州中部の分布の中心に比べ、北限域において低下していることが示唆された。 このようなツバメの沢ブナ林の様態から、更新阻害などブナにとっての生育難は見受けられず、またブナは北西斜面の急傾斜地において、個体群の再生産を持続的に行っていた。連続的な更新に起因する個体群の拡大は、ツバメの沢ブナ林域での分布拡大の可能性を示唆した。
著者
廣石 和昭 石原 誠 秋庭 満輝 佐橋 憲生 野口 琢郎 横尾 謙一郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.682, 2013 (Released:2013-08-20)

はじめにセンダンMelia Azedarach Lin. はケヤキ、キリ等の代替材として家具材、内装材に用いられ、熊本県において単伐期施業による林業所得の向上を目標としてセンダンの育成技術を開発してきた経緯がある。しかし、センダンこぶ病Bacterial Gall of Chinaberry が県内の広い範囲で確認されるようになり、センダン造林に支障を来している。そこで、本病の被害軽減方法を検討するため、県内における発病傾向を調査した。 材料と方法県内道路沿いに自生するセンダンを対象とした罹病分布調査を2007年以降行った。またセンダン芽欠き試験区において植栽3年後のこぶ発生数を調査し、樹高階層別にこぶ発生の空間分布図を作成した。結果センダン自生木がみられる平野部の広い範囲で本病の罹病が確認された。しかし人吉盆地にあっては罹病木は確認されなかった。センダン芽かき試験区におけるこぶ分布調査から、樹高が低い階層では開放方向である東側を中心にこぶ発生数が多い一様な分布を示した。階層が高くになるにつれてこぶ発生数の分布は徐々に南側へと遷移し、かつ集中する傾向が見られた。
著者
中井 渉 岡田 直紀 大橋 伸太 高野 成美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

菌類の子実体からは放射性セシウムが植物などと比べて高濃度で検出され、その中でも菌根性のものからは腐生性のものと比べて放射性セシウムが高濃度で検出されることが知られている。植物の中には、菌根を形成して菌類と共生し物質のやり取りを行うものがいる。放射性セシウムを高濃度に含む菌類と共生した場合、植物体の濃度にどのような影響が出るのかを調べるために、外生菌根形成樹種とそれ以外の樹種について当年枝より葉を採取し、137Csの濃度を比較した。調査は福島第一原発から約20kmに位置する福島県川内村の森林2箇所で、2012年7月から2012年11月にかけて行った。樹木葉、菌類子実体の他に、移行係数による比較を行うために土壌サンプルも同時に採取した。菌類子実体についてはこれまで知られている通り、菌根性のものは腐生性のものより高い移行係数の値を示した。樹木葉については、採取した14種において外生菌根形成樹種とそれ以外の樹種とを比較したところ大きな差は見られなかった。
著者
今治 安弥 上田 正文 和口 美明 田中 正臣 上松 明日香 糟谷 信彦 池田 武文
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.141-146, 2013 (Released:2014-02-21)

タケが侵入したスギ・ヒノキ人工林の衰退・枯死原因を検討するため,水分生理的な観点から調査した。モウソウチクあるいはマダケと木-竹混交林となったタケ侵入林に生育するスギ・ヒノキのシュートの日中の水ポテンシャル(ψw mid)は,タケ未侵入林に生育するスギ・ヒノキよりも低くなる傾向があった。タケ類のψw midは,スギ・ヒノキよりも著しく低い値を示したが,モウソウチクのシュートの夜明け前の水ポテンシャル(ψw pd)はほぼ0となり,夜間の積極的な水吸収を示唆した。さらに,すべての調査地でタケ類の根密度はスギあるいはヒノキよりも5~14倍程度高かった。タケ侵入林のスギでは,ψw midはシュートの細胞が圧ポテンシャルを失うときの水ポテンシャルと同程度の値を示した。これらの結果は,タケ侵入林に生育するスギ・ヒノキは,地下部の競争によってタケ未侵入林のスギ・ヒノキよりも水不足状態になることがあり,それらの中には,シュートの細胞が圧ポテンシャルを失うほど厳しい水不足状態に陥っている場合があることを示唆した。
著者
江草 智弘 佐藤 貴紀 小田 智基 鈴木 雅一 内山 佳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

森林小流域においては、地下水が流域界を越えて移動し、流量・水質形成に大きな影響を及ぼす。既存の地下水移動量を求める研究の多くは年水・物質収支を用いており、年より短い期間の移動量を求めた研究は少ない。短期水収支法は、「流量が同程度の2時点では、流域内の水貯留量の差は無視できる」と仮定する。その結果、2時点間の損失量(蒸発散量と地下水移動量の和)は期間降水量-期間流量によって算出される。本研究の目的は、短期水収支法を用い、年より短い期間の地下水移動量を明らかにすることである。我々は神奈川県丹沢山地に位置する大洞沢流域(NO1; 48ha, NO3; 7ha, NO4; 5ha)を対象とした。2010-14の5年間、降水量・流量の観測を行い、短期水収支法を適用した。今までの研究により、NO1では年間の地下水移動量が小さいことがわかっている。従って、我々はNO1の損失量は蒸発散量を表すと仮定し、NO3, 4の損失量からその値を減じ、地下水移動量を算出した。夏季を中心に、NO3では地下水が流域外に流出しており、NO4では逆に流入していた。いずれの流域でも期間降水量と地下水移動量に相関があり、降雨に伴う地下水位の上昇による地下水流入量の決定が示唆された。
著者
平野 恭弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

三重県松阪市および多気町で覆われている櫛田川流域において、流域の持続可能性を危惧する事象の一つに、森林地域のシカ問題があげられる。臨床環境学研修では、博士後期課程の学生が、地域住民に聞き取り調査などを行い、農林業被害を引き起こすシカによる森林環境の変化に焦点をあて、臨床環境学的診断と処方に取り組んだ。特にシカの活用とシカ肉の流通に関して問題となる点を明らかし改善の提案をすること、また本流域の持続可能性に問題となりうるその他の事象について、シカ問題を中心にそれらのつながりを俯瞰的に明らかにすることを目的とした。<br> シカの活用と流通については、個体数管理のため廃棄されているシカに着目し、狩猟者、肉屋、シェフに聞き取り調査を行うことで、枝肉として利用することが三者にとってコスト的にもメリットがあることを処方箋として提案した。さらにシカ個体数の増加は、単に人工林の管理不足など森林だけでなく、少子高齢化や都市山村間のグローバリズムなどの問題とも密接に関連している可能性が問題マップを描くことで示唆された。
著者
前島 治樹 藤平 啓 御田 成顕 増田 美砂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

本報告では、インドネシアのグヌンパルン国立公園を事例として、森林減少に直接的な影響を与える土地利用を特定し、国立公園管理の課題を明らかにする。まず、USGSから取得した1997年、2001年、2005年、2009年のLandsat TM/ ETM+および2013年のLandsat 8の衛星画像を用い、教師付き最尤法による土地被覆分類図を作成した。その結果、解析対象地域内の国立公園面積4,916 haのうち、森林消失面積は、2001~2005年に60 ha/年と最も大きく、2009~2013年は31 ha/年へと減速していた。国立公園外の3,175 haにおける森林消失に関しては、1997~2001年の19 ha/年が、2005~2009年に42 ha/へと増加したが、2009~2013年は4 ha/年と激減した。国立公園内外の1997年~2013年の土地被覆変化モデルを比較すると、森林がゴム林あるいは農地に変化した面積の比率は公園内の方が5%高かった。全体的な森林破壊の減速には、国立公園事務所による取り締まり強化の影響があると考えられるが、森林の農地転換にみる公園内外の相違は、公園外における適地の枯渇を示唆している。
著者
岩城 常修 平尾 聡秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第125回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.371, 2014 (Released:2014-07-16)

本研究では、冷温帯の人工林および天然林の下層木において、鳥類やコウモリ類による捕食が節足動物の摂食活動に及ぼす影響を調べた。調査は東京大学秩父演習林で行った。人工林ではカジカエデ、天然林ではヒナウチワカエデを対象として各種20個体を選木し、それぞれ10個体については2013年5月に網掛けによる鳥類とコウモリ類の排除を行った。そして5月から8月に毎月一回対象木から葉を採取して食痕数を調べ、葉の概形を描画ソフトで復元し食害率を算出した。また、葉の質が節足動物の摂食活動に及ぼす影響を考慮するため、葉の面積当たり重量、含有タンニン量、フェノール量を測定した。その結果、人工林でも天然林でも捕食者の排除によって食痕数と被食率は増加を示し、その差の変化は5月から6月の間が顕著であり、その後は処理木も対照木も同じように推移した。葉の質に関しては網の有無による差はみられなかった。本調査により、人工林でも天然林でも同じように鳥類やコウモリ類の捕食が節足動物の個体数制御に大きく関与しており、秩父ではその活動は5月から6月に活発であること、葉の質が節足動物の摂食活動に与える効果は小さいことが分かった。
著者
興梠 克久 椙本 杏子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第125回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.21, 2014 (Released:2014-07-16)

静岡県では自伐林家グループが多数設立されており(興梠、2004),生産性、持続性といった従来の視点に社会性の観点を新たに加え,これらが地域森林管理の担い手たり得るか評価することが研究の目的である。事例として,集落外社会結合である静岡市林業研究会森林認証部会と集落社会結合である文沢蒼林舎の2つの自伐林家グループを取り上げた。 それぞれの集落内で個別経営を行っていた自伐林家の一部が,集落外で機械の共同利用や共同請負、森林認証の共同取得を目的とした機能集団を形成していった。しかし,その機能集団が地域森林管理を担う主体になるのではなく,機能集団の活動を経た自伐林家が,今度は各集落で再度、地域森林管理を担うためのグループ活動を展開し,集落内の林家全体が再結合していた。この再結合に、認証部会メンバーによる一部の活動(自伐林家が共同で経営計画を作成するケース、事業体化し地域の森林を取りまとめ管理を行うケース)と、文沢蒼林舎の活動(集落の自伐林家が集落全体の森林管理を担うケース)があてはまり、これらのケースは地域森林管理の担い手として評価できると考えられる。
著者
國崎 貴嗣 白旗 学
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.234-237, 2014-08-01 (Released:2015-04-01)
参考文献数
24
被引用文献数
1

過密なスギ壮齢人工林12林分を対象に平均樹冠長を調べた。過密壮齢林と無間伐若齢林のデータを合わせると,上層木平均樹高が高いほど平均樹冠長は長かった。ただし,過密壮齢林の平均樹冠長の平均値は5.9 m と,無間伐若齢林の5.4 m に比べて顕著に長くなかった。間伐を実施しなければ,過密壮齢林における平均樹冠長の着実な増加は期待できない。
著者
中西 麻美 稲垣 善之 深田 英久 渡辺 直史
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.113, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

樹木の成長は土壌中の窒素や水分などの資源量と資源利用効率に影響を受ける。葉の窒素濃度は窒素吸収量の指標として、葉の炭素安定同位体比(δ13C)は水分利用効率の指標として用いられている。これらの指標を用いて窒素利用と水分利用がヒノキの成長量に及ぼす影響を高知県内の林齢28~73年のヒノキ人工林30林分で評価した。葉の窒素濃度は7.8~12.3mg/g、δ13Cは-28.4~-26.2‰を示した。窒素濃度とδ13Cには有意な関係は認められず、窒素濃度が高く、光合成活性が高い条件でδ13Cが増加する傾向は認められなかった。樹高成長量は0.08~0.53m/年、材積成長量は1.4~11.0Mg/ha/年を示した。林齢と窒素濃度を説明変数として成長量を予測する重回帰モデルでは、林齢が若く、生葉窒素濃度が高い林分ほど樹高および材積成長量が大きい傾向を示した。これらの重回帰モデルで、樹高成長量では53%、材積成長量では30%を説明できた。δ13Cと樹高や材積成長量には有意な傾向は認められなかった。したがって、高知県におけるヒノキの成長には窒素資源が重要であり、水分資源の制限は小さいことが示唆された。
著者
櫃間 岳 森澤 猛 八木橋 勉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第126回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.742, 2015 (Released:2015-07-23)

天然更新施業には、林床の稚樹バンク(高密度の稚樹群)形成が重要であることが近年明らかになってきた。稚樹バンクを形成するヒバ稚樹の生態を明らかにするため、樹形と側枝の性質を調べた。 ヒバ稚樹の樹形は、明所では一般的な円錐形、暗所では主軸より側枝の頂端が高く伸びることで形成されるボウル形を示した。ヒバの側枝は比較的暗所でも枯れ上がらず枝下高が低く、樹冠上部まで上向きに湾曲して伸び上がり樹冠上部に葉を保持していた。上向き側枝による展葉様式は、主軸を伸長させずに新葉を保持することにより個体の維持コストを抑制し、耐陰性に寄与していると考えられる。樹冠下部には、ターミナルリーダー(主軸頂端と同様の成長点)を持つ長い枝が多かった。これらの枝は成長速度が小さく、樹冠拡大には寄与していなかったが、接地発根して新たなラメット(同じ遺伝子をもつ幹)を作りやすいと推察される。ヒバ稚樹がもつこれらの特徴は上向き側枝によって成り立ち、稚樹の耐陰性ならびに長寿に貢献していると考えられた。
著者
長谷川 陽一 高田 克彦 八木橋 勉 櫃間 岳 齋藤 智之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.261-265, 2015-10-01 (Released:2015-12-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1 5

日本に固有の樹木であるアスナロ属ヒノキアスナロは伏条更新によるクローン繁殖を行うことが知られており, これまでにアイソザイムマーカーを用いたクローン構造の調査が行われている。しかし, 一般にアイソザイムマーカーの多型性は低いため, 正確なジェネットの識別は難しい。そこで本研究は,近年開発された多型性の高いEST-SSRマーカー 6 座を用いてマルチプレックス PCR を行い, ヒノキアスナロ天然林に分布する稚樹 359 本のクローン識別を試みた。その結果, EST-SSR マーカー を 3 座以上用いることで 45 ジェネットが識別された。また, 1 ジェネット当たりの幹数の最大値は 82 であり, 平均値は 8.0 であった。本研究の結果から, EST-SSR マーカー 6 座を 1 回のマルチプレックス PCR で増幅することで, ヒノキアスナロ天然林の稚樹のジェネットを簡便かつ正確に判別可能であることが示された。
著者
紙谷 智彦 青木 美和子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

半世紀前まで薪炭林として利用されていた里山に分布する民有のブナ林は、ほとんどが未利用のままである。地域によっては、すでに用材としての利用が可能な大きさに成長しているが、ブナ材は人工乾燥が不十分な場合に歪みが激しいことに加え、クワカミキリによる穿孔や変色(偽心材)材を多く含む。そのため、国内に流通しているブナ製品のほとんどに欧州産のホワイトビーチ(ヨーロッパブナ)が使われている。本研究は、里山のブナに含まれる穿孔や変色を自然がつくり出した造形ととらえ、毎木調査で歩留りを意識した選木を行い、製材後の板材の材質を適確に記録することで、乾燥後の板材製品を効果的に販売する方法を検討した。新潟県魚沼市で試験伐採した15本のブナ丸太から乾燥挽板となるまでの材積歩留りは、通直性が乏しい広葉樹においては十分な値であった。さらに、ブナ丸太からとれる総板面積と材質別の枚数予測式を求め、厚さと板幅を指定することで丸太材積からおおよその挽板枚数が算出できた。この式を用いることで、国内産ブナの製材品の量と質的な内訳の予測が可能となり、ブナの製材品を扱う川中の業者には、目安のひとつになるだろう。
著者
横山 泰之 各務 翔太 小山 裕美 白木 克繁 内山 佳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

本研究では森林の水源涵養機能について重要な要素となる樹冠遮断損失に着目する。樹冠遮断率は立木密度と共に大きくなることが知られており、立木密度の高い荒廃人工林の遮断損失量は水源涵養機能の低下に繋がると考えられる。本研究の調査地である貝沢試験地では2012年に本数割合17%の間伐整備を行っている。流域内、15m×15m内にスギが11本存在するAプロットと28本存在するBプロットの2か所を設定し2015年9月~12月まで林内雨量及び樹幹流下量の観測を行った。林内雨量はA・Bプロット共に貯留タンクを10個ずつ、0.5mm転倒枡型雨量計を1つずつ設置した。樹幹流下量は貯留式・水道メーター・自動記録式流量計の3方式でAは全木・Bは11本で測定を行い、得られたデータから樹冠遮断率を算出した。この結果樹冠遮断率はAプロット:14.3%、Bプロット:17.4%であった。立木密度と遮断率の関係を森林整備前後の林班ごとの立木密度に適用したところ、樹冠遮断量の森林整備による減少は年間10mm程度と推定された。これは対照流域法により求められた森林整備による流出水量増加の1割にも満たず、今後蒸散量変化についても分析が必要である。